ガンパレード・マーチ episode OVERS   作:両生金魚

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非常に遅くなりました。
そろそろ撤退戦に移行することとなります。


常識人は苦労人枠?

 所々が崩れた熊本の司令部は今、周辺地域ごと厳戒態勢が敷かれていた。史実では丸々司令部が爆破された挙句街のあちこちで、重火器どころか戦闘車両を多数使用したテロが起きた。百人足らずのテロリスト相手に千人以上の将兵が死亡したことを考えれば、今回の被害は少ないと言える。しかし、そんな事を知らない人間にとっては、熊本に常駐する軍の中枢が狙われ、将官含め死傷者を多数出したのは大きな衝撃であった。今は慌てて他の地域から憲兵を増員しようとしている最中である。テロが多発し、折角九州を守りきってもテロの多発で民間人が戻らねば国力は回復しないからだ。

 

 さて、そんな厳戒態勢が敷かれている司令部の一室で、戦闘が終わった後ぶっ倒れた猫宮を介抱した西住中将は、一人の大尉と面接をしていた。名を久場友仁(くばともひと)と言う。長身の骨格をガッシリとした筋肉で覆った、会津派閥若手の俊英である。かつて、西住宅で猫宮と会談したこともある人物だ。

 

「ふむ、5121への出向か……」

 

「はっ。人型戦車を深く学ぶには提出されたデータの閲覧だけでは不足していると愚考します」

 

 

 意見書に目を通せば、これは久場大尉の独断ではなく西住中将が目をかけた若手たちの連名であった。会津・薩摩閥は近年芝村に押されているものの、伝統の長さから集められる人材の層は決して侮れない。情実で引き上げられた者たちとは別に、有能な人材――弁や理論構築に長ける者、政治に長ける者、そして彼らのように思考の柔軟さと実直さを合わせ持つ者などなど――が芝村に対抗するように集められていた(最も、有効活用できているかはまた別であったが)

 

 彼らは先の実験小隊の壊滅及び荒波小隊の戦闘を検討し、芝村に頭を下げてでも学ぶべきだと痛感したのだ。実験小隊それ自体の練度もお粗末であったが、指揮官としても戦場にただ突っ込ませて現場任せでは、部隊を任された将校として無駄飯喰らいもいいところである。

 

「私としては異存は無い。雑音は私が何とかしよう。芝村としても、尉官一人を送り込む程度は早々目くじらも立てないだろう。もし話がついたら存分に学んで来る様に」

 

 西住中将が頷きつつ言うと、久場大尉は見事な敬礼をして退室した。それを見送った中将は、話を通すため各所へと連絡を取り始めた。

 

 

 

 2日後、久場大尉は集まった5121小隊の隊員の前に居た。普段彼が見ているのは男所帯であり、自分を見るのは逞しい将兵たちの精悍な顔である。しかし、目の前の隊員たちはおよそ半数が女性であり、殆どが少年少女と呼べる年齢であり、興味津々といった感じでこちらを見ていた。兵というよりは、やはり少年少女たちの集まりに見える。なるほど、これが学兵というものかと内心頷きつつ口を開く。

 

「自衛軍から出向してきた久場友仁大尉だ。短い間だがよろしく頼む」

 

 そう挨拶をしつつ敬礼すると、彼らは皆パラパラと慣れない敬礼を返す。自衛軍の部下たちは一糸乱れぬ気をつけから敬礼を返してくれるものだが、ここでは違うようだ。少なくとも、兵としての規律は劣っているように思える。だが、規律と全く比例しない戦果・稼働率を目の前の少年少女たちは叩き出しているのだ。そう思うと一概に否定もできないなと内心苦笑してしまった。

 

「と、言っても私は学びに来たので特に堅苦しくする必要も無い。皆、普段通りに活動して欲しい」

 

 そう言うと5121の隊員達に幾らかホッとした空気が流れたのを見て、やはり久場大尉は苦笑を隠しきれないのであった。

 

 

 

 朝の挨拶もそこそこに、久場大尉は善行・若宮と共に整備テントを見学していた。そこでは先程の規律の劣る少年少女達の姿はなく、軽口を挟みながらも人工筋肉の微妙な疲労さえ見分けられるような優秀な整備員の姿があった。

 キビキビと働く整備員達の動きは、演習場で、そして記録で何度となく見た練度の高い戦車随伴歩兵の戦闘機動を思い起こさせる。そして、先程の出来の微妙な生徒を見るような何とも言えない心持ちはすっかり霧散してしまった。

 

「成る程……」

 

「どうしました?」

 

「いえ、彼らは兵士ではなく整備士なのですな」

 

「ええ、そういう事です。敬礼が上手な事より、仕事ができることが優先されます。……不本意ながら」

 

 久場大尉の言葉に若宮が苦笑しながら頷く。そして、善行は久場大尉が出向できた理由に納得した。軍人は往々にして凝り固まった考えを持つ傾向が有るが、彼は柔軟であり、年下なのに階級が上の善行や軍人の型にはまらない学兵たちにも侮らず対応が出来るのだろう。流石に西住中将が学兵の隊に送るだけのことは有る。

 

「しかし、こうして間近で見るとこれほどの整備員が必要な理由が改めて良くわかります」

 

 身長9メートルという大きさもそうだが、構成されるパーツの大部分が人工筋肉――生体パーツである。よって、パイロットだけでなく整備員も既存の人員からの流用は不可能で1から育成しなければならない。まったく、手のかかる兵器である。

 

「お陰で員数の半数以上が整備員なんて特殊な隊になってしまいました」

 

 久場大尉の言葉に善行は苦笑しながら言った。4333という、通常のL型の部隊の補給品として試しに配備された隊も有ったが、既存の整備員では対応しきれずにわずか4時間の稼働――しかもほとんど戦闘機動を行わないのに稼働不能に陥った例も有る。

 

「機体・教官・パイロット候補に整備士……これは借りが多くなりそうです」

 

 人型戦車の部隊を創設する為の苦労を考えてやれやれとため息をつく久場大尉。そんな様子に芝村閥寄りな二人としては苦笑するしか無い。

 

 が、突如そんな空気を壊すかのように、それぞれの多目的結晶へ通信が入る。

 

『201v1、201v1、全兵員は現時点をもって作業を放棄、可能な限り速やかに教室に集合せよ。』

 

 通信が入ると、整備員達は速やかに今行っている作業を終え、教室へと駆け出した。視察していた三人も同じく教室へと向かう。

 久場大尉は、出向してすぐに戦闘を視察できることに、不謹慎ながらも気分が高揚することを抑えきれなかった。

 

 

 

https://www.google.co.jp/maps/@32.818522,130.9403038,7036a,35y,352.12h,44.14t/data=!3m1!1e3

 

 

 本日の戦場は瀬田近辺。豊肥本線に添って熊本へと攻めてこようとする幻獣の撃破である。なお、幻獣の規模が少ないので今回は5121と、黒森峰第1小隊のみの出撃である。

 

「敵影は中型幻獣18を中核とした群れ、小型は250程ですかね」 

 

 瀬戸口から報告が入る。今の5121にとっては取るに足らない数とも言える。勿論油断は禁物だが。

 

「あんだけ倒したのにまだ居るんだな~」

 

「そうだね。熊本城でもうどれだけ倒したか覚えてないくらいなのに」

 

 滝川と速水の軽口が響く。みんなが思っていたことなのか、通信を聞いて頷くもの多数。

 

「ははは、まあ大規模な幻獣の攻勢は確認されてないからな。戦力は結構払底してるんじゃないか?」

 

 と、瀬戸口が安心させるように通信を送るのだった。

 

 

 

 戦場へ向かう道すがら、タクティカルスクリーンを見つつ、善行が久場大尉の方を見つつ問うた。

 

「久場大尉ならどう配置されますか?」

 

「そうですな……セオリー通りなら障害物の多い外牧で隠蔽しつつ配置して迎撃でしょうか。」

 

 その答えに、善行が頷く。平地ではなるべく戦わない、隠蔽するは基本原則である。

 

「そして長距離射撃が出来る2番機と4番機は、左右の山へ配置でしょうか」

 

「ええ。士魂号ならばこの程度の山林は踏破できますので」

 

 実際に自分でも配置を検討してみて、なるほど便利だと久場大尉は得心せざるを得ない。通常の装輪式戦車だけでは1方向からの撃ち合いになるが、人型戦車がいれば3方向から包囲しながら撃てるようになる。

 

「では、聞いての通りです。2番機は南、4番機は北の山林に伏せて下さい。1,3番機は第1小隊と共に外牧で待機を」

 

『了解』

 

 そう命令を受け、士魂号は防御陣地に居る仰ぎ見る兵たちの視線を受けながら、それぞれへと配置されていった。

 

 

 静かな戦場に、ヘリのローター音が近付いてくる。

 

「2・4番機、砲撃開始」

 

 号令と共に森に伏せていた2機が起き上がり、92mmライフルできたかぜゾンビを叩き落とす。セオリー通り、厄介な航空ユニットを先に狙い、他の地上ユニットの脅威を減らす。

 

「滝川機、猫宮機、きたかぜゾンビ撃破」

 

 コックピットに響き渡った東原の声を聞き、1番機が動き出した。

 

「参りますっ!」 「各車、1番機の援護を」

 

 左右からの砲撃に戸惑った幻獣に向かい、駆け抜ける漆黒の重装甲。第1小隊の援護を受け、腕を振り上げるミノタウロスへと突進する1番機。ミノタウロスの左右に居たキメラが砲撃で吹き飛ばされ、1番機はミノタウロスの攻撃を余裕を持って避け、一閃。あっという間に3体の中型が爆発する。更に、山からの打ち下ろしによりナーガが更に2体撃破される。

 

 

「ははっ、早くしないとみんな取られちゃうね!」

 

 18体居た中型は既に10体にまで減らされている。これではミサイルを撃つ機会もなくなってしまうと、速水が駆け出す。

 

「ふむ、では残りは全部喰ってやろう―「1号車、ミノタウロス撃破」「1番機、ミノタウロス撃破」「4番機、ゴルゴーン撃破」ええい、更に減ったか!」

 

 次々入る撃破報告に舌打ちしつつ、芝村は下向きのGを感じつつ残った中型と、小型の溜まりにミサイルをロック、着地し衝撃が消えたと同時に、ミサイルを発射した。24発のミサイルが、次々と敵へ飛んでいく。

 

「速水・芝村機、ミノタウロス2、ゴルゴーン4、ナーガ1撃破、小型幻獣多数撃破」

 

 すべての中型幻獣が撃破されると、残った小型幻獣は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。それを追撃する4機の士魂号。そして、この速さに驚愕する久場大尉。

 

「改めて、凄まじい破壊力ですな……」

 

「ええ」

 

 久場大尉の言葉に、善行も頷くしか無い。全く、初顔合わせではどうしようもない素人の集団にも思えた面々だが、今では熊本最強のエース部隊である。若宮もそうだが、善行にとっても感慨深いものがある。

 

「しかし、指揮官としてやることが殆どありませんな……戦車と言うより、歩兵を指揮しているかのようです」

 

「『人型』戦車、ですので。私も最初、苦労しました」

 

 人型戦車は、装輪式戦車と違い少人数で動かせる。よって、種別は戦闘車両なのだが形状とあいまって歩兵としての側面が強い。故に、戦闘が始まってからはパイロットの個々の練度と連携に非常に依存する。

 

「これはむしろ、何処の戦場へ動かすかなど大局的な動きを見る必要がありますな」

 

 またも善行が頷く。既にパイロットたちは善行の元を離れて個々に戦術を練り上げ、数多の戦場で最適化させていった。後はもう、その戦術の向かう方向を指し示すだけであった。

 

「こちら西住、残敵掃討終了しました」 「こちらも同じく」

 

 会話の合間に、まほと芝村から戦闘終了の報告が送られてきた。瀬戸口もタクティカルスクリーンを見て、状況を確認、善行に合図を送る。

 

「ご苦労様です、こちらでも確認しました。全機、帰投しましょう」

 

『了解』

 

 こうして、撤収していく士魂号は被害の全く出なかった陣地の兵に歓声に見送られ、帰還する事となった。帰還後、知的好奇心を大いに刺激させられた久場大尉は、デブリーフィングにも積極的に混じり、出来得る限りの知見を深めようとすることとなる。

 

 

 

 




久場友仁:オリジナルキャラクター。階級は大尉。外から見るだけではと、わざわざ5121に出向してきた人。軍人としての常識人だが矢吹少佐のように柔軟性も併せ持つ。

短編が出るとしたらどんな話が良い?

  • 女の子達とのラブコメが見たいんだ
  • 男連中とのバカ話が見たいんだ
  • 九州で出会った学兵たちの話
  • 大人の兵隊たちとのあれこれ
  • 5121含んだ善行戦隊の話

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