服のサイズが変わったら、買いなおすのは大変ですね。
ここから英語を基本とし、それ以外の言語を〔〕と表記します。
地下鉄を乗り終えるまでに、TVや新聞を通じてブラックのニュースを何度も目にした。
〔マグルにも情報公開してるさ? 不安を煽るみたいで、よくないさ〕
トランクを抱えて駅を出るクローディアは、日本語で呟く。
〔ブラックは見境がないらしいからな。マグルの犠牲者が出ては魔法省も後始末に困るでの。早々に捕まればよいな〕
隣を歩く祖父がぶっきらぼうに返し、露天売りされる新聞を一瞥する。
既に慣れた道のりで英国の我が家に辿り着いたクローディアは、帰宅した喜びで庭の芝生に倒れこんだ。
〔行儀が悪いぞ!〕
笑顔で一喝する祖父も同じように芝生に倒れこんだ。窓からコンラッドが2人に気づき、苦笑しながら声をかける。
コンラッドに気づいた祖父が、慌てて飛び起きた。
「まあ、クローディア!? すっかり細くなって、背も伸びましたねえ」
クローディアの服に付着した草を払い除けるドリスは、感嘆の声を上げる。
「でも、女の子はもう少し身があったほうが良いのではなくて?」
「心配せんでも、学校の飯を食っとれば、また肥えるじゃろ」
イタズラっぽく笑う祖父に、クローディアは羞恥で赤面する。
〔お祖父ちゃん!〕
堪らず日本語で悪態を付くクローディアに、祖父は素知らぬ顔で口笛を吹く。その口笛にベッロは愉快そうに体をくねらせた。
「クローディア、制服の予備を買ったほうがいいだろうから、明日はダイアゴン横丁だよ。もう休みなさい」
いつもの笑顔のコンラッドはそれだけ告げると、扉の向こうに消えた。
その態度に、クローディアは奇妙な違和感を覚える。
「お父さん、なんかあったさ? いつもなら、『日本語』はダメだって、言うさ?」
問いかけられたドリスは、気まずそうに視線を逸らす。
「教科書を揃えて置きましたので、間違いがないか確認なさい」
ドリスに急かされ、クローディアはトランクを2階の自室に運んだ。勉強机に詰まれた本と教科書の一覧を照らし合わせる。
(3つも教科が増えるから多いさ)
その中の1冊だけが緑色の革で作られ、小さいベルトで縛られていた。本より鞄という印象を受けた。
「【怪物的な怪物の本】さ?」
興味に駆られ、クローディアは本を持ち上げ、ベルトを解いた。
瞬間に本は勝手に身震いし、口のようにページを開いてクローディアに飛び掛ってきた。
「うひゃあ!」
強襲を予想していなかったクローディアは、反射的に本を床に落した。しかし、本は脚があるように床を滑り歩いて、迫ってきた。
「これが教科書さ!?」
青ざめたクローディアが咄嗟に杖を構えようとした。
「言い忘れたけど、【怪物的な怪物な本】は背表紙を撫でないと、襲ってくるよ」
階段を登ってきたコンラッドから、遅い忠告を受けた。クローディアは本に噛まれないように注意を払い、数分奮闘の末、背表紙を撫でた。
忠告通り、本は撫で方を心地よく受け止め静まり返った。
格闘したために荒れた部屋について、洋箪笥が文句をたれた。クローディアは深いため息のみ返した。
「見てないで、助けて欲しかったさ」
始終傍観していたコンラッドは、口元を押さえ笑いを噛み締めていた。
洋箪笥に片付けていたお気に入りのワンピースを着込んだ。以前着ていたときより、若干の余裕があることに気づき、嬉しさのあまり悶える。
(本当に細くなってるさ~♪)
髪をおさげに結び、準備を整えたクローディアが居間に下りる。椅子に腰掛ける祖父がワンピースを感心するように見つめる。
「ほお、良いモノを着ておるな。ドリスさんが繕ったのか?」
「いいえ、コンラッドですよ」
慣れない急須でお茶を用意するドリスの言葉に、祖父は意外そうにワンピースを凝視する。
「コンラッドが……そうか、良いモノくれたの」
口元を緩める祖父に、クローディアは閃きで答える。
「壺より良いモノさ?」
満面の笑顔で問うクローディアに、祖父は乾いた笑いで硬直した。
〔そのネタ……、知らん奴に言うなよ。本気で恥ずかしいぞ〕
湯のみに注がれた茶を口にした祖父は、温度が適切ではないとドリスを注意した。
その間、クローディアは先ほどの台詞をハーマイオニーに投げかけたときの反応を予想してみる。意味不明と返されるか詳しく質問攻めにされてしまうだろう。
羞恥心で頬が赤く染まった。
朝食も摂り終え、『煙突飛行術』を用いてダイアゴン横丁にクローディアは到着した。『漏れ鍋』でハリーに会おうとしたが、間が悪く部屋を空けていた。
残念に思いながら、クローディアはドリスと『マダム・マルキンの洋装店』へ向かう。店の前で、おそらく新入生であろう少年と少女が期待に胸を躍らせて話しこんでいた。
「僕はペロプス。ペロプス=サマービー、君は?」
「ロミルダ=ベインよ」
楽しげな2人組の邪魔をしないように、クローディアとドリスは店の中へ入る。マダム・マルキンが来客に気付き、親しみやすい挨拶をしてきた。
「ホグワーツの制服を新調しに来ました」
「では、こちらに。もう2人程、いますからね」
クローディアは、店の奥にある試着室に通される。そこにいたのは、バーナードと何処かで見た男子生徒だ。2人にはそれぞれ魔女が付き、ローブの丈を計っていた。
「『闇払い』は、ブラックの捜索に関与しないらしいぜ」
「ファッジが局長のスクリムジョールに捜査権限を渡したがらないとか」
真剣に話し合う2人に簡単な挨拶をしたが、愛想良く返されただけでクローディアだと気付いてくれなかった。
(そんなにわかんないもんさ?)
納得しがたい気分で、クローディアはマダム・マルキン自らの手で丈を計って貰った。
制服が終わり、二手に別れた。人の多いダイアゴン横丁では、そのほうが手っ取り早い。
「早く、皆に会いたいさ♪」
再会を待ち焦がれるクローディアはスカートを翻して周囲を見渡す。視線の先に最も会いたくない金髪の少年と目が合い、思わず硬直した。
(マルフォイ……。ああ、最悪さ)
胸中で呟き、嘆息する。視線を外さないドラコは、口元を痙攣させ皮肉っぽく息を吐く。
「お可哀想なクロックフォードは、食うにもお困りのようだな」
「素直に痩せたねって言えないさ?」
苦笑するクローディアは、わざとらしく肩を竦める。
「痩せた? やつれたんだろ?」
クローディアは頭を押さえ、話を逸らすことにする。
「マルフォイも背が伸びたさ、……まだ私のほうが上さ」
手で身長を測るクローディアにドラコは口元を強張らせ、噛み付くように反論する。
「今年中に追い抜いてみせる!」
「はいはい、期待しないで応援するさ」
軽くあしらわれたドラコは、頬を真っ赤に染めて小刻みに震える。彼に構わず、クローディアは周囲を見回す。
「それよりさ、ポッター知らないさ?」
「知るわけないだろ!」
自分を無視するクローディアに、侮辱されたと感じたドラコが怒鳴った。周囲を歩く通行人の何人かドラコを振り返る。
「ドラコ、何を騒いでいるのですか?」
小鳥の囀りのようなか細くも貴賓に溢れた声がした。クローディアはドラコの背後を見やる。
絹糸のように繊細な金髪を丁寧に纏め、クローディアよりも長身で細身の女性が、ドラコの肩に優しく手を添える。
「母上、こいつが僕を怒らせるんだ!」
唇を尖らせるドラコがクローディアに指を突きつけてくるが、気にせず彼の母を見上げる。
(綺麗な人さ……)
マルフォイ夫人が物静かな眼差しでクローディアを見下ろしてくる。緊張し、背筋を伸ばし、お辞儀する
「はじめまして、マルフォイくんの同級生のクローディア=クロックフォードです」
「こいつは、レイブンクローだ。友達なんかじゃない」
母親の前で態度を更に大きくしたドラコが、悪態を付く。
クローディアの目の前には、象牙色の肌を持つ手が差し出された。
「ナルシッサ=マルフォイです。お見知りおきを」
握手を求められると予期していなかったクローディアは戸惑いながらも、マルフォイ夫人の手を握る。陶器のように滑りのある手の感触に同性でも十分に魅了される。
「失礼」
ドラコの肩に添えられていた手が、クローディアの頬をしゃくりあげる。
(なんか既視感さ)
水晶を思わせる輝きを見せる瞳に凝視され、緊張して強張った。
「確かにコンラッドとは、似ていないようね」
「その……マルフォイさんからも聞きましたが、コンラッドという人は、どういう人なんですか?」
嫌味とは違う穏やかな言葉と共に、マルフォイ夫人の手が離れた。優しい雰囲気につられ、危うくコンラッドが父親だと言いかけた。
「ドリスは、コンラッドの話をしないのね」
誤魔化しは効いたようで、マルフォイ夫人は憐れむような視線を向けてきた。
「こんなヤツ、放っておきましょう。学校でな、クロックフォード」
話題に置いていかれたドラコが、マルフォイ夫人の服の裾を掴む。乱暴な足取りでドラコは『フローリシュ・アンド・ブロッツ書店』に入る。
マルフォイ夫人はクローディアに会釈し、ドラコに続いた。
育ちの良さを窺わせる歩き方をするマルフォイ夫人を見送り、クローディアは腕組をする。
(あんな綺麗な人が知り合いさ、お父さんも隅に置けないさ)
ハグリッドの話では、学生時代のコンラッドは、その容貌であるが故に女子に追い回されたことがある。マルフォイ夫人もその1人かもしれない。
胸中で呟き、思わず頬が緩む口元を手で覆う。
不意に、背後を通り抜けようとする人の気配を察したクローディアは、振り返ることなく避けた。案の定、惚けている様子のハリーが通り過ぎていった。
「ポッター、見つけたさ」
偶然の巡り会わせに、ハリーを呼び止めた。彼は声をかけられたことで我に返り、クローディアを振り返った。
しかし、ハリーは見知らぬ他人を見る目つきを返した。
「君は、誰……?」
「おいおいさ、ポッター。私の顔を忘れたとは言わせないさ」
クローディアだと名乗っても、ハリーは不審な目つきを緩めない。『高級クィディッチ用具店』からドリスが出てこなければ、永遠に納得してもらえなかったかもしれない。
「変わりすぎだよ。逞しくなったね」
期待外れの言葉をかけられ、クローディアはがっかりする。
「……綺麗じゃないさ?」
「クローディアは、綺麗とは遠いよ」
悪意のないハリーの笑顔が眩しい。反射的にクローディアは彼の腹に拳を叩きつけようとしたが、ドリスに制しされた。
不満げに、クローディアは呟く。
「マルフォイでさえ、私のことわかったさ。酷いさ、ポッター」
ドラコの名に、ハリーは言葉を詰まらせる。
(マルフォイにわかったなんて、ありえない。あいつ、ひょっとして観察力ある?)
胸中で呟くハリーの心情を察したクローディアは、口元押さえ、笑いを噛み締める。
3人はカフェ・テラスで昼食を摂りながら、休暇中の出来事を説明しあった。
「誕生日の贈り物、ありがとう。僕、三色ボールペンなんて初めて見たよ」
「そういえばさ……、なんで『漏れ鍋』に?」
何気なく問いかけると、ハリーはビクッと肩を痙攣させる。渋々、彼は事情を説明した。
バーノン=ダドリーの妹マージの暴虐に堪えかね、ハリーは学校の外で魔法を使った。マージは風船のように膨らみ、空を飛んで行った。『魔法省事故リセット部隊』により保護され、記憶も修正された。
まさかの事態にクローディアは、呆気に取られる。
「親戚のおばさんを膨らませたさ? それで、家出さ? ポッターは自重するさ」
「わかってるよ、本当は退学モノだってことは」
少し緊迫感を見せる表情でハリーは、小さく頷く。
「本当、なんで魔法省は見逃してくれたんだろ?」
「そりゃあさ、シリ……おが!」
クローディアはハリーがブラックに狙われる可能性を口にしようとした。机の下でドリスが彼女の足の脛に蹴りを入れ、会話を中断させた。
そのせいで、クローディアは低い音程の悲鳴をあげる。ドリスは厳格な視線を送ってきた。
視線の意味を察したクローディアは、わざとらしく咳き込み話題を変える。
「『高級クィディッチ用具店』に行こうとしたさ?」
質問にハリーは、戸惑うようにドリスを見やる。
「また、『ファイアボルト』の見学をなさっていたんですね?」
微笑むドリスに、ハリーは頬を赤らめて頷く。
――現存する箒で、最高峰の一品『ファイアボルト』。
ダイアモンド級硬度の研磨仕上げ、最高級トネリコ材の柄、手作業で刻印された固有の登録番号、厳選されたシラカラバの小枝、箒製造の上で最先端技術が注がれている世界一最高の箒である。
興奮するハリーから、説明を受けてもクローディアは箒に興味がない。反応が乏しい彼女に、彼は軽く唇を噛む。
「つまり、バスケットシューズの大手メーカーが出した最新作だよ」
「それは欲しいさ!」
今度は、バスケットシューズを知らないドリスが困惑する。構わずに、クローディアは話題を思いつく。
「そうさ、ポッター。私さ、今度、バスケ部を立ち上げようと思うさ」
「バスケ部か……。ホグワーツにマグルの競技はないから、すごく素敵だと思うよ」
「そのバス、ケって、マグルの遊びなの?」
賛成するハリーに、ドリスは首を傾げる。彼は大まかなバスケの説明をしたので、彼女は納得した。
「それでさ、ポッター。もちろん入部してくれるさ? バスケ部」
クローディアは猫を被る笑顔で、ハリーに熱い視線を送る。
「いや、僕……クィディッチあるし」
軽く拒否するハリーの態度に、クローディアは更に媚びる視線を送る。
「大丈夫さ、ポッターなら掛け持ちはバッチこいさ」
「なんで君が、バッチこい、なの?」
デザートのアイスを口に含み、ハリーは話題を変えるために考え込み、宙を見やる。
「そうだ、コンラッドさんに会ったよ」
意外な言葉にクローディアは、ハリーを見やる。ドリスは何故か紅茶を噴出し、咽ていた。
「すごく綺麗な人だった。勿論、男の人としてだけど。【怪物的な怪物の本】を買ってたよ」
本に被害に遭ったクローディアは、苦々しく笑う。
「あれさ、危ないさ。お父さんったら、使い方知ってたのに、わざわざ私が困ってから教えてたさ」
「それって、背表紙を撫でることだろ?」
確かめるハリーに、クローディアは頷く。納得したように彼は、眼鏡の縁を押さえた。
「コンラッドさんがお店の人に教えるのを聞いたんだ。コンラッドさん、「この本はユーモアがある」って言っていたよ」
「……ユーモアってさ……」
噛みついてくる本など、喜ぶのはハグリッドくらいだ。後は、同級生のセシルだろう。彼女は魔法界でも珍品を収集したがる。同級生という単語で、クローディアは思いつく。
「マルフォイのお母さんもホグワーツさ? お父さんのこと知ってたみたいさ」
一瞬、ドリスの表情が強張る。
「あいつの母親か……、あんまり想像できないなあ」
確かに、ドラコの見目は完全に父親似だ。
「あ、……でも、髪の感じが似てたさ。なんというか、柔らかなそうな感じさ。だって、マルフォイパパって、絶対、髪質やばいさ」
「髪質がヤバいってなんだよ」
同意したようにハリーは、にやりと笑う。わざとらしく、ドリスが咳払いした。
「ナルシッサ=マルフォイはホグワーツでしたよ。学年は違いますが、コンラッドは良くしてもらったそうです。ただ、それは友達というより、愛玩動物のような扱いだったと……」
((愛玩動物は嫌だなあ……))
クローディアとハリーは、そんな感想を胸中で呟く。
「ドリスさんもホグワーツですか?」
「いいえ、私は私塾に通っていました。どうしても、家計を助ける為に働かねばならなくて。ホグワーツのような学校に通う余裕など、到底、無理な話でした。幸いといっては変ですが、入学許可証も来ませんでしたし」
深すぎる事情にクローディアは、目が点になる。そして、ドリスは癒者だと改めて認識した。
「お祖母ちゃん、それで『N・E・W・T試験』に合格したさ?」
「ええ、当時の会場に集まった受験者の中で、私は一番の成績を収めましたとも」
得意げにドリスは微笑んだ。
「どうやって、ボニフェースと知り合ったんですか?」
ハリーの素朴な質問に、ドリスの表情が一瞬、強張る。しかし、すぐにいつもの笑顔を見せた。
「ボニフェースが私の両親を訪ねて、家に来ました。歳も近く、それに彼はとても、広い心の持ち主で……、この話はまた今度ね」
照れるような仕草でドリスは言葉を切った。
「ポッターのアイス、美味しそうさ」
ハリーの手にあるアイスが溶けかけていたので、クローディアは噛み付いた。味の違うアイスが口の中に広がる。
突然、アイスを奪われたハリーは、仕返しとクローディアのアイスを狙った。食べかけのアイスを彼女は、死守しようと攻防する。
「ズルイよ。クローディア」
口を開きながら、ハリーはアイスを諦めない。クローディアのほうが握力で勝り、アイスを彼から守りきる。
アイスを奪い合う2人の様子を、ドリスは微笑ましく見つめる。だが、胸中には拭いきれない不安を抱え、空を仰ぐ。
(願わくは……、この時間がこれから先も当たり前であらんことを……。あなたもそう思われるでしょう? ボニフェース)
胸中の問いかけに答えるものは、誰もいない。
昼間にも関わらず、酒場の『漏れ鍋』は客が溢れ、酒の臭いに満ちている。
「パーシーがペネロピーと付き合っているって話、聞いた?」
「あれ? あんた、まだ知らなかったさ?」
ドリスが簡単な用事を済ませるまで、クローディアとハリーは隅のほうで空いた席に座る。アルコールのない飲み物を注文し、2人は会話を弾ませる。
「ハーマイオニーが手紙で、ベンジャミン=アロンダイトの展覧会を教えてくれたさ。ポッターは行ったさ?」
「僕はご近所さん家で留守番……、叔父さん達だけが行ったよ。TVの特番なら、見たよ。日本では、なかったの?」
「全然。ハーマイオニーからパンフレット貰っただけさ」
不意にクローディアは、祖父とベンジャミンが顔見知りであることを告げるべきか悩んだ。そんな胸中を余所に、ハリーは続ける。
「叔父さん達が、ベンジャミンが魔法族だって知ったら、どんな顔をするのか想像するだけで楽しかったよ」
「それ言ったら、ハリーの人生一貫の終わりさ」
笑いのツボを突かれたハリーは、噴出した。
展覧会の話から、自然とボニフェースの話に移る。
「ハグリッドから、貰った写真どうしたの?」
「アルバムに保管してるさ。そういえば、まだ誰にも見せてないさ」
夏の休暇に入り、すぐに日本に帰国し、友人と遊び、魔法の特訓、地獄のダイエットの日々。写真のことは忙殺していた。
「どうして、ボニフェースとドリスさんは、名字が違うんだろう?」
随分と込み入った質問だが、クローディアは事情を知らない。
「……お祖母ちゃんが再婚したとか、そんなんじゃないさ? 教えてもらえる機会があったら、聞いておくさ」
「うん、そうしてくれる? 僕からじゃ……、ちょっと無神経な質問だと思うし」
ハリーは恥ずかしそうに頼んできた。だが、彼の言葉通りだろう。その質問はクローディアでも、口に出しにくい。
「それじゃあ、そのどんなダイエットしたの?」
「まずは……」
2人は、話題を夏のダイエットに変える。クローディアは祖父とコンラッドが提案し、実行された内容を事細かに説明する。
笑顔で体験を語るクローディアとは対照に、聞き手のハリーの表情は青ざめていった。
閲覧ありがとうございました。
ハリーは親しい人間程、辛口なお世辞をいいます。
●ペロプス=サマービー
原作五巻にて、苗字のみ登場。
●ロミルダ=ベイン
原作六巻にて、登場。ハリーを誘惑する。