こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

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閲覧ありがとうございます。
やっと、皆との再会です。

追記:17年9月29日、誤字報告により修正しました。


4.汽車

 時間に余裕がありすぎたのか、キングズ・クロス駅9と4/3番線に到着したのは、去年と同じ1時間前になった。

 紅の機関車ホグワーツ特急は、例年通りに新車の間違う程の輝きを見せる。その輝きは清掃員と駅員によって守られている。

「クローディア?」

 呼ばれて振り返ると、同じ寮の監督生ペネロピーが感心するように頷いていた。

「あっ、ペネロピーさ。おはようさ!」

「おはよう、随分と細くなったじゃない。人違いかと思ったけど、その虫籠はあなたしかいないわ。……羨ましい」

 イタズラっぽく笑うペネロピーは、クローディアの荷物にある虫籠を指差した。

 そして、プラネットホームには新学期早々、激しくも目に見えない火花を散らすオリバーとマーカスが睨み合う。

「グリフィンドールとスリザリンは、クィディッチがなくても激しいわ」

 それを目にしたペネロピーは、クローディアの隣で嘆息する。

「でも、あの睨み合いも今年で見納めね」

 吐き出すように呟くペネロピーに、クローディアは頷く。

「そうさ、2人は7年生さ……。となると…今年は盛大な試合になりそうさ」

 その時、クローディアはホームの隅に1人の男を発見する。

 継ぎ接ぎの目立つローブを身に纏い、鳶色の髪をしている。遠目から見ても、男はやつれた印象を受ける程、頬がこけている。誰かの見送りに来た魔法使いかもしれないとクローディアは思った。

「パーシーの話、聞いたわよ」

 ペネロピーに話しかけられ、クローディアは男の存在を気にかけるのをやめた。

「私もロンから手紙が来たさ。パーシーが首席になったって聞いたさ」

「当然。寧ろ、なれなかったら、落ち込むどころじゃないわ。パーシーのことだから」

 困ったように笑うペネロピーとクローディアは、落ち込むパーシーを想像した。その姿が哀れで、2人は噴き出して笑う。

「落ち込んでも、汽車は走るよ」

 無防備だったクローディアとペネロピーの背後から、気配なく夢見がちで浮ついた声がかけられた。2人は思わず、その場を跳ねる。

 振り返ると、同じ寮の後輩ルーナが顎を出すように肩を竦め、濁りのかかる金髪は頭の真上に巨大な団子を作っている。ゆっくりと首を傾げる動作を繰り返しているせいか、団子もつられて揺れている。

(今日は、ひとつ結びさ)

 軽く観察し終わったクローディアは、親しみを込めルーナに挨拶する。

「久しぶりさ。ルーナ、休暇は楽しかったさ?」

「うん、石にされなかったよ」

 ルーナに悪意がない分、クローディアはこれまでにない自嘲を込めて、嘆息する。

(誰もそんなこと聞いてないさ)

 言い出したルーナはクローディアの反応を無視し、ペネロピーに向かい揺さぶられるように何度も頭を下げる。

 それに対し、ペネロピーは落ち着き払った態度で挨拶を返した。

 駅員に汽車を開放され、待ちわびた生徒達はコンパートメントに乗り込み、ペネロピーは監督生の車両に向かう。

「ハーマイオニーとジニーに、先に席を取るように言われたさ。ここでいいさ?」

 お互いに確認し、クローディアはルーナと監督生の車両に近いコンパートメントに荷物を置く。

 瞬間、ルーナは通路を駆け出しホームに飛び出した。

 突然すぎる動作に、呆気に取られたクローディアは窓からホームを見やる。突進するようにホームを突っ切るルーナは、綿菓子のように長く白い髭の魔法使いに抱きついた。おそらく、ルーナの父親だ。

(ビックリしたさ)

 内心の焦りを消したクローディアは、窓からルーナに向かい軽く微笑んだ。虫籠にいるベッロが熟睡していることを確認した。そして、ドリスに声をかけようと汽車を降りた。

「お祖母ちゃん、この子はルーナさ。前に話した子さ」

「ねえパパ、もうダサくないでしょ?」

 ホームでクローディアとルーナはお互いの家族を紹介し、挨拶を交わす。ルーナの父親ゼノフィリウス=ラブグッドは、物珍しげにクローディアを見つめた。

 クローディアには、警戒されている気がした。

「君がバジリスクに石にされた子だね? うん、確かにそんな顔をしている」

 胸中で悪態つき、クローディアは笑顔でその場を退いた。

(どんな顔さ?)

 時間が経つ毎に、柵から次々と生徒達が現れ、ホームは魔法使いと魔女で埋め尽くされた。

 生徒の中から、同室のであるパドマを見かけ、クローディアは声をかける。パドマは一瞬、不思議そうにしていたが、すぐに気づいてくれた。

「へえ、どんなダイエットしたの? 教えてね」

 人ごみから避けようと、クローディアはコンパートメントにパドマを連れて行こうとしたが、何故か拒否された。

 サリーやマンディ、セシル、ハンナ、スーザン、エロイーズにもクローディアの変貌に驚きの様子を見せた。そして誰1人、コンパートメントを一緒にしようとしなかった。

「ロンドンでマグルの展覧があって、ジャスティンに誘われて行って来たの。楽しかった……。マグルって魔法がないけど、便利なものが多かったわ」

 パドマが展覧会の半券を見せた。半券を魔法で固め、本の栞にする為だ。

「リサから、手紙来たさ?」

「ええ、『楽団部』で合唱でしょう? 予行演習で昨日にはホグワーツなんて、頑張るわね」

「私には無理よ」

 サリーとマンディが笑い、クローディアも笑い返す。

「【怪物的な怪物の本】……って、あなたも『魔法生物飼育学』取ってた?」

「これは、保存用」

 ハンナがセシルの抱きしめている【怪物的な怪物の本】を怪訝する。

「この本、大人しいわね。私が教科書、見に行った時、すごかったわ」

「そうにえ?」

 スーザンとエロイーズも【怪物的な怪物の本】を眺めた。

 他愛無い話をしているうちに、部活の話になり、クローディアは『バスケ部』の立ち上げについて相談する。マグルの競技に興味を持ち、皆は快く意見を述べる。

「寮監はフリットウィック先生だから、相談するならそっちじゃないかしら?」

「マグルの競技だから、『マグル学』の……」

 不意に、隣にいるペネロピーがクローディアの肩を叩く。

「パーシーよ、ハリーもいるわよ」

 ペネロピーにつられて振り返る。何故か地面から起き上がるハリーをジニーが助けている。自身の髪を撫でパーシーが『首席バッチ』を着け、誇らしげに立っていた。

 その後ろに柵を越えてきたハーマイオニーが姿を現す。

 日焼けしているのか、少し肌が小麦色に染まっている。胸に迫る衝動は、以前と寸分の変わりもなくクローディアに淡い気持ちを抱かせる。

 胸を弾ませたクローディアは大袈裟に手を振り、彼女に駆け寄る。

「ハーマイオニー! おはようさ」

 威勢よく挨拶するクローディアに、ハーマイオニーは両手を振って挨拶を返した。

 ジニーは、初めて会う人を見るような目で怪訝している。勿論、ロンも首を傾げてクローディアを眺めた。

「……ハーマイオニー、この人、誰?」

 ロンとジニーの反応を見て、ハーマイオニーとハリーは愉快そうに口元を押さえて肩を痙攣させる。クローディアの周囲にいたパドマとサリー、セシルも集まり喉を鳴らして笑う。

 それをジニーは、不快そうに唇を尖らせる。

「ハリー、この人は誰なの?」

 眉を寄せるジニーが吐き捨て、ハリーは堪らず噴出した。それを合図にパドマとサリーも爆笑した。セシルだけが顔を逸らし、笑いを必死に堪えている。

「何を言ってるんだい。クローディアだよ」

 ハリーの答えを聞き、ロンとジニーは愕然とした。皆から笑われることよりも、クローディアの姿が衝撃的だったらしい。

「君、誰かに変身してるのか!?」

「どういう意味さ?」

 ロンの失礼な発言は一気に周囲を湧かせた。

「私は休暇中にクローディアから写真を貰ったから、知っていたけど、本当に綺麗になったわ」

 この一言で、クローディアはロンを許した。

 

 既に占領していたコンパートメントに、ハーマイオニー、ハリー、ロン、ジニーの荷物やトランクを積み込んだ。

 ハーマイオニーの荷物に動物入れの編み籠を目にしたクローディアは、彼女を見やる。

「このコ? クルックシャンクスよ。昨日ね、ダイアゴン横丁で買ったの。可愛いでしょう?」

「ここで開けるな!!」

 表情を綻ばせたハーマイオニーが編み籠の紐を解こうとしたが、横からロンが激しく制止させる。それに対し、彼女も冷たい態度で反論する。

「どうしたさ?」

「スキャバーズがね、クルックシャンクスに狙われるんだ。猫と鼠だからしょうがないんだけど」

 ロンのネズミだ。写真でしか見たことないクローディアは、ハリーにスキャバーズが何処にいるのかと訊ねた。

 ロンを捕まえたハリーは、彼の上着ポケットを軽く捲る。捲られたポケットを、クローディアは興味津々で覗き込んだ。

 暗がりの中に、両手に収まる大きさの鼠がもぞもぞと動いていた。みすぼらしい印象を受ける程、毛がばさつき、やつれている。失礼ながら、写真のほうが見栄えが良かった。

(か……可愛くないさ)

 胸中の呟きを悟られないように、当たり障りのない言葉をロンにかけた。

「鼠って感じさ」

「そりゃあ、鼠だし……そうだ! クローディア、見てくれ! 新しい杖! お下がりじゃない新品だ。33㎝の柳の木、ユニコーンの尻尾の毛!」

 声を弾ませたロンは鞄から杖入れ箱を取り出し、開けて見せた。

「ウィーズリーおじさんとおばさんに、挨拶に降りよう」

 ハリーの提案にロンは賛成した。急いでクローディアとハーマイオニーは、ホームでドリスと厳しい表情をしているアーサーとモリーに挨拶する。

 途端に、3人の大人は柔らかな笑顔を見せる。

「クローディア。おばさんとしては前のほうが健康的で素敵だったわ」

 諭すような口調で、モリーがクローディアの肩を抱く。

「クロックフォードだって!?」

 大袈裟に甲高い声がクローディアとモリーにかけられ、鬱陶しい表情で振り返る。何故か全身を痙攣させるフレッドとジョージが驚愕に口を細め、お互いを抱きしめあう。

「なんたることだ、ジョージ!」

「どうしたんだい? フレッド!」

「彼女は、変身に薬を飲んだようだ!」

「おおおおおお、それはいけない! すぐに魔法を解かないと! 誰か!」

 2人の寸劇に、クローディアは自身の誕生日の事を思い返し、フレッドの顔面を拳で殴り、ジョージの腹に蹴りを入れた。

 そして、大袈裟にフレッドとジョージが地面に伏せる。何人かが、眉を顰め双子を横目で冷ややかな視線を送る。

「無視しなさい」

 呆れたモリーが、クローディアを双子から遠ざけるように汽車に戻す。コンパートメントの窓から顔を出すと、ドリスが手を伸ばす。

「手紙を忘れないで、何があっても学校が一番安全よ。ハリーを守って」

「ポッターは、大丈夫さ。私もハーマイオニーもロン、先生もいるさ」

 クローディアはドリスの手を握ると同時に、汽車が汽笛を鳴らす。

「アーサー!」

 モリーが金きり声を上げ、生徒達は吸い込まれるように汽車に乗り込んだ。

 コンパートメントに舞い込んだハーマイオニー、ジニー、ルーナも窓から顔を出し、自身の家族に別れの握手やキスを交わす。

 不意に、クローディアはコンパートメントにいないハリーとロンに気づく。

「あれ? ポッターとロンはさ?」

 クローディアが窓からホームを見やると、走り始めた汽車の戸にハリーが必死の形相で引っ付いていた。

 

 見送りの家族が遠くなり、駅が見えなくなるとクローディア達は窓から離れる。一安心したジニーは椅子に持たれこみ、ルーナは突然、自身のトランクを開き荷物を探り出した。

「ハリーとロンを連れてくるさ」

 クローディアが戸を開くと、虫籠で寝入っていたはずのベッロが起き上がり、首に巻きついてきた。ベッロを巻いたまま、通路を歩くわけには行かず、虫籠に入れて運ぶことにした。

「私も行くわ」

 荷物棚から編み籠を下ろし、ハーマイオニーも通路に出る。

「ルーナ、ジニーをナーグルから守るさ」

 クローディアが声をかけると、ルーナは激しく頷き、ジニーの腕を掴んでいた。力が強いのか、ジニーは少し眉を顰めていた。

 コンパートメントの戸を閉め、通路を歩こうとしたクローディアの肩が叩かれた。振り返ると、ロジャーが愛想のいい笑顔で挨拶してきた。その隣に、マリエッタが彼の腕を添えるように絡めている。

「やっぱり、クローディアか」

 明るく声をかけてくるロジャーに、ハーマイオニーは感心する。

「これだけ変わったのに、よくわかったわね」

「俺の目は、クローディのことを見通しているからな。美しい花は蕾の頃から、わかるもんだよ」

 威張るロジャーに、マリエッタが喉を鳴らして笑う。

「ディビーズ、マリエッタ、おはようさ。へえ、2人とも付き合ってるさ?」

 ロジャーの言葉を無視し、マリエッタに挨拶するクローディアは、ニヤついた笑みを見せる。照れた笑みを浮かべるマリエッタは、ロジャーの腕にもたれかかる。

「先週からね」

 不可解に眉を寄せるハーマイオニーがロジャーを見上げ、遠慮がちに尋ねる。

「休暇前にハッフルパフの子と付き合って……なかったっけ?」

「先月に終わったけど?」

 何の未練もなく答えるロジャーに、不思議な圧倒感を覚えた。クローディアとハーマイオニーは、口元を痙攣させる。

 何気なくクローディアは、ロジャーの胸元に注目する。

「もしかして、監督生にならなかったさ?」

 その質問をした瞬間、ロジャーの笑顔が固まった。

((ああ、選ばれなかったんだ……))

 クローディアとハーマイオニーは、無意識に哀れみの視線をロジャーに向ける。

「大丈夫よ、フレッドとジョージも選ばれなかったから」

「あいつらが選ばれたら、マジでヘコむわ。つーか、一緒にしないでくれ」

 ロジャーの陰鬱な口調は珍しい。

「じゃあ、誰か選ばれたさ?」

「ザヴィアーだよ、ザヴィアー=ステビンズ。アイツの性格なら、監督生でいいと思う……」

 項垂れるクローディアは、サヴィアーがクィディッチのビーターであること以外何も知らない。

「もう1人は、クララ=オグデンだ。クローディアは知っているだろ?」

 これはクローディアには意外だった。かつての同級生ジュリアの罵りから、助けてくれたことはない。しかし、煽ったこともない。

「クララは、物事を止めない性格なんだ。だけど、加減を弁えているんだ」

 クローディアの疑問を察したように、ロジャーは説明する。

「ちょっといい?」

 ロジャーとマリエッタの背後から、ハリーが何処か引き締まった態度で声をかけてきた。承諾したクローディアはすぐに、2人に適当に挨拶し、ハーマイオニーと通路を進んだ。

「君たちだけに、話したいことがあるんだ」

 クローディア、ハーマイオニー、ロンに向かい、ハリーが慎重に囁いてくる。

「空いている席あるさ?」

「これから、探すんだよ」

 ロンがハーマイオニーの編み籠を警戒しながら、億劫そうに呟いた。

 

「何処もいっぱいさ」 

 空きのコンパートメントを求め、4人はついに最後尾車両まで進んだ。ここで、漸く空いた部屋に辿り着いた。

「ここしか、空いてないわね」

 半開きの戸から中を覗くと、鳶色の髪の男が窓際に寄りかかり、足の先から顔までローブで覆おう恰好をして眠り込んでいる。髪の色に見覚えのあるクローディアは、不意に思い返す、

「この人、駅にいたさ」

 ハーマイオニーに耳打ちし、クローディアは慎重に男の向かいに座る。ハーマイオニーも隣に座り、ハリーも男の隣に腰掛ける。音を立てないように、ロンが戸を閉める。

「この人誰だと思う?」

「R=J=ルーピン先生よ」

 即答するハーマイオニーに、ロンが驚愕する。

「どうして、なんでも知ってるんだ!」

「鞄に名前が書いてあるもの」

 細くも少し日に焼けた指先が指す荷物棚に置かれた使い古した鞄に、剥がれかけた名札がある。

「もしかしてさ、『闇の魔術への防衛術』の先生さ?」

 ローブを被る姿を凝視し、クローディアは自身の唇に手を当てる。

「それしかないでしょう。空きがあるのは」

「ま、この人がちゃんと教えられるならいいけどね」

 期待しない口調で、ロンが嘆息する。前任のロックハートは、確かに酷かった。しかし、その後任がこのルーピンなる人物であるなら、今回もクィレルは戻らないということだ。

「クィレル先生……、今学期にも間に合わなかったさ」

 残念がるクローディアの手をハーマイオニーが撫でた。

「それよりも、本当に眠ってるさ?」

 ハリーが繁々とルーピンを眺めた。

 ゆっくりとローブに手を伸ばし、クローディアは軽く手を叩くフリを繰り返す。起きているなら、この仕草を感じ取るはずだ。熟睡していることを確認し、3人の視線がハリーに集中する。

「それで、話って何?」

「これはウィーズリーおじさんとおばさんの話を聞いてしまったんだけど、シリウス=ブラックは僕を狙っているんだ。ブラックは、僕が死ねばヴォルデモートに力が戻ると信じている。ファッジ大臣がアズカバンを視察した時、看守からブラックがこのところ『あいつがホグワーツにいる』っていう寝言を聞いたって報告を受けたんだって」

 一度、ハリーは言葉を切った。

「さっき、おじさんが僕に警告してきたよ。何があってもブラックを探すなって」

 ドリスから確信を得ていたクローディアは、動じず軽く口元を噛んだ。ハーマイオニーとロンは恐怖に愕然としている。戸惑いながら確認するように、ロンが問いかける。

「え……じゃ、つまりシリウス=ブラックが脱獄したのは君を狙うためってこと? そんなの正気じゃない」

「そうだよ、ブラックは狂っているっておじさんは言ってた」

 ハーマイオニーは不安のあまり、口元を手で覆う。

「本当に気をつけなきゃ、もう絶対、危険なことしないで……」

 2人の反応を見た後ハリーは、盗み見るようにクローディアを見やる。

「驚かないの?」

「ダーピートの信奉者が脱獄したなら、真っ先にポッターを狙うのは同然さ。寧ろ、それ以外に脱走する理由が……」

 口にしてから、クローディアは疑問が浮かぶ。

(脱獄できたから狙うんじゃなく、狙うために脱獄したさ?)

 似ているようで非なる理由。

 沈黙するクローディアを差し置き、落ち着けないロンが言葉を吐く。

「ブラックがどうやってアズカバンから逃げたのか、誰にもわからない。脱獄者は初めてだし、しかもブラックは一番厳しい監視を受けていたんだ」

 ハーマイオニーが宥める口調でロンに確認する。

「でも、直に捕まるでしょ? マグルまで探してるんだから」

「ポッターを狙うことがわかってるなら、魔法省から護衛が何かを寄越すさ」

「ああ、それはあるかも……。そんな警護がなくても、学校は十分安全だよ」

 少し不安を消すロンに、クローディアは納得しない。

「これまでで一番、危険な体験をしたのは何処だったさ? 学校に着いても、油断しちゃ駄目さ」

 クローディアが厳しい口調で言い放つ。ロンは反論できず、黙り込む。ハーマイオニーも、彼女に同意し、ハリーを睨まないように見据えた。

 沈黙したため、虫籠が盛大に騒いでいる音が耳に付く。

「なんだって?」

 突然、怪訝そうにハリーが呟く。

「どうしたの?」

「ベッロが興奮してるみたい」

 ハーマイオニーに答え、ハリーはクローディアから虫籠を借り、蓋を開ける。待ち構えていたように、ベッロは虫籠から飛び出した。

 ロンの膝にトグロを巻き、探るようにポケットを這う。

[殺せ、こいつを殺せ]

 殺気立ちながら唸るベッロに、ロンは恐怖に駆られ全身が竦む。

「コイツもスキャバーズを狙ってるんだ! クローディア、コイツをどけてくれ!」

 ここまで興奮したベッロを見たことがある。

「待つさ、ロン。ポッター、ベッロはなんて言ってるさ?」

 困惑する目つきでハリーは、ロンに遠慮がちの視線を送りながらも、答える。

「殺せって……スキャバーズを……」

 顔色を青くしたロンは勢いよくベッロを払いのけようとしたが、腕に絡まってきたので声を出さずに悲鳴をあげる。

 狼狽するロンに構わず、クローディアは考え込む。

「変さ……」

「何が変なの! 蛇が鼠を狙うなんてよくあることだよ!」

 厳しい顔つきでクローディアは、ロンを窘める。

「そうじゃないさ。食べたいじゃなくて、殺せってさ……変さ」

 しっかりとロンに腕に絡みつくベッロをクローディアは外す。礼もなく、ロンは目をつり上げる。

「殺してから、食べるつもりだろ」

 嫌悪を込めたロンに、ハーマイオニーが間に入る。

「もしかしたら、酷く悪い鼠かもしれないわ」

 ロンのポケットを睨むハーマイオニーに、彼も彼女の編み籠を睨み返す。

「その猫まで、放すなよ」

 ぶっきらぼうに言い放ったとき、ルーピンがローブの下で身じろいだ。

 一気に緊張が高まり、4人の視線はルーピンに集中する。彼は寝返りを打っただけらしく、また静かに寝息がローブから零れる。

 安心した4人は、胸を撫で下ろす。

「私、ジニー達のところに戻るさ」

 ルーピンの様子を窺いながら、慎重にベッロを虫籠に戻そうとする。しかし、ロンのポケットに向かい威嚇の姿勢を崩さない。仕方なく、ハリーが蛇語でベッロを静めた。

 ベッロが入り込んだ虫籠を抱えハリーは、ベッロの様子を重く受け止め眉を顰める。

「スキャバーズが弱ってることと関係あるかな?」

 虫籠を受け取ったクローディアが聞き返す。

「弱ってるさ?」

「うん、エジプトから帰ってから元気ないんだって」

 話し込むクローディアとハリーに、ロンが冷たく吐き捨てる。

「出るなら、早く出てよ」

 ハーマイオニーも編み籠を抱えた。

「私も行くわ。ロン! スキャバーズのこと、もっとよく考えるのね」

 剣呑な態度でロンに吐き捨てるハーマイオニーを宥め、クローディアはコンパートメントの戸を開く。忠告の意味を込め、クローディアはロンを振り返る。

「ロンには悪いけどさ。スキャバーズはベッロが殺したい程、危険ってことさ」

 怒りでロンは、唇を震わせ素っ気無く顔を逸らした。

 




閲覧ありがとうございました。
ベッロとスキャバーズは、これまで会う事もなかった不思議。
●ゼノフィリス=ラブグッド
 映画の俳優は、吃驚するほど、イケメンだった。

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