桜花妖々録   作:秋風とも

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第58話「時間跳躍」

 

 失われた記憶の手掛かりを探す為、死神達に連れられて閻魔である四季映姫と対面した岡崎進一。生前における善行と悪行を測り、行く先の判決を下すと称して浄玻璃の鏡を向けられた進一だったが、けれど結局はっきりとした判決は下されずに裁判は中断となってしまった。

 

 死者の意思や意見などは関係なく、一方的に生前の行いを暴き出す事の出来る宝器――浄玻璃の鏡。閻魔の象徴の一つとも言えるその鏡を以て生前の確認を試みたようだが、けれどもどうやら不測の事態が起きてしまったらしい。

 端的に言ってしまえば。

 何も映らなかった、らしいのだ。

 

「何なんだよ一体……」

 

 慌ただしい様子で裁判は保留とされ、進一は別室での待機を命ぜられてしまった。やたら座り心地の良いソファに腰を下ろしつつも、進一は思わず嘆息する。

 浄玻璃の鏡に何も映らないとは、一体どういう事なのだろうか。閻魔や死神達の様子から察するに、どうやら相当奇妙な事態に陥っているようだが――。

 

「待ってろ、って言われてもな……」

 

 立て続けに色々な事が起こり過ぎだ。あまりにも突拍子もない。

 進一は下唇を噛み締める。本当は、全部夢なんじゃないだろうか。現実ではないんじゃないだろうか。そんな予感が脳裏を過ぎるが、流石に馬鹿らしく思えてきて早急に思考を打ち切る。

 逃避しても意味はない。確かに漠然とした感覚であるが、それでも夢だと斬り捨てるには些か無理があるようにも思えてくる。

 

 この感覚は明らかに現実のものだ。最早受け入れざるを得ない。

 

(一体、どうなっちまうんだ……?)

 

 胸中に膨れ上がる不安感を何とか振り払いつつも、進一は一人待ち続ける。

 ――それから、一時間弱ほど経過した頃だろうか。静寂が支配していたその部屋に、ガチャリという音が響く。顔を上げると、丁度部屋の扉が開けられた所で。

 

「……お待たせしてしまいましたね」

 

 入ってきたのは、先程対面したばかりの閻魔様。四季映姫・ヤマザナドゥである。

 先程までの様子と比べると、やや疲れの色が濃く出ているように思える。姿形は十代後半の少女にしか見えないのに、彼女から感じ取れる疲労感は一端の社会人のそれと同等だ。いや、それ以上かも知れない。

 岡崎進一というイレギュラーの介入により、裁判所側もどう処理すべきか決めあぐねていたのだろう。そう思うとこちらとしても申し訳ない気持ちが溢れてくる。

 

「……大丈夫なのか?」

「何がです?」

「いや……。随分と疲れているみたいだから……」

「それを貴方が気にする必要はありません」

 

 進一とは向かい側のソファに座り、そして映姫はぴしゃりと言い放つ。疲れていようが何だろうが、あくまで彼女は自らの仕事を全うするつもりなのだろう。梃子でも動かぬ程の強い意志だ。

 頑固、とも言えるが。

 

 けれどだからと言って、それで進一の気が収まるのかと言われるとそうではない。今一度映姫に向き直り、そして彼は頭を下げる。

 

「……すまなかった」

「……それは、何に対する謝罪ですか?」

「いや、その……」

 

 バツが悪そうな面持ちで、進一は続けた。

 

「俺みたいな奴がこっちに来ちまった所為で、あんたらも色々と大変な事になってるんだろ? だから……」

「気にする必要はない、と言ったばかりのはずですが?」

「だが……」

 

 映姫も進一もどうしようもなく頑なだ。気にする必要はないと主張し続ける映姫に、それでも気にせずにはいられない進一。どちらも自らの気持ちを曲げる気配すらみせないのだから、話は堂々巡りである。

 あくまで主義を主張する映姫。けれどバツが悪そうな表情を変えない進一。

 ――先に肩を窄めたのは、映姫の方だった。

 

「まったく……。変な所で生真面目ですね、貴方は」

「……悪かったな」

「……いや、悪い事ではありませんよ?」

 

 今の今まで硬い表情を保ち続けていた映姫。そんな彼女が、そこで初めて表情を綻ばせる。

 

「そのような表情を浮かべる事が出来るという事は、少なくとも貴方は他者を気に掛ける事の出来る心を持っているという事です。私はそんな心情を咎める気はありませんし、だからと言って突き放すつもりもありません」

「そう、なのか……?」

「ええ。ですが気にする必要はない、という主張を変えるつもりはありませんよ? これはあくまで私達の仕事であって、熟すべき義務なのですから。別に貴方の所為でどうこうなっている訳ではありませんし……。そもそも、このような状況を想定していなかった私達側に非がありますから」

 

 ――なんというか。この容姿からはとても想像できない程に、随分としっかりとした少女である。

 例え見た目が十代後半くらいの少女であろうと、やはり彼女は閻魔様なのだ。その肩書きは伊達ではないし、力不足なんてとんでもない。寧ろ彼女は十分に、閻魔足り得る器を持っていると言えるだろう。

 定着していたイメージとは少し違う。けれど彼女は、間違いなく閻魔様だ。こうして話を聞いているだけでも、その実感はひしひしと大きくなってくる。

 

 委縮しつつも、進一はボソリと呟いた。

 

「気にする必要はない、か……」

「そうです。……と言うか、どちらかと言うと貴方が気にすべき点は先程までの態度についてでしょう! お説教の件、忘れたとは言わせませんよ!」

「あ、ああ……。あれも、悪かったと思っている……」

 

 突然食い気味に話を蒸し返し始める映姫。やたらとそこを拘る辺り、それほどまでに先程の出来事は彼女にとって気に食わなかったという事なのだろうか。

 先に断っておくが、別に進一は彼女の事を見下したつもりは毛頭ない。ただ、厳格で強面な老人男性を想像して入廷した所為で、そんなイメージとは正反対の四季映姫とのギャップに困惑してしまっただけだ。いや、それだけでも見下したとみなされてしまったのかも知れないが――。

 

 いずれにせよ、その件について非があるのは明らかに進一である。ここはしっかりと謝罪を態度で表さなければなるまい。

 

「いいですか? 先ほども言いましたけれど、貴方はもう少し自らの態度に注意すべきです。少なくとも他者を気にかける事は出来るようなのですから、少し気を付ければおのずと改善されるはずですよ?」

「ああ……。そうだな……」

「それと、これは先ほど言いそびれた事なのですが……! 貴方はその言葉遣いも直すべきです! 貴方にその気があるのかどうかは分かりませんが、言葉の端に少々傲慢さが感じ取れます……! まずは目上の人に対して敬語を使う事から覚えるべきです!」

「……敬語、か」

 

 確かに、映姫の言う事は最もだ。

 相手が年下のように見えるから、ついフランクな口調で話し続けてしまっていたのだけれども――。しかし四季映姫は閻魔様。地獄の王なのだ。

 だとすればこの言葉遣いはあまりにも不適切である。傲慢だと称されてしまっても、それは仕方がないと言える。

 

(そうだよな……)

 

 今更なのかも知れないが、ここで態度を改めるべきであろう。

 

「申し訳ありませんでした、閻魔様。貴方のご指摘を重く受け止め、今後はその改善に全力を尽くします」

「……え? あ、あー……はい。わ、分かれば良いのですよ、分かれば……」

 

 ――何やら映姫は微妙な表情を浮かべている。ひょっとして、今の言葉遣いはおかしかったのだろうか。

 確かに、ちぐはぐな印象は進一だって自覚している。記憶がない故に生前の自分がどんな言葉遣いをしていたのかについてはあまりはっきりしないが、だからと言ってこのままではいけない。

 不適切であるのなら、少しずつ改善してゆくしかない。

 

「それで……閻魔様。他にどこか不適切な点はありますでしょうか? できればご教授願いたいのですが……」

「え? え、ええ! えーっと……。そ、そうですねぇ……」

「はい」

「そ、その……」

「何なりと、お願いします」

「…………っ」

「……閻魔様?」

 

 黙り込んでしまった。先程まで意気揚々と説教をしていたのに、酷い変わりようである。

 進一は思わず首を傾げる。やはり、この言葉遣いに問題があるのだろうか。微かに残された感覚を頼りにそれっぽく敬語を口にしてみたのだけれど、それでも限界がある。ここで映姫の言葉を聞き、何とか形にすべきであろう。

 

 ――しかし。映姫は何も答えない。黙り込み、悔悟の棒を握り、そしてぷるぷると身体を震わせて。

 それから、一分弱ほど経った頃だろうか。何やら映姫は頭を抱えて、がばっとソファから立ち上がると、

 

「あー! やっぱり今の無し、無しです! 普段通りの喋り方で結構です!!」

「……え? でも敬語を使えって……」

「だ、だからもういいんです! 貴方の敬語、何だかキモチワルイので!!」

「き、気持ち悪いって……」

 

 流石に理不尽だ。なぜ敬語を使っただけで、そんな事を言われなければならないのだろう。

 頭を抱えた四季映姫は、露骨に嫌悪感を覚えている様子。いや、この場合は気味の悪さと表現した方が適切か。急に敬語を使い始めた進一に対し、その大きな違和感が何よりも勝ってしまったのだろう。

 

 ――やっぱりどう考えても理不尽だ。酷いじゃないか。

 

「あんたも十分失礼じゃないか……」

「そ、それは、その……。た、確かにそうですし、申し訳ないと思ってますごめんなさい……! けれど貴方のその敬語は、何と言うか……急に改まり過ぎてるんです! その上どうにもちぐはぐした感じですし……。もう少し丁度良くできないんですか!?」

「なんだそれ。注文の多い閻魔様だな……」

 

 丁度良くなどと言われても、結局は彼女の匙加減である。それなら進一はどうしろというのだろうか。

 

「と、とにかく……! 私に対して敬語は必要ありません! 分かりましたか!?」

「ああ……。分かった」

 

 一方的に勢いだけで丸め込まれたような気もするが、それでも進一は取り合えず映姫の言葉を素直に受け止めておく。これ以上上げ足を取ろうものなら、更に面倒くさい事になりそうな気がする。

 ――ひょっとして、小町の言っていた面倒な性格とは、この事だったのだろうか。

 

「はぁ……。貴方の前だと、どうも調子が狂います……。『能力』も上手く作用しませんし……」

「……能力?」

 

 ボソリと口にした映姫の呟き。『能力』などという妙に含みのある言い回しが気になった進一だったが、けれどその確認をするよりも先に部屋のドアが再び開け放たれた。

 ガチャリと響く音。けれど映姫の時と比較すると、些か力強いようにも思える。やや乱雑にドアが開けられ、外から一人の少女が入室してきた。巨大な鎌――は背負っていないが、赤髪のおさげと着崩した水色の着物は健在である。

 

 進一もよく知る人物。他でもない、ちょうどついさっき脳裏に思い浮かべていた、件の死神少女。

 

「四季様ー! 頼まれていた調査、一通り終わりましたよ!」

「……ふむ、そうですか。ご苦労様です、小町」

 

 小野塚小町は入室するなり、はきはきと映姫にそう報告をする。突然の登場に進一は若干面を食らってしまったが、そこで先ほど別の死神少女から聞いていた話を思い出す。

 四季映姫の命により、小町は別の役割に回っている。こうして彼女が戻って来たという事は、その役割とやらを一通り完遂したのだろう。

 

 そんな小町は進一の姿を確認するなり、ニッと笑顔を浮かべて会釈をした。

 

「やあ、進一。……その様子じゃあ、裁判は上手くいかなかったみたいだねぇ」

「……ああ。そうらしいな。浄玻璃の鏡を使っても、俺の生前を暴く事はできなかったらしい」

「むぅ……。どうやら、事態は思った以上に複雑な事になっているのかもね……」

 

 進一の話を聞いた小町は、難しそうな表情を浮かべる。浄玻璃の鏡を使っても尚生前の罪を測る事ができず、その上裁判が中断されるなど前代未聞の事態らしい。小町は何となくその可能性も心の片隅で考えていたらしいのだが、けれどまさか実際にそうなるとは流石に思っていなかったようだ。

 それもそうだ。既に死んでこうして彼岸まで運ばれているのに、天国にも地獄にも行けないとは訳が分からないにも程がある。一体何がどうなっているのだろう。

 

「二人とも、無駄話はその辺にしなさい。小町、調査結果の報告を」

「っと、そうでしたそうでした」

 

 映姫にそう指摘されて、ポリポリと頭を掻きながらもそう口にする。

 そう言えば、小町は一体何の調査をしていたのだろう。こうしてこの部屋に現れたという事は、やはり進一とも何か関係しているのだろうか。

 そんな予感を密かに抱きつつも、進一は小町へと耳を傾ける。

 

「無縁塚、及びその周辺を一通り調査してきました。その結果――」

 

 鹿爪らしい表情を浮かべて、小町は映姫へと報告した。

 

「岡崎進一と思われる人間の遺体を、発見する事は出来ませんでした」

 

 

 *

 

 

 長く、高く、どこまでも遠くまで石段が伸びている。それに沿うように植えられた桜の木は既に半分近く花を咲かせており、周囲を春色に彩り始めていた。

 ひらりひらりと宙を舞う桜の花弁。灯篭に灯された青白い炎の光。それに混じって周囲を漂うのは、これまた青白い――人魂。その存在が、この場所の特徴をありありと物語っているようにも思える。

 

 彼岸とはまた違った方向性で、現実離れしている光景。どちらかと言えば此岸側の三途の河の畔に似ている。桜の花の存在が春を思わせるのに、空気はどこか肌寒いように感じられた。

 冥界、と呼ばれる世界らしい。本来ならば無罪を判決された死者が転生か成仏を待つ為の世界らしいが、当然ながら途中で裁判が中断してしまった進一には有罪無罪の判決は下っていない。それならばなぜ、彼はこの世界に連れて来られているのか。

 

 一言で言うのなら、生前の記憶を取り戻す為である。

 

『浄玻璃の鏡に何も映らない以上、貴方に判決を下す事はできません。まずは貴方の正体を突き止める事が先決です』

 

 進一へと向けて、映姫はそう口にしていた。

 正体を突き止める。そう表現すると少々仰々しくも思えるが、確かに今の進一は正体の分からぬ胡乱な存在である。未練どころか生前の記憶も残っておらず、それでも尚亡霊として存在し続ける青年。しかも浄玻璃の鏡の効力も受け付けない。

 今一度情報を整理すれば、不審に思われても仕方がない要素しかない事に気付く。疑われて当然だ。

 

『貴方の正体が何なのか。それを確かめるのに一番手っ取り早い方法は、貴方自身が記憶を取り戻す事です。その手掛かりを見つける為、貴方は冥界に永住するとある人物に会ってもらいます』

 

 そう言って映姫に連れて来られたのがこの石段である。

 限りなく続く石段。その先に建てられたとある日本屋敷こそが、今回の目的地らしい。本来ならば転生か成仏を待つ為のこの世界に永住する事を許された人物。閻魔より冥界の管理を任されているらしいのだが、その人物に会う事で本当に手掛かりを見つけられるのであろうか。浄玻璃の鏡が空振りだった手前、どうしても不安に思えてきてしまう。

 

「うん? どうしたんだい進一? そんな微妙な表情を浮かべちゃってさ」

 

 石段を登る途中。映姫に命じられて同行していた小野塚小町が、進一へと声をかけてくる。一旦思考を打ち切って、進一は小町の方へと視線を向けた。

 

「……何だよ、微妙な表情って」

「いやね。何て言うか……あんまり期待してない感じ? さっきからずーっと不安そうにぼんやりしてたじゃないか」

「……不安そう、か」

 

 先導する映姫の後に続きつつも、進一は再び考え込む。

 小町に指摘される程、表情に出ていたという事か。あまり感情を露わにしたつもりはなかったのだが、ひょっとしたら自分は意外と分かりやすい性格をしているのかも知れない。

 

「ま、あんまり気負い過ぎるのも良くないと思うよ? 確かに、お前さんの不安感はひしひしと伝わってくるけれど……。でも、まだ絶対に記憶が戻らないって決まった訳じゃないんだからさ」

 

 ポンと、進一の肩に手を乗せつつも小町はそう口にする。そんな彼女が浮かべるのは、相も変わらず気前のいい笑顔である。

 気を遣ってくれているのだろう。彼女にそう言われると、多少なりとも進一も落ち着く事が出来る。彼もまた、不安感を払拭して小町へと笑顔を向けた。

 

「ああ。……悪いな、気を遣わせちまって」

「いやいや、大した事はないさ」

 

 一見すると豪快な性格をしているようにも思える小町であるが、意外にも事細かに気配りをしてくれる少女でもある。それでも小町は何て事ないと肩を窄めるのだが、彼女の心遣いに進一が救われている事は事実である。

 ――こうして亡霊になってしまってから、小町には迷惑をかけっぱなしだ。

 

「……そういえば、あんたにはまだ礼を言ってなかったな」

「……礼? 何の?」

「色々、してくれただろ? 俺を彼岸まで運んでくれたり、閻魔様に事情を説明してくれたり……。今みたいに、何度も俺の気を紛らわせようとしてくれたじゃないか」

 

 そう、ここまで小町には散々迷惑をかけてしまっているのだ。

 それならば、それ相応の態度を彼女に示さなければならない。

 

「ありがとな。あんたのお陰で、助かった」

 

 きょとんとした表情で、小町は進一を見据えている。それはまるで、進一に何を言われたのかイマイチ理解していないかのような様子である。

 そんなに意外だったのだろうか。別に進一はドライな性格という訳ではない。悪いと思ったら謝るし、そうすべきだと思えばちゃんとお礼だって口にする。それくらいの常識なら弁えているつもりだ。

 

 程なくして、小町は再び破顔する。揚げ足を取られるのかとも予感していたが、けれど小町は進一の言葉を素直に受け止めてくれるらしい。

 

「なに、お前さんが気を遣う必要はないさ。あたいだって、お前さんとお喋りできて結構楽しかったからね」

「……そうなのか?」

「まぁね。ほら、幽霊達って口を利けないだろ? だから普段の仕事では、あたいが一方的に喋り続けてそれで終わりなんだけど……。でも、お前さんは亡霊だ。三途の河を渡る舟の上でも、こうして互いに言葉を交わしてお喋りする事ができる」

「……あんたはそれで満足なのか?」

「うーん……そうだね。あたいは結構お喋り好きだと自負してるからねぇ。お喋りが一方的じゃないってだけでも、あたいは満足なのさ」

 

 お喋り好き。確かに、分かるかも知れない。

 三途の河を渡る最中、小町は常に何かを喋っていたような気がする。進一の質問に対する答えであったり、特に深い意味はない他愛もない会話であったり。どんな些細な事だろうと、小町は常に生き生きと何かを喋り続けていた。

 そういう意味では、進一は多少なりとも彼女への恩を返す事が出来ていたのかも知れない。

 

「小町、それに進一。私語はそのくらいにしておきなさい。もうすぐ白玉楼に到着ですよ」

「……おっと、こりゃ失敬。それじゃあ進一。本当に、変な気を遣う必要はないんだからね?」

「ああ……」

 

 それだけを言い残し、小町は本来の役割へと戻る。そんな彼女の言葉を受けとめ、進一も今一度気を引き締める事にした。

 

 白玉楼。映姫も言っていた通り、そこが今回の目的地である。冥界最大級の日本屋敷にして、冥界の管理者とも言える人物が永住する場所。そこに近づくにつれて、緊張感がますます高まってゆくような感覚を覚え始める。映姫と対面する前と同じ感覚だ。

 どうやら自分は、意外と心配性であるらしい。表面上は平静を保っているつもりでも、ひしひしと強まる不安感はどうにも抑えられそうにない。

 

(ここで深く考え込んでも仕方がないが……)

 

 そして程なくして、進一達は石段の頂上まで辿り着く。真っ先に出迎えられた木造の正門を潜り抜けると、そこにあったのは想像以上に広大な日本屋敷であった。

 一体、どれほどの敷地面積があるのだろう。白を基調とした木造建築の建物で、彼岸の裁判所と違って根っからの和風建築である。所謂平屋と呼ばれる作りの建物だが、けれど建物が占める敷地面積の割合から鑑みるに内部はとてつもなく広大なのではないだろうか。

 

 そんな建物が悠々と鎮座するのが、敷き詰められた石畳の先。その脇の方へと視線を向けると、これまた広大な日本庭園までも確認できる。

 そんな光景を目の当たりにして、進一が真っ先に抱く感想は一つ。

 

(……広いな。無駄に)

 

 そう。無駄に、広い。

 こんなにも広大な日本屋敷だ。掃除などは一体どうなっているのだろうか。想像しただけでも気が遠くなってくる。

 

「おや? 貴方自らの出迎えですか」

 

 周囲を見渡しつつもぼんやりと考え込んでいた進一だったが、不意に映姫のそんな言葉が耳に流れ込んでくる。何の事だと視線を向けると、どうやら彼女は別の“誰か”へと言葉を交わし始めた所だったらしく。

 

「うん? そう言えば今日はお前さん一人なのかい? あの半人半霊の庭師は?」

 

 小町もまた、そんな“誰か”へと疑問を呈する。ちらりと視線を向けてみると、そこには一人の少女の姿が確認できた。

 不思議な印象を抱く少女だ。不安さえも覚える程に血の気のない白肌に、あまりにも儚げな桜色の髪。そしてその身に纏うのは、これまた控え目な水色の衣。見た目だけで判断するのならば歳は十代後半くらいに見えるのだけれども、とてもそんな少女とは思えない程の強烈な()()()()()()が彼女からは感じられた。

 

 そして。それより、何より。

 

「…………ッ!」

 

 彼女の姿を目の当たりにした途端。

 鋭く、けれどもどこかはっきりとしない奇妙な“感覚”が、進一の中を走り抜けていた。

 

(なんだ、今の……?)

 

 分からない。

 記憶が戻った訳ではない。そのような感覚とは根本的に違う。言うなれば、本能的に何かを察知したかのような――。

 

「ええ。妖夢は今ちょっと留守にしててね」

「……成る程。そういう事ですか」

 

 少女と映姫達がそんなやり取りを交わしているが、けれど進一はそちらに意識を傾ける事が出来ない。

 少女を前にした途端に感じたこの奇妙な感覚に、半ば胸中を支配されそうになってしまっていて。

 

「冥界にも何やらおかしな霊が混じっているようですが……。まぁ、その件についての言及はまたの機会にしましょう。幽々子、実は貴方に折り入ってお願いがあるのです」

「……お願い?」

 

 分からない。

 あまりにも些細な感覚だ。こんな感覚、いつまでも気にしていても時間の無駄であるようにも思える。けれどそれでも、どうにも軽視する事ができない。どうにも目を逸らす事ができない。

 

「……是非曲直庁に、何かあったって事?」

「ああ、いえ……そうではありません。ですが少し……いや、かなり奇妙な事態に陥っていると見て間違いないでしょう。どうやら色々と面倒な事になっているようでして……」

「面倒?」

 

 分からない。

 ()()は一体、何なんだ?

 

「取り合えず、まずは彼の紹介をさせて下さい」

 

 と、その時。不意に話題の中心が、進一へと向けられる。そこで初めて、彼は少女と視線を合わせた。

 少し丸みを帯びた顔。小町と比べるとやや幼さを多く残す容貌。そして薄く桜色がかった黒い瞳。

 未だぼんやりとしたままの進一の瞳を、彼女の瞳はしっかりと捉えている。

 

「初めまして。私は西行寺幽々子。貴方の名前、教えてくれるかしら?」

 

 目の前の少女が、そう自己紹介をしてくる。未だ思考が定まらぬまま、それでも進一は何とか言葉を引っ張り出そうとしていた。

 

「名前、名前……」

 

 そう、名前だ。名乗られたからのには、こちらも名乗り返さなければならない。幾ら胡乱な感覚に胸中を支配されていようとも、それだけは果たさなければならない最低限のルール。

 

「俺の、名前は……」

 

 未だに黒い靄がかかったままの、ぼんやりとした記憶。その中をぷかぷかと漂っているただ一つの“名前”を引っ張り出し、進一はそれを口にする。

 

「――進一」

 

 実感は薄い。けれどそれこそが、今の彼を亡霊として繋ぎとめる唯一の糸。

 

「岡崎、進一」

 

 けれど、その次の瞬間。

 目の前にいる少女――西行寺幽々子は、意外な反応を見せる事となる。

 

「――――ッ!?」

 

 明らかな驚愕。隠しようもない動揺。愕然として目を見開いた西行寺幽々子は、突然後ずさるようにして大きく一歩身を引いていた。

 異常な反応。岡崎進一という名前を耳にした途端、幽々子は人が変わったように激しく驚倒してしまっていた。

 

 まるで。

 まるでそれは――そう。

 

 “岡崎進一”という名前に、心当たりがあるかのように。

 

「……幽々子?」

 

 首を傾げた四季映姫が、胡乱気に幽々子の名前を呼ぶ。けれどそれでも尚、彼女の驚倒はまるで収まる事を知らない。そんな姿を目の当たりにした途端、進一は瞬時に理解した。

 

 明らかだ。それは確定的に明らか。

 この少女は何かを知っている。この少女は何かに気付いている。

 

 岡崎進一という青年の事も。彼が今、どんな状況に巻き込まれているのかという事も。

 

「こ、これは……」

 

 やっとの思いといった様子で、西行寺幽々子は声を発する。

 彼女の胸中を激しく支配する、一つの疑問を言葉として。

 

「一体、どういう事なの……!?」

 

 

 *

 

 

 通されたのは十二畳ほどの客間であった。

 和風だった外観からも想像できる通り、部屋は畳が敷かれた和室である。部屋の真ん中に大きな座卓が置かれており、それを囲むようにして幾つかの座布団の姿も確認できる。イグサのほのかな香りが自然と心を落ち着かせてくれるゆったりとした部屋であるが、客間にしては些か大きすぎるような気がする。いや、これくらいの規模の屋敷なら普通なのだろうか。

 

 そんな客間に通された進一だったが、生憎今はゆったりとした心持ちになれそうにない。ピリピリとした雰囲気の中、映姫や小町と共に進一は西行寺幽々子と対面している。

 岡崎進一という名前を聞いた途端、幽々子が突然豹変したのはつい先程の事だ。まるで、有り得ない事象を目の当たりにしてしまったかのように。まるで、理解の範疇を大きく超えた一つの事実を突き付けられてしまったかのように。西行寺幽々子は動揺し、そして激しく焦燥していた。

 

 一体、何が起きている?

 どうして目の前にいるこの少女は、ここまで動揺を露わにしているのだろうか。

 

「さて、話して貰いましょうか」

 

 程なくして、映姫が幽々子へと向けてそう切り出す。

 

「貴方は一体、何を知っているのです? 一応言っておきますけど、私に隠し事をしても無意味ですからね?」

「ええ、分かってるわ。……ちゃんと、話すわよ」

 

 けれど幽々子は、それでも尚バツの悪そうな表情を浮かべていて。

 

「でも……正直、私だって細かな所までは知らない。あくまで断片的……それも凄く不明瞭な情報だから……。それは予め了承して欲しいわ」

「構いません。説明しなさい」

 

 映姫が促すと、そこで彼女は意を決してくれたらしい。ポツリポツリと、説明を開始した。

 

「岡崎進一。私がその名前を初めて聞いたのは、今から二年くらい前の事よ」

 

 

 ――それから進一は、黙って幽々子の話を聞いた。息を呑み、身を乗り出し、瞬きをするのさえも忘れそうになって。いや、何も喋れなかった、と言った方が正しかったかもしれない。

 

 西行寺幽々子。彼女の口から語られたのは、とんでもない内容だった。

 魂魄妖夢という名の少女の事。彼女が約四ヶ月もの間、突如として行方不明になってしまった事。そしてある日唐突に帰還した彼女が、幽々子に語って聞かせてくれた事。

 問題はその最後の話だ。空白の四ヶ月間、魂魄妖夢という少女はどこに行っていたのか。四ヶ月間その行方を眩ませてしまった魂魄妖夢という少女は、一体何をしていたのか。一体――()()巻き込まれてしまっていたのか。

 

 西行寺幽々子は当事者ではない。あくまで妖夢から話を聞いただけだ。けれどそれでも、まるで自分が体験してきたかのようにリアルに語って聞かせてくれて。

 

「なっ……」

 

 息が詰まり、声を発する事さえも上手くできなくなる。けれどそれでも、彼は何とか幽々子の言葉を繰り返す。

 

「タイム……スリップ、だと……?」

 

 それは、あまりにも現実離れした現象。

 

「ええ。そうよ」

 

 頷きつつも、幽々子は答える。

 

「あの時……妖夢は単に外の世界に放り出された訳じゃない。今から約八十年後の未来の世界に、タイムスリップしてしまったの」

 

 確かに、幽々子の説明は断片的だ。タイムスリップなどという現象を口にはしているものの、その具体的な原理や原因ははっきりしていないらしい。

 けれど、それでも。有り得ない話だと、彼女の言葉を一蹴する事は出来ない。馬鹿馬鹿しい話だと、彼女の言葉から目を背ける事もできない。

 

「八十年後の未来の世界で、あの子は……。妖夢は、出会ったの」

 

 彼女の言葉は間違いなく、紛れもなく、疑いようもなく、確実に。

 

「岡崎進一という名前の、男の子に……」

 

 偽りなどではない。それはたった一つの、かけがえのない真実だ。

 そんな確信めいた根拠のない感情が、進一の胸中を支配していた。

 

「八十年後の、未来……」

 

 消え入るように、進一は呟く。

 小町に自分の状態を説明された時も、自分の名前を記憶の中から引っ張りだした時も、そして彼岸にて閻魔の裁判を待っている時も。感じていた、感覚。

 不安感。けれどそれは、あまりにも釈然としない感覚で。

 

「ちょ、ちょっと待っておくれよ……!」

 

 声を上げたのは小町だった。彼女もまた酷く混乱した様子で、座卓へと大きく身を乗り出す。

 

「それじゃ、あれかい……? 進一は、八十年後の未来からこの時代に飛ばされてきたんだって……お前さんはそう言いたいのかい!?」

「……ええ。妖夢の言葉が正しければ、多分……」

「ば、馬鹿な事を言わないでおくれよ! 幾ら幻想郷でも、そんな事……!」

「落ち着きなさい、小町」

 

 興奮気味の小町とは裏腹に、落ち着いた印象の声調。宥めるように口を挟んだ四季映姫は、チラリと小町へと視線を向けると、

 

「貴方が熱くなってどうするのです。冷静な観点で状況を分析し、不明瞭な謎を解き明かす為の手掛かりを見つける……。その為に、私は貴方を同行させたつもりだったのですが?」

「えっ……? そ、そうなんですか?」

「はぁ……。まぁ確かに、小町の気持ちも分かります。けれど幽々子の言葉だって、丸っきり有り得ないという訳でもなさそうですよ」

 

 今度は進一を一瞥する。それから映姫は、再び幽々子へと視線を戻した。

 

「浄玻璃の鏡に何も映らず、私の『能力』も上手く作用しない。更には彼と思しき遺体もまるで見つからないと来ています。はっきり言って実に奇妙な事態に陥ってますが、けれどもしも本当に彼が八十年後からタイムスリップしてしまったのだとすれば……」

「……納得はできる、という事ね」

 

 話がどんどん進んでゆく。進一は半ば置いてけぼりにされてしまった状態だ。

 タイムスリップだとか、八十年後の未来だとか。そんな事を急に言われても、すぐに理解なんて出来る訳がないじゃないか。

 

「……貴方はどう思います?」

 

 ――と、その時。不意に映姫が誰かにそう声をかける。けれど小町や進一に意見を求めた訳ではない。

 座卓を挟み、幽々子と対面したままの四季映姫。けれど彼女の意識が向けられているのは、その背後。思わず振り返るとそこにあるのは――障子、だろうか?

 

「……おや? どうしたのです? まさかそれで隠れているつもりですか?」

 

 挑発するかのような映姫の声。それは明らかに、進一達ではない第三者に向けられたものだ。

 進一は息を呑む。本当に、他の誰かがいるのだろうか。人の気配など、まるで感じ取る事も出来ないのに。

 

「……まったく」

 

 嘆息混じりに、映姫は立ち上がる。そして悔悟の棒をおもむろに掲げると、一振り。

 

「なっ……わ、わわっ……!?」

 

 聞き覚えのない少女の声。それが進一の耳に流れ込んできたかと思うと、直後にどしんと鈍い音が響いた。

 障子の向こう側ではない。何もなかったその空間から、彼女は突然()()()

 艶のある金色の髪。ナイトキャップにも似た白い帽子。そして紫色を基調としたドレス。一体どこに隠れていたのか、どうやらその少女は映姫によって無理矢理()()()()()()()()らしく。

 

「っ! だ、誰だ……? いきなり……」

 

 けれど進一の小さな呟きに答える者はいない。座布団から立ち上がった四季映姫は、倒れ込んだその少女へと歩み寄りつつも。

 

「貴方の『能力』は『境界を操る程度の能力』でしたね。まぁ確かに、あらゆる事象を根本から覆す事の出来る可能性を秘めた力ではありますが……。けれど致命的な弱点が存在します」

 

 少女の眼前で映姫は足を止めるが、それでも彼女の説明は止まらない。

 

「境界を操る為には、まずはその境界を否定しなければならない。あらゆる物事に存在する境界そのものを“あやふや”にし、そして再構築する……。そのプロセスを踏まない限り、貴方は『能力』を完遂させる事はできません」

 

 倒れ込んでいた紫色のドレスの少女は、そこでおもむろに身体を持ち上げる。けれど忌避するかのように、一向に映姫へと視線を向けようとしない。

 

「それなら話は簡単です。一度“あやふや”にした境界を、貴方よりも先にこちらで確立してしまえばいい。しかも貴方が得意とするそのスキマとやらは、境界を“あやふや”にした段階で止めているのでしょう? でしたら、その“あやふや”をはっきりさせてしまえば、スキマそのものを無力化する事だって可能です」

 

 そして映姫は、ニコリと笑って。

 

「故に『白黒はっきりつける程度の能力』の前では、貴方の『能力』など子供騙しと同義なのですよ? 紫」

「うっ……。だ、だから貴方は苦手なのよ……」

 

 忌々し気に声を漏らす少女。映姫には紫などと言われていたが、それが彼女の名前なのだろうか。

 目の前で何だかさらりととんでもないやり取りが行われていたようだが、流石の進一もそろそろ慣れてきてしまったような気がする。既に死神やら閻魔様やらと対面してしまっているのだ。何もない空間から突然少女が現れた所で、ぶっちゃけ今更である。

 

「紫……! 貴方、帰ったんじゃなかったの……?」

「え? い、いや……。まぁその、ちょっと気になって……ね?」

「気になって盗み聞きですか。それは聞き捨てなりませんね。そもそも生者である貴方がおいそれと冥界に来るべきではないと、以前にもあれ程……」

「ま、待ってよ! 今は私に説教なんてしてる場合ではないはずでしょう……!?」

 

 またもや映姫のありがたーい説教が始まりそうになっていたが、紫が声を荒げて無理矢理それを制する。この閻魔様、さっきから事あるごとに説教を始めようとしているような気がするのだが――。そんなに説教が好きなのだろうか。

 

「コホン。えっと……。貴方が妖夢の言っていた男の子ね? お初にお目にかかるわ」

 

 咳払いを一つ挟み、彼女は進一へと視線を向ける。

 

「私の名前は八雲紫。そこにいる幽々子とは昔馴染みなの。よろしくね」

「あ、ああ……。俺は岡崎進一だ。よろしく頼む」

 

 八雲紫と名乗った少女に対し、進一もまた自分の名前を告げておく。彼女も幽々子と同様に妖夢なる人物から進一の事を聞いているらしいのだが、それなら一体どの程度の情報を把握しているのであろう。

 ――いや。そもそも、それ以前に。

 

「なぁ。その妖夢って奴は、一体どんな奴なんだ? 俺はそいつと会った事があるんだろ?」

 

 そう、それである。

 西行寺幽々子も八雲紫も、結局は単に話で聞いただけである。百聞は一見に如かず。実際に進一と交流した事のある魂魄妖夢の情報が得られれば、記憶を取り戻す為の手掛かりだって見つける事が出来るかも知れない。

 けれど。進一のそんな言葉を聞いた途端、八雲紫の表情が曇る。口をつぐみ、息を詰まらせ。そしてどこか悲し気な視線を、進一へと向け始めていて。

 

「貴方……。本当に、何も覚えていないの……?」

「えっ……?」

 

 ――何だ。どうして彼女は、ここまで悲しそうな表情を浮かべている? 今の彼女の言葉から感じ取る事ができるのは、岡崎進一への疑いではない。強いて言葉にするのならば――懇願。そうであって欲しいと、まるでそんな願いを込めて質問を投げかけてきたかのように思える。

 本当に、何も覚えていないの?

 それはつまり、本来ならば絶対に消失してはいけなかったはずの記憶を、進一は失くしてしまったという事になり――。

 

「ねぇ、進一さん……。私にも、教えて……」

 

 そして西行寺幽々子もまた、懇願するかのよう進一へと質問を投げかける。

 

「本当に何も感じないの……? 魂魄妖夢という名前を聞いても、貴方は何とも思わないって言うの……? あの子と交わした言葉も、育んだ思い出も……。全部、忘れちゃったって言うの……?」

「言葉……? 思い、出……?」

「そんなの……。そんなのって……!」

「ちょ、ちょいと待ちなよお二人さん」

 

 口を挟んだのは小町だった。進一達の間に割って入るように、彼女は立ち塞がると、

 

「進一だって、記憶がなくて不安に思ってるんだ。それなのに質問攻めなんて、そりゃちと酷なんじゃないかい?」

「……そうですね。小町の言う通りです。それで彼の記憶が戻るのであれば私は何も言いませんが、徒に彼を苦しめるだけであるのなら話は別です」

 

 ぴしゃりと映姫に言い放たれては、最早誰も何も言えまい。けれどそれでも進一は、胸の奥を激しく締め付けられるような感覚を覚え始めていた。

 魂魄妖夢。忘れてはいけない記憶。思い出さなければならない思い出。彼女と交わした言葉。

 何も覚えていない。何も思い出せない。それでも心が締め付けられる。それでも胸が苦しくなる。

 

 この感覚は、一体――。

 

「話を戻しましょう」

 

 そんな中。映姫が話題の軌道修正を行った。

 

「兎にも角にも、進一には浄玻璃の鏡も私の『能力』も作用しません。更には本人も生前の記憶を覚えておらず、しかもタイムトラベラーである可能性までも浮上してきました。そんなあまりにも不明瞭な情報が揃ってしまっては、幾ら私でも判決を下す事が出来ないのです」

 

 そして彼女は、チラリと進一を一瞥すると、

 

「けれど彼が本当に時間を跳躍してこの時代に紛れ込んでしまったのであれば、浄玻璃の鏡に何も映らないのも納得できます。浄玻璃の鏡は、生前のあらゆる行いを映し出す事の出来る宝器……。しかし岡崎進一という人間は、本来この時代において()()()()()()()()()はずの存在です。つまり、もしも浄玻璃の鏡に何か映っていたのだとすれば、それはこれから起こる未来の出来事が映し出されている事になります」

「……幾ら浄玻璃の鏡でも、未来の出来事を投影する事は出来ないという事ね。流石にそんなイレギュラーは効力の範囲外……と」

 

 答えたのは紫だった。思案顔を浮かべつつも、彼女は自らの推測を映姫達に説明する。

 

「そして貴方の『能力』もまた、そんなイレギュラーの前では意味をなさないという事かしら?」

「……そ、そうですね。その件については否定しません」

「ふぅん……」

 

 少しばかりたじたじとした様子になる映姫。そんな彼女を目の当たりにして、何やら紫がニヤニヤとした表情を浮かべている。

 してやったり顔、とでも形容すべきだろうか。自分にとって天敵とも言える四季映姫の『能力』にも、効果が及ばない“穴”が存在したのだ。それで若干の優越感を覚えているのだろう。

 ――思ったよりも子供っぽい性格の少女だ。負けず嫌いなのだろうか。

 

「そ、それで、進一が幻想郷の三途に河に流れ着いてしまった件ですが……。何らかの要因が重なって彼が元いた時代で命を落とし、その直後にタイムスリップに巻き込まれてしまったと仮定すれば……その件も納得できませんか?」

「……そうね。まぁ、肝心のタイムスリップに関してはまるで何も分からないけれど……。でも貴方の言う通り、そうであると仮定すれば……進一君、だったわよね? 彼の幻想入りについても説明出来るわ」

 

 調子が戻って来た様子で、紫は続ける。

 

「本来、この時代において進一君はまだ生まれてもいないはずの存在よ。当然、彼に関する記憶を持つ人間なんて外の世界にいる訳もない。ま、これも私の想定外ではあるけれど……。でも、『幻と実体の境界』の効力に引っかかる条件は満たしていると言えるわね」

「……やはり、そうですよね」

 

 納得して様子で、映姫は息をつく。そんな彼女らのやり取りを眺めながらも、進一は半ば自分が蚊帳の外に追い込まれたかのような心境に陥っていた。

 話が色々と飛躍し過ぎだ。記憶のない今の進一では、幾ら何でも会話についていく事が出来ない。

 

「……閻魔様達の言っている事がさっぱり分からんのだが」

「大丈夫。あたいもあんまり理解できてないからさ」

 

 ――大丈夫なのだろうか。

 

「さて、随分と遠回りをしてしまいましたが……結論を述べましょう」

 

 そこで映姫は、再び幽々子へと視線を向ける。今の今まで俯いたまま黙り込んでいた幽々子だったが、そこでようやく顔を上げた。

 

「幽々子。しばらく間、進一をここに置いてはくれないでしょうか?」

「……やっぱり、そういう話だったのね」

 

 頷いてそれに答えつつも、映姫は続けた。

 

「浄玻璃の鏡に何も映らない以上、今の私には彼の行く末を決定する事ができません。しかも彼自身も生前の記憶を失っており、自らの素性すらもはっきりしない状態です」

 

 それは何度も映姫から説明をされた内容だ。進一だって、今の自分の立場くらい理解しているつもりである。

 

「つまり得体の知れない進一さんをどう処理すべきか、是非曲直庁も決めあぐねているって事?」

「……ええ。そうです」

 

 そこで映姫は、「しかし……」と切り出す。

 

「今は貴方から聞いた断片的な情報しかありませんが……もしも彼が生前の記憶を取り戻す事ができれば、どういった経緯でこの時代に迷い込んでしまったのかも分かるようになるはずです。しかも妖夢が彼と面識があったとは僥倖でした」

 

 妖夢。

 まただ。

 また、その名前。

 

「面識のある人物と対面する事が出来れば、彼も記憶を取り戻す事が出来るかも知れません。……それに」

 

 そこで映姫は息を呑む。やや躊躇いがちな表情を浮かべた彼女だったが、それも一瞬の事だ。すぐさま意を決し、そして幽々子へと言葉を投げかける。

 

「……幽々子。貴方も進一とはある意味()()()()()存在です。そんな貴方の傍にいる事で、彼も何か“きっかけ”を掴む事が出来るかも知れない」

「似たような、存在……」

「そういう意味でも、彼を滞在させるにはここが最も適した環境なのです。本来ならば裁判の終わっていない者を冥界に留まらせるなど、些か問題があるのですが……そこは私が責任を取ります」

 

 映姫の表情は至極毅然としたものだ。自らの役割を全うする為に、彼女は真剣に幽々子へと頼み込んでいる。

 

「ですから幽々子。どうか力を貸してくれませんか? 当然ながら私も力を尽くすつもりですが……それでもやはり限界があるのです」

「…………っ」

「お願いします、幽々子」

 

 西行寺幽々子は閻魔より冥界の管理を任された身だったはずだ。つまり映姫にとって、彼女は部下のような存在という事になる。そんな幽々子へと向けて、映姫はこうして頭を下げている。

 

(閻魔様……)

 

 どうして。

 どうして進一の為に、彼女はここまでしてくれるのだろうか。面子の為? それとも自らの利益の為?

 ――いや。そのどちらも違うような気がする。

 

「……映姫さんにそこまで言われちゃ、断れないわよね」

 

 映姫の気迫に押されたのか、はたまた別の理由か。西行寺幽々子もまた、優し気な口調で映姫の言葉を受け入れた。

 

「分かりました。進一さんは、私が預からせてもらいます」

「……っ。いいのですか?」

「いや、まぁ実を言うと私もそうしたいと思ってた所なのよね~。進一さんについては、妖夢からよく話を聞いていたし……」

 

 そこで進一は、チラリと幽々子に一瞥される。

 

「それなのに、進一さんったら妖夢の事をすっかり忘れちゃってるんだもん。寧ろ意地でも思い出させたくなってきちゃったわ」

「……そうですね。親しかった女性の事を忘れてしまうなど、男としてあってはなりませんよね。進一?」

「……え?」

 

 急に話を振られた。進一は一瞬たじろぐが、それでも何とか口を開く。

 

「俺は……」

 

 魂魄妖夢。何度聞いても、そんな名前の少女の事を思い出す事が出来ない。彼女とどんな言葉を交わしたのか、彼女とどんな経験をしたのか。そして、彼女とはどんな関係だったのか。それすらも、はっきりとはしないのだけれど。

 

「俺は、確かに……妖夢って奴の事、何も覚えていない。でも……」

 

 それでも。

 

「それは必ず……是が非でも、思い出さなきゃならない記憶なんだって……。そんな気がする」

 

 相も変わらず漠然とした感覚だ。あまりにもはっきりしない。

 だけれども。魂魄妖夢という名前に対して、何も感じないと言えば嘘になる。確かに、何の記憶も戻ってこないのだけれども――。

 

(俺は、確かにそいつと……)

 

 会った事が、あるような気がする。

 

「……決まりですね」

 

 ポンと手を叩いた映姫が、そこで話を纏める。

 

「幽々子。進一の事を、よろしくお願いします」

「……ええ。承ったわ」

 

 今は白玉楼を留守にしている魂魄妖夢という少女。彼女に出会って、本当に進一の記憶が戻るのかどうかは分からない。妖夢だって、記憶を失った進一の姿を見て――果たしてどう思うのか。怒るのか、それとも心配してくれるのだろうか。

 分からない。分からない事だらけなのだけれども。

 

(それでも、俺は……)

 

 何としてでも、記憶を取り戻さなければならない。

 無意識の内に、進一は左手首のブレスレットを握り締めていた。

 

 

 *

 

 

「いいですか進一、あまり幽々子に迷惑をかけないこと。ただでさえ貴方は無意識の内に失礼な態度を取ってしまうようなのですから、もっと常日頃から意識を傾けてですね……」

「……あんたは俺のお母さんか何かか」

「ちゃ、茶化さないでください! そういう態度の事を言っているのですよ!」

「……ああ。注意する」

「まったく……。ああ、それと……」

 

 岡崎進一。生前の記憶がないという不思議な亡霊を映姫から預かる事にした幽々子だったが、なぜだか妙なお説教を傍観する羽目になってしまっていた。

 話が決まり、仕事に戻る映姫達を玄関まで迎えに行った直後の事だ。白玉楼を後にする直前、映姫お得意のお節介スキルが遺憾なく発揮され、あれやこれやと進一に対する助言が始まって――気が付いたらこれである。

 

 四季映姫の説教好きは最早周知の事実であるが、だからといって慣れるようなものではない。矛先が向けられている訳ではないとはいえ、流石に勘弁して欲しいものである。

 

「はぁ、また始まったわね……。これいつまで続くのかしら?」

「気長に待つしかないわね~」

 

 ぼやく紫へと向けて、幽々子は宥めるようにそう告げる。ここで映姫を無視してそそくさと帰ろうものなら、次に説教のターゲットにされるのはこちらの方である。無駄な抵抗はできまい。

 

「あのー、四季様? そういうのはもうそろそろ十分なんじゃ……」

「何を言っているのですか小町! というか貴方も貴方ですよ! 常日頃から、貴方はそもそも死神としての自覚が……」

「え、ええ!? そこであたいへの説教が始まっちゃうんですか!?」

 

 ――幽々子からしてみれば、説教をするなら余所でやって欲しいものなのだが。

 

「……ところで幽々子。本当にこれで良かったの?」

 

 と、ぼんやりと映姫達のやり取りを眺めていた幽々子だったが、不意に紫から声をかけられて我に返る。首を傾げつつも、彼女は聞き返した。

 

「……何の事かしら?」

「とぼけないでよ。……進一君の事。本当に、妖夢に会わせるつもりなの?」

 

 やはり、そう来たか。

 

「今の進一君はとても不安定な状態よ。タイムスリップに巻き込まれちゃったって事もかなりの大問題だけど……。それよりも今は生前の記憶についてね。ああ見えて、結構苦しんでいるみたいだし」

「……そうね」

 

 紫の表情は至極真剣なものだ。ふざけている訳でもなんでもない。

 彼女が一体、何を言いたいのか。それは幽々子でもはっきりと分かる。

 

「そしてここで一番の問題は、何よりも妖夢の事よ。今のあの子は……」

「……ええ。分かってるわよ」

 

 記憶を失った岡崎進一は精神的にやや不安定な状態だ。けれど魂魄妖夢という少女の精神状態もまた、進一以上に不安定なのである。

 西行寺幽々子を守る。そんな強い義務感を胸中に植え付けた今の妖夢は、まるで何かを紛らわせるように剣を振るい続けているように思える。鍛錬を続け、剣術を磨き、そして自らの役割を全うする事で。まるで、()()を忘れようとしているのではないかとも思える時がある。

 

 その()()とは、彼女が言わずともはっきりとしている。

 ――岡崎進一の事だ。

 

「多分妖夢は、進一君に対して特別な感情を抱いていたはずよ。それなのに、当の彼は妖夢の事さえも忘れてしまっている。そんな状態で二人が対面する事になれば……」

「……妖夢も、そして進一さんも。精神的に強いショックを受ける危険性がある」

 

 魂魄妖夢が岡崎進一に対して抱いている感情。それは話で聞いただけでも分かる程、強く大きなものである。例え鍛錬を続けようとも、例え剣術を磨こうとも、例え自らの役割を全うしようと努力しようとも。この二年間、決して忘れる事が出来なかった想い。

 けれど今の進一は、そんな妖夢も想いさえも忘れてしまっている。それどころか、魂魄妖夢という少女の事さえも何も覚えていないのだ。

 

 そんな状態の進一を目の当たりにして、妖夢はどう思うのか。それは火を見るよりも明らかで。

 

「でも……。こんな状態、いつまでも続けられる訳ないじゃない」

「えっ……?」

「妖夢はもっと、自分の気持ちに素直になるべきなのよ。無理矢理にでも気持ちを押し殺して、無理矢理にでも私に仕えようとしていて……。でもそんなの、絶対に間違っている」

 

 この二年間、なぜ彼女が進一への想いを押し殺し続けていたのか。それはその想いが、叶わぬものだと悟ってしまったからだ。

 自分と進一は、そもそも暮らす時代が違う。本来ならば進一は八十年後の未来に生きる青年で、この時代ではまだ生まれてすらいなくて。故に幾ら想いを抱いた所で、それが成就される事はない。その想いが届く事は決してない。

 

 そもそも、別の時代の誰かに想いを抱くなんて。そんな事は、あってはならない。

 だから想いを押し殺す。だから自分に嘘をつく。

 だから彼女は、あそこまで頑なになっている。

 

「荒療治が、必要なのよ」

「……荒療治、ね」

 

 魂魄妖夢の凍った心は、今の幽々子ではどうする事もできない。けれども、進一なら? 妖夢が想いを馳せている、他でもない彼ならば。

 或いは――。

 

「……それに」

 

 そこで幽々子は、ちらりと進一を一瞥する。

 

「……進一さんの事も、少し気になるしね」

「……気になる?」

「だって、私も……」

 

 そう。西行寺幽々子も、また。

 

「私も……。生前の事、何も覚えていないから……」

「幽々子……」

 

 幽々子も進一とはある意味()()()()()存在。なぜあの時、映姫はそんな事を口にしたのか。その理由は至極単純。

 だって幽々子もまた、覚えていないのだ。

 他でもない、生前の記憶を。

 

「でも私は、あの時紫や妖忌がいてくれたから、今もこうして毎日を過ごす事が出来ている。生前の記憶がなくたって、こうして今でも貴方と仲良くしていられる」

「…………っ」

「だから、かしらね。何だか放っておけないのよ。……進一さんのこと」

 

 そう。今の進一が、一体何を思っているのか。幽々子なら痛いほどわかる。なぜなら幽々子もまた、同じ痛みを経験した事があるからだ。

 だから放ってはおけない。だから蔑ろにはできない。

 

 だから、何か彼の力になりたいと。そう思うのかも知れない。

 

「……という訳です! 分かりましたか、二人とも?」

「ああ……」

「は、はいぃ……」

 

 そこでようやく、映姫の説教に終止符が打たれたらしい。ぐったりとした表情の進一や小町とは対照的に、映姫はやけにすっきりとした表情である。そんな進一達の心境など露知らずといった面持ちで、映姫は幽々子へと向き直った。

 

「さて、私はそろそろ戻りますね。私の方でも色々と調べてみますが……。そうですね、また後日……妖夢が帰還した後に伺いますので、そのつもりでお願いします」

「……ええ。分かったわ」

「それでは、進一の事、頼みましたよ。ほら、小町! 帰りますよ!」

「ちょ、四季様、少し休ませ……ああ、分かりました分かりましたよう!」

 

 踵を返した四季映姫と半ばヤケクソ気味で彼女に続く小野塚小町を見送りながらも、幽々子は今後の事を考える。

 妖夢が異変解決に向かったのは今朝。霊夢も一緒である事を考えると、遅くとも夜には帰ってくるはずだ。

 ある程度心の準備はしておくべきであろう。妖夢が今の進一を見て何を感じようとも、幽々子は幽々子の出来る事を全うするつもりだ。例え、今の幽々子に出来る事が極端に限られているのだとしても。

 

(私だって、守られっぱなしなんて……)

 

 そんな事、我慢ならないのである。

 

「なぁ、えっと……幽々子さん」

 

 そんな事を考えていると、不意に進一が声をかけてくる。視線を向けると、何やらバツが悪そうな面持ちで彼は言葉を選んでいるらしく。

 

「その……何だ。この通り、俺は亡霊の癖に生前の記憶がない。しかも未だに状況がイマイチ呑み込めていない部分がある上に、はっきり言って気持ちの整理すらも覚束ない状態だ」

 

 意外な反応だ。てっきり彼はもう少し高圧的な性格をしているのではないかとも思っていたが、意外と控え目なのだろうか。

 

「そんな俺があまり出過ぎた態度を取るのも、烏滸がましい事だとは分かっている。それでも……」

 

 申し訳なさそうに、進一は続ける。

 

「これからしばらくの間、世話になる事になる……。だから、その……よろしく頼む」

 

 頭を下げつつも、進一は幽々子へとそう告げていた。

 幽々子は思わず言葉を見失う。何と言うか、思ったよりも生真面目な青年である。言葉遣いは少々ぶっきらぼうな所があるが、態度や言葉そのものはそれにそぐわず実に真摯な印象だ。

 ワンテンポほど遅れたが、それでも幽々子は破顔する。ここまで真面目に頭を下げる彼を蔑ろにするほど、幽々子だって薄情ではない。

 

「ええ。……ようこそ、白玉楼へ」

 

 彼を白玉楼へと招き入れて、いずれ帰ってくるであろう妖夢と対面させて。その結果、どんな状態に陥るのか。二人が育んだ関係は、どうなってしまうのか。そして何より――なぜ、彼までもが時間を跳躍してしまったのか。

 分からない。ここにきて、不安と謎が一気に増えてしまったような気がするのだけれども。

 

 でも。それでも彼の幻想入りには、何か大きな意味があるのではないかと。

 そう思わずにはいられなかった。


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