ガンパレード・マーチ episode OVERS 作:両生金魚
『決戦! ムーンロード!』
「チョコバナナを一つ、所望する!」
「は、はいっ!」
凄まじい威圧感を出し、チョコクレープを注文する芝村。その気迫にいつものこととはいえ気圧される店員さん。
滝川より金を出せば買えるとの情報を引き出した後、こうしてしばしばクレープ屋のみならず、多数の店で買い食いに走るようになった。
「むっ、クリームの甘さがチョコの苦味と合成バナナで中和され……」
何やら批評を繰り広げ、黙々と食べる。知ってる人が見れば、機嫌がいいと分かるだろう。
そして、それを影から覗き込む袴を着た乙女1名。
「くうううう……芝村さんはああやって買えているというのに……わたくしは……」
心のなかで悔し涙を流す壬生屋。ああ、どうして私はこんなに弱いのだろう……
「あれ~? 壬生屋さん、どうしたの?」
「っ!?」
慌てて振り返る。こんなところを見られるなんて!? 振り返って見えるは黒森峰女学園の制服。
「えっと、武部さんに五十鈴さんに冷泉さんですか……」
「そうそう、覚えててくれたんだね!」 「どうもこんにちは」 「……ん」
三者三様の挨拶が帰ってくる。
「み、みなさまこそどうしたのですか……?」
と壬生屋が問うと、五十鈴が恥ずかしそうにした。
「じ、実は、わたくし今まで家の教育であまり買い食いというものをしたことがなくて……」
「それで、一緒に買いに来たんだよね、私達。」
「クレープ……楽しみ」
また衝撃を受ける壬生屋。い、五十鈴さんは勇気を出して買いに来たというのにわたくしはまだ燻って……心のなかでさめざめと涙を流す壬生屋。
「壬生屋さんはもう食べたの?」
「あ、いえ、わたくしはまだ……」
「じゃあ、一緒に食べようよ!」
そう言うと、手を引かれて行列に並ばされてしまった。ああ、まさか並んでしまうなんて……
ドキドキが止まらない。横では、「ん~、私は何にしようかな……?」 「わたしはチョコクレープでいい」 「こんなにメニューがあると、目移りしてしまいます!」
横では、黒森峰の皆さんがワクワクしながら並んでいる。ああ、わたくし、一体どうすれば……
「いらっしゃいませ、 注文はお決まりでしょうか?」 っ!? とうとう、目の前に……!
「あ、私はブルーベリークリームでお願いします!」 「……チョコクリーム、ひとつ」 「わたくしは……あずきクリームをお願いします」
それぞれ、色とりどりのクレープを頼む3名。ああ、一体どうすればいいの……?
初めてクレープ屋の前に立つと、様々なメニューが目に飛び込んでくる。どれもこれも、美味しそうだ。くぅと、可愛く胃が鳴る。
「はい、お次の方どうぞ」
「は、は、はいっ!」
思わず戦闘時のような気合を入れる壬生屋。若干、回りが引いてしまう。そして店員さんは「またか……」なんて表情をしている。
「ご、ご注文はお決まりでしょうか……?」
今日も訓練して疲れている。乙女の体が、カロリーを求めていた。
「ま、抹茶白玉あずき生クリームデラックスを、一つ!」
「「「おお~」」」
黒森峰3人の声が響く。ガッツリたっぷりなボリュームのクレープである。
「おお、初めてなのに攻めるね壬生屋さん!」 「頼む人、初めて見た……」 「凄いです!」
「はい、1000円になります」
お金を払う。とうとう、買ってしまった……。
少しして、ずっしりとした重さのクレープが渡される。
「じゃ、頂きますで皆食べよう!」と、武部が言う。
「…ん」 「はい!」 「りょ、了解です!」
「じゃ、頂きます!」
『頂きます』
一口、かじりつく。生クリームとあんこと抹茶アイスの甘みが交じり合い、それを白玉とクレープが整える。
口に含み、割合が変わるたびに味が入れ替わる。ああ、ああ、ああ……
無我夢中で食べる壬生屋。そして、五十鈴。それを微笑ましそうに見ている武部に黙々と食べる冷泉。
甘い物は乙女の大好物、皆が笑顔で食べていく。そして、食べ終わると幸せそうな顔をしていた。壬生屋と五十鈴はひとしおである。
「ああ、食べれてよかった……」
心の底からそう思う壬生屋。ふと横を見ると、芝村と目が合った。
――ふっ、やったな、壬生屋―― ――ええ、やりました――
言葉に出したわけではない。だが、この時確かに二人の想いは分かり合えたのだ。
「ねーねー、壬生屋さん、他にも買い食い行かない?」 「まだ入るな」 「はい、私も楽しみです!」
まだまだ食べたい乙女の心、それに壬生屋も同意した。
「はい! では、芝村さんも一緒に行きましょう!」
「む、むっ!? 私もか!?」
「あっ、芝村さんだ! 芝村さんもいかがですか?」
人懐っこそうによってくる武部。そして、壬生屋も近付いてきた。
「我々は、まだクレープを制覇しただけです――他にも戦うべき相手は居ます」
壬生屋がそう言うと、芝村の目が見開く。そうだ、食べれるものはクレープだけではない……!
「壬生屋、そなたに感謝を。私は、大事なものを見落とすところであった……」
「いえ、わたくしがこうなれたのも、皆さんのお陰です!」
頷き合う二人。
「じゃあ次は、大判焼きが良い……」
「大判焼きですか……楽しみです!」
こうして、和気藹々と買い食いに歩き出す乙女5人。その評定は、とても楽しそうなものであった。
『再び! 合同射撃訓練!』
「まさか、1日で88式が全員分集めるとは……」
「それだけ、会津と薩摩も本気ということですね」
猫宮と善行が、苦笑しながら言う。若宮や来須、猫宮は木箱に詰められた88式を運んでいるのだ。
さて、こうなった原因は勿論猫宮である。合同の射撃訓練を、黒森峰とも行うことを提案したのだ。
善行としても、この連携を覚えている兵員を失うのはあまりに痛いので、生存率を上げるこの訓練は賛成だった。蝶野も勿論同じである。
しかし、戦車兵は全部で36名、整備員は18名、合計54名。そして、サブマシンガンを持てるのは車長9名。なので所持してないのは45名。流石にこれだけの量を一度に集めるのは大変なので、何とか出来ないか準竜師に相談することにしたのだ。
司令室の端末の前に座り、連絡を入れる猫宮。少しすると、準竜師が現れた。
「俺だ」
「70式か、出来れば88式を45丁、なるべく早く用意できませんか?」
「黒森峰にだな。分かった」
そう言うと、ウイチタ更紗に要件を伝える準竜師。
「芝村から、黒森峰へ足りない装備を融通してやると伝えろ。サブマシンガンも禄に持てずに可哀想だと、兵站部署に言え」
その指示に、呆れる猫宮。そして、ガハハと笑う準竜師。
さて、その後の顛末はもう言うまでもないだろう。芝村から恵んでやると言われた薩摩、会津共に激怒。翌日にはきっちりと、88式が送られてきたのだ。
さて、装備が集まったのは事実である。と言うわけで、今度は5121メンバーが教官となっての合同訓練である。
訓練場に沢山の人数が集まる。流石に大多数で壮観である。教える中核は勿論いつもの3人だ。
「はーい、と言う訳で、サブマシンガンの基本的な使い方やら戦術やら整備方法やら教えますので、今日はよろしくお願いします!」
『はいっ!』
黒森峰メンバーの声が、一斉に響く。そしてそんな様子を若宮はいつの日かのことと似てるなと思い、苦笑するのだった。
教えられる側から教える側に回るのは、大抵嬉しいものだ。特に、女学園の女子生徒に教えられる一部の男連中は張り切っていた。
流石に整備員の子達は覚えが良いが、戦車兵の子たちはおぼつかない子も多い。そう言う子達に、重点的に教えていく。
「……で、1回目があの子で2回めがあっちの……」
「なんと……」 「ふおおおおっ!」 「いい、すごくいいいいいいいっ!」
とか何やら固まって話していた4人も居るが、まあ、順調である。なおその4人は猫宮が笑みを向けると、散り散りになった。
ふと見ると、壬生屋と芝村が五十鈴、秋山、冷泉、武部に教えていた。何やらいつの間にか仲良くなってたらしい。
他にもちらほら、整備員は整備員同士で仲良くなっていたり、いつの間にか交流が進んでいたようだ。皆の間を歩き回りながら、微笑む猫宮。
ふと見ると、教本と見比べエリカが中々に苦戦をしていた。側に寄る猫宮。
「や、大丈夫?」 「あ、猫宮さん……」 ペコリとお辞儀するエリカ。その作業を見守る猫宮。そして、詰まるところが有ったら所々アドバイスをしていた。穏やかに時間が進む。
「……猫宮さんって、不思議な方ですよね……」
「うん、よく言われる」 くすりと笑う猫宮。
「戦場でも、論文を書くときも、訓練でも、何時も皆を引っ張ってる。どうやって、そんなに強くなったんですか……?」
ふと、聞いてみた。不思議な人なのは間違いない。でも、どうやって強くなったのだろうと。
「……弱かったら誰も守れない。頭が悪かったら戦術を思いつかない。知識がなかったら、戦えない。それが嫌だった。そして、いつの間にか」
カチャカチャと銃が組み上がる音が聞こえる。少しずつ、動作をスムーズにしていくエリカ。
「……私達も、強く成れるでしょうか?」 ふと、疑問に思った。
「今も、少しずつ強くなってるでしょ?」
くすりと笑う猫宮。エリカは、さっきよりも少し早く、銃を組み立て終わっていた。
さて、いよいよ実弾を使っての射撃である。そして、黒森峰のメンバーは全員女性である。つまりは、腕力の関係で中々に難しかったのだ。
「キャッ!?」 「わわわっ!?」 「ひゃっ……」 「っ……」
苦戦する黒森峰のメンバー。それを教えられるのは、射撃が得意な連中である。苦手な中村などは心のなかで血涙を流したりしている。
そして、茜やら森やら新井木やらも、引き続き教えられている側である。そして、意外な実力を見せているのが一人、狩谷であった。
「調子良いね、狩谷君」
的の方を見る猫宮。程よく中心に集まっていた。
「まだ、車椅子に座ってるからな。姿勢が安定するんだろう。立ってこれだけ集められるようになったら改めて褒めてくれ」
「了解っと」 くすりと笑う猫宮。
後ろでは、加藤が車椅子をおさえていた。
「なっちゃん、もうウチより射撃上手やわぁ……ウチが守ろうと思ったのに……」
それを聞くと、狩谷がまた1マガジン分射撃を行う。さっきより心なしか、集弾率が良い気がした。
「……それは困る。たまには、僕に守らせてくれ」
「え、な、なっちゃん……?」
ぷいっと横を向く狩谷、そして顔を真赤にする加藤。
足が動くようになって以来、狩谷はいい方向へ変わった。不幸を撒き散らすこともなく、また明るく、少しだけ素直になった。
そして、加藤へは、とても優しくなったのだ。
それを優しく微笑んで見守ると、他へ移る猫宮。
キョロキョロと見渡すと、何故か隅っこで、まほが一人訓練をしていた。ちょっと的を見てみると、中々に集弾率が悪かった。
「やっ、まほさん、お手伝いします?」
びくっとちょっとかわいく跳ねると、こちらを見た。
「……お、お願いします……」
「そんな一人で居なくてもいいのに」
「……その、あまり無様なところを見せると、隊長としての沽券が……」
そんな様子に、苦笑する猫宮。まあ確かに、隊長としては優秀なところを見せないといけないのが辛いところである。
「そう、構えはもうちょっとこんな感じに……足もこう開いて……」
次々と構えを矯正していく猫宮。そして、あちこち触られて顔が赤くなってしまうまほ。
「こ、このような感じに……」
「そうそう、それで撃ってみて」
さっきより、的の中心に集まったようだ。
「ふむ、こんな感じですか」
「うん、いい感じ! 後は数をこなせばいいかな?」
才能有る無しには影響されれど、一定のレベルまでは訓練をすればそれなりに上達するだろう。猫宮は笑うと、次々にマガジンを差し出す。
受け取り、何度も射撃するまほ。少しずつ、上手くなって行っているようだ。
「……ふぅ」
手がしびれ、少し休憩するまほ。
「大丈夫?」
「ええ、しびれが少し有りますけど何とか」
「じゃあ、少しマッサージする? 少し早く、疲労が取れると思うけど」
「え、えっと……せっかくなので、是非」
少し迷ったが、訓練量は多めに取りたい。そう思い、手を差し出すまほ。受け取り、手のひらのツボを押す猫宮。
「っ~~~~!?」
思わず、体をこわばらせた。痛気持ちいい。
「痛かったら言ってね~」
ギュッギュッギュッ
「っ~!~~~!っ~~~~!?」
隊長の沽券からか、必死に声を抑えるまほ。びみょ~~に涙目でもあったりする。
猫宮は、腕に集中していてまったく気が付かない。そして、珍しい隊長の様子に、少しずつ集まっていく視線。
「じゃあ、次は左手も」 「は、は、はい……」
ギュッギュッギュギュッ
「っ!?~~~~~~っ!?~~~~~~~~~っ!?」
必死に体を縮こませ、何か色々なものを耐えるまほ。そして、真剣に、丁重に揉んだり押したりする猫宮。
一種異様な空気の中、両方の手が開放された頃には、まほの息は絶え絶えになていた。
「っと、もう手、大丈夫?」
「は、はい、大丈夫です……」
まほの方を覗き込む猫宮。そして、潤んだ目でこちらを見てくるまほ。
「……あ」 やらかしてしまったと今更になって気がつく猫宮。
そして、その様子を面白そうに見ている野次馬たち。
この誤解を解くのに、数時間を要する猫宮であった。
短編が出るとしたらどんな話が良い?
-
女の子達とのラブコメが見たいんだ
-
男連中とのバカ話が見たいんだ
-
九州で出会った学兵たちの話
-
大人の兵隊たちとのあれこれ
-
5121含んだ善行戦隊の話