こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

46 / 150
閲覧ありがとうございます。
折角、ホグワーツに来たんだから、クィディッチしようぜ!


12.クィディッチ

 明日は、グリフィンドールとハッフルパフの寮試合があるため、早々に宿題を片付けたい。クローディア、パドマ、リサ、セシル、マンディ、サリー、ハンナ、スーザン、エロイーズ、ハーマイオニーの10人で勉強会をすることになった。寮の部屋に入りきらないため、図書館に集まる。

「クローディア、人狼の特徴はこれで間違ってない?」

 ハーマイオニーがレポートを見せて、意見を求めてきた。クローディアは丁寧に目を通し、頷く。

「そっちは、もう人狼に入ったの?」

 ハンナの疑問に、ハーマイオニーが億劫そうに頭を振る。

「違うわ。今日の授業はスネイプ……先生が代講したの」

「あら? でも、私達の時には、宿題は出なかったわよ」

 羽根ペンの手を止め、マンディが瞬きを繰り返す。

「スネイプ先生は、グリフィンドールを目の敵にしてるからじゃない?」

 スーザンが冗談を含めるが、ハーマイオニーは沈んだ様子でレポートを片付ける。彼女はクローディアを見やる。

「クローディア、河童って蒙古(モンゴル)に住んでるの?」

「なんで? 蒙古には河童が住める十分な水がないさ。いるわけないさ?」

 何故か元気を取り戻したハーマイオニーは、『数占い』の教科書を開いた。

「ううん、確認したかっただけよ」

 粗方、宿題が終えると自然に明日の試合について、出来るだけ小声で話し出す。図書室の窓から外を見やるリサは、ため息をつく。

「明日の試合、少し不安ですね」

「ハリーと、セドリック=ディゴリーなら大丈夫よ。マルフォイって本当にむかつく。シーカーが怪我したなら、代理を立てればいいのに……」

 パドマの声量に、マダム・ピンスが睨みを利かせる。

「そういえば、ディゴリーはキャプテンもやっているって聞いたさ。監督生もやって、大変さ。女子にも人気ありそうさ」

 急に皆の視線が集まる。奇異な発言をしたのかと、クローディアは視線に驚く。

「クローディア、セドリック=ディゴリーとロジャー=ディビーズは女子の人気を二分しているのよ」

 ハーマイオニーは、躊躇いがちに口を開く。

「セドリック、ハンサムで背が高いし、無駄なおしゃべりをしないの」

 我が事のように照れながら、ハンナが得意げになる。

「ロジャー=ディビーズもハンサムよ。それに、とても賢いし、女子の扱いが上手なんですって。それにレイブンクローチームのキャプテンになったわ。監督生のザヴィアー=ステビンズを押しのけてね」

 パドマがハッキリとした口調で強気に言い放つ。一度に説明されたクローディアは、呆然としつつ頷いた。

「ディビーズは、確かにカッコイイさ。認めるさ。でも、女子をとっかえひっかえしてるさ」

 ついでに、クローディアに告白する誓いを立てている。そのことをここにいる面子は誰も知らないのが、幸いだった。

「う~ん、なんというか、そのプレイボーイぶりがいいってことよ。次は自分に来るかもっていうドキドキがね」

 難題の数式を如何にして、幼い子供に教えるかのような口調でサリーは言い放つ。それのどこに女子を惹きつける要素がるのか、益々、理解出来なくなった。

 

 豪雨で視界が霞む中、試合は為された。そして、吸魂鬼が競技場に乱入し、シーカーのハリーが襲われた。箒から落下したハリーはダンブルドアに助けられたが、試合はハッフパフに勝ち取られた。

 とても複雑な勝利に、湧く者はいない。

 それだけではなく、これまでハリーを助けてきた『ニンバス2000』が暴れ柳に修復不可能なまでに折られてしまった。彼は、完全に塞ぎこんだ。医務室に訪れる来客がどんなに励まそうと曖昧に頷き、寝台から起き上がることなく、『ニンバス2000』の残骸を包んだ布を抱きしめていた。

 クローディアとハーマイオニー、ロンの3人は許される時間の限り、医務室にいた。ハリーの憔悴ぶりは、試合の敗北感や箒の喪失感とは、違う気がした。

 何故か、クローディアにはそれを感じ取れたが、口を開かないハリーに追求する気は起きない。

 出来ることは、ベッロを医務室に残すことだけだ。そうすれば、夜もハリーは1人にならないのだ。

 

 朝食を摂りに大広間に来てみれば、休日だというのにスリザリン生が集まっていた。包帯を取ったドラコが喜劇の真似事のようにハリーの醜態を繰り返し、生徒達を湧かせている。

 他の席には、疎らな生徒しかおらず、生気をなくしたオリバーが空のカップを握り俯いている。グリフィンドール生達が声をかけずに励ましていた。

〔うざい〕

 日本語で悪態を付き、クローディアはドラコを横目で睨んだ。視線を感じたドラコが、悪寒に襲われ身震いした。

 自寮の席には、リサが『楽団部』の生徒達と集まっていた。離れた席でルーナが【ザ・クィブラー】と書かれた雑誌を逆さまにして読んでいる。

「おはようさ、ルーナ」

「うん、おはよう。今日もハリー=ポッターのお見舞いに行くんだ? ジニーが先に行ったよ」

「だろ!? 哀れなポッター!」

 途端にスリザリン生の嘲笑が大きくなり、他寮生徒の会話が遮られる。

 不愉快な気分が最高潮に達し、クローディアはルーナの雑誌を借り、杖を隠した状態で構えた。その様子を見たルーナは、即座に二重扉に向かい、身体を大きく跳ねらせる。

 何事かと、ドラコ達の視線がルーナに集中する。その瞬間、クローディアの杖から微かな光が飛び、ドラコに命中した。

「ルーナ、この雑誌読んでいいさ?」

 何事もないようにクローディアが、雑誌をルーナに見せる。それを合図としたルーナは、跳ねるのをやめてクローディアの隣に座った。

 ドラコがおそるおそるクローディアを一瞥した。

 特に気に留めず喜劇の続きを行おうとしたが、声が発せられない。パンジーが声をかけると、普通に声が出た。しかし、ドラコの喉は壊れたテープレコーダーのように途切れては出るのを繰り返した。

(ただ、声を出さないより、辛いだろうさ)

 ドラコを見ずに、クローディアは感謝の意味でルーナの頭を撫でた。雑誌の拝見するため、表紙の掲載記事に目を通す。ある一文に背筋が奇妙な感覚で粟立つ。

【アロンダイト家の悲劇

 マグルに愛された男ベンジャミン=アロンダイトは何故、死んだのか?】

 緊張した手つきでページを捲り、一字一句見逃さない。

【スクイブである己を乗り越え、僅かな歳月でマグルの著名人となったベンジャミン=アロンダイトがこの世を去り、三十余り過ぎた。

 彼の遺体が発見された際、マグル警察はマグルの道具で自殺と判断した。彼の死によって、両親も後を追うように死を迎え、弟ボニフェースも行方不明となってしまった。

 自殺の原因は先を憂いたと、マグル警察は結論づけた。しかし、彼を知る友人はこれを否定する】

 そこまで読み、クローディアは胸に痞えた息を吐き出す。

 この記事通りなら、クローディアの曾祖父母はもういない。ベンジャミンの死がそれを招いたと書かれているが、それを確かめる術はない。そして、この記事によれば、ボニフェースは消息不明扱い。

(そういえば、遺体も見つかってないさ)

 だが、ベッロがボニフェースの死を確認している。ハグリッドもクローディアが生まれる前に、彼が死んだと言っていた。

(公にされてないさ? お祖父ちゃんが死んだこと……)

 『例のあの人』に殺害された人の中には、未だに遺体が発見されない人もいる。ボニフェースもその類かと、推測した。

 楽団部の話し合いを終えたリサが、クローディアの後ろを通りかかる。見るとはなしに、リサが【ザ・クィブラー】に気づく。途端に、リサは閃いた。

「そうですわ。ベンジャミン=アロンダイトです」

 小さく呻くリサに、クローディアは振り返る。

「ルーピン先生、誰かに似ていると思っていましたわ。ベンジャミン=アロンダイトです。私、展覧会に行ったでしょう? そのときのマグルのパンフレットに、彼の顔写真がありましたわ」

 興奮したリサが、自信を落ち着かせるように両手を合わせ、深呼吸する。彼女を余所に、クローディアの脳内に祖父の言葉が過ぎる。

〝今よりも若い頃にな〟

 祖父の哀愁に満ちた表情。溶け切れない塊が胸中で詰まりこむ感覚に襲われた。もしも、祖父とルーピンと出会ったなら、心痛に苛まれてしまうだろう。

 記事の文面は終わっていないが読む気力を無くした。クローディアは礼を述べて雑誌をルーナに返す。彼女は何も聞かず、また雑誌を逆さまにして読み耽る。

 リサは己の発見に満足し、展覧会のことを話しだした。ほとんど聞き流し、クローディアは曖昧に相槌を打った。

 

 ハーマイオニー、ロンと合流したクローディアは、医務室を訪れた。ハリーは変わらず『ニンバス2000』を包んだ布を抱きしめ、寝台の下にはベッロがトグロを巻いている。

 他にもルーピンが口元にタオルをあてがい、寝台で蹲っていた。

 慎重な目つきで、クローディアはルーピンを眺め、マダム・ポンフリーに尋ねる。

「ルーピン先生、何処か悪いんですか?」

「ご心配なく、今日のはただの食あたりですよ」

 皮肉めいたマダム・ポンフリーは、わざとらしく肩を竦める。ロンが心配そうにルーピンを見やる。

「でも、昨日も寝てたのに、腹痛ってそこまで続くものなんだ?」

「昨日? ハリーが運ばれたときもいたの?」

 強く確認してくるハーマイオニーに、ロンはたじろぐ。

「その時は、もういなかったよ。ほら、僕、スネイプ……先生からの罰則で医務室のオマルを磨いてたんだ。その時は、今みたいに寝てたよ」

 ロンから聞き終わったハーマイオニーは、観察する目つきでルーピンを凝視した。まるで、回答が抜かった答案用紙を見ている印象を受けた。彼女の雰囲気が訊ねることを拒んでいたので、クローディアは何も聞かなかった。

 

☈☈☈

 暗闇の中、叫ぶ母の声がハリーの耳に纏わりつく。目覚めても、眠っても母が自分を呼ぶ声だけが脳内で反響する。大切な母の声が、やっと知れることが出来た母の声が、苦悩を与えた。それに試合中、『死神犬』をこの目で見た。その後、吸魂鬼は自分を襲ってきた。プリベット通りでも、あの黒犬は現れたのだ。決して偶然ではない。生きる苦しみ、死への怯え。誰にも、この気持ちは理解できない。

[ハリー、眠れないのか?]

 首筋に冷たい鱗の感触がする。それがとても心地よい。

「あまり……君もかい、ベッロ?」

 首筋の鱗が動くのを感じた。天井への視線を横に向ける。暗闇に慣れた目が枕元のベッロを視認する。ベッロは、ハリーの額に顎を置く。

[うなされている。思い詰めている。箒のことではない。試合のことでもない。あれらか? ハリーを襲ったあれが原因か?]

 半分以上も自身の胸中を当てられ、ハリーの全身がざわめいた。それ以上、自分の心情に踏み込まれるのを恐れた。

[あれに影響されない。故に理解できない。しかし、あれが傍にくると生理的に受けつけない]

 小さく息を吐き、ベッロはハリーの首に鱗を這わせる。

「ベッロは、吸魂鬼に影響されないの?」

 確認すると、ベッロは頷く。自分もベッロやヘドウィックと同じ動物になりたくなった。『動物もどき』を取得できれば、吸魂鬼から回避できる。吸魂鬼を思えば、再び、脳裏に母の声が木霊する。

「ベッロの家族って、やっぱり赤いの?」

[知らない、気がつけば主人といた。傍にいるのが家族なら、主人が家族だ]

 理に適っている。ハリーは、ベッロの顎に指を這わせて撫でた。

[ハリー、ネズミは殺したか? あれは、必ずハリーに害をなすぞ。そうなる前に、殺せ]

 誰のことはすぐに検討がつき、ハリーは頭を横に振る。ベッロの言葉を信じたい。でも、ロンが大切にしているスキャバーズを失わせることはできない。

[いざとなれば、殺してやろう。そのときは止めるなよ]

 言い終えたベッロは眠りについたのか、静かに鼓動する。

 変わらず気分は重く、感触の悪いモノがハリーの中で湿った空気のように張り付いていた。

 

☈☈☈

 気落ちしたハーマイオニーがクローディアの隣で愚痴をこぼす姿を目にすれば、2人に干渉しないのが賢明だ。皆がルーピンに抗議したせいで、宿題が取り消されたらしい。

 これをハーマイオニー以外は大いに喜んだ。

「『魔法薬学』ではマルフォイのせいでスネイプ先生から、減点されるし……、厄日だわ。マルフォイったら、風邪かしら? 声が出せないからって、パントマイムまでしてハリーをからかうのよ」

 ため息をつくハーマイオニーは、机に頭を乗せる。折角、魔法でドラコの声を封じたが効果はなかったようだ。多少、落胆したが不可解な点もある。

「宿題が取り消されるのって、変じゃないさ? 代講でも、宿題は宿題さ。なんで、真面目にやったハーマイオニーが損するさ? 私、ルーピン先生に抗議してくるさ。レポートを評価してくれるようにさ」

「そこまで気にかけてくれて、ありがとう。気持ちだけでいいわ」

 励まされたと誤解したハーマイオニーは嬉しそうに微笑んだ。クローディアは本気だが、彼女が乗り気ではないのでやめることにした。

 不満を吐き出したハーマイオニーが夕食に手をつければ、役目は終わる。

 それを見計らっていたミムがクローディアに声をかけてきた。

「私、チェイサーだったけど、次の試合に出ないよ。だから、代わりに出て頂戴」

「何を言っているさ?」

 困惑したクローディアにミムは額が触れる程、迫って来た。

「代理なら、出てくれるって話よね? クララから聞いているよ。ね? ね? ね?」

「いやいや、ちょっと待つさ。どうしてそこまで私さ?」

 頬を膨らませたミムは、クローディアの腕を掴み強引に連れだした。連れて来られたのは、マダム・フーチの事務所だ。

 マダム・フーチは、ミムに拉致られたクローディアを見て怪訝した。

「マダム・フーチ。私の代わりにこの子がチェイサーを代役します」

「ええ!?」

 何という強硬手段。

「よろしい、許可しましょう。ミス・クロックフォード、バーベッジ先生から貴女の腕は聞いています。良いプレーを期待していますよ」

 クローディアの意見も聞かず、マダム・フーチは了承してしまった。

「(これで、やるでしょ?)」

 承諾する以外道はなくなった。

 ミムは目的の為なら、案外、手段を選ばない生徒だと、深く認識した。

 

 チームキャプテンのロジャーは、万歳三唱だ。早速、今月の練習日を教えてくれた。バスケ部の活動日と被らないように組まれていることから、絶対、計画的犯行だ。

 チェイサーの件をハーマイオニーは、我がことのように喜び、祝福してくれた。

 ドリスにも手紙で報せた。激励の言葉と共に、生産が中止された箒『銀の矢64』を贈られた。竹箒とは雲澱の差がある触り心地に、性能の良い箒だと理解できた。

 ロンがすごい勢いで『銀の矢64』に食いついてきた。

「こいつは、耐久性に優れているし、この柄の部分見て、これが乗りやすくって評判だった。ただ、すごく乗り手を選ぶんだ。試合中に何度も選手が叩き落とされたって話を聞いたことあるよ。でも、こいつは『ファイアボルト』と『ニンバス』シリーズの次に優れた箒だよ!」

 骨董品ではなく、貴重な高級品だとロンは付け加えた。

 この箒を一番喜んだのは、マダム・フーチだ。

「ああ、懐かしい。この柄の部分を見てごらんなさい。しかも、僅か70本しか製作されなかった『銀の矢64』だなんて! これは、マニアの間でも高く評価されています! 何故なら、従来の『銀の矢』とは、規格を一新した製法にとって作られたそうです。勿論、当時では最高級の箒でした。ですが、その分、コストがかかりすぎており、値段も『ファイアボルト』と同じでした。結局、その後の『銀の矢』は従来の製法に戻りました。もう『銀の矢』は、製造中止……」

「そろそろ、箒を返して差し上げなさい」

 途中でフリットウィックが止めなれば、マダム・フーチは延々と喋り続けていただろう。

「今の学生達で『銀の矢64』を知る者は少ないでしょうが、どうです? 授業中は私に預けてみませんか?」

 職権乱用だと思ったが、ここまで頼むマダム・フーチを無碍には出来ない。クローディアは、渋々、箒を預かって貰うことにした。

 『飛行術』の授業がない時間、『銀の矢』に跨り、空を飛びまわるマダム・フーチが大勢の生徒に目撃された。

 

 練習の初日、クローディアはチームにいるバーナードを見て疑問に思う。

「なんで上級生のマンチがキャプテンじゃないさ?」

「俺が今年初めて、チームに入るからだよ。ずっと補欠だったが、今回の選抜でやっと選手になれたんだ」

 恥ずかしそうにバーナードは答えた。

 雨の中の練習は厳しかった。箒の制御が難しく、何度もロジャーから叱責を受けた。だが、防水の魔法を全身にかければ雨は凌げたし、祖父とコンラッドのしごきに比べれば軽い気がした。  

 夏の地獄が、こんなところで役に立つとは思わなかったもので、深く感謝した。

 練習中に気付いたが、スニッチの動きがクローディアの目に捉えられた。試しに、クワッフルでスニッチを当てようとしたら、見事に命中した。繊細なスニッチに乱暴するなとロジャーから怒られた。

 だが、ロジャーは、クローディアの動体視力を活用した作戦を練ることにした。

 秘密裏に練習していたのだが、レイブンクローではクローディアがチェイサーの代理をすることが何故か広まっていた。そのお陰で、バスケ部も見学者が増えた。ルーナはナーグルに襲われないようにと配色のおかしい薬を作ってくれたので、ありがたく飲み干した。

 その日一日、腹の調子がおかしかった。

 試合の日が近づくと、コンラッドが食事バランスを整えたお弁当を送ってくれるようになった。弁当箱が物珍しげに眺められた。特にフレッド、ジョージが隙を突いて出汁巻き卵を狙ってきた。

「良いなあ、私も家に頼んでみよう!」

 パドマの実家から、カレーが鍋ごと運ばれてきた。カレーの香ばしい匂いが大広間に充満する事態になった。スパイスの効いた香りに、慣れない生徒は驚いていた。彼女は気にせず、上機嫌にカレーを食していた。

「ミス・クロックフォード。お友達が愉快なことをしているな」

 何故だが、クローディアがスネイプに叱られた。

 

 

 先日の試合に比べれば、天気は改善していた。雷もなく、小雨程度であった。

 しかし、クローディアの心情は決して穏やかではい。

 緊張で夜明け前に目を覚まし、全身を駆け巡る血液の感覚に敏感になり、落ち着かない。興奮を抑えるため、ほぼ習慣となったジョギングを行う。それでも普段の調子が戻らず、バスケ部の教室でフリースローを繰り返す。

 

 ――午前10時。

 

 競技場に向かうクローディアをハーマイオニーが激励してくれた。緊張のあまり、返事ができなかった。

 更衣室で青いユニフォームを着込み、緊張は一気に増した。バスケの試合で、こういう場所には慣れているはずだと自身に言い聞かせる。

 キャプテン・チェイサーのロジャー、ビーターのザヴィアーとテリー、キーパーのバーナード、シーカーのチョウ、そしてチェイサーのエディーとクローディア。

 全員、杖を振るって自らに防水の魔法をかけた。

「僕から言えるのは、一言だ。無事にな」

 それだけ言い終え、選手はロジャーに付き従い、競技場に入場する。観客席から声援が湧き出す。ハッフルパフの選手が入場すると、女子生徒の声援が激しくなる。

 ほとんどがロジャーとセドリックへのものだ。

 キャプテン2人が握手を交わすと、更に黄色い声援が飛び交った。

 それで少し緊張が解れた。

 マダム・フーチが試合開始を告げる。選手は全身、箒に跨って空へと駆け登った。競技場全体を見渡せる位置まで上昇したクローディアの身体が浮遊感に満たされる。

 瞬間、クローディアの真横にブラッジャーが過ぎ去った。

(クァッフルは、ロジャーが持ってるさ。チョウは、何処に……)

 思考すると、実況のリーが試合の詳細を伝える。

「レイブンクローのリード。どうしたんでしょうディゴリー選手? ハリー=ポッターを負かせた切れの良い動きがない。やはり、シーカーが女性相手では紳士的になってしまうのかもしれませんね」

 ブラッジャーがチョウを狙ってきたので、ザヴィアーが棍棒で打ち返す。その間にセドリックがスニッチを追いかけるが、寸でのところで逃した。

「じっとするな! 動いて相手を霍乱しろ!」

 クァッフルを手にしたロジャーが、クローディアに指示する。そのままロジャーは、ゴールめがけてクァッフルを投げ込んだ。

「ゴール! レイブンクローのリード、これで100対0です。このままではハッフルパフの負けは確実、ディゴリー選手、あの試合はただの偶然かい?」

 ハッフルパフの生徒から抗議の声が上がる。

 セドリックは途端に、急旋回し空に突進する。クローディアの目には彼がスニッチを追うのがわかる。気づいたテリーが、ブラッジャーで妨害した。

 チョウが急いでスニッチを追うが、その後ろにセドリックから跳ね返ったブラッジャーが襲ってくる。

「チョウ、上!」

 ブラッジャーがチョウに届く前に、クローディアは箒を旋回させた。太ももで箒をしっかり掴み、両手を伸ばしてブラッジャーを掴んだ。手の中でブラッジャーが激しく暴れる。

「おお! なんということでしょう! クロックフォード選手! ブラッジャーを押さえ込んでいます! 前代未聞です!」

 実況に、歓声と驚きが激しくなる。

「馬鹿か、ブラッジャーは放っておけ! 相手からクァッフルを奪え!」

 承諾したクローディアは、手にしたブラッジャーを投げ放つ。ハッフルパフのビーター・アルフォンス=オーブリーは、棍棒でブラッジャーを打ち返した。しかし、チェイサーのローレンス=キャッドワラダーが持っていたクァッフルに当たってしまった。反動で、彼はクァッフルを手放した。即座にテリーは手にし、クァッフルを肩の力で投げ、ゴールを通り抜けた。

「またまたレイブンクローのゴール!」

 周囲を確認し、クローディアはチョウを見る。チョウはセドリックの前に出て、動きを牽制している。その周囲で、スニッチが飛び回っているが、睨み合って気づいていない。

「チョウ! 手を挙げろ!」

 クローディアの突然の声に、チョウは反射的に両手を上げた。

 

 ――パシッ。

 

 手の中に飛び込んできた感触に、チョウは驚いて瞬きした。見つめると、手に金のスニッチが掴まれていた。驚いたセドリックも呆然としつつも、スニッチを凝視した。

 慌ててチョウは、観衆にスニッチを見せ付ける。

 確認したマダム・フーチがホイッスルを鳴らす。

「レイブンクローの勝利!」

 レインブンクロー席から、勝利の歓喜と共に拍手喝采が湧き起こる。選手達は、チョウの周囲に集まった。1人、クローディアは強張り全身が痙攣し、弱弱しく地上に降り立った。地面に足が着いたと同時、仰向けに倒れた。

 芝生の感触で、高揚を実感した。

 

 更衣室に戻ったクローディアに、勝利に舞うチョウが抱きついてきた。

「ブラッジャーを掴むなんて! 信じられない! 最高だわ!」

「手は大丈夫か? 見せてくれ」

 チョウに抱きつかれたまま、クローディアの腕をロジャーに掴まれた。装着していたグローブが、ブラッジャーの摩擦で削れていた。

 逆にクローディアが驚いた。

「最高に回転している状態だったんだ。それなのに、よくも捕まえれたな。素手だったら、今頃、血まみれだぞ」

 嘆息するロジャーは、クローディアの手を心配する手つきで撫でた。

(普通のボールじゃないもんさ)

 今更、ブラッジャーの危険性を理解し、指を動かし異常がないかを確かめる。少し、間接の筋肉が強張っていた。

「次の試合が楽しみだわ」

「あれえ? 私は代理……」

 言い終える前に、選手達の顔がクローディアに満面の笑みを見せた。

「わかってるわよ。次もその可能性がないとは、言い切れないでしょ?」

 無邪気でいて企みを匂わせるチョウの笑みに、クローディアは彼女たちの策に嵌ってしまった感が否めない。

 着替え終え、早々に更衣室を後にした。城の前で待っていたハーマイオニーから、称賛と叱責を受けた。

「ブラッジャーを素手で受け止めるなんて、怪我したらどうするの?」

 眉を寄せたハーマイオニーに、クローディアは困り顔で頬を掻く。

「飛んできたボールって、受け止めたくならないさ?」

「キーパーかよ」

 ロンが呆れて笑った。そこでクローディアは、もうひとつ声がないことに気づく。

「あれ? ポッターはどうしたさ?」

「ウッドが……、いい作戦があるって……、連れて行った」

 何処か明後日の方角を見つめ、ロンは呟いた。クローディアは、胸中でハリーに合掌した。

「クローディア!!」

 廊下の向こうから、大声が張り上げられた。その為、廊下が地響きに襲われ、生徒や絵の住人達が慄いた。予想通り、喜びに打ち震えたハグリッドが駆け足してくる。

(((こわ!)))

 完全に引いたクローディアは、逃げ道を探そうとした。その前に、ハーマイオニーとロンは適当な教室に逃げ込んだ。意外な裏切りに、狼狽した。

「よくやった! すごかったぞ!」

 両手を広げたハグリッドが、クローディアに飛び掛ってきた。巨体を受け止めるには、疲労した身体では無理だ。

 そう判断し、間一髪で避ける。

 勢いの消えないハグリッドは、柱に激突した。地震を思わせる揺れが、廊下に伝わってくる。巨体は柱を伝わり、床に大の字に寝ころんだ。勝手に目を回し、気絶していた。

 原因を探りに来た生徒と教員で、クローディアの周囲に集まってきた。思わぬ注目に、現場を去るべきか悩んだ。しかし、人が集まりすぎたため、逃げられなくなった。

マクゴガナルとフリットウィックが、ハグリッドの容態を確かめる。

「ミス・クロックフォード……。ハグリッドに何が……?」

 唖然としたバーベッジが、遠慮がちにクローディアに訊ねる。

「きっと、嬉しかったんだと思います」

 それ以外、言葉が出なかった。

 その後、ハグリッドはルーピン達、男性陣によって医務室に運ばれた。

 『変身術』の教室でオリバーによる強化作戦会議を行っていたハリー、フレッド、ジョージ、アンジェリーナ、アリシア、ケイティは眠気と闘っていた。しかし、奇妙な地響きのお陰で目を覚ました。

 

 クィディッチはバスケ部の宣伝として大いに役立った。だが、クローディアが選手である為、完全にクィディッチの補欠が集まる部としての認識が広がってしまった。それでも、皆がバスケを好きになるキッカケになればと願う。

 そして、ミムが部員になってくれた。しかし、彼女はコーマックが部にいる危険性を訴えてきた。

「私、ハッフルパフのローレンスと親しい。彼から、マクラーゲンの話をよく聞くわ。合同授業で、よくローレンスを馬鹿にしてくるって! それにとっても仕切りたがりだ!」

 今のところ、コーマックがチームを先導する様子はない。だが、防衛のやり方について、クローディアにも度々、意見してくる。反面、シュートなどの不得意な部分には決して口を出さない。

「わかったさ、気をつけておくさ」

 クローディアの返事にミムは満足した。

 肝心のコーマックは、気に行った女子生徒には気持ち悪い程、紳士的に指導していた。彼はデートを申し込まれた日から、クローディアに全く何もして来なかった。しかし、囁かれた時を思い返すと、やはり嫌悪が蘇ってしまう。

 しかし、それはクローディアだけではなかった。どうやら、コーマックが惹かれる女子生徒のほとんどが、彼に嫌悪感を抱くらしい。温度差の問題だ。自分1人の感覚でなかったことに安心した。

 




閲覧ありがとうございました。
クィディッチのルール、よくわかっていないので、ブラッジャーを掴む行為がルール違反だったら、すみません。

声を出さず、ハリーにパントマイムで嫌がらせするドラコ。可愛い。

●アルフォンス=オーブリー
 穴埋めオリキャラ。
●ローレンス=キャッドワラダー
 原作六巻にて、苗字のみ登場。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。