ガンパレード・マーチ episode OVERS   作:両生金魚

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ものすごーーーーーーーーーーくお待たせして本当に申し訳ございません
ちょっと緑の章の人間どうやって絡ませるかと悩み中であります
……暗殺難しいかなあ?


リハビリ短編

日常への回帰

 

 駅から降り立つと、まるで別の国に来た様に三人には思えた。沢山の人々が行き交う通り。大小様々な店舗が看板を出して人々を誘い、車道にはカラフルに装飾された様々な大きさの車が所々で長い列を作り、原付きや自転車が料理を運ぶ。上を見上げれば、沢山の高層ビル。あの一つ一つの窓のほぼ全てに人が入り働いているのだろう。

 ふと目についた女学生達は、肌も荒れていない筋肉も付いていない綺麗な手で、キラキラと光って見えるお洒落なカバンをぶら下げている。通行人(みちゆくひと)は身綺麗だ。ここに、血や硝煙の匂いはしない。代わりに、質の悪い燃料を使っていることが多いのか排ガスがやけに鼻につく。

 

 それに比べると、自分たちはどうだろうか。一切装飾のない軍用カバンを持ち、その手は少し荒れている。重い砲弾を何度も何度も運び、訓練で鍛えられた身体は、全身に筋肉を搭載する必要に迫られていた。

 

「……いいな」

 

 そんな光景を見ながらポツリと呟いた千代美の一言に込められた感情はどれ程のものか。同じ様な表情をしているまほと凛の胸中もほぼほぼ等しいだろう。自分たちが守った平和。人々が笑って暮らせる日常。それ自体は間違いなく、かけがえのない尊いものだ。だが、あの姿は――――

 

 自分たちがいつの間にか忘れてしまっていた、戦争を感じない日常がそこにあった。そして、そこは自分たちの居場所では無いように感じられてしまうのは果たして気のせいだろうか。しばし、呆然としたように佇む三人と、もうひとり。猫宮もまた、目を細めてこの光景を見ていた。

 

 

「よく来てくれました。列車での長旅は大変だったでしょう」

 

 そんな四人の横から、見知った声がかけられた。西住しほ中将である。わざわざ迎えに来てくれたようで、側には運転手付きの車も用意してある。

 慌てて敬礼しようとする三人と、微笑んで敬礼しようとする一人をそのままと抑えて自然体にさせる。見れば服装は軍服では無かった。

 

「ひとまず、宿舎に案内するのでゆっくりと「あ、荷物だけ先に運んどいて下さい!」――む?」

 

 言葉を遮られたしほも、横の三人も首を傾げる。何か用でも有るのだろうか? 彼ならば有っても不思議では無いが。

 

「ちょっと、みんなで街を散策してみようかと。小腹も空いちゃったりしてますし」

 

 だが、続いた言葉は予想外なもの。思わずしほも目をぱちくりさせてしまう。

 

「え、ええと……」「た、確かに少しお腹も空いたが……」「よ、宜しいのでしょうか……?」

 

 戸惑ったのは女子三人組も同じ。

 

「……ええ。分かりました。色々と見てきなさい。暗くなったらちゃんと宿舎に来るのですよ。それとお金は大丈夫ですか?」

 

「大丈夫です! 自分、勲章たくさん持ってますから。恩給に年金にと困らないですよ。向こうに残している皆の分も、沢山荷物送ってあげないと」

 

 だが、すぐに気持ちを切り替えて笑って許可を出した。返事も相変わらず頼もしい。彼なら、淋しげな少女たちもどうにかしてくれるだろう。この少年少女たちは、是非今を楽しんで欲しい。そう思うと、四人の大荷物を全て車に載せ、先に宿舎に戻ることにした。

 

 去っていく車を手を降って見送ると、猫宮はくるりと向き直った。

 

「さて、とりあえず色々と見て回ってみようか。食事する所でも、小物ショップでも、本屋でも、どこでも良いから!」

 

「――では、遠慮なくお願いしますわ」

 

 くすりと笑って凛が隣へ立つ。

 

「東京の名産品は何が有るのでしょうか……皆にも送りませんと」

 

 真面目な顔をしているようで、どこか頬が緩んでいるまほが地図を広げる。

 

「これからも苦労は沢山するだろうし、その分色々と払ってもらわないとな」

 

 一歩前へ出た千代美が、笑顔で周囲を見渡す。

 

「りょーかい! 自分の財布、空にするつもりで使っていいよ!」

 

 また、彼女たちに日常を思い出してもらうために。戦場に適応し、日常に戻れなくなった兵士の話は枚挙に暇がない無い。そんな事はさせない、絶対に。そして、彼女たちだけでなく、時々は向こうに居るメンバーも交代で呼んで案内するために、沢山街を巡ろうと猫宮は思った。――みんなには、家族を作って、平和に暮らしてもらいたいから。

 

 

 

予算会議

 

 東京、市ヶ谷・防衛省庁舎。ここは日本有数の政治的にホットなスポットである。この世界の日本国の軍事予算は国家予算の3割に及ぶ。当然、そこではありとあらゆる利権・派閥・政治・企業の争いがある。それだけに留まらず、予算の配分とは則ち軍のグランドデザインの決定の場でも有る。振り分けられた予算により、軍がどの様な姿になるかが決まる。よって、そこに送り込まれるには各派閥でも特に頭の切れる人間が送り込まれるのだが――

 

「だから、その責任は補給もろくに送れなかった海軍にある!」

 

「湾港を維持出来なかった陸軍が言えることか! 貴様らに予算を取られて碌な揚陸艇すらこちらは持てんのだぞ!」

 

 なんとその場は、九州での敗戦の責任のなすりつけ合いが話題の大部分を締めていた。この様な三文芝居を延々見せられている善行は、ため息が漏れそうになるのを慌てて堪えた。

 

 48万の内、30万の将兵を失い、5月には九州と言うこの島国の一角が落ちた。だが、そこまでの自体に陥ってもこの様に足の引っ張り合いを行うのはため息しか出ない。

 確かに、軍が被った被害は甚大。どの派閥にしても一車両でも多くの戦力が欲しいのは、分かる。善行自身も半島では砲の一門を手に入れるのにもあらゆる手を尽くしていた記憶は将校としての根幹から決して色褪せない。だが、それならば。国民の税から養われているロジスティクスのエリートの立場からするならば。もっと建設的な議論をするべきなのだ。少なくとも、責任を押し付ける前に必要という観点から話すべきなのに。

 

「あ~、では、時間になりましたので一度休憩という事で」

 

 喧々囂々、実りの無い話も話され尽くされず、休憩時間になってしまった。一足先に、そそくさと会議室を出る善行。休憩室の一角で、自販機のコーヒーを流し込みながら最近量の増えたタバコを吹かす。憂鬱な事に、次の議題は人型戦車関連だ。人型戦車は、膨大な予算を必要とする。おまけに、基幹技術は丸々ブラックボックス化され、芝村系列でしか生産が出来ない。会津派閥も独自で光輝号と名付けられた人型戦車を製造しては居るが……専門家(猫宮・原)を見学に向かわせた所、あまり芳しい評価は上がっていない(お陰で、二人共一日がかりで設計やドクトリンや装備にケチを付けまくったそうだが)

 

 よって、5121までとは行かないまでもそれなりの戦果を出す部隊を作りたければ芝村の手を借りるしか無いわけだが、その際会議でつつかれるのは間違いなく自分である。何せ自分は芝村閥の一員であり、人型戦車の部隊の指揮官でも有るのだから。

 

 善行の考えとしては、人型戦車を根幹に据えた海兵団を作りたかった。人型戦車はその踏破性の高さ故に、上陸できるあらゆる地点から橋頭堡を築くのに使える。また、その巨体を活かし土木用の重機としてこれ程使い勝手の良いものは無い。九州では既に陣地の構築・兵や兵器や人員の輸送・砲撃の観測・伏せて隠蔽しての奇襲など、汎ゆる局面に対応出来ていた。

 

 だが、その様に便利な兵器は当然、陸軍だって欲しい。5121だって、欲しい。故に善行は予算だけでなく人員の引っ張り合いにもその労力を割かなければならなかった。

 

 頭の中で様々な事を考えていると、いつの間にか灰が崩れそうになっていた。煙を大きく吐き出すと、吸い殻で小山を作っている灰皿の標高を高くするのに貢献しつつ、もう1本に火を付ける。後から原素子の小言が増えるだろうが、この程度は許して欲しい。

 

 さて、そろそろ時間かと休憩室に掛かっている時計に目をやると、聞き覚えのある足音が三つ。そちらを見れば、芝村勝吏少将と、猫宮。それに護衛のウイチタ更紗がこちらに歩いてきていた。

 

「ふむ、難儀しているようだな」

 

「ええ、敗戦の後だけあってどの派閥も必死です。それに、九州では人型戦車の良い点だけを見せ過ぎましたね」

 

 新しい玩具に夢中になるのは軍人の性では有るのだが、それを差し引いても九州で見せた人型戦車の活躍は凄まじかった。パイロットへの才能の依存や整備性の悪さという欠点も有るのだが、なまじ善行と原が最良のスタッフを集めてしまっただけに、本来の欠点は『努力でどうとでもなる』と思われてしまったのだ。速水やら芝村舞やら壬生屋などのパイロットは言うに及ばず、原や森や狩屋などの整備班も、ここまでの人材はそうは居ないのだが、外から見ればこの様な少年少女でも出来るのだからと思ってしまっても無理はないのだろう。

 

「まあ、理想が高いのは別にいいんですけど現実とすり合わせないとダメですよね」

 

 猫宮も苦笑している。姿を見れば、軍服ではなく学兵としての制服であり――その胸には、勲章がキラキラと光り輝いていた。黄金剣突撃勲章を始めとし、黄金剣翼突撃勲章に月従軍章・星従軍章。九州撤退の際に多大な貢献を上げたことで九州防衛特別金賞。撃墜数でこれ以上与える勲章がないからと新設された白金剣突撃勲章もぶら下げ、銀剣突撃勲章は2つ、銀剣翼突撃勲章は3つ程ぶら下げているがこれでもまだ一部である。改めて、呆れる他無い。

 

「これはまた、随分と着飾ってきましたね」

 

「ここに来る時はこれが正装みたいなものですね」

 

 正規の訓練を終えていない学兵ということで、または子供ということで侮る人間はそれなりに居る。だが、その様な人間を問答無用で黙らせるのがこの勲章の数々である。この九州で得た個人として最高峰の武功は、絶対に否定できない。軍人という殺し合いを職業とする人種は、殆どが単純に強い奴を敬ってしまうのだ。更に、猫宮は意図的に威圧感や風格を身に纏う事で、その場における圧倒的な発言力を獲得する事を覚えていた。金も権威も権力もコネも、使える物は何でも使うのが猫宮の流儀である。

 

「人型戦車では我らの一人勝ちの様な状態だが……あまり勝ち過ぎても始末に困る。よって、会津閥のあの玩具の有効な使い方などを此奴に考えさせた。上手く使え」

 

「と言う訳で、これから自分も会議に参加しますので」

 

 あははっと笑いつつ敬礼する猫宮に、思わず善行の頬も緩んだ。少なくとも――次の休憩時間のタバコは減りそうであった。

 

 

 

「では、これより会議を再開致します。ですが議題に入る前に、皆様にご紹介を」

 

「5121小隊所属、猫宮悠輝少佐です。よろしくお願いしますね」

 

 議長に紹介されて会議室の視線を集め、敬礼する猫宮。初対面の相手は値踏みする様な視線を向けてくるが、本人は自然体である。何のプレッシャーも感じていないようだった。

 

「それで、今現在開発されている二つの人型兵器……栄光号と光輝号の振り分けなのですが……」

 

「ハイローミックスで良いんじゃないですか? 栄光号がハイ、光輝号がローで。正面戦力としてなら微妙ですけど、光輝号も色々と使いみちが有りますし」

 

 議題が提出されると、真っ先に猫宮が発言をする。ガラガラとプロジェクターを用意し、持ってきていたノートPCと接続する。

 芝村に近いのに、光輝号も使っても良いと猫宮が言ったことに、他の閥の幾人かは面食らった様な表情をするが、特に気にもせずに猫宮は準備を進めていく。

 

「自分が提言するのは万能型の重機としての扱いと、この”砲戦型”を集中運用しての移動式の対空陣地みたいな扱いとかですね。あ、自分たちみたいに敵に突っ込んでの切った張ったさせるのは諦めて下さい。光輝号だと、自分が乗ってもダメです」

 

 エース直々の否定に、渋い顔をする会津閥の将校やら技術者達。だが、運用法もセットで出されると言われてはとりあえず聞くしか無い。

 

「まず、重機としての扱いですね。一機有れば塹壕を掘るのもトーチカを作るのも、砲を設置するのも手早く出来ます」

 

 スライドに次々と流れていくのは、光輝号で土木工事をしている写真である。横には『作業時間30%OFF!』などグラフや目立つポップも入れてわかりやすくグラフィカルに。そんな作業風景を見つつ、そう言えばどこぞのタイタンの名前を冠した二足歩行ロボもこんな作業をしていたなと思い出す。

 

「それに、山岳や市街地のビルの上等への物資の輸送」

 

 次のスライドでは、歩荷の様に背負子を装着し、腰にはショベルを装備し山岳を踏破している姿が映る。背中のコンテナには、弾薬だけでなく、各種迫撃砲や機関銃に零式ミサイルは言うに及ばず、食料・水など、数個小隊分の物資を運べると次のスライドに映される。車両が通過できない不整地こそ、二足歩行が活躍する場所であった。

 

「基本的に、幻獣は山が苦手です。同行した機体が輸送と同時に陣地構築をすれば、かなりの抵抗拠点が出来ます。それに、幻獣が通らない道から一方的に迫撃砲で撃ちまくるのも良いですね」

 

 史実の青森では、正に山岳に歩兵が運搬して設置し、補給はスキュラにまで頼って砲撃を行っていたが、二足歩行戦車ならばこの戦術も前倒しに出来る」

 

 次のスライドで、栄光号一機が2個小隊と協力して塹壕を掘っている動画が早回しで流れるが、あっという間に簡易的な陣地が完成する。幾人かは、その映像を身を乗り出してみている。陣地を急造出来るのは、この幻獣との戦いにおいて最重要項目と言ってもいいからだ。

 

「ふむ、その為には足回りが重要になるのではないかな?」

 

「ですね。だから今のままだと光輝号は落第点です」

 

 無派閥の将校の一人が質問をすると、猫宮がバッサリと切り捨てる。人型戦車は足回りが命である。ここのコストカットは許されない。そして、バッサリと切り捨てられて会津閥は渋い顔をする。

 

「えーと……そんなに、ですか?」

 

「自分が乗れと言われたらボイコットしますね。旧式の士魂号に乗ったほうがマシです」

 

 がっくりと技術者が肩を落とす。

 

「まあ、だから足回りさえまともなら何とか使えるようにはしますが」

 

 が、フォローも忘れない。

 

「廉価版だとしても、これが有りますからね」

 

 と、次に出されたのは砲戦型の装備、40mmグレネードである。肩に装着し、北風ゾンビなら一撃、スキュラでも二発当てれば落とせる威力は優秀な装備だ。だが、まだ耐久性に難が有る。

 

「この砲戦型を5,6機も集めれば、市街地のど真ん中だろうが山頂だろうが、どこでも即作れる対空陣地になります。2,30機の北風ゾンビなら簡単に跳ね返せますよ」

 

 地上の車両は、兎にも角にも飛行ユニットに悩まされる。頭上を取られたら即座に死が待っているが、対抗策は今まではあまり多く無かった。だが、この砲戦型なら即座に強力な砲撃陣地を展開できる。

 

「確かにコストは高いですが、1師団に2個小隊位居ればかなり便利使いは出来ると思いますよ」

 

 プレゼンが終わると、会津閥や薩摩閥の表情が目に見えて明るくなっていた。芝村系にばかり利権を持っていかれていたが、これで面目も、ある程度は保てる。

 

「ああ、でも、改良点はまだまだ有りますよ。本格的に採用するならもっとダメ出しさせてもらいますからね」

 

「ええと……ご協力して頂けるので?」

 

「勿論です。軍は強くないとダメですから!」

 

 派閥も何も考えないその真っ直ぐな物言いに、雰囲気が和らぐ。

 

「では……パイロットの教育なども……」

 

「遠慮なく指摘していいなら喜んで」

 

 どうやらこのエースは協力は惜しまないでしてくれるようだ。そう思うと、表情が綻ぶと同時に、派閥争いや足の引っ張り合いをしていることに罪悪感を覚えてしまう大人の将校達。だが

 

「(ま、これで少しは責任のなすりつけ合いじゃなくて議論してくれる様になるといいけど)」

 

 これもまた、子供と言う立場を利用した猫宮の思惑通りなのであった。

 

 こうして、ある程度建設的な議論ができる土壌が出来たのだが――その分更に予算の奪い合いが激しさを増した上に猫宮の奪い合いまで勃発するのはまあ仕方の無い事である。




これからもこんなリハビリ短編書いてみていいですかね……?

短編が出るとしたらどんな話が良い?

  • 女の子達とのラブコメが見たいんだ
  • 男連中とのバカ話が見たいんだ
  • 九州で出会った学兵たちの話
  • 大人の兵隊たちとのあれこれ
  • 5121含んだ善行戦隊の話

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