こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

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閲覧ありがとうございます。
再び、日本の暮らしです。

追記:16年10月23日、18年9月30日、誤字報告により修正しました。


三巻・序章2

 田沢と木下に連れられ、久々のゲーセンを堪能した大いに私は、満足な気分で家に帰った。

 居間では、祖父が厳しい顔つきで卓袱台に【日刊預言者新聞】を広げていた。

「お祖父ちゃん、新聞とってるさ?」

「いや、ドリスが送ってくれたもんじゃよ」

 祖父は日付の違う新聞を私に見せた。

 片方はロンの家族が賞金でエジプトに旅行したことが記されていた。動く写真には、夫婦と7人の子供達が元気良く手を振っている。ロンが手にしている鼠は確か、彼の使い魔のスキャバーズだ。

 初めて目にした。

「ああ、賞金へえ! すごいさ」

 ロンのことを賞賛した私は、もう一枚に目をやり、恐怖で固まった。

 一面に張られた写真には、骸骨に肉が付いたと表現するしかない男が音もなく吼えていた。

「誰さ、これ?」

【シリウス=ブラック脱獄!】

 見出しの文面に書かれた文字を読んだだけで、これが囚人の写真だと理解した。

「アズカバンから脱獄したさ? あそこって凄く恐ろしいところさ、お祖父ちゃんは知ってるさ? 魔法使いの監獄なんだってさ」

「ワシは世話になったことはないからのう。噂程度に知っておるくらいじゃ。しかし、脱獄したのはヤツが初めてじゃ、……嫌な感じがするの。これが嵐を呼ぶ波紋にならねば良いが……」

 重苦しい祖父の言葉に、強い警戒心を感じ取る私は唇を噛み締めた。シリウス=ブラックの記事には、『例のあの人』の信奉者であり、マグルと魔法使いを合わせて13人を殺害したことが記載されている。

 つまり、あのルシウス=マルフォイのお仲間だ。

(脱獄したってことは、ポッター……狙われるさ?)

 卓状台に手をついた私は、祖父の向かいに座る。

「向こうに戻るさ」

「ダメじゃ、この事態に戻るとは許さん。予定は変えん」

 否定され、私の頭に血が昇っていくのがわかる。

「でもさ、ポッターが危ないさ。それにダーズリーさん達はどうするさ? 殺されるかもしれないさ」

「おまえに何が出来る!? もう石化されておったことを忘れたか!」

 大声ではない一喝に、私は咄嗟に口を噤んだ。睨むわけではないが、私は祖父から決して目を離さなかった。

「お祖父ちゃん、来織。何をうるさくしてるさ。玄関まで聞こえたさ」

 空気を壊す和やかな母の呼びかけに、私は飛びついた。

「お母さん、アズカバンから脱獄した魔法使いがいるさ」

「それ、漫画の話?」

 夕食の材料が入った買い物籠を渡す母は、簡単に返した。籠を受け取った私は、説明が面倒であったが、何も知らない母のために補足した。

「お母さん、その脱獄囚がさ。私の友達を狙うみたいさ。だから、急いで英国に戻りたいさ。そしたら、お祖父ちゃんが駄目だってさ」

 急に母は手を止め、不安げに眉を寄せる。

「まさか、その囚人を捕まえるつもりさ?」

 緊迫した母の雰囲気に押され私は、退いた。

「違うさ、私は友達が心配さ」

 母は今にも泣き出しそうに、目が潤んでくる。こうなると、母は涙を堪えられない。慌てふためく私に、米袋を提げた父がいつもの笑顔で問いかける。

「誰が脱獄したんだい?」

 米袋を玄関に置き、父は私に背を向けて靴を脱ぐ。その背に私はハッキリと答えた。

「シリウス=ブラックさ」

 一瞬、父の動きが止まった。振り返らず、父は頷く。

「今日は、友達の家に泊まるはずだったね?」

 ようやく振り返った父の笑顔に変化は見られない。私は、確かに藍子の家に宿泊する約束をしている。確認で頷く私に、父は部屋に戻るように促した。買い物籠を台所に置いた私は、祖父の顔も見ず自室に飛び込み戸を閉めた。

 その晩、藍子の家に泊まりに行った私は、父達の間でどのような会話なされたのかを知らない。

 

 翌日の昼に帰宅した時、父は詳細を把握するためと1人で英国に発ってしまった。

 母は『仕方ない』と微笑んでいたが、その目は充血し、声は枯れていた。一晩中、泣いていたに違いない。私も休暇が終われば学校に戻る。祖父もきっと、私のために英国に着いてくる。そうなれば、母は1人で家族の安否を祈るしかない。

「私、危ないことしないさ。先生のいうことも聞いて、安全にしてるさ」

 私が母に言えたのは、それだけだった。母は私の心情を察したのか、抱きしめてくれた。

 

 カサブランカが学校からの通達の羊皮紙を運んできた。ホグズミード村への許可証だ。

「やっと、ホグズミード村さ」

 3学年になる楽しみのひとつだ。

 この2年間、上級生によく自慢されていたが、今年から私も堂々と行くことが出来る。

 他には祖母から手紙が入っており、教科書を揃えておいてくれるという簡単な文章だけだった。

(サインって、お祖父ちゃんでいいさ?)

 居間に行き、新聞を読んでいた祖父に相談すると快く許可証にサインしてくれた。

「3年生か、思えば順当に通っておれば、5年生になるはずじゃな」

 急に祖父は、深刻な表情で私を見つめる。

「私いまの学年でよかったさ。友達もたくさん出来たしさ。本当、逆に良かったさ」

 ハーマイオニーと親しくなれたのも、パドマとリサと同室になれたのも今の学年にいるお陰だと、私は本気で思っている。

「そうか、それならいいんじゃが……」

 祖父の歯切れが悪い。躊躇う仕草に私は不安になる。

「その……恨んでおらんか?」

 それは今の学年を指していない。私は祖父がバスケのことを問うているのだと察した。

「最初は、考える暇ないさ。学校は楽しいさ。恐い先生もいるさ。でも、こうして日本に帰るとさ。バスケしたいなって思うさ」

 正直に、休暇に入ってからの胸の内を晒した。

 祖父は腕を組み、真摯に頷く。

「やめてもかまんぞ。ホグワーツに行かんでも、おまえがバスケをする傍ら、ワシが魔術の講師をしてやろう。ワシとてダームストロングを退学してからのほうが、勉強になったからのう」

「は?」

 簡単に告げる祖父に私は一瞬、混乱する。そして、祖父の言葉を私なりに解釈し、色々突っ込みを入れたいところであったが、最も着目した点のみ反応した。

「お祖父ちゃんが、ダームストロングさ?」

「そうじゃ。しかし、割りにあわんでの。卒業を目前にやめてやったわい」

 懐かしむ祖父は、自慢するように笑う。

 私はその学校名に覚えがあった。【ヨーロッパにおける魔法教育の一考察】において最低と評価された学校だ。理由は『闇の魔術』必須科目とし、現校長イゴール=カルカロフは純血主義者でマグル出身者の入学を拒絶していると遠巻きに明記していた。祖父の母校を貶す気はないので、その点に触れずに置く。

「もしかして安陪清明みたいにそういう家系さ? 薬もその証さ?」

 祖父は笑みを消し、真っ直ぐ私を見据える。

「いや、ワシはただの百姓のマグル生まれじゃ。ワシが口減らしで山に捨てられたところを、魔法使いに拾われたんじゃ」

 淡々と語る祖父に、私は背筋が凍った。口減らしなど時代劇でしか見たことも聞いたこともない表現だ。

「ワシは物心ついた頃から、村の連中とは違うことが出来た。ワシの感情に任せで地震も起こり、物もよく壊した。おかげで、鬼子と虐げられておったから、いつかは捨てられると思っとったとも」

 気にかけていない様子だが、私は急に胸が息苦しくなった。

「すごいさ、お祖父ちゃん。ダームストロング学校ってその校長先生が純血主義者なのに、よく入学できたさ」

 漸く出した私の声は沈んでいた。

「わしの後見人がそこのOBで首席じゃった。わしの入学は、その推薦によるもんじゃよ。どんな風に評価されようとも、あそこは夢のような世界じゃった」

 口元を緩ませる祖父の表情に、私は強張っていた体が解けていく。

「『闇の魔術』って、ゲームでいうところの闇属性の魔法さ?」

「否、そうじゃなあ、あれは人に害を成す魔法の総称というべきじゃなかろうかな? この歳になっても、その辺りがワシにもわからんのでな」

「人に害をなす……呪いさ?」

 祖父は急に生真面目な態度で私に問いかける。

「そもそも『闇の魔術』とは、なんじゃ?」

「ヴォルデモートみたいに、他人を蹂躪する魔法さ」

 即答する私に、祖父は右手の人差し指を天井に向ける。

「ヴォルデモートが生まれる前から、既に魔法は存在しておる。従って、ヤツ自身を喩えに出すのは、正しくはない」

 突然、祖父の指先から炎が燃え上がり、私は軽く悲鳴を上げた。しかし、炎は祖父の指からただ燃えているだけで、大きくならない。祖父も熱さを感じる様子はない。

「仮に『闇の魔術』を蛇と喩えよう。じゃが、仏教において白蛇は観音の化身として重宝される。赤蛇は幸福の象徴じゃが、陰陽道における赤蛇は騰蛇を示し、凶を現す。ヤマタノオロチは自然の驚異を具現化させたもの、神話においては若い娘を食らう邪悪な存在として描かれておる。わしが言いたいことはわかるか?」

 私は自然と背筋を伸ばし、天井に目をやる。

「『闇の魔術』は存在しない?」

「飛躍しすぎじゃが、まあ合格点じゃ。『闇の魔術』はそれと認める者と恐れる者がおらなければ、成立せん。これは、魔法にもいえることじゃ。マグルが魔法を否定する時点でマグルの世界に魔法は存在せん」

 突然、卓袱台の上にバチルダ=バグショット著【魔法史】が降って来た。勝手に『魔女狩り』のページを開いた。

「見よ。ここにはマグルが行った『魔女狩り』が如何に本物の魔法使いにとって無益であったかを語るだけじゃ。拷問によって多くの人々が冤罪に陥り、火刑に処されたことに霞みも触れておらん。これが魔法界と人間界の差を如実に表しておるわい」

 祖父の人差し指から、炎が消える。指には燃えた痕がない。同時に【魔法史】も卓袱台から消えた。

「もう一度言うぞ。『闇の魔術』とはなんじゃ?」

 改めて問われ、私は自問する。

 太陽に物を当てるが如く、判断できるものか、されるものか?

「答えが出んのなら、それでよい。それとこの話は余所でせんほうがいい。頭がおかしいと思われるぞ」

 空気を一気に変える豪快な笑いが起こる。

 私も一緒になって笑った。笑いながら、私は頭の隅で冷静になる。

「じゃあ、……あの薬は……お祖父ちゃんが作ったさ?」

 急に祖父は座布団の上で座りなおした。

「半分正解じゃ。あれはな、ワシの師と共同して作り上げたモノじゃ。その師自身、長い歳月の間、強力な呪いに蝕まれておった。それから解放するために作っていたら、出来たもんじゃ。効力は抜群じゃろ? ワシ、1人ではあそこまでのモノは作れん」

 威張る祖父に、私は苦笑する。

「師匠さんって、後見人の人さ?」

「いやいや、別人じゃよ。ワシを魔法界に導いてくれた後見人と学校を去ったワシを弟子にした師……この人は戸籍上でワシの父親になる。その2人がいてこそ、いまのワシがある」

 師であり、曾祖父の存在に私は吃驚した。

「私にも曾祖父ちゃんがいたさ。今はどうしているさ? 私、会ったことあるさ?」

「いいや、もうおらんよ。……そうじゃな、確か……写真があったはずじゃ」

 祖父が閃いた瞬間、年代を帯びた黒い手帳が机の上に降って来た。懐かしむ手つきで祖父が手帳を開く。そこには、いくつもの写真が貼られている。これはアルバムなのだ。

「この人が師匠の幻三蝋(げんさぶろう)じゃ」

 白黒の写真に映る2人の日本人。片方は祖父、もう1人が師匠にして曾祖父の幻三蝋という。シワだらけで髪の毛がひとつもなく、まさに老獪。白と黒の和服が何故だが、和尚様の印象を与えた。

「へえ、これが曾祖父ちゃんさ。お祖父ちゃんも若いさ」

 湧き起こる高揚に従い、私は祖父からアルバムを借りて捲る。見慣れない服装をした人々が笑いかけて来る。おそらく、ダームストラングの生徒だ。彼らの中で、一番幼く背の低い男子生徒が祖父だろう。

「後見人さんは、どの人さ?」

「ない。あの人は、写真を嫌っておったからのお。……探せばあるかもしれんが……」

 重苦しく語る祖父は、急に話すのをやめた。

 素知らぬ振りをし、私はアルバムを捲り続ける。前半は学生時代だが、後半は曾祖父と映る写真しかない。背景からして、それぞれ国が違う。

「随分、いろんなところに行ったもんさ。あ、自由の女神……」

「旅は良いもんじゃよ。まあ、この歳では落ちつきたいもんじゃがな」

 祖父が笑いかけられた時、私は最後のページを捲る。これまでと違う写真があった。否、新聞の切り抜きだ。痩せた少女は、おそらく私と歳が変わらないだろう。神経質そうに顔を顰めていた。

 写真の下には、文章が一行だけある。しかし、私は読み切れなかった。読む前に、アルバムそのものが音もなく、消えてしまったからだ。

 驚いた私は、祖父に疑問の視線を投げかける。祖父は何の動揺も見せずに、卓袱台を支えに立ち上がった。

「さて、そろそろ運動の時間だ」

 祖父は、そそくさと居間を後にする。しかも途中で襖にブツかった。ポーカーフェイスを気取っても、態度では隠せずに丸分かりだ。

(今の写真って……誰さ?)

 わざわざお茶を濁したのだから、答えないだろう。私でも理解できるのは、あの少女は祖父にとって特別な人ということだけだ。しかも、写真ではなく、記事の切り抜きならば、相当な片想いだ。そんな時期が祖父にもあったのだと考えると、私は思わず和んでしまった。

 

 日本にいる最後の1日。

 昼間は友人達とカラオケで盛り上がった。田沢のチームが全国大会で優勝したことが拍車をかけた。これで、田沢の高校推薦は確実になった。皆はそれを心から祝福した。

「来織、本あんがとな。フランケンシュタインって奥が深いわ」

 感嘆したように言いながら、木本が【フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス】を返してくれた。これを貸したのは、彼が夏休みに入る前である。

「随分、じっくり読んだもんさ」

 含みを込める私に、木下はわざとらしく咳き込む。

「そりゃあ、コルネリウス=アグリッパなんて知らねえ名前とか、時代背景を調べるのに時間かかったんだよ。とにかく、おもしろかった! それでいいだろ」

 世界史に興味でもなければ、魔法使いとして讃えられた軍師アグリッパを知る機会は少ないだろう。

「お役に立てて良かったさ」

 不貞腐れる木下の頬を私は指先で突いて、からかう。歌っていたはずの田沢が突然、マイクに向かって怒鳴りだす。とても楽しい時間だった。

 夜は家族3人で夏だというのに、鍋で盛り上がった。

「しかし、来織。この1年でよく考えておけよ。魔法界だけが世界ではないからな」

 酒で酔った祖父が、上機嫌に私に擦り寄ってきた。酒気に堪らず、私は母に逃げた。

 眠る前に、私は蔵の中に入った。ヒノキの匂いが私の脳内を心地よくさせる。

「何してるさ?」

 なかなか出てこない私を心配し、柿色の寝巻き姿の母が入ってくる。

「最後に、ちょっとだけさ」

 床に寝そべる私に、母も倣う。

「また帰ってくるさ。最後なんて、違うさ」

「そりゃあ、そうさ」

 生返事する私の腹を母はくすぐった。手の感触に私は笑いが抑えられず、口から笑い声が放たれる。床を回転し、私は隅に集められた箒を目にする。

「お母さん、私、箒に上手く乗れるようになったさ。後ろに乗るさ?」

 箒に跨る私に、母も喜んで後ろに跨った。2人も乗ったせいか、箒は人1人分の高さ以上にならなかった。正直、私は自分の腕に落ち込んだ。

「お父さんに比べたら、まだまださ」

 励ます母に、私は項垂れて振り返る。

「お母さん、お父さんが箒に乗ったところ見たことあるさ?」

「勿論さ」

 床に足を着け、箒から下りる。私から箒を受け取った母は、窓のない壁を見つめる。

「来織が赤ちゃんのときさ。お母さん、育児ノイローゼになったことがあるさ。それを見かねたお祖父ちゃんが、お父さんと遊園地でデートするように言ったさ。平日でさ、遊園地は家族連ればっかりさ。お父さん目立ったさ。外国人だし、いい男だしさ。ジェットコースターが一番楽しかったさ。そしたら、お父さんったら乗り物酔いで吐いたさ。お母さん、それがおもしろくって、『いい男が台無し』って言ったさ」

 区切るように母は言葉を切った。箒を愛おしそうに抱きしめる。

「お父さんは、悔しそうに私を睨んださ。負け惜しみみたいに『箒なら負けない』って怒ったさ」

「お父さんが怒ったさ?」

 私の言葉が聞こえないのか、母は続けた。

「その夜、あの人は私を庭に連れ出して箒に乗ったさ。私はちょっと怖かったけど、なんとか乗ったさ。あの人は箒で私を空まで運んでくれたさ。家が遠くなって、町が遠くなって、雲のほうが近かったさ。そこから見た町の明かり今でも忘れないさ」

 その光景を思い出す母は、私の母ではなく1人の女だった。

「思わず、魔法使いみたいって言ったさ。そしたら、あの人、すごく嬉しそうに笑ったさ」

 瞼を閉じる私には、普段の笑顔でいる父しか想像できない。思えば、両親の昔話を聞くのはこれが初めてあった。2人しか知らない過去、それがあることを私はつい忘れてしまう。

「どうやって、お父さんと出会ったさ?」

「う~ん、忘れたさ。お隣の田沢さんなら、覚えていると思うさ」

 田沢さんは、一家そろって我が家の友人だ。

 急に母の顔つきが普段のものに変わった。

「来織、お祖父ちゃんに乗せられて学校をやめることないさ。そもそもな話、ホグワーツに行くか行かないかの選択肢もくれなかったさ。来織は、文句言わずにこれまでちゃんとやれたさ」

 その話に、私の心臓は急に跳ねた。

「そ、それはさ。ちょっとバスケのことでさ。続けたいなあってさ。でも、学校にバスケがなくてさ」

「なら、学校で部活を作るさ。あんたが部長して先導するさ」

 意気込む母に、私は目を丸くする。自分で部活を興すなど、考えたこともなかったからだ。意外に簡単な答えだった。

「ありがとう、お母さん」

 思わず私は、母を抱きしめる。

「どういたしましてさ、来織」

 来織は母が付けてくれた。クローディアは父が付けてくれた。どちらの名も、私には大切な名前だ。

 日本と英国が私の居場所なのだ。

 私と母は、そのまま蔵で眠り込んでしまった。

 




閲覧ありがとうございました。
日本での日常は、終わります。次から、イギリスです。
●日無斐 幻三蝋
 オリキャラ爺。この人の事を語れる日が来るかな…。阿倍さん家の陰陽師でないことは確かです。

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