桜花妖々録   作:秋風とも

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第72話「そして、これから」

 

 瞼越しに、温かな陽光を感じ取る事が出来たような気がした。

 程よい気怠さ。眠りの世界へと落ちていた意識が、ゆっくりと引き上げられてゆくかのような感覚。それもそのはず。何せ自分は今の今まで眠っていたのだから。

 自然とこうして目が覚め始めたという事は、生前の自分はこのくらいの時間帯に起床していたのだろうか。既に亡霊となってしまっているのに普通に寝起きしている時点でおかしな感覚だが、記憶喪失という特異性がその感覚を更に加速させているようにも感じる。本当に、奇妙な感覚だ。

 

(……朝、なのか?)

 

 微睡みの中、進一は思案する。

 虫の鳴き声や小鳥の囀りも聞こえない静かな朝である。周囲は糸を張ったような静寂に包まれており、まるで自分だけが何もない空間に放り込まれてしまったかのような感覚さえも覚えてしまう。

 流石は冥界。基本的には物言わぬ幽霊しか存在しないだけあって、物理的な騒音とは全くの無縁な世界である。四六時中ここまで静かだと、流石の進一でも時間間隔が狂ってしまいそうだ。

 

(どうするかな……)

 

 ぼんやりとしていて上手く思考が働かないまま、進一は考える。

 規則正しい生活リズムを保つには、ここで起床してしまう事が吉なのだろう。けれど頭ではそう分かっていても、気怠さを覚えているこの体ではどうにもそんな気になれない。

 というか、自分は既に亡霊じゃないか。だったら今更健康的な生活を志した所で、文字通り後の祭りのように思える。それならば、もう少し寝過ごしてしまっても問題はないのではないか。

 

(…………)

 

 それは正しく悪魔の誘惑。けれど今の進一にとって、それは甘美な誘惑でしかない。昨日はあまりにも濃厚な一日だった所為か、疲れが溜まっているのである。故に例え半ば目が覚めているのだとしても、このまま起床する気には中々なれそうにない。

 亡霊の癖に疲労などするのか等という疑問の声が飛んできそうだが、実際疲労感を覚えてしまったのだから仕方ない。こればっかりは幾ら進一でも抗えないのである。このままこの睡眠欲に身を任せ、浮上しかけた意識を再び眠りへと沈ませてゆく事に──。

 

「進一さーん。起きてますかー?」

 

 ──しようとしたその時。不意に、部屋の襖が開け放たれるような音が聞こえた。

 次いで彼の耳に届くのは、鈴を転がしたような少女の声。微睡みの中の意識は相も変わらずはっきりとしないが、それでも声を聴くだけでその主が誰なのか瞬時に理解する事が出来た。

 この声。間違いなく魂魄妖夢のものである。

 

「……進一さん?」

 

 小首でも傾げてそうな声調で、妖夢が再びその名を呼ぶ。生真面目な彼女の事だ。おそらく未だ眠りこける進一の事を起こしに来てくれたのだろうが、生憎それには答えられそうにない。

 だって眠いのだから、仕方がないじゃないか。別にもう少し寝ていても罰は当たらないはずである。

 もぞもぞと寝返りを打ち、進一は襖に背を向けるような体勢となる。頭の上から掛け布団を被り、いよいよ二度寝を決め込んでしまった。

 

「……あの、ひょっとしてまだ寝てるんですか?」

 

 そんな声が聞こえた後に、今度はパタパタと足音が近づいてくる。一声かけても進一が特に反応も見せなかったから、心配して様子を見に来てくれたのだろう。彼女なら十分に有り得る事だ。

 

「え、えっと……。進一、さん? 寝て、るん……です、よね……?」

 

 おずおずと言った様子で、もう一度妖夢が声をかけてくる。流石に少し目を覚ましかけたが、けれどそれも一瞬だけ。結局は微睡みを漂うだけに留まり、覚醒には至らない。

 ──というか、今更だがこの状況は仮にも男が寝泊まりする部屋に女の子が一人で入ってきたという事になるのだろうか。それはそれで中々に不用心というか無防備が過ぎるような気もするが、これも進一への信頼の現れなのだろう。だとすると何だかちょっぴり嬉しい。記憶を失った今の自分の事さえも信じてくれるというのなら、今の進一にとってこれ以上にありがたい事は──。

 

「……えいっ」

「…………ッ!?」

 

 不意に可愛らしい掛け声が聞こえてきたと思ったら、もぞりと背中で何かが蠢くような感覚を覚えた。

 瞬間、進一の意識が一気に現実へと引き上げられる。それでも頭の中は未だにぼんやりとしたままだが、そんな状態でも流石に今の状況を分析する事くらいなら出来る。

 寝返りを打ち、敷布団の隅っこで丸まっていた進一。そんな敷布団の大きく空いていたはずのスペースに、今は間違いなく()()の気配を感じ取る事が出来る。

 耳を澄まさなければ聞き逃してしまう程に小さな息遣い。そしてほんのりと伝わる温かい体温。──ここまで分析してしまえば、最早これ以上の回りくどい思考など不要だろう。

 

 まぁ、有り体に言ってしまえば。

 眠っていたはずの進一の布団に、魂魄妖夢が潜り込んで来た訳である。

 

(……はい?)

 

 いや、だからと言って冷静に受け入れられる状況ではあるまい。幾ら何でも、あの妖夢がいきなり布団の中に侵入して来るなどとどうして想像できよう。完全に不意を突かれた形になる。岡崎進一、一生の不覚である。もう死んでるけど。

 そんなこんなで進一の心境が穏やかじゃない状態になりつつある中、追撃と言わんばかりに背中の少女が小言を漏らす事になるのだが──。

 

「ちょ、ちょっとくらい、良いよね……?」

(…………)

 

 ──いや何を言っちゃってるんだこの少女は。ちょっとって何だ? 良いよねって何なんだ? それは一体、何に対する同意なんだ? と言うか何を勝手に自己完結してしまっているんだ彼女は。

 

「えへへ、ほんのりと温かい……。それに、進一さんの匂いがするなぁ……」

(…………っ)

 

 ──ヤバイ。これはヤバイ。何がヤバいって、色々ヤバイ。そもそも妖夢はこんなキャラだったのだろうか? 比較的控えめで大人しい少女かと思っていたのに、思いの外大胆である。

 そう──思いの外大胆に、彼女は自分の欲望を曝け出している。一人妙なフェティシズムに目覚めつつある。これ以上先に進んだら、いよいよもって妖夢は後戻り出来なくなってしまうだろう。それは駄目だ。

 

 どうする。一体どうする、岡崎進一。一番良いのは適当なタイミングで起きてしまう事なのだが、その適当なタイミングとやらが中々つかめない。

 露骨なタイミングで起きてしまうと妖夢にも恥をかかせてしまうだろうし、ここは丁度今起きたような雰囲気で身体を起こすのがベストだろう。ついでに妖夢が何をしていたのかも気づかなかった()()も出来れば尚良い。そんな演技を抜群のタイミングで行う事が出来れば、進一はこの窮地を最善の形で脱する事が出来るだろう。

 ──何度も言うが、そのタイミングとやらが中々見つからないのが問題な訳だが。

 

(……いや、そもそも)

 

 実際問題、根本的な疑問としてなぜ彼女がこんな暴挙に及んだのかが分からない。昨日妖夢からも直接告白された通り、彼女は進一に明確な恋愛感情を抱いている。そしておそらく生前の自分もまた、妖夢に対して特別な感情を抱いていたのだろう。それは断言できる。

 だとするのならば。ひょっとして両想い同士の関係性というヤツは、案外()()()()()なのだろうか。実はこんな風に眠っている相手の布団に潜り込む事など日常茶飯事で、行為そのものに疑問を抱く進一の方がおかしいのだろうか。

 成る程。確かにそう考えると、彼女の取った行動の整合性を説明する事だって──。

 

「…………」

 

 いや無理だ。やっぱり思考が上手く纏まらない。

 どうやら自分は動揺しているらしい。

 

(お、落ち着け……。ここは、冷静に……)

 

 最早四の五の言ってはいられまい。タイミングが掴めないだとか、そんなのは結局口実だ。ビビっているだけだ。

 平静を装って起きるのなら今しかない。これ以上の先延ばしなど無意味だ。

 何事もなかったかのように、ゆっくりと身体を起こす。よし、脳内シミュレーションはばっちりだ。後は、それを実行に移して──。

 

「ちょっと妖夢ー? 進一君まだ起きないのー? 幽々子ったら、そろそろ空腹の限界でこのままじゃ食べ物じゃない物でも口にしちゃいそ、う……で……?」

 

 …………。

 

 いやいやいや。

 次から次へと、一体何なんだ? どうしてこう、絶妙なタイミングで状況に大きな変化が訪れてしまうのだろう。ひょっとしてこれは何らかの意思でも働いているのか? 狙ってやっているのか?

 ──そんな阿呆な事を考えている場合ではない。

 

 今の声。

 

(……ゆ、紫か?)

 

 そういえば進一達の様子が気になるとか何とか言って、昨晩は彼女も白玉楼に泊まったのだった。おそらく空腹の所為で愚図り始めた幽々子を見て妖夢を呼びにきてくれたのだろうけれど、タイミングが悪すぎたとしか言いようがない。

 襖が開く音はしなかった。となると恐らく、今回もあのスキマとやらを使って一気にここまで飛んできたのだろう。それがある意味決定的な仇となった訳だが。

 

「はぁぁぁ……。いっそこのままずっと……。え……? あっ」

 

 ──どうやら妖夢もようやく紫の存在に気付いたらしい。けれども当然、タイミングが遅すぎる。もはや言い開きも出来ないだろう。

 ついでに言うと、進一も行動に移すことができない。ここで身体を起こしたら、事態は間違いなく複雑に拗れる。それこそ収拾がつかなくなる。そんな状況だけは何としてでも避けねばなるまい。これ以上、事態が悪化してしまわぬように。

 

「なっ……な、なななな……!」

 

 ──まぁ、でも。

 

「な、何やっちゃってるの妖夢ぅぅぅぅう!?」

「ひゃわ!? ち、違うんです誤解なんです紫様ぁぁぁぁあ!?」

 

 現時点での状況でも、果たして収拾をつける事が出来るのかどうか。

 

 ばさりと毛布が退けられるような音が聞こえたかと思うと、先程まで背中で感じていた感覚が遠くなってゆく。状況から考えて妖夢が慌てて飛び起きたのだろうけど、だからと言ってこの状況を打破できるとは思えない。

 決定的瞬間。それは既に、紫の脳裏に張り付いて離れなくなっているに違いない。

 

「よ、よ、ようよう妖夢……!? あ、貴方それ……! 進一君が寝ている隙に……! そ、そんなまさか、え、え、えっちな事を……!?」

「し、してません! してませんよ!? 私は別に……! ただ、その、えっと……」

 

 妖夢の語尾がか細くなる。なんだ、その反応は。それでは暗に肯定を示しているみたいじゃないか。──いや、進一が眠っている隙をついてこんな暴挙に及んだのだから、紫の言葉は強ち間違ってはいないのかも知れないのだけれども。

 

「ふ、ふふふふしだらだわ! わ、私は貴方をそんなえっちな子に育てた覚えはありませんッ!!」

「で、ですから、これは、その……! と、というか私はいつの間に紫様に育てられた事になってるんですか!?」

 

 紫の言動が支離滅裂になりつつある。

 いや、そもそも彼女のこの反応は何だ。初めて会った時から存外子供っぽい一面があるのではないかとは睨んでいたのだが、よもやここまで初心な反応を見せられるとは流石に予想外である。

 ──彼女は妖怪の賢者とやらではなかったのか。ぶっちゃけ、そろそろちょっと変わった能力を持っているだけのただの少女のようにしか思えなくなってきたのだが。

 

「そ、それとも、その……やっぱりそうなの!? 貴方達って、外の世界にいた頃はそういうコト毎日やってたの!?」

「そ、そういう事って何ですか!? 言っておきますけど、私達は別に変な関係って訳じゃありませんからね!?」

「変な関係じゃない!? そんなコトをしておいて、今更変な関係じゃないと!?」

「……あの、紫様? ひょっとして物凄ーく変な方向に解釈してません?」

 

 そろそろ収拾がつかなくなってきたような気がする。このまま彼女らを放っておけば、事態はますますよく分からない方向へと進んでしまうのではないか。

 特に紫がヤバい。妖夢とはまた違ったベクトルでヤバい。

 

「…………」

 

 しかし、ここまでギャーギャー騒がれると逆に冷静になってきた。紫の慌てっぷりを前にすれば、さっきまで自分が抱いていた動揺などなんて些細なものか。あの程度の動揺で動けなくなっていては、この先やっていられない。

 このまま状況が拗れるのを座して待つ趣味はない。この流れを打開するには、やはり進一が動かねばなるまい。

 

「……まったく、紫は大袈裟だな」

「ッ!?」

 

 包まっていた掛け布団を退かしつつもおもむろに起き上がると、妖夢と紫が驚いたように揃って息を呑む。彼女達からしてみれば、眠っていたと思っていたはずの人物が急に起き上がったのである。その反応も無理はないのかも知れない。

 けれど今はそんな二人の反応をいちいち気にする余裕はない。早急にこの事態を収拾させる為、進一は思考を即座に行動へと移す事にする。

 

「し、ししし進一さん……!? い、一体いつから起きて……!?」

「……仮に眠っていたとしても、あれだけ騒がしければ誰だって目を覚ますだろう」

 

 本当は割と初めから起きていたのだが、今は表現を濁しておく。自ら徒に状況を拗らせるつもりはないのである。

 

「お、大袈裟ですって……!? し、進一君にとって、あの程度は大したことないとでも言うの……!?」

「それは程度にもよるが……。そもそも紫が過剰に反応し過ぎなんじゃないか? 妖夢は単に俺を起こそうとしてくれただけだろう?」

「単に!? なんかお布団に潜り込んでもぞもぞしてたように見えたけど!? ギシギシいってたような気がするのだけれど!?」

 

 敷布団なのにギシギシもクソもあるか、と思ったが余計な事は口にしない方が良いのだろうか。

 というか、この場合は妖夢が一番焦るポジションなのではないのだろうか。だというのに、どうして彼女以上に紫の方が焦っているのだろう。やたら顔を真っ赤にしてムキになっている今の紫は、果たして何を考えているのか。

 

「……お前が何を妄想しているのかは知らんが、いつまでもそう興奮しっぱなしだとこちらとしても話しにくいんだが」

「も、妄想なんてしてないわ! 別に、二人がお布団の中で何をしていたかなんて……。そんなコト! これっぽっちも! 考えていなんだからね!?」

「……あ、ああ。そうか」

 

 この反応、どうやらあれこれ想像を膨らませていたらしい。大した妄想力だ。実はムッツリなのだろうか。

 ──まぁ、この際紫の本質がどうなっているかについての考察は置いておく事にしよう。何であれ、この奇妙な状況を抜け出さない限りは何も話は進まない。

 

 何だか朝っぱらから妙な疲れを覚え始めているが、そんな疲れを振り払いつつも進一は言葉を続ける。

 

「いいか紫? さっきも言ったが、妖夢は俺を起こそうとしてくれていただけだ。別に妙な事をされた訳じゃない」

「ま、またそんな事を……! お布団の中に潜り込んでいたじゃないの!」

「……ああ。それにも当然、訳がある」

「わ、訳……?」

 

 厳密に言えば妙な事をされていた訳だが、それも置いておく事にして。

 動揺する紫へと向けて、進一は出来る限り平静を保ちつつも説明を続けた。

 

「実は俺は……。朝が、凄まじく弱いんだ……」

「あ、朝が、弱い……?」

「ああ……。そりゃもう、自分でも驚くくらいにな……。起きよう起きようと思っていても、どうしても睡魔に負けちまう」

 

 進一のそんな言葉を聞き、八雲紫が浮かべるのはきょとんとした困惑顔だ。状況がいまいち上手く呑み込めていないと見える。

 好都合だ。このまま勢いに任せれば、おそらく──。

 

「それで、昨晩妖夢にも頼んでおいたんだ。俺がいつまでも起きてこなかったら、力づくでも起こしてくれってな。それこそ、寝技をきめるくらいの勢いで」

「ね、寝技……」

「いやー、それにしても妖夢の寝技は中々に強烈だったな。お陰でシャキッと目が覚めたが」

 

 ──自分でも酷く無茶苦茶な事を言っているなとは思う。そもそも生前の記憶がない時点で本当に朝が弱いのかもどうかも分からないし、だとしても寝技で起こしてくれなどという要求は不自然が過ぎる。

 けれど相手は動揺を露わにした八雲紫。賢者と称されるだけあって聡明な頭脳を持っているのだろうが、()()()()なら話は別だ。幾ら彼女とは言え思考が上手く働かず、想像があらぬ位置へと着地する。

 

 その結果。

 

「そ、そう……。朝が、弱いのなら……仕方、ないのかしら……?」

 

 上手く丸め込む事に成功した。

 進一は内心胸を撫で下ろす。想像以上のチョロさで若干拍子抜けではあるが、けれどこれは最善の状況だ。後は適当な理由をつけて紫を部屋から退散させれば完璧である。

 彼女が案外単純でいてくれて助かった。いや、それとも激しく動揺すると冷静な思考力が欠落するのだろうか。

 

「分かったのなら一度部屋から出て行って貰えるか? 取り合えず寝間着から着替えたい」

「へ!? あ、あぁ、うん、そ、そうね……! それなら、私が居ちゃ邪魔よね……?」

「ああ。……覗くなよ?」

「の、覗かないわよッ!」

 

 適当に茶化すと、八雲紫は少々ムキになってそう言い返してくる。踵を返してスキマを開き、その中にぴょんっと飛び込むと、

 

「そ、それじゃあね! 二度寝とかしないで、ちゃんと起きるのよ?」

「ああ。その点に関しては問題ない」

 

 スキマの中へと消えてゆく紫を見送りつつも、進一は肩を窄める。そしてようやく彼女が出て行ってくれた事を確認すると、進一は一気に肩の力を抜いた。

 流石に焦った。亡霊なので動悸が激しくなるような事はないが、それに似た感覚を覚える事は出来る。今一度深々と息を吐きだした後に、進一は独りごちる。

 

「まったく、朝っぱらから元気な奴だったな……」

 

 まぁ、お陰で目を覚ます事が出来た訳だが。自堕落な朝を迎える事を回避できた事に関しては、不幸中の幸いと言えるかも知れない。ここはポジティブに捉えておこう。

 ──そういえば。この事態を引き起こすきっかけを作った張本人である魂魄妖夢だが、さっきから些か静か過ぎるような気がする。幾ら紫の矛先が進一に向けられていたとは言え、もう少し反応してくれても良いものだと思うのだが。

 

「おい妖夢。取り合えずお前も幽々子さんの所に戻って……。妖夢?」

 

 傍らにいる妖夢をチラリと一瞥しつつも、進一は声をかけようとする。

 けれど当の妖夢はと言うと──。

 

「き、気付かれてた……。し、進一さんに、あんな、あんな……!」

 

 目尻に涙を浮かべ、顔を真っ赤にしてぷるぷると震えていた。

 

「…………」

 

 何なんだ、この雰囲気は。あそこまで大胆な事をしておいて、進一が起きていた場合の事を考えていなかったのだろうか。まさか本当に欲望の赴くまま行動に移していたというのか。

 妖夢に恥をかかせぬという、当初の目的は完全に失敗に終わった。ともすれば進一が妖夢を泣かせたとも捉えかねないこの状況、気まずいにも程がある。

 

「あー……。まぁ、その……なんだ」

 

 しかしここまで来て匙を投げる進一ではない。例えどんなに絶望的な状況であろうとも、最後まで抗うと決めたのだ。

 だから進一は諦めない。このまま気の利いた言葉を投げかけ、事態を好転させる。この程度の逆境など、必ず乗り越えてみせる。

 

「例え妖夢が妙なフェティシズムに目覚めようとも、お前がお前である事に変わりはないと思うぞ?」

「全ッ然慰めになってませんッ!!」

 

 ──朝っぱらから騒がしい白玉楼なのであった。

 

 

 *

 

 

 神霊騒動が起きて、タイムトラベルに巻き込まれた亡霊が迷い込んできて。そんな亡霊と邂逅した妖夢がますますおかしくなって、けれども紆余曲折の末に何とか丸く収まって。そんな出来事がたった一日の内に立て続けに起きたのだから、昨日は本当に濃厚だった。

 そして翌日。一晩眠って朝を迎えてみたものの、流石の幽々子も未だに頭の整理が追い付いていない。状況があまりにも目まぐるしく変化し過ぎて、幾ら何でも脳内のキャパシティオーバーというものだ。混乱するなという方が無理な話である。

 

(でも……)

 

 それでも一つ、はっきりとしている事がある。

 この二年間、幽々子が抱え続けてきた心のしこり。それが昨日、ようやく綺麗になくなったという事だ。

 

 空白の四ヶ月間を経て幻想郷に帰還した魂魄妖夢は、ずっと何かが抜け落ちてしまっているかのような状態だった。

 表面上は気丈に振舞っている。これまでと何ら変わらず、彼女は庭試兼剣術指南役という自らの仕事を全うしてくれている。けれどその実、彼女は普段通りの自分を必死になって()()()()()に過ぎなかったのである。

 それは彼女の行動を見ていれば分かる。確かに彼女は、これまで通りにしっかりと仕事を全うしてくれている。けれどそんな行動の一つ一つに、どこか無理をしているような感覚を感じる事が出来る。敢えて自分を追い込んで、敢えて何かに集中して。必死になって、何かから目を逸らそうとしている。

 

 自分は西行寺幽々子の剣士だ。だから何があろうとも、主を守らねばならないのだ。

 例え、自分の想いを否定する事になろうとも。

 

 そんな強すぎる義務感に囚われ、彼女は自らを追い込んでいった。

 無茶過ぎる剣術鍛錬を積み、休みなく働き続けて。追い込んで、追い込んで、追い込んで、追い込んで。彼女はひたすら、西行寺幽々子の剣士たり得ようとしてくれていた。

 

 ──はっきり言って、見ていられなかった。

 

 確かに彼女は剣士だ。故に主を守り抜かねばならなのだと、その考えは間違っていないと思う。

 でも。だからと言って、自分の気持ちを押し殺してまで主に仕えるべきなどと。そんな事、幽々子は望んでいなかった。幽々子の事ばかりじゃない。彼女にはもっと、自分の想いの赴くままに進んで欲しかった。無理なんか、して欲しくなかった。

 

(…………ッ)

 

 思い出すだけで、今でも胸が苦しくなってくる。このままでは、いつか妖夢が壊れてしまうのではないかと。そう思うと、不安で不安で仕方がなかった。

 けれど自分の力では、これ以上はどうにも出来ないから。それ故に、尚のこと幽々子は苦悩した。彼女を救う方法はないのかと、必死になって考えた。親友である紫さえも巻き込んで、何とかしようと尽力した。

 

 でも、駄目だった。

 結局何も変わらなかった。何をどうしようとも、妖夢を苦しみから解放してやる事はできなかった。幽々子も、紫も、彼女を救う事は叶わなかったのである。

 

 けれども。

 彼は、違った。

 

 彼は諦めなかった。例え突き放されようとも、それでも彼は立ち止まらなった。前に進み、声をかけ、手を伸ばし続けて。そしてその末、遂に彼は成し遂げた。凍り付いた彼女の心を、彼は優しく溶かしてくれた。

 

 魂魄妖夢は、救われたのだ。

 岡崎進一という、優しい亡霊に──。

 

「……幽々子? ちょっと、聞いてますか?」

 

 不意に声が耳に届いて、幽々子は顔を上げる。

 視線の先には、深碧色の髪を持つ少女。幻想郷の閻魔様である四季映姫・ヤマザナドゥは、何やら怪訝そうな顔を浮かべていて。

 

「あっ……。え、えぇっと……ごめんなさい、何だったかしら?」

「まったく……しっかりして下さい。今後の方針について、皆で話し合っていたのでしょう?」

「あ、あー……。ええ、そうだったわね」

 

 苦笑しつつも、幽々子はそう誤魔化そうとする。映姫は相変わらず微妙な表情を浮かべていたが、それ以上何かを追求してくる事はなかった。

 

 幽々子は改めて周囲を見渡す。

 場所は白玉楼の客間。時間は朝食を食べてから少し経った頃。そんな中に集結しているのは、()()()()に関わりを持つメンバー一同であった。

 ()()()()、と言っても神霊騒動ではない。二年前における魂魄妖夢のタイムトラベル、そして今回発生した岡崎進一のタイムトラベルについてである。

 

 当事者である妖夢と進一はもちろんの事、たった今声をかけてきた四季映姫に、彼女の部下である小野塚小町。そして幻想郷の管理者でもある八雲紫の姿も確認できる。つまるところ、昨日白玉楼を訪れた面々という事になる。──ただ一人を除いては。

 

「ったく。何ボーっとしてんのよ。いや、まぁあんたは普段からポヤポヤしてる印象だけど」

 

 肩を窄めつつもそう言葉を投げかけてきたのは、紅白の巫女装束に身を包む一人の少女だった。

 紅白の巫女装束、という特徴を聞けばこの人物が誰なのかおおよその予想はつくだろう。幻想郷の中核を成す神社、博麗神社。その神社を運営する唯一巫女にして、異変解決のスペシャリスト──博麗霊夢が、このミーティングに参加していた。

 さもそこにいる事が当然であるかのような振舞いである。彼女の態度が豪胆である事は今に始まった事ではないのだが、それでもそこまで堂々とされるとこちらとしても若干困惑してしまう。

 

「……どうして霊夢までここにいるの?」

「いやどうしてって……。私だってもう無関係じゃないのよ? 昨日、紫達から話を聞いちゃったんだからね」

 

 思わず幽々子が訪ねてみると、そんな返答が返ってくる。チラリと紫を一瞥すると、何やら彼女は少々焦りを露わにした様子で。

 

「し、仕方なかったのよ。あの状況じゃ、話さざるを得なかったというか……」

「まぁ、博麗の巫女である彼女の耳にも、いずれは入れなければならなかった情報です。そのタイミングが少し早まった、と考えれば良しとしましょう」

 

 意外にも映姫がフォローを入れてきた。情報の流出に関しては真っ先に苦言を漏らそうな彼女であるが、このような反応を見せたという事はそれだけ不測の事態という事なのだろうか。

 今はあまりにも情報が少ない。だから霊夢にも協力を仰ぐ事によって、事態の好転に一役買って貰おうと。そういう算段なのだろう。

 

「ほら、閻魔サマもそう言ってるじゃない。だから私の事は気にしなくて良いの」

「ま、霊夢が協力してくれるって言うんなら、あたいらとしても大助かりだけどねぇ……。お前さんの持つ勘は、最早一つの異能と言っちまっても過言ではないくらいだし」

 

 呑気な口調で小町が言葉を挟んでくる。

 まぁ、確かに。霊夢の力を借りられれば、直面する謎だって解明する事が出来るかも知れない。殆ど五里霧中であるかのようなこの状況、正直言って猫の手も借りたかった所である。そんな中で霊夢の手を借りられるのならば、小町が言う通りこちらとしても大助かりだ。

 

 唯一気になる点といえば、紫も気にしているらしいタイムパラドックス関連についてだが──今のところ特に奇妙な事態は起きていない。単に別の時間の住民と接触した程度では、世界はどうにもならないのだろうか。或いは幻想郷という特異な環境だからこそ、例外的な力が作用しているのかも知れないが。

 

 それはさておき。

 

「さて、と。一先ず今の状況を整理しましょうか」

 

 いつの間にやらこの場を仕切っていた四季映姫が、パンっと手を叩きつつもそう提案する。全員の視線が一斉に向けられると、彼女はこほんと咳払いを挟んで。

 

「妖夢。それに、進一。まずは実際にタイムトラベルを体験した当事者である貴方達に聞きます。時間を跳躍する直前、何か変わった感覚を覚えたりはしましたか?」

 

 凛とした面持ちのまま、映姫は二人にそう訪ねる。けれどもそんな問いに対して進一達が浮かべるのは、やはり難しそうな表情である。

 この反応。ある程度は映姫だって予想出来ていたはずだ。

 

「えっと……。すいません、そういった感覚は特に……。そもそも私は、あの時思わず舟を漕いでいた訳ですし……。ですので、まったく気がつかなかったというか……」

「すまない、俺も駄目みたいだ……。やっぱりどう足掻いても、亡霊になる以前……と言うか、幻想入りする以前の記憶を思い出す事が出来ない……」

 

 二人揃って、申し訳なさそうにそう口にする。

 無理もないだろう。話を聞く限り、二人とも()()()()()()タイムトラベルを経験したような状況である。何らかの前兆だとか、そんなものなど感じ取る暇すらもなかったはずだ。

 ──進一の場合、そもそも記憶を失っているから実際はどうなのか何とも言えないのだけれども。

 

「……まぁ、でしょうね。何も分からないのなら、それは仕方のない事です」

「何だ? もっと追求してきたりしないのか?」

「貴方達を相手に、闇雲に質問攻めにするつもりはありませんよ。この状況においては、それではあまりにも非生産的です。それに……貴方の場合、無理に記憶を探ろうとすると激しく頭が痛むのでしょう? でしたらそんな無理をさせるつもりもありません」

 

 進一の言葉に対し、映姫はぴしゃりと口早にそう答える。まるで迷いを感じさせないその口振りには、相変わらず舌を巻く程だ。

 流石は『白黒はっきりつける程度の能力』という事か。判断力と決断力に関しては、幻想郷の住民と比較しても他の追随を許さない。

 

「……そうか。やっぱり優しいんだな、閻魔様って」

「なっ……!」

 

 ──まぁ、どうやらそんな『能力』にも()()は存在するようだが。

 

「な、何か勘違いをしているようですね貴方は……! 私は別に、貴方だけ特別贔屓している訳ではありません! そもそも! 病人や怪我人を気遣うのは、閻魔でなくとも当然の行為で……!」

「……何を急にムキになっている? 訳が分らんぞ」

「む、ムキになんか……! あぁ、そうですか……。成る程そうだったんですか……! やっぱり貴方は私を馬鹿にしているんですね!? そうなんでしょう!?」

「……馬鹿にはしてないが、今は少々呆れそうにはなっている」

「ほう……? それは良い度胸ですねぇ……。昨晩のお説教の続き、今ここで初めても良いんですよ……!?」

「そ、それは勘弁してほしいんだが……」

 

 冷や汗を垂らしながらも、進一は目を逸らす。

 昨晩のお説教、というのは、進一が妖夢を白玉楼まで連れて帰ってきた後の事である。何せ今回の諸々の件については、映姫にとって格好の説教ネタ。それを行使しない彼女ではない。

 当然ながら、既に妖夢も進一も説教の餌食になっている。まぁ、妖夢は怪我人だったという事もあって、昨日の説教は()()でも少々手加減してくれていたみたいだが──中々に壮大だったと記憶している。矛先を向けられた訳でもない幽々子までも身震いしてしまう程に。

 

「だいたい貴方は考えなしにポンポン言葉を発し過ぎです! もっと先を予測して、よく考えて言葉を選んでから発言しなさい!」

「そこまで浅薄な気持ちで喋ってる訳でもないんだがな……」

「それと妖夢!」

「ひゃ……!? は、はい!?」

 

 唐突に名前を呼ばれて、妖夢は飛び上がるように返事をする。

 なぜだか映姫は、抱いた狼狽を妖夢にもぶつけようとしているらしく。

 

「貴方も貴方で少し羽目を外し過ぎです! これまで散々切羽詰まっていたという事もあって、その反動が来ている事も分かりますが……! それでも限度があるでしょう!」

「へっ……? そ、そこまで、私は気を緩めたりなどは……」

「……おや? 私が何も知らないとでも? 貴方は今朝、眠っている進一のお布団へとこっそり……」

「ふえっ!? ちょ、待っ、何で映姫様がそれを知ってるんですか!?」

 

 慌てた様子で、妖夢は思わずがばっと立ち上がる。

 この反応。顔を真っ赤にして激しく狼狽する妖夢が浮かべる表情は、幽々子でもあまり見たことのな顔である。まるで、本当に心の底から恥ずかしすぎるものに触れてしまったかのように。

 ──何だ、これは。今朝に妖夢が進一を起こしに行ったのは事実だが、そんな情報など幽々子にとって初耳なのだが。

 

「私は閻魔ですよ? 浄玻璃の鏡を使えば、貴方の行動など一瞬で筒抜けに……」

「い、いつの間に使ったんですかそれ!? プライバシーの侵害では……!?」

「えっ……よ、妖夢……。貴方、進一さんに何かやったの……?」

「へ!? い、いえ、私は! そ、その……!」

 

 幽々子が尋ねると、途端にしどろもどろになる妖夢。

 嘘が苦手であるが故に、その反応を見ればおおよそ彼女の言葉が真実か否かは察する事が出来るのだが──これは、図星である。

 一体何をやったというのだ。ただ単に起こしにいっただけのはずなのに。

 

 そんな中。今度は映姫達のやり取りを見ていた紫が、なぜだが興奮気味に立ち上がると、

 

「え、ええ!? や、やっぱりあれって、そういうコトだったの!? 寝技をきめてたんじゃなくて!?」

「ね、寝技って……。貴方は貴方で、一体何を言ってるんですか……」

「だ、だって……! 進一君が……!」

 

 そういえばあの時、紫はいつまでも戻ってこない妖夢の様子を見に行ってくれたのだった。成る程、彼女はタイミング悪くその現場に直面してしまったという事か。

 そういえば紫はこう見えて案外初心なのであった。まぁ、そういう意味では彼女の反応にも納得できなくもないけれど──。

 

「ねぇ、何なのよこの状況。私達完全に蚊帳の外なんだけど」

「あ、あたいに聞かれても……」

 

 霊夢と小町に至っては、完全に会話の中に入れずにいる。最早一体何しにきたのだろうと、そう言いたげな面持ちである。

 状況がどんどん脱線してゆくような気がする。あれ、一体何の話をしていたんだっけ。何だか幽々子にも分からなくなってきた。

 

「はぁ……。ったく、仕方ないわね……」

 

 そんな中、嘆息交じりに渋々と動き始めたのは博麗霊夢である。気怠そうに頭をわしゃわしゃと掻きむしりつつも立ち上がると、彼女はやはり面倒くさそうな表情を浮かべながらも。

 

「ちょっとあんたら、いい加減にしなさいよ。説教も良いけど、今は話を本筋に戻しなさいよね」

 

 霊夢の言葉により、わちゃわちゃとしていた状況がそこでようやく纏まりを見せる事となる。興奮気味だった映姫が真っ先に冷静に戻り、バツが悪そうに顔を背けるとコホンと咳払いを一つ挟む。

 

「そ、そうでしたね……。今は、直面する問題の具体的な解決案を見つける事が先決でしたね。私とした事が、ついうっかり……」

「ついうっかりってレベルじゃなかったけどね」

 

 霊夢の小言に対し、映姫は強くは言い返さない。今回は自分にも落ち度はあると、そう理解しているのだろう。

 確かに映姫の説教好きにはほとほと迷惑しているが、決して話が通じない少女ではないのである。逆に言えば、この説教好きがなければ苦手意識を抱く事もなかったのだろうが──。

 

「な、何……!? 何なの!? 何だか体よく丸め込まれそうな雰囲気なんだけどッ!?」

「気にしちゃ駄目よ~。紫には刺激が強すぎんだから」

「ゆ、幽々子までそんな事……!?」

 

 何だか紫のキャラが徐々におかしくなってきているような気もするが、それはそれとして。

 

 今は霊夢の言う通りだ。いつまでも話を脱線させっ放しではいけない。

 直面する問題の具体的な解決案。あまりにも情報が不明瞭なこの状況では、どんな些細な糸口でも欲したくなるものだ。欲を言えば、出来る限り具体的な──。

 

「……そうですね。では霊夢。貴方の首尾をお聞かせください。……霍青娥という邪仙の事は、どこまで追えてます?」

「そうね。はっきり言って芳しくないわ。あれからアイツの足取りを追ってみたけど、結果はご覧の通り。まさかここまで何の手掛かりも掴めないとはね……。こんなの、初めてよ」

 

 口調に微かな苛立ちを滲ませながらも、霊夢は答える。やはり、()()()に関してもあまり捗ってはいないようだ。

 霍青娥。二年前、妖夢を未来の世界へと引き摺りこんだ張本人。厳密にいえば、()()()()の霍青娥はそんな行為にはまだ及んでいないのだが、それでも何らかの手掛かりは握っているはずである。

 

 昨日起きていた神霊騒動。霊夢曰く、それを裏で手引きしていたのも霍青娥なる人物らしい。けれどもやはりその真の目的は分からず終いで、今もなお何の情報も掴めていない。

 

「まぁ華扇曰く、目的は強い“力”を求める事……って、言ってたみたいだけどね。それでも訳が分んない事に変わりはないけど」

「茨木華扇、ですか……。彼女も仙人ですよね? 霍青娥と手を組んでいる、という可能性は……」

「それはないんじゃないの? アイツが悪事に加担するなんて、正直ちょっと想像できないし」

「ふぅむ……」

 

 思わず映姫も唸り声を上げる。まぁ、無理もない状況だ。

 

「一応、今は藍が調査してくれてるみたいだけど……。そうよね紫?」

「え、ええ……。でもこの状況じゃ、あまり期待はできないかも知れないわね。今更そう簡単に尻尾を出してくれるとは考えにくいし……」

 

 幽々子が尋ねると、紫は難しそうな表情を浮かべつつもそう答えてくれる。やはりそう簡単にはいかないらしい。

 まさに膠着状態。にっちもさっちもいかないとは、まさにこの事か。

 

 昨日の神霊騒動と、そして妖夢のタイムトラベル。一見何の関連性もないように思える二つの事件だが、けれどその根本にはどちらも霍青娥という人物が密接に関わっている。故に決して無関係ではないのだと、それは分かるのだが──。

 けれどこの状況においては、そんなのは些末な情報だ。最も重要な霍青娥の足取りを、自分達は掴めていないのだから。

 

(これじゃあ……)

 

 本当に、何も策はないのか?

 このままズルズルと状況だけが過ぎていく様を、指をくわえて見ているしかないのだろうか。

 そんなの──。

 

「……やはり、この方法しかありませんか」

 

 ──状況が膠着し、重苦しい雰囲気が漂い始めたその時。不意に、映姫が口を開く。

 視線を向けると、彼女が浮かべるのはあまり乗り気ではない表情である。できれば極力避けたかった所だが、今はやむを得ず受け入れるしかないと。そんな気持ちが、ありありと伝わってくるような面持ちで。

 

「はっきり言って、このまま霍青娥が尻尾を出すのをただ待つだけでは、あまりにも非効率的でしょう。どの程度時間がかかるのかも不明瞭ですし、また予期せぬ事態が起きてしまう可能性もあります」

「ですよねぇ。でも現状、その霍青娥ってヤツを追う以外に有益な情報を得る機会はないんじゃないですか? 一応、今のところ唯一の手掛かりみたいなもんですし……」

「ふぅ……。小町、貴方は一つ重要な情報を忘れているのではないですか?」

「へ?」

 

 ぽかんとした表情を浮かべる小町。どうやら彼女は、映姫の言わんとしている事をいまいち察する事が出来ないらしい。

 

 けれど幽々子には、何となく分かる。

 当然、霍青娥の足取りに関しては引き続き追うべきだ。彼女の持っている情報は、今の自分達にとって間違いなく有益なものなのだから。ここで追跡を諦める理由はない。

 しかし──それだけでは、ないはずだろう?

 有益で有力な情報。それを持っているであろう人物が、他にもいるじゃないか。

 

「……進一。貴方の力が、必要です」

「え?」

 

 不意に映姫はそう口にする。まさかこのタイミングで呼ばれるとは思っていなかったのか、進一は少し面食らっているようだ。

 けれどそんな彼へと向けて、映姫は間髪入れずに続ける。

 

「先程、私は聞きました。時間を跳躍する直前、何か変わった感覚を覚えなかったのか、と……。そして()()()()()()()()と答えた妖夢に対し、貴方は何と答えましたか?」

「何も思い出せない……。いや、待て。まさか、あんた……」

「ええ。その()()()、です」

 

 そう。

 その通りだ。

 可能性の種は、幽々子達の目の前にある。

 

「進一。貴方の記憶が手掛かりなのです。タイムトラベルの直前……或いは、死の直前。貴方の身に、一体何が起きたのか。貴方がそれを思い出す事が出来れば、私達は光明を掴む事が出来るかも知れない」

「俺の、生前の記憶が……?」

「ええ。けれど当然、これも確実ではありません。現時点でもあくまで可能性の段階です。貴方の失われた記憶が、本当に手掛かりとなり得るのか。それとも藪蛇なのか。それは私でも正確に予測できません」

「…………っ」

 

 進一は息を呑んでいる。

 いつになく真剣な表情。映姫の言葉を受け止めて、噛み締めて。その重要性を突き付けられたからこそ、否が応でも彼の身にはプレッシャーがのしかかっている。

 失われた彼の記憶が、この状況を打開する大きな手掛かりと成り得る。けれどそれだけではなく、状況を更に拗らせてしまうような情報が出てきてしまう可能性だって存在する。そんな事実を提示されて、彼が何も思わないはずがない。少なからず、重圧を感じてしまっているはずだ。

 

「進一さん……」

 

 不安気な妖夢の声が響く。そんな彼女の声に反応したのか、進一は重苦しく唾を飲み込んだ。

 

「しかし……。何度も言っていますが、無理に思い出せと言っている訳ではありません。特に死の瞬間の記憶など、あまり気持ちが良いものではないでしょう。貴方がそれを拒むなら、私はその意思を尊重すべきだと……」

「……それはつまり、本当に記憶を取り戻すのか、それとも諦めるのか。俺に選べと言っているのか?」

「……ええ。その通りです」

「……………」

 

 再び沈黙。辺りが暫しの静寂に包まれる。

 やはり彼は、迷っているのだろうか。そんな重荷など背負える訳がないと、内心ではそう思っているのだろうか。

 仮にそうであったとしても、それは仕方のない事だと思う。

 何せ彼は外来人。外の世界の住民に、こちらの世界の責任まで背負えなどと──。そんな話をした所で、簡単に受け入れられる訳がない。割り切れる訳がない。誰もがみんな、そんな英雄的な思想を持っている訳ではないのだから。拒絶されてしまっても、文句を言う権利は幽々子達にもない。

 

 ──けれど。

 だけれども。

 

「……ふっ」

 

 程なくして、沈黙を破った彼は。

 

「そんなの、決まってる」

 

 揺らぐ事のない決意を、その瞳に灯した岡崎進一は。

 

「俺は記憶を取り戻す。それ以外の選択肢なんて、有り得ない」

 

 迷いなど、微塵も感じさせぬような表情を浮かべていた。

 

 一瞬、映姫は意表を突かれたような表情を浮かべる、ここまできっぱりと大胆に言い放った進一を見て、流石の彼女も虚を突かれたという事なのだろうか。

 けれども映姫はすぐに察する。岡崎進一というこの青年が、何を抱いているのか。

 

「……覚悟は、既に決まっていたのですね」

「……ああ。俺は妖夢と約束したんだ。生前の記憶を思い出し、育んだ思い出を絶対に取り戻すってな。それなのに、このまま諦めちまったら……それこそ死んでも死にきれない」

「……成る程。やはり、そういう事でしたか」

 

 進一の言葉を聞き、その傍らで小恥ずかしそうに身を縮める妖夢の姿を見れば、彼らとの間にどのような絆が存在するのか想像するのは容易いだろう。

 彼の想いは本物だ。

 例えどんな横槍が干渉しようとも、決して捻じ曲げる事など出来ぬ程に。

 

「……決して、上手くいくとは限りませんよ?」

「構わない。その程度の逆境なんて、引き下がる理由にもならん」

「……例え、忘れていた方が良かった事実が待ち受けているのだとしても?」

「ああ。……そもそも、このままじゃあんたらだって都合が悪いんじゃないか? 是非曲直庁は、未だに俺の処遇を決めあぐねているんだろう?」

「おや? 私達の心配をしてくれるのですか?」

「……ああ。だが、それ以上に俺は……」

 

 そこで進一は、一端間を置く。

 言葉を選ぶような素振り。けれどそれも一瞬だけ。迷いを微塵も感じさせる事なく、躊躇を毛ほども見せる事なく。

 

「俺は妖夢を裏切りたくない。こんな俺の事が好きだと言ってくれた妖夢の想いに、是が非でも答えたいんだ。だから俺は生前の記憶を取り戻す。何が何でも取り戻して、妖夢の気持ちをしっかりと受け止める。それが……」

 

 彼は、真っ直ぐに言い放つ。

 

「それが──今の俺にとっての、唯一の()()だ」

 

 傍らの妖夢はますます頬を赤らめて、何も言えず完全に身を縮こませてしまっている。その様はまるで殆どショート寸前だ。彼女の性格から考えて、間近でそんな事を言われてはあのような反応を見せてしまっても無理はないのだろうけれど。

 

 けれども進一は、決して格好つける為に薄っぺらい言葉を並べている訳ではない。

 梃子でも動かぬ決意。揺らぐ事のない想い。それ故にこそ、彼の言葉には重みがある。

 

「……でも現実問題、どうするつもりなのよ?」

 

 そんな中。口を挟んできたのは霊夢だ。

 彼女が浮かべるのは小難しそうな思案顔。妙な茶々を入れるよりも先に、霊夢は現実的な問題点を指摘する。

 

「進一さんがどれくらい妖夢の事を想っているのか、それは分かったわ。でもそこまで想いを寄せている妖夢との再開を果たしても尚、あなたの記憶は戻らなかったじゃない。つまり、そのくらい強烈な出来事を経ても戻らないくらいに、進一さんの記憶は深く忘却してしまっている事になるんじゃないの?」

「……そうだな」

「記憶を取り戻す、なんて口で言うのは簡単だけど……。ただ闇雲に動いた所で、事態は一向に好転しないんじゃない?」

 

 ──そう。霊夢の言う事にも、一理ある。

 妖夢との再会が、彼の記憶を呼び覚ます手掛かりとなる。そう期待していたのだけれど、結果はこの通りである。確かに多少なりとも()()を取り戻す事は出来たようだが、全てを完全に思い出したとは程遠い状況だ。

 このままでは、本格的な荒療治が必要なのではないだろうか。それこそ今のままの方針では、殆ど八方塞がりだろう。

 

 それならば、果たしてどうすべきか。

 

「……可能性なら、あります」

 

 霊夢の問いかけに対し、しかし静かに答えたのは映姫である。

 彼女が浮かべるのは、やはりあまり乗り気ではないような表情。やむを得ない。仕方がない。けれどそれは、当てがある事の裏付けでもある。

 それもそのはず。あの四季映姫が、何の考えもなしにこんな提案をしてくる訳がない。

 

「それは……。進一さんの記憶を取り戻す方法、という事ですか……?」

 

 妖夢の確認。映姫はそれに頷きつつも答える。

 

「確かに、これまで通りの()()()で記憶の回復を待つだけでは、事態は一向に好転しないでしょう。しかし……幻想郷なら、どうでしょうか?」

「えっ……?」

 

 不意に提示されるその言葉。唐突に現れる可能性。

 現実と幻想。常識と非常識。進一の故郷である外の世界からしてみれば、あらゆる事象がまるで逆転してしまったかのような世界。四季映姫の口から語られるのは、あまりにも意外な提案だった。

 

「幻想郷はとりわけ特殊な世界です。いえ……特殊過ぎる、と言っても良いくらいでしょう。妖怪、妖精、神などが実体を持って存在し、今も尚アイデンティティーを保ち続ける事が容易な幻想の楽園。あの世界の住民ならば、“非常識的”な観点から記憶を取り戻す手助けをする事も可能です」

「……っ! それって……!」

「……ええ。おそらく貴方の想像通りですよ、妖夢」

 

 そこで一旦、四季映姫は一呼吸つく。

 不満はある。懸念もある。けれども彼女は意を決する。この状況を打開するため、一つの策をこの場で講じる。

 

「幻想郷の住民に協力を要請します。直接的ではなくとも、何らかの形で兆しを得る事も可能でしょうから」

 

 難しそうな表情。それを浮かべたままの映姫が口にしたのは、所謂協力要請だった。

 確かに。彼女の言う通り、幻想郷には特殊な『能力』を持つ者も多い。外の世界における“常識”では考えられぬ手段を用い、進一の記憶を取り戻す手伝いをする事だって可能だろう。成る程、状況だけから鑑みれば、有用な策とも言えるかも知れない。

 

 ならば、なぜ映姫はここまで乗り気ではない表情を浮かべているのか。

 考えられる理由は──。

 

「……でも、進一さんは死者よ。そんな彼を顕界である幻想郷に無暗矢鱈に連れてゆき、尚且つ生者と接触させるなんて問題だ……って、映姫さんは懸念してるのよね?」

「……そうです。昨晩も言った通り、進一のような死者が冥界と顕界を行き来するなど、本来ならば問題のある行為なのです。当然、その逆もまた然りなのですが……」

「ま、今は私と紫も普通に冥界(こっち)に来ちゃってるけどね」

 

 肩を窄めつつも、霊夢が口を挟む。揚げ足取りのような言葉なのだが、実際その通りなのだ。今更そんな事を気にした所で、意味はないように思える。

 けれど相手は四季映姫。生真面目で堅物な筋金入りの頑固者である。閻魔という自らの立場も相まって、尚更容認する事に抵抗があるのかも知れない。

 

「まぁでも……確かに、一度死んだ人間を冥界から連れてくるなんて、いかにも貴方が気にしそうな行為ではあるけれど」

「じゃあ幻想郷の連中をこっちに連れてくるんです? でもそう上手く聞き入れてくれますかね? 良くも悪くも我の強い奴らばかりですしねぇ」

 

 紫に続くような形で、小町もそう口にする。

 彼女の言う通り、どっちみち問題は存在するのである。それならば、なるべく手間がかからない手段を選択すべきなのではないだろうか。

 どのくらい時間が残されているのかも分からないのだ。今は一刻も早く情報を掴んでしまいたいが──。

 

「……ッ。分かってます。だから、あまり乗り気ではなかったのですよ……」

 

 映姫の歯切れが悪くなる。ぼそぼそとそんな事を口にする彼女は、ともすれば優柔不断とも捉えられる反応だ。

 この様子。どうにも上手く『能力』が作用できていないらしい。やはり未来の住民である進一絡みになると、映姫の『能力』は途端に弱くなってしまうようだ。

 

 そんな映姫だったが、ようやく意を決したように深々とため息をつく。

 進一と妖夢。二人を見据え、しかしきまりが悪そうに。

 

「私は……何も見てないし、聞かなかった……事に、します」

「……はい?」

「……突然何を言ってるんだあんたは」

「~~っ!? さ、察しの悪い方達ですね! で、ですから……! か、仮に、貴方達が……ちょっと、均衡を乱すような行動を取ったとしても……。わ、私は、何も気がつかないという事です……!」

 

 映姫は腕を組んで踵を返す。

 進一達から背を向けて、プイッと視線を逸らすと。

 

「た、例えば、その……。し、進一が、顕界に赴いてしまったとしても……」

 

 ごにょごにょと、随分聞き取りずらい声調だ。しかもつい昨日までの映姫の印象から考えて、かなりらしくないというか、意外過ぎる発言である。流石の霊夢もぽかんと言葉を失ってしまっている。

 ──彼女はこんな反応もできるのか。もっと堅物で、取っつき難い人物だと思っていたのに。

 

「ははっ。ごめんよ進一、妖夢。四季様って、結構素直じゃない所があるからさー」

 

 そんな中。唯一冷静だったのは小町である。沈黙を打ち破った彼女は、いつも通りの呑気な口調で映姫の言葉を補足する。

 

「でも一応、進一が顕界に行く時は、誰かが一緒について行ってやっておくれよ? それなら四季様もちょっとは安心できると思うからさ」

「ちょ、小町……! 貴方、余計な事を……!」

「全然余計じゃないですよ。あれだけじゃ絶対伝わりませんって普通」

 

 普段なら有無も言わせず小町の方が丸め込まれそうな局面だが、けれども今回ばかりは映姫の方が何も言い返せない。必死になって何か言い訳を考えるのだけれども、結局は「ぐぬぬ……!」と唸るだけに終わってしまう。

 凄い。小町が映姫を言い包めている。これは本当に現実か? よもやこのような光景を目の当たりにする日が訪れるとは──。

 

「……そうか。そうだよな」

 

 唸る映姫を小町が宥める中、ふと進一が噛み締めるようにそう呟く。

 何かを悟ったかのような表情。胸に響いた想いを、そっと掬い上げるように。彼は続けて言葉を発する。

 

「皆、俺の為に動いてくれているんだよな。俺がきっかけで、俺が手掛かりで、俺がこの状況を打開する為の鍵。だったら俺は、その想いに答えないと、だよな」

 

 ──彼は、やはり責任を感じているのだろうか。

 自分が幻想入りした所為で、事態が余計に拗れてしまった。自分が記憶喪失である所為で、余計な手間が増えてしまった。けれども失われた自分の記憶が、この『異変』を解決する為の鍵になる。だから自分は、是が非でもその役割を果たさなければならないと。そんな責務に囚われてしまっているのだろうか。

 

 もしそうだとすれば、それは勘違いだと幽々子は思う。

 彼は何も悪くない。彼だって被害者じゃないか。訳の分からない世界にいきなり放り出されて、しかも記憶を失って。果たしてそんな状態の彼に対して、責任を押し付ける事など出来るのだろうか。

 

(進一さん……)

 

 答えは、否だ。

 少なくとも、この場にいるメンバーは誰も進一の事など責めていない。『異変』を解決しろだなんて、そんな無茶を要求する者だって決していない。

 だから彼が責任を感じる必要はない。彼はあくまで、彼自身がやりたい事を全うしてくれるだけでいい。余計な気遣いなんて、それこそ無用というものだ。

 

(でも……)

 

 けれどそんな事を幽々子が指摘するのもお門違いだ。

 無駄な介入をする必要はない。余計な世話を焼く必要もない。

 

 だって。

 

「進一さん!」

 

 だって彼は。

 一人では、ないのだから。

 

「私、昨日あんな勝手なことばかり言って……。今更こんな事を言うのも、烏滸がましい事なのかも知れないけど……。でも!」

 

 魂魄妖夢が、精一杯にそう口にする。

 魂魄妖夢が、彼に寄り添ってくれる。

 

「私も、進一さんの力になりますから……」

 

 そして彼女は破顔する。

 想いを言葉に変えて、最愛の彼へと。

 

「だから一緒に、記憶を取り戻しましょう?」

 

 心からの笑顔。この二年間ずっと失われていた、妖夢本来の姿。

 進一は妖夢を助けてくれた。けれど妖夢にだって、進一を助ける力がある。なぜなら二人が抱く想いは、決して一方通行ではないのだから。

 

「……ああ」

 

 そして進一も微笑みを零す。

 

「改めてよろしくな。妖夢」

 

 二人の想いは揺るがない。

 一心同体、なんて言葉があるけれど。成る程、こういう状態を示しているのか。

 

 互いが互いを想い合い、互いが互いを助け合う。

 そしてそれは、きっとこれからもずっと──。




更新が大幅に遅れてしまい、大変申し訳ございません。

今後の更新ペースですが、しばらく基本的に三週間に一度とさせてください。ストックの方もかなりガバガバな状態ですので、二週間に一度の更新ですとちょっと難しく……。
執筆のテンポがこれまで通りに修正できましたら、更新ペースも元に戻す予定です。楽しみにして下さる読者様の方々には申し訳ありませんが、ご理解頂けると幸いです。

それでは、今後もよろしくお願い致します。

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