ガンパレード・マーチ episode OVERS   作:両生金魚

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僕達ができた事

 朝、猫宮はもう何度目かもわからないほどのサボりである。理由は、朝早くに北本特殊金属に行って、完成したパーツを受け取るためである。戦力の増強は、早ければ早いほどいい。そう思うと、猫宮は気持ち早くトラックを走らせた。

 北本特殊金属では、既に士魂号に取り付ける各種弾倉などが出来上がっていた。金は前払してあるので、礼をして積みこむ猫宮。心なしか、運ぶ足取りが軽かった。

 

 

「それで、これがそのパーツね……随分と贅沢な仕様ね。一体幾らかかったのかしら?」

 

「いや~ははは、かなりの額が……」

 

 呆れ半分な原の言葉に、猫宮は苦笑するしか無い。既に整備班には話を通してあったが、やはり原は一角の人物である。一目見ただけで特注の給弾装置やら固定具の頑丈さを見て取った。

 

「まあ良いわ。火器管制との同期も君がやったみたいだし……とりあえず、どう取り付けるのかしら?」

 

「4号機の右手にグレネードランチャーを、左手には94式を。他は……希望次第ですかね?」

 

 何時出撃が出来るかわからない現在、急に新造武器をすべての機体に取り付けるのはやはり不安が大きい。そこで、とりあえず希望を取ることにした。

 

「あ、あの、1号機の両手に重機関銃を是非お願いしたいのですが……」

 

「1号機に!?」

 

 壬生屋の希望に、猫宮がビックリして思わず叫んでしまった。他のメンバーも、目をパチクリさせている。

 

「はい。この間の戦闘で……もう少し小型幻獣を倒せれば犠牲が少なくなったのではないかと思いまして……」

 

 壬生屋もまた、突撃だけでなく様々なスタイルを模索しているようだ。

 

「腕につけるから重量バランス変わるけど、大丈夫?」

 

「ふふっ、壬生屋の剣術は戦場の剣術、手甲を付けて戦うのも想定の内です」

 

 そう壬生屋が微笑むと、猫宮や原も頷いた。

 

「そう、じゃあ1番機には94式を2つ付けておくわね」 

 

 心なしか、原も嬉しそうだ。設置が決まった機体の裏では、それぞれの整備班がキビキビと動いて取り付け作業を始めていた。

 

「ふむ、肩にでも付けられるとよかったのだがな……」 

 

 芝村もカタログを見て、どの装備をつけるか悩んでいるが、少々設置場所を考えているようだ。

 

「それも考えたんだけどね、そうすると固定するだけじゃなくて砲身移動させたりしないと行けなかったりで……相当の開発コストかかるんだよね。これなら、固定するだけで済むんだけど」

 

「なるほど、ここでもコストか。しかし、有用ならばその他オプション装備が開発できるか上に具申してみよう」

 

「うん、お願い」 

 

 実際に、肩に取り付ける砲戦仕様は次世代機では凄まじく強力な武装の一つであった。これが前倒しに出来ると相当に楽ができる。

 

「えーと、じゃあ芝村さん、どれを取り付ける?」 速水もカタログを見ながら芝村に聞く。

 

「3番機には専属のガンナーが乗っているからな。グレネードランチャーを2つ装備してみるとしよう」

 

「うん、了解」

 

 3番機も決まる。そうなると、残りは2番機である。

 

「俺は……えーと、どうすっかな……?」

 

「滝川、自信ないなら無理につけなくてもいいよ? 新しい武器だし」

 

「そうは言っても、これ有ると味方を助けやすくなるんだろ? だったら俺も付けたいよ」

 

 そう言った滝川の言葉には決意が有った。初陣で致命的な失敗をやらかさなかったことが、全員にとっていい方向に進んでいるようだ。

 

「じゃあ、12.7mmはどうかな?グレネードランチャーは殺傷半径15メートルもあるから、初めてだと扱いにくいだろうし」

 

「うへっ、やっぱり最初だと不安だよな……。じゃあ原さん、2号器にはガトリングガン2つお願いします」 と、頭を下げる。

 

「やれやれ、これで全機に2つずつ設置。仕事が増えちゃうわね」

 

 微笑みつつ、原は全員へとテキパキと指示を出す。全く新しい装備の設置も、整備班にとってはいい経験なのだ。その一方で、複雑な表情をしているのは善行だ。

 

「……すみません猫宮君。装備の調達まで貴方に任せてしまい……」

 

 何度目だろうか。また、善行は礼を言った。これまで、部隊運用で様々な面で猫宮に助けられてきた。其の不甲斐なさも有ったかもしれない。

 

「いえ、委員長がどれだけ僕らの事を気遣ってくださるかはよく知ってますし。だから、そのお手伝いです」 

 

 そんな善行の礼を、くすっと笑いつつ猫宮は受け止めるのだった。

 

「よし、それでは新しい装備に関する検討会を始める。ついては、パイロットは全員食堂に集合すること」

 

『了解!』 芝村の命令に、パイロット全員の声が唱和した。

 

 

 

 さて、そんな検討会が終わった後食堂の外には意外な人物がいた。芳野である。しかも、片手にはウィスキー瓶だ。

 

「猫宮く~ん……授業あんまり出てないわよねぇ……ごめんねぇ、つまらなくて……」

 

「あっ、いやっ、つまらないとか言うわけでなく!?」

 

 思わずたじろぐ猫宮。彼とて授業には出たいが、やはり戦時中は忙しいのであった。

 

「うんうん、わかってるのよ先生も。戦争で、忙しいんでしょう……えっく」

 

 ふらふらしたと思ったら、今度は涙を浮かべる。流石に困惑するパイロット一同。そこへ、本田がやってきた。

 

「よ、芳野先生、皆分かってますから、大丈夫ですって!」

 

 こちらに頭を下げつつ芳野を回収する本田。珍しい物に更に困惑するパイロットたち。

 

 

「……芳野先生、大丈夫かな?」 

 

 速水がポツリと呟いた。皆、優しさ故だということはよく分かっていた。

 

「……私が大丈夫でなくさせぬ」

 

「うん、お願い」 「ああ、頼む」 「是非、お願いします」

 

 芝村がそう呟くと、他のメンバーの声が重なる。皆にとっても、自分たちのことを一番に考えてくれる、優しすぎる大事な先生だったのだ。

 しかし、そんな空気を吹き飛ばすように召集がかかる。

 

 

『201V1、201V1、全兵員は現時点を持って作業を中止、すみやかに集合せよ』

 

「ッ!全員、急ぐぞ!」

 

『了解!』作業、終わってるだろうし、実戦で試さないとね!」

 

 全員が駆け出した。そして、出撃する全員を、教師一同が敬礼しながら見送ってくれたのだ。

 

 

 

 5121小隊の車両群は防衛ラインに近付いていた。東西を山に挟まれた地形で中央を川が流れ、東西4,5キロ、南北に細長く平地が広がっている。県道の両側には軒の低い住宅が立ち並び、枯れ田が散在している。この国のありふれた、市街地化している農村の風景だった。

 

「視察団ね……」

 

「ふん、下らぬ」

 

 善行の会話を拾いつつ、芝村が言った。命懸けで戦っている兵士より優先すべき事象など、民間人の命位なものだ。

 

「変なことにならないと良いけど……」

 

「まあ、流石に前線の指揮に文句つけてくることはないでしょ」

 

 速水の不安に猫宮が答えつつ、2,3,4号機は歩きながら敬礼などをして兵たちを喜ばせていた。遠くに砲声が聞こえている。

 

 

「それでは作戦を説明します。現在、戦線は極めて流動的な状態にあり、敵味方が入り乱れている状況です。右手の方角、平野に張り出した尾根の突端に注目して下さい。白い建物が見えますね。小学校です。朝方からの戦闘で急速に戦線が下がった結果、現在、およそ100人の教員、生徒が取り残されています。戦車随伴歩兵の小隊が護衛についていますが、敵中を突破するには心許ない状況です。全機、ただちに小学校に向かい、救出をお願いします」

 

「なんだと……? それは戦区司令部の失態ではないか?」 

 

 芝村が愕然として口を開いた。

 

 前線近くの小学校が授業を続けていたこと、もっと早く救出できなかったこと、疑問は様々だったがこれは戦区司令部スタッフ全てが更迭されかねない大失態だった。

 

「ええ……。精神衛生のためにあと少し説明をしましょう。今しがた司令部付きの将校を問い詰めた所、戦区司令部は、中央からの視察団を小学校に案内する予定だったそうで。安全は保証しますからと強引に学校を再開させたらしいのです」

 

「くっ……!」 芝村が歯噛みしてコンソールに拳を叩きつけた。

 

「……変なことになっちまったな」 「うん……」 滝川や速水も呆然として呟いた。

 

「そんな、呆然としている場合ではありません! 一刻もはやく助けなければ!」 

 

 壬生屋が叫んだ。その通りだ。

 

「ええ、とにかく生徒たちの救出を急いで下さい。小学校までのルートに有力な敵はいませんが、残念ながら校内の状況は不明のため、今回は指揮車からのオペレーションはありません」

 

 通信が切れた。小学校までは距離500メートル、一進一退の攻防が繰り返され味方の砲弾にも注意が必要だ。

 

「県道を200メートル南へ。それから村道に入るよ。そこからは上り坂になっている」

 

「ふむ、全機聞いてのとおりだ。我々が背後を警戒する。先頭は2番機、続いて4番機1番機3番機と一列になって行くぞ。とにかく小学校まで駆け抜けろ」

 

 芝村が通信を送ると、壬生屋が返事をよこした。

 

「あの……私が先頭を切ったほうがよろしいのでは? 待ち伏せ攻撃があった場合、軽装甲では大損害を受ける可能性があります」

 

 壬生屋は盾の役目を引き受けると言っている。

 

「待ってくれよ、俺なら大丈夫だぜ、後ろには頼りになる味方が3機も居るしな。んで、安全だと思ったらダッシュするからさ」

 

「了解ですっ!では、先陣はお任せしますっ!」

 

「うん、滝川、すぐ後ろでフォローするから行こう!」

 

 と、そこへスカウト組からも通信が来た。

 

「来須だ。俺と若宮も小学校に向かう」

 

「ふむ。今のやり取りは聞いていたか? 意見を」 芝村は短く言った。

 

「特に無いが、まず、俺と若宮を運んで欲しい。小学校に到着したら、俺達は生徒の避難誘導に専念する」

 

「了解、じゃあ、二人は4番機が運ぶよ。重量増加も平気だしね!」

 

 こうして、4機の士魂号は小学校に向かった。途中で戦闘の跡も有ったが敵は小型しかおらず、腕部装備の良い練習台になった。

 

「へへっ、便利だなこれ」 「うん、いい感じだね」とは滝川、猫宮の言。

 

 

 敵を倒しつつ急ぎ小学校に着くとすぐに通信を送った。

 

「こちら5121独立駆逐戦車小隊、芝村百翼長である。責任者はいるか?」

 

「水俣082独立機関銃小隊、橋爪十翼長だ。といっても、ここには俺の他、3人しか生き残ってねぇけどなー」

 

 隊長は戦死したのだろう、十翼長が応答してきた。

 

「これより救出に向かう。どうだ、そこから我々が見えるか?」

 

「おう、見える見える! かなり遠くからだって見えるぜ。今は講堂に全員収容している。校舎3階、東の角にある一画だ。どうやらゴブの奴らが校内をうろついているらしくて、とてもじゃないが外には出られねぇ。……すまんが迎えに来てくれ」

 

「了解した」

 

 小学校近くは鬱蒼とした常緑樹の藪の為、4機の士魂号をそれぞれサーモセンサーと通常視界に分け監視する。

 

「っ! 左右の茂みに熱源反応! 小型多数!」

 

「そ、そんな、わたしのセンサーには何もっ!?」

 

「壬生屋さんのサーモセンサーは故障してるみたいだね、有視界に切り替えて!代わりに小学校付近を見はって!」

 

「りょ、了解です!」

 

 そう言うと、猫宮は右腕の40mmグレネードランチャーで藪をなぎ払う。数発打ち込むと、広範囲の敵が次々と消滅していった。

 

「お、おい、交代したほうが良いか!?」

 

「ああ、2番機はサーモセンサーを起動させて1番機と交代、敵を薙ぎ払ってくれ!」

 

「へへっ、了解! 両腕武器の威力、とくと味わえっ!」

 

 グレネードランチャーの他、ガトリングの弾も加わり次々と敵が殲滅されていく。帰り道にも備えて、猫宮は周辺の藪もついでに薙ぎ払っていた。

 

 

「状況は?」

 

「敵影、無し」 「こっちもなしだぜ」 「3番機のセンサーにも映ってないね」

 

 しばしの戦闘のあと、敵影は消えたようだ。9mの巨人に対しては、小型幻獣などやはり箸にも棒にもかからない。

 

「各機、気を緩めるな。敵は既に士魂号の存在に気がついた。となれば、それなりの増援を呼ぶはずだ」

 

『了解』

 

「校庭の敵はガトリング装備の1,2番機でお願い!3,4番機は外周で時間を稼ぐ!」

 

「了解です!」 「任せとけ!」

 

 1,2番機は武装を各自使い分け、校庭の敵を殲滅し、校舎内部では来須と若宮がゴブを掃討していた。

 

「よし、各機救出を開始せよ!」

 

「こちら若宮、どうやら校舎に穴が空いてそこから敵が侵入しているらしい。このままじゃキリがないぞ!」

 

「くっ、なんということだ……」

 

 芝村が歯噛みする横で、速水も必死に頭を働かせていた。中からじゃダメだ、なら、外から――と、速水の脳裏に漠然としたイメージが浮かぶ。

 

「ねえ、芝村さん。中がダメなら外から助けられないかな」

 

 しばしの沈黙、そしてぼそりと芝村が口を開いた。

 

「今、なんと言った?」

 

「だから、外から助けられないかなって。士魂号の手のひらに子供なら10人は載せられるよ。結構動きも素早いから、校庭に下ろすまで10分もかからないと思う」

 

「正解だっ! 厚志、まず講堂の壁を破壊しろっ!」

 

「その前に、通信を送らないと」

 

「むろんだ。さすがはわたしの……友だ」

 

 最後の言葉は、速水には聞き取れなかった。

 

 その3分後、校内から射撃音が響き渡る中、4番機は校舎の壁を破壊した。グレネードランチャーを装備している3,4号機に外周の見張りを任せ、1,2番機が交互に残された子どもたちを下ろしていく。作業は3分足らずで終わった。最後に地面に降り立った3人の戦車随伴歩兵は、挨拶するまもなく警戒態勢へ移る。

 そして、そんな中でも責任者を出せと喚く中年の男は、橋爪に脅されて顔を真っ青にして従った。

 

「よし、4方を士魂号で囲んで降りるぞ。先導は滝川、左右に1番機と3番機、後ろは猫宮が。そこなら即応できるだろう」

 

「了解、任せといて!」 猫宮が気合を入れて請け負う。自分もその通りにしようと思っていたからだ。

 

「よし、3番機には俺が乗ろう。グレネードランチャーと20mmだけじゃ弾幕も張りにくいだろう」

 

「頼む」

 

 そう言うと、速水は素早く若宮を肩に載せた。

 こうして、程なくこの奇妙な集団は山を降りることになった。藪を切り倒し木を蹴り倒し、進んでいくがこの轟音や閃光である。子どもたちが泣き出したり立ちすくんでしまうのも無理はなかった。必然、足が止まる。

 

「ねえ、滝川。アニメの主題歌を歌ったら?」 速水は自分の判断で滝川に通信を送った。

 

「アニメの……?」

 

「歌えば子どもたち、少しは落ち着くんじゃない? とにかく拡声器をONにしてよ。僕も付き合うからさ。「あ、自分もっ!」 歌は子供向けのやつね。黄昏のポンチッチなんてどう?」

 

 そして、速水と猫宮の拡声器のスイッチがONになる。ほどなく、滝川の自棄をおこした声が辺りに響き渡った。

 

「そ、それじゃあ、そこでめそめそしているボーイズ・アンド・ギャルズ。アニソン大王の兄ちゃんが特別に歌ってやるからな」

 

 滝川は見かけによらず低い声で、速水は高い声で、猫宮はその中間な声で、顔を真赤にして歌い出す。最も、猫宮はノリノリであったが。

 

「ポンチー、ポンチー、ポンチッチー、みんなで仲良くポンチッチー♪」

 

 速水も滝川も歌っているうちに声がどんどん大きくなり、速水は後部座席の芝村からおもいっきり蹴られた。しかし、歌を止める訳にはいかない。みれば、子どもたちを護衛している随伴歩兵も、そして教師たちも歌い出していた。皆、それぞれが最善を尽くしていた。そして、教師が中心になり、子どもたちの声も唱和する。

 

「それゆけ強いぞポンチッチー♪」

 

 滝川は子供の頃に戻ったように、猫宮は子供のように歌っていた。

 

 藪が途切れ、坂道が終わった。幸運にも敵の襲撃はなく、後は一直線だ。そして、出迎えは友軍の砲兵隊に戦車小隊のおまけ付きの豪華版、安心して帰るだけだ。

 この奇妙な集団は、戦場の中でなんとも微笑ましい、しかし生暖かい表情で迎えられたのだ。この500メートルは、5121小隊のパイロットで、人生で最も長い500メートルだっただろう。

 

 パイロット5人に休憩を命じられ、滝川と猫宮と速水アスファルトに寝転がっていた。芝村はあぐら、壬生屋は正座である。

 

「ふひー、歌いすぎて喉がいてえ。けどよ、ポンチッチはねえだろ、ポンチッチは」

 

 滝川は隣で寝そべる速水にパンチを喰らわせる真似をする。猫宮も笑いながらそれに倣う。

 

「なんとなくね。ほら、滝川の好きなロボットアニメって小学校高学年以上じゃない? 小さな子にはポンチッチが良いと思ったんだ。アレだったらみんな知ってるしさ」

 

「いきなり皆さんが歌い出した時は驚きました。どうかしちゃったんじゃないかと。けれど、楽しそうでしたね」

 

 壬生屋はクスクス笑いながら言った。

 

「そなたも役に立つことがある。発見であった」

 

 芝村は大真面目である。あれは滝川に助けられた――滝川でなくてはダメだった件だ。滝川でなくては、ああも子供の心を惹きつけるようには歌えまい。

 

「けど、僕達は運が良かったね。僕達の教官はあんな風じゃ無いから」

 

 速水の言うことを察して、全員がしみじみと頷いた。第62戦車学校の教師は、皆心から生徒のことを考えてくれているのだ。

 

 と、そこに中年の男とジャージの女性がやってきて、中年の男は早々に憲兵に連れられて行ったが、女性は子供を3人、体育館に置いて来てしまったという。

 

 怒る芝村に、横から止めるための手が伸びる。

 

「この人も苦しんでるんだよ」

 

「たわけ。苦しんだからどうだというのだ? 3人だぞ! 3人の子供が……」

 

「まだ生きてるかもしれないよ」

 

 速水の言葉にハッとなった。ふと横を見ると、猫宮も滝川も壬生屋も、自分の機体に向かおうとしていた。

 

「そなたの言うとおりだ、行こう」

 

「そうこなくっちゃ!」 「俺も付き合うぜ!」 「私もです!」

 

 他のパイロットも全員賛同する。

 

「待ちなさい。今、あなた方を失うわけにはいきません」

 

 善行が前に立ちはだかった。メガネを光らせ、真剣な面持ちだ。

 

「じきに友軍の反攻が始まります。それまで待ちなさい。……どうあっても理性を働かせられないというのなら、司令権限として待機を命じます」

 

「断る」

 

 芝村のあっさりとした物言いに、善行は唖然とした。断るだと? 我々は、軍人なのだぞ?

 

「断ると言われても困ります。若宮君、パイロットたち全員を拘束しなさい!」

 

「何があったのですか?」 呼びつけられて、若宮がどこからかのっそりと姿を表した。若宮は、善行の身辺を警護する役目も担っていた。

 

「わたしは彼らを失いたくないのです。とにかく拘束を――」

 

 命じられて若宮は全員の前に立つ。バツの悪そうな顔だ。

 

「……俺、ちょっとトイレに」

 

「私、ちょっとお茶を……」

 

 すすすっと、あっという間に二人のパイロットがいなくなった。出鼻を完全にくじかれた若宮。唖然とする善行。

 

「全く、なんて連中だ」

 

 どこからか瀬戸口もやってきたが、その顔は笑っている。

 

「それで、作戦はどうします司令?」 にやりと善行に笑いかける瀬戸口。

 

「だからわたしは……」

 

「ええ、分かっていますよ。5121小隊の意地を見せてやりましょう。なあ、若宮?」

 

 善行と瀬戸口を見比べ、そしてパイロットたちを見て、若宮は忌々しげに「馬鹿野郎」とつぶやいた。

 

「こいつらはもはや軍隊ではありません。ならずものの集団であります。わたしは断固として――」

 

 いいながらも若宮は困惑して口をつぐんだ。

 

「まあまあ若宮さん、皆、最初からこんな感じだったじゃないですか」クスクスとしながら猫宮は何のフォローにもなってないフォローを入れる。

 

 不意に、若宮の肩を掴む者があった。来須である。その口元にも笑みが浮かんでいた。

 

「……しかたがない」 

 

 善行は呟いた。空気が和らいだ。若宮はほっと安堵の息をつく。

 

「それじゃ、俺は指揮車で状況を分析しますから」

 

 瀬戸口は東原と手を繋いだまま、背を見せる。東原は、ひまわりのような笑顔で手を降った。

 

「……戻ったら、懲罰フルコースです」

 

「あはは、覚悟のうえですよ」

 

 善行の言葉に、猫宮が笑って答えるのだった。

 

 

「現在、小学校から半径500メートル付近には12体の中型幻獣が確認されている。具体的には――」

 

 士魂号が4機に増えたことで、原作よりも戦力が増えていた。状況を分析する猫宮。

 

「……やっぱり3番機のミサイルが鍵だね。作戦は、3番機を小学校まで運ぶこと。1番機と4番機はまず先行して露払い、2番機は遠距離から援護、そして最後に3番機が突入――と」

 

 即席で作戦を組み立てる猫宮。全員が、その意見に耳を傾ける。

 

「ふむ、その作戦でいいであろうな。委員長、支援は入るか?」

 

 芝村がうなずき、善行に問うた。

 

「他の戦車小隊には善行司令が話をつけた。頭痛の種の中型幻獣を葬る絶好の機会だってな。支援射撃は期待してくれて結構だ」

 

 瀬戸口からの通信が消えると、全員がはやる気持ちを抑えて、作戦行動を開始する。

 

「ミノタウロス発見、参ります!」

 

 一番機は猛然と村道入り口のミノタウロスに襲いかかる。敵の体勢が整わぬ内に一閃、そして体が揺らいだところに逆手の手のガトリングを腹部に叩き込んで挑発する。傷つきながらも距離を詰め突進の隙を図る敵を挑発するように、ジリジリと防衛ラインに後ずさる。

 不意に、横にナーガが現れた。しかし、ちらりと一瞥すると、片手を向けガトリングで蹴散らした。

 

「これは……凄いです」 壬生屋は、確実に何かを掴みつつ有るようだ。

 

 

「ゴルゴーン発見、攻撃っと!」

 

 その頃、滝川は外周のゴルゴーンへジャイアントバズーカを放っていた。シミュレーションで何度も散々やった動きである。実戦でもよどみなく命中させていた。

 

「滝川機、ゴルゴーン1撃破!」 指揮車からも確認の通信が入る。

 

「ナイス、滝川!」

 

 ゴルゴーンが倒れたことにより発生した戦場の空白に、4番機が滑り込み、ジャイアントアサルトとグレネードランチャーの2刀流で左右の敵を挑発する。一斉に、周りの敵が4番機に注目した。そして攻撃が来る前に、さっと防衛ライン側へとジリジリと下がる。

 一方、一番機は支援砲撃を受けてよろけたミノタウロスに一閃、とどめを刺していた。

 

「3番機、道は開いた!今!」

 

『了解!』

 

 ジャイアントアサルトを撃ちながら敵をよろめかせ、芝村は残った中型幻獣及び小型の幻獣溜まりを急速にロックする。24発のミサイルが、背から発射された。次々と突き刺さっていくミサイル、そして誘爆を起こす幻獣たち。傷ついた中型幻獣が、すべて消える。

 

「よし、中型は片付けた!来須、若宮、頼む!」

 

 そう行って3番機が二人を下ろすと、すごい勢いで体育館に駆け出していった。

 他3機は、校舎付近の小型を掃討している。少しすると、若宮から通信が入った。

 

「子供を救出した。3人共、無事だ」

 

「良かった……」 速水の安堵の声がおもわず漏れた。

 

「速水よ、安心するのは早いぞ。子どもたちを安全圏に運ばねば」

 

 速水の声に芝村が答える。

 

「よし、じゃあ自分が手のひらに乗っけて運ぶ!援護、よろしく」

 

「落とすなよ~!」 「お願いします!」

 

 スピードが命だ。4番機の機体に子どもたちを乗っけて、3番機と1番機の肩にはそれぞれ若宮と来須を。移動するのを4体の巨人にし、戦場を駆け抜けた。

 援護射撃も飛んでくる中、駆け抜ける士魂号たち。こうして、この無謀とも思える救出作戦は一切の損害も出さずに成功したのだった。

 友軍からの歓声を受け、帰還する4機の士魂号。そのコクピットの中、速水は知らず知らずのうちに涙を流していた。それを、優しい目で見つめる芝村。

 

「速水厚志」

 

「なに、芝村さん?」

 

「これからは私の事を舞と呼ぶが良い。手下も卒業だ。そなたはわたしの友だ。わたしはそなたを守ることにする。そなたもわたしを――守ってくれるか?」

 

「もちろんさ」

 

 速水は弾んだ声で答えた。芝村舞と居ると、精神が浄化される。5121小隊の皆と居ると、心が暖かくなる。それが、速水には、とても、とても嬉しかったのだ。

 

「ねえ、舞」

 

「なんだ?」

 

「すこし、泣くよ」

 

「ああ、存分に泣くといい」

 

 速水は、目元を拭おうとせず、涙が溢れ、流れ出るに任せた。嗚咽をこらえたが、やがて耐え切れずに大泣きに泣き始めた。

 

 自分は、誰かを守れたのだ。居場所が有るのだ。認められたのだ。――その他、様々な感情が胸に沸き起こる。しかし、どれも、悪いものでは決して無かったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【悲報】 5121小隊、かなり強化される。

 戦術は既に固まってきた感がありますね……原作でも、こうなるとちょっと戦闘描写が硬直化してくるのですが、飽きずに見てくださったら幸いです

短編が出るとしたらどんな話が良い?

  • 女の子達とのラブコメが見たいんだ
  • 男連中とのバカ話が見たいんだ
  • 九州で出会った学兵たちの話
  • 大人の兵隊たちとのあれこれ
  • 5121含んだ善行戦隊の話

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