「また出ませんでしたね、《花付き》。」
「ま、しょうがねぇ。こんなこともあるさ。とりあえず今は回復に専念しようぜ。」
結局、コペルと合流した後も《花付き》が現れる気配はなく、辺り一帯のリトルネペントを狩り尽くしてしまった俺たちは次の群れがポップアップするのを待っているところだった。
この調子ではコペルの分はおろか、俺たちの分だけでも入手できるか怪しい。まぁ、三人になって楽になったのは確かだけどさ。
「もう今日は出ないんじゃないの?」
「そんなことはないだろ。むしろ俺はこれからだと思うね。さっきまで出なかった分、どんと出現してくれると期待してるよ。」
「そんなものなんでしょうか……?」
異種は百体に一体の割合だ。俺たちが狩ってきた数は、一つ目を手に入れてからコペルが来るまでに約四十体、その後で約七十体といったところだから、確かに現れるとしたら次のタイミングなのかもしれない。
「ところでさ、コペルはここまでずっと一人でやって来てたのか?」
「えぇ、そうです。βテストの時に知り合った人たちがいるはずなんですが、運悪く合流することができなくて……。」
「それは大変だったな。俺たちだって二人でこのザマだ。」
「そんな! お二人共すごい強くて尊敬します! お二人と出会えてなかったら、僕なんてどうなっていたことか。」
「まぁ、お前はお世辞にも上手いとは言えないわな。攻撃をするときの踏み込みが甘いかと思いきや、突然敵の攻撃に向かっていったりするし。もっと状況に応じた判断が下せるようにならねぇと。」
「はい、おっしゃる通りです……。」
その後も、カイトによるコペルへの戦い方のレクチャーが続いた。カイトの奴、容赦ないな……。
「っと、そろそろ次の群れがポップアップする頃じゃないか?」
「あ、そうですね。行きましょうか。」
話し出したら止まらなくなっちまった。けっこう難しいことも喋ってたんだが……コペルの奴、ちゃんと理解してただろうか。
「(何を言ってるのか全然分かんなかった……。)」
「お、早速見つけた、ってやけに数が多いな。」
「あー、たぶんいくつかの群れがくっついちまったのかもな。見たところ十体はいそうだぞ、あれ。」
「見逃すのもアリでしょうか……ってあれ! あれ《花付き》じゃないですか!?」
確かに、コペルの指差す先には見事に花を咲かせたリトルネペントが一体、周りに守られるように佇んでいた。
「よっしゃ! やっぱり俺の言った通りだったろう! とっとと終わらせるとしよう!」
「ちょっと待て、カイト。あれ、《実付き》じゃないか……?」
「「……ッ!?」」
植物型エネミー、リトルネペントには二種類の異種が存在する。
一つは、今俺たちが必死になって探している《花付き》と呼ばれるもの。通常のものに比べて戦闘力が高い代わりに討伐報酬が少し豪華で、《リトルネペントの胚珠》を確定でドロップする。
そして、もう一つが《実付き》と呼ばれるものだ。こいつがなかなかに厄介で、下手に攻撃をしようものなら中央に添えられている《実》が盛大に爆発。ダメージこそないものの、辺り一帯にいるリトルネペントを呼び寄せるという、半分トラップのようなエネミーとなっている。
もし、”絶対に倒したくないエネミーランキング”なんてものがあったとしたら、間違いなく上位にランクインすることだろう。
「マズいな……。今、この辺りはさっき群れがポップアップし始めたばかりで、相当な数のリトルネペントがうろついているはず……。この状況で《実》が爆発すれば、数十体のリトルネペントが押し寄せてくるぞ。」
「そ、そんな……せっかく《花付き》を見つけたのに!!」
「こいつは放っておいて、別の《花付き》を探すか……?」
「いや、それも良くない。ここらで狩りをしてるのは俺たちだけじゃないだろうし、そのうちの誰かがこれに手を出して失敗する可能性も考えられる。」
「じゃあ……。」
「あぁ、俺たちの手で処理するのが得策だろうな。二人は他のリトルネペントを掃討してきてくれ。俺が《実付き》の相手をする。」
コペルは論外として、キリトでも一対一であれと対峙するのは止した方がいいだろう。何せ、《実付き》はただでさえ《花付き》以上の攻撃力を誇る。その上に、こちらからは攻撃不可なんていうハンデがつけば相当厄介だ。
「わ、わかりました!」「……わかったよ。」
「じゃあ、行くぞ!」
他のリトルネペントにはターゲティングされないようにしながら《実付き》の攻撃範囲内に侵入する。よし、まずは第一関門突破。これを見て、キリトとコペルがリトルネペントの退治にかかる。
ここからが問題だ。
こちらからは攻撃できない以上、それ以外の方法で俺に注意を向けさせ続ける必要がある。具体的に言えば、超近距離戦闘。まさに目と鼻の先での攻防が展開する。
「(ツルが若干硬直したな、これは攻撃のサインだ。右にフェイントをかけつつ、左にステップして避ける。すぐさま消化液が飛んでくるのも軽くバックステップして回避。そしてまた近づく。
はぁ、やっぱなかなかしんどいな。)」
βテストと、今回の大量のリトルネペントとの戦闘で得た経験をフル活用して攻撃を先読みする。この距離では見てからの回避など当てにはならない。
もし万が一、攻撃に当たってバッドステータスを喰らおうものなら一方的な殺戮の始まりだ。生き残れる保証はない。
「(こりゃあキリトには任せらんねぇわ。)」
《実付き》と対峙し始めて数分が経った。そろそろ向こうが終わってもいい頃だと思うが……。
「おーい、カイト、こっちは終わったぞー!」
お、噂をすれば、だ。こちらに向かってくるキリトの姿が目の端に映る。うん、うまくリトルネペントを撃破できたみたいだな。コペルもキリトの後ろについて出てきた。
そして、その時だった。
「……ごめんなさい。」
「「……は?」」
コペルが懐から取り出した剣を《実付き》に向けて投げたのは。
ソードスキルこそ纏ってはいないが、それなりの威力を持った剣は《実付き》に命中。当然、剣は《実》を炸裂させ、周囲にいるリトルネペントたちを呼び寄せる。
「何やってんだコペル!!!」
キリトが怒号を散らすが、既にコペルの姿はどこにもなく、ただ奴の投げた短剣が木に突き刺さっているだけだった。
こうしている間にも、危機はすぐそこまで迫ってきている。ぼんやりしている暇はなさそうだ。
「キリト! こっちに来い!」
「あ、あぁ。カイト、これは一体どういうことだ……? 何が起きているんだ。コペルはどこに……。」
「……まだ分からないのか。あいつは俺たちを騙してたんだよ。くっそ、油断してた……!」
これはおそらく奴の仕組んだこと、PKだ。
それもただのPKではなく、チームメイトのふりをして、自分の手を汚すことなくモンスターに止めを刺させるMTK《モンスター・チーム・キル》。
プレイヤーが死んだ際には、そのプレイヤーが所持していたアイテムなどがその場に一定時間残されるが、こいつはそれを狙った手法だ。
今回の場合は《リトルネペントの胚珠》も視野に入れているのだろう。結果的に、俺たちはまんまと奴の仕組んだ罠にハマっちまったわけだ。
弱気そうな雰囲気をしておきながらなかなかエグいことをしてくれる……。
ごめんなさい、か。謝るくらいなら、やめておけばいいのにな……。
「ハァッ、ハァッ……! キリが、ない……!」
「全くだ……なっと!」
お互い、押し寄せるリトルネペントを十体ずつは倒しただろうか。それでもまだ奥から奥から湧いて来るのだから参る。
事実、ポーションも尽きかけているし……。本格的にピンチだな。
リトルネペントは四方八方から押し寄せてくる。本当なら、二人一組で相手をしたいところだが、これではどうしても背中合わせにして別々に相手をすることになってしまう。
そのせいで消耗が激しいのだ。
「一体ずつ出てきてくんねぇかなぁ……。」
「そんなことあるわけないだろ!? 冗談言ってないで早く倒せ……ってうわっ!?」
「キリト!」
やはり無茶があったのか、ついにキリトが根を上げてしまった。これで、俺は一人でキリトを守りながら戦わなければならなくなる。
「(ここまで……か? いや、まだ、まだだ。せめてキリトだけでも、守ってみせる……!!)」
残りのポーションの数を確認し、最後の手段の覚悟を決めてリトルネペントの群れに立ち向かう。
もう無理かと思っていたその時だった。
「ちょ、あなた、誰……ってうわアアァァァ!?」
一つの悲鳴が辺りにこだます。今の声って……コペル、か?
「お前ら、何やってんの。」
声のした方に目を向けると、そこには尻餅をついているコペル、そして……
目の腐った一人の少年の姿があった。
??「ヒーローは遅れて空からやって来るってナァ‼︎」
この少年は一体、
夜科アゲハって、ジャンプ史上でも五本指に入る格好良さだと思うんですよ、やっぱり。こいつのSSもいつか書きたいなぁ!(無謀