ソードアート・オンライン《三人の勇者》   作:ホイコーロー

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8話《攻略会議》

 このデスゲームが開始してから一ヶ月が経った。

 さすがにここまでくると外部からの救出を諦めたのか、今までくすぶっていたプレイヤーたちが一斉にゲーム攻略へと動き出していた。

 だが、それは同時に大量の初心者の誕生をも意味する。そのせいで、プレイヤーの死亡数が格段に増えてしまったのだ。

 第一階層のボス部屋さえ発見されないまま、約二千人のプレイヤーが犠牲となった。

 

 しかし、本日12月6日。第一回攻略会議が開かれることになり、その状況は変化していく。その変化がもたらすものは、希望か、それとも絶望か。

 

 

 

 

「みんな、今日はよく集まってくれた! どうもありがとう! 俺の名前はディアベル。職業は、気持ち的にナイトやってます!」

 

 第一階層の迷宮区の目と鼻の先にある欧州風の街、《トールバーナ》。そこにある闘技場のような形をした円形の広場で、SAO史上初のオープンな攻略会議が開かれようとしている。

 集まっているプレイヤーは50、いえ、40人と少しといったところかしら。

 中央では、一目でイケメンとわかる自称ナイトが話を進めている。職業? そんなもの、SAOにあるの……?

 

「ねぇねぇ、ユキノン、私にはあの人が葉山君にしか見えないんだけど、どう思う?」

 

「あら、奇遇ね。私もちょうどそう思っていたところよ。」

 

「やっぱり?」

 

「なぁ、お前らが来る意味あったのか。コペルと一緒に宿で待っててよかったんだぞ、別に。」

 

「さりげなく僕も帰そうとしないでください! ハチマンさんは僕に対して、もっと優しくしてくれていいと思います!」

 

「あ、そう。なんだか調子が優れないようですし、家でゆっくり休んでおいた方がよろしいのではないでしょうか、コペル君。」

 

「調子悪くなんかないです! 帰らないです! ()()も何とか言ってくださいよー。」

 

「お前ら落ち着けって。あのディアベルって奴が喋ってんだからちゃんと聞いとけよ。」

 

「ハチマンとコペルは本当に仲悪いよな……。」

 

 それにしても何なの、あの集団は。遊びに来たのなら帰って欲しいのだけれど。

 

「えーと、話を進めてもいいかな。今日は初めての顔合わせなわけだし、とりあえずは俺がこの第一回攻略会議を仕切らせてもらおうと思う。

 早速、本題に入ろう。三日前、俺が参加しているパーティがボス部屋を発見した!!」

 

 まぁ、そうよね。

 

「マジかよ! やるな、あいつ!」

 

 ……もういいわ、あれは無視よ。

 

「今日は俺たちで調べたボスについての情報をもとに、どう攻略するかをみんなで話し合っていこうと思う! 資料を作ってあるから、一人一つずつ取っていってくれ!」

 

 回されてきた資料にはボスの名前とその他情報がのっていた。

 ボスの名前は《イルファング・ザ・コボルド・ロード》。武器は斧とバックラーで、大きさはプレイヤー三人分程。取り巻きに《ルイン・コボルド・センチネル》というエネミーが三体いるらしい。

 

 やはりボスと言うだけあって、通常のエネミーとは格が違うわね。取り巻きの方は三、四人程で相手をすれば十分かしら。

 それにしてもこの『HP減少時に武器を持ち帰る可能性あり』っていうのは気になるかも……。

 

「みんな受け取ってくれたか? この資料にある通り、ボスの他に三体の中型エネミーが存在する。それにあたっていくらかチーム分けをしようと思うんだがどうだろう。」

 

 そうね、問題ないかしら……ってチーム? そんなもの組んだことがないのに……どうしよう。

 

「ちょっと待ってくれディアベルはん!」

 

 そう言って、一人のプレイヤーが広場の中央に飛び出て行った。

 ……な、なに、あのオレンジトゲトゲは。どういうセンスでああしたの。

 

「わいはキバオウいうもんや。チームを組む前に、一つ物申したいことがある! この中に、今まで死んでった二千人に頭下げなあかん奴らがおるはずや!!」

 

 何を言っているの、あのトゲは。そんな、今の流れを切ってまで話すようなことがあるとは思えないけれど。

 

「えーと、キバオウさん? それはつまりβテスターたちのことを言っているのかな。」

 

「そうや! 奴らは一ヶ月前、”あの場所”でわいらが右往左往している間に、美味い狩場狩り込んで自分らだけ強くなりおったクズどもや! あの日、奴らに少しでも慈悲があったなら、こんなに人が死ぬことはなかったはずや!!

 こん中にもそいつらの仲間がおるやろ! そいつは今この場で名乗り出て、謝罪してもらわなわいは気がすまん!」

 

 ……くだらない。何を言い始めるのかと思えば、そんなことを言うためにあのトゲはここに来たの?

 

「そんで今まで集めたアイテムとコルを山分けせい! そうせんと、命を預かることもできんし、預けることもできん!」

 

  とんだ茶番ね。もう帰ろうかしら……。

 ディアベルとかいう人も苦笑いしているし。集まっている人たちの中には賛同したがっている人たちもいそうだけれど。

 

「(待って、ちょっと落ち着いてユキノン! 今出て行ったら危ないよ!)」

 

「(いいえ、大丈夫よ、ユイさん。ちょっとあのトゲを引っこ抜いてくるだけだから。)」

 

 ……なんかさっきの集団がまた騒がしいわね。

 

「ちょっも待ってくれ、キバオウさん。」

 

 そう言ってまた一人、プレイヤーが進み出てきた。さっきの女性は出て行くタイミングを失ってしまったようね。

 こ、今度はガングロスキンヘッド巨人、ですって……!?

 

「確かβテスターがどうとか、って話だったな。」

 

「あ、あぁ、そうや。なんか文句あんのかい、あんた。」

 

 既にちょっと狼狽えてるじゃない……。

 

「あぁ、大アリだ。」

 

 そう言って、ガングロスキンヘッド巨人はこちらを振り向いて話し始めた。

 

「俺の名前はエギルだ。突然だがみんな、この《指南書》、一度は目にしたことがあるんじゃないだろうか。」

 

 彼が手にしていたのは一冊の本。それは、確かに私も見たことがあったし、それどころか今も一冊持っている。とても分かりやすくこのゲームについて書かれていて、初心者なら誰でも一度は手に取ったことがあるはず。

 

「これは知っての通り、《はじまりの街》や、他の場所でも無料で配布されているものだ。これ、誰が作っていると思う。」

 

 え、それはつまり、もともとこのゲームにあったアイテムじゃない、ってことかしら。かなり前からあったような気がするのだけれど……。確かに、サービス開始二、三日はなかったような気もする。

 なるほどね、なんとなく彼が言いたいことが分かったような気がするわ。

 

「これを作ったのはβテスターたちだ。彼らの協力のもと、《情報屋》たちの仲介もあってこの本は作られている。これだけでも彼らのおかげでどれだけの人が助かったか、分かってもらえるはずだ。」

 

「で、でもな、それでも奴らが初心者を見殺しにしたことに変わりはないんやぞ! それを許せっていうんか!」

 

「あなただったら何か出来たというのかしら。」

 

 突然、甲高い声が周囲に響き渡った。

 さっきタイミングを逃した人ね。隣の女の子がものすごい怯えているわ……。

 

「あなたがβテスターをどれだけ卑劣な人物だと思い込んでいるのかは知らないけれど、もしあの日、よく物事を考えもしないβテスターが、初心者を大勢連れていたとしたらどうなるかは明白なはずなのだけれど。」

 

「ど、どないなるっていうねん。」

 

「間違いなく全員死ぬわ。βテスター諸共ね。」

 

「……ッ!?」

 

「βテスターだからって死なないわけじゃないわ。事実、あの日から何日間かで死んだ人はβテスターがほとんどだと聞いているわけだし。むしろ、あの日に外への一歩を踏み出すことのできた彼らには賞賛を送ってあげたいくらいね。

 それとも何かしら、あなたは勇敢にも初心者を取りまとめて、一致団結して外への開拓をし始めていたとでも言うのかしら。もしそうだったのならごめんなさいね、あなたの言い分はもっともだと思うわ。で、どうなのかしら。」

 

 どうなのかしら、って……。そんなわけないということは織り込み済みなのだろうにそんなことを聞くなんて、かなりいい性格してるわね、あの人。絶対に口喧嘩したくないタイプだわ。

 トゲも言い返す気力もないみたいね。

 これにて一件落着、かしら。

 

「キバオウさん、確かにあなたが言いたいことも分かるが、彼らがいなかったら状況はもっと酷いものだったかもしれないんだ。理解してくれ。

 それじゃあみんな! 気を取り直してチームを作ろうと思う! とりあえず四〜六人程でパーティを組んでくれ!」

 

 わ、忘れてた……どうしよう……。

 一人で俯いている私を他所に、他の人たちはどんどんパーティを組んで行ってしまう。もういいわ、最後にどこか余ってそうなところに入れてもらえばそれで……

 

「なぁ、もしかしてあんた一人か?」

 

「……? えぇ、そうよ。」

 

「じゃあさ、俺たちのパーティに加わらない?」

 

 そう言って話しかけてきたのは、あの騒いでいたパーティの内の一人だった。

 

 

 

 

 はぁ……やっぱりどの世界でも班分けからは逃れられない運命なのか……。だがしかし! 攻略に参加しないユキノとユイを除いても、ここにいる面子だけで既に四人。どこかのバカが変な気を起こさない限り何も心配することはない!

 

「おーい、みんな、四人じゃ心許ないから五人目連れてきたぞ。」

 

 この馬鹿野郎。大馬鹿野郎。知らない人連れてきちゃダメでしょうが! 面倒増やすんじゃねぇよ! しかも女じゃねぇか、このリア充が!

 

「一人だったから連れてきた。」

 

 しかもぼっちかよオオォォォ!?

 

「えーと、じゃあ自己紹介からな。俺の名前はキリトだ。」

 

 ほらもう自己紹介始まった……。

 キリト、お前は一体何なんだ? 話すのとかは下手なくせして変にコミュ力だけ積んできやがって。そんなものは、燃えるゴミにでも捨ててこい。きっとよく燃えるはずだ。

 

「カイトだ。」「師匠の弟子やってます、コペルです! ヨロシクッス!」

 

 こいつらも淡々とこなしていきやがって……。

 あと、その”師匠の弟子”って言い方すごいアホっぽいな。

 

「ユキノよ、よろしく。」「ユイだよ! よろしくねー!」

 

 あ、そうだ、このまま黙ってたらスルーされたりしねぇかな。ここでこそ発揮せよ、俺が今まで磨いてきたぼっちスキル!

 

「で、あなたは?」

 

 ダメだった……。

 

「ひゃ、ヒャチマン……です……。」

 

 とりあえず死にたい。少なくとも消えたい。

 

「……プッ……。」

 

 あ? 今こいつ笑ったか? ん? 笑ったのか?

 

「こいつ、目は腐ってるけど実力は確かだから。どんどん頼ってってくれよ!」

 

 おいカイトお前、いい加減人を見た目で判断するのやめてくれませんかね。心まで腐ってきそうなんですけど。

 しかも、何気にハードル上げて面倒を俺に押し付けてくるとか悪魔かこいつは。

 

「ほ、本当に腐ってる……。」

 

「腐ってねぇよ、初対面でお前もなかなか酷いな……ってお前、どこかで会ったことあるか……?」

 

「……?」

 

「なんだなんだ、ハチマン! いきなりナンパかよ! なかなか積極的じゃねーか!」

 

「はぁ? 違ぇよ。」

 

「ハチマンマジキモい……。」

 

「今からでも遅くないわ、通報しましょう。」

 

「おいやめろ、お前ら。」

 

 誰か俺の味方はいないのか? あれ、そう言えば……

 

「それよりもそいつの名前を聞いてないだろうが。」

 

「あら、そうだったわね。じゃあ、聞いたあとで通報しましょう。」

 

「通報はすんのかよ……。」

 

「で、名前な。名前はなんて言うんだ。」

 

 そして、その少女は口を開く。

 

「私の名前はアスナよ。よろしく。」

 

 

 

 




アスナ「私がぼっちなわけないじゃない。」
カイト「(いや、ぼっちやろ。)」
キリト「(ぼっちだな。)」
コペル「(ぼっちですね。)」
ハチマン「(なんだ、ただのぼっちか。)」
ユキノ「(ぼっちね。)」
ユイ「(ぼっち?)」

 ぼっちって連呼してると、なんかビッチみた(ry

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