ガンパレード・マーチ episode OVERS   作:両生金魚

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2017/11/08 加筆修正


人を外れたモノ

https://www.google.com/maps/d/viewer?mid=1lq83Pt7wbjxk1fznGkoxEs32AIA&hl=en_US&ll=33.20271422624567%2C130.5748271692139&z=13

 

 多数の部隊を吸収した善行戦隊は、八女のファミレス兼ホームセンターの広大な駐車場を司令部としていた。他にも、鈴原が中心となり臨時の野戦病院も整えられつつ有った。

 

 ここ、八女や久留米市、鳥栖市は多数の幹線道路や線路が集まる交通の要所である。当然、敵もこの周辺を狙ってくる。よって、付近に軍を送りやすいここが司令部に選ばれたのだ。

 

 

 地図を広げ、戦略を練っている所に通信が入る。熊本司令部からだ。

 

「こちら善行です」

 

「西住だ。先の40個小隊の救援と言い、敵の撃滅と言い感謝する。お陰でかなりの時間が稼げた」

 

 お世辞を言う人ではない。ならば本当にそうなのだろう。善行は思わず安堵した。

 

「それは何よりです。状況はどうなっていますか?」

 

「今、順次民間人と兵を纏め、あらゆる手段を使って脱出させていているところだ。よって、当然善行戦隊の今いる位置が重要になってくる」

 

「と言う事は……」

 

「このまま戦闘を続けてくれ。それと、何か有ればこちらにも言ってくれ。秘密部隊にばかり話を通されては沽券にも関わるしな」苦笑しているような西住中将の口調だ。

 

「了解しました」

 

「それと……どうか、娘達のことをよろしく頼む」

 

 通信機越しに、頭を下げられているような気がした。やはり、よほど心配なのだろう。善行も、姿勢を正し答えた。

 

「最善を尽くします」

 

「そうか、礼を言う。以上だ」

 

 通信が途切れる。すると、また司令部内はガヤガヤとした空気を取り戻した。

 

 

 

 

「久留米・広川インターチェンジで戦闘発生。敵はミノタウロス5、きたかぜゾンビ7、スキュラ2。それと例によって小型幻獣の大群です」

 

 友軍の通信を受けた瀬戸口の声に、善行はすぐに反応していた。

 

「拠点の兵力は?」

 

「戦車小隊1、歩兵小隊1、交通誘導小隊1」

 

 交通誘導小隊は戦力には換算できない。つまりこのままでは間違いなく全滅する。

 

「戦車2個、歩兵3個小隊と3番機をもって救援に赴くようにと村上さんに伝えてください」

 

 航空戦力が多い。戦車小隊だけでなく、航空ユニットキラーでも有る3番機を連れていけば大丈夫だろうという計算だ。

 

 1・2番機は、善行戦隊の戦車隊の面々と共に九州自動車道を南下している。中部域戦域から撤退し、北上する友軍の支援をするためだ。

 

 4番機は、何か有ったときのために司令部に待機している。ある意味最大の予備戦力である。

 

 そして、最近5121小隊の4機をバラバラに動かすことが多いのは、それぞれが戦車隊の中核となれるようにでもあった。そうすれば、将来的には善行戦隊の戦闘力を持った隊がいくつも出来るかもしれない――そう善行は考えていた。

 

 

 

 来須が狙撃を受けた――それと同時に、瀬戸口から悲鳴のような報告が入る。

 

「敵、来ます」いつもの瀬戸口らしからぬ、切迫した声だ。通信回線はオンにしてある。

 

「規模は?」

 

 善行は機銃座から降りて、スクリーンに見入った。敵の赤い光点がびっしりと、八女付近に認められる。久留米や鳥栖じゃあるまいに、と善行は首を傾げた。両市のような重要な拠点を攻撃するのなら、これくらいの規模は必要だろうと思える数だ。

 

「スキュラ4、ミノタウロス18、ゴルゴーン9、きたかぜゾンビ20。小型幻獣およそ500が司令部目指して進撃中。厄介なことになってきたぞ……」

 

 瀬戸口はつぶやくように言った。が、そんな空気をぶち壊すように猫宮が言った。

 

「あ、じゃあ止めてきますね」さらりと、まるで散歩にでも行くような気軽さの口調だ。

 

「正気ですかっ!?」

 

 思わず善行が叫んだ。熊本城攻防戦でも殿を務めたことは有ったが、規模が違う。

 

「どうにもこうにも、やらないとこの司令部大ピンチですよね? あ、でも流石に小型幻獣の対処はお願いします。中型は通しませんから」

 

 そう言うと、猫宮はいつもの装備を引っさげて、敵集団に向かって進軍する。

 

「……ちょっと、どうするの?」

 

 不安そうな原の声だ。

 

「……じきに各方面から兵が派遣されてくるでしょう。それまでは、全員生き延びることを第一に考えて下さい。戦闘要員もです」

 

 機銃の音が聞こえる。やがて、護衛部隊の通信機からは機銃音ばかりが響くようになってきた。

 

 

 

「さて、これは本気の本気で行かないとね……」

 

 猫宮はそう呟くと、92mmライフルを構えた。狙いを付け、発射、発射、発射。命中、命中、命中。

 

 足の速いきたかぜゾンビが次々と叩き落されていく。一射一殺、最大射程に入り込んだきたかぜゾンビを、一発のミスも無く次々に叩き落とす。

 幻獣の目標が、猫宮に向いた。空中要塞のスキュラが、こちらを見ている。スキュラのレーザー光が光った時、ステップ。避けてから煙幕弾を投射、92mmライフルを投げ捨てた。

 

 煙幕で視界が塞がれている隙にステップ・ステップ・ステップ。遮蔽から遮蔽へ次々と移動し、跳躍。一番近いスキュラの腹を超高度大太刀で切り裂いた。そして、こぼれ落ちた臓器を踏み躙る。

 

 踏み躙りつつ、ジャイアントアサルトを1連射し、2体目の弱点のレーザー射出口に寸分違わず命中させ、爆発炎上させる。3体目にも、1連射。闇雲に爆撃してくる4体目の攻撃を避けながら、またもや跳躍。再び臓器を踏み躙る。

 

 

 殺された仲間の姿を見て怒りに燃える幻獣たち。しかし、4番機はそれを嘲笑うかのようだった。ミノタウロスとゴルゴーンの群れに突進すると邪魔なミノタウロスを一太刀で切り裂き、1連射で爆発させ、更についでとばかりに臓器を踏み躙る。

 

 そしてこの虐殺に、最初護衛部隊はあっけにとられる。そして気がつけば熱狂していた。絶望的な数の幻獣が一方的に蹂躙されていることに声を上げ、小型の群れを粉砕し、迫撃砲で猫宮に援護砲撃を送る。

 

 圧倒し・蹂躙し・突き崩し・踏み躙る。暴力の権化となった4番機は、ただただ幻獣を屠殺し、やがてはその心をへし折った。あの、幻獣が恐怖したのだ。一方的にこちらを狩る存在に。中型も、小型も、4番機から少しでも離れようと散り散りになって逃げ出す。

 

 怯えて逃げる幻獣を追い、一部をあえて見逃し殆どを狩った4番機は、咆哮するかのように太刀を高々と掲げた。そして、見ていた兵たちも同様に、大声を上げた。自分たちの勝利だと。

 

 

「おぞましい存在ね。――ただ、戦うために居るかのよう」

 

 それを、何処からか少女が一人、見ていた。

 

 

 

「なんてこった……本当に、一人で蹴散らしやがった……」

 

 タクティカルスクリーンを見ていた瀬戸口が、全員のセリフを代弁するかのように言った。およそ、ただの1機でどうにかなる数ではなかった。だが、それを司令部に越させないように間引きつつ、敵に恐怖心まで与えてしまったのだ。

 

 その恐怖心に感応したか、ののみも少し怯えていた。よほど、幻獣の声が聞こえていたらしい。

 

「……どうしたんだ? ののみ?」

 

「あのね、げんじゅうの声がしたの。こわいよ、こわいよって」

 

「そうか……」

 

 それを聞いて、ののみを落ち着かせるかのように頭を撫でる瀬戸口。

 

「あ、あはは、怖がらせちゃいました……?」 通信機越しに猫宮の、いつもの調子の声が響いた。

 

「猫宮君……あなたは、何者なのですか?」

 

 ある意味、全員が知りたかったことだろう。それを今、あえて善行が問うた。猫宮はそう問われ、うーんと少し悩むと、酷く真面目な口調でこう言った。

 

「正義の味方志望……ですかね?」

 

 

 

 何はともあれ、猫宮がこの司令部を救ったことは事実である。兵たちはもはや、信仰に近い目で4番機を見ていた。普通ならば、生き残れないであろう数の幻獣を押し返せたのだ。中にはバンザイをする者も居る始末。信仰の対象となってしまったことに、猫宮は頭を悩ませていた。

 

 

 

 その頃、3番機は村上少佐の舞台とともに久留米・広川インターへ向かっていた。普段のように他の3機の姿はなく、速水はなんだか心細いような感じがした。

 

「ねえ舞、どうして最近僕らは別々に動くことが多いのかな?」

 

 軽口を叩きあう滝川や猫宮がいないためか、舞に話しかける速水。

 

「ふむ、我らを集めると過剰戦力になりすぎているのかもしれぬ」

 

「過剰戦力?」

 

「ああ。我ら4機だけでも相当の敵を倒せるからな。だからあえて分散させているのだろう」

 

「ああ、なるほど……」

 

 そう聞いて納得する速水。そういえば最近、あんまり倒さなくて戦闘が終わること多いもんな……。

 

「さて、話をしている間についたぞ」

 

 背もたれに、軽く蹴られた衝撃が走る。

 

「こちら村上。敵は中型8体に小型多数だ。できれば援護射撃をしている間に敵に突撃してもらいたいが……」

 

「了解した、任せるがいい。厚志」

 

「うん!」

 

 要請を受け、阿吽の呼吸で突撃する3号機。この程度の数はもはや速水、そして芝村にとって大したものはない。遠距離からの砲撃に反応した中型の間隙を縫い中心へ。そしてミサイルを発射した。

 残る小型もミサイルで間引かれていたのか大した数ではなく、村上少佐の部隊にあっけなく蹴散らされた。

 

 

 

 九州自動車道を南下しつつ、適度に敵を倒している残りの善行戦隊は、途中で車輌を失った歩兵なども回収していた。その為車輌が足りずタンクデサントまでして、まるで難民の群れかと言う有様であった。

 

 周囲を見渡すと、戦闘の後か煙を上げている車輌が見えたりもする。そういう時の救助に、士魂号はとても役に立っていた。

 

 戦闘ってより救出部隊だよなーなんて思いつつ、2番機が周囲を偵察していると、キラリと光るものが見えた。そこをよくよくズームしてみると、ペリスコープ光が見える。

 

「こちら2番機、ペリスコープ光が見えるんだけど、何処の部隊かな?あれ?」

 

「むっ、ペリスコープ光だと……? 待ち伏せか?」

 

 疑問に思ったまほが確認すると、紅陵女子αのモコス部隊であった。

 

「あ、あの、あの人達も連れていきますか?」おずおずと言った感じに質問をする壬生屋。

 

「ああ、連れて行かないと残されたままになるだろうしな……」

 

 ため息をつきつつ、使いをやるまほ。確かモコスの時速は最大でも20キロだったか……

 

 と、まほが頭を悩ませつつも、また善行戦隊は膨れ上がっていくのだった。

 




 無双シーンを書くとどうしても似た感じになってしまう……うーん、文才が欲しいです。
紅陵女子αや落合さんはここで合流です、しかし、これだけ部隊が増えると動かすのも大変そうだ……

短編が出るとしたらどんな話が良い?

  • 女の子達とのラブコメが見たいんだ
  • 男連中とのバカ話が見たいんだ
  • 九州で出会った学兵たちの話
  • 大人の兵隊たちとのあれこれ
  • 5121含んだ善行戦隊の話

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