「本ッ当に助かった! お前がいなかったらキリト置いて逃げるところだったわ!」
「ちょ! カイトお前、そんなこと考えてたのかよ!? 最低だな!?」
全く……。こいつらは馬鹿なのか? いくらなんでも能天気すぎるだろ。今のは誰がどう見ても絶体絶命のピンチ、ってやつだ。
俺が来てなかったら、まさかキリトを置いていきはしないだろうが……キリトかカイト、おそらくどちらかが命を落とすことにはなっていたはず。
「まぁ、無事で何よりだ。まさかこんな馬鹿の策にハマるような阿呆がいるとは思わなかったが。」
「お前もいい加減ひどいな……。で、どうしてくれようか、こいつ。」
キリトが睨んでいる相手はもちろん、コペル。二人をMTKしようとした正真正銘の屑だ。近くに《隠蔽》を使って隠れていたのを俺が《索敵》で見つけてきた。
「ん? てか、その言い方だとお前はコペルの手法を知ってたってことか、ハチマン。」
「あぁ、昨日、俺も同じことをされそうになったからな。」
「って本当か。よく無事だったな。」
いや、《実付き》を攻撃しようとしたから止めただけなんだが。そんなに驚くことか? 知らない人は信用するなって教わらなかったのか? あ、教わらない? そう。
そう言えば、その時のコペルが「いつの間に!?」とか言ってたが……俺ってそんなに影薄い? だって一緒にエネミー狩ってたんだよ? それなのに見失うって……。
「おーい、ハチマン? 大丈夫か? 目がどんどん腐ってってっるが。」
「大丈夫だ。あと腐ってねぇ。もういいだろ、殺そう、こいつ。」
「「「……ッ!?」」」
え、そこそんなに驚くところか? だって前科アリだぞ。反省の色もなかったし、野放しにしてたら今度こそ犠牲者が出るかもしれないじゃんか。
「そ、そうかもだが……。」
「ゆ、許してください! もう絶対にしませんから! お願いします、見逃してください!!」
「お前、俺の時もそんなこと言ってたよな? 今回は、一度見逃した俺の責任もある。俺が、ケジメつけてやるよ。」
そう言って、俺は剣を取り出して振りかぶるが、それを遮る手があった。
「……なんだ、お前も文句があるってのか、カイト。」
「いや、文句なんてない。だがな、
確かに、こんな直接手にかけるようなことをすれば、レッドマーカーがつくのは当然だ。それによるペナルティの重さも知ってる。村への侵入禁止とかだろ。
それと天秤にかけても、やった方がメリットがあると俺は判断したわけだが。
「じゃあ、どうしろと?」
「要はさ、こうすりゃいいんだよ。」
そして、カイトはコペルに向けて言い放った。
「お前のその腐った根性、俺が叩き直してやるよ!!」
確かに、俺たちはハチマンに助けられた。
こいつは強い。実力で言えば俺やキリトよりも数段階上と言ってもいいくらいには。だが、同時にその強さが飾りにすぎないように俺には感じられた。
ここで
それに、コペルを殺すこと自体も反対だ。貴重なβテスターだし、こいつなりに生き残る理由もあってのことだろう。キリトの教育にも悪い。
なら、答えは一つだ。
コペルに監視をつける。それと同時に、立派なトッププレイヤーとして育て上げれば、戦力増加にもなってノープロブレムだ。
「だろ?」
「……好きにしろ。」
「あ、ありがとうございます、ありがとうございます……!」
さすがはハチマン、聡い奴で本当に助かるよ。
これで一件落着だ。
「でさ、戦ってる時から気になってたんだが……。ハチマンの後ろにいるそれは、誰?」
「それって、私のことかしら?」
はい、そうです。氷の女王みたいに凍てついたあなた……ってまさか。
「あ、お前がユキノか!」
「あら、どこかで会ったことがあるかしら? それともあなたストーカー?」
「ぐっ……なかなかキツいこと言ってくれるじゃないか……。そこのハチマンから聞いたんだよ。見当たらないから捜すのを手伝ってくれ、って。無事に見つかったようで良かった。」
氷の女王とは言い得て妙だな、こりゃ。
「そうだったの。それは失礼したわね。」
「いや、いいさ、別に。気にしないでくれ。」
「そう言えば、ハチマンたちも《森の秘薬》を受けてるところか? こっちは二人分確保できたが、ってコペルの分がまだだっけ。」
「まぁ、な。ユキノの分がまだだが、コペルの分なら心配ないぞ。そいつには昨日、俺が《胚珠》を一つくれてやったからな。」
「そ、そうだったのか。(声をかけてきた時には持ってたってことなんだな……。)……じゃあ後はユキノさんの分か。」
「あら、あなたたち知らないの? 《実付き》からも確率で《胚珠》がドロップすることもあるのだけれど。今回は運が良かったみたいね。」
見ると、ユキノの手には、《実付き》からドロップしたのであろう《胚珠》が収まっていた。
「お、そうだったのか。そりゃ本当にラッキーだな。苦労した甲斐があったってもんだ。」
これでやっと休憩できる、と俺の隣でキリトがボヤいた。確かに、今日は長かったような短かったような、大変な一日だった。
適当にこの四日間であったことなんかを話しながら、俺たちは帰路につく。
「ところであなた……カイトさんだったかしら。本当にあれを引き取るつもり?」
いつの間にか近くまで来ていたユキノが小声で俺に話しかけてきた。あれって……。
「あ、あぁ、コペルな。俺はもちろん本気だぞ。それがどうかしたのか?」
「いえ……。別に何でもないわ、気にしないでちょうだい。」
変な女……。何を考えていることやら。そんなこと、こいつに関係あるとは思えないが。
「そう言えばさ、一つ気になったことがあったんだが、ハチマンはどうしてソードスキルを使わないんだ?」
前の方では他の三人が他愛もない話をしているのが聞こえてくる。
確かに、見ていた限りだと、リトルネペントとの戦闘でハチマンがソードスキルを使っていなかったような気がする。まさかこいつに限って技術的に不可能なんてことはないだろうが……。
「だって俺のスキルスロットはまだ二つしかないからな。」
「え、それって、なんだかハチマンさんはソード系スキルを取ってないみたいに聞こえるんですが……?」
「その通りだが……? 今、俺がとってるスキルは《隠蔽》と《索敵》の二つだ。」
「はぁ!? 嘘だろ!?」「し、信じられません……。」
……相変わらずとんでもない奴だな、あいつは。予想の斜め上をいきやがる……。
《スキルスロット》は、その名の通りスキルを使用するためのスロットのことだ。スキルをこの中に収納することで、初めてそれが使えるようになる。これはLv.1、Lv.2、Lv.6、Lv12、Lv20になったところで一つずつ、それ以降はレベルが10上がるごとに一つずつ増えていく仕様だ。
《ソード系スキル》とは《片手剣》《槍》《短剣》《斧》などの、武器を正しく扱い本来以上の能力を発揮させるのに必要なもの。これをさっき言ったスキルスロットに入れなければ、ソードスキルを使うことはできない。
他にも、さっきハチマンが言っていた《
そして、あいつはソード系スキルよりも、身を隠す《隠蔽》、隠れて待ち伏せをするエネミーやプレイヤーを見つける《索敵》を身につけた。戦闘において卓越したセンスを持つあいつならではとも言えるが……現段階で警戒してしすぎることはない。これ以上なく正しい選択だ。
コペルを見つけることができたのは、あいつの《索敵》の熟練度がコペルの《隠蔽》のそれよりも高かったからだ。もしそうでなければコペルを見つけることはおろか、俺たちと合流してたかもわからない。
今回、誰一人死ぬことなく今日を終えることができたのは、ただの運だ。ならどこで俺は間違えた? ……そんなの分かり切ってる。コペルを無警戒に仲間へと引き入れた俺のミスだ。
敵の判断基準をもっと引き下げなければならない。何が敵なのかはこれから判断していけばいいと、高を括っていたのだ。
もっと……もっと意識を高めろ。
思考を止めるな。
判断を誤れば、この世界では即刻、死を意味するのだから。
俺は、もう、間違えない。
ユキノ「あなた死ぬの? 凍え死ぬの?」
僕「ごめんなさい。」(土下座)
コペル生存からの、さらっとユキノ初登場。インパクト薄くてごめんなさい。氷の女王とか言ってごめんなさい。