静かな病室だった。
真っ白な部屋。漂う薬品の匂い。風に揺れるカーテン。2月上旬というこの季節じゃ、隙間風は肌寒い。身体が一気に冷やされて、何だか鼻がムズムズしてきた。薬品独特の匂いも合わさって、彼女は堪らずくしゃみをする。
「くしゅん!」
意外と大きなくしゃみの音。それに鼓膜が刺激されて、宇佐見蓮子は目を覚ました。
よもや自分のくしゃみで目を覚ます事になるとは。寝ぼけ眼を擦りつつも、蓮子は身体を起こす。どうやら椅子に座ったまま、ベッドに突っ伏す形で眠りに落ちていたようだ。無理な格好で眠っていた所為か、腰が痛い。ゆっくりと身体を伸ばしつつも、彼女は未だにぼんやりとしたままの頭を覚醒させる。
「うぅん……?」
何がどうなって、どんな結末に落ち着いたのだろう。確か、無我夢中でメリーの夢の中に入り込んで、そこから彼女の意識を連れ戻そうとして。
その後――。
「おはよう蓮子。もうっ、大寝坊よ」
「…………っ!?」
声が聞こえた。
清らかな声。落ち着た声調。蓮子の記憶に染み付いた、唯一無二の親友の声。
忘れる訳がない。聞き間違える訳がない。だって他でもない、彼女の声がもう一度聞きたくて、蓮子はこれまで必死になっていたのだから。待ち望んだその声が今、蓮子に耳に流れ込んでくる。
おずおずと、おもむろに。蓮子は顔を上げた。
「まったく、こんな所でぐっすりと眠っちゃって。ひょっとして、実はいつもの遅刻も居眠りが原因だったりするの?」
「…………っ」
戯るような調子の声が、蓮子の耳に流れ込む。
瞳が揺れる。言葉が詰まる。まだ寝起きだと言うのに、心臓が五月蝿いくらいに高鳴り始めた。
そこにいたのは、見知った顔。ベッドの上で身体を起こしていたのは、唯一無二の親友の姿。
マエリベリー・ハーン。彼女が、目の前にいる。
「ぐっすり眠ってたとか、大寝坊だとか……」
驚きだとか、安心だとか。そんな言葉では言い表せぬ程の様々な感情が駆け巡って、息をするのさえも忘れそうになっていたのだけれど。
やっとの思いで、蓮子は言葉を絞り出す。
「どの口が言ってるのよ……ッ!」
それからメリーの返事を聞く間もなく。
ふわりと、蓮子は飛び込んでいた。
「えっ……ちょ、蓮子……!?」
突然胸に飛び込まれて、当然メリーは困惑する。けれども当の蓮子は、そんな困惑声など耳に届いてない様子だった。いや、耳に届いてはいるものの、その意味を噛み砕く気がないと言った方が正しいか。
メリーの声が聞こえる。今はそれだけでいい。こうしてメリーに触れる事が出来る。今はそれだけで十分だった。
「心配……、心配、したんだよ……? 凄く、凄く……!」
顔を埋めたままで、ぎゅっとメリーの襟を握る。声を発する度に感情が膨れ上がってきて、思いを探る度にぽろぽろと涙が溢れてきて。
彼女は、むせび泣く。
「声をかけても全然答えてくれないし……! 身体を揺すってもまったく起きてくれないし……! 本当に、このまま目を覚まさないんじゃないかって、怖くて……!」
蓮子はあまり自分の弱さを曝け出すような少女ではない。苦悩だとか苦痛だとか、そんなものは普段からおくびにも出さない。
別に、意図的に隠そうなどという気がある訳ではない。一人で抱え込もうだなんて、そんな気がある訳でもない。ただ、ちょっとばかり耐性があるだけだ。例え壁が立ち塞がっても、彼女は簡単には諦めない。例えそこが袋小路だったとしても、多少強引にでも彼女は飛び越えていく。
宇佐見蓮子は、そんな少女なのだ。図太い――いや、諦めが悪いとでも言うべきか。とにもかくにも、彼女が持つ精神力は、そう易々と打ち砕かれるものではない。
しかし、それでも。蓮子にだって、“弱点”がある。
「蓮子……」
消え入るようなメリーの呟き。それはむせび泣く蓮子に耳にも、しっかりと流れ込んできた。
心配そうな声。悔恨の篭った声。罪悪感が伝わってくる声。ただ名前を呼ばれただけなのだけれども、メリーの抱くその気持ちは蓮子にもしっかりと届いていた。
「心配かけて、ごめんね……」
それでも、震える声で彼女が真っ先に口にしたのは。
謝罪の言葉だった。
「違う、違うよ、メリー……!」
そう。彼女が謝るなんて間違っている。そんな事は筋違いだ。
分かっている。理解している。悪いのは蓮子の方じゃないか。もしも蓮子がちゃんとメリーの話を聞いていれば、こんな事にはならなかったのかも知れない。蓮子がメリーの気持ちに気づいていれば、彼女は苦しまずに済んだのかもしれない。
“もしも”とか、“かも知れない”とか。所詮、全部推測でしかない。けれどもそれは紛れもなく、確かに存在した『可能性』だ。その『可能性』を潰したのは、他でもない蓮子なのだ。
「謝るのは、私の方よ……」
原因を作ったのは自分だ。だから責められるべきであって、謝られるべきではない。
襟元を掴む手から力が抜ける。震えながらも、蓮子は一度身体を離す。涙でくしゃくしゃになった顔。すっかり赤くなってしまった、その目をメリーに向けて。再び、蓮子は言葉を絞り出す。
「私、何もできなかった……。ううん、何もしなかったのよ……。メリーが苦しんでるんだって、ちょっと考えれば分かるはずなのに。それでも私は、やっぱり自分の事ばかりを考えてたんだと思う」
もっと不思議を探求したい。幻想郷への手掛かりを、少しでも掴みたい。そんな思いばかりが先行して、視野が狭くなっていたのだろう。
ひょっとしたら、自分でも気づかぬ内に焦りを感じていたのかも知れない。自分達も、そして夢美達でさえも、これと言って大きな手がかりを掴む事ができなくて。秘封倶楽部の創始者として、何とかしなければならないと、そんな責任を感じてしまって。最も肝心な事を、見落としてしまっていた。
「自分勝手な事ばかりで、ごめん……。メリーの気持ちを考えなくて、ごめんね……」
涙混じりの震える声。途切れ途切れで、呂律もあまり回っていなかったように思えるけれど。それでも、こうして面と向かってちゃんと謝りたかった。一刻でも早く、彼女に自分の気持ちを伝えたかった。
許して欲しいとは言わない。これで全部ちゃらだなんて、そんな傲慢な事は微塵も考えていない。幾ら頭を下げた所で、彼女が犯した過ちは簡単に償えるものじゃない。
だけれども、それでも。
これが彼女なりの、せめてもの贖罪のつもりだった。
「……蓮子」
そう。これで終わりだなんて、そんな事は思ってない。すぐに受け入れられるんじゃないかって、そんな期待も抱いてない。
寧ろメリーはもっと怒るべきなんだって、そう思っていたのに。
「顔を上げて」
それなのに、彼女は。
「もう、いいのよ」
マエリベリー・ハーンは。蓮子を責める事も、彼女を拒むような事もしなかった。
ただ、穏やかに。
「確かに、蓮子はちょっぴり周りが見えなくなるような事もあるけれど……。でも、私は知っている。蓮子は誰よりも、友達を思う事の出来る子なんだって」
ただ、淑やかに。
「私には分かる。蓮子は私を助ける為に、必死になってくれたんでしょ? 必死になって、無理をして……。それでも最後まで諦めはしなかった」
そして、優しげに。
「私の為に、蓮子はあんな所まで追いかけて来てくれた。私なんかの為に、自分の事さえも顧みずに身を投じてくれた。そして今、私の為にこうして涙を流してくれた」
彼女は、言った。
「もう、それだけで十分よ。十分過ぎるくらい、蓮子の気持ちは伝わってきたわ」
感慨無量な面持ちで、蓮子は口をつぐんでいた。まるで言葉が出てこなかった。
様々な思いが渦巻いて、様々な感情が溢れてきて。それでも尚、何も言えなくて。
「蓮子……。私の親友でいてくれて、ありがとう……」
蓮子は泣いた。声を上げて、子供みたいに泣きじゃくった。
自分が抱く感情と、彼女から向けられる思いをいっぺんに受け止めようとして。止めど無く溢れる涙と共に、精一杯示す事が出来た蓮子の答えは。
嗚咽混じりに、頻りに頷く事だけだった。
***
杞憂だったのかも知れないと、魂魄妖夢は感じていた。考え過ぎだったのかも知れないと、そんな安堵感を抱いていた。
膨れ上がる懐疑心だとか、強く覚える違和感だとか。そんな身勝手な憶測で、彼女は思い悩んでいたのだけれど。そんな疑念なんて抱く必要ないんだと、そんな確信を持つ事が出来た。
彼女は。マエリベリー・ハーンは、疑う余地なく宇佐見蓮子の親友だ。表も裏も関係ない。誰かが取り繕う必要もない。それは紛れもない事実である。
(メリーさん……。本当に、良かった……)
病室の扉の前。正確に言えばその横。病室から流れ込んでくる少女達の声を耳に入れながらも、妖夢は胸を撫で下ろしていた。
陰に隠れるような形になってしまっているが、別にやましい気持ちがある訳ではない。たまたま妖夢より先に蓮子が訪れていて、そしてたまたま妖夢の知らぬ間にメリーが意識を取り戻していたのだ。要は完全に入るタイミングを見失ってしまったのである。やはり蓮子が落ち着くまで待つべきだろうか。
「何か、微妙なタイミングで来ちまったみたいだな……」
横にいる青年――岡崎進一も、どうやら妖夢と似た心境であるらしい。バツが悪そうな表情を浮かべつつも、彼はそんな事を呟いていた。
「そうですね。どうやら私達の出番はもうなさそうですし……」
「でも、メリーが目を覚ましてくれて本当に良かった。マジでこのまま目を覚まさないんじゃないかと……」
「そんな、縁起でもない事を」
強い安堵感を覚えた進一は、すっかり肩の力が抜けてしまったようだ。長く息を吐き出しつつも、彼は壁へと寄りかかる。途端にドッと疲れがのしかかってきたようで、横から見た表情でもそれはありありと伝わってきた。
「気が抜けましたか?」
「まぁ、な……」
これまでずっと気を張りっぱなしだったのだ。無理もないだろう。
「それにしても、やっぱり蓮子に先を越されたな。まぁ俺が気づいてるんだから、あいつが既に気づいていても不思議じゃないが」
「……気づいている?」
そう、さっきから妖夢が気になっているのはそれだ。
メリーの事が気になって、妖夢は居ても立ってもいられなくて。彼女は一人でこの病院へと再び足を運んだのだけれど、その道中にたまたま進一と合流していた。
曰く、彼も妖夢と同じ心境だったようだ。メリーの事が気になって、こうして足を運んだらしい。
けれどその時点で、妖夢はとある予感を覚えていた。
「やっぱり、何かに気づいてたんですね」
「ん? あぁ……。少し確実性に欠けるんだが、一応メリーを助ける方法をな……」
「メリーさんを助ける方法ですか……!?」
やはりそうだったのか。何となくそんな予感はしていたが、まさか真実だったとは――。
「いや、だから確実にそうだと言い切れる訳じゃないんだが」
「でもっ、実際にメリーさんは意識を取り戻しましたよ……! 一体、どんな方法を……?」
「まぁ、何て言うか……。メリーを助け出すには、そもそもあいつと同じ土俵に立たなきゃならない。つまり、メリーが見ている夢と同じ夢を“視る”必要がある訳だ」
「夢を……視る、ですか……?」
メリーと同じ夢を視る。つまり眠りにつく前から夢の存在を意識しなければならない。意識し、自覚し、“夢を視る為”に眠りにつく。その最中でメリーが見ている夢の痕跡を見つけ出し、その痕跡を手繰り寄せて彼女の夢へと接触する――との事らしい。
そんな説明をされたのだけど、正直妖夢にはいまいちピンと来ていなかった。どうにも分かりにくいというか、あまりにも具体性がないというか。
「だ、だから言っただろ? 確実性に欠けるって……」
「それは、そうですけど……。えっと、つまり、何らかの手段で自分の意識をメリーさんの夢と接触させる必要がある……という事ですか?」
「……そうだな。そういう認識で構わない」
構わないらしい。存外適当である。
「……話を戻すぞ。とにもかくにも、一度メリーの夢の中に入っちまえば話は簡単だ。夢の世界のどこかを彷徨っているメリーの意識を見つけ出し、それを現実世界に引っ張り出せばいい」
「……その口振りから考えて、そもそも夢の中に入る行為自体が難解だったという事ですね?」
「ああ。夢へと繋がる痕跡というか、手掛かりが必要だからな。でも、既に俺達はその手掛かりを掴んでいたじゃないか」
「手掛かり……? あっ……ひょっとして……!」
「そう。あの筍だ」
あの日。メリーは夢の中で手に入れたと言って、天然の筍を妖夢達の前に差し出してきた。今の今まで話していた夢の世界の物体が、現実世界に出てきてしまった事になる。まさか幻想郷の外の世界であんな事が起きるとは思いも寄らなかったが、しかし妖夢は時既に古明地こいしのような非常識な存在と接触している。あのような例がある以上、こちらの世界においても幻想郷の
その納得こそが、盲点の繋がりだったのだろう。こんなにも重大な手掛かりが、既に手の内にあったのだというのに。
「あの筍は俺達の世界に存在していた物じゃない。そもそも天然の筍なんて、今の時代じゃ目にする事すら全くと言って良い程ないからな。つまりあれは、紛れもなくメリーの見ている夢の世界に存在するはずだった物」
「そ、それじゃあ……! あの筍を手にすれば、メリーさんの夢の中に……」
――いや。
「……そう簡単にはいかないんですよね? あの筍があれば、誰でもメリーさんと同じ夢を見れる訳じゃ……」
「……ああ。多分、普通の奴には不可能だ。普段からそういった類――非常識的な何かを“視る”事ができる『眼』を持っていれば、話は別だろうけどな」
つまり、メリーと同じ夢を視る事が出来る者は非常に限られている事になる。進一の言う通り、何らかの『能力』を持っていなければ、そもそもメリーの残した痕跡を辿る事など不可能だからだ。
その点、蓮子は非常に適正だったと言える。星や月から時間と場所を特定出来る『眼』を持っている上に、彼女はマエリベリー・ハーンという少女の事を誰よりもよく知っている。そんな蓮子だからこそ、あの筍からメリーの残した痕跡を追跡し、夢の世界から彼女を連れ戻す事が出来たのだろう。
今回の件は、蓮子だからこそ解決できたようなものだ。メリーを助け出したいと、偏に彼女がそう強く願っていたからこそ、この結果に収束する事ができた。
「……蓮子さん達、仲直りする事はできたんでしょうか?」
「さぁな。ま、あの様子を見た感じじゃ……」
進一はチラリと病室を一瞥しつつも、
「俺達が取り繕う必要はなさそうだな」
「……そうですね」
最早妖夢や進一が余計な心配を抱く必要ない。
今回は、ちょっとしたすれ違いが縺れに縺れて、あんな事になってしまったのだけれど。やはりあの二人は親友同士だ。この程度の些細なすれ違いで、修復不能な深い溝など現れるはずがない。一度離別してしまっても、最終的には互いが互いを信じる事が出来るようになる。
これがあの二人の在り方なのだ。
宇佐見蓮子と、マエリベリー・ハーン。あの二人だからこそ、秘封倶楽部を結成する事ができた。あの二人がいたからこそ、今の秘封倶楽部がある。
そう、強く実感する事ができた。
「さて、と。俺達はどうするかね」
「入るタイミング、完全に逃しちゃいましたよね。待ちますか?」
「……そうだな。流石に今は入りにくい」
妖夢達だって、今や秘封倶楽部の一員である。まさかこのまま帰る訳にもいかないだろう。
けれども。もう少しだけ、この廊下で待つ事にする。
(メリーさん……)
泣きじゃくる蓮子を宥める彼女の様子は、まるで母親かお姉さんだ。彼女はそういった魅力がある。全てを簡単に受けれてしまうような、そんな寛大な包容力が。
マエリベリー・ハーンは、宇佐見蓮子の親友だ。疑う余地もなく、胡乱に思う理由もなく。
(そう、親友……)
それ故に、だからこそ。
こんな
***
何食わぬ顔で病室へと足を踏み入れると、真っ先にメリーが声をかけてきた。
「あら? 二人共ようやく入ってきたの? てっきりそのまま帰っちゃうんじゃないかと思っちゃったわ」
「……何の事だかさっぱりなんだが」
「とぼけているつもりかしら?」
「はっはっは、何を言ってるんだメリー。ひょっとして、まだ寝ぼけてるんじゃないか? それなら濃い珈琲を飲むと良い。目が覚めるぞ。シャキッとするぞ」
「……進一君って、何かを誤魔化そうとするとすぐに戯る癖があるのよね」
「なん、だと……」
即行でバレた。動揺した進一は、思わず引きつった表情を浮かべつつも瞠目する。
蓮子が落ち着きを取り戻したタイミングを見計らってこの病室へと足を踏み入れた訳だが、どうやらメリーは進一と妖夢の存在に既に気づいていたらしい。澄まし顔の進一などものともせず、開口一番にこの追及である。
なぜだ。なぜこんな事に。
「全然隠れきれてなかったし、あれじゃあ流石に分かるわよ。蓮子は気づいていなかったみたいだけれど」
「……へ? なに? 隠れてたってどういう事?」
状況が掴めぬ蓮子が、頻りに進一とメリーの顔を見比べている。ついさっきまで泣きじゃくっていた為か、目元と鼻頭がまだ赤い。
しかし、隠れていたとは何とも人聞きの悪い表現だ。いや、確かに事実なのだけれども。
「あ、あのっ……! か、隠れてたっていうのはちょっと語弊が……!」
「そ、そうだぞ。ほら、あれだ。タイミングを見計らってたっていうか……」
「……それ墓穴掘ってない?」
わたわたとしつつも妖夢と揃って言い訳をするが、それが却って自分達の首を締める事になる。タイミングを見計らっていたなど、完全に失言である。それでも慌てて弁明を続けるが、ぶっちゃけこれ以上何を言っても結果は変わらないような気が。
「違うんだ聞いてくれ二人共。今のはそういう空気だったじゃないか。俺達は完全に蚊帳の外だったって言うか、邪魔しちゃいけないって言うか……」
「そう、そうなんです! 覗き見なんて剣士としてあるまじき行為、意図的にやろうだなんてこれっぽっちも思ってませんから!!」
必死になって言い分を口にする進一と妖夢だったが、当のメリーは何やら意地悪くニヤニヤと笑っている。なんだ、ひょっとして手玉に取られているのか。からかわれているのか。
「……何だその意地の悪い笑みは」
「ふふっ……ごめんなさい。別に責めてる訳じゃないのよ。ただ、二人の反応があんまりにも面白かったから」
「お前そんなにSキャラだったのか……?」
ぐっすり眠っていたお陰で寧ろ絶好調なのだろうか。とにもかくにも、メリーの意外な一面を垣間見てしまったような気がする。
そんな進一達のやり取りを真横で見ていた蓮子。忙しなく三人の顔を見比べ、暫しの思案を挟んだ後に彼女は突如として瞠目した。迫真の効果音でも聞こえてきそうな面持ちを浮かべ、一息。
「はっ……!? まさか私が泣いてる姿を進一君達に見られちゃったって事……!?」
「お前はお前で色々と気づくの遅いなおい……」
そんな蓮子の姿を見て、進一は思わず呆れ顔を浮かべてしまう。何だかいつもと比べて攻守が色々と逆転してしまったような。いや、妖夢だけはいつも通りなのだけれども。
(まぁ、でも……)
何にせよ、こんな風に全員揃って話が出来るという事は。
「……何だか安心した。色々と解決したみたいで」
「……そうね。進一君や妖夢ちゃんにも、色々と心配をかけちゃったわよね」
進一が安堵の表情を浮かべると、途端にしゅんとなったメリーが申し訳なさそうにそう口にする。今やすっかり元気になり、蓮子とも仲直りできた彼女だが、それ故に落ち着いてこれまでの経緯を振り返る事が出来る。
メリーの事だ。きっと真っ先に罪悪感を覚えるに違いない。
「ごめんなさい。迷惑をかけちゃって……」
やはりそう来たか、と進一は思った。
予想通りの反応だが、やはり実際に頭を下げられるとどうにもバツが悪くなる。別に、進一からしてみれば迷惑だなんてこれっぽっちも思っていないし、寧ろこちらの方が力になれなくて申し訳ないと思っているくらいだ。謝られるのは筋違い――なんて事は言い過ぎだが、それでもやはりどう返すべきか言葉に迷ってしまう。
「……私も謝るわ。元々、色々な原因を作っちゃったのは私だし……。ごめんなさい」
「れ、蓮子まで……」
二人の少女に頭を下げられて、流石の進一も狼狽気味だ。その最もたる原因は、今回の騒動における進一の功績。はっきり言って、進一は殆んど何もしていない。精々彼女達の話を聞いたくらいだし、行動を起こした頃には既に色々と遅すぎた。何もかもが後手に回って、殆んど何も力になれずに事態はこうして収束している。
あれ? ひょっとしなくても役立たずだったんじゃ――。
「お、お二人とも顔を上げて下さい……! 私達、そんな事全然気にしてませんから……。で、ですよね、進一さん?」
「ああ……。そうだな……」
「妖夢ちゃん……。あれ? でも進一君が凄くしょんぼりしているような……」
「……気にするな。何でもない」
「そ、そう?」
まさか子供っぽい自己嫌悪に陥っているとは口が裂けても言えまい。
「そ、そんな事よりもだな。色々と説明してくれないか二人共。夢の話、とか」
あまりこの話題を続けると埒が明かないので、進一の方から話を進める事にする。後手に回ってしまった以上、まだまだ分からない事が多く残されているのだ。
そう。例えば、メリーが見ていた夢の事とか。
「……そうね。進一君達にも話しておかなきゃね」
「そうそう! メリーが見ていた夢の話よ! もう、色々とびっくりしちゃったわ」
この様子だと、やはり蓮子はメリーと同じ夢を“視る”事に成功したようだ。そうなると、おそらく二人ともこことは違う異世界に迷い込んでいた事となる。その異世界が幻想郷なのか、それとも別のどこかなのか。
蓮子の事だ。あの緊急事態の中でも、その点については多少なりとも検討をつけているはず。
「それで……、一体どんな夢を?」
「うん。実は……」
妖夢にそう促されて、蓮子が説明を開始する。どんな夢を見ていたのか、その夢の中でどんな経験をしたのか。そして、幻想郷や冥界への手掛かりを掴む事ができたのか。色々と気になる事はあるが、それも全部今に分かる。
「実は……」
さぁ、どんな内容が飛び出てくる? やはりまた竹林の話か、或いは――。
そんな推測を胸中に抱きながらも、蓮子達の言葉を待ちつつ進一は身構える。
そう、身構えていたのだけれども。
「……、あれ……?」
蓮子が突然苦虫を噛み潰したような表情を見せる。何やら戸惑いをその表情に浮かべながらも、彼女は腕を組んで首を傾げた。
なんだ、一体何事だと。そんな違和感を進一が覚え始めた頃。
「ちょ、ちょっと待ってね?」
「……ああ」
「えっと……。あ、あれ? おっかしいなぁ……」
「なんだ? 何があった?」
「そ、その……。何て言うか……」
蓮子にしては珍しく、どうにも歯切れが悪い。本当に何があったのだろうか。
それから少しの間だけ思案を続けていた蓮子だったが、程なくしてそれも打ち切ってしまったようだ。彼女は何やら意を決したように、開口。
「わ、忘れちゃった……みたい……?」
「……は?」
「だ、だから、思い出せないのよ……! 私は確かに、メリーの夢の中に入る事ができたはずなのに……。でも……!」
「覚えてない、のか……?」
「そ、そういう事になる……のかな?」
この慌てぶり。まさか蓮子に限って、こんな嘘をつくとは思えない。
となると、彼女は本当に夢の内容を覚えていない事になる。どんな夢だったのか、そこで何をしていたのか。蓮子の様子から察するに、その殆んどが記憶に残ってないとみえる。
思わず肩を落としそうになるが、考えてみれば珍しい話でもない。そもそも夢の内容を隅から隅まではっきりと覚えている方が稀な話だ。彼女がこうして夢を忘却してしまっていても、仕方がないと言えるのかも知れない。
「もうっ、本当に何も覚えてないの?」
「うっ……面目ないわ……」
「まったく、仕方がないわね」
しかし。蓮子が何も覚えてなかったとしても、メリーなら話は別だ。
彼女こそ、奇妙な夢を見ていた張本人。以前も竹林に迷い込んだ夢をはっきりと覚えていた程である。それなら今回だって例外ではないはずだろう。
「いい? 私が見ていた夢は……」
夢は現実との結びつきが強ければ強い程記憶に残りやすい。メリーは自分が見ていた夢が、夢とは思えない程にリアリティだったと言っていた。そこまで現実味が強い夢ならば、きっと鮮明に覚えているに違いない。
「夢は……」
そう、思ったのだけれども。
「夢……」
「……メリー?」
「…………」
何やら不穏な空気が流れ始めた。
進一が一抹の不安感を覚え始めた辺りで、俯いていたメリーが顔を上げる。それから妙に気取った表情を浮かべて、
「夢なんて見なかったわ」
「おい」
清々しいくらいの勢いで事実をすり替えるメリーを見て、反射的に進一は口を挟む。なぜそこまで自信ありげなのだろう。この少女、本当に今日は絶好調である。
「ご、ごめんなさい、ちょっと調子に乗ったわ……。何だか、頭の中がぼんやりしてて、上手く思い出せないというか……」
「あぁ……。成る程」
まだ体調が万全ではないという事なのだろうか。確かに、彼女はまだ目を覚ましたばかりである。未だに整理が追いつかず、一部の記憶が混濁している。その可能性だって十分に有り得るはずだ。
「えっ……ちょ、ちょっと待って下さい。それじゃあ、お二人とも夢の内容をまるで覚えてないという事ですか……?」
「そ、そういう事になるわね……」
まぁ、だからと言って彼女達を責めるのも筋違いというものだ。覚えていないのなら覚えていない、それはそれで仕方がないだろう。
それに、メリーに関してはまだ少し休息が必要だ。落ち着いてきたら何かを思い出してくれるかも知れない。
「でも、全く何も覚えていないって訳じゃないわ。目が覚める直前……。あの時、確かに蓮子が助けに来てくれた。それだけは間違いない……。絶対的な事実よ」
「……ああ。それは分かってる」
メリーの言う通り、それに関しては進一だって疑っていない。メリーを助け出したのは蓮子だ。そう言い切る事だって出来る。
(だが……)
この違和感は何だ?
蓮子もメリーも夢の内容を殆んど覚えていない。それは確かに存在した可能性の一つなのだろうけれど、しかし――。
「な、何かこうして面と向かって言われると恥ずかしいわね……」
メリーの絶対的な信頼感に対して蓮子がそんな反応を見せていたが、今の進一にはそんな仕草を気に留める余裕はない。
この、何かがつっかえているかのような感じ。ひょっとして、自分達もまだ気づいていないような事が残っているのだろうか。
例えば、そう。今回の件は、第三者の介入はなくメリーの中に存在している『能力』が原因だったという結論に落ち着いた。しかし、そもそもその時点で何か勘違いをしていたのではないだろうか。確かに証拠は何もない。第三者が接触してきたような痕跡も見当たらない。
だけれども――。
「あっ……そうだわ。一つ思い出した」
「えっ?」
ポンッと手を叩いて口にしたメリーの言葉を聞いて、進一は反射的に顔を向ける。彼女はごそごそとベッドの中を探り、そこから何かを取り出した。
「これ……。多分、夢の中で誰かに貰った物だと思うのだけど……」
それは、綺麗な洋紙に包まれた手のひらサイズの物。
「クッキーよ」
天然の筍に続く、夢の世界からのお土産だった。
***
「んっ……美味しいわ! ねぇ、このクッキー凄く美味しいわよ!」
「それ食っても大丈夫なのか……?」
何の躊躇いもなくクッキーを口に運ぶ蓮子を見て、進一も呆れ気味に嘆息している。すっかりいつもの調子に戻った彼女は、早速持ち前の図太さを発揮中である。あまりにも怖いもの知らず過ぎて、いっそ頼もしく思えてくる程だ。
「あ、あの……。そのクッキーって、この前の筍と同じで夢の世界への手がかりになるんじゃ……」
「全部食べなきゃ大丈夫よ。妖夢ちゃんも食べる?」
「い、いえ……。私は遠慮しておきます」
流石に遠慮しておく事にした。別に甘い物が嫌いという訳ではないが、どこからともなく現れたクッキーを食す度胸は妖夢にはない。いや、蓮子が普通に食べている時点で大丈夫だとは思うのだけれど。
「それで? やっぱり誰に貰ったのかも覚えていないのか?」
「そうね……。多分、女の子だったような気がするのだけれど……」
思案顔を浮かべるメリーは、やはりどうにも思い出す事ができない様子。記憶には微かに残っているようだが、あまりにも断片的過ぎてはっきりと言い表す事ができないのだろうか。
それにしても、まさか二人共殆んど覚えていないとは。これでは、メリーが夢の中でどんな世界に迷い込んでいたのか探る事ができない。やはり彼女が迷い込んでいたのは幻想郷だったのだろうか。
「でも、まだ分からないわ。メリーを脅す訳じゃないけど、こういった事件はまた起きる可能性があると思うの。根本的な原因を取り除いた訳じゃないし……」
「……確か、私の能力が原因なんだっけ? 正直、あまり実感はないけど……」
「ずっと眠っていた訳だからな。メリー、意識を失う直前の事は何か思い出せないか? なぜ鏡の前で倒れてたんだ?」
「えっ……? う、うーん……。そうねぇ……」
妖夢は話でしか聞いていないが、メリーは蓮子の下宿先で倒れていたらしい。しかも洗面台――大きな鏡の前でだ。どうしてあんな所で倒れ、眠りにつく事になってしまったのだろうか。
「あの時……変な視線みたいなものを感じたのよ」
「視線?」
「ええ。それで、洗面所に向かったのだけど……」
メリーは懸命に自らの記憶を隅々まで探ったようだが、出てきたのは結局そこまでだった。
絞り出したメリーの記憶をまとめると、彼女はあの洗面台付近で“何か”を感じ、そして“何か”を見てしまった――という事になる。その“何か”の正体は、皆目見当もつかないのだけれども。
「何か……、メリーの持つ『能力』の本質に直結するものだったのかしら? それが鏡に映ったのかも……」
「鏡、ですか……。蓮子さんの部屋にある鏡って、そんなに変わった物だったんですか? えっと……、所謂オカルトグッズのような……」
「……いや。あれはあくまでどこにでもある普通の鏡よ。少なくとも、霊的な力が宿っている訳じゃないと思うけど」
謎は深まるばかりである。一体、自分たちの周囲で何が起きているのだろうか。
もしもここが幻想郷だったのならば、何らかの妖怪か妖精の仕業だったのだろうと片付ける事が出来るかも知れない。けれどもここは外の世界。そのような存在がほぼ完全に排斥された、
「今回は蓮子が助けてくれたけど、でも……。もしも、また同じような事があったら……」
メリーが不安気な声を上げている。
まぁ、無理もないだろう。何が何だか訳が分からぬままに彼女は意識を失い、訳が分からぬままに見知らぬ世界に迷い込んでいたのだ。また同じ現象に遭遇してしまったら、今度こそ帰って来られないのではないかと。そんな不安感を覚えてしまうのは、至極当然の心境であると言える。
「大丈夫よ。もしもまたこんな事が起きても、その時は私が何度だって助けに行くから」
「そうだぞメリー。俺だってお前の事を見捨てたりなんかしない。だから安心してくれていい」
「蓮子……、進一君……」
二人の励ましに心を打たれて、メリーの不安感は多少解消された様子だった。
進一達の言う通りである。マエリベリー・ハーンは、大切な友人の一人だ。例え彼女が再び夢の世界に囚われる事があったとしても、秘封倶楽部は是が非でも彼女を助けようとするだろう。
いや、メリーだけじゃない。蓮子も、進一も、妖夢だってそうだ。これ以上、理不尽な理由で誰かを欠く事なんてさせない。
「あの……。皆さん、少しいいですか?」
例え離別するような事があったとしても、繋がりを感じられるような何かがあればいい。例え一人になってしまっても、自分は秘封倶楽部なんだって自覚できるような何かが。
「私、秘封倶楽部の力に少しでもなりたくて……。それで、自分に何が出来るか考えてみたんですけど……」
あくまで妖夢は、白玉楼に帰るまでの間だけの一時的な加入である。しかしそれでも、だからこそ。何らかの形で、秘封倶楽部の力になりたい。この世界で培った繋がりの証を、ちゃんと残したい。そんな思いを胸に抱いて、何か出来る事はないかと考えていた。
その結果。彼女は、一つの結論に至っていた。
「……これ、作ってみたんです」
持ってきておいたポーチの中から、妖夢はとある物を取り出す。
「妖夢ちゃん、それって……」
「ええ。一応、ブレスレット……のつもりです」
そう。それは所謂、ブレスレットというヤツだった。
別に何か特別な素材が使われている訳も、特殊な技術が使われている訳でもない。雑貨屋などに行けば簡単に手に入るような紐を編み込み、輪の形にした物だ。
こちらの世界で手に入る材料だけを使い、こちらの世界でも違和感のない技術だけを使って作り上げた妖夢特製のブレスレット。正直、このような小物は作った事がなかったのであまり自信はなかったが、何とか形にする事ができた。
「えっと……。秘封倶楽部の証と言うか、私達の繋がりの印と言うか……。とにかく、そういった物があったらいいなぁと思いまして。それで、四人分作ってみました」
「おぉ!」
妖夢が四つのブレスレットをそれぞれポーチから取り出すと、真っ先に食いついてきたのは蓮子だった。その中の一つを妖夢から受け取り、掲げつつもそれをまじまじと観察する。それから実に嬉しそうに頷いた後、
「うんうん、良いんじゃない? こういうアイデアすっごく良いと思うのよ!」
「ありがとうございます……。でもっ、何かすいません、あんまり上手く作れなくて……」
「いや、十分凄いじゃないか。いつの間にブレスレットなんて四つも作ってたんだよ? 本当に器用だな妖夢は」
「ええ、そうね。もっと自信持っても良いと思うわよ?」
評価は良好なようだ。
空き時間を少しずつ使ってやっとこさ完成させたブレスレットだが、中々良いタイミングで渡す事ができたと思う。メリーが目を覚まし、蓮子とも仲直りする事ができた今。ある意味、秘封倶楽部の節目とも言えるかも知れない。
「よーし! 折角妖夢ちゃんが作ってくれた訳だし、早速皆でつけてみましょ!」
蓮子の掛け声の後に、四人それぞれがブレスレットを身につける。
紐を何重かに編み込んで作った、シンプルなデザインのブレスレット。それぞれ色が異なるだけで、形は皆お揃いである。
そんなブレスレットを手首に身につけると、進一が小恥ずかしそうに、
「俺、こういう小物類はあまり身につけた事はなかったんだが……。どうかな?」
「ふふっ。似合ってるわよ、進一君?」
一応、男の人がつけても変にならないデザインにしたつもりである。実際にブレスレットを身に付けた進一を見た感じ、その意識はどうやら上手くいったようだ。妖夢が作ったブレスレットは、彼の手首にもぴったりフィットしている。
妖夢はホっと安心感を覚えつつも、自分もブレスレットを身につけた。
「これを身に付けていれば、皆いつでも一緒です……。なんて、やっぱりちょっと子供っぽかったですよね」
「そんな事ないわ。妖夢ちゃんが私達の為に作ってくれたんだもの。それなら、その気持ちもちゃんと受け取らなきゃね」
そんなフォローを入れてくれるメリーの様子も見た感じ、彼女もブレスレットを気に入ってくれたらしい。頑張って作った甲斐があるというものだ。実は空回りするのではないかとそんな不安感を密かに抱いていたのだが、それも杞憂に終わりそうである。
「良かったです。皆さん気に入ってもらえたみたいで……」
「当たり前よ。実はこういうの憧れていたのよねー。やっぱりこうして形ある物を皆で揃えるって、結束力を強めるのに良い効果があると思うのよ」
「ええ。秘封倶楽部の皆の気持ちが一つになった気がしたわ」
「そうそう! 秘封倶楽部、再始動って感じね!」
「ああ。そうだな」
四人は揃ってブレスレットを掲げる。四つの色の装飾品。秘封倶楽部の証。それは確かに、四人それぞれを繋げてくれているような気がした。
秘封倶楽部は終わらない。例え状況が芳しくなかったとしても、彼女達はその活動を諦めるつもりはない。
ひょっとしたら、また困難にぶつかる事もあるかもしれない。今回のようなすれ違いがまた起きる可能性もある。だけれども、それでも。最終的には、彼女達はまた集まれる。離別をするような事になってしまっても、必ず帰ってくる事が出来る。皆がそれぞれを信じている限り、その繋がりは消えたりしない。
秘封倶楽部は、終わらない。
ここから、また。新たに始まるのである。