こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

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閲覧ありがとうございます。
ディメンターを吸鬼魂と訳した松岡先生は偉大です。



5.吸魂鬼

 車窓から見える景色、空を埋め尽くす雲が雨を予期させる。

 走り回る新入生との接触を避けながら、クローディアとハーマイオニーはコンパートメントに戻る通路を歩く。

 ハーマイオニーは、休暇中の展覧会での出来事を事細かに説明する。

「ジャスティンがパドマと来ていたし、リサも見かけたわ。意外とホグワーツの生徒が多かったのよ。そうそう、受付していたの、誰だと思う? 以前、あなたの寮にいた、あのジュリアよ」

 意外な名前に、クローディアは足を止める。

「え、なんでさ? ジュリアがそんなところに?」

「展覧会を後援している団体に、ジュリアのご両親が所属しているそうよ」

 初耳にクローディアは感嘆する。

「世間は狭いさ……あれ? ベンジャミンが所属してたっていう楽団とは違うさ?」

「構成員は同じだけど、ベンジャミンが亡くなってから、音楽活動に限界が生まれて、遺された曲でビジネスに専念するしかなくなったんですって、ジュリアが教えてくれたわ」

 生々しい事実、クローディアは苦虫を噛み潰したように顔を顰める。

「うわ……、なんか大人の事情さ」

 ジュリアは3年生で魔女としての限界を感じ、ホグワーツを去った。生半可な気持ちで決意出来ることではない。それでも、彼女は将来のことも見据えた上で決断を下した。

(学校を辞める……)

 祖父の提案が脳裏を掠める。それはハーマイオニーとの別れも意味しているだろう。

いくら、友達と言っても住む世界が完全に違ってしまえば、心は離れて行く。日本に帰国した際、幼馴染達が高校進学に苦悩する姿がクローディアに遠く感じた。

 学校を辞めたい理由もないし、ハーマイオニーと離れたくない。クローディアは無意識に彼女の手を握っていた。

 過ぎ去ろうとしたコンパートメントの戸から偶然にもチョウが顔を出し、クローディアと目が合う。

「チョウ、久しぶりさ」

 確認するような視線を向けるチョウは感心し、深く頷く。

「クローディア? へえ、痩せたのね。スゴイじゃない。ねえ、こっちに来て何をしたのか教えてよ!」

 嬉々としたチョウはクローディアを引き込もうとした。

「ごめんさ、また今度さ」

 丁重に断ると、チョウは残念そうに諦める。彼女の奥から、ミムが憧憬の眼差しでクローディアを眺めてきた。

「うそ! 全然、違うじゃん! 何の魔法を使った?」

「使ってないってばさ」

 若干、苛立ったクローディアは愛想笑いでミムを退けた。

 次の車両から、ペネロピーが見知った男子生徒と共に現れる。『マダム・マルキンの洋装店』でバーナードと話しこんでいた男子生徒だ。しかし、クローディアは名前が出てこない。

 胸元に監督バッチを付けていたので、ペネロピーに耳打ちする。

「(誰だっけさ?)」 

「(ハッフルパフのセドリック=ディゴリーよ)」

 名前を聞き、ロジャーと仲が良い生徒だと思い出した。

「おはようさ、ディゴリー。ディビーズは監督生になれなかったのに、あんたはスゴイさ♪」

 打って変わった態度の変化に、セドリックは目を丸くした。クローディアに困ったように微笑み、軽く首を傾げる。

「えと……、ごめん誰だっけ?」

 半分、予想していた反応にクローディアは慣れてきた。

「クローディア=クロックフォード」

 名乗った瞬間、セドリックは吃驚仰天とその場を跳ねる。

「へえ……。なるほど、ロジャーが夢中になるわけだ。君は素晴らしい原石だ。これ以上、輝いたら、ロジャーが苦労するね。恋敵が増えるから」

 素で恥ずかしい台詞を放つセドリックに、クローディアは照れてしまった。

「僕は前のほうが健康的で良かったと思うけどな」

 セドリックの背後から、フレッドが呑気な声で言葉を遮る。彼の気配に気づけなかったペネロピーは軽い悲鳴を上げた。

 イタズラっぽくウィンクし、フレッドは監督生2人へ詫びた。

「クロックフォード、グレンジャー。何処にいたんだ? なかなか戻ってこないから、ジニーが新入生に席を譲ってしまったよ?」

 想定外な出来事にハーマイオニーは驚き、仕方ないとクローディアは肩を落とす。

「しょうがないさ、ポッターの所に戻るさ」

 方向転換するクローディアの肩をフレッドが軽く指で突く。

「それなら、僕らのコンパートメントに来いよ。まだ余裕あるぜ」

「そうね。そうしましょうよ」

 ハーマイオニーが賛同したので、クローディアは断る理由ない。喜んでフレッドの招きに応じた。

 案内されたコンパートメントにはジョージとリーがいた。ジョージはクローディアとハーマイオニーの為に、席を寄ってくれた。遠慮なく、2人は腰かける。

「お昼を摂ってから、制服取りに行きましょう」

「「それには及ばない。見よ、2人の荷物だ!!」」

 大袈裟にハモる双子は荷物棚を指差し、クローディアとハーマイオニーのトランクの存在を示した。何故か、クローディアは感謝の気持ちよりも疑念が浮かぶ。

「あんたら、人の荷物を勝手に運んださ?」

「「怒っちゃやーよー♪いいじゃないか、運んでくる手間が省けただろ?」」

 大袈裟にしなる双子が癪に触る。思わずクローディアは拳を振り上げようとしたが、ハーマイオニーに止められた。

「クロックフォード、暴力は良くないぞ」

「そうそう、お目当ての男の子に嫌われちゃうぜ?」

 意地悪な笑み、クローディアは億劫そうに答える。

「いないさ、そんな男子」

 これまた意外そうに双子は顔を見合わせる。

「女子が綺麗になるのって、好きな男のためじゃないんだ?」

「皆そういうもんだと、思ってたけど」

 首を傾げるクローディアは自身の体を見下ろす。

「私の場合は入学してから太りすぎて……お祖父ちゃんが怒っちゃってさ。たるんでいるってことでさ、休暇中はしごかれまくったさ。まあ、おかげで、この体形さ。お祖父ちゃんに感謝さ♪」

 腰に両手を当て、クローディアは胸を張って威張る。

「どんなダイエットなの?」

 興味津々のハーマイオニーに問われ、クローディアは祖父から命じられたダイエットメニューを事細かに説明する。

 最初、驚くだけだった4人の顔色が次第に青ざめて行く。気付かないクローディアは、次々と話し続けた。

 一気に説明終えたクローディアは、空気を求めて深呼吸する。4人を見渡すと、全員、陰鬱な表情で席にもたれていたので、逆に驚かされた。

「……どうしたさ?」

 遠慮がちにハーマイオニーに声をかけると、彼女は気力のない笑顔で軽く手を振る。

「女の子はそこまで過酷なことをしてまで、痩せたいんだ。知らなかった」

 ジョージの視線は明後日を見ていた。

「オリバーにその話するなよ。真似されたら僕らが死ぬ……」

 彼らのクィディッチキャプテン・オリバー=ウッドも訓練には、相当のしごきを課す。想像したフレッドは口元を押さえた。

「でも、やり遂げたらカッコイイんじゃないか?」

 選手ではないリーも吐きそうな顔で項垂れた。

「きっと、お祖父さまはあなたに強くなってもらいたいのよ」

 ようやくハーマイオニーは声を出した。

 暗い雰囲気を見渡した後、クローディアは気付く。夏のダイエットは魔法使いさえも恐れるメニューであったのだ。メニューのひとつ、逆立ちした状態で床に撒かれた無数の画鋲を避けて進むなど、やはり普通ではない。

「車内販売はいかが~?」

 昼過ぎになり、ふくよかな体形の魔女が車内販売にコンパートメントを巡る。

 空腹になりかけていたクローディア、リーは適当にお菓子を買い、ハーマイオニー、フレッドとジョージはモリーの手作りサンドイッチを平らげていた。

「ハーマイオニー、こっちのパイあげるさ。サンドイッチと換えてさ」

「2つあるから、ひとつね」

 カボチャパイとサンドイッチを交換しようとしたが、ジョージがその手で遮る。

「俺はサンドイッチ3つだから、俺のと換えよう」

「パイまだあるから、そんなに慌てないで欲しいさ…」

 ハーマイオニーとジョージのサンドイッチとカボチャパイを交換し、クローディアはサンドイッチを頬張る。暖かい味が口の中に、広がる。

 ベッロにも食事を与えていると、リーが思いつく。

「クロックフォードはロジャー=ディビーズをフったんだろ?」

 クローディアは口元を曲げる。リーはイタズラっぽく、フレッドに視線を向ける。

「なら、フレッドはどうだ? こいつはいい奴だぞ、俺が保障する」

「「なんでだよ!!」」

 フレッドとジョージの突っ込みを受け、吃驚したリーは窓際に退く。

「じょ……冗談だってば、そんなに怒るなよ。あ、雨だ」

 リーは降り出した雨を防ぐために窓の戸を閉めた。

「この中でいい話があるのはジョージだけね。私、ロンドンでジュリアと会ったわ。元気そうよ」

 ハーマイオニーに話を振られ、ジョージは目を丸くした。瞬きを繰り返し、空を仰ぐように背もたれに深くもたれかかる。

「俺らはエジプトに行くことになってたから、展覧会に行けなかったんだよな」

 何故か視線を泳がせ、ジョージは言葉を控える。

「へえ、ジョージはジュリアがそういう関係さ。仲が良きことは善いことかなさ」

 途端にジョージの肩がビクッと痙攣し、決してクローディアと目を合わさない。

(あれ? なんか、ノリが悪いさ?)

 雨音が激しくなり、会話が掠れていく。怪訝そうに窓の外を見やると、景色に霞がかかり大雑把な形しか見えない。まだ日が暮れてもいないにも関わらず、空は暗くなる。車内のランプに明かりが灯り始めた。

「制服に着替えたいから、ちょっと出てて欲しいさ」

「ああ、俺らも隣の連中んとこで着替えて来るわ」

 制服を持ち、男子生徒3人をコンパートメントから出てくれた。いそいそとクローディアとハーマイオニーは制服に着替え、卸したての服が肌に冷たく触れた。

ローブを纏った瞬間、汽車が急停止する。勢いのある停車の仕方で、車体全体が大きく揺れ動いた。

「あれ? まだ着かないさ?」

「故障じゃない?」

 途端に、明かりという明かりが消え去った。コンパートメントの戸が開き、フレッドとジョージ、リーが3人を見渡す。

「大丈夫か?」

 頷きながら、クローディアは窓に張り付くように外を凝視する。窓から、雨による振動が手の平に伝わってくる。

 通路から、他の部屋の戸が次々と開く音が木霊する。しかし、汽車全体が何者かによって激しく揺さぶられ、荷物棚のトランクが零れ落ちる。ベッロは落下した荷物を避けるために、クローディアの肩に巻きつき、不安に駆られたハーマイオニーもクルックシャンクスを抱き上げた。揺れの反動で、リーは座席に倒れこみ、フレッドとジョージは戸にしがみつく。

 雨により視界が悪いが、窓の向こうで何かが動いているのが確認できた。

「誰かが乗ってくるさ」

「こんな場所から?ルーモス(光よ)」

 ローブから杖を取り出し、ハーマイオニーが杖の先で室内を照らす。

「僕、ジニーの様子を見てくる」

 フレッドが手繰り寄せるように通路を出た。

「私、運転手のところに行ってくるわ。クローディア、ハリーとロンをお願いしていい?」

「暗いから気をつけてさ」

 ベッロを座席に置き、クローディアはハーマイオニーと分かれてコンパートメントを出ようとした。だが、通路に出た瞬間、2人は喩えようのない寒気に襲われ、足を止める。

 ハーマイオニーの灯してくれた光が微かに通路を照らし、怯えた生徒達の顔が見える。

 否、そんなモノは眼中にない。

 隣の車両から、揺らめく影が迫ってきた。天井に伸びる影は床に足をつけることなく、進んでくる。クローディアの目の前を過ぎ去ろうとしたとき、初めてそれがローブを被っているのだと理解した。影のローブが頬を掠めたとき、呼吸を忘れたように息苦しく、全身から活力が奪われていく。ハーマイオニーの杖から灯が消え、暗がりが戻る。

 だというのに誰も影のローブから、目を離すことが出来ない。

 微かにベッロの吼える声が聞こえる。

 クローディアの胴体に誰かが抱きついてきた。相手は背に顔を埋めて全身を震わせている。

(怖がっているさ)

 顔の見えない相手を元気付けるために、クローディアは優しい手つきで相手の背を撫でる。一瞬、相手は警戒してビクッと跳ねた。

「大丈夫、怖くない」

 視線を影のローブに向けたまま、クローディアは呟く。

「大丈夫……」

 再び呟き、相手は震えを止めた。安心した息が背中に伝わった。

 影が車両の向こうに過ぎ去っても、誰も口を開かない。深い沈黙と暗闇が長く続く感触に襲われる。時間にしてみれば、5分もない。

 車両の向こうから、銀色の光が視界の隅に映った後、車内が明かりを取り戻した。

 しかし、明かりが戻っても全員、胸に不安とは違う焦燥が募ったままだ。

「大丈夫さ、もう安心さ」

 クローディアは、背中を振り返る。

 胴体に抱きついていたのは、輝く金髪を乱したドラコであった。

 ドラコも見上げた相手を確認し、呆然と口を開く。クローディアも予想もしない相手に、硬直してしまう。

「あ……あれ? あ、あ、あ!」

 慄き口を細めて目を見開いたドラコは奇声を上げ、クローディアから飛び退いた。

「いや、違う!」

 完全に狼狽したドラコは言葉を切った。いや、ローブを引っ張られて口を止めるしかなかった。いつの間にかロジャーがドラコの背後に立ち、憤怒に顔を歪めて唇を震わせる。

「何してんだ……おまえ!?」

「僕は、間違えたんだ!」

 ドラコの首を揺さぶり、ロジャーは吼える。

「おまえの取り巻きとどうしたら、間違えるんだ!」

 ロジャーの剣幕に珍しくドラコはたじろぐ。他のコンパートメントから、ゴイルとクラップがゆっくりとした動作で現れたので、彼は助けを求めるように命令する。

 すると、ジョージがロジャーを助けるように加わり、徐々に男子生徒が増える。

 喧騒のおかげで周囲は少しずつ気力を取り戻し、乾いた笑い声が車内を満たした。

 ゆっくりと汽車は進みだした。喧騒の原因ともいえるクローディアは完全に置き去りになったまま、事は収拾を見せない。

 嘆息したハーマイオニーがクローディアの肩を叩く。

「ハリーとロンのところに行きましょうか?」

 クローディアはハーマイオニーと共に、そそくさと隣の車両に移動する。

「何を騒いでるんだい?」

 車両を越えた途端、熟睡していたはずのルーピンが立っていたので驚く。疲れた笑顔に似合わず、穏やかな声色だった。

 大人を目にしたクローディアとハーマイオニーは、あの影のローブによって曇りがかっていた胸の内が少し晴れた。

 何処から説明すればよいのか、クローディアが脳内で文章を纏めようとした。

「男子が先程の影に怯えたか、どうかで揉めています」

 先にハーマイオニーが毅然とした態度で説明する。

 大方の説明を受けたルーピンは笑顔で頷く喧騒の車両に入っていった。あっという間に、聞こえていた喧騒が消え去った。

 

 コンパートメントには、ハリーとロンの無事な姿がある。そして、怯えきったネビルが座席に体育座りで縮こまっている。ネビルだけでなく、ロンは血の気のない顔色をし、ハリーも気分の悪い汗を流している。

 何故か、3人ともチョコレートを手にしていた。

「皆、大丈夫さ?」

「怖かったよお、それにすごく寒かった」

 普段より一層震える声で、ネビルが答える。ロンも口元をもぞもぞと動かし、俯き加減に座席にもたれる。ロンは話す気力がない様子だ。

「誰か座席から落ちた?」

 遠慮したようにハリーが尋ねてきたので、クローディアは横に頭を振る。それを見て、気まずそうに彼は顔を背けた。

「ハリーがね、倒れたんだ。こう硬直して、床に倒れたんだ」

 ネビルが震える手で大雑把に状況を話す。醜態を明かされたハリーは焦心に駆られて項垂れる。

 ネビルはハリーを心配して話しているかもしれないが、有難迷惑である。

「ハリー、大丈夫なの?」

 不安そうなハーマイオニーがハリーの隣に腰掛け、親身になり慰める。

 ハーマイオニーに心配されるハリーが羨ましい。不謹慎だと自分を戒め、クローディアは彼女の隣に座る。正面にいるネビルと目が合う。

「クローディア、怖くなかったの?」

 ネビルの目には、クローディアが平気そうに映っているらしい。

「怖いとか、そんな余裕なかったさ。ビビったら負けかなって感じさ。……ところで、あれって何さ? 怨霊?」

「『吸魂鬼(ディメンター)』だよ、アズカバンの看守……。シリウス=ブラックを探してるんだ」

 無気力にロンが答えた瞬間、クローディアとハーマイオニーはそれを目にした時の感覚を思い出し、悪寒が全身を駆け巡る。

「あれが看守ですって……、信じられない」

 ハーマイオニーの動揺もわかる。あれが看守などという生易しい単語は決して当てはならない。最も恐れられる監獄所の意味が『吸魂鬼』ならば、完全に納得できる。

「じゃあさ、そのチョコは?」

 クローディアはネビルの手にあるチョコを指差す。

「ルーピン先生がくれたんだ。食べろって」

「え? あの人、先生なの? ルーピンって言うんだね」

 答えるロンにネビルは初めて嬉しそうな声を出す。

「ルーピン先生は、すごいよ。気絶したハリーを跨いで『吸魂鬼』に立ち向かったんだ。杖を取り出して、『シリウス=ブラックを匿う者はいない。去れ』って言ったんだ。でも、あいつは何の反応もしなくて、そしたら先生が何か魔法を使って銀色の物を飛ばしたんだ。どうなったと思う? 逃げたんだよ。『吸魂鬼』が!」

 ネビルが両手を上げた瞬間、コンパートメントの戸が開く。ルーピンが戻って来たのだ。彼は3人の手元のチョコレートを目にし、穏やかな笑みを向ける。

「おやおや、チョコレートに毒なんか入れてないよ」

「誰もそんなこと疑ってないさ」

 クローディアの返事をハーマイオニーが咎めた。だが、ルーピンの笑みは崩れなかった。それどころか、納得したように頷き返した。

 ネビルがチョコレートに齧りついた。見る見る内に、彼の顔色に活力が戻っていく。それを見て、すぐにハリーとロンもチョコレートを頬張る。2人の顔色にも、同じことが起こった。

(魔法のチョコさ?)

 耳元で、パキンッと割れる音がした。クローディアが振り返ると、ルーピンが同じチョコレートを差し出していた。

「食べるといい、元気が出る」

「はい……、ありがとうございます」

 割ったチョコレートをクローディアとハーマイオニーに手渡したルーピンは、ネビルの隣に腰掛ける。

 クローディアが口にチョコを入れた途端、全身に張り巡らされた寒気が溶けていく。

「あと10分でホグワーツに着く。ハリー、大丈夫かい?」

「……はい」

 ルーピンに対し、ハリーはバツが悪そうに答える。

 チョコレートを食べ終えたクローディアは、ネビルが視界に映ってから気がついた。

「ネビル、よく私がクローディアだってわかったさ」

「そうね、スゴイわ。ネビル、どうしてわかったの?」

 ハーマイオニーも混ざり、ネビルに尋ねる。しかし、彼はきょとんとしている。

「え? 何、クローディア。何か変わったの? えと、……待ってね。……髪型かな?」

「ああ、人生最高記録まで髪が伸びたさ」

 突っ込む気力もなく、クローディアは胸中で嘆息する。

「何、どうしたの? 教えてよ」

 追求してくるネビルを手で制したクローディアは、ハリーとロンを交互に見やる。

「あんたら、着替えなくていいさ?」

 言われて気づいたハリーとロンは、トランクを別のコンパートメントに置きっぱなしにしていたことを思い出す。気を利かせたフレッドがトランクを運んできてくれたので、2人は急いで着替えることが出来た。

 

 雨が降り注ぐ駅に到着した。生徒達が下車しようする中、ネビルが突然大声を張り上げる。

「わかった! クローディア、痩せたんだ!! 前は僕と変わらないくらいぽっちゃりだったのに!」

 声量に驚いた何人かの生徒が、クローディアを振り返る。興味津々の眼差し受けてしまう。悪意がないのは、理解できる。

「痛い、イタイ! ごめん、御免!」

 それでも恥ずかしいものは、恥ずかしい。クローディアはネビルの頬を手で摘んだ。

 




閲覧ありがとうございました。
グラップとゴイルにに間違われたくない。
停電って不安よりも、ワクワクとした好奇心が湧きますね。

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