腐った私と腐った目の彼   作:鉄生

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今回は前回よりも短めです。申し訳ありません。
ちょっと後編の最後の部分で悩んでおりまして…

期間が空きすぎるのも申し訳ないので中編として一部を更新させて頂きました。

今回は姫菜視点になります。


彼女と彼と夢の国《中編》

「八幡くん、このカチューシャ付けて。あ、ポップコーンも買うから買ったら首から下げてね。キャラクターの手袋は繋がない方の手に片方ずつ付けよっか」

 

「いや、さすがに…」

 

「あーあ、八幡くんは彼女に隠し事なんてしない人だと思ってたのになぁ…」

 

「おいこっち見てみろよこの手袋とか超いい感じだぞ」

 

「そうだねぇ。あ、パーカーどうしよっか?色までお揃い?」

 

「あの、そろそろ俺の財布がだな…」

 

「大丈夫、パーカーくらいは自分で買うよ」

 

彼と無事に仲直りをした私は、先程から無茶振りばかりしている。

私の事を考えての行動だったとしても、少しは懲らしめなきゃね。

メガネを持ってきてくれていたのは嬉しかったけどさ。

 

「おい、これじゃまるでアホ丸出しのバカップルみたいだぞ…」

 

「いいじゃない、ここは夢の国なんだし。それにこれくらいしたほうが結衣達にも見つかりにくいだろうし」

 

「いや、これじゃ俺のアイデンティティが…」

 

「八幡くん、お願い」

 

「へいへい…」

 

一通りのグッズを購入し終えた私達の今の服装は、それぞれがキャラクター物のパーカーを着て、某ネズミキャラのカチューシャを付け、片手ずつキャラクターの手の形をした手袋を付けている。ここからさらにポップコーンの入れ物が増える予定だ。

 

……うん、バカップルだねこれ。自覚はあります。

でも、今日だけはいいんだ。せっかくの彼との夢の国だしね。

 

「そういやそれ、付けてくれてんだな」

 

そう言って、彼は私の首元に目を向ける。

 

「当たり前だよー。見えてないかもしれないけど、学校でも付けてるよー。私の宝物だからね」

 

「お、おう、そうか」

 

彼は照れくさそうに頭をガシガシと掻く。今となっては見慣れた仕草。

 

「さて、さっきはあんな事があってまだ何も乗れてないし、どこか行こっか。八幡くんは乗りたいものとかある?」

 

「特にはないが、パンさんのバンブーファイトはダメだな。雪ノ下の事だから何回かループしそうだし」

 

「さっきのアトラクションから順番に周るとなると、みんなそっちの方にいそうだねぇ。じゃあ私達は逆から周ろっか。トロッコのコースターのところとか」

 

「おお、あれな。んじゃそうしますかね。ほれ」

 

彼から私に手が差し伸べられ、自然に繋ぐ。こんな事をいちいち嬉しく思ってしまう。

以前の私じゃ考えられないこの感情。

そんな感情も、今は心地良い。

 

私と彼との夢の国デートは、まだ始まったばかり。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

カップルでディスティニーランドに行くと別れる。

そんなジンクスをご存知だろうか。

 

これは、アトラクションの待ち時間に会話が続かなくなって気まずくなったり、相手の思いやりが見えなかったり、他の人に目移りしたり…等、理由はたくさんあるようだけど、千葉県民であれば一度は聞いたことのあるジンクスだ。

 

正直、私はそれが不安だった。

そんなの真に受ける必要ないと思うかもしれないけど、それでも不安だった。

 

 

 

 

けど、そこは流石というかなんというか…

 

八幡くん、意外とエスコート上手。

不安だった私がばかみたい。

 

歩くペースを合わせてくれるし、人とぶつかりそうになったら肩を引いてくれるし、私が少しでも疲れを見せたらその度休憩させてくれるし、アトラクションに並んでる時も、私と会ってなかった時に何をしていたとか、小町ちゃんがいかに可愛いかとか、それ以外にも色々と話してくれるし、他の人を見てもバカップル爆発しろとしか言わないし…

 

最後のはブーメランかもしれないけど、一緒にいて不快に思う所が一つもない。

おかげさまで私と彼とのデートはとても順調に進んでいる。

 

「ねぇ八幡くん、それ、他の女の子達にもやってるの?」

 

「は?それってなんだよ」

 

「なんか色々とやさしいのだよー。他の女の子にもやってるの?」

 

「あー、まぁ俺は小町に色々と調教されてるからな。オートスキルみたいなもんだ」

 

「否定しないって事は思い当たることがあるんだね」

 

「いや、あれは一色があざとく荷物重いアピールしてきたから………あ」

 

「八幡くんの女たらし」

 

「安心しろ。普通の男がやると好感度が上がるのかもしれんが、俺がやってもキモがられるだけだ」

 

「一色さんはどう思ってるんだろうねー」

 

「いや、あいつ葉山が好きなんだろ」

 

「結衣や雪ノ下さんにはどうなんだろうねー」

 

「つーか、もしかして足痛いか?結構歩いたし、そろそろ一休みするか?」

 

「もう!そういうのだよ!八幡くんやさしい!ありがとう!」

 

「怒りながら感謝されるってのもなんかあれだな…」

 

そう、八幡くんはやさしい。

私の事を大事に扱ってくれる度、私の頬は緩んでしまう。

けれど同時に、少し不安にもなる。

 

「八幡くんのそのやさしさを知ってる人もいるんだよね…」

 

私はボソっとつぶやく。

そう、きっと奉仕部の二人や、最近だと一色さんも、少なからずこのやさしさを知っているのだろう。

 

「おい、あそこのベンチ空いてるぞ」

 

 

 

 

 

だから、私は一つの決心をした。

 

 

 

 

 

始まりは、八幡くんのちいさな嘘。

 

それから私と彼は、ささやかだけど、かけがえのない時間を重ねて、ちいさな嘘を本当にした。

 

自分達の気持ちを、『本物』にした。

 

その私達の本物の気持ちを、彼女達はまだ知らない。

 

だから…

 

 

「ねぇ八幡くん」

 

「あ?なに?座らねーの?」

 

「私、雪ノ下さんや結衣に話したい事があるんだ。この後、合流してもいい?」

 

 

あの時は嫌いじゃないだなんて曖昧な伝え方しかできなかったけれど、ちゃんと伝えよう。

 

彼女達に、今の私の気持ちを。

 

ちゃんと私達の関係を認めてもらうために。

 

私達の間に付け入る隙なんてないって、わかってもらうために。

 

独占欲強すぎかな?

八幡くんはこういうの嫌かな?

 

でも、私はそうしたい。彼の事が誰よりも好きだから。

 

 

「………服着替えていいか?」

 

「だーめっ」

 




最後までお読み頂きありがとうございました。

次回はいよいよ、姫菜と奉仕部の二人との決戦です。

今回は物足りなさもあったとは思いますが、考えがまとまれば明日にでも後編を更新できると思いますので、もう少しお待ちいただけると嬉しいです。

感想を書いてくださる方、大変申し訳ありませんが後編を書き終わり次第お返事させて頂きます。

ディスティニーランド編クライマックスも姫菜視点になります。

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