ガンパレード・マーチ episode OVERS   作:両生金魚

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成長も少しずつ

 戦闘終了後、辺りには鳥達のさえずりが戻ってきた。だが荒波機はまだ警戒を継続するのか、補給を受けていた。そして、その間、話せるように善行が頼み込んでくれたのだ。

 

「3352の荒波司令からお話があります」

 

 善行の静かな声が通信回路に流れた。士魂号パイロット全員の目に、レッドカラーのド派手な機体が映る。

 

「善行さん、俺はお話なんて柄じゃないんだがな」

 

 笑い声とともに、若々しい柔らかな声が響く。

 

「まあ、なんだ。おまえさんたちが5121の精鋭ってわけか。追撃戦の様子、しかと拝見させてもらったよ。猟犬とまではお世辞にも言えないが、牧羊犬のように良い動きをするじゃないか。アクシデントにも迅速に対応していたし、特にそこの重装甲のパイロット。大太刀2本引っ提げて敵に切り込むなんて実に痛快、楽しませてもらったよ」

 

 同じ千翼長なのに、善行とは随分雰囲気が違うと戸惑う一同。いきなり名指しされた壬生屋は照れて口ごもる。

 

「そ、そんな。わたくしは……」

 

「ははは。時代劇を見てるみたいだった。ま、俺ほどじゃないけど、お前さんたちの機体運用もテレビ映えするだろう。なあ、どうせなら決め台詞を考えてみたらどうだ?」

 

「決め……ゼリフ……」 壬生屋はあっけにとられてつぶやく。猫宮は楽しそうだ。

 

「ああ、星に変わってお仕置きよ、なんてな」

 

「あっ、それってセフィーロスターっすね! 俺、大ファンなんです!」 「うんうん、あれいいよね!」

 

 アニメ好き2名の様子に、苦々しげな舌打ちが速水に聞こえる。流れてくる雑談は、本当にエースパイロットのものなのだろうか……。

 と、滝川がエースの成り方を聞いた。

 

「良い質問だ。それでは君たちに教えてあげよう。エースの条件とは、一に才能、二に才能、三四が無くて九九九まで才能だ。エースパイロットとは、少数の選ばれし天才の世界なのだよ。自分に才能がないからその分、努力をしようなんて考えてはダメだ。そういう奴は、パイロットの世界では十中八九死ぬことになる」

 

「死ぬって、そんな……。やっぱり、荒波司令は特別なんですか……?」

 

「おお、百年に一人の天才だぞ!」

 

「そっすか……」 少し、項垂れる滝川。シミュレーター時代の議論で別格と言われた理由が、心の底から分かったような気がした。

 

「……努力しちゃダメなんですか?」 速水も、思わずそう問うた。

 

「ははは、そう思いつめないでくれ。言葉が足りなかった。俺みたいに危険と紙一重の動きをするエースパイロットは努力云々の次元じゃないのさ。努力をしよう、少しでも強くなってみせようなんて頭のなかだけで思いつめると必ず動きが鈍ってくる。才能がないのだったら、エースの真似をするんじゃなくて、天才の世界とは袂をわかって才能が無いなりのスタイルを見つけないといけないんだ。こんなところでいいかな、善行さん」

 

「才能が無いなりのスタイル……」 なにか思うところがあるのか、滝川が呟いた。

 

「相変わらず独特な言い回しをしますね」 善行の声には苦笑が混じっていた。

 

「それとこれが肝心なことだがな。お前さんたちには長丁場が待っている。神経を張り詰めたままだと危ないぞ。気を楽にして、普段は馬鹿をやることだな。ムーンロードをうろついてナンパしまくるのもよし、ゲーセンに通い詰めるのもよし。とにかく、機体を離れたら戦闘をシャットアウトすることだ。それが出来ずに神経を消耗させ、死んでいった奴らを俺は沢山知っている。だからお前さんたちは馬鹿になれ。以上、アドバイス終了」

 

「ばかに……ばかに……」 

 

 あまりの意外な言葉に、壬生屋は半分呆然とさえしているようだ。他の3名も、今ひとつ消化しきれてない。しかし、そんな思いを他所に瀬戸口の拍手が響く。

 

「ナイスです、荒波千翼長。言ってくれますね」

 

 どちらも軽い物同士、ウマが合うのだろう。善行の硬さをダシに話を転がしている。そんな様子に、色々と困惑するパイロットや善行であった。

 

 

 さて、尚敬校に戻り、早速壬生屋は原に文句を言いに行き、それに猫宮もついていく。しかし、壬生屋の怒りを他所に、原はのらりくらりとかわして、なにやら壬生屋が逃げ出してしまった。それを微妙な表情で見送る猫宮。そして、原の方に振り返る。

 

「……まあ、一面では事実ですけどあれ、追撃中とかじゃなくて通常戦闘中とかだったら結構洒落になりませんからね……?せめて、幻獣の撤退が始まってから『秘密兵器よ!』とかバラすなら分かりますけど……」

 

 猫宮のジト目に、思わず顔を背ける原。

 

「わ、わかったわ……」

 

「ジョークも程々に、場面を選んで下さい。そうすれば文句は言いませんから」

 

 押し黙る原、初対面時から物怖じせずづけづけと言われてきた。

 実は、その美貌や性格からそういう事があまりなかったので打たれ弱かったりする原。

 それに、戦闘中機体の不具合を起こした後ろめたさも有る。

 

「まあ、そんな訳で善行さんから罰則です。茶坊主、1週間の刑です。」 一転、ニコニコして言い出す猫宮。

 

「な、なんですって……!?」

 

『ひっ!?』

 

 よりによって善行からの罰則、しかも茶坊主と言う屈辱的な刑にわなわなと怒る原。そして、その様子を見て怯える整備班一同。

 

「というわけで、皆さん1週間の間はお好きにどうぞ~! あ、原さん、自分機体磨くんでお茶とお茶請けお願いしますね!」

 

『ひいいいっ!?』

 

「ふ、ふふふ……了解よ……!」

 

 戻る途中、善行に煮えたぎった渋すぎる茶を置いていこうと決心し、ドスンドスンと物凄い足音を立てて食堂へと向かう原。整備班たちは、この1週間の無事をそれぞれが信じる何かへ思わず祈るのだった。

 

 

 夕刻、壬生屋は中町公園のベンチにぼんやりと座っていた。初陣から戦闘をいくどもこなしてきたが、まだまだ精神の未熟さが抜け切らない。それに、原さんの気遣いまで無駄にしてしまった……。早く一人前になりたい。そう思っていると、覚えの有る足音が近づいてきた。

 

「あ、猫宮さん……」

 

「や、大丈夫?」 

 

 片手を上げ、いつもの様に人懐っこい笑みを浮かべている猫宮。背中には竹刀を背負っているようだ。

 

「あ、はい、わたくしは大丈夫です……」

 

 とりあえず、そう答えるしか無い壬生屋。思えば、猫宮はこの隊に来た時から常に冷静で、みんなに気を配ってくれている。それに比べてわたくしは……

 

「壬生屋さん、はい、パスっ!」

 

「えっ?」

 

 急に、壬生屋に竹刀が投げられた。それを思わず掴みとると、猫宮が袈裟懸けに竹刀を振り下ろしてきた。とっさに横っ飛びしながらなぎ払う壬生屋。それを猫宮は、体を捻りすれすれで躱す。

 

「いきなり何ですかっ!」

 

「何か悩んでるみたいだし。ならとりあえず、体動かしてみようよ!」

 

 猫宮は笑顔でそういった。ただし、いつもの柔和な笑みではなく、獰猛な戦闘者の笑みだ。

 なぜだか心が高揚した壬生屋。気が付くと、斬りかかっていた。それに合わせ猫宮も打ち合い、弾き、躱し、二人で剣舞を作り上げていく。乾いた音が辺りに響き渡り、壬生屋も知らず知らずに笑みを浮かべる。

 

 隙を伺い、作ろうとし、考え、動き続ける。余計なものは消え失せていた。久々に、自分と打ち合える人間が現れ、嬉しかった。

 

「そうそう、これだよこれ!」

 

 猫宮の袈裟懸けを、受け止め、競り合いが起きる。

 

「これとは?」

 

「今、壬生屋さん余計なこと何も考えてないでしょ!」

 

 はっとした。そうだ、戦いとはこれでいいのだ。

 やがて、どちらからとも無く離れる。そして、壬生屋は深々と礼をした。

 

「猫宮さん、ありがとうございました。またひとつ、何かつかめた気がします」

 

「あはは、どういたしまして」 また、柔和な笑みに戻っていた。

 

「あ、そうそう、流石に原さんのいたずらが過ぎたから、原さんにも罰が下ったよ。刑は茶坊主1週間!」

 

「あらあら、うふふ」 

 

 思わず、壬生屋も微笑んだ。

 

「では……わたくしも原さんに、お茶を入れてもらおうと思います。あ、肩を叩いてもらうのもいいかもしれません」

 

「うん、きっと凄い顔すると思うよ」

 

 笑顔の二人。なお、翌日にその通りの事態になったことは言うまでもないだろう。

 

 

 

 だいぶ日も暮れた頃、猫宮は食堂に居た。遅くまで整備をしている整備員たちのために、夜食を作っていた。鼻歌を歌いつつ、上機嫌にお玉でかき混ぜている。そこへ、原が入ってきた。ちらりと一瞥して、挨拶する猫宮。

 

「あ、原さんお疲れ様です」

 

「ええ、ありがと」 そう言うと、コポコポとお茶を淹れる原。何やら微妙に慣れているように見えるのはご愛嬌だろうか。

 

「貴方に謝ろうと思って。本当は整備テントで謝ろうと思ったんだけど、こんなことさせてくれちゃって」

 

 若干不機嫌そうに言い、猫宮の横に湯のみを置く。猫宮はペコリとお辞儀すると、手を止めてそれにゆっくりと口をつける。

 

「それは原さんも悪いんですよ?」

 

「……もうわかってるわよ。でも、この件は別。貴方の機体の故障、こちらの落ち度よ。……整備班がパーツを変えることを怠った、ね」

 

「ミスは誰にだって有ります。だから、それ前提で自分たちをも戦術を検討してきました」

 

 事実、あの戦闘中、敵が撤退中だったとはいえ何の澱みもなく把握、支援、撤退と一連の動きがスムーズにできたのだ。単なる励ましでないのも明らかだ。

 

「ええ、わかっているわ……。でも、これは意図しなかった、気がつけなかったミスではない。整備班が脚部点検を怠ったことによる明らかな失態。その整備員はクビにするつもりよ」

 

 5121のパイロットたちは、人型戦車に必ず不具合が生じることを前提に戦術を立てている。その気遣いが本当に有りがたかったし、同時にそれを下らないことでさせた新井木に原は言い知れぬ怒りを覚えていた。

 

「ミスは誰にだって有るように、過ちだって誰にでもあります。だから、もう一度、チャンスをあげて下さい」

 

「良いの? 貴方はその一度の過ちで、死ぬかも知れなかったのよ?」

 

「まだ、生きてますし。それに、それ言うなら原さんだってあんなことしちゃいましたし」

 

「うっ……」

 

 そう言って笑う猫宮に、原は何も言い返せないのだった。

 

 

 翌日の昼休み、猫宮は整備テントの中で点検をしていた。狩谷が加藤と一緒に病院へ行っているので、その代わりにちょっとした整備の手伝いだ。4番機の前で、コンソールを弄る猫宮。と、そこへ恐る恐るといった様子で新井木が現れる。猫宮は気が付かないふりをして、チェックを続けている。

 

「猫宮君……」

 

 と、少しした後、しょんぼりした新井木が出てきた。

 

「ん、何……?」

 

 猫宮が向き直ると、新井木はもじもじと地面に目を落とした。近づこうかどうか、迷ってるように見える。

 

「その……僕取り返しのないことしちゃって。原さんに首だって言われたんだけど、転属する前に謝っておこうと思って。ごめんなさい。僕、仕事、甘く見てた」

 

 謝る内に、ぐずぐずとすすり泣く新井木。まったく、こうなると男は弱いってのに……

 猫宮は近づくと、新井木の頭にぽんっと手をおいて言った。

 

「もう、手を抜かない?」

 

「う、うん、転属しちゃうけど、もう、二度と、手は抜かない……!」

 

「そっか。じゃ、もう良いよ」

 

「だ、だめ、僕が気にするの。僕、何をやっても上手く行かなくて。一生懸命やってもバスケ部ではずっと補欠で、戦車兵にもなれなくて、整備学校でも腕の良い人、回りに沢山居て……」

 

 新井木は泣きじゃくった。

 

「大丈夫、僕達まだ学生だし、きっといい方向に変われるから。原さんからもお願いされたしね」

 

「は、原さんが……?」

 

「うん。この通り謝るから、新井木さんにもう一度チャンスを与えてって。だから、大丈夫」

 

 そう言って頭をポンポンすると、新井木の鳴き声がひときわ激しくなった。

 やれやれと猫宮が苦笑して回りを見ると、整備員たちが面白がってこちらを眺めていた。1組メンバーも混じっている。

 

「はっはっは、猫宮、随分な色男ばいね」

 

 そう中村に言われ、肩をすくめる猫宮。

 

「う、うええ、み、みんなも、ご、ごめんなさい……」

 

 泣きながら回りのみんなに謝る新井木。

 

「まったく。次の手抜きは許しませんよ」 と、不機嫌そうな顔で言う森。

 

「へっへっへ、次からはちゃんと仕事しろよー!」 茶化す滝川。

 

「で、それは良いとして罰はどうしますぅ? やはり丸坊主の系ですかぁ?」

 

「ひ、ひっ!?」

 

「やめなさいこのバカ」

 

 丸坊主を要求する岩田に一括する原。

 

「うーん、そうですね……じゃあ、茶坊主……も今も似たようなものだし。あ、そうだ!」

 

 ぽんっと手を打つ猫宮。

 

「な、なに……?」 泣きながら何だか嫌な予感がする新井木。

 

「茶坊主の刑だけど、その間同じ茶坊主の原さんを君づけ、もしくは呼び捨てで、ヒエラルキーは新井木さんが上。で、二人に仕事が頼まれたら命令して原さんに押し付けること。『おい、原。ちゃんとお茶用意しておけよ』って感じに」

 

「え、ええええええっ!?」 「なんですって……!?」

 

 衝撃のあまり思わず涙も止まる新井木、そしてとんでもない表情をする原。

 

「そ、そそっそ、それだけは止めてえええええっ!?」

 

「そうしないと、罰にならないでしょ! じゃ、整備員の皆さんもよろしくっ!」

 

 笑顔でみんなに言う猫宮。そして、悲鳴を上げる整備員達。

 

 後に、この1週間は5121の黒歴史として闇から闇へと葬られるのであった……。

 

 

 

 

――以下、どうでもいいおまけ――

 

 

 黒森峰との訓練が終わり、尚敬校へと帰還するロボ。そして、仕事が終わった後またひと目の付かないところで4人が集まった。

 

「それで、どうだったか? 何か収穫はあったかいね?」

 

 あまり期待していない様子でバトラーが問う。まあ1回目だし仕方ないだろうといった風だ。バットとタイガーも同様である。

 

「あ、あの、これ…………」

 

 そんな様子にロボは、恐る恐る、厳重に封をした袋を、かばんの奥底から取り出す。

 

「なっ……」 「ま、まさか……!?」 「ノオオオオオオオッ!?」

 

「え、えっと……な、何か、貰えちゃった……」

 

 封から取り出されたるは、純白のほのかな香りが漂う靴下。これは、3日物の価値は有るだろうか……。そして、かすかに綻んだ踝の位置。

 

「な、なんと、コレは……!?」 タイガーは衝撃のあまり思わず駆け寄った。他二人も同様である。

 

「ふ、ふおおおおお!?」 「い、良いっスゴクイイイイイイイイッ!」

 

「こ、これでいいのか?」

 

『良くやった!』

 

 ロボの声に、3人の声がハモる。

 

「ま、まさかこんなに早く結果を出すとは……ソックスロボ、恐るべし……」

 

 元々金で誘われ、あまり期待もされていなかったハンターである。が、今回のことでロボ評価が30段位跳ね上がった。

 

「ふふふ、素晴らしい、なんとも玄妙な香り、この踝のほころび具合……では私にくれれば報酬はこれで……」

 

「のおおおおおおっ! ダメですっ! それは私のですぅ!」

 

「しゃらしかっ! それは俺のばい!」

 

 ハンターが3人、ソックスは1足。 問題です。この状況でソックスハンターは協調できるでしょうか。答え:無理。

 

 途端に壮絶な殴り合いが発生した。各々の懐からソックスを取り出し、己の顔に持っていく3人。一瞬表情がトリップした後、動きが変わった。

 人間を超えた、何だかマリオとダンテとエツィオを足して4で掛けたような勢いで動き回る3人。そしてそれを呆然と見ているロボ。

 

「じゃ、じゃあ、俺はこれ置いてくから、後で報酬頼むな……」

 

 そう言うと、滝川は隅の方へキチンと畳んだソックスを置いて、逃げ出した。

 

 残された3人はハリウッド映画とジャッキーチェンの映画とチャック・ノリスとセガールを足したような一大巨編を作り上げられる動きで暴れまわっている。

 

「ソックス、か……あの子、可愛かったなぁ……」

 

 こうしてまた新たなるステージへ進んだソックスロボ、そして闘いを続ける3人の明日はどっちだ!?

 

 

 

 終われ! 本当に終われ……!

 

 

 

 

 




……どうして人はソックスを書かざるをえないんだろう……

短編が出るとしたらどんな話が良い?

  • 女の子達とのラブコメが見たいんだ
  • 男連中とのバカ話が見たいんだ
  • 九州で出会った学兵たちの話
  • 大人の兵隊たちとのあれこれ
  • 5121含んだ善行戦隊の話

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