桜花妖々録   作:秋風とも

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第3話「月下蓮台野」

 

「よしっ、全員揃ってるわね? それじゃ! 早速蓮台野の調査を――ってちょっと!? 置いてかないでえ!?」

 

 深夜1時45分。案の定遅れてやってきた蓮子を無視して、進一とメリーはさっさと墓地へ足を踏み入れていた。

 

「ちょ、待っ……分かったわ! 謝る! 謝るから待ってえ!?」

 

 流石に居た堪れなくなったのか、蓮子は今までにない程に必死な形相でメリー達を追いかける。

 そんな様子を眺めながらも、妖夢は張り裂けんばかりの心臓の高鳴りを感じていた。割と冗談抜きで、心臓が破裂するんじゃないかと心配になってくる。

 夜の墓地だ。その一言に尽きる。しかも周囲の街灯は少なく、明かりは降り注ぐ月光だけ。周囲はほぼ暗闇である。その暗闇にはただ無機質な墓石だけがぼんやりと浮かび上がっており、なんとも不気味な雰囲気を漂わせている。さっきから背筋の悪寒が一向に収まる気配を見せないのは、きっと気の所為ではないのだろう。

 

 結局。あれから妖夢は、進一達に本音を打ち明けられずにいた。

 だって、そんな事言える訳ないじゃないか。進一も蓮子もメリーも、進んで妖夢の力になろうとしてくれたのに。我が儘なんて、言える訳がない。進一には何度か訝しめられていたようだが、それでも頑なに誤魔化し続けた。

 だけれども。本当は――。

 

「……どうしたの? 妖夢ちゃん」

「ひゃいっ!?」

 

 いつの間にか目の前にいたメリーに声をかけられて、驚いた妖夢は思わず変な声を上げてしまった。

 心臓が止まるかと思った。てっきり進一と共に先に行ってしまったと思ったのだが、どうやら一向に足を進めない妖夢に気づき、心配になって戻ってきてくれたらしい。

 

「ご、ごめんなさい……驚かせちゃったかしら?」

「へっ……あ、い、いえっ!? べ、別にメリーさんの所為じゃなくてですね!?」

 

 勢い良く首を横に振る妖夢。必死になって誤魔化そうとするが、狼狽え過ぎて滑舌だとか発音だとかがおかしくなってきた。

 

 そんな妖夢の様子を見たメリーは、余計に心配そうな表情を浮かべる。

 

「さっきからこんな感じなんだよ。俺が聞いても誤魔化そうとするし」

「そうなの……。ねぇ、妖夢ちゃん。ひょっとして、私達に何か隠している? 随分と無理をしているように見えるのだけど……」

「い、いやー!? 別に何も隠してませんけどっ!?」

「随分と露骨な反応だな……」

 

 露骨でもなんでも、ここまで来たら隠し通すしかない。今更打ち明けるなんて無理だ。

 ダラダラと冷や汗を流しながらも、妖夢は数歩後退りする。頭の中は既にぐちゃぐちゃで、冷静さなんて欠片もなかった。

 高鳴る心臓。荒くなる呼吸。吹き出す汗。目の焦点も合わなくなってきて、視界がぐるぐると回り始めた。周囲が何も見えなくなり、足取りも覚束無くなってくる。

 

 そんな時だった。トントンと、背後から肩を叩かれたのは。

 

「へっ……?」

 

 サッと、一気に血の気が引いたのが分かった。ボヤけていた視界が急にクリアになり、あんなにも荒れていた呼吸がピタリと止まる。

 おかしい。今の今まで、背後に人なんかいなかったはずだ。メリーも進一も、妖夢の目の前にいる。それなのに、このタイミングで背後から肩を叩かれるなんて。

 

 恐る恐る、妖夢は振り返る。

 恐ろしい形相をした少女の姿が、そこにあった。

 

「はっ……ひ……」

 

 先ほどまでぐちゃぐちゃだった頭の中が、突然空っぽになった。しかし、別に冷静になった訳ではない。頭の中が真っ白になり、思考が停止しただけだ。得体の知れないものを前にすると、半分人外の妖夢でも頭の整理が追いつかなくなるのである。まるで石にでもされてしまったかのように、妖夢の身体がピクリとも動かなくなる。

 

 次の瞬間。その得体の知れない何かが、ニヤリと口の端っこを釣り上げて、

 

「うらめしや~」

「ひゃああああああああああ!?」

 

 妖夢は飛び上がった。それはもう、物凄い勢いで。

 停止した思考が目の前のそれを再認識した途端、身体中の神経という神経が一斉に反応を見せた。認識した思考がそれを処理して理解するよりも数テンポ早く、大きく飛び退いた妖夢はその先にあった何かに抱きついてしまう。何やら柔らかいものが顔にぶつかるが、それを確認する余裕は妖夢にはなかった。

 ただ、唐突に背後に現れた何かがあまりにも恐ろし過ぎて。自尊心だとか、羞恥心だとか。そんな感情は全て捨て去って、妖夢は縮こまる事しかできなかった。

 

「わわっ!? よ、妖夢ちゃん大丈夫……?」

 

 上の方からメリーの声が聞こえる。ああ、そうか。メリーに抱きついてしまったのか。一番近くにいたのはメリーだったし、確かにあの方向に飛び退けば彼女にぶつかるだろう。

 それなら納得。

 

「ほほーう? 成る程、やっぱりそうだったのね」

 

 落ち着いて考えてみれば。メリーと進一が目の前にいるのならば、背後にいたのが誰かなんて容易に想像できるはずなのに。怯えきったあの時の妖夢では、そんな所まで気を回す余裕などなかったのだろう。

 

 妖夢の肩を叩いた人物。それは手に持った懐中電灯を顔の下から照らし、おどろおどろしい演出を施した宇佐見蓮子その人だった。

 大方、妖夢がメリー達へ気を取られている隙にこっそり背後に回り込んだのだろう。しかし懐中電灯を顔の下から当ててホラーな形相を作り上げるなど、随分と古典的な手法である。妖夢には効果抜群だったようだが。

 そんな妖夢の様子を見て、したり顔を浮かべた蓮子は一人何かに納得している様子だった。

 

「ふっふっふ……私の目は誤魔化せないわよ妖夢ちゃん。ずばり! 貴方はお化けが苦手なのね!?」

 

 バーン! と、そんな効果音でも聞こえてきそうな勢いで、蓮子はそう言い放った。その様子は宛ら、ただ一人真実に辿り着いた探偵のようである。

 しかし。当の妖夢はと言うと――。

 

「ぐすっ……うぇ、うえぇぇ……」

「よしよし。もう大丈夫よ」

「…………あれ?」

 

 メリーにしがみつき、完全に泣きじゃくっていた。

 

「……蓮子。流石にやり過ぎだ」

「ご、ごめん……」

 

 魂魄妖夢はお化けが大の苦手である。いや、厳密に言えば、所謂ホラー全般が駄目だ。

 なぜ苦手なのか、と言われても上手く説明はできない。苦手なものは苦手なのだ。人知では説明出来ないような化物を前にした時、妖夢は瞬く間に恐怖心に支配される。

 今一度確認するが、妖夢は半人半霊だ。半分は確かに人間なのだが、その半分は紛れもなく幽霊なのだ。にも関わらず、お化けが苦手なのである。何かの冗談ではないかと思うかも知れないが、苦手なのだから仕方ない。

 

 断っておくが、主である亡霊の少女や、幻想郷で普段から接している妖怪達が相手では特段恐怖心を覚える事はない。ただ、()()()()だけが駄目なのだ。

 

「ひっく……。ごめん、なさい……。本当は、私……怖いのとか、駄目で……。うぅ……」

「うんうん、分かるわ。怖かったわよね?」

「よ、妖夢ちゃん……?」

「ひっ!?」

 

 メリーに宥められていた妖夢だったが、突然蓮子に声をかけられて再び身体を振るわせる。最早完全に恐怖の対象である。

 

「ちょっと蓮子。妖夢ちゃん怯えきっちゃってるじゃない」

「い、いやあ……。流石に悪かったと思ってるよ?」

「まったく……」

 

 流石の蓮子も冷や汗をダラダラと流していた。

 お化けが苦手だといち早く察する事が出来た蓮子だったが、まさかここまで怖がられるとは予想外だったらしい。やっべー、などと今にも言い出しそうな面持ちで、口をあんぐりと開けている。

 

 それからは、まぁ。

 メリーが優しく宥めてくれたり、進一がそれのフォローをしてくれたり、蓮子が必死になって謝ってくれたりして。妖夢が完全に落ち着くまで、数十分を要したのだった。

 

 

 ***

 

 

 まさかお化けが苦手だったとは。正直、完全に盲点だった。

 あれからようやく妖夢を落ち着かせる事に成功した進一達だったが、その直後に更なる問題に直面した。それは言わずもがな、これからどうすべきかである。

 妖夢はホラーが大の苦手だ。しかし、これから進一達が行うのは怪談じみた行為である。あの怯えようから考えて、このままでは彼女は恐怖のあまり失神してしまうのではないだろうか。正直、本来の目的である冥界の入口まで辿り着けるかどうかも怪しい。

 

 やはり今夜は止めて明日の昼にでも出直そうかと、そんな案も出たのだが――。結局、このまま調査を続行するという結論に至った。

 それに至った理由は幾つかあるが、最も大きかったのは妖夢の意思であろう。確かに恐怖心は拭い去れないが、それでも確固たる意思を持って彼女は言っていた。このまま続けましょう、と。

 曰く、進一達の好意を無下にしたくないらしい。態々ここまで足を運んでくれたのだから、何もせずに帰る事なんて出来ないと言う事か。

 

 と、いう訳で。進一と妖夢、そして秘封倶楽部の一行は、調査の為に墓地へと足を踏み入れた。踏み入れたのだが。

 

「いやああああ!? いやああああああ!!」

「待て待て待て! 剣を抜くな剣を」

 

 風が吹いて草木が擦れたり、踏んづけた枯れ木が乾いた音を立てたり。とにかくちょっとした物音がする度に、妖夢は声を張り上げるのだ。しかも幻想郷へ帰れる可能性も考えて、今はあの二本の剣を持ってきている。声を張り上げると同時に、彼女はその剣を抜こうとして――。

 

「進一さん達は私が守るんだからああああ!!」

「ちょ、落ち着けっ。何もいないからな? 別に誰にも狙われてないからな?」

 

 最早何を言っているのか分からない妖夢を落ち着かせるのに、進一は説得を試みる。模擬刀ならまだしも、こんな所で真剣などを振り回されたら危険極まりない。いや、模擬刀でもアウトか。

 

 さっきから、ずっとこんな感じなのだ。折角完全に落ち着かせても、少しでも恐怖心を感じると彼女はまたすぐに暴れだす。最早発狂の域である。これでは埒があかない。

 元々お化けが苦手な妖夢だったが、今日はより一層警戒心が強くなっているらしい。恐らく、先ほど蓮子に驚かされた所為で、強い恐怖心が芽生えてしまったのが原因なのだろうが――。

 

「よ、妖夢ちゃーん? ほら、よく見て。ね? 何もいないでしょ? だから落ち着いて……」

「お、落ち着けですって!? 甘すぎますよ蓮子さんっ! きっと私達が油断した隙に襲いかかってくるに違いありません! そういう連中なんですよ奴らは!?」

「いや、奴らって誰だよ」

 

 一体、何と戦っているのだろう。しかし半泣き顔で必死にそう口にする妖夢の形相は、まさに真剣そのものだった。全く頼りないけれども。

 

 だが、今一度言うがこのままでは冗談抜きで埒があかない。なんとかして、妖夢から恐怖心を拭い去らなければ。だけれども、進一と蓮子の言葉では、それは一向に叶わない。

 お手上げ状態だ。最早成す術なしか。

 しかし。進一と蓮子が諦めかけていた、その時。

 

 女神が現れた。

 

「うぅ……ぐすっ」

「大丈夫? 落ち着いた?」

「ひっく……、はい……」

「うん。それじゃ、行こうか?」

「……、はい……」

 

 メリーことマエリベリー・ハーンである。

 進一達があれ程言葉を投げかけても落ち着きを見せなかった妖夢だったが、今はどうだろう。先ほどまでがまるで嘘であったかのように、平常心を取り戻しつつある。未だに泣いてはいるが、暴れ出しそうな気配は既になくなっていた。

 進一達が四苦八苦していた中、メリーはいとも簡単に妖夢を落ち着かせる事に成功したのだ。しかも特段変わった事をした訳でもない。ただ、優しく言葉を投げかけただけ。それだけだ。

 

「メリーにこんな才能が……」

「なんて包容力なの……!?」

「いや、なんでそこで息ピッタリになるのよ貴方達……」

 

 揃って瞠目する進一と蓮子を見て、メリーがやや呆れ気味に溜息をついた。

 この余裕。なぜここまで手馴れているのかは分からないが、確かに言える事が一つ。メリーには勝てる気がしない。溢れ出る包容力と言い、寛容な態度と言い。進一や蓮子とは格が違いすぎるのだ。色々と。

 

 閑話休題。

 メリーと手を繋ぐ事でようやく静かになった妖夢を連れて、一行はとある墓の前まで辿り着いていた。

 墓地へと足を踏み入れて、歩く事数十分。墓地の深部――外れに近いその場所に、それは存在した。

 月下に鎮座するそれは、一際古い墓だった。建てられてからかなりの年月が経過しているのか、墓石はだいぶ風化してしまっている。角が欠けてボロボロになった石碑には無数の苔が生えてきており、最早緑色に変色しかけていた。しかも、もう長い間誰も墓参りに来ていないのだろうか。花立や香炉に、花や線香が供えられた形跡すらない。

 なんとなく。月夜に佇むその墓は、どこか寂しげだった。

 

 進一はふと、墓石の下へと視線を落とす。大量の彼岸花が咲いていた。

 

(彼岸花、か……)

 

 ほんの少し時期がズレている気がする。彼岸花は本来、九月上旬から同月下旬にかけて花をつける植物。しかし、今は十一月上旬である。枯れ果てている事はなくとも、花弁は既にだいぶ散らしている頃合だ。少なくとも、満開の時期は終わっている。

 しかし。なぜかこの墓の周囲に限って、彼岸花は幽雅に花を咲かせている。その様は妖艶で見る者の心を魅了するが、それと同時にどこか不気味だった。

 

「こいつは……どういう事だ……?」

「きっと冥界の影響を受けているのね」

 

 進一がぼそりと呟くと、それに答えるようにメリーが口を開く。

 

「そこ。ぼんやりとだけれど、境界が見えるわ」

 

 そう言って指を指したのは、墓石の背後。そこにあるのは塔婆立だけで、特に変わったものは確認できない。しかし、メリーの『眼』には見えている。

 

「境界……? どう言う事ですか?」

「そっか……。妖夢ちゃんにはまだ言ってなかったわね。私の能力、『結界の境界が見える程度の能力』」

 

 宇佐見蓮子と同じように、マエリベリー・ハーンにも特別な能力がある。

 『結界の境界が見える程度の能力』。結界の境界が見える――らしい。らしいと少し濁した理由は、蓮子の能力と違って分かり難いからだ。

 

 蓮子の能力は平たく言えば、場所と時間が分かる能力。実に分かりやすいだろう。しかしメリーの能力の本質は、“本来見えないはずものが見える”なのである。

 結界の境界など、普通の人間には見えるはずのないものだ。そんなものが「見える」と言われた所で、正直いまいちピンとこない。ただ“見える”というだけで本当にそこにあるという証拠を提示できなければ、“見えてない”のと同じ事だ。

 

 当然、進一にも境界などは見えない。そこに境界があるなどと言われても、「メリーが言うのならあるんだろうな」と釈然としないまま強引に納得するしかない。

 しかし、今回ばかりは。メリーの言う境界の存在が、すんなりと受け入れる事が出来てしまう。本当に結界の境界があって、その先が冥界なのだと仮定すれば。異常な程に局地的な彼岸花の繚乱というこの状況を、強引だが説明する事ができる。冥界にどんな超常的なエネルギーがあるのかは分からないが、少なくとも進一の常識が通用しない事は確かだろう。

 

 つまり。この彼岸花が決定的な証拠だ。メリーの言う通り、ここには境界がある可能性が高い。

 

「深夜2時16分39秒、と……。よし、結界を暴くわよ」

 

 星を見て現時刻を確認した蓮子が、腕をまくりつつも墓石に歩み寄る。やる気満々なのは良いのだが、進一には気になる事が幾つかあった。

 

「なぁ、蓮子。結界を暴くって言うが、そんなに簡単に暴けるものなのか?」

「流石にあまりにも強力過ぎたり、複雑過ぎたりする結界が相手じゃ無理かな。でもなんらかが原因で解れている結界なら、ある条件下に置かれれば暴けたりするのよね」

「条件って?」

「そうね。例えば……」

 

 そう言うと蓮子は墓石の後ろに回り込む。塔婆立にある卒塔婆、それをおもむろに手に取った。

 

「卒塔婆を抜いてみる、とかっ……!」

 

 ずぼっと音を立てて、卒塔婆が引き抜かれた。見ず知らずの他人の墓であるはずなのに、まるで躊躇がない。

 蓮子の図太さは取り敢えず置いておくとして、しかし卒塔婆が引き抜かれても特に変化は現れない。条件が違ったのだろうか。

 

「むぅ……流石にそう上手くいかないか。それじゃ、皆で手分けして調べましょ」

「調べるって……。具体的に何をするんだ?」

「えっ? 何をって、そりゃあ……墓石を弄ったり拝石をずらしたり?」

「……って、マジで墓荒らしかよっ」

 

 さも当然な事のように言う蓮子に対し、進一がすかさず口を挟む。危惧していた事が現実になってしまった。

 これは、本当に大丈夫なのか? 罰当たりにも程があるのではないだろうか。

 

「なぁに言ってるのよ進一君! 男なんだから、この程度でビビらないビビらない」

「いや、ビビるビビらないの問題じゃなくてだな……」

「はぁ……。やっぱりこうなるのね。仕方ない……」

「お、おい、メリー……?」

 

 進一が色々と戸惑う中、深く溜息をついたメリーが前に出る。振り向いたその表情は、完全に諦めが付いた様子だった。

 

「進一君、覚悟を決めてやるしかないわ。他に手がかりはないのだし」

「確かにそうだが……。それにしても受け入れるの早すぎないか、お前……」

「もう慣れたわ」

 

 そう口にしながらもメリーが見せる表情は、どこか満更でもない様子だった。何だかんだ言っても、蓮子の行動全てに対して否定的な意見を持っている訳ではないらしい。

 勿論、墓荒らしなどをするのは問題だ。それはメリーも分かっている。だけれども、なんと言うか。あんな風に物事を前向きに捉え、積極的に秘封倶楽部を引っ張っていく――。そんな蓮子の姿が、メリーは好きなのだろう。それ故に、彼女は蓮子に対しては多少甘い態度を取ってしまう。

 

「まったく……。こんな事してるから不良サークルだなんて言われるんだぞ……」

「……でも、良いコンビじゃないですか」

「まぁ……、そうなんだよな」

 

 確かに。妖夢の言う通り、二人は本当に良いコンビだ。それは進一も頷ける。

 アクティブで行動派な蓮子。そしてそんな彼女をある程度窘め、共に歩んでいくメリー。その相乗効果は最高だ。これまでただ二人だけで秘封倶楽部の活動をしてこれたという事が、その最もたる証拠となっているだろう。

 まったく。大凡まともな活動をしていない、不良サークルだなんて言われているけれども。良いサークルじゃないか、秘封倶楽部。ちょっぴり羨ましくなるくらいに。

 

「さて。俺達も墓荒らしと洒落込むか」

「はいっ。そうですね」

 

 すっかり落ち着いた妖夢と共に、進一も墓の調査を始めるのだった。

 

 

 ***

 

 

 秘封倶楽部は大凡まともな霊能活動をしているようには見えない不良オカルトサークルである――というのは世を忍ぶ仮の姿らしい。その裏の顔は、張り巡らされた数々の結界を不正に暴くサークルである。

 この世界には多岐に渡る数多くの結界が存在するが、その役割の大半が“外界との接触の制限”だ。扉に鍵をかけるのと同じように、ある特定の物、または場所を守護する事が術者の狙いであり、その本質は排他的である。そうでなくとも、幾つもの術が複雑に絡み合った結界を暴く事は、均衡を崩す恐れがある危険な行為だ。当然、非合法的である。

 

 秘封倶楽部は言わば、そんなイリーガルな活動を行う上での隠れ蓑となっている。普段は不良サークルという名目を保ちつつ、真の活動はあくまで目立たぬようにひっそりと――しているかどうかは微妙だが、とにかく彼女達は大っぴらにするつもりはないようだ。

 常に危険と隣り合わせ、尚且非合法的で酔狂な活動。そんなスリリングな体験は、退屈な現代社会を過ごしている彼女達にとって、一種のスパイスとなっているのだろう。

 

 それはさておき。

 あれから、どのくらい経ったのだろう。

 拝石をずらしたり、香炉を持ち上げたり、水鉢に水を入れてみたり。妖夢も色々とやってみたが、結局冥界への入口が開く事はなかった。塔婆立の後ろにあるらしい結界は、一向にその口を開けてくれない。本当は見間違いで、実際には結界なんてないんじゃないか。思わずそう疑ってしまう。

 

「ありませんね……冥界への入口……」

「まだよ。2時27分12秒……。今度は墓石を回してみて」

 

 空を見上げながらそう口にする蓮子。そんな彼女はさっきから、時間を測るばかりでなんの調査もしていない。結局墓荒らしの真似事をしているのは妖夢と進一、そしてメリーだけだ。

 

「なぁ、蓮子。さっきからなんで時間なんか測ってるんだ?」

「さっきも言ったでしょ? 解れた結界はある条件を満たせば暴く事ができるって。あの写真が撮られた時間は2時30分ジャスト……。結界を暴く条件に、時間も関係しているのだとしたら?」

「な、成る程……。その時間になんらかの行動を起こせば、結界を暴けると……」

「そう言う事。ま、私の経験上の勘では、その前後5分くらいが怪しいかな」

「勘、ね……」

 

 蓮子の勘がどれほど宛になるかは定かではないが、試してみる価値はあるだろう。

 率先して動いたのはメリー。墓石の前まで歩み寄り、おもむろに両手を伸ばす。グッと力を入れて、その墓石を動かそうと試みるが、

 

「うっ……意外と重いわね……」

「俺がやる。メリーは下がっててくれ」

 

 殆んど動かせなかったメリーを見かねたのか、進一が代わりにその役割を買って出た。メリーと同じように手を伸ばし、一気に力を込める。

 流石は男の腕力だ。程なくして、ズズズと音を立てながらも墓石が回転し始めた。

 

「こういう時に男手があると助かるわね」

「頑張って下さい進一さんっ!」

「おうっ……任せとけって……!」

 

 妖夢が声援を送ると、やや強がっている様子で進一がそう答える。どうやら、彼の腕力でも墓石を動かすのは意外と大変らしい。何せ石の塊だ。その重量はかなりのものなのだろう。

 ゆっくりと、しかし確実に墓石が回転してゆく。

 そして。

 

「58、59……2時30分!」

 

 蓮子の掛け声と共に、墓石を4分の1程回転させた時だった。

 

 

「えっ――」

 

 

 何が起きたのか。その一瞬で理解するのには、あまりにも壮麗過ぎた。

 強いて表現するのならば、目の前が淡紅色になった。そうとしか言い様がない。淡紅色の何かが吹き荒れる風に乗り、絶え間なく降り注いでいる。

 そこで妖夢は、目の前のこれが桜の花弁である事に気がついた。花柄から離れ、風に乗り、絢爛に宙を舞う。淡紅色の花吹雪。

 

 その様子に、妖夢は思わず見惚れてしまった。

 辺り一面に広がる桜の世界は、この世のものとは思えない程に美しく、上品で、そして――。

 

(あ、れ……?)

 

 唐突に、妖夢は違和感を覚える。

 何かが、変だ。一面に咲き誇る桜の花に、絶え間なく降り注ぐ花吹雪。ここは確かに、先ほどまでいた墓地とは別の場所だ。恐らく、結界を越えたその先の世界――。

 それは良い。ただ、その風景を見れば見る程、なぜだか実感が()()()()()()()()()。自分の存在そのものが、否定されているような、拒絶されているような。そんな心地。そもそも、今は秋じゃないか。なぜ満開の桜などがあるのだろう。

 

 今まで味わった事もないような、強烈な違和感。それを強く意識した途端、妖夢の視界がぐにゃりと歪んだ。

 

(なっ……!)

 

 なんだ、これは。急に目の前がボヤけて、周囲の音が聞こえなくなって。まるでノイズが入ったかのように、脳裏が黒くちらついてきて。

 やがて。だんだん意識が朦朧としてきた。

 

(これ、は……!)

 

 状況を整理しようにも、頭の中にかかったノイズが邪魔をする。

 

 このままではまずいと、そう理解しているはずなのに。

 

 意識が、沈んできて――。

 

 

 ――――。

 

 

 ――。

 

 

「――よ――む、――夢、妖夢!」

「…………ッ!?」

 

 突然大声で名前を呼ばれ、妖夢は我に返った。

 まどろみから、一気に引き戻されるような。それに似た感覚を覚え、妖夢は反射的に顔を上げる。歪んでいたはずの視界はすっかり元通りになっており、目の前には月明りに照らされた墓石が見えた。ついさっき、進一が回転させた墓石である。

 その横には相変わらず空を見上げたままの蓮子と、難しい顔をして塔婆立の後ろを眺めているメリー。そして妖夢のすぐ隣には、何やら怪訝そうな面持ちをしている進一の姿。

 

「どうしたんだ? さっきからボーッとして」

「えっ……? ボーッと……?」

 

 ぐるりと周囲を見渡す。もうすっかり見慣れた蓮台野の墓地が、広がっていた。

 妖夢の瞳が揺れる。

 

「あ、あのっ! 今のは……?」

「……今の?」

「今のですよ! お墓を動かして、その後……!」

 

 その後。

 

「その、後……。あれ……?」

 

 その後。何があったんだっけ?

 

「本当にどうしたんだよ? 夢でも見てたのか?」

「夢……?」

 

 いや、そんな馬鹿な。

 確かに妖夢は、今の今まで何かを目の当たりにしていたはずだ。言葉にできぬ程に壮麗で、優美な何か――。だけれども、それは一体何だったのか。いくら記憶を探っても、思い出す事ができない。記憶を探れば探る程、却って現実味が湧かなくなってくる。

 

 まるで。本当に、夢でも見ていたかのような。

 

「2時36分8秒……。どう、メリー? 何か見える?」

「……駄目ね。何も見えなくなってしまったわ」

「駄目かぁ……」

 

 ぼんやりとした感覚の中、蓮子とメリーのそんなやり取りが耳に流れ込んでくる。しかし、そこで何かが引っかかった。

 

(36分……?)

 

 ついさっき、30分になったばかりだったような気がしたのだが。いつの間にか6分も経過していたのか。

 いや、ちょっと待って。それならば、妖夢はこの6分間何をしていたのだろう。まさか、本当に夢を見ていたのだろうか。

 一人、ぼうっと突っ立って。

 

「……結局駄目だったのか?」

「そうみたいね……。うーん、おっかしいなぁ……。何か条件が違ったのかなぁ……」

「……何か別に条件があったんじゃないか? 例えば、季節とかも関係していたとか……。蓮子の能力じゃ、季節までは分からないんだろ?」

「そうだけど……、そうなのかなぁ……」

「これだけやっても何も起きないって事は、案外進一君の予想は当たっているのかもね」

 

 悔しそうな表情を浮かべる蓮子。冷静に状況を分析する進一。案外あっさりと受け入れたメリー。なんてことない、ごくごく普通のやり取りだ。

 でも。やっぱり何か違和感がある。進一達は、本当に何も見ていないのだろうか。何も感じなかったのだろうか。ひょっとして、こんな違和感を覚えているのは妖夢だけなのだろうか。

 

 だとすると。やはり、妖夢の考え過ぎなのだろうか?

 

「……で? これからどうするんだ?」

「へっ? あ、あぁ、うん。そうねぇ……」

「もう遅いし、残念だけれど今日はもうお開きね。これ以上このお墓を弄っても、何も出てこないだろうし……」

「そうか……」

 

 そう。考え過ぎだ。墓を弄れば冥界への入口が開かれると、妖夢はそう思い込んでいたから。あれは、そんな先入観が見せた幻なのだ。

 そうだ。あれは幻。或いは夢。現実の光景などでは、決して――。

 

「ごめんなさい妖夢ちゃん。結局、力になれなくて……」

「……えっ?」

 

 ぐるぐると思考を巡らせていた妖夢。そんな中、不意に声をかけられて、彼女は思考の渦から引き戻される。顔を上げると、申し訳無さそうな表情を浮かべるメリーの姿がそこにあった。

 

「あっ……いえ、メリーさんが謝るような事じゃ……」

 

 妖夢は慌てて受け答えする。

 メリーが謝るのは筋違いだ。そもそも妖夢が原因で、こうして手を煩わせてしまったのだから。寧ろ、謝るべきなのはこちらであるはずなのに。

 

「私からも謝らせて貰うわ妖夢ちゃん。大見得を切っといて、何の手がかりも得られなくて……。ごめん」

「そ、そんな……! 蓮子さんまで……」

「でも諦めるのは早いわ。まだまだこれからよ!」

「へっ……?」

 

 グッと、蓮子は握り拳を作る。彼女はこの結果に対して悲観している様子は全くなく、寧ろ意気が揚がっているようだった。

 蓮子の表情が明るくなる。

 

「確かに、蓮台野の入り口は見つけられなかった。だけど、それだけで冥界や幻想郷への道がなくなったなんて判断するのは軽率過ぎるわ! きっとまだ何か方法が残されているはず……!」

「あ、あの、蓮子さん……?」

「ふふふ……これは秘封倶楽部へ対する挑戦状と受け取ったわ……! 待ってなさい幻想郷! 私達が必ず見つけ出してやるわ!」

 

 どうやら完全に火がついてしまったようだ。一人で勝手に解釈し、蓮子は高々とそう宣言している。

 そんな蓮子の様子を見た進一とメリーが、揃って苦笑を漏らしていた。

 

「ふふっ……。蓮子ったら、随分と奮起しているみたいね」

「こうなると心強いよなぁ。あいつの前向きな所は見習いたいくらいだ」

 

 手がかりも何も見つからず、言わば骨折り損に終わってしまったのにも関わらず。彼らが浮かべるのは難しい表情ではなく、柔らかい笑顔だった。まるで、蓮子から元気を分けて貰っているかのような。

 確かに。このような状況でも前向きに物事を捉える蓮子の様子を見ていると、こちらまで意欲的になってくる。諦めるのはまだ早いと、本気でそう思い込めるようになってくる。

 

 人を惹きつける不思議な魅力を持つ少女だ。

 そう。方向性は違うが、まるで博麗の巫女のような――。

 

「なんとかなる、かな……」

 

 自然と、妖夢の表情も柔らかくなる。手がかりがなくなったこの状況でも、不思議と焦燥感は殆んど感じなかった。

 

 ふと、妖夢は足元の拝石へと視線を落とす。

 花を散らし尽くした彼岸花が、そこにはあった。

 

 

 ***

 

 

 結局その日は何の成果も上げられず、各々一度帰宅する事となった。

 改めて思い返してみれば、ここまであまりにも順調過ぎだったのではないかと感じてくる。蓮子に電話したらたまたま彼女は有力な情報を持っていて、しかも幻想郷を経由せずに冥界へと行けるかもと言われて。てっきり意外とあっさり辿り着けるのではないかと、そう思い込んでいた。

 

 けれども。現実はそう甘くない。こんなにも簡単に冥界へ行けるのならば、妖夢は苦労なんてしていないはずだ。ちょっと考えれば、すぐに理解できる結論。

 それは分かってる。けれども、やはり心の中では期待していた進一からしてみれば、どうしても釈然としない気持ちが残ってしまう訳で。

 

(まぁ、でも……)

 

 焦っても仕方ない。ここはやはり、コツコツと情報を集めていくべきであろう。取り敢えず、一度帰って頭の中を整理すべきだ。

 

 しかし。

 そこで、とある問題が浮上した。

 

「ところで妖夢ちゃん。これからどうするつもりなの?」

「これから……?」

「寝泊まりする所、ないのよね? 昨日は進一君の家に泊めて貰ったらしいけど……」

「……あっ」

 

 帰宅する途中、メリーに言われて思い出した。妖夢のこれからについてである。

 確かにメリーの言う通り、昨晩彼女は進一の家で寝泊まりした。けれども、今後はどうする? 冥界や幻想郷への手がかりが見つかるまでに多くの時間を有するのならば、それまで生活する場所が必要となるはずだ。

 

「お金……ないのよね?」

「え、ええ……お恥ずかしながら……」

「となると宿を借りるのは無理か……。うーん、私も蓮子もアパートで一人暮らしだから部屋は余っていないし……」

 

 まさか野宿などする訳にもいかないだろうし、やはり寝泊まりする場所は必要だろう。しかし妖夢は無一文であるが故に宿を借りるのはほぼ不可能。誰かの家に世話になるにしても、蓮子やメリーじゃ都合が悪い。

 となると、選択肢は限られてくる。

 

「じゃあさ、今後も進一君の家で寝泊まりすればいいんじゃない? どうせ部屋余ってるんでしょ?」

「えっ?」

 

 意外にも、そう提案したのは蓮子だった。申し訳なさそうな表情を浮かべながらも、妖夢がこちらに振り返る。

 メリーや蓮子と違い、進一の自宅は戸建だ。蓮子の言う通り、部屋は一つ余っている。

 

「でも……良いんでしょうか……?」

「うん? あぁ……別に俺は構わないが……」

 

 おそらく、妖夢を泊める事は十分に可能だ。閑静な住宅地に佇む一戸建てに、進一は一人の姉と共に暮らしている。母親は進一が幼い頃に逝ってしまったし、父親は海外で仕事をしている為に殆んど帰ってこない。つまりは姉との二人暮らしになるのだが、正直それでもあの家は少し広く感じる事があった。それ故に、妖夢一人を加える余裕は十分にあると言えるだろう。

 確かに、そう言えるのだが。

 

「でも良いのか? 男と同じ家で寝泊まりするなんて」

 

 問題はそこだ。

 昨日一晩だけなら、百歩譲って問題ないと言えるかも知れない。けれども、長期間となると話は別だ。年頃の女の子が、会ったばかりの男が住む家に寝泊まりするなんて。嫌じゃないだろうか。

 

「えっと、私……」

「あ、ひょっとして進一君に変な事されるんじゃないかって心配してる? それなら大丈夫よ。進一君、女の子に興味ないみたいだし」

「おい待て。その言い方は誤解を生む」

 

 口を挟んできた蓮子に対し、進一は透かさずつっこみを入れる。

 別に興味がない訳じゃない。ただ、必要以上に距離を縮めようとしないだけ。それだけだ。

 

「ああ、そうね。今の言い方は問題があったわ。厳密に言えば無頓着……。そう、進一君は酷く鈍感って事ね!」

「いや、鈍感って……。それはちょっと聞き捨てならないな。確かによく考えずに余計な事を口走る事はあるみたいだけど、俺はこれでも結構気配りしてるんだぞ。鈍感な部分もあるかも知れないが、そこまではっきりと言われる程じゃない」

 

 完全に否定はしないが、そこまで言われる謂われはない。進一だって、全くの無関心という訳じゃないのだ。気配りだって、ちゃんとしている。

 そのつもりだったのだが。

 

「いや、ないわー」

「ええ、ないわね」

「すいません、進一さん。私もないと思います」

「ちょ、待て待て。なぜそこで全否定するっ?」

 

 蓮子、メリーと続き、まさかの妖夢も追撃に参加。三連コンボが見事に決まった。

 なんだ、これは。進一が何をしたって言うんだ。しかも昨日会ったばかりの妖夢までこの態度。何が不満なんだ。ここまでされると流石に傷つく。

 

「とにかく……! 話を戻すぞ。つまり俺が言いたいのは、妖夢が気にしないのなら別にウチで寝泊まりしても構わんという事だ。それで? どうなんだ?」

 

 これ以上妙なダメージを負わない為にも、進一は脱線した話題を慌てて戻す。進一が鈍感だとかどうだとか、そんな事はどうでもいいはずだ。

 今結論を出すべき問題は、妖夢がどこで寝泊まりするのか。それだけだ。

 

「そ、そうですね……。本当に進一さんが気になさらないのなら……、しばらくの間泊めていただけると助かります……」

「……そうか。なら決まりだな」

 

 拠所無いだろう。そうでなくとも、別に進一は気にしない。

 それに。出来る限り妖夢の力になると、進一は心に決めたのだ。これくらいの協力なら、拒む理由はない。

 

「ねぇ、進一君。一つ確認したいのだけれど……」

「……なんだ?」

 

 そんな時。何やら不安げな面持ちで、メリーがそう耳打ちしてきた。何事だと思いながらも、進一は耳を傾ける。

 

「確か、貴方のお姉さんって今……」

 

 成る程。その事か。

 

「ああ。海外の学会に参加してるな。あと2週間くらいは留守にしてるんじゃないか?」

「そうよね……。今は良いかも知れないけれど、帰ってきた後は大丈夫なの? 妖夢ちゃんの事」

「それだよな……」

 

 メリーの言いたい事は分かる。

 恐らく、妖夢が寝泊まりする事に関しては特に反対はしないだろう。その点については心配ない。だけれども、問題は別にある。

 その事だけが、やや気がかりではあるが。

 

「ま、大丈夫なんじゃないか? いざとなったら、俺が何とかするさ」

「そう……? なら良いのだけど……」

 

 姉の扱いには慣れている。もしもの事があったとしても、その時はその時だ。進一がなんとかすればいい。だから大丈夫だ。

 ――何やら妙なフラグのように聞こえるが、きっと気の所為だろう。

 

 と、言う訳で。

 

「進一さん、改めてお世話になります」

「ああ」

 

 しばらくの間、進一は妖夢を居候として迎える事になるのだった。

 


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