ガンパレード・マーチ episode OVERS   作:両生金魚

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混迷の戦場

 熊本空港付近の陣地では、中型がなんとも言えない妙なペースで押し寄せていた。もし陣地だけなら対処できないが、善行戦隊がいれば簡単に撃退できると言う、そんなペースである。その様子を、指揮車の中ではまた3人がしかめっ面で見ていた。

 

「これは時間稼ぎで間違いないですね」

 

 衛星写真やレーダーその他を見ていた瀬戸口が言う。無視できない敵で時間稼ぎをしていて、他を締め上げる。嫌らしいが有効な手だ。

 

「幸いな事に合流まで待機している間はそれでも良いのですが、問題はその後ですね」久場が難しい顔をしながら言う。

 

 報告では、2・4番機は既に3077他色々と合流できているようだ。

 

「まあ、そこは0101が何らかの計算結果を出していることでしょう」

 

 2時間15分の削りが意味するところはまだ彼女たちにしか分からないが、彼女らは生粋の計算屋だ。きっと有効に使ってくれるだろう。

 

 

 

 その頃、まほは善行戦隊の小隊をローテーションで入れ替えていた。全車輌全力出撃では、整備などの手間もかかる。なので、敵に応じて最適な戦力を投入していた。

 

「第2小隊とアンツィオは一旦補給へ。代わりに第3小隊、上がってくれ」

 

『了解!』

 

「1番機、壬生屋さんも一度補給・点検へお願いします」

 

「で、でも私もまだ行けます!」壬生屋の甲高い声が響くが。まほは顔色も変えずに言葉を続ける。

 

「人型戦車は消耗も激しいですからね。長期戦になると言われましたし補給をお願いします」

 

「~~っ、分かりました」

 

 まだ斬り足りなかっただろうが、素直に言うことを聞く壬生屋。まほの能力を認めてのことだろう。

 

「3番機にはその分負担をかけてしまいますが申し訳ありません」

 

「何、我らはまだ大丈夫だ」 「ええ、まだまだ行けます」

 

 芝村と速水がそう答える。声にもまだ余裕があった。この二人は特に事故のコントロールや把握が上手いパイロットだ。きっと限界を見極めてくれるだろう。そう思うと、またまほは部下を動かし始めた。

 

 

 

 滝川は迎えに行った先の人数にびっくりしていた。せいぜい3077と他数名程度だと思っていたら、かなり車列が長かったのだ。

 

「え、え~と、どうしたんすか? この人数?」

 

 思わず、若宮に聞く滝川。

 

「何、途中で病院を含め色んな奴と合流してな。他にも迷子を拾ったりしてたらこんな人数だ」

 

 人数が多く、再出発させるのも時間が掛かるが、猫宮がなんとか上から交通整理をしていた。

 

「滝川、話もいいけど警戒もお願いね。特に地上、サーマルセンサーも使って、怪我人も居るから」

 

「お、おう、了解」

 

 猫宮に注意され、慌てて周りの警戒に映る滝川。幸い、もう近くには敵は居ないようだ。

 

「よし、じゃあみんな大丈夫だね、改めて出発!」

 

 拡声器越しに猫宮が声を出すと、先頭車両から順次出発していく。ほんの時速30キロ程度のスピードだ。だが、それでもこの長い車列を思うと、滝川にとってもとても不安に思えるスピードなのだった。

 

 

 熊本空港までは直線距離でほんの10キロ強では有るが、山間の曲がりくねった道ではどうしても遅くなるし、護衛にもストレスが掛かる。この護衛任務に滝川は久しぶりに凄まじい重圧を感じていた。

 

 嫌な感じだ……。そう思ってゴクリとつばを飲み込んだとき、猫宮の「敵襲!」の声がかかった。慌てて92mmライフルを構えると、遠くにきたかぜゾンビが見えた。その方向には、すでに4番機が突っ込んでいる。ならば、自分はこの位置で守るべきだろう。そう思い、周囲を警戒すると反対方向からもきたかぜゾンビが突っ込んできた。深呼吸してから狙い、撃つ。なんとか命中し、撃墜。よし、まだやれる。そう頭の片隅で思って、またほかの獲物を探し始めた。

 

「っ、ゴブ共が来たぞ!総員戦闘準備!」

 

 頭の上を警戒していたら、どうやらゴブ共が下に浸透していたらしい。滝川は慌てて片手にジャイアントアサルトと片手のガトリングを構えると、やたらめったらにばら撒いた。味方の近くでは威力が強すぎるので、離れている内に思い切り使うつもりだった。

 

「畜生、小型の浸透もかよっ!」

 

 猫宮はきたかぜゾンビを叩き落としてきたらしい。車列に戻ってくると、器用にも40mm砲で小型の群れを吹き飛ばしている。自分にはできない芸当だ。

 

 それから戦闘はほんの数分で終わったが、滝川の精神は酷く消耗していた。

 

「なあ、猫宮。……いや、なんでもない」

 

 思わず、弱音が出そうになった滝川。しかし、猫宮はそれを察して

 

「うん、大丈夫。一人じゃない、仲間がいるから」

 

 と言ってくれたのだった。

 

「そうだよな……弱音吐いてたら、誰か死んじまうもんな……」

 

 そう言うと、滝川は己の頬を叩いて気合を入れ直した。

 

 

 

 その頃司令部では、混乱の極みの中、それでも部隊を立て直そうと高級将校があちこちに司令を出していた。そして、西住中将もその一人だった。

 

「退路を1本に集中させるな! 隊列は短く、分散させろ! 腕の1本は切り落とされても仕方ないと思え!」

 

 史実では司令部が丸々爆破され、撤退戦時も混沌の極みに有ったが、今は多数の高級将校が生き残っているため、ある程度の秩序が確保されていた。だが、それでも弱った防衛ラインに突然の大攻勢という事態、損耗が大きくなるのは避けられなかった。

 

「使える部隊を洗い直す! 練度Aの部隊は……何?」

 

 だが、軍事組織として、上の命令には従わなければならない事態は、多々襲ってくるものである。

 

「自衛軍から順次、撤退……ですか……!?」

 

 上からの命令に、血を吐きそうな声を絞り出す西住中将。下された命令は、九州の全面放棄及び、練度の低い学兵を捨て駒にしての練度の高い隊から順次撤退である。

 

 軍事的には正しい。正しいが、あまりの事に二の句が継げない。そして、更に浅ましいのは優先して撤退させる部隊に、善行戦隊の名が入っていたことに思わずホッとしてしまった自分の心だ。だが、もしこの戦隊を有効活用しようとすれば熊本城攻防戦の時と同様、一番の激戦区に放り込むこととなる。

 親としての自分、軍人としての自分。この矛盾に、しほは張り裂けそうになりつつも、それを忘れるかのように撤退の指揮を取り続けるのだった。

 

 

 

 

【それは、歴史のどうでもいい1ページ】

 

 

 本橋トヨは、何時もと違う空気を感じていた。戦場の音が、すごく近いのだ。そして、今日でとうとう人生が終わるのだと感じ取っていた。

 

 夫は大陸で、息子夫婦もこの戦争で無くしたトヨにとって故郷で死ぬのは悪くないことに思えていた。しかし、幻獣にバラバラにされるのは嫌だったので、せめて自分の手で――と、亡き夫が残してくれた銃を引き出しから取り出した。

 と、その時、外からドタバタと多数の足音が聞こえた。

 

「トヨお婆さん~! 居ますか~!?」

 

 最近知り合った、津田と言う学兵の女の子のと、そのお友達の声だ。一人暮らしの自分を心配しては、ちょくちょく友達と顔を出してくれる女の子だ。お陰で、最近はとても充実した日々だった。

 

「はいはい、どうしたんだね?」

 

 見ると、急いできたのだろう、息を切らせていた。

 

「お婆さん、幻獣が迫ってるから、早く逃げないと!」

 

「いや、私はもう良いんだよ。 もう家族も居ないからね」

 

 そう寂しそうに笑うと、形見の銃に目を落とした。その様子を見た津田は、きっと決意した表情を見せると、トヨの手に手を重ねた。

 

「あのね、私達は死守命令が出されそうなの。でも、お婆さんがいれば、民間人を守るために護送が出来るの。だからね、トヨさん、お願い、私達のために、生きて」

 

 手を取り、真剣な目で懇願してくる津田の目を見て、また手元に視線を落とした。死ぬのは、何時でも出来るだろう。――なら。

 

「はい、こんなお婆ちゃんが役に立つなら、喜んで付いて行こうかね」

 

 その言葉を聞くと、学兵の皆がわっと喜んでくれた。

 

(ごめんね、そっちに行くのはもう少し後になりそうだよ)

 

 心の中で、トヨは夫と息子夫婦に静かに謝った。

 

 

 史実の本橋トヨ:行方不明

 本日の本橋トヨ:撤退に同行

短編が出るとしたらどんな話が良い?

  • 女の子達とのラブコメが見たいんだ
  • 男連中とのバカ話が見たいんだ
  • 九州で出会った学兵たちの話
  • 大人の兵隊たちとのあれこれ
  • 5121含んだ善行戦隊の話

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