『ごきげんよう、SAOプレイヤー諸君。私はこのゲームの
次の瞬間、俺たちは広場へと転送されていた。いや、俺たちだけじゃなく、ログインしている全プレイヤーが集められているらしい。
俺たちの頭上には大魔導師とでも表現できそうな、紅いマントに身を包んだ巨大なアバターが出現していた。てか、あれもアバターの一種なのか?どちらかと言えばエネミーのように見えるんだが。
それにしても……
「(今あいつ、茅場晶彦って名乗ったか? 確か、茅場晶彦って言えばナーヴギアとSAOの開発者じゃねぇか。)」
普通に考えればGMによる粋なイベント。
しかしそこで起こった出来事は、俺たちの想像を遥かに絶するものだった。
「嘘……だろ……!!?」
プレイヤーたちがゲームの中に閉じ込められてしまったのである。しかも、ここでのHP全損は現実世界での死を意味するという。
空に浮かぶディスプレイには、現実で流されているらしい”デスゲーム、SAO”についてのニュースが表示されていた。
『ここでの生活は想像を絶した、過酷なものとなるだろう。そこで、私から諸君らにとって今後なくてはならないものをプレゼントしておく。私が消え次第、ギフトに届くので、確認しておいてくれ。
それでは、全SAOプレイヤーに、幸あれ。』
そう言って、巨大なアバターは姿を消した。
今の話、本当なのだろうか? 本当だとしたら、これは間違いなく世紀の大犯罪。というか、本当だ。俺は今の話が本当であるという確証を見つけたばかりだったのだ。
「さっき言いかけたことだが……どこを探してもログアウトボタンが見当たらない。」
「マジかよ……じゃあ今の話って……。」
「本当、だろうな。」
「そういうことだ。とりあえずだが、プレゼントってなんだ。」
ウィンドウを操作すると、《手鏡》が届いていた。これを取り出すと、突然目の前が白くなり視界が塞がれる。まさか罠? いや、そんな馬鹿な。
実際、少しすると視界は開け、大して変わったことはないように見えた。
いや、その三人だけではない。辺り一面にいた人々の顔や体格が間違いなく変わっている。まさか、これはリアルと同じ姿になった、ってことか?
これが”今後なくてはならないもの”だとは……。確かに間違ってはいないのかもしれないな。
「とりあえず今後の方針だが、今すぐに次の村へ向かおう。」
「それは何でだ? しばらく状況が掴めるまでここで情報を集めるべきなんじゃないか?」
我ながらアホみたいな反対理由だな。とりあえず反対をするのは、重要なことを決める時にはとても有効だ。
知ってるか? 正解を知りたい時には、質問をするよりも間違った知識を披露する方がその確率が上がるんだぞ。覚えておくといい。
「忘れたのか? 俺とキリトはβテスターだ。他にもβテスターはいる。そいつらに先を越される前に、有利なアイテムやクエストをどうにかした方がいい。情報はその後だ。」
βテスターであるキリトとカイトはこれから起こることを理解している。なるほど、確かにその通りだな。
それにしても、随分と冷静に頭が働く。これから何が起こるのか分からないってのに。いや、分からないからこそか。なら気をつけた方がいいな。
今、俺が抱いている安心感はまやかしだ。嘘だ。ニセモノだ。気を引き締めろ、これから起こるのは……現実だ。
「すまねぇ……俺はダメだ。仲間も一緒に来てるはずなんだよ。あいつら、俺がいなきゃ右も左もわからねぇような奴らなんだ、見捨てては行けねぇ。」
と、俺が覚悟を決めている間にクラインもまたとある決断をしたらしい。リア友? そんな奴らがいたのか。
「で、でも!「やめろ、キリト。」え?」
「こいつはこいつでやらなきゃいけねぇことがあるっつってんだ。一旦落ち着け。俺たちと一緒に来た方が危ないかもしれないんだぞ。クラインのやりたいようにやらせてやれ。」
そうだ。まだ、何も分からない。進んだ方が有利だろうが、それは最悪の結果に繋がるかもしれないんだ。無理に連れて行くことはない。
「……わかった。でも何かあったら必ず連絡してくれ。死ぬなよ、クライン。」
「そんなつもりはさらさらねーよ!! お前らこそ絶対に死ぬんじゃねぇぞ!!!」
そして、クラインは人混みの中へ消えていった。
「それじゃあ、俺たちは次の村へ向かうのか。ここからだとどのくらいかかる? それと途中で予想されるエネミーの種類とその他脅威、そして、得られるであろう武具についても教えてくれ。」
まずは情報だ。こいつらにとっては当たり前のことでも、俺は知らない。本当にこいつらが一緒にいてくれて助かった。
「あぁ、いいぜ。ただし、移動しながらだな。ふっ……それにしてもよ。」
「なんだ?」
「やっぱりお前は見込みがあるよ。少なくとも、そこらのβテスターなんかよりは余程、な。頼りにしてるぜ。」
「……そんなことない。俺は必死なだけだ。」
死ぬわけに、いかないだろう。だって
「じゃあ行くか!」
妹との約束があるからな。
俺たちは歩き出そうとした。いつまでもここにいるわけにはいかない。進まなければ、ならない。
「ひ、ヒッキー……?」
「……ッ!!?」「「え?」」
しかし、またしても突然の出来事が俺を襲った。
嘘だろ。どうしてその単語がここで出てくるんだ。俺の名前は”ハチマン”なんだ、まさか、そんな……
「由比ヶ浜……。」
振り返ると、そこにはここにいるはずのない少女、由比ヶ浜結衣が立っていた。
「どうしてお前……こんなところに……。」
「ほ、本当にヒッキーなの……?」
そう言うと、由比ヶ浜はその場にへたり込むように崩れた。
なんでお前がこんな所に? 金が足りなくてナーヴギアが手に入らなかったって言ってただろう。もしかして雪ノ下が用意してやったのか?
……いや、そんなことより
雪ノ下は、どうした?
「お前、ハチマンの知り合いか? こんな腐った目の奴がそういるわけないっつーの。安心しろ、たぶんこいつはお前が知ってる奴だ。」
「目が腐ってることは今は関係ないだろうが。大丈夫か、由比g……」
あ、やべ、俺も思いっきり本名口走ってんじゃん。慌てすぎだろ……。いや、こいつも俺のことヒッキーって呼んでるしお互い様だな。うん、そうしよう。
「ユイだよ、ここではね。うん、私はなんとか大丈夫だよ、ハチマン。ハチマンも元気そうで、よかった。」
Oh…。それじゃさっきのと合わせてフルネーム分かっちゃうじゃないですかやだー。
「そ、そうか。ユイ、ところで、雪ノ下はどうした?」
あ、また言っちゃったじゃない……馬鹿か。
その途端、ユイが顔をばっとあげてこっちを見てきた。
な、何なんだよ。びっくりするでしょうが、驚かせるな。でも、今の反応で大体わかった。あいつもいるんだな? この中のどこかに……。
なら俺のなすべきことは一つだ。
「おい、カイト、キリト。お前らは先に行け。」
俺は雪ノ下を捜す。
「そうか……。戦力がいなくなるのは残念だな。さっき言ってた情報だが、後でまとめて送っといてやるよ。」
変に探ってくれなくて助かった。言えないことはないが、特に言う必要のないことばかりだ。今はお互い時間が惜しい。
「それと、もう一つ頼みがある。もし黒髪ロングの少女を見つけたら俺に連絡してくれ。名前は、えーと、「ユキノ」そう、ユキノだ。名前の通り氷の女王みたいな奴だから、見たらわかると思う。」
って雪ノ下もフルネーム……もういいわ。
「ハチマン、今の、今度会ったらユキノに言っとくからね……?」
え、止めてくれませんかね。そんなことされたら、粉々にされちゃうんですけど。主に心が。
「少女、ね。なんだお前、意外とモテるんじゃねぇか。」
「ちょ、ちょっと何言ってんのこの人!?」
「ははは、冗談だって。意外でもなんでもねーよ。」
「ツッコミたいのそこじゃないし!?」
はぁ、何バカな話してんだ、こいつら。
「おい、とっとと行けよ。先越されたら、マズイんだろ?」
「おう、もう行くわ。だいぶ時間くっちまったしな。……ハチマン、負けんなよ。」
そう言って、カイトとキリトは路地へと消えていった。
負けんなよ、か。あいつは分かって言ったのだろうか。俺が、死なないよりも大事かもしれないものを持っているということに。生き残るだけじゃ、もはや意味がないんだということに。
あぁ、負けないさ。絶対に、勝ってみせる。
≪前作との大幅な変更点その二≫
『俺ガイル』勢がログインしました。
やってやったぜ。先の見えない超展開。これがどうこの作品を盛り上げていくのか、それは誰も知らない……。俺も知らない。