軽い文ってこんなんじゃないはず……
朝、目を覚ますと目の前に奏の顔があった。軽く伸びをするために体を起こすと何かが体から落ちたような気がした。
「ん、なんだ……?包帯…?」
そして、周りを見渡すと30個以上の包帯があった。
「な、なんだよこれ……おい、奏!起きろ!」
奏の体を揺らし無理矢理たたき起こす。
「なによ帯、うるさいわね……」
「それより周りに包帯が!」
「包帯?あぁ、またやっちゃったか……」
「また?またってなんだよ!」
「なんでもないわよ。それよりあんた部屋に行って着替えてきなさい。この部屋にあんたの着替えはないんだし。」
「あ、あぁ、そうだけど。なんでもないって……」
「はいはい、詮索しない!」
奏に無理矢理部屋から追い出される。
「なんなんだよ……」
疑問に思いながらも部屋に向かい、着替えてからリビングに行く。
「おはよ、帯。」
「おはよ、葵。」
昨日の事があり、気まずくなると思ったが葵はいつも通りだった。
「帯、昨日は奏と寝たの?」
「ん?まあそうだけど?」
「ふぅん……栞は昨日私のところに来たよ。」
「そうなのか、ありがとうな。」
「ううん、それよりも……」
「ん?」
葵が俺の前で膝をついて目線を合わせ、耳元で囁く。
「また、私とも寝てね。」
それだけ呟くと葵は台所に消えていった。
「帯……今葵お姉様になんて言われたの?」
「ん?なんでもないよ、栞ねぇ。」
出来るだけ自然に返す。もうすぐ朝ご飯が出来るということで俺はいつも通り茜と光、修と輝を起こしに行った。
朝食を食べ終わり、片つけも一段落つくと上の兄妹がリビングに集合する。
「買い物は嫌、買い物は嫌、買い物は嫌、買い物は嫌、買い物は嫌、買い物は嫌、買い物は嫌。」
茜が呪文のように唱えながらくじを引く。すると見事に買い物と書かれたくじを引き当てた。
「いやあああああああああああ!!」
崩れ落ちていく茜。
「あはははは!!」
大笑いする俺。まるで天国と地獄だった。
今回は岬が料理当番ということで俺は岬を手伝う事にした。俺は料理が好きなのでいつも料理当番を手伝う。
「茜ちゃん、あたしカレー食べたい。」
「えぇ、嫌だよ。宅配ピザじゃダメ?」
「茜ちゃんそんなに岬ちゃんの作るカレーが嫌なの!?」
「買い物が嫌なの!!」
「ちょっと光!!」
岬が立ち上がる。
「帯が手伝ってくれるから大丈夫だよ!!」
「岬はもっと自信持てよ!岬のカレーも旨いから!!」
俺が岬に突っ込む。
「茜ちゃん〜ついていくからお願い〜」
「うぅぅ……わかった……」
茜と光が買い物に行っている間、俺は遥に貸してもらった問題を解いている。中学生レベルの問題は簡単に解けてしまうが、頭の体操にはちょうどいいのでいつも遥に借りている。
「帯、なにしてるの?」
葵に話しかけられる。
「遥に借りた問題。頭の体操にはちょうどいいんだよ。あ、なんなら葵の問題も貸してくれよ。」
「え、いいけど……解けるの?」
「やってみないと分かんないだろ。」
葵が取りに行ってくれた問題に手をつけ始める。
「あー、無限等比数列か……懐かしいな。」
ぼそっと呟いて問題を解きにかかる。少し手間取りながらもちゃくちゃくと解いていけた。葵は驚いている顔だ。
「帯、なんで解けるの?」
「ん?ちゃんと説明見ながら解いてるよ。」
咄嗟に嘘をつく。
「それでも……はぁ、帯は凄いね。」
なにかを言おうとしたらしいが、言葉に出来なかったらしい。
「ちょっと出かけてくるわ。」
修がリビングに顔を出し、そう告げてから外に出ていく。
「どうしたんだ?修のやつ。」
「あ、多分ね……っとこれは言っちゃ駄目なんだっけ。」
「なんだよそれ。」
「ううん、なんでもないよ。」
笑顔で葵にはぐらかされる。
「ま、いいけど……」
解き終わり答え合わせを始める。
「はいよ、全問正解っと。テレビでも見るか。」
「うん、そうしよ。」
「栞も見る。」
栞ねぇが隣に座り、一緒にテレビの再放送を見ていた。
しばらくすると、家の電話が鳴った。
「俺、出るよ。」
電話をとると茜の声が聞こえる。
『帯!!光帰ってない!?』
『なんだよ、うるさいな。帰ってきてないぞ。』
『ほんと!?光、見失っちゃって!』
『はぁ?迷子なのか?それくらい大丈夫だろ。それじゃあな!』
『え、お』
受話器を置き、無理矢理電話を切る。
「帯?なんの電話?」
「光が迷子になったんだと。」
「え?ほんと!?」
「あぁ、でも子供じゃないから大丈夫だろ。」
帯が座ると下にリモコンがあったのかチャンネルが変わる。
『こちら連続少女殺人事件の続報です。ただ今、王族第一王子の修様が到着され、事件の解決に協力されています。修様の能力で、移動にかかる時間が一気に解消され、事件の収束が早くなることが狙いです。今回の事件では小学生以下の少女、計3名が殺害されており…………』
「修?なんで、てか連続少女殺人事件?なんだよ…これ……」
先程の茜との会話を思い出す。光が迷子?光は今、何歳だ?この犯人はまだ、捕まってない。俺達は王族。一瞬で体に寒気が走る。
(どうする……誰かの能力……誰のが使える……?修はいない。茜も光を探している。遥は……いや、範囲が広すぎる。岬は部活の助っ人。輝は友達と遊びに行くとか言ってたな。……いや、能力に頼るのは辞めよう。)
考えることを辞め、体を動かす。後ろから葵と栞ねぇの声が聞こえた気がしたが構わずに外に出る。
(近くの商店街はあっち、茜はもちろんこの道は探しただろう。なら、裏道か。)
狭い路地を走りながら光を探す。
(どこいった?光はどこに行ったんだ!まさか、俺は……また家族を救えないのか?)
半ば絶望しかけた瞬間、目についたのは輝く金髪だった。
「ひ、光?光、なのか!?」
「あれ?帯?どうしてここに……」
「光!!」
光に向かって走り出す。光は驚いた顔で固まっているが、俺は構わずに光にしがみついた。
「お、帯?泣いてるの?」
「な、泣いでねぇよ!」
嘘だ。実際は号泣していた。
「心配がけさぜてんじゃねぇ!」
「え?心配?そういえば茜ちゃんは?」
辺りを見回し、一人になっていることに気づく光。
「もしかして、迷子?」
「そうだよ……茜が電話してきて、テレビで連続少女殺人事件とかやってて、心配で……」
少し泣き止み、鼻をすすりながら話す。
「光が……心配で……」
「帯……ありがとぉぉぉ!!」
今度は光が俺に飛びついてくる。
「なんだよぉ、痛いんだよ……光ぃ!」
光に抱きしめられ、また泣けてくる。
「そのまま、そのまましてて……泣き顔、見られたくない……」
「甘えん坊さんだなぁ……」
光に頭を撫でられながら、泣き続ける。
「っていうか、なんではぐれたんだよ。」
少しの時間そうして、泣き止んで光から体を離しながら聞く。
「あーー!そうだった!猫ちゃん!」
光が後ろの木を指さす。木の上には一匹の猫がいた。
「あぁ、追いかけてたのか。」
「そうなの!そしたら降りれなくなっちゃってて。帯、なんとか出来ない?」
「なんとかって……まあ出来るけど。ちょっと能力貸してくれよ。」
光の能力を借り、木を小さくする。
「その手があった!」
「光……まぁいいか。」
木を小さくし終わると、猫がこちらに飛び込んでくる。それを急いで受け止めようとして転んでしまい、その上に猫が乗って顔を舐めてくる。
「わ、なんだよ!光!た、助けて!」
「わ、わ、ちょっと落ち着いて!猫ちゃん!」
二人して猫に手間取っていると、急に猫の動きが止まり、俺が元来た道に走る。
「こっちおいで……」
「栞ねぇ!?どうしてここに!?」
「私が連れてきたの。」
「葵まで!?どうして?」
「帯が……急に走るから。」
栞ねぇが猫を葵に渡し、こちらに歩いてくる。
「ねぇ、帯。危ないことしようとしないでね。」
栞ねぇは手を出し、俺が立つのを手伝ってくれる。
「ありがと、栞ねぇ。家族が困ってるなら俺は助けるだけだよ。」
栞ねぇの手を取って起き上がる。繋いだ手はそのままだ。
「それじゃあ、帰ろっか!」
「その前に葵、携帯貸してくれ。」
「え、いいけど?何に使うの?」
葵から携帯を借り、茜の携帯を鳴らす。
『もしもし?お姉ちゃん?』
『帯だけど、今どこにいる?』
『え?光探してるけど……』
『光は見つけた。今からそっち行くから商店街の門の所で待ってろ。』
『え、一緒に行ってくれるの!?ありがと!』
『んじゃな。』
電話を切り、携帯を葵に返す。
「行くの?」
「あぁ、行ってくる。栞ねぇも一緒に行く?」
「うん、行く。」
「そっか、それじゃあ行こうか。」
「ちょっと待って!あたしも!」
「光はその猫のこと父さん達に説明しろよ。葵も付き合ってあげてくれ。」
「うん。光、一緒に行こ。」
「うぅ……わかった。」
葵と光は家に帰り、俺と栞ねぇはそのまま商店街に向かった。
「あ、帯ー!栞ー!やっと来たー!」
茜が俺と栞ねぇを見つけると抱きついてくる。
「茜お姉様、痛い。」
「茜、離せ。早くしないと晩御飯が遅くなるぞ。」
「うん!それじゃあ行こっかー!」
茜は俺と栞ねぇの間に入り、手を繋ぐ。3人で横並びになって買い物をする。周りの人に見られているが、茜は平然としている。
「おい、茜。見られてるけど大丈夫なのか?」
「うん?大丈夫じゃないよ?」
とても笑顔で答える茜。
「え?大丈夫じゃないのか?」
「うん!大丈夫じゃない!」
でもね、と続ける茜。
「妹と弟の前だもん。たまにはかっこいいとこ見せないとね。」
茜は俺達の手を強く握る。
「だから、気にしないでいいよ。」
「茜……」
「茜お姉様……」
「帯も栞もお姉ちゃんとかカナちゃんだけじゃなくて、私にも甘えてよね!」
「ん、そうする。」
茜との距離を少しだけ詰める。
「帯……茜お姉様、栞もいい?」
「もちろん!いいよおいでー!!」
栞ねぇも近づいてくる。茜は幸せそうな顔で買い物を続けた。
買い物が終わり、家に帰ると光が先程の猫を抱いていた。
「光、どうだった?」
「いいって!」
「よかったな。名前どうすんだ?」
「ポルシチ!!」
「……なんで?」
「なんとなくだよ?」
「そ、そうか、光がいいならいいんだけどよ……」
「帯ー早く作ろーよー!」
「はいはい!待ってろ岬ー!」
台所に向かい、岬の横に足場を置いてそこに立つ。
「んじゃ、野菜から切るか。」
「了解であります!!」
そうして、俺と岬のカレー作りがようやく始まった。
カレーはみんなに好評だった。
「修、ちょっといいか。」
カレーを食べ終わり、風呂までの時間で俺は修を部屋に呼びだした。
「なんだよ、帯。」
「今日の昼、どこに行ってた?」
「あ?あ、あぁーちょっと佐藤達と買い物に「嘘つくなよ……」……知ってたなら聞くなよ。」
「連続少女殺人事件……なんでそんなもんに高校生のお前が首突っ込んでんだよ。」
「……それが俺達の義務だからだ。」
「義務?どういう事だ。」
修はベットに腰掛け、少しだけため息をつくと話し出す。
「俺達、王族には能力がある。これは他の人にはない力だ。能力があるのなら、それを民のために活用するのが俺達、王族の義務だと俺は思っている。」
「だから、今日あそこにいたのか……」
俺は一呼吸置いて修に訪ねる。
「もし、あそこでお前が怪我してたらどうするつもりだった?」
「その時はその時だ。」
「ならもし、お前が死んでたら……俺達はどんな気持ちでいればいい?」
「…………」
「もしも、お前がいない間に家族が傷ついてるならお前はどうする?それでもお前は義務だとか言って民を優先するのか?」
「それは……」
「修、俺はお前を凄い奴だと思ってる。」
「………は?」
修は間抜けな顔をする。
「能力もそうだが、お前は長男として一番家族のことを考えてると俺は思う。葵は自分のことを考えてないが、お前は自分と家族、そして民をまとめて考えてる。」
「お、おう……なんだよ急に……」
「だがな、お前はまだ高校生だ。お前にはまだそんなことを考える余裕も資格もない。それは父さん、国王の考えることだ。」
黙る修を無視して話を続ける。
「お前はまだ、家族のことだけ考えていればいいと俺は思う。多分父さんもそう思ってる。長男として、家族のことに今は集中してほしい。」
修は少し考えた後、答えてくれる。
「あぁ、正直家族のことは葵姉さんに任せようとしてた。でもそうだな、葵姉さんはよく考えたら自分のこと、考えてねぇもんな。国の事は俺達の父さんに任せるとするか!よし、帯。俺は決めたぞ!……ありがとな。」
修がどこかに消えていく。部屋には俺一人になった。部屋の扉が開く。
「帯、お風呂一緒に入ろ……?」
「栞ねぇ?いいぞ。」
「うん。先、行っとくね。」
栞ねぇが部屋を出る前にこちらを振り向く。
「帯、お疲れ様。」
この姉は本当に何者かわからない。俺なんかより大人なのかも知れない。
「ん、おつあり……」
俺は前世の返しをし、栞ねぇをすぐに追いかけた。
次の更新は遅れるかもしれないです!
もう一つ書いてる方の案がまとまったのでそちらを進める予定です!