桜花妖々録   作:秋風とも

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第28話「魂魄妖夢の疑念」

 

「お兄ちゃん! あれなに? 凄く甘い匂いがするよ!」

「ああ。クレープだな」

「へぇ……、美味しそう。いいなぁ……」

「……なんだその目は。なぜ俺を見る?」

「ねぇ、お兄ちゃん。お腹空かない?」

「……ったく。やっぱりそう来るか。分かったよ、買ってやる」

「やったー! 流石お兄ちゃん分かってるね!」

 

 昼下がり。文字通り強請るような瞳をこいしに向けられて、進一は渋々クレープ屋へと足を運んでいた。

 宛ら子守りでもしているかのような気分である。いや、と言うかそもそもこれは子守なのだろうか。幼い容姿に、あどけない性格。どこからどう見ても幼気な子供にしか思えないような少女を連れた今の進一は、周囲の人からどんな目で見られているのだろう。今更ながら少し不安になってきた。

 

「それで? どれにするんだ?」

「んーとね。このストロベリークリームってやつで!」

「……じゃあそれ一つ下さい」

「はい! かしこまりましたー!」

 

 快く受け答えしてくれるその女性店員は、特に妙な視線を進一に向けているような様子はない。ショーウインドウのサンプルを無邪気に眺めるこいしを見て微笑ましげな表情を浮かべた後、彼女はオーダーを奥の店員に伝えていた。

 

 何となく妙な安堵感を覚えつつも、進一は空を仰ぐ。

 一体、自分は何に巻き込まれているのだろう。今日は本来、蓮子に呼び出されてこの街中まで足を運んだのではなかったのか。それがドタキャンされるどころか、今はこうしてこいしと共にクレープが出来上がるのを待っている。

 

 古明地こいし。読心能力を放棄した、無意識を操る覚妖怪。そんな非常識的な存在が今、目の前にいる。

 

(どうしてこんな事になったんだ……?)

 

 まだ半日ちょっとしか経っていないのに、この時点で既に予想外の出来事の目白押しである。何と言うか、今日は酷く濃い一日になりそうだ。

 

 そんな事を考えている内に、程なくしてクレープが出来上がったらしい。進一は一旦思考を切り上げて、そのクレープを受け取る事にする。

 

「お待たせしましたー!」

「どうも。ほら、出来たみたいだぞ」

「わー! ありがとうお兄ちゃん! 食べていい?」

「ああ。落とすなよ?」

「大丈夫! いただきまーす!」

 

 進一から手渡されたクレープを、こいしは口いっぱいに頬張る。頬に生クリームをくっつけた彼女が浮かべるのは、まさに至福の笑みである。そこまで幸せそうな表情を見せられると、進一だって悪い気はしない。

 

 それにしても、本当に幸せそうに食べる奴だ。あまりこういった類の食べ物を食べた事がないのだろうか。

 

「可愛い妹さんですねー」

「いえ、違いますけど」

「……へ?」

「ですから、こいつは別に妹って訳じゃないです」

「あ、あれ? でもお兄ちゃんって……」

「勝手にそう呼ばれてるだけで、血縁関係ではありません」

 

 クレープ屋の女性店員に嘘偽りなくそう伝えると、なぜだか途端に変な目で見られた。

 

「あのぅ……。まさかとは思いますけど、犯罪的な事はしてませんよね……?」

「何ですか犯罪的な事って……。してませんよ」

 

 なぜいきなりそうなるのだろう。さっきまで別に妙な視線は向けてなかったじゃないか。

 進一がそこはかとない不安感を再び覚え始めていると、クレープを頬張っていたこいしが再びこちらを見上げてきて、

 

「これすっごく美味しいよお兄ちゃん! どう? 一口食べてみる?」

「……いらん」

「えー。ほら、遠慮しないで。私と間接キスできるチャンスだよ?」

「余計食えるかっ」

 

 またか。またなのか、この少女は。幼い容姿に、それにそぐうような純粋無垢な性格をしている癖に、なぜ時折りませた事を口走るのだろう。曲がり形にも容姿以上の年月を生きてきたという事なのだろうか。

 しかし、幾ら彼女が妖怪だろうと、ここはそんな非常識的な存在が否定された外の世界である。故にその幼い姿でそんな事を口走られてしまうと、色々と面倒な事が起きてしまうのだ。

 例えば、そう。この女性店員の反応とか。

 

「ちょ、ちょっと貴方! こんな小さい子に何を教えたんですか!?」

「いや俺は別に何も教えては……」

「見て見てお兄ちゃん! ほっぺに生クリームがついたこの感じ、ちょっとえっちっぽくない?」

「お前は少し黙ってろ……!」

 

 こいつワザとやってるんじゃないだろうか。

 どちらにせよ、このまま彼女を放置しておくと痛い目を見るのは主に進一だ。何とかして彼女を御さなければ。――かなり難儀しそうだが。

 

 しかし、一体どうすればいいのだろう。確かにこいしは妖怪だが、容姿も性格も幼い子供である。その癖ませているのだから、尚更タチが悪い。少女であるという点が特に。

 けれど、この少女が妙な事を口走る度に周囲から向けられる視線が痛くなってくるのも事実だ。難儀しようが何だろうが、やるしかない。

 

「なぁ、こいし。お前だって女の子なんだ。だからあまり変な事を口走るんじゃない」

「どうして?」

「いやどうしてって……。どうしてもだ」

「えー? でもこういう感じを好む男の人もいるって聞いたんだけどなぁ……。お兄ちゃんは違うの?」

「どこで仕入れたその情報っ!」

 

 やっぱり手に負えなかった。

 安請け合いしてしまったと、これ程までに後悔した事はない。まさか彼女がこういったベクトルで御しにくい少女だったとは夢にも思うまい。あぁ、クレープ屋の女性店員の視線がますます痛くなってきた。

 

 何か。この話題を振り切れるようなきっかけか何かがあれば――。

 

「進一さん!」

 

 と、進一が軽い混乱状態に陥りかけていたその時。不意に、誰かに声をかけられた。

 クレープ屋の女性店員でも、勿論目の前にいるこいしでもない。第三者。それも聞き覚えのあるの声。反射的に振り向くと、そこにいたのは一人の少女。

 

「あっ……」

 

 小柄な体格。白銀の髮。黒いリボン。

 魂魄妖夢。今は家にいるはずの彼女が、こうして進一の目の前に現れたのである。

 

 進一は息を飲む。確かにあの色々と問題のある話題を切り上げる為のきっかけが欲しいとは思っていた所だが、流石にこれは予想もできない。こんなにも数多くの人々が行き交う街のど真ん中で、まさか偶々この状況を妖夢に目撃されてしまうなど。

 買い物か何かの途中なのだろうか。手提げ鞄を持った妖夢は、進一に声をかけたっきりそれ以上まるで口を開こうとしない。

 いや、開きたくても言葉が上手く出てこないといったところか。口をつむんで頻りに進一とこいしの顔を見比べた後、最終的に彼女の視線はこいしの方へと向けられる。彼女の強い警戒心は進一から見えてもひしひしと伝わってくる程で、言葉が出てこなくとも妖夢の考えている事は何となく分かる。

 

 なんでお前がここにいる。きっとそのような事を考えているに違いない。

 

「あっ。あの時のお姉ちゃんだ。やっほー」

 

 しかし、あろう事かこの少女は驚く程に軽い様子で妖夢に手を振るのだった。

 

 進一はちらりとこいしを見る。相も変わらずクレープを頬張る彼女の表情は、晴れやかな笑顔である。妖夢の強い威圧感をその身に受けているはずなのに、彼女はまるで動じない。まるで意に返さない。まるで気にしていない。

 

「どうして……」

 

 一瞬だけ妖夢が呟きかけるが、しかし直ぐにまた口を閉じてしまう。それからキョロキョロと目だけで周囲を見渡し始めた。

 人目を気にしているようだ。まぁ、無理もないだろう。相手は明らかに非常識的な存在である得体の知れない少女。しかし、だからと言ってここで妙な事を口走り、周囲の人々に胡乱な視線を向けられてしまうのも問題だ。それを解決する為には。

 

「あの、進一さん……と、こいしちゃん。少しお話したい事があるんですけど、いいですか?」

 

 まずは人目のつかない所まで移動する。常套手段である。

 

「ふぅん……。話、ね……。ねぇお兄ちゃん。どうするの?」

「どうするって……。それを決めるのはお前なんじゃないか?」

「そう? ……うん。それじゃあ、お話しよっか?」

 

 案外あっさりと了承するんだなと、進一は少し意外に思っていた。

 てっきり、また適当な事を言って誤魔化すのではないだろうかと思っていた進一だったが、どうやらその予感は外れてしまったようだ。殆んど迷う事もなく、まるでこの状況を最初から見据えていたのではないかと思う程の即決である。

 しかし、こいしが自ら了承するのならそれでいい。別に、進一には尻込みをする理由などない。

 

 取り敢えずクレープ屋の店員に軽く会釈をした後、進一達は通りを後にするのだった。

 

 

 ***

 

 

 妖夢によって連れて来られたのは、先程までと比べると幾分か人通りが少ない小通りだった。

 丁度背の高い建物に左右を囲まれ、日の光も届きづらい薄暗い通りである。ひんやりとした空気によってより一層緊迫した雰囲気が高められ、息が詰まりそうな緊張感が周囲に漂い始める。先程までとはまた違った嫌な汗が進一の頬を撫でるが、妖夢は口を閉じたまま未だに歩を止めない。

 

 一体、どこまで行くのだろう。確実に誰にも見られない所まで移動するつもりなのだろうか。

 この感覚、何だかクリスマスイブのあの日を思い出す。三度笠を被ったあの女性も、こうして口を閉じたまま進一を誘導していた。状況的にはあの時と似ているようか気がするが、しかしきっかけはまるで違う。

 

「ねぇねぇ半分幽霊のお姉ちゃん。どこまで行くのー?」

 

 痺れを切らしたこいしがそんな風に声をかけるが、当の妖夢はちらりと一瞥した後に、

 

「……人目のつかない所まで」

「えー、それならもうこの辺で良いんじゃないの?」

「ダメだよ。誰かに話を聞かれたらマズイし」

 

 やけに冷たい声調で、妖夢が答える。

 今の彼女は至極冷静かつ落ち着いた印象だが、その様子が却って背筋を凍えさせる。表面は氷のように冷たいのに、内側は熱湯のように煮えたぎっているような。いや、別に進一にそんな感情を向けられている訳ではないのだけれども。

 と言うか、何気に敬語で話さない妖夢を見たのは始めてのような気がする。それはそれで新鮮だが、今はそんな事を気にしている場合ではない。

 

「……ひょっとして、凄く怒ってたりするの?」

「……怒ってないよ。私は全然、これっぽっちも怒ってない」

 

 その声色で怒ってないと言われてもまるで説得力がないのだが。

 

「ふぅ……。しょうがないなぁ」

 

 渋々と言った面持ちで、こいしがボソリと呟く。

 その直後。突然、周囲の空気が()()()()

 

「……っ!」

「どう? これなら誰にも聞こえないでしょ?」

 

 進一と妖夢が揃って周囲を見わたす。

 別に、急に周囲の風景が変わってしまった訳ではない。何かが急に現れた訳でも、逆に何かが急に消えてしまった訳でもない。ただ、何と言うか。何も変わっていないはずなのに、何かが劇的に変わってしまったような。そんな奇妙な感覚が、さっきからくっついて離れない。

 まるで、自分達だけ全く同じ風景の別世界に迷い込んでしまったような。そんな心地。

 

「これは……!」

「……成る程。これがお前の能力か、こいし」

「ふふっ、お兄ちゃん正解。ここは言わば無意識の領域。私も、お兄ちゃんも、勿論半分幽霊のお姉ちゃんも。今は誰からも認識されないし、そもそも意識を向けられる事もない。どう? 道端に落ちているような小石になってみた気分は?」

「……そうだな。奇妙な感覚だ」

 

 そう。本当に、奇妙な感覚だ。

 

「こ、こんな……。ある特定の人物を対象に、ここまでピンポイントに『能力』を作用させるなんて……」

「うん。苦労したんだよ? ここまで『能力』を使いこなせるようになるまで、本当に何年もかかったんだから」

 

 単純に見えて非常に繊細だ。自分自身だけならともかく、進一と妖夢までも無意識の領域に引き摺り込むなど。

 

「まぁ、私の苦労話なんて聞いてもつまらないでしょ? それで? 私にお話って何かな?」

 

 「まぁ、大抵予想はつくけど……」と、こいしは戯るように口にする。未だに驚きが隠せない妖夢だったが、それでも何とか強引に状況を飲み込んだらしい。一度深呼吸をして息を整えつつも、彼女はこいしに向き直る。

 

「……進一さんに何をしたの?」

「えー、何かした事前提なの?」

「当たり前でしょ。だって……」

 

 口篭りつつも、妖夢はちらりと進一の方へと視線を向けた後、

 

「だって、貴方には前科がある……。クリスマスイブの時みたいに、今回も……!」

「あー……。まぁ、それはそうだけど……」

 

 妖夢の言いたい事は分かる。今度は何を企んでいるのか。そんな疑念をこいしに抱いているのだろう。

 進一も真っ先に呈した疑問である。クリスマスイブ以降、彼女は全くと言って良い程こちらに接触してこなかったのだから。それが今日、このタイミングで再び進一達も前に現れた。

 警戒するなという方が無理な話だ。

 

「何もしてないよー。ただ、ちょっとお兄ちゃんが私の我儘を聞いてくれたの」

「我儘……?」

「そう。一緒に遊んでくれてたんだよ」

 

 妖夢の表情は固い。こいしの言葉をまるで信じていないのだろう。

 こいしはふてくされたような表情を浮かべた。

 

「むぅ……。何その顔。信じてないのー?」

「だ、だって……! そんな話、信じられる訳が……」

「ひどーい! 私は本当の本当に何もしてないよ!!」

 

 こいしはその容姿相応の子供にように、いきり立って不平を言う。そんな様子を目の当たりにして、流石の妖夢も面食らっている様子だった。いや、困惑していると言った方が正しいか。

 

「待て妖夢、聞いてくれ。俺は別に妙な事をされた訳じゃないぞ」

「進一さん……?」

 

 やはりここは進一が誤解を解くしかないだろう。話がややこしくなる前に、彼は口を挟む事にする。

 

「ほ、本当ですか……?」

「ああ。今の俺は至って正常だ」

 

 少なくとも、進一自身はそう思っている。何か妙な術をかけられた覚えはないし、得体の知れない薬物を盛られた記憶もない。今は自分自身の意思で、こいしに付き合っている。

 まぁ、半ば強引に、だけれども。

 

「そ、それじゃあ……。本当に、こいしちゃんと一緒に遊んでただけなんですか……?」

「まぁ……。遊んでたというか遊ばれてたというか」

 

 正しくは連れ回されていた、とでも言うべきか。

 肩を窄めつつも自分の状況を伝えると、妖夢は口をつぐんで黙り込む。どうやら何がどうなっているのか理解に時間がかかっているようで、彼女は瞠目したまま動けなくなってしまっていた。

 しかし。それから程なくして、

 

「…………」

「……妖夢?」

 

 俯いて黙り込んだまま、妖夢は進一の前まで歩み寄ってきた。

 声をかけみる――が、返事はなし。この至近距離で、この声が聞こえていないのだろうか。それとも、未だに頭の中が混乱していて、声が届いていないのか。

 そんな可能性を考えていた進一だったが――。

 

「……ですか」

「……え?」

 

 考えた推測がどちらも見当違いだったと、その直後に思い知る事となる。

 

「貴方は一体何を考えているんですか!!」

「うおっ……!?」

 

 怒鳴られた。思わずのけぞってしまうような勢いで。

 驚いた進一が後ずさりつつも身を引くが、追いかけるように妖夢が一歩踏み出してくる。その形相は今まで見た事もないような凄みで、途端に進一は蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまった。

 完全に面食らってしまった進一だったが、そんな事はお構いなしに妖夢は続ける。

 

「クリスマスイブの事を忘れたんですか!? 進一さんは一度誘拐されているんですよ!? それなのに何の警戒心も持たずにホイホイついて行ってしまうなんて……!!」

「いや全く警戒しなかった訳では……」

「言い訳しないで下さい!!」

「ハイ、すいません」

 

 目を逸らしつつも進一は口を挟もうとするが、妖夢のあまりの勢いに押されて反射的に頭を下げる。それでも彼女の怒りはまるで収まらないようで、「うううっ……!!」と唸りつつも鋭く進一を睨みつけているようだった。

 

 頭を下げた状態のままで、進一は萎縮する。何だ? 一体何がどうなっている? まさか妖夢がここまでキレてしまうなど。

 

「大体ッ……! 進一さんは迂闊すぎるんですよ! クリスマスイブの時だって、一人で勝手に独断して勝手に追いかけて、それで捕まったそうじゃないですか!! 進一さんってそう言う趣味でもあるんですか? 小さい女の子が好きなんですか!?」

「あ、あの時は……。スマホもなかったし、たまたま連絡が取れなかっただけで……。ってちょっと待て。俺に変な疑いをかけるんじゃない」

 

 因みにあの時進一が追いかけたのはこいしではなく、三度笠を被った女性である。そう言えば、今日は彼女と一緒ではないようだが、こいしとあの女性は仲間ではなかったのだろうか。

 そんな疑問が脳裏を過ぎるが、そんな事に気を遣う暇もない程に妖夢が怒りをぶちまけてくる。

 

 いや、ちょっと待て、よく考えてみよう。ついさっきまで怒りの矛先を明らかにこいしに向けていた妖夢だったが、彼女はそれでも怒ってないと答えていた。ひょっとしたら、今も怒っているように見せかけて実は怒っていないのかもしれない。表面的にはちょっとばかり感情的になっているだけで、妖夢からしてみれば平常心なのではないだろうか。

 

「なぁ、妖夢。ひょっとして怒ってるのか?」

「……はぁ? え? 逆に聞きますけど、怒ってないように見えるんですか? もしかしてその目は節穴なんですか? それともただの馬鹿なんですか?」

「……ですよね」

 

 普通にめちゃくちゃ怒ってた。

 

 その傍ら。怒りをぶちまける妖夢と萎縮してしまった進一の様子をぽけーっと見守っていたこいしだったが、何かに納得するかのようにポンッと手を叩くと、実に楽しそうな笑顔を浮かべる。それから進一達のもとへと駆け寄って来て、二人の顔を見比べた後、

 

「ねぇねぇ! ひょっとしてこれはあれなの? 修羅場ってヤツなの!?」

「お前はいちいち余計な事を言うな! 話がややこしくなるだろうがっ」

 

 この少女、修羅場の意味をどこか履き違えているような気がする。と言うか、そもそもなぜここまで楽しげなのだろう。その神経の図太さには最早敬意を示したくなってくる。

 

「わーい! 私も混ぜて混ぜて!」

「腕に抱きつくな……」

「いいじゃん! お兄ちゃんも抱きつかれて悪い気はしないでしょ?」

「実に鬱陶しい」

「またまたぁ、本当は嬉しい癖にー! ほら、素直になってみなよ。何なら、もうちょっと踏み込んだスキンシップも……」

「こいしちゃん」

 

 再びこいしの暴走が始まろうとしたその時、やけに優しげな調子で彼女の名前を呼ぶ声が。言わずもがな、魂魄妖夢である。

 ついさっきまで酷く怒っていたはずなのに、今の彼女が浮かべるのは満面の笑みだ。晴れやかで清々しく、やけに爽やかな表情である。ニコニコとしたその表情は、まさに妖夢の人の良さを文字通り体現しているように思える。

 ただし。その表情は笑顔であって、()()()()()訳だが。

 

「ちょっと黙っててくれるかな?」

「……、えっ……?」

 

 その瞬間。場が凍りついた。

 

「い、嫌だなぁ……。そ、そんなに怒らなくても」

「聞こえなかった? ちょっと黙っててくれるかな?」

「…………、はい」

 

 まさに笑顔の圧力。ゴゴゴという効果音と共に禍々しいオーラでも溢れてきそうな勢いである。有無を言わさず首を縦に降らせようとするその凄みを前にして、流石のこいしも従順にならざるを得ない。さっきまでの威勢はどこへやら。ぷるぷると小刻みに身体を振るわせつつも頷く事しかできなくなってしまっている。

 

 まさかあのこいしを上から抑え込み、あまつさえ従わせてしまうとは。普段は大人しい印象を受ける彼女がこんな一面を持っていたとは夢にも思うまい。

 この状況から進一が教訓にすべき事は一つ。魂魄妖夢を本気で怒らせてはいけない。

 

 

 ***

 

 

「はあ……。それで、こいしちゃんに付き合う事にしたと」

「ああ。あのままじゃ埒が明かなかったからな」

「はい。私がお兄ちゃんに我儘を言いました」

「成る程……。でもやっぱり迂闊ですよ。何かあったらどうするつもりだったんですか?」

「そ、それは、まぁ……。で、でも、多分大丈夫だ。そもそも、流石のこいつもあの人混みの中で妙な事をしようとは思わんだろ」

「……それはどうなの? こいしちゃん」

「はい。その通りです」

「なぜさっきから敬語なんだ……?」

 

 あれから進一達に事情聴取する事数分。話を詳しく聞いていく内に、妖夢は状況を把握してきていた。

 確かに、進一はこいしに何か妙な事をされた訳ではないようだ。今回はクリスマスイブの時のように無理矢理連れて行かれそうになった訳ではなく、進一自らの意思でこいしの我儘に付き合う事にしたらしい。

 ようやくホっと安堵する事ができた妖夢だったが、しかしそれはそれで問題があるのではないだろうか。

 

「……でも、どうにも納得できません。こいしちゃん。どうして貴方は今日に限ってそんな我儘を……」

「本当にお兄ちゃんと遊びたかっただけです」

「…………」

「い、いや……。そ、そんな目で見ないでよぉ……」

 

 こいしの敬語が崩れた。

 妖夢がギロリと睨みつけると、涙目になったこいしがガタガタと震え出す。その様子は、傍から見れば妖夢が彼女をいじめているようにしか見えなくもない。

 どうやら進一の目にもそう映っていたようで、

 

「……なぁ妖夢、こいしが泣いてるぞ。そろそろ勘弁してやったらどうなんだ?」

「へっ……!? い、いや、私は、その……」

 

 この状況。よく噛み砕いてみると何だか居た堪れなくなってくる。目の前にいるのは半泣き顔の幼い少女。完全に妖夢が悪者のような状況である。

 途端に気まずくなった妖夢が、慌ててこいしと目線を合わせる。

 

「こ、こいしちゃん。ご、ごめんね? 私、もう怒ってないから……。ね?」

「……本当?」

「う、うん。だからこいしちゃんも本当の事を話してくれるかな?」

 

 取り敢えずこいしの事を宥めつつも、妖夢は事情を聞き出そうとする。

 まるで本当に小さい子供を相手にしているような気分だが、だからと言って有耶無耶のままではいけない。彼女は頑なに進一と遊びたかっただけだと口にしているが、おそらくそれは彼女の真意などではないだろう。

 クリスマスイブのあの日。一方的に進一を陥れた彼女が、今更ただ遊ぶ為だけに接触してくるなど有り得ない。それ以外に何か狙いがあるのではないかと、妖夢はそう睨んでいるのだが。

 

「…………」

「だ、だんまり……」

 

 やはり何も話してくれない。まさかここまで頑固な少女だったとは。

 

「進一さんも何も聞いてないんですよね?」

「ああ。俺と遊びたかったの一点張りだ。まぁ確かに何かを隠してそうではあるけど……。でも嘘を言っているとも思えなんだが」

「……そう、ですよね」

 

 確かに。こいしが嘘を言っているという印象もない。進一と遊びたかったというその言葉は、おそらく出任せなどではないと妖夢も思う。

 進一と遊びたい。それは確かに彼女の目的の一つだ。けれども、それだけではないはずだろう。

 

「こいしちゃん。何か隠している事があるのなら、私達に話してくれるかな?」

「…………」

「え、えっと……。いつまでも黙ったままだと私も困っちゃうんだけど……」

「……条件」

「……え?」

 

 ボソリと、遂にこいしが口を開く。

 

「私、まだちゃんと遊んでない」

「……そ、そうなの?」

「うん。だから一緒に遊んで」

「へっ……?」

「半分幽霊のお姉ちゃんも一緒に遊んでくれたら、本当の事を話してあげる」

「あ、あー……。そういうこと……」

 

 成る程、そう来るか。

 この少女、まさか本当にただ遊びたいだけなのだろうか。ここまで意思を変えないとなると、本気でそう思い込みそうになってくる。

 

 しかし、ここは果たしてどうすべきか。言ってしまえば彼女が約束を守るとは限らないし、安請け合いしてしまうのは危険なのではないだろうか。

 そんな可能性も一瞬脳裏に過ぎった妖夢だったが、

 

「……どうするの?」

「えっ……と……」

 

 何と言うか、捨てられた子犬のような目でこちらを見上げてくるのだ。幾ら相手が得体の知れない存在だったとしても、こんな目を向けられてしまっては素直に首を横に振れなくなってしまう。しかも泣かせてしまった手前、罪悪感もひしひしと強くなってきてしまった。

 

(こ、これは……)

 

 何となく、進一が彼女の我儘に付き合ってしまった理由が分かったような気がする。この少女、意図的にこんな事をやっているのだとしたらかなりのテクニシャンである。流石にそれはないと思うけれど。

 

「……そ、それじゃあ」

 

 嘆息しつつも、妖夢は答える。

 

「……分かりました。こいしちゃんに付き合います」

「えっ……? い、いいの?」

「……うん。でも、ちゃんと約束は守ってよ?」

 

 致し方あるまい。このままこうしていても埒が明かない事も事実だ。事態を進展させる為にも、ここは彼女の要求を呑むしか選択肢は残されていないだろう。

 それに、彼女が危険な存在であるという不安がまだ完全に払拭された訳ではない。そんな少女と進一を二人きりにさせるのは、流石に躊躇われるのである。

 

「何だよ。結局妖夢も付き合うんじゃないか」

「進一さんを守る為です。また無茶な事をさせる訳にはいきませんからね」

「はいはい。そーですか」

 

 何だかこいしのペースに流されてしまったような気もするが、取り敢えず。

 進一の護衛と称して妖夢もまたこいしに付き合う事にするのだった。

 

 

 ***

 

 

 所変わって再び人通りの多い街中。妖夢までも巻き込んだ自称覚妖怪、古明地こいしは半ば引き摺るような形で進一達を引っ張っていた。

 相も変わらず純粋無垢な子供っぷりを遺憾なく発揮している彼女だったが、流石にここまで長時間引っ張られると進一だって慣れてくる。クリスマスイブの事だとか、自らを覚妖怪だと称した事だとか。そこまで非常識的な要素が含まれていると、嫌でも胡乱に感じてしまうものなのだけれども。

 

(やっぱり何だか調子狂うんだよな……)

 

 彼女の姿を見ていると、自然と警戒心も解れそうになってきてしまう。まさかこれも彼女も持つ『能力』によるものなのだろうか。

 

(無意識の内に心を許している、とか。だとしたら相当マズイ状況だけど)

 

 だけれども、まぁ。

 

「あー! 今絶対に掴んだのにー! どうして落っこちちゃうの!?」

「ば、バランスが悪かったのかな? というかそもそもアームの力が明らかに弱すぎるような……」

 

 古明地こいしの後ろ姿は、本当にただの子供みたいで。警戒するのも馬鹿らしくなってきてしまって。

 

(……まぁ、今度こそなるようになるさ)

 

 クリスマスイブの時は、そう思って痛い目にあったのだけれども。

 少しくらいは彼女を信じてやっても大丈夫かなと、進一はそう思い始めていた。

 

「く、悔しい……。あのぬいぐるみ、可愛い顔して侮れないね……!」

「あはは……。さっきから掴めてはいるのにね」

 

 さて。そんなあどけない少女こと古明地こいしが先程から奮闘しているのは、前後左右に移動するクレーンを操作して景品を獲得するゲーム筐体。所謂UFOキャチャーというヤツだった。

 「ゲームセンターに行ってみたい!」という彼女の要望に答え、取り敢えず近場にあるこの店にまで足を運んだ進一達。リズムゲームやシューティングゲームなど、数多くのゲーム筐体が所狭しと並べられている中、こいしが真っ先に興味を示したのがこのクレーンゲーム。正確に言えば景品の一つであるぬいぐるみであった。

 

 何をモチーフにしているのかは進一にはよく分からなかったが、おそらくアニメか何かのキャラクターだろう。クリクリっとしたその小動物じみた可愛さが、どうやらこいしの幼心を刺激したらしい。絶対に取るという意気込みの下、意気揚々とそのクレーンゲームに挑む事にしたのだが――。これが中々の曲者だった。

 

「そうだよ! 掴めてはいるんだよ! でも上まで持ち上げ切った時の微妙な振動でどうしても落っこちちゃうし……! どうなってるのこれ!?」

「け、結構微妙なバランスだよねこれ……」

 

 既に十数枚の100円玉がその筐体に飲み込まれているが、一向に獲得できる兆しもない。いっそ清々しく思えてくる程に、全くと言って良い程うまくいかないのである。

 こいしが下手くそなのか、それともこのゲームの難易度が高すぎるのか。とにもかくにも、このままでは埒が明かない。

 

「仕方ない……。ここは奥の手を使うしかなさそうだね……」

「……奥の手?」

「そう! お兄ちゃん、100円出して!」

「まだやるのかよ……」

 

 渋々とこいしに100円玉を渡す。それを受け取るや否や、彼女は妖夢の方へと視線を向けて、

 

「お願い、半分幽霊のお姉ちゃん! 私の仇を討ってよ!」

「えっ……ええ!? 私がやるの……!?」

 

 まさかの他力本願である。そんなものが奥の手で良いのだろうか。

 しかし、このままこいしが続けてもお金を無駄に浪費してしまう事も事実。ここは妖夢に任せてみるしかない。

 

「やってみたらどうだ妖夢。お前結構器用だし、こういうのも得意なんじゃないか?」

「うぅ……。分かりましたよ……」

 

 進一に促されて、妖夢もようやく腹を決めたらしい。こいしから受け取った100円玉を筐体の挿入口に滑り込ませた。

 いつになく真剣な面持ちで、妖夢はクレーンを操作する。大きく右方向に移動させた後、今度は隣のボタンを使ってクレーンを奥まで移動させた。目的のぬいぐるみは筐体の右奥に鎮座している。うまい具合にその上空まで移動させると、独特の効果音と共にクレーンはゆっくりと下降し始めた。

 

「ど、どうですかね?」

「まぁ……。位置は悪くないんじゃないか?」

 

 丁度ぬいぐるみの真上である。確かに、位置だけ見れば完璧のようにも思えるのだけれども。

 

「……あっ」

 

 大きく左右に開いたクレーンのアームは、確かにそのぬいぐるみを捉えていた。しかし、そう上手く景品を獲得できないのがクレーンゲームである。

 ぬいぐるみを上手く挟み込めたように見えたアームだったが、クレーンがゆっくりと上昇してもその景品を持ち上げる事ができなかったのだ。ぬいぐるみは全くと言って良い程微動だにせず、まるで油でも塗られているかのようにクレーンのアームがズルリと抜ける。結局何も掴めていないクレーンだけが獲得口まで移動して、何も捉えられていないアームだけが虚しく左右に開口する。

 

「…………」

 

 手本のような大失敗であった。

 

「うわぁ……。私より下手じゃん」

「い、いや、だって……! 私だって始めてやったんだよ!?」

「ふふーん、でも私はちゃんと持ち上げられたよ? お姉ちゃんの場合は呆気なくすっぽ抜けたよね?」

「そ、それは……そう! きっとあのアームが悪い! もっとパワーがあれば今のでばっちり取れてたよ!」

 

 何と言うか、中々低レベルな言い争いである。持ち上げる事ができようができまいが、結局は景品を獲得できなければ意味がないと思うのだが。

 ともあれ、この不毛な争いをいつまでも眺めている訳にもいかない。進一は二人の間に割って入る事にした。

 

「二人とも喧嘩するなって。と言うか妖夢。子供相手に大人気ないぞ」

「うっ……。す、すいません、つい……」

 

 まぁ、覚妖怪であるこいしの実年齢は、ひょっとしたら半分人間である妖夢などより上なのかも知れないけれども。

 そんな中、当のこいしは進一の袖を引っ張ると、

 

「じゃあさ、今度はお兄ちゃんがやってみてよ」

「……え? 俺が?」

「当たり前じゃん。私と半分幽霊のお姉ちゃんがやったんだし、次はお兄ちゃんの番でしょ?」

「あぁ……。そういうシステムなのか」

「うん。そういうシステムなの」

 

 そう来るか。

 やけにニヤついた表情でそう提案してくる辺り、どうやら彼女は進一が妖夢並みの失敗に終わると踏んでいるようだ。何を以てしてそこまで侮られているのかは知らないが、そこまで挑発的な態度を取られると闘争心がひしひしと湧き上がってくる。

 正直に言って、心外である。

 

「仕方ないな。それなら俺の実力を見せてやろう」

 

 ここはこいしの挑発に乗せてもらう事にした。

 

「へぇ。自身満々だね?」

「ああ。任せておけって」

 

 100円玉を挿入し、進一はクレーンを操作する。右端まで移動させた後、今度は奥への移動を開始。ここまでは妖夢と同じである。

 しかし、ポイントはここからだ。進一がクレーンを停止させたのは、ぬいぐるみの真上――ではなく、それよりもやや奥。一見すると、掴んだとしてもバランスを大きく崩してしまうような位置のように思える。

 

「……あれ? その位置でいいの?」

「これでいいんだ」

 

 クレーンが降下を始める。ある程度の位置で停止すると、大きく開いていたアームが勢い良く閉じた。

 やはり妖夢やこいしの時と比べると少し奥に行き過ぎであるように見える。しかし、進一の表情に動揺はない。それどころか、彼が浮かべているのは余裕のある不敵な笑み。

 

 直後。クレーンが上昇を始める。

 

「あっ……!」

 

 こいしが驚いたように声を上げる。

 それもそのはず。これまた独特な効果音と共に上昇したクレーンは、目的のぬいぐるみをしっかりと掴み上げていたのだ。いや、正確に言えば掴み上げていた訳ではない。とぐろを巻いたようなぬいぐるみの尻尾。その微妙な隙間にクレーンの片側のアームを引っかけ、そのまま持ち上げたのである。

 

「よしっ」

「ええっ!? そんなのありなの!?」

 

 クレーンが上まで到達しても衝撃でぬいぐるみが落下する事もなく、実に安定したまま獲得口まで運ばれる。特に危なげもなくアームが再び左右に開き、ぬいぐるみが落下する。

 景品獲得を告げるファンファーレが高々と鳴り響いた。

 

「おお! 凄いです進一さん! まさか本当に取っちゃうなんて……!」

「そ、そんな……! 私があんなにトライしても取れなかったのに……!!」

「こういうのって、コツがあるんだよな。ほれ」

 

 獲得口からぬいぐるみを取り出し、こいしに手渡してやる。彼女は嬉々とした笑みを浮かべて進一からそれを受け取った。

 

「わー! ありがとうお兄ちゃん! 全く期待してなかっただけに感動も割増しだよ!」

「さらりと酷い事言うなお前。いいか? 掴み上げようとして駄目な場合は、こういう尻尾だとか、輪になった紐類だとかにアームを引っ掛けてみた方が意外と上手くいくんだよ。或いは開いたアームで獲得口まで押し出すか。まぁ、今回は位置的にそれだと一発じゃ取れなかっただろうけど……」

「うーん! 全く取れなかった時はちょっと憎たらしく思えてたけど、やっぱりこうして見てみると可愛いね! 見て見てお姉ちゃん!」

「うん、そうだね。でも何のぬいぐるみなんだろ……?」

「……聞いてないのかよ」

 

 嬉しそうにぬいぐるみを掲げる今のこいしには、進一の言葉などまるで耳に入って来ていない様子。進一はちょっぴり悲しくなった。

 けれども。こうして無邪気に喜ぶ姿を見ていると、進一も悪い気持ちにはならない。やはりあのぬいぐるみを取ってやって良かったと、心の底から思えてくる。――ついでにこれ以上財布の中身を浪費せずに済みそうだし。

 

「よーし! 目的のぬいぐるみも獲得出来たし、次は別のゲームだね!」

「……ってちょっと待て。まだ何かやるのかよ」

 

 さも当然の事であるかのようにそんな事を口走るこいしに対し、透かさず進一が口を挟む。けれども彼女は満面の笑みを浮かべて、

 

「当たり前じゃん! 折角来たんだし、どうせなら色々なゲームもやりたいでしょ?」

「その気持ちは分からなくもないが……。でもさっきのクレーンゲームで俺の財布に意外とデカいダメージが」

「そうと決まれば善は急げだね! それじゃあレッツゴー!」

「いや聞けよ」

 

 一度こうなれば進一の言葉など彼女の耳には届かない。

 ぬいぐるみを片手に持ったこいしに引っ張られて、進一はゲームセンターの奥へと連れさらわれる。それでも何とかこいしを説得しようとするのだが、そんな彼の抵抗も虚しく終わり――。

 

「すいません、進一さん……。私にも持ち合わせがあれば良かったのですが……」

「……もういいさ。ここは潔く諦めるとしよう」

 

 自分は意外と幼い子供には弱いのかも知れないなと、進一はひしひしと感じ始めていた。




思っていたより長くなってしまったので、中途半端ですがここで区切らせて頂きます。

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