ガンパレード・マーチ episode OVERS 作:両生金魚
「何だかやけに張り切ってますね。時代劇を見てるみたいだ」
指揮車の瀬戸口は、そう善行を省みた。既に恒例となった黒森峰との共同出撃で、本日も戦闘は順調に推移している。
拡大された画面には2刀流の壬生屋機の姿があった。一刀両断されたミノタウロスが2体、その前後に転がっている。
1番機は第3小隊の援護を受けながら突進すると、こちらを見ていたミノタウロスの振り下ろす腕を避け、そのまま一線。頭と胴体が別れる。
ほんの数秒、無駄のない動きである。出撃ごとに冴えていく壬生屋の剣だが、今日は一段と冴えて見える。
「第3小隊、ゴルゴーン1撃破。壬生屋さん、凄い……」
みほも思わずそう呟いた。間近で援護すると、その凄まじさがよく分かる。
「OK、惚れ直しちゃうぜ壬生屋」
瀬戸口が通信を送ると、壬生屋の不機嫌な声が帰ってきた。
「不潔ですっ! 真面目にやってください!」
「小隊のプリンスに、不潔はひどいなあ。朝シャンもしてきたし、下着は毎日替えてるし」
「意味が違います!」
「あ、瀬戸口さん、朝シャンって逆に髪に悪いらしいですよ?」
「ゲッ!? マジかっ!?」
猫宮の割り込みに、反応する瀬戸口。他、通信を聞いていた黒森峰の女子多数。
「壬生屋、後ろに敵が回ったぞ」
芝村の苦々しげな声が響く。これできっちり仕事をこなすのだからまったく――
「煙幕が切れるまで後30秒、全員気をつけろ」
滝川の声が響く。
「全車両、ひとまず遮蔽に隠れろ! 援護お願いします!」
「了解っと!」
また高所で狙撃していた猫宮が、隠れるのに邪魔になりそうな中型を狙撃し、吹き飛ばす。猫宮の腕ならば、92mmで急所を狙い、大体の敵は1撃で落とせていた。
壬生屋が、ちらりとタクティカルスクリーンを見る。赤い光点が一つ、スキュラが猫宮の狙撃範囲外に浮遊していた。
これは……! ためらわず、スキュラに突進する。レーザー光が次々に地面に突き刺さるが左右にステップを踏みながら近づく、接近。およそ2000の距離をレーザーを全て避けて近づき、ビルを踏み台にジャンプ、腹に超高度大太刀を突き刺し、通過する。背後で、スキュラが燃えながら落ちる音がした。
「スキュラ撃破。みおちゃん、すごい!」
「うは~、壬生屋さんますます冴え渡ってるね」
ののみや猫宮から、称賛の声が飛ぶ。
「こちら、近くに敵影無し、掃討完了です」
「こっちも特に見える位置にはいないね」
エリカの報告に、猫宮の声が重なる。もうこの戦区に有力な敵はいないようだ。
「他に敵は?」
その報告に、壬生屋は指揮車へと問う。指揮車の索敵範囲は、通常兵器よりはるかに上だ。
「今日は頑張ってるな。 ――何かいいことでもあったか?」
「わたくしのことなんか、どうだっていいでしょう!」
「ごめんごめん。ただ今日の姫君、ちょっと冴えすぎているから」
なんて声をBGMに、武部から報告が入る。
「5キロ東の集落、紅陵女子の戦車小隊が苦戦しています!」
「よし、援軍に行くぞ」 「了解です」
その報告に、芝村とまほの両名が援軍の選択をする。
「よっし、全機体とりあえず向かおう!」
そう言うと、駆け出す4番機。他の機体も、それぞれ向かう。
先頭を駆ける4番機が、ジャイアントアサルトとガトリングの弾をバラマキ、注意を向けた。その注意がそれた敵に、壬生屋は突進した。
一閃、背後からミノタウロスを断ち斬る――が。右手が妙に軽い。視界を向けると、飛んで行く大太刀の刃先が見えた。
近場の砲声で、目が覚める。ジャイアントバズーカを補給した滝川が、1体のミノタウロスを倒していた。
「壬生屋さん、一旦右手のは捨てて、一刀と、両腕のガトリングをうまく使い分けて!」
「りょ、了解です!」
そう言うと、いわゆるミノタウロスの集団に突っ込むのではなく、混成部隊の方へ行く壬生屋。断ち切りながら片手で軽装甲の敵をぶち抜く、または軽装甲の敵をぶち抜きつつ、斬り倒す。右と左に太刀を何度も持ち替え、こんな曲芸的な動きを、弾をだいぶ外しつつこなす壬生屋。
続々とL型も到着し、火力で圧倒される幻獣側。戦闘は、すぐに終焉に向かっていった。
本日も大勝利である。一つの戦区とまた隣の戦区の幻獣を叩き、更に味方部隊までも救う。総撃破数53体。もはや、大戦果が日常になりつつさえある。
上機嫌な滝川を他所に、壬生屋は落ち込んでハンガーに居た。情けない表情で折れた大太刀を見つめていた。どうして折れたのだろう――決して無理な使い方はしてないはずなのに――
原が隣に立つ。緊張して身を固くするが、折れた大太刀の前にしゃがみこんで、丹念に調べ始める。時々、スパナで叩いて音も聞いていた。
「日本の製造技術も落ちたものね」
「はい?」
「六菱重工のロゴが刻印されている。超合金技術では世界有数のブランドだけど、こんな粗悪品を作ってるようじゃ、先行き、暗いわ」
そう言う気難しげな原も、独特の魅力を放っていた。
「ええと、それで新しい大太刀は何時来るのですか……?」
そう聞かれ、端末を使い探す原。だが、在庫は何処にもなし、生産は中止である。
がっくりと肩を落とす壬生屋だが――
「そ、そうだ、猫宮さんの予備なら!」
「あー、あっちもやめておいたほうが良いよ」
そう言いつつ、猫宮がやってきた。手にはスパナを持っている。
「やめておいたほうが良いとは……?」
「あっちにも亀裂。悪い鉄使ってるねぇ……」
ため息をつく猫宮。
「そんな……」
「……ダメね、他の隊にも在庫はなし」
それを聞くと、がっくりと項垂れる壬生屋。
「ごめんなさい」
壬生屋の謝りに、原は笑って答えた。
「やあねえ。今日は怒らないわよ。粗悪品をこれまでよく使ってきたわ。褒めてあ・げ・る♪」
壬生屋は頭を下げると、悄然として――
「それじゃあ、特注してもらうしか無いかな」
「できるのですかっ!?」
すごい勢いで猫宮に駆け寄る壬生屋。
「うん。腕につけてる装備の給弾装置とか弾倉とか、特注品なんだ。で、それを作った親父さんは刀鍛冶」
「この装備を作った人なら、品質保証は出来るわね」
それを聞くと、パアッと壬生屋の顔が明るくなるのだった。
まったく、何でこんなことになったんだ――
瀬戸口は、隣に壬生屋を載せて、軽トラを飛ばしていた。荷台にはポッキリ折れた大太刀と、猫宮がいる。
「質問してよろしいですか?」
剣の技でも見せるためか、丁重に布で包んだ日本刀を抱えた壬生屋が口を開いた。
「どうぞ」
「おじさん、ってどのようなお知り合いなのですか? わたくし少々不安で」
瀬戸口の笑い声が聞こえてきた。思い出し笑いの様だ。
「偶然知り合ったんだ。縁は指揮車さ」
「指揮車、ですか?」
「そうそう。自分と瀬戸口さんが解体業者から指揮車引っ張ってきてね。で、その時シャフトがポッキリ行ったのを直してもらったんだよね」
荷台からも猫宮の声がかかる。
「ああ、一週間で指揮車のシャフト直しやがったんだよなあの親父」
「なるほど……士魂号の備品も作っていただきましたし、腕がいいのですね」
「うん、自分も結構銃剣とかカトラスとか作ってもらったし!」
そう言う猫宮の側には、親父に作ってもらった装備の数々がおいてあった。
「ふふふっ、悪い方では無いのですね」
そう言って笑う壬生屋。
「気難しいお方だけどね」
そう言うと、瀬戸口は肩をすくめるのだった。
「あれだ」
瀬戸口の視線を追うと、トタン屋根の巨大なバラックが見える。有限会社、北本特殊金属だ。雑多に積まれわけのわからない部材やら、工場の有様やらを見て、不安になる壬生屋。
「おーい、おじさん、いる~!?」
荷台から降りた猫宮が叫ぶ。
「おお、猫宮と瀬戸口じゃなかや!」
フォークリフトを運転していた男が叫んだ。
「やっ、久しぶり。微妙に景気が上向いてます?」
「そこのガキのおかげばい」
親父は笑って猫宮の方を向いた。
「あ、おじさん、これの様子見てください」
そう、猫宮から包を取り出される。開けて、銃剣やカトラス、ナイフ、ブレード、手甲を見ていく。
「はん。だいぶねぶれてる(刃が鈍くなってる)ばい。……何と戦ったと?」
「小型数十匹と一度に。銃剣でも斧を叩き落としたり、カトラスぶん投げたり、こっちのブレードでもゴブリンリーダーを掻き切ったり。でも、おかげで助かりました!」
「当然たい。後でまたけぇ」
「おっと、おやっさん、本命はそっちじゃなくてこっちなんだな」
と、瀬戸口が荷台の方へ行くと、親父もついていく。
「これなんだけどさ。相談に乗ってくれませんか?」
親父は軽トラの荷台に上がると、むすっとした顔で折れた大太刀を調べ始めた。スパナで刃を叩き、耳を澄ます。
「馬鹿にしとっとや」
「そう?」
「ふん。こぎゃんモンたちでよー戦ってきたばいねー。流石は猫宮たい。こんなナマクラで、敵ばひどかめにあわせとった。一本つこうとるのは瀬戸口か?お前もちーちは見なおしたばい」
猫宮と瀬戸口は苦笑した。
「おやじさん、勘違いしている。」「そうそう、大太刀2本使ってるのはこっち、壬生屋未央さん。1本使ってるのは自分だよ」
「何てや!」
オヤジの表情が凍りつく。どうも信じられないようで、壬生屋と言い争う親父。どちらも感情的になり喧々囂々、とうとう親父は家の奥から甲冑を引っ張り出してきた。戦国後期に作られたであろう、南蛮鎧である。
「これだ。こればたたき斬ってみせてん!」
おやじは、壬生屋の目の前で素早く甲冑を組み立てる。
「うへ~、これ南蛮鉄の鎧……種子島も弾く奴じゃ無いですか」
猫宮は苦笑し、瀬戸口がとりなす。が、
「うるしゃー!」「邪魔しないでください!」
この様子に苦笑する猫宮、肩をすくめる瀬戸口。壬生屋が刀を引き抜くと、空気が張り詰める。だが、迷っている。
「壬生屋なら斬れるさ」
不意に、瀬戸口の声が壬生屋に届く。
「本当に……?」
「きっとやれる。俺が保証してやる。目を閉じて、心を鎮めて――」
なぜだか心地いい、瀬戸口の声が壬生屋に染み渡る。猫宮は、黙ってみている。
微笑を浮かべ、ふっと肩の力を抜くと、ゆっくりと刀を持ち上げ、振り下ろす。
「やあっ!」
気合と同時に、かすかな手応え。甲冑は、脳天から股下まで一刀両断にされていた。
「どうです?」
瀬戸口が冷やかすように、猫宮は優しく笑いかけた。
「まじで、こぎゃん……」
そう、真っ二つになった兜を持って呆然と呟く親父。次は、枯れかけた老木を切ってくれという。
「いけません」
「何てや?」
「この木は残り少ない生を全うしようとしています。斬れません」
壬生屋は北本の親父に微笑むと、しとやかに一礼をして軽トラの助手席に座った。
「まあ、そういうわけです」
瀬戸口も笑いかけて、運転席に乗り込む。
「あ、自分の大太刀や装備は後回しでいいから、壬生屋さん再優先で!」
猫宮が叫びながら荷台へ飛び乗った。
帰り際、二人は口数が殆ど無かった。ただ、不器用な壬生屋が、瀬戸口と話そうとする様を、猫宮は面白そうに、しかし優しく見守っていた。
3日後、親父はまたムスッとした顔でトラックを走らせ、超高度大太刀を届けに来た。エッサホイサと整備員たちが鞘から少々引き抜くと、まばゆい刀身が顔を見せる。
「最高級品よ。こんなの作ってたら大赤字。後、猫宮君の分も来るんでしょ? 潰れちゃわないと良いんだけど」
原が微笑みながら言う。
「3日で仕上げるとはすごか。壬生屋はよっぽど気に入られたとばいね」
「そんなはずは……無いと思うんですけど」
首を傾げる壬生屋を、優しく見守る整備員たち。
「類は友を呼ぶっていうじゃない。変人は変人を呼ぶの」
「わたくしはごく普通の女子ですっ!」
しかし原はとりあわず、笑いながら立ち去った。
「……繰り返します。有力な敵が防衛線を突破、熊本市街へと迫りつつあります」
善行の声が響き渡る。もし、市街に入れれば始まるのは、ただただ一方的な虐殺。
黒森峰中隊と5121小隊は全速で迎撃地点へ向かっていた。歩道は避難民で溢れ、戦場へ通じる道は対照的に閑散としていた。
ふと、壬生屋は気がつく。これは、北本特殊金属へと続く道だ。
「瀬戸口さん、猫宮さん、北本さんの工場……」
「ああ、戦域に含まれている。避難していると良いんだが」
ほどなく砲声が聞こえ始めた。戦域近くの高校の戦車小隊が弾幕で敵を足止めしている。
「こちら翠嵐家政短大付属戦車小隊。現在、交代しつつ敵を牽制、足止めしています。至急、来援お願いします」
「了解です。後数分でそちらに付きます。それと――再建、おめでとうございます」
以前、戦場でパニックに陥って敗走した小隊だった。善行は、かつて彼女たちを黙って見逃した。
そして、士魂号がリフトアップ、L型もその側についている。
「敵はスキュラ5、きたかぜゾンビ10、ミノタウロス12、ゴルゴーン8です、大部隊です!」
武部の声が聞こえる。
「我々の目的はただ一つ、敵が市街地へ突入する前に補足、撃滅すること。そのためには、敵空中ユニットを優先的に撃破してください」
空中ユニットは、地形の影響をまったく受けない。そして、見下ろすことで戦域の何処にでも脅威を届けられる。真っ先に落とすべき敵であった。そして厄介なことに、スキュラは大抵最後尾で支援射撃をするのだ。
「5121は飛行ユニットを優先に。地上は黒森峰さんにお任せしましょう」
「了解です」
善行の要請にまほが答えると、全機全車両、一斉に行動を開始した。
「参りますっ!」
壬生屋が、空中ユニットに突撃する。一斉に壬生屋の方を向くきたかぜゾンビ。その銃弾をかき分け、跳躍。あっさり両断する。
軽い――。なんという切れ味の良さ。そして、気がつく。この太刀は、壬生屋が使った祖母の形見の日本刀そっくりなのだ。改めて北本の親父に感謝し、戦場を駆け巡る壬生屋。
滝川はスモークを飛ばし、後方にいるスキュラの視界を分断。そして、2,3,4号機の射撃が、一斉にきたかぜゾンビに襲いかかる。
「へへっ、壬生屋の方ばっかり向いてるんじゃねえぞ!」
「ロック、厚志、次だ」 「了解!」
「っと、後ろへは行かせない!」
濃密な火線が、空中へと殺到する。次々と落ちていくきたかぜゾンビ。そして、対空ユニットの脅威が一時的になくなる。
「全車両、前へ出るぞ!」 『了解!』
そこに、黒森峰の車両が殺到する。派手に目立つ士魂号に気を取られているところを砲撃、次々に削る。しかし、その中でも壬生屋の動きは特に光っていた。
「きたかぜゾンビ撃破×3、みおちゃん、すごいすごい!」
ののみの声が響く。その声を心地よく思いつつ、1番機はまた遮蔽へと移動した。
戦闘は順調に推移していた。が、アクシデントというものは、いつも突然に起きる。ふと一箇所をズームすると、逃げてくるトラックが見えた。叫ぶ猫宮。
「北の方、逃げ遅れたトラック1! そちらへ向かいます! みほさん、手伝いお願いできる!」
「了解です!」
そう言うと、猫宮はトラックの方へ突撃する。超高度大太刀が無いため、代わりに持ってきたジャイアントアサルトの2丁持ちで、トラック周りの幻獣に銃弾を叩き込む。そして、トラックの進路を阻害しないよう、守るように、3輛のL型が突撃、更に発砲する。
「チッ!」
トラックの進路に小型多数、轢くと止まってしまう。猫宮は、グレネードランチャーでとんでもない精度の射撃を行い、トラックを巻き込まないよう小型だけを吹き飛ばす。爆発半径が広い武器でこれをやるのは、非常に神経を使う。
付近のL型は、そんな4番機を守るように、周囲を動きつつ中型を牽制していた。
遅れてやってくる壬生屋。突撃するのは、北本特殊金属の直ぐ側の、ミノタウロスだ。そして、目を疑う。そのミノタウロスを、決死の表情で睨みつけている親父がいた。
「許しませんっ!」
殺到する幻獣の攻撃をよけつつ、ミノタウロスに突撃し、すれ違う。はじめは小さな亀裂が、そしてやがて大きく広がり、両断されて倒れ伏した。
「こんなところでなにをしているんです。逃げてください!」
そう言うと、北本の親父はむすっとした顔でくしゃくしゃの作業帽のひさしに手をやった。
「おれは工場ば守ると! まだ、猫宮にもそいつを届けてなか!」
「死にたいのですか!?」
「そんならそれもよかと!」
「壬生屋、ぼんやりするな。ミノタウロスが2体、そちらへ向かったぞ!」
見ると、左右からミノタウロスが接近してくる。くっ、片方をやればもう1方は親父さんを……!
と、そこへ猫宮がやってきた。
「親父さん、無事!?」
「おお、猫宮、無事ばい! そげんとこの刀ばはよもってきんさい!」
そう言い指を指した方向には、もう1本の大太刀が横たわっていた。どうやら、ぎりぎりまで作っていたらしい。
「ありがたく、貰って行くよ!」 そう言うと、リロードの終わってないジャイアントアサルトを地面に置き、足で器用に大太刀を拾う。
「参りますっ!」 「行くよっ!」
二人が、それぞれ北本の大太刀を手に、ミノタウロスへ向かう。―― 一閃。
そうして、2体のミノタウロスは、両断され倒れ伏した。
「あ、あいたー……」
親父は口を開けたまま、惚けたように立ち尽くした。なんと見事な太刀か!
「親父さん、最高だよ!」 「ええ、素晴らしいです!」
二人から、声が響く。それが親父には、心の底から誇らしかった。
「第3小隊、この工場へ意識が向いている内に徹底的にたたきます。猫宮さん、暴れてください、援護します!」
「了解!」
そして、北本特殊金属の周りを囲む第3小隊。拠点を守りつの、混沌とした戦場を、猫宮と共に暴れ倒す。
おやじに意識が向くギリギリで、その幻獣を仕留め続ける。猫宮も、壬生屋も、親父の作った大太刀を手に暴れ、親父の作ったパーツで作った装備で敵を屠っていた。
やがて、殲滅されていく幻獣。辺りに、静寂が戻った。
「じゃ、親父さん、元気でね!」 「ええ、それではまた」
そう言って戻ろうとすると、親父がこちらへかけてくる。猫宮と壬生屋は、また拡声器のスイッチをONにした。ついでに、通信も集音マイクも開いている。
「二人共、よか太刀筋ばい! 本当にすごか!」
「いえ、おじさまの大太刀のお陰です!」「うん、本当に良い太刀だよ、ありがとう!」
甲高い声で、お礼をいう壬生屋。笑いかける猫宮。それを聞いて、親父は愉快そうにかかっと笑った。
「そりゃあよかったばい。でたい、おまえに聞きたかことがあっとばってん!」
「はい?」
「瀬戸口とはどぎゃん関係とや?」
「あの……何だか遠い昔に会ったことがあるような。声を聞くだけで心が落ち着きます」
「関係ば聞きよっと!」
「瀬戸口さんは、わたくしの、その……」
「おれば思うばってん、瀬戸口ごた軟弱モンにはおまえんごた強かおなごが似合っとって思っとったい!」
壬生屋は唖然として、言葉を失ったかあっと全身が熱くなる。
「そんなっ! 瀬戸口さんは、わたくしみたいながさつな女とは釣り合いが取れませんわっ!」
壬生屋と親父の声は拡声器と集音マイクと通信を通して、戦場に響き渡った。
「モテる男は辛いですねぇ」
笑っている善行。黒森峰の女子生徒は、通信を聞いてキャーキャー叫んでいる子たちもいる。
「そんなんじゃないですよ、壬生屋のやつ……おい、猫宮、止めろ!」
「えー……止めるなんてもったいない」 猫宮の、いつものやわらかな声が今は無性に腹立たしい。
とっとと黙らせねばと、瀬戸口はアクセルを踏み込んだ。そして、言い争いを始める瀬戸口と北本の親父。それを、周囲は微笑ましげに見ているのだった。
そして後日、瀬戸口と壬生屋がデートしているのを目撃される。しかもなんと、壬生屋が袴以外を着て、だ。サーモンピンクのワンピース、イヤリングにクロスのネックレス。瀬戸口は、珍しく唖然としていたのだ。その翌日、奥様戦隊にからかわれて、瀬戸口の血圧が急上昇したのは言うまでもない。
これにて5121小隊の日常のエピソードは終了です。どうか引き続きお楽しみいただければ幸いです。
そして、活動報告を新しく投稿いたしました。見たいオリジナルな日常回のアンケートや、感想欄では言えない様々なこと等も、ぜひ書き込んでいってください。
短編が出るとしたらどんな話が良い?
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