ここから怪我の描写が強くなるので、R15を付けることにしました。
夕食の最中、クローディアは何度も教員席のダンブルドアを見やった。時間になれば、校長が声をかけてくるのか、それとも自分で訊ねに行くのか、確認していない。緊張が全身に行渡り、鶏の唐揚げが喉を通らない。
しかも、試験から解放された気分でフレッドがクローディアの飲み物にイタズラしたため、腹を下した。
お手洗いに駆け込み、30分近く閉じこもり闘った。げっそりとしたクローディアが廊下に出る際、腕時計を目にする。既に7時半を廻っていた。
「……フレッド、覚えてろ……」
恨めしく吐き捨てると、ベッロが小馬鹿にして笑う。フレッドに文句を述べるため、大広間を目指す。
玄関ホールを抜けようとしたが、背後から風を切る音に気付く。咄嗟に避けると、背後から石が飛んできた。クローディアが避けたせいで、ベッロに命中した。
怒り狂ったベッロは、石の飛んできた方角に突き進んだ。
「石って、誰さ?」
廊下に落ちた石を拾うと屈んだ瞬間、もう一度石が飛んできた。石の軌道は玄関ホールからだ。すぐにクローディアが『隻眼の魔女像』に駆け寄り、周囲を確認する。
校庭に続く石段、栗色の鞄が落ちていた。藤の模様が入った布鞄は、ハーマイオニーの大切な代物だ。この鞄には『透明マント』が入っていたはずだ。
脳髄で危険信号が鳴り響く。ブラックが現れたのかもしれない。身を隠す為、『透明マント』を使った可能性がある。
「ハーマイオニー……」
焦燥と不安で恐れ慄いた手が震える。鞄を握り締め、クローディアは校庭に駆け出す。薄暗い校庭に向かって叫んだ。
「ハーマイオニー!!」
返事はなく、再び石が飛んでくる音がした。
「誰だ!」
石を避けて振り返ると、芝生を這っていくベッロが『暴れ柳』に真っ直ぐ進んでいくのがわかった。そこにハーマイオニーがいると直感して突進する。
「ハーマイオニー!! 何処!?」
『暴れ柳』はクローディアの接近を察知し、胴体より太い幹を振り回した。襲ってくる幹を避けながら、ハーマイオニーを呼ぶ。ベッロが木の根元を這い、人が入れる大きさの隙間に突っ込んでいった。
前、後ろ、空を切る幹の動きを把握しながら、刹那の隙を見つける。邪魔なローブを脱ぎ去り、鞄と共に適当な場所に放り投げた。目を瞑り、音と気配だけで幹の動きを肌で感じ取る。
(いま!)
視認できない隙を捉え、クローディアは根元の隙間に頭から飛び込んだ。隙間の向こうには人1人分が通れるだけの土の穴があり、滑るように底へと降り立った。
ベッロの舌を動かす音がする。
この向こうにハーマイオニーがいる。それだけが動力源となり、クローディアはポケットから杖を手にし、警戒しながら急ぐ。何処までも長い通路は、上り坂となり、捻り曲がった先に小さな穴を見つけた。これも人が1人通れる大きさだ。既にベッロは穴の向こうに行ったらしく、姿がない。
深呼吸し、クローディアは服の袖を捲り上げた。
穴を潜り抜けると、急に空気が広くなった。そして、埃の匂いが鼻につく。杖に明かりを灯すと全ての窓に板が打ち付けられた部屋だった。無残に破壊された家具が散らばっている。朽ち果てているにしては、元の壊され方が尋常ではない。
窓が全て塞がれた建物といえば、『ホグズミード村』近くにある『叫びの屋敷』だ。英国一恐ろしい屋敷の中にいるとわかり、呼吸が苦しくなる。
頭上、上の階から軋む音と話し声が聞こえてきた。
きっと、ハーマイオニーだ。急いで壊れかけた階段を登り、埃を被った床に残った跡を辿る。閉じた扉を蹴破り、駆け込んだ。
「おまえがやったんだ!」
崩れかけた天蓋付きの寝台の傍、殺意に満ちた表情でハリーが手配写真通りのブラックを押し倒していた。その手にある杖を脱獄犯に突きつけていた。
今にも殺人を実行しそうなハリーに、クローディアは慄く。
「エクスペリアームズ!(武器よ去れ)」
クローディアの叫びと共に、ハリーの杖が手から離れた。その杖をベッロが捕らえた。
「クローディア! スキャバーズは本当にペティグリューだったのよ! ハリーが地図を見たとき、ブラックがペティグリューに近づいていた! 傍にクルックシャンクスもいたから、私達……クルックシャンクスを助けようと思って、……そしたら、スキャバーズがいて、でも地図にはペティグリューって書いてあったの!」
壊れた棚の傍にいたハーマイオニーが、クルックシャンクスが口に銜えたスキャバーズを指差した。何故かロンは、片脚があってはならない方向に折れていた。
「僕、ペティグリューを捕まえたんだ! そしたら、ブラックも『動物もどき』で犬だった! 僕をペティグリューごと! ここまで引き摺って連れてきた!」
ロンはひたすら叫ぶ。
「それがどうしたって言うんだ。ペティグリューが『動物もどき』だろうと、僕の両親を裏切ったのは、コイツなんだ!」
睨んだハリーは、ブラックに指を突きつけた。今優先すべきは、彼を落ちつかせることだ。
「ポッター、そこどくさ。私が話を聞くさ」
心臓は脈を速めていた鼓動を打っていたが、クローディアはただの緊張だ。ハリーよりは冷静になれた。荒い呼吸を治めたハリーは頷き、ゆっくりとブラックから離れた。
クローディアはブラックに杖を突きつけ、観察する。骸骨に肉と髪が生えたと表現できる程、やつれている。脱獄囚の瞳が出方を窺う。
マグルを12人殺害した大量殺人犯を目にし、恐怖で手先が微かに震えるが無視した。
「あんたは、ハリーを殺したいさ?」
「違う。俺が殺したいのは、ヤツだ!」
緊迫した声で、ブラックはスキャバーズを指差した。
「ベッロがスキャバーズを危険だと私達に教えていたことと関係があるさ?」
「その通りだ……。ベッロ、いまの俺には、貴様すら懐かしい。君らはベッロの言っている意味がわかるのか?」
敵意に満ちた視線でブラックは、ベッロを一瞥する。
「質問しているのは、こっちさ。聞かれたこと以外で、喋らないでさ」
承諾の意味でブラックは、ゆっくりと頷いた。意外と、彼は理性的な態度を示す。クローディアは、余計に緊張を強くする。この男は監獄所でもただ1人、正気を保っていたのだ。尋常ではない精神力を持ちえている。
だが、会話が可能ならば、質問に答えるだろう。
(冷静に……情報を整頓……、……分からない箇所を埋める…)
クローディアは深呼吸し、ハーマイオニーと視線を合わせる。いつか、2人で抱いた疑問がある。
「『秘密の守人』は、本当にあんたさ?」
「いいや、俺は……愚かにもピーターにそれを任せてしまったんだ! ヤツが『例のあの人』に通じているとも知らずに!」
悔恨の念を込め、ブラックは悲痛に叫んだ。その痩せた肉体からは、信じられない程の声量が溢れ出た。
全員の視線が、スキャバーズ改め、ペティグリューに注がれる。クルックシャンクスの口で、鼠は必死に悶えた。ハリーはブラックを睨み、喚く。
「嘘だ! 言い逃れだ! こいつが僕の両親を殺したんだ!」
「つまり!」
ハーマイオニーがハリーの言葉を遮る。
「皆はブラックを『秘密の守人』だと思い込んでいた。ペティグリューは、ハリーのご両親を裏切った挙句に、失敗したときのためにブラックに罪を着せる手筈も考えていた?」
クローディアも言葉を繋ぐ。
「現場を証言したのは、マグルだけさ。なら、……『錯乱の呪文』で正常な判断をなくさせたさ?」
スキャバーズの小指が欠けた手を見つめ、ロンも気づく。
「そうか、だから自分の指を千切って、鼠になって逃げた。『動物もどき』だと知られてないから、誰も生死を疑わなかった。ハリー! 君が言ったろう! ベッロはペティグリューが敵だとわかってたんだ!」
3人が己の推測を口々に述べる。ブラックは、理解者を得たと微笑んでいた。
「その通りだ。俺がピーターを信じたばかりにジェームズとリリーは死んだ。だから、ハリー、俺が殺したも同然だ。それでも俺を殺したいなら、気の済むようにすればいい」
ブラックと視線が合い、ハリーの拳に力が籠もる。
「質問の答え以外は、喋るなって言ったさ。それにポッターに人殺しなんてさせないさ。あんたが自己満足の為に、そんなことを言うなら、いますぐアズカバンに送り返すさ!」
ブラックはスキャバーズに視線を移し、小さく息を吐く。彼自身も強い感情に押されているのだと感じた。
冷淡に吐き捨てたクローディアは、杖を決して緩めない。
「あんた達は『動物もどき』さ。でも、どうして登録を怠ったさ? それがあれば、ペティグリューが鼠になって逃げたかもしれないって考えた人もいただろうさ」
「それは……」
「それは私のせいだ」
唐突に現れた声に、全員が驚いて扉を見やった。
蒼白な顔色のルーピンがクローディアに杖を向ける。ブラックに気を取られすぎ、背後の警戒を怠っていた。ブラックに杖を向けたまま、彼女はルーピンを凝視する。
「クローディア、杖を下ろすんだ。わかるね?」
授業中の態度を注意する口調で、ルーピンはクローディアに命じる。ブラックを一瞥してから、素直に杖を下ろす。
「いつから、いらっしゃったんですか?」
少し緊張が解れたハーマイオニーが口を開く。
「クローディアが『秘密の守人』のことをブラックに聞いた辺りだよ。ダンブルドアに頼まれて、彼女を探していたんだ。『暴れ柳』に向かって、走っていくのが見えたから追いかけてきた。君は私が思うより足が速いね」
ルーピンは杖を下げ、複雑な表情でブラックを見下ろした。
「さっきの言葉は本当か? 『秘密の守人』のことも、その鼠も?」
声は震えて感情を押し殺していたが、疑念はなかった。ただ、確認しているだけだ。ブラックはルーピンをじっくり見つめ、ゆっくりと頷いた。
一度、目を閉じたルーピンは天井を仰いだ。そして、ブラックに手を差し伸べて助け起こし、再会を喜ぶように抱きしめあった。
「すまなかった、シリウス」
「いいんだ……リーマス」
その行動が理解できず、クローディアは胃が痙攣する。ハリーは絶望したように目を見開いていた。ハーマイオニーは胸を撫で下ろし、ロンも複雑そうだが安堵した。
「ルーピン先生……、その人を信じるんですか?」
ハリーの呻き声が全員の耳を打つ。
「リーマス、奴はそこだ! 殺すなら今しかない!」
「待つんだ! まずは、ちゃんとこの子たちに説明しなければ」
血気に逸るブラックを宥め、ルーピンは彼を古びた寝台に座らせる。そして、クローディア、ハーマイオニー、ハリー、ロン、そしてベッロを順番に見つめた後、授業中の講義のような口調で話しだした。
「ハリーには、もう話したね。私は学生時代、ホグワーツにいた。……そして、このシリウス=ブラックと友人だった。ジェームズ=ポッター、そこのピーター=ペティグリューともだ。彼ら3人は満月の夜になると、それぞれの動物に変身し、私と夜を過ごした」
「3人?」
ハーマイオニーの顔色が段々と青ざめていく。
「それは、人狼である私と夜を共に過ごし、遊ぶためだった」
人狼。
この単語に真っ先に反応したのは、クローディアとハーマイオニーだ。
「それは、嘘です。ルーピン先生は、人狼の特徴に当てはまりません」
「私も最初は疑いました! でも、満月の日もちゃんと私達の前にいました!」
ハリーはロンと目配りでお互いが困惑していることを伝える。そして、ハリーは不意に気づく。
「スネイプ先生の薬」
「その通りだ、ハリー。私は、2つの薬によって満月の夜、完全に己を失わずに済んだ。変身もなく、誰も襲わない。ただの人として生徒に講義が出来る。私は、己が人狼であることさえ……忘れそうになる……夢のような日々だ。けど、私が学生時代、その2つの薬はなかった。私は、月に一度、完全に成熟した怪物に成り果てた。学校に入学するなんて不可能だと思われていた。しかし、ダンブルドアが校長になり、私に同情して下さった。きちんと予防措置を取りさえすれば、私が学校に来てはいけない理由などないと、おっしゃってくれた。その為にこの『叫びの屋敷』は用意され、入り口には『暴れ柳』を植えたんだ」
「正気かよ……」
驚きすぎて思わず呟くロンをハーマイオニーが咎める。
「確かに正気じゃない」
暖かい笑みでルーピンもロンに答えた。
「リーマス、その話はもういい。俺は我慢できない」
「もう少しだ。耐えてくれ。この子達は、ちゃんと私の話を聞いている」
段々と殺意の衝動を抑えきれなくなったブラックがスキャバーズを、殺さんばかりの勢いで睨む。反対にルーピンは穏やかな表情で、昔話を聞かせた。
ハリーもルーピンの昔話に聞き入っていた。学徒の頃の父親の姿がハリーから、憎しみを消し去って行った。
「3年かかり、ジェームズとシリウスは完全に変身できるようになった。ピーターはどうにか変身したが、2人ほどじゃなかった。それでも私達は満月の夜、屋敷を抜け出して校庭や村を徘徊して遊んだ。その経験から、私達は『忍びの地図』を作成したんだ。それぞれのニックネームを地図にサインしたよ。私はムーニー、シリウスはパッドフット、ピーターはワームテール、ジェームズはブロングズだ」
その光景を浮かべ、ハーマイオニーは恐れをなした。
「危険すぎるわ……。それで犠牲者が出たらどうなっていたか…」
「そうだね、今思えば本当にぞっとするよ。でも、当時の私達にそんな心配はなかった。才能に酔っていたのもあるし、私は友達を失いたくなかった。勿論、ダンブルドアへの罪悪感はあった。約束を破っただけでなく、友人3人を非公式の『動物もどき』にしたなど、ダンブルドアは知らない」
友人との最高の時間、『忍びの地図』の作成、ダンブルドアへの敬意。そして、ルーピンは己の卑屈さを嘆いた。
「この一年、私はシリウスが『動物もどき』だとダンブルドアに告げるべきか迷い、ずっと闘ってきた。告げれば、学徒の頃からダンブルドアの信頼を裏切り、ジェームズ達を巻き込んだことを告白することになる。そうやって理由をつけては、今日まで私は何も言わなかった。……ダンブルドアの信頼が私とっては全てだったのに……」
クローディアの脳裏を掠めたのは、コンラッドの言葉だ。
〝臆病な態度を示したとしても、責めてはいけない。ただし、庇う必要もない〟
やはり、コンラッドとルーピンは顔見知りだった。何故かはわからないが、コンラッドはルーピンの体質を知りえていた。その為の助言だ。
唐突にハーマイオニーは叫んだ。
「新聞! ロン、新聞よ! ファッジ大臣がアズカバンを訪問した時、この人は新聞を要求してたわ! 偶々、あなた達がエジプトに行った写真が載っていたんだわ! スキャバーズも一緒に! その記事を見て、気付いたんだわ! ペティグリューが生きていることに!」
難問の解答を見つけた時と同じ反応でハーマイオニーは、ブラックに同意を求める。純粋な眼差しに圧倒され、彼はたじろいながらも肯定した。
「何度も変身した姿を見ているなら、他の鼠と見分けはつくだろうさ」
問題の解説を付け足すようにクローディアが呟く。
「でも、どうしてアズカバンにいたのに正気を保っていられたんだ? それにどうやって脱獄をやってのけたんだ?」
納得できないロンは、問題の答えを求めるようにブラックに問うた。ブラックはロンを一瞥し、不意に天井を見やる。
「おそらく、私が自分を無実だと知っていたからだ。故に私の心は、絶望や失望という感情しかなかった。吸魂鬼にはその感情を吸い取ることはできない。どうしても、心が折れそうになった時は犬になって奴らを誤魔化した。奴らは目が見えない。私が犬になったなど気付かず、弱ったとしか思わなかったのだろう」
「……動物は、吸魂鬼の影響を受けないから……」
ハリーがベッロを見やる。ベッロが語りかけるような仕草をした。
「あなたは……、クルックシャンクスにペティグリューを捕まえるように協力を頼んだんですね」
緊張で震えた声だが、ハリーは落ち着いていた。ブラックの協力者がクルックシャンクスだと、ハーマイオニーとロンは驚いた。
「その……通りだ。その猫……クルックシャンクスは、……私が普通の犬ではないと見抜いていた。やがて、私を信用し、寮に入る為の合言葉を書いたメモを持ってきてくれた。ペティグリューを捕えようともしてくれた……」
ブラックはハリーの発言に驚いていた。
「つまり、隙を見て……犬に変身し、脱獄したってわけさ。それで、吸魂鬼が何処を探しても、捕まえられなかった理由がわかったさ」
悠長な口調でクローディアは、ハーマイオニーに微笑んだ。非登録の『動物もどき』が多い。
「でも、ルーピン先生。前に『スネイプ先生の調合してくれる薬しか効かない』って言ってましたよね? 薬は2つあったというのは?」
ハリーの素朴な問いを授業中の質問のようにルーピンは答える。
「2つの薬の話……ひとつは『脱狼薬』、これはスネイプ先生が毎月調合してくれた。近年開発されたばかりの薬で、調合が非常に難しい。これによって、狼の性が抑制できる。もうひとつは『解呪薬』、これによって変身そのものを押さえつける」
「え?」
ハーマイオニー、ハリー、ロンの視線がクローディアに向けられた。困惑して彼女はルーピンと目を合わせる。彼は、感謝を込めた眼差しを送ってきた。
「『解呪薬』は、世に知られていない……ある魔法使いだけが調合できる。クローディア、そう君のお祖父さん……トトだ。わざわざ人狼に効くよう改良してね」
祖父の関与は信じ難いが、これでルーピンが『解呪薬』を知っていた理由がわかった。
「あの薬はどんな呪いも解いてしまうはずです。先生の人狼もきっと…」
「ハーマイオニー、……それは……オリジナルではないからさ」
ハーマイオニーの疑問をクローディアは遮る。
「オリジナル? あの薬はトトさんが作ったんじゃないの?」
不思議そうにハリーは、問いかけてきた。クローディアは気まずそうに頬を掻く。
「元々、曾祖父ちゃんとお祖父ちゃんが共同して作った薬らしいさ。曾祖父ちゃんが亡くなって、完璧なオリジナルを作りだすことは出来なくなったさ。曾祖父ちゃんの遺した薬は、私が持っているアレだけさ。それももう一粒しかないさ。最後の一粒になったって知った時のお祖父ちゃんを見せてやりたいさ。すっごい剣幕だったさ」
ポケットの中を探ったが、印籠がない。あるのは薬入れだけだ。こんな時に印籠は部屋へ置いてきていた。
「でも、何度も薬を飲んで大丈夫なんですか? あの薬は反動が強いと思いますが」
話を逸らしたクローディアに、ルーピンは満足げに頷く。
「最初に薬を飲んだ日は、あまりの不味さに体調を崩してしまった。二度目からは、気絶する程度だ」
((((それは、大丈夫なんだろうか?))))
更に話を続けるため、ルーピンは深呼吸する。
「トトがクローディアのお祖父さんと気づいた後、一度だけお会いした。その時、私の態度から自分の素性を知られていると見抜いていた。どうしたと思う? トトは『孫をお願いします』と私に頭まで下げてくれた。人狼である私を彼は信頼してくれた。その時の私の気持ちがわかるかい?」
急に尋ねられたクローディアは、何も思いつかず首を横に振る。
「私を信じないで欲しいと、私は信じるに値しないと……言いたかった。そう、セブルスの言う事は、ある意味では正しかったわけだ」
懺悔のように悲痛な表情でルーピンは、吐き出した。
「私はルーピン先生のこと、苦手です」
水を差すようなクローディアの一言に、ハリーは吃驚する。
「でも、授業は嫌いじゃありません」
照れくさそうに呟くクローディアは、耳まで真っ赤に染まっていた。それを見たルーピンは、安心したように表情を綻ばせた。
「セブルスの『脱狼薬』だけでも、世の人狼には救いなのに、私は本当に運がいい。セブルスとコンラッドには、本当に感謝しているんだ」
「コンラッド=クロックフォードだと!?」
ブラックが感情的な大声を上げ、ルーピンを見上げた。あまりにも素っ頓狂な発音で叫ばれ、クローディアは驚いて肩をビクッと跳ねらせた。
「ちょっと待て、なんでさっきから、スネイプとクロックフォードが関係してくる?」
不満そうにブラックは問う。表情を曇らせたルーピンは、言葉を重くした。
「セブルスもホグワーツで教鞭を取っている。そして、このクローディアはコンラッドの娘だ。彼女がここにいるからこそ、コンラッドは『解呪薬』をトトに頼んだんだ」
初めてブラックは、クローディアに気がついた視線を向ける。思わず、ルーピンの背後に身を引っ込めた。
「ヤツが子育てだと? しかも女の子を?」
不信そうにするブラックを余所に、ルーピンはクローディア、ハリーへと視線を転じた。
「2人と私たちは、同期なんだ。セブルスは、私が教職に就くことを強硬に反対し、ダンブルドアに信用できないと訴え続けた。彼には、彼なりの理由があった。…このシリウスが仕掛けた悪戯でセブルスが危うく死に掛けたんだ。その悪戯には私も関係していた」
「……悪戯で……死にかけた……」
クローディアの背筋が寒気に襲われる。
急にブラックは悪意に満ちた笑顔で、肩を揺らす。まるでドラコのようにだ。否、それよりも残虐性を露にしていた。
「当然の見せしめだったよ。こそこそ嗅ぎまわって、我々を退学に追い込もうとしていた」
せせら笑うブラックは武勇伝として発言し、クローディアの心臓が冷徹に脈打つ。
脳髄の奥が、じわじわと騒がしくなっていく。やがて、眩暈を起こすような熱さが神経を通じて全身に行きかう。
「セブルスは、私が月に一度、何処に行くのか非常に興味を持った。コンラッドが私に関わらないように、セブルスを引き止めてくれたのも無視する程にね」
「なんだと?」
初耳だと言いたげに、ブラックは眉を寄せる。
「その頃のコンラッドは、私の正体を知らなかったが、ベッロは異常に私を警戒していた。そのせいだろう」
ルーピンはハリーに杖を渡すベッロを見やった。
誰もがルーピンに話を聞き入っていた。異様に静まり返ったクローディアがゆっくりとブラックへ近寄る姿に誰も気づかない。
「セブルスはある晩、私がマダム・ポンフリーに『暴れ柳』に引率されているのを見つけた。シリウスが……からかってやろうと思って……」
ルーピンもクローディアに気に掛ける余裕なく、その時の状況を話し続けた。
「ジェームズが危険を顧みず、セブルスを引き戻した。しかし、その時、セブルスは変身していた私の姿を見てしまっていた。ダンブルドアが決して他言せぬようにセブルスに口止めした」
「だから、スネイプ、先生はあなたが嫌いなんだ。でも、コンラッドさんはどうしてあなたの正体を知ったのですか? スネイプ先生が教えた?」
素朴な疑問にルーピンは今までで一番、苦渋に満ちた表情で目を閉じた。
「セブルス以外の人が……コンラッドに教えたんだ。その悪戯の後に……。その人はダンブルドア程ではないが、私に親切だった……。私は大人がダンブルドアのように寛容ではないことを忘れていた」
「その通り」
闇色の声が、ルーピンの背後から発せられた。
誰もいないはずのそこから『透明マント』を脱ぎ捨て、スネイプがルーピンへ杖を向けていた。
「『暴れ柳』の根元にこれが落ちていましてね。ポッター、なかなか便利なものだ。役に立ったよ」
ハーマイオニーは驚いてロンから手を離し、ブラックは敵意の目で立ち上がる。ハリーも思わず後ろに一歩下がった。
「ルーピン、やはりブラックを手引きしていたか……」
勝利を確信し、スネイプは恍惚な表情を浮かべる。咄嗟にハーマイオニーが叫んだ。
「スネイプ先生、待って下さい! シリウス=ブラックは犯人じゃありません。ピーター=ペティグリューです!」
「生徒達に何を吹き込んでいる? 全く、くだらん戯言だ」
スネイプはルーピンだけを仕留めるように睨んだ。
足の痛みに耐えながら、ロンも必死に何度もスキャバーズを指差した。
「先生、コイツです。この鼠がペティグリューなんです! 『動物もどき』です!」
「いちいち鵜呑みにするな。馬鹿どもが!!」
怒鳴り声を上げたスネイプの杖が一瞬、激しく火花を散らした。
ハリーは震える己に喝を入れ、口を開く。
「何処まで聞いていたんですか? ちゃんと聞けば、ブラックが濡れ衣だったと……クローディア?」
ブラックへ視線を向けたハリーが目にした光景に、絶句した。
☈☈☈
ハリーの声に気づいたハーマイオニー、ロン、ルーピン、スネイプの視線がブラックの背後に集中する。彼は皆の視線を受け、首筋に杖の感触があることを確認した。
絶対なる殺意を込めた眼差しをブラックに向け、クローディアは彼の背後から首筋に杖を突き立てていたからだ。
心臓を鷲掴みされた気分に駆られたブラックは両手を上げ、背後の彼女に呻く。
「待て、君は話を聞いていたはずだ」
「聞いた。一字一句、聞き逃さなかった」
彼女の口から放たれているとは思えない声は、侮蔑が込められている。
「全部、聞いて信用できないと判断した」
「犯人はペティグリューよ! 何処に疑う余地があるの?」
悲痛な声を上げるハーマイオニーに、クローディアは冷静に頭を振るう。
「そのことじゃない」
スネイプに杖を突きつけられたまま、ルーピンが諭すように話しかける。
「クローディア、やめるんだ。杖を下ろして……」
「誰も動くな」
暗い底から吐き出た言葉が命じる。
突然、ロンを除いた全員が金縛りにあったように動けなくなった。口さえも動けず、何かが邪魔をしている感覚が全身に行渡る。クルックシャンクスとベッロも硬直し、抗えない力に身を捩じらせる。
驚いたロンがクローディアに声をかける。
「何をしたんだ?」
「少しじっとしてもらう。私がコイツをどう殺すか思いつくまで」
揺るぎない殺意は、本物だ。ロンにも感じ取れた。
「なんでだ?」
クローディアは横目でロンを一瞥し、ルーピンに視線を向けた。
「コイツは、ルーピン先生を裏切った」
反応できないルーピンが目だけを見開いて、驚きの感情を伝える。
「コイツはルーピン先生にスネイプ先生を殺させようとした。誰も襲いたくないルーピン先生に、人殺しをさせようとしたんだ!」
腹から吐き出された喚き、ハリーは初めて悪戯の重大さと悪意に気づく。それは、ハーマイオニーとロンも同じだった。それでも、ロンは必死に言葉を探す。
「でも……、その後もルーピン先生はブラックと友達だったわけだし……」
「許せない……」
クローディアの歯の奥で音が鳴った。あまりの気迫に、ロンは口を閉じる。
「それを嗤って、当然のことだなんて! よくもそんなことが言える!! 殺意を抱くことは誰だってある! でも、よりによって友達に殺させようとした! 誰も責めなかったから、それを少しも反省していない! 罪と思ってすらいない! あんたなんか、友達じゃない!」
何か言いたげに、ルーピンの口が動こうとしている。
ロンは解決の糸口を探して周囲を見渡す。室内を見渡し、異様さに気づいた。窓から光が差し込まないはずが、皆の足元にある影がクローディアの足元から伸びている。
(影が? クローディアが影を操っている?)
突拍子もない閃きだったが、ロンにそれに賭けるしかない。自分の杖はハーマイオニーの手にある。
折れていない脚に力を入れ、ロンはクローディアに気づかれないよう、ゆっくりとハーマイオニーに手を伸ばした。
「心臓の動きを止めれば……死ぬかもしれない」
誰に言うわけでもなく、クローディアは呟く。ブラックを床に蹴り倒し、再び蹴って仰向けにした。抵抗できぬ彼は、ただ目を見開いていた。
迷わず、クローディアの杖はブラックの胸に突きつけられた。
「吸魂鬼に引き渡すのは、死体になったあんただ!」
床を這いずり、ロンの手はハーマイオニーの手にある杖を掴み、乱暴に引き抜いて天井に向ける。
「アレスト・モメンタム!(動きよ止まれ)」「ルーモス!(光よ)」
唱えるのは同時。
しかし、ロンのほうが短い分、早く効果が現れた。杖に灯された光がハーマイオニーとハリーを縛っていた影を消し去った。
解放されたハーマイオニーは、すぐにクローディアに抱きつくように飛び掛った。
ハーマイオニーに腕を掴まれたクローディアの杖は、向きがずれて床に命中した。ハリーも杖を構える。
「エクスペリアームズ! (武器よ去れ)」
杖がクローディアの手から離れて、床に飛んだ。杖がなくとも、ブラックに迫ろうとしたので、ハーマイオニーが羽交い絞めにして留める。
「やめて、クローディア! お願い!」
「どうしてだ!? こんなヤツの勝手な悪戯のせいで、スネイプ先生は殺されかけた!ルーピン先生は殺しかけた! 誰も死んで言い訳がない!」
喚き散らしたクローディアは、ハーマイオニーを振りほどこうとする。まさに鬼のような形相だ。それに近い表情なら、ハリーも見たことがある。クィレルに憑依ついた『例のあの人』を批判したが、正直、比べ物にならない迫力がある。
ロンは杖の灯りを強くし、他の者も影から解放した。呪縛が解けた大人達はすぐに行動した。
ブラックは背で床を這いずりながらクローディアから遠退く。複雑に眉を寄せ、何かを言おうにも言葉が出ない。
ルーピンはクローディアに駆け寄り、両肩を掴んだ。スネイプはブラックに杖を向け、その視線は彼女へと向けられた。
「私はシリウスを恨んだことはない、本当だ!」
「嘘だ! お父さんは理解してくれなかった!! お父さんは私を……私を軽蔑した! 何度も泣いた! そして、後悔した! 私は、ずっと苦しんできた! あんなことすべきじゃなかったと何度も思った! それなのに、こいつはどうしてそんなに平気なんだ!」
噛み付く勢いで、ルーピンを怒鳴りつけた。
「クローディア……何の話をしているの?」
ハーマイオニーはクローディアを抱きしめ、必死に諌めようとする。
「馬鹿馬鹿しい。結局は、貴様の自己満足ではないか」
軽蔑したスネイプが吐き捨てる。闇色の声が届いたクローディアは硬直したように動きをとめた。ルーピンは彼を咎めた。
「セブルス!」
「黙れ、人狼! そこの馬鹿者に話している」
一喝し、スネイプはクローディアを目の端で捉えた。彼女は静かに動揺している。
「貴様はブラックにあの時の自分を見ておる。貴様が殺したいのは、ブラックでない。あの時の自分だ。そうすることで、あの時のことをなかったことにしたいだけだ」
親が子を叱るような口調、スネイプは言葉の端々に重みをつける。
クローディアの身体が痙攣し、震えだす。
唐突すぎるスネイプの話はハリーには全く検討がつかない。ロンとハーマイオニーも頭を振るう。
皆の反応を無視し、スネイプはより一層重い声を出した。
「コンラッドは、人殺しを嫌悪していただろう? 己が真にコンラッドの娘だと信じているならば、それを貶めるような真似をするな」
全員、呪文がかかったように沈黙する。呼吸音だけが部屋を満たした。
痙攣していたクローディアは両手を組んだ姿勢になる。それで、痙攣がようやく治まった。代わりに日本語だろうか、何か呟いている。
部屋を見渡し、スネイプはブラックの眉間に杖を突きつける。
「では、諸君。いま重要なのは、このブラックを吸魂鬼に引き渡すこと……」
ルーピンが止めに入ろうとする前に、スネイプが手で制した。
この場所に辿り着いた時、スネイプもブラックへの殺意の衝動を押さえ込むのに精一杯であった。故にクローディアを軽蔑しない。
「だが……、ミス・クロックフォードに免じて話ぐらいは聞いてやろう」
狂気じみた怒りを抑える口調で、スネイプは深呼吸する。
意外な言葉に、ブラックが驚いて音程のずれた声を上げる。ハリーとロンもだ。ルーピンは安堵の息を吐き、クローディアをハーマイオニーに任せてスネイプと向き合う。
スネイプは杖をブラックに向けたまま、ベッロに視線を向ける。
「ベッロ、その鼠はピーター=ペティグリューか?」
問いかけに、ベッロは頷くような動きを見せる。
スキャバーズを一瞥し、スネイプはルーピンに視線を送る。
視線の意味を理解した彼は杖をスキャバーズに向ける。察したクルックシャンクスが鼠を離した。
ルーピンの杖から、青白い光が迸りスキャバーズに命中する。鼠は、宙に浮くと激しく捩れた。その光景にロンが堪らず叫んだ。
そして、鼠は瞬時に小柄な小太りの男の姿へと変貌した。色あせた髪はてっぺんに禿げを作っている。鼠に相応しく何処かパサパサしていた。
「おお、リーマス。懐かしの友……」
震えた声で再会を喜ぶペティグリューより先に、ベッロがその身体に巻きつき鋭い牙を首筋に当てた。冷たい鱗の感触に、彼は恐怖に慄き、ガタガタと音を鳴らして震えた。
「どうやら、我輩よりもベッロのほうが貴様を殺したいようだ」
唇を噛み締めたスネイプの手が、確かな憤怒で震えている。
「待ってくれ! 話す、全部話すから、この蛇に殺させないでくれ! ああ、ハリー! 君はお父さんにソックリだ! 私が蛇に襲われそうになったら、いつも助けてくれた」
動揺を隠せないハリーにペティグリューは縋ろうとする。それ見て全身に怒りが巡ったブラックが怒鳴った。
「この子の前で、よくもジェームズの名が出せるものだ! 貴様がジェームズとリリーを売ったせいで、死んだんだぞ!」
「仕方なかった! 闇の帝王には逆らえなかった……恐ろしいまでに強大な力に抗えなかったんだ……。シリウス、君だってそうだろ?」
自身を哀れむペティグリューに、ブラックが飛び掛る。咄嗟にベッロがペティグリューから離れた。
「2人を裏切るぐらいなら、俺は死んでいた! 貴様もそうするべきだったんだ! そうだ、この場で殺して……」
ブラックの両手がペティグリューの首にかかろうとした。しかし、クローディアを意識したとき、手が自然と止まった。
「殺していいわけがない。いま、このお嬢ちゃんが言ったじゃないか。この娘さんは、良いことをいうじゃないか。私が殺されていいはずがない」
クローディアの言葉を自分の都合よく使うペティグリューの首をブラックは、迷いを捨てて掴みかかった。
その光景にハーマイオニーが悲鳴を上げ、クローディアの肩に顔を埋めた。
「やめて、殺さないで!」
制したのは、ハリーだ。ブラックは驚いてハリーを見やる。ペティグリューは歓喜に震える。
「おまえを吸魂鬼に引き渡す! アズカバンに行くんだ!」
憎悪の感情を剥き出したハリーは、ペティグリューに死刑を宣告するより重く吐き捨てた。
ルーピンもブラックのように驚いていたが、ハリーの決定に従う意思を見せた。
「しかしハリー、変身するようなことがあれば、殺すよ。いいね?」
これに対し、ハリーは頷いた。
スネイプは難色を示していたが、杖をペティグリューに向け、魔法で出した縄で縛り上げた。そして、骨折しているロンの脚に杖をあて、骨が見えていた傷を癒した。
「応急処置だ。後は、マダム・ポンフリーに任せる」
不機嫌にスネイプは、ロンを無理やり立たせた。
誰かがこの集団を目にすれば、奇怪な印象を受ける。
少なくともハーマイオニーは確実に怪訝する。クルックシャンクスとベッロが先頭し、ロンに肩を貸すシリウスとハリー、ピーターを引きずるスネイプ、ルーピンの後ろを歩くクローディアとハーマイオニーが殿だ。
「噛んで悪かったね。痛かったろ?」
「もげるかと思ったよ」
文句を述べるロンに、シリウスは機嫌が良い。
ひたすら歩く中で、クローディアは『叫びの屋敷』から口を開かない。ずっと、何かを考えるように目を細めている。沈黙に耐えかねたハーマイオニーは、声をかけた。
「そういえば、クローディアはどうしてここに来れたの?」
「……玄関ホールの階段に鞄が落ちてたさ。『暴れ柳』にベッロが向かっていったから、そこにハーマイオニーがいると思ったさ」
普段の口調に戻っている。しかし、何処か重い雰囲気が込められている気がした。先ほどのことがクローディアに暗い影となっているからだと、ハーマイオニーには推測できる。
おそらく、クローディアはシリウスのような事態を招いたことがあるのだ。詳細はわからないが、何故か、スネイプはそれを知っていた。結果として彼の言葉が引き止めたのだから、感謝しなればならない。
「ハーマイオニー」
考えに耽っているハーマイオニーは、クローディアの呼びかけに慌てて振り返る。
「ごめんさ、みっともないところ見せてさ。本当に、顔向けできなくなるところだったさ。……そうさ、誰かを身代わりにしても私のしたことは……取り消せないのに……」
表情がなく、口調も淡々としている。
「みっともなくてもいいわ。クローディア、貴女がどんな人間でも私達は友達よ」
当然のことを口にするハーマイオニーに、クローディアは驚愕に目を見開く。そして、憑き物が落ちたように柔らかい表情になり、嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう……」
まるで何年も口にしたことがないように緊張した言い方だった。ハーマイオニーはクローディアの手を取り、友情を態度で示した。
閲覧ありがとうございました。
シリウスの悪戯は、どう考えてもルーピンが傷つくのに、当時のシリウスにはわからなかったんでしょうね。