真剣で一振りに恋しなさい!   作:火消の砂

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半年も更新しなくてすいません……なんでも


休息は束の間

 満点の青空とギラギラの太陽。しかしながら暑苦しいとは思わない。

 水上体育祭はまさしく熱さを消し去る熱気に包まれていた。

 

 現在の総合順位は三年S組が一位。二位が三年F組、三位が二年F組となっている。学年順位ならず、総合順位に食い込んできたF組の活躍は誰もが予想しなかったであろう。対抗馬の二年S組も既にレースからは外れて優雅に海水浴を楽しんでいる。

 躍進の理由は三つ。風間ファミリーの連勝、特に一子とキャップの成績が群を抜いている。第二に総一郎、出た種目では全勝。弁慶との遠投対決も同率で優勝したため配点の多い種目を総なめしている。そして第三に冬馬との頭脳対決を制し、最も効率が良くそして多く点を取るために采配を行った今孔明こと直江大和の活躍である。

 

「だーい活躍じゃないか弟―」

 

「あ、姉さんお疲れ」

 

 大和が振り向くとそこには百代、そして三年の綺麗どころである燕、清楚、弓子、虎子、そして大和は初対面である最上旭が、その光景はまるで薔薇であると遠巻きにいた童貞諸君は後に語る。

 

「あれ、皆どうしたの……議長の最上さんまで」

 

「あらご存知?初めまして直江大和君」

 

 百代並の艶やかな黒髪を掻きわける旭、少し前かがみで百代よりも小さいがスクール水着で胸が強調され、大和は思わず視線を釘付けに。慌てて百代へ移すものの、百代の不機嫌な顔がそこにはあった。

 

「あら、照れちゃった?」

 

「い、いえ」

 

「むー弟を取るなよー」

 

「安心して、取らないわ」

 

「HAHA、カワイイカワイイ、オトウトネ!」

 

「それ位にしてやるで候、直江が可哀そうで候(顔を赤くした大和君も可愛いかも……)」

 

「ふふふ、可愛い可愛い」

 

「凶悪な魔女たちに大和が囲まれている、南無阿弥陀仏」

 

 女性陣の後ろから重箱を抱えてきた総一郎には非難の視線と一部渇望の視線が浴びせられる。

 

(助かった)

 

(お前って可哀そう且つ羨ましい男だよな)

 

 砂浜に敷かれたレジャーシート、十人は入れるほどの大きさ。昼時の為に大和が持参したものだ。それが功を奏して八人で弁当を突くことになった。

 クラスで食べるつもりであった重箱であるが丁度いいということで総一郎も美女に囲まれる形になった。

 

「これ手造りか?」

 

 思わず百代が唸る。

 

「ああ、カガが手伝ってくれてな。あとは源さんも」

 

 和食だらけの重箱。弓子も旭も燕も一口食べて良く頷いている。恐らくは嫁にぴったりとでも考えていたのだろう。

 

「スゴクオイシイネ!ヨメニピッタリ!」

 

「駄目で候、総一郎君は燕の夫で候」

 

「ありゃ、ユーミンはいつから総ちゃんのことを「総一郎君」と呼ぶようになったのか」

 

「ち、違うわよ」

 

「おーい、語尾がないぞ」

 

 八人で大騒ぎ。しかし傍から見れば美女六人と美男子二人が周囲に喧嘩を売っている構図だ。大和は気楽であるが総一郎はクラスへ帰還する際の言い訳をずっと考えていた。

 

「初めまして、塚原君ね?燕の彼氏の」

 

「……初めまして、ソードマスター議長最上さん」

 

「旭たんで構わないわよ」

 

「わかりました旭たん」

 

「あら、揶揄い甲斐がないわね」

 

 警戒こそしていないものの、総一郎は彼女との出会いが初めてではないことを既に理解している。それは廊下のすれ違いでもなく、河川敷で斬りかかられたとでもいえる出会いだったと。

 

「じゃあこうしたらどう?」

 

 素早い動きを見せたと思えば旭は総一郎の腕に良く実った胸を押し付けた。旭は水着、スクール水着だが薄いことに変わりはない。柔らかい感触を覚える、だが味わうまでには至らなかった。

 

「どうと言われても……ああなります」

 

旭の振り向く先には百代が怯える程度には般若となった燕の姿がある。卵焼きを食べながら笑っている。「あら」と一言だけ旭は言うものの腕は離さなかった。

 

「そういえば総一は出るのか?」

 

「あれか?」

 

「ああ、あれだ」

 

「私たちはでるよん」

 

「じゃあやっぱり私も出ようかしら、あれ」

 

「旭は大変で候」

 

「ああ、勿論俺も――」

 

 さっさっさ、と砂をリズムよく踏みつけながら走ってくる美少女の姿。勿論スクール水着ではあるが少しばかり胸が強調されているだろうか、胸元の生地が伸びている。

 

「ごめん、遅れちゃった!」

 

「おー清楚やっときたな」

 

 息を少しも切らしてきていない清楚に百代はとびかかる。抵抗虚しくコネ繰り回されるのだが、燕はそれでも百代をうまく受け止めている体幹に目を光らせていた。と横目を振るとそこには居たはずの男が居なかった。

 

「あれ、総一は?」

 

 大和も遅れて気がつくが、彼のいたスペースには不自然な空間が残されているだけだった。

 

「……やっぱり嫌われてるのかな」

 

「清楚ちゃんを悲しませる総一許しがたいな!」

 

「別に気にする必要はないで候、きっと総一郎君は照れているので候」

 

「うんうん、大丈夫大丈夫。ちょーち複雑な事情があるだけだから」

 

「そうね、見た感じ悪い子ではなさそうだし」

 

「……うん」

 

 一応の笑顔を見せたものの清楚には暗い影が落ちていた。

 理由を知っている身の燕としては些か後ろめたい気持ちが先行するも、致し方ないと腹黒い思考でどうにか紛らわしていた。

 

「で、なんでユーミンは総ちゃんのことを総一郎君って呼ぶのかな?」

 

「え、いや、ま、間違えただけよ!」

 

「キャラガクズレテイルヨー」

 

 

 

 

 

 

 

 

♦  ♦  ♦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水上体育祭も終盤。三年S組と二年F組の優勝争いという番狂わせとなったこの状況。例年に無いほどの熱気に包まれ、万年仲の悪い二年S組の何人かもF組の応援をするほどである。次の競技でF組が二位、S組がそれ以下でFの優勝。F組が三位を取った時点でS組の優勝となる。

 だが、最終戦。今まで活躍していた大和の知恵は圧倒的な力の前に平伏すこととなる。

 

「最終競技は儂自ら説明するぞい」

 

 壇上にあがる鉄心。その姿を大和は恨めしく見ていた。

 

「各クラス対抗――名付けて「川神ビーチバレー」じゃ!」

 

 ビーチバレー。ただそれでだけであれば戦略の立てようがある。だが問題なのは「川神」の二文字が付くこと、そして各クラス対抗で人選に一切の制限がないことにある。

 十中八九トリッキーなバトルになる。そして十中八九壁越えが勝敗のカギを握る。大和は己の無力さに嘆きを感じていた。

 

「大和」

 

「……総一」

 

「安心しろ、俺がしっかり取って来てやる」

 

「……頼んだ」

 

「私も大和の期待に応えるよう頑張るわ!」

 

 総一郎と組むのは一子、だが嘗ての一子ではない。総一郎によって大幅成長した一子である。この体育祭でも総一郎に続いての成績を取っている。

 

「頑張れよ総一、ワン子!」

 

「無理しないでね二人とも」

 

「ぜってえ勝てよ!」

 

「負けんなよ、一子」

 

「総一、犬、ファイトだ!」

 

「頑張ってね、二人とも」

 

「ここまで来たら取って!応援しか出来ないけど」

 

「無理してでも取る系だから、私系の愛があれば大丈夫系」

 

「いっぱい写真撮ってやるからなあ!」

 

「おいしいもの準備して待ってるからね」

 

「いざとなれば雷神拳を使え」

 

「川神、塚原、ベストを尽くすのだぞ!」

 

 コートに向かう総一郎と一子の後ろからは多大なる信頼を基にした二人の心を昂らせるには十分ともいえる声援が聞こえてきた。仲間意識の強いF組ならではの光景である。

 すると総一郎は一子に手をぽんと置いた。

 

「ワン子」

 

「ん?」

 

「勝ちたいか?」

 

「もちろんよ!」

 

「そうか……じゃあ全力だ」

 

「!?」

 

「相手は手練れだぜ、やれるか」

 

 一子はぐっと拳に力を入れてそのまま総一郎に向けて放った。殴ったわけではない、それを掌で総一郎が受け取った。決意の表れである。

 それに応えるように総一郎も拳に拳を合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、ワン子と総一か」

 

「そっちはバケモンと腹黒か、反則かよ」

 

「ひっどーい。あとで仕返ししようねモモちゃん」

 

「お姉さま……」

 

 見渡すと二人組のペアが各クラスずつ、全員が最終戦とあって気が昂っている。すると壇上の鉄心がルール説明を始めた。

 大まかなビーチバレーのルールと踏襲。鉄心が指名した人物は十キロの重りを付けることとなった。そして肝心な特別ルール。

 

「へえ、最悪に悪趣味だな」

 

 アタッカーとディフェンダーの固定。アタッカーはアタックもしくは得点に結びつくブロック、サーブしかしてはならず。ディフェンダーのみにレシーブとトスが認められる。もちろんボール触れていいのは三回までである。つまるところディフェンダーの負担が大きい。レシーブしたボールをトスまでしなければならない、尋常ではない体力を消耗することになる。

 

「ワン子、どっちやるか?」

 

「……もちろん――」

 

 試合はトーナメント戦、各部活の部長など運動に自信がある者が出場している為どれも目を見張る試合となっている。だがやはりどうしても壁越えチームの圧倒性は改めて異常であった。

 そして大会ベスト4が揃い踏みで壇上に並んでいる

 

「えー実況は天使の守護者こと井上準。実況は惜しくも準決勝で敗れた一年生であるヒュームさんに来てもらっています。絵面的には全く一年生には見えませんが」

 

「ふん。俺に掛かれば一年生を演じることも容易い」

 

「あ、あははは……そ、それでは気を取り直して選手紹介に参りたいと思います!

 まず一チーム目――やはり連携力の練度が違うか!完全にシンクロした源氏チーム、源義経と武蔵坊弁慶!」

 

「皆ありがとう!」

 

「ういーす」

 

 主に二年生、やはり男子の黄色い歓声があがる。だが義経の人望もあってか生徒全般の声が多い。

 

「続いて――意外ともいえる二人、しかし成績は圧倒的だ!普段は文学少女、普段は清廉な評議会議長。葉桜清楚と最上旭!」

 

「応援ありがと!」

 

「行けるところまで頑張るわ」

 

 義経達とは違い三年生の声、清楚には男たちの歓声、旭には三年生全員の声がかかる。流石評議会議長ともいえる人望、根の張りようは義経以上である。

 

「続いて――やはり優勝はこの二人なのか!川神が、日本が誇る武神と突如現れた武闘派美少女こと納豆小町。川神百代と松永燕!」

 

「もっと私を楽しませてくれ」

 

「私がここまでこられたのは単に粘り!スポンサーの皆さん松永納豆を願いしまーす!そこで試供品配っています!」

 

 女子と男子、全校生徒を一瞬で虜にするような歓声。最強、そしてそれと渡り合える二人の実力に比例するような盛り上がり方である。

 

「そして最後――準々決勝では一年生コンビである紋様とヒューム君という優勝候補と死闘を繰り広げ見事ベスト4に勝ち上がった二人。今最もホットな男、そして最も番狂わせともいえる武神の妹。塚原総一郎と川神一子!」

 

 ドンっと女子の声援が矢の如く浴びせられる。が、それを掻き消すように太鼓と不格好な泣きはらしたような二人を応援する声が響く。

 

「フレ―フレー総一郎!フレ―フレーワン子!」

 

「負けるな総一!負けるなワン子!」

 

 そこへ、二年F組へ視線が集まる。だが彼らは羞恥心などどこかに置いてきたように人目をはばからず叫んでいた。しかし、それをかっこ悪いと中傷する人間はそこに居なかった。

 

準決勝 源氏TEAM対武神小町TEAM

    文学TEAM対根性TEAM

 

 

 

 

 

♦   ♦   ♦

 

 

 

 

「さーて準決勝第二回戦が始まります。えー実況は引き続き井上準で参りたいと思います。そして解説にはヒューム君と先程の試合で惜しくも武神小町TEAMに負けてしまいました源氏TEAMの義経さんに来ていただいてまーす」

 

「ふん」

 

「負けたことは悔しいが精一杯やろう!」

 

「さて、では早速。ズバリ両チームの特徴はなんでしょう」

 

「文学TEAMは何と言っても底知れぬ強さだな。偶然の様に見せかけてやっていることは的確だ」

 

「ああ、特にあの最上という女、途轍もない力を秘めてそうだ」

 

 わっと歓声が上がる。両チームがコートの中に入った。

 

「では根性TEAMはどうでしょうか」

 

「根性TEAMはある意味ではまさに名前の通りだ。けれども総一郎君の攻撃は正確無比、あのボールを止めるのは義経でも至難の業だ」

 

「……ふん。あのチームの評価できる点はディフェンスだろう。侮ればその分失点に繋がる」

 

「おお、解説のヒューム君がそこまで言うとは驚きです」

 

「おい、今まで何も言わなかったが、敬意を払え」

 

「え、いや、だいじょ――――――」

 

 海辺に断末魔が広がる。けれども既に熱気は上々、準の叫び声もかき消されるくらいに激しい応援合戦になっている。それもそう三年S組対二年F組――これが天王山である。

 文学TEAMのオフェンスは葉桜清楚。正確性に特筆すべき点はないが、コートには必ず入る、桁外れなのはスパイクの威力だ。弁慶に劣らぬ威力でディフェンスごと吹き飛ばす。対してディフェンスは最上旭。しなやかなレシーブで全ての力を相殺、余裕をもってオフェンスにトスを上げる。

 根性TEAMのオフェンスは総一郎。上がってくるボールをただ待つのみのオフェンス。正確無比、威力十二分、必ずラインにボールを打ち込んでくる。

 そしてディフェンスは彼女しかいない。

 

「ワン子ー頑張れー!」

 

 風間ファミリーの切り込み隊長こと川神一子である。

 彼女のディフェンスが異常であることに観衆が気が付いたのが前試合、相手はヒュームと紋白のチームである。ディフェンスにヒュームが回っていたが、紋白の実力も中々のものであった。だが、一子はライン際に落ちてくるボールを一心不乱に拾い上げ、このビーチバレーにおいて壁越えと遜色ないという評価を受けたのだ。

 

「だがアレは体力に頼り過ぎている。何時かは力尽きる、この試合か、それとも次の試合か」

 

「だ、だが一子さんの一生懸命さに義経は感動した」

 

「まあ、気骨は認めてやろう。良い赤子よ」

 

 ヒュームがそう評価を下すということは、つまりそうなのだろう。かつてはここまですらも来れるか危うかった才能をここまで結果に繋げられた。

 総一郎もここまでは満足であった。

 

「ワン子、これから堪えるぞ」

 

「やってやろうじゃない。あくまでも根性で掴み取ってみせるわ――F組の優勝を!」

 

「その意気だ」

 

 そんな二人の姿を旭は微笑ましく見ていた。

 

「まあ簡単に負けてはあげないわよ」

 

「私も出来るだけ全力は出すよ」

 

 

 今、水上体育祭優勝決定の天王山、その幕が明ける。

 




長崎で更新しました。
明後日は天神に行きます

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