真剣で一振りに恋しなさい!   作:火消の砂

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一章
――私は強いです。――


 かつて戦国には一人の剣士がいたという。

 名は「塚原 卜伝」

 幾度の真剣勝負において一度も傷を負わなかったといわれ、彼は伝説となり、剣聖と謳われた。彼の室町時代第十三代将軍足利義輝も彼に師事し、奥義である「一の太刀」を会得したという。

 

 現代、塚原卜伝の名前を知るものは一体どれぐらいいるだろう? 何百万人? 何万人?知らない者の方が多いだろう。

 それでもいいさ――若者そう言った。気崩した和服と洋服を兼ね備えたカジュアル志向の青年は言った。

「俺だって名前は知っているけど、顔なんてわかんないし、知らなくても問題はない。ご先祖様もそう思っているさ」

 歪みのない佇まいから繰り出されるその刀の一振りはまさしく――

 ――「一の太刀」だった。

 

 

「別れよう、つーちゃん」

 

「ふにゃ!」

 

 猫のように声を張り上げたのは巷で話題の納豆小町こと「松永 燕」

 そして燕の肩を両手で掴み、まるで告白するかのように別れ話を切り出したのは「塚原総一郎」

 燕は彼の戦国大名「松永家」の子孫で誰にでも優しく納豆アイドルとして活躍するほどの美少女だが、松永久秀のように腹黒い一面を持つ。

 総一郎は日本歴史上最強と謳われる剣客「塚原 卜伝」の子孫で気崩した和服と洋服のコーディネイト、そしてワカメのような髪と爽やかな顔立ちで巷の女子に大人気である。

 世間は二人のルックスと武人としての実力もあってか「京のツインエース」というちぐはぐな二つ名を持つ。

 そんな二人には共通の秘密があった、二人は付き合っていたのだ。

 

「な、なんでかな!?」

 

「いや~俺、東京行くし?」

 

「え? それだけ?」

 

「ん」

 

「遠距離でも大丈夫だよ! 私が好きなのは総ちゃんだけだから!」

 

「んー……よし、一旦別れて次に会った時、好き同士だったらまた付き合おう」

 

「ううう、なんで総ちゃんはいつもこうかな」

 

 噛み合っていないようでフィーリングがぴったりな二人は、重い会話を笑いながら行っていた。

 

「……じゃあ、気を付けてね。ご飯はしっかり食べてね、毎日納豆送るから。変な女の人についてかないように、それから――」

 

「はいはいはい、毎日納豆送られたら宅配業者が納豆臭くなるからやめてね、向こうでも松永納豆はあるから。変な女にはついていかない、別れるって言っても俺はつーちゃんが好きだからな」

 

 別れ話からの夫婦漫才からの告白で燕はいつの間にか顔が真っ赤に茹で上がっていた。普段の陽気でどこか見透かした彼女からは想像もできない状態だった。

 

「じゃあ、行くな」

 

「う、うん」

 

 総一郎は新幹線に乗り込んだ。大方の荷物は引っ越し先に送ってある、彼の荷物は大き目なリュックと向こうにいる知人へのお土産、そこまで大きくない紙袋だった。

 総一郎は新幹線に乗り込んでも直ぐに座席には着かなかった、入り口付近で燕が動かなかったからだ。

 二人の間には甘酸っぱい沈黙が流れる。しかし出発直前であるが、一つの入り口を占拠するのは青春ドラマの中だけで、普通に人の迷惑になる。

 だから――と言うのは建前で総一郎は燕を抱き寄せてキスをした。

 突然の出来事に燕は混乱した、キスが終わってもそれは続いた。正気に戻ると目の前の総一郎は燕に背を向けて座席へと歩き出していた。

 涙が出かかっていたのか薄ら涙を浮かべて燕は笑っていた。

 

「……らしくない」

 

 総一郎はそんなことを窓際の席で呟いていた。

 

 

♦   ♦   ♦

 

 

「――はま、――新七浜です。お下りの際は――」

 

 アナウンスで肘枕が崩れ、衝撃で総一郎は目を覚ました。

 京都から一切目を覚ますこと無く新幹線が到着してしまったので関ヶ原や富士山を見ることが出来ず溜息をついた。

 

「……乗り過ごさなかっただけましか」

 

 上から荷物を下ろして財布を取り出すと総一郎はシューマイを車内販売のお姉さんから購入した。

 なぜか紙切れが挟まっていた。

 新七浜駅に降りても新七浜には下りはしない、そのまま七浜線から乗り継いで目的地の川神に舞い降りた。

 

「くわー」

 

 殆ど寝ていたとしても数時間も椅子に座っていれば体は固まる、思ったよりも綺麗な空気と美しい自然を前に体を伸ばしてしまう。

 

「さて、取りあえず川神院を目指しますか」

 

 と、意気込んだは良いものの、総一郎の肩には二人の手が置かれていた。

 

「あー君、駄目だよ、長物は袋に入れてもらわないと……というかそれ真剣?」

「ちょっと来てもらうよ」

 

 総一郎の左腰には長い刀――基、太刀が差されていた。

 

「あ、これ許可証です」

 

 一瞬の間があったものの総一郎は胸ポケットから許可証を取り出す。警官二人はそれを受け取ると納得したように許可証を返してくる。

 

「うん、本物だね……まあ、だけど袋にはしまってね、何があるか分からないし」

 

「ああ、すいません。京都から出てきたばかりで、向こうでは普通に持っていても何にも言われなかったので」

 

 そう言って礼儀正しく謝罪して一礼した。その姿勢に警官二人も感銘を受けたらしくそのままお咎めなしで総一郎は解放されることになった。

 

「礼儀正しい子でしたね」

 

「ああ、塚原総一郎か……もしかして――」

 

 警官に解放された総一郎は地図を片手に土手を歩いていた。景色と地図を照らし合わせていると「勇往邁進、勇往邁進」とタイヤを三個つけながら走る少女が通り過ぎる。

 

「……元気な子だ。そう言えばどっかのお弟子さんがタイヤに師匠を乗せて市内を全力で走っている、と聞いたことがあったな」

 

 少女の後姿を見ながらうろ覚えの記憶と照らし合わせてみるが一向に思い出すことは無かった。

 川岸を見ると三姉弟と一人の中年男性が鍋を囲んで今か今かと出来上がるのを待ち望んでいた。すると妹らしき少女とお兄さんらしき男が殴り合いの喧嘩を始める、かなりバイオレンスだが長女と思わしき人間が一喝入れていた。なんとも微笑ましき光景だ。

 

「ん、そう言えば腹が減ったな。どこかで……いや、川神院で食事が出るかもしれんな、しかし出なかった場合は数時間何も食えん……むーん」

 

 などと思惑しているうちに顔を上げてみると大きな門が目の前に聳え立っていた。

 

「……ま、いいか」

 

 開いている門を潜り抜けて総一郎は本殿へ向かう。途中、清掃をしている修行僧を見れば簡易的なお辞儀をして挨拶をしていた。

 

「すいません、こちらに川神鉄心様はいらっしゃいますか」

 

「ン? うん、総代はいるけどモ」

 

「申し遅れました、私、この度川神学園に進学するため京都から参りました塚原総一郎と申します。父からの手紙とご挨拶に参りました」

 

「おお、キミが総一郎君ネ、話は聞いているよ。しかし随分と礼儀正しい、春から高校生とは思えないネ」

 

「ありがとうございます」

 

 総一郎は再度頭を深々と下げた、中国風の男は感心しながら総一郎を鉄心の元へ案内する。

 

「総代、総一郎君でス」

 

 総一郎の前に立つのは川神鉄心。武術の総本山、世界のKAWAKAMIなどと言われる世界でも知らない者はいないとされる川神院総代でかつては世界最強とも謳われた。現在は現役を引退しているが、それでもなお世界屈指の実力を持つ。

 

「おお、信一郎によう似とるわ」

 

「お久しぶりで、鉄心様」

 

「ん? 覚えておるのか」

 

「はい、六歳の夏に一度お会いした記憶があります。印象深い方でしたので」

 

「ほっほっほ、そうか。しかし信一郎から聞いていた人物とは違うわい」

 

「ああ、今までのは塚原家としてで、俺は軽いっすよ」

 礼儀正しい青年から服装の通り崩れた少年に変化する総一郎、しかし鉄心には見えていた、彼の纏う静の気が変化することが無かったことに。

 

「そう言えばそちらのご武人は?」

 

「ん? ああ、ごめんネ、まだ名乗ってなかったヨ。私はルー・イー、川神院師範代だヨ」

 

「ルー・イー……ルール―……ルイ十三世……」

 

「ちなみに川神学園で教師もやっているヨ」

 

「あ、じゃあ、ルー先生で。鉄心様は――鉄っさんで」

 

 鉄心は孫娘よりも下の子供にあだ名をつけられて愉快だったのか笑い声を上げていた。一方ルーは溜息をつくだけ。

 

「そういえばですけど、武神さんっていないんですか?」

 

「モモは今――帰ってきおった」

 

 その言葉を聞く前に総一郎は既に後ろに振り返っていた。途轍もない気を感じた――否、振り撒かれている戦闘衝動に反応した、武人として。

 武神は女と聞いている、名から想像すればどんな屈強な女であるのか、それとも燕のような――

 

「――美少女だな」

 

 美しいロングの黒髪で前髪がバッテンになっている、そこまで身長が高いわけではない、

だがスタイルの良さが錯覚となり高身長見えてしまう。

 美少女と言った通り顔立ちが他を圧倒している。目つきは悪いがそれもチャームポイン

トになっている。

 

「じじい、帰った――と思ったら唐突に私を超絶美少女と言う輩がいるぞ、誰だこいつ?」

 

「こらモモ! 客人に向かって何だその無礼は!」

 

「……初対面でいきなり美少女とか言う奴もどうかと思うぞ」

 

 二人の喧嘩を仲裁するように総一郎は百代に深々と頭を下げた。

 

「これは失敬、私、京都剣客家、塚原信一郎の嫡男で新当流総代の塚原総一郎と申します。春から川神学園に入学するためご挨拶に参りました」

 

 自分よりも年下ではあるがここまで礼儀を尽くして挨拶されたことは無い、百代は鉄心とルーに目で助けを求めていた。

 

「お、おう……た、大変ご苦労であった、楽にしてよいぞ」

 

「あ、そうすか。あざーす」

 

 百代はまるで上様の如く対応するが総一郎の切り返しは予想だにしなかった。

 

「なんだよそれ!」

 

「むーん……百代……もも……よし! モモちゃんで」

 

「は?」

 

「これから顔を合わせることになると思うんであだ名をつけておきました、よろしくお願いしますモモちゃん」

 

 相手のペースを完全に掌握すると総一郎は微笑んだ、百代は確実に総一郎を頭のおかしい奴と判断して一歩引いていた。

 

「そうだ、モモちゃん――」

 

 微笑む顔は変化しなかった。しかしそこに居る三人はその言葉に顔色を明らかに変えていた。

 

「――手合わせしましょう」

 

 

 

 既に時刻は昼を過ぎておやつの時間に差し掛かっていた。川神院は少しばかり騒がしい、本殿にある修練場に多くの修行僧が集まっていたからである。

 目当ては修練場で相対している二人。普段は只の手合わせで修行僧の修行が止められることは無い――しかし相対している者のレベルが違う、見るだけでも修練になる。修行は一時休止されて二人の手合わせが始まるのを今か今かと待ち望んでいた。

 東は武神、川神百代。川神院次期総代は確実と言われ規格外の身体能力と技で他を圧倒し、俗に言う壁を超えた者以外は相手にならない、老いたといえあの鉄心ですら互角と言われている。

 西は剣客、塚原総一郎。この戦いの客寄せパンダは百代ではなく総一郎である。京のツインエース、最年少新当流総代、そして塚原家の先祖で新当流開祖、日本最強の剣客と謳われた塚原卜伝の再来と言われる天才剣客。一体どれほどの実力で、その実力は百代に通じるのか? そもそも殆ど公式戦の記録が無く、その実力は未知数。

 

 本当に強いのか?

 

 その疑問を抱くものが殆どだった。実際この中で総一郎の一片を見たことがあるのは鉄心だけで、ルーですら実力を測り損ねていた。

 東の百代もその一人、むしろ総一郎からは何も感じていなかった。強いことは分かる、だが壁越えには程遠い、自分の相手などにはならない――先ほど「手合わせしましょう」と言われた時は心が少し踊った、強いのかもしれないそう思った――しかし、すぐに考えを改めた、それ所か少し憤りを感じた――舐めているのか?

 

「甘いですね」

 

 百代は対峙しているその相手に何を言われたのか分からなかった。

 

「ここにいる方――鉄心様以外が僕の実力を気で測ろうとしている。気で測ったものが相手の実力でない場合、開始の合図で切り殺されますよ?」

 

 総一郎は木刀を両手で持ち正眼の構えで佇んでいる――目を閉じて。

 体幹が微動だにしない、鉄心は只々感心していた。

 

(うーむ、流石、新当流総代だけある。この若さでここまでとは……)

 

「両者とも準備はいいかネ?」

 百代は頷き、総一郎は「はい」と答えた。

 

「いざ尋常に――始め!」

 

 合図と同時に動き出したのは百代、総一郎は反応が遅れたのか目を開けること無く微動しない。

 

「手始めだ! 無双正拳突き!」

 

 高速で相手の懐へ潜り強力な正拳突きの連打――のはずだった。百代の首には木刀の剣先当てられていた、百代も当てられたことに気が付いて体を止めている。

 ――これ以上踏み込んでいたら首が折れていたかもしれない――

 

「……ま、手合わせですから。次は本気で来てくださいね――これが真剣試合でしたら次はありませんけれども」

 

 首から剣先を離すと百代は片膝を着いた。手合わせであっても油断したとしても一瞬にして勝負が付いてしまった、受け入れらない敗北に立ち上がれなかった。

 それは百代だけではない、門下生の全てルーも例外ではない。総一郎の実力を認めていた鉄心でさえ拳に力が入っていた。

 

「ま、待て……もう一回、もう一本お願いします」

 

 片膝を着いている百代はそのまま頭を下げた、武神と呼ばれる彼女はそう簡単に頭を上げる人間ではない。むしろ土下座紛いなどしたこともなかった。

 

「やだ」

 

「……!」

 

 武神の土下座に応えない総一郎に門下生達は異議を求めるが鉄心の一喝ですべてが収まった。

 武神はそのまま頭を下げている、客観的にみれば総一郎が見下しているようにも見え、門下生にとって屈辱以外の何物でもなかった。

 

「総一郎、もう一度戦ってはくれんか」

 

「別に戦いたくないわけではないですよ、只これが……」

 

 そういって右手にある木刀を軽く拳で叩いた、すると木刀は粉々に砕け散って辺りに散乱してしまった。

 

「武神相手にやると木刀が剣技に耐えられないようです、まず僕も得物が違いますし。それに――」

 

 一時の沈黙が流れる。

 

「――お腹が減りました」

 

 間抜けた答えに百代は思わず声を上げて笑ってしまった、鉄心もルーも門下生も笑っていた。総一郎は不思議そうに後頭部をただ掻くだけだった。

 

「みんなただいまー! ……これどういう状況?」

 

 雰囲気を気にせず元気よく修練場に一人の少女が飛び込んできた。服装は体操服――基、ブルマ、ポニーテールをかっ下げたスポーティー少女。

 

「お、勇往邁進タイヤ少女だ」

 

「ワン子おかえり、ちょっと手合わせしていただけだよ」

 

「おかえり一子、お客さんじゃ挨拶しなさい」

 

一子は総一郎に近づくとお辞儀をしてはち切れんばかりの笑顔で自己紹介をする。

 

「川神一子です! 将来はお姉様のサポートをする為に川神院師範代を目指し勇往邁進中です!」

 

「どもども、新当流総代の塚原総一郎です……ところでいつ頃から鍛錬を始めたのかな?」

 

「えーと、十年ぐらい前からかな?」

 

 健気な少女だ――と思っていた。

 川神院師範代の門の狭さは日本武道界でも屈指を誇っている。確実に壁を超えた者でなければその門を潜ること、いやその門は潜るものではなく超えるしかない、それは川神院の住人だけではなく武道家として頂点に立ちたいものならば理解しているはず、無論この一子という少女も理解している――と思いたい。

 十年でここまで武術家として来れたのは間違いなく努力の結晶だろう、恐らくオーバーワークなど無視して鍛錬をしているに違いない。だがここから先は厳しいだろう、このままでは師範代になる可能性は万に一つ、もっと厳しいかもしれない。彼女はそれを理解しているのだろうか? 否、そんなわけがない。彼女は己の才能が平凡であること知ってはいるが、それは努力で超えられるものだ――と思っている、思いこんでいる。

 今、総一郎は個人でなく新当流総代としてこの少女の行く末を心配し、この川神院の指導者に強く非難の目を浴びせていた。

 鉄心や百代、ルーは一瞬でしかない非難の目を見返すことは出来なかった。

 

「……くんくんくん、何かここからいい匂いがするわ」

 

「え? 何か食べ物でもあったかな」

 

 総一郎の心配に気付くこと無く一子は総一郎が京都で燕から預かってきた紙袋に近づいていった、犬のようだった。

 

「お弁当だわ、えーと……ス、スワルロウよりハート??」

 

「……」

 

 燕からの弁当だった。

 

(全く、いい女だぜ)

 

「あー、それは京都から来るときに作って貰ったものなんだ。よだれ垂らしているけど食べないでね? ほら、ジャーキーあげるよ」

 

「え、ほんと! ありがとう! まぐまぐ」

 

「……俺もワン子って呼んでもいいか? 総ちゃんでいいぜ」

 

「うん、いいよ! よろしく総ちゃん!」

 

 総一郎は無意識に一子の頭を撫でて一子の顔が蕩けだしたところで顎も撫で始めた。

 総一郎は昔近所にいた柴犬を思い出していた。

 

「おっと、こんな時間だ。すみません、寮に挨拶しないといけないのでここで失礼します。ではまた後日」

 

 手首を見て着けてもいない腕時計を確認してキリが良いところで総一郎は川神院を去ろうとする――が、それを許す百代ではない。

 

「おい、待て」

 

 うまくいけば――なんてことを考えていたけれども、総一郎は浅い溜息をついて半身だけ百代に向けて微笑んだ。

 

「心配なさらずとも、次の機会はありますよ。明日死ぬつもりはありません」

 

 総一郎は漠然としたことを伝えて川神院を去った。

 百代はその答えに満足はしなかった。だが、それで充分ではあった、戦える日は来る――それまでに。

 その拳とその表情を見て鉄心は少し穏やかさを感じて、久しぶりに武術家の孫を見ていた。

 

 

♦   ♦   ♦

 

 

 地図を片手に総一郎はのんびりと歩いていた。非常に歩行速度は遅く、狭い路地だと後ろを歩く通行人の邪魔になって仕方がない。加えて三尺を超えている大太刀は目を引く、服装も気崩しているためだらしなく見えてしまう。

 しかし総一郎には関係もないのだろう、その目線は川神の風景、風情が映り込んでいて、どんな奇異な目を向けられていても気にも留めない――気が付いてすらいない、奔放なのか豪胆なのか、いずれにしても彼の精神は同世代よりも数段上であることが分かる。

 

「実に良い場所だ、陰険な京都よりも気持ちの良い気で満ち溢れている」

 

 爺臭さを醸し出しながら総一郎は既に由緒正しそうな民家の前で足を止めていた。

 総一郎がこれから三年間過ごす寮、「島津寮」である。

 




初めまして、火消の砂と申します(本名じゃありませんよ)

今回が小説初投稿となります。

今後この小説が書かれるかどうかは皆さまの反応次第でございます、ですがとりあえずは二、三話書きたいと思います。

どうぞお手柔らかに。

――追記――

評価を付けてくれるとすごくうれしいです!

――追記――
総一郎が東京に行くと言っていますが、それは意図的なものです。川崎から東京近いですしね!
何度か指摘されたので追記しておきます。

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