ガンパレード・マーチ episode OVERS   作:両生金魚

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戦闘班:緒戦

5121以下諸兵科連合は、四方寄の交差点付近に展開していた。山鹿の要塞化された陣地では順調に敵を削っていっているようだが、本命は熊本城とばかりに、幻獣が押し寄せてきている。戦場の轟音に、ローターの音が混じりはじめた。きたかぜゾンビがまずは真っ先に接近してきたようだ。

 

「敵、きたかぜゾンビ12。何時も通り、士魂号で先制、行くよ!」

 

『了解』

 

 猫宮の声に、慣れたものだと返事が合わさる。L型の天敵は航空ユニットであるので、何時も通り士魂号が真っ先に叩き落としに行く。

 

「参ります!」

 

 何時も通り、壬生屋がきたかぜゾンビの群れに切り込んだ。きたかぜゾンビへ向かって突き進み、機関砲をステップで躱しつつにまずは一閃、バラバラになって1機が叩き落された。そうして、壬生屋に注意が向いたところを、2丁のジャイアントアサルトと1丁の92mmライフルの銃弾が襲いかかる。次々と命中し、空中に幾つもの花火が花開く。

 混乱して機体の方向を変えたところを、また壬生屋が一閃。あっという間に12機のきたかぜゾンビが叩き落される。

 

「周囲に航空ユニット無し、行けます!」

 

「了解。全機、散開。何時も通りに、だ」

 

「こちら自走砲小隊。陣地があちこちにあるだけあって、観測データはまだ不自由してません。しばらくは独自判断で射撃しますが、御用があればお早めにお願いしますわ」

 

 武部の報告に、まほが命令を下す。凛率いる小隊は、まずは独自判断で射撃を始める。もう、幾度の戦場で何度も何度も勝ち続けてきた黄金パターンである。そして、今回もそれは変わらなかった。まだ、最初の内は。

 

 

 

「くっそ~! 数が多い!」

 

「どんどん……後ろに……!」

 

 他の機体より少し引いた居場所に居るが故に滝川が、敵陣にいつも切り込んでいるが故に壬生屋が、その何時もと違う動きに焦りが出る。幻獣は明確な目標を持って押し寄せてきているようだった。中型は兎も角、止めきれない小型幻獣はどんどんと後ろへ抜けていく。

 

 

「2番機、付近の小型の掃除をお願いします……っ!」

 

「了解……ってお、おい、みほさん危ねえっ!?」

 

 みほが、ハッチから身を乗り出して備え付けの12.7mm機銃で正面のゴブリンたちを薙ぎ払う。そこを、7号車が駆け抜けた。2番機は慌てて駆けつけ、更に進路上の小型を12.7mmや踏みつけで掃除する。

 

「きゃっ!?」

 

「こ、こちら5号車、ゴブリンが車輪に絡まって速度低下! い、急いで外して!」

 

「や、やってるわよ!?」

 

 路地から飛び出てきたゴブリンを轢いてしまい、車輪に絡めてしまった5番機。そこへ、ミノタウロスが突進しようとする。

 

「くそっ! 小型多すぎっ……! なるべく急いで!」

 

 そこを、猫宮が突撃して超硬度大太刀で一閃、頭と胴を切り離す。

 

 

 既に、相当数の小型が浸透していた。1匹でも絡まりどころが悪いと死骸が消えるまで自走不能にすら陥るL型は、このような市街地での混戦に向いていなかった。

 

「す、すまん、こちら1号車もだ! フォローを頼む!」

 

「了解した、厚志!」

 

「わかってる、舞!」

 

 1号車が囮のようになっているところを、横合いから強襲する3番機。姿勢が崩れたところに、1号車からの砲撃も入り、撃破される。そして、ようやく車両が動き出す。

 

「すまない、助かった!」

 

「なるべく、注意してくれ!」

 

「努力する!」

 

 

 

 

 なまじこの諸兵科連合は強すぎる集団であるだけに、一番の激戦区に回された。しかし、強力なのはあくまで中型幻獣に対しであり、小型幻獣への対処はやはり随伴歩兵が欲しい。しかし、この激戦区を回る集団についていける学兵の随伴歩兵は存在しなかった。今は、2番機と4番機が主に歩兵の代わりをするかのように、駆けずり回って黒森峰の危ない車輌のフォローをしていた。

 

 普段のように、中型幻獣を中心に小型が取り囲み、ひとかたまりの集団でやってくるのではない。津波のように延々と押し寄せてきている。

 

「せめて後一回りは陣地が欲しい……!」 猫宮が悔しさからか口を引き結ぶ。

 

 青森では岩田中佐が、十重二十重と巡らせた陣地で幾らかを逃しながら少しずつ敵を削っていき、最後には小型まで削りきるという戦術を採用していた。今、偶然にも植木陣地がその1段目の役割、この諸兵科連合が2段目の役割をしていたが、3段目が貧弱に過ぎる。後ろに通っているのは小型ばかりではあるが、それでもあちこちの陣地から救援要請が聞こえてくる。地下からの浸透を許さなかった分、ひたすら圧力をかけてくる幻獣の量が増えていた。あちこちの陣地からの砲撃で削れても、抜け続けていく。

 

 

 

 それに、戦いが開始して既に1時間半、自分たちも大分消耗してきた。2番機他黒森峰の戦車群も、命中率が少しずつ落ちてきた。そして、そんな時に更に原からの報告である。波が少し途切れかけた今、補給に戻るには都合がいいだろう。そう判断すると、猫宮は善行に通信を開く。

 

「司令、一度補給へ戻りましょう! 弾薬も少なくなってきて、そろそろ集中力もみんな辛い頃です!」

 

 猫宮の進言に、少し悩む善行。

 

「……もう少し粘れませんか?」 この部隊のおかげで、なんとか後ろに中型が行くのを防いでいる。善行に色気を出させる程に戦果は、絶大であった。

 

「市内は砲撃で崩れてます! 士魂号だけならともかく、指揮車及びL型が戻るには予想外のトラブルを考えるべきです!」

 

 猫宮の進言に、ハッとする善行。タクティカルスクリーンから見る、この部隊の効果に気を取られてそこまで回らなかったようだ。

 

「……了解です。では、各自一時補給に戻って下さい。殿は……」

 

「自分が!」

 

「ええ、お願いします」 猫宮の言葉に、即頷く善行。

 

「で、でしたらわたくしも!」

 

「壬生屋さんは太刀1本ちょっと貸して! 代わりに92mmライフル持ってって!」

 

「で、ですが……」

 

「12輌の車両はどうしても隊列が長くなるから、護衛は多めに必要だし、いざとなったら瓦礫もどけなきゃならない! だから、お願い!」

 

「……分かりました。ちゃんと、無事で帰ってきてくださいね!」

 

 そう言うと、1番機と4番機は装備を一部交換する。そして、1機、2刀流で数の少なくなった幻獣の群れに向き直る猫宮。

 

「さて……ここから先は通さない!」

 

 拡声器をONにして叫ぶと、遮蔽物を利用しながら、幻獣の群れに突っ込んだ。ミノタウロスの腹に横一閃し、腕を突っ込み、内臓を引きずり出して踏み躙る。周囲の幻獣の憎悪が4番機に向いた。

 

「ははっ! 怒ってる? お前たちが散々人間にやってきたことだろ? だからさ、たまには……される側にも回って見るんだな!」

 

 猫宮は笑いながら狂気に身を浸し、幻獣を蹂躙し始めた。

 

 

 

 一方、撤退中の黒森峰と聖グロリアーナ、そして指揮車は、3列になってそれぞれの道で撤退しようとしていたのではあるが、あちこちで道を塞いでいる瓦礫に悪戦苦闘していた。L型は多少ならば乗り越えられるが、指揮車はさらに走破性能が低い。山のようになっているところなどは迂回するなりどかすなりしなければならなく、3機の士魂号は先行して必死に瓦礫を取り除き、L型は周囲を警戒、L2型は時折4番機へと援護をしていた。

 

「……4番機の様子は?」

 

「凄いですよ。幻獣の内臓を引きずり出して、憎悪を一身に受けています。ただ、全部が全部って訳でもなくて幾らか抜けてくる奴は居ますね。それは今グロリアーナのお嬢様方が砲撃しています」

 

 善行が瀬戸口に尋ねると、瀬戸口は真面目な表情で言った。

 

「……そうですか……」

 

 見通しが甘かった。思えば大陸では歩兵、熊本では人型戦車と、機甲部隊に深く触れた機会が極端に少なかった。もし、ギリギリで戻ろうとしたら今頃ほぼ弾切れで立ち往生だっただろう。それに、殿に猫宮が居てくれて本当に助かった。この装輪戦車の集団は、特に指揮車は不整地に弱い。

 

「なあに、猫宮ならなんとか敵を引き受けてくれます。それよりも、急いで帰ることを考えましょう」

 

「そうですね」

 

 深呼吸して気持ちを落ち着かせる善行。まだ、致命の事態には何処も至っていない。学んだ戦訓はすぐに活かせば良い。しかし、整備班陣地の周辺が幾らか陥落していた。そのせいで、幻獣の圧力が更に増えている。

 

「滝川君」

 

「は、はい司令」

 

 目ざとくサーマルセンサーと通常視界を切り替えて偵察していた滝川が返事をする。

 

「陣地が少々まずい状況です。弾薬はどの程度残っていますか?」

 

「えーと、ジャイアントアサルトもガトリングもグレネードも少しなら残ってます」

 

「結構、先行して彼らを安心させてやって下さい」

 

「りょ、了解っす!」

 

 命令を受け、全速力で駆け出す2番機。

 

「ふむ、そんなに不味い状況か?」

 

 射撃する事がないので、偵察を速水に任せ戦況を分析していた芝村が善行に問う。

 

「整備班の皆さんにとっては初めての血みどろの戦場であり、新兵も多数混じっています。戦況もそうですが、士気も非常に気になります」

 

「なるほど」

 

 善行の言葉に、芝村は納得したように頷いた。士魂号の巨体は、同じ戦場に居るとどこか安心感を与えるものだ。そして、善行もこの長期戦に適応しつつ有るようだと思った。

 

 

 

 

「ちっくしょう……!」

 

 滝川は一人、瓦礫の山と化した街を走っていた。移動しつつ周囲に目を向けると、陥落した陣地では人間の死体だけが残されていた。陣地に戻りながら、生存者は居ないかと目を皿のようにして探すと、銃声が聞こえた。見ると、数人の学兵が小型幻獣に取り囲まれている。

 

「おいっ、そこの学兵たち! 他の陣地まで運んでいってやるから捕まれ!」

 

 そう言うと、滝川は学兵たちの周囲に居た小型にガトリングをばらまき、学兵たちの近くに巨体をしゃがませる。学兵たちはびっくりしたようだが、士魂号を見上げると目に希望が宿った。

 

「取っ手があるから、それに掴まれ!」

 

「すまない、助かった!」

 

 学兵たちが取っ手に捕まると、また陣地へ向かって身長に走り出す2番機。そして、陣地の前でもやはり地獄が広がっていた。逃げ込もうとした兵が、途中で何人も捕まりばらばらにされている。

 

「この……やろおおおおおおっ!」

 

 思わず、叫ぶ滝川。兵の居ない所に、ありったけのグレネード弾と12.7mmを叩き込む。

 

「あっ、し、士魂号や!」

 

「た、滝川君っ!」

 

 加藤の喜びに満ちた声や、涙声の森の声が響く。この延々と続く地獄に絶望していた表情に、少し希望が戻ってきた。

 滝川は2番機を陣地に滑りこませると、すぐに兵達を下ろして、また陣地の周辺へ向かう。

 

「すぐに助けに行ってやるから、諦めるなよ!」

 

 そう、拡声器から声を出しながら、逃げ込もうとする兵たちを援護する2番機。やがて、それに続くかのように1、3番機、そしてL型の装輪戦車も続く。その光景に、陣地から歓声が上がる。

 

 こうして、諸兵科連合の陣地は、幻獣の群れからの一時の休息を得られるのだった。

 

 

 




急に実家に呼ばれることになったり更にスランプに少し陥ったり、アナザープリンセス実家で見つけて扱いどうしようと悩んだりで1週間ほど時間が空いてしまいました……申し訳ございません。

今からメンバー出すなら、外伝に話を出してこんなことがありました!な感じになりますがそれでも大丈夫でしょうか……?

短編が出るとしたらどんな話が良い?

  • 女の子達とのラブコメが見たいんだ
  • 男連中とのバカ話が見たいんだ
  • 九州で出会った学兵たちの話
  • 大人の兵隊たちとのあれこれ
  • 5121含んだ善行戦隊の話

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