誠に勝手ながら、これにて最終回とさせて頂きます。
ハーマイオニーとクローディアの視点です。
追記:20年3月1日、誤字報告により修正しました。
魔法省名物といえば、ホールの中央にある噴水。ウクライナ・アイアンベリー種の像に魔法使い、魔女、人間、小鬼、巨人、ケンタウルスのミニチュア像が並ぶ。ドラゴン部分は通りすがりへ水を噴き出して驚かせる。濡れない魔法の水の為、誰も文句を言わないが偶に本当にずぶ濡れにされるのだ。
かつては魔法族が他の種族に羨む像があり、その後は魔法族が完全なる支配を示す像があったと教えれば、若手達はそちらこそを信じられないと驚く程だ。
「ハーマイオニー……否、失礼した。グレンジャー大臣」
「今は休憩中ですし、貴方は私に遠慮する必要はないわ。『魔法法執行部』ポッター部長?」
お互いの返しに慣れたハリーと私は笑い合う。周囲も咎める者はおらず、通り過ぎていくのだ。
「では、ハーマイオニー。ロンから今日、取材をするって聞いたよ。【ザ・クィブラー】の……どうして、私を誘ってくれなかったんだ?」
「……取材嫌いの貴方が受けたがっているとは知らなかったわ。けど、ご免なさい。極秘の取材ですから、またの機会にお誘いするわ」
おおげさに驚いた私は言い訳抜きで就任したばかりの上、言葉通りの多忙な毎日だ。
極秘と言うのは本当だが、ハリーへ報せるのをすっかり忘れていた。
「そうか、久しぶりにルーナの取材を受けたかった。コリンにも会いたかった。2人によろしく――」
承知した私は不意に思い付く。
「ジニーの取材を受けては? 貴方の作るシュクメルリ、レシピが載れば大反響よ」
「前向きに検討いたします」
棒読みのハリーはジニーの取材の受けるつもりはない。私は嫌味っぽく笑い返した。
『漏れ鍋』に魔法省大臣が来るなど、珍しくない。入省した頃からの馴染みで、店主ハンナとも親しければ尚更だ。ここで取材するなど、私以外の常連客は思い付きもしうないだろう、多分。
「借りるわ」
一声かけ、ハンナは笑顔で視線を2階へ向ける。
【8】号室の扉をノックすれば、音もなく開く。約束した3人が既に到着し、各々が寛いだ体勢で椅子に腰かけていた。
「私が最後? 時間通りのはずよね?」
「5分前に到着したんだ。2人は俺より先だった」
コーマック=マクラーゲンは肩を竦め、ルーナとコリンへ言葉を投げる。
「僕は予定が早まって、昨晩、ここに来たんだ」
「あたしはコリンの後だよ。待ち切れないんだもン」
コーマックはわざとらしく咳払いし、椅子から立ち上がる。取材を進めたがっていると察し、2人もそれぞれの道具を取り出した。
ルーナの自動筆記羽ペンが今か今かと羊皮紙の前でピクピクし、彼女自身はタブレッドでキーボード画面にして打つ準備万端だ。
「貴女がマグル製品を使う姿、すっかり板についたわね。私でも、まだガラケーよ」
「うん、ドラコがこの機種勧めてくれたんだ。ハーマイオニーも買うなら、ドラコに相談するといいもン」
ドラコ=マルフォイがマグル製品を愛用しているという噂では聞いていたが、どうやら本当らしい。
「俺も先日、スマホを買ったばかりだぜ。俺はいらないって言ったんだが、ペニーがしつこくてな。この国の首相がプライべードで携帯電話すら持っていないとか、ありえない! って……。秘書代えたい……」
「最初は携帯電話持っていたけど、電話の通じない国とかよく行くし、頻繁に盗まれるから持つのは止めたよ」
コリンはカメラを構えながら、私達2人に映りの良い姿勢を指示する。コーマックはネクタイを締め直し、私は胸にある魔法省の紋章が見えやすいようにローブを整え直した。
「改めて、お会いできて光栄です。グレンジャー大臣、前任者の引退を知った際、後釜は貴女しかいないと確信しておりました」
「こちらこそ、マクラーゲン首相。貴方にそう言って貰えるなんて、光栄です」
マグル出身の私が魔法省大臣、魔法族出身の彼がマグル首相。その2人が秘密裏に会合し、【ザ・クィブラー】の取材を受ける様子を誰が予想出来たであろうか――。
きっと、ルーナだけだろう。
「堅苦しい呼び名は抜きにして、ハーマイオニーと呼んでも? 私もどうか、コーマックと――」
「ええ、そうしましょうとも。コーマック……、サリーはお元気かしら? 最後に会ったのは結婚式の会場だったわ。ロンドン橋を使った式なんて、前代未聞だったわ」
サリー=アン・パークスとの電撃結婚、しかも会場はロンドン橋。多くの魔法族が招待され、魔法省はマグルへの隠蔽工作に難儀した。勿論、ハーマイオニーも連続徹夜する程の重労働だった。
マグル側には橋の真ん中で写真撮影をしただけの慎ましやかな結婚式だったと報じられた。
「ええ、ファースト・レディとしてのプレッシャーもあるでしょうが、妻なら乗り越えられると信じております。私の話はさておき、ハーマイオニー。今まで散々問われたでしょうが、貴女は大臣となって魔法界をどのように導くつもりでしょうか?」
結婚式の様子を思い出し、コーマックは微笑む。そして、毅然とした態度で私の今度の方針を訊ねた。
「『屋敷妖精』の解放です。彼らを仕える種族ではなく、共に歩む存在だとお互いに認め合う事が私の目標です」
予想通り、コーマックは口元を痙攣させて難色を示す。ルーナは私がそう言う考えを持っていると理解しているが、行動を起こす事に賛辞の目を向けて来た。
コリンは色々と混乱しているが、シャッターを押す手を緩めない。
「ハーマイオニー……、貴女に知らない事などないだろう。魔法省が秘匿する資料に全て目を通したならば確実に……、『屋敷しもべ妖精』は魔法族とは違う基準の魔法を使う種族だ。魔法使いが杖の術を得た後、様々な種族と争いになった。彼らは魔法族に対し、服従を示す事で戦いを放棄したんだ。無駄な血を流さない為の無血条約だった。どんなに理不尽に扱われても、彼らが反旗を翻さなかったのは戦いになれば、あちらが必ず勝つ。そして、魔法族はその報復の為に彼らを全滅させるとわかっているからだ。違うかな、ハーマイオニー?」
この事実を知るのは『魔法生物規制管理部』の『屋敷しもべ妖精転勤室』に配属され、尚且つ、その部署にしかない資料を読んだ者だけだ。
「ええ……それを知るのはほんの一握りだわ。だから、まずは意識改革から始めます。『魔法史』の授業へ取り入れです」
強引な改革は反発を生む。私はそれを知っている。だから、時間がかかっても魔法界へ浸透させる。私の代では終わらないだろう。後に続いて貰えるように解放の意味を教えていこう。
「……俺よりも難題に挑むな……羨ましいよ」
困ったように笑うコーマックは一応の理解を示してくれた。
「いいえ、私は貴方を尊敬するわ。コーマック」
私の本心にコーマックは賛辞として受け入れ、何度も押し問答を繰り返した。
解散の折、彼から個人的な質問がひとつだけあった。
「クローディアは幸せか?」
「ええ、とても」
その質問こそ、本題であるように首相は満足していた。
魔法省に戻れば、懐かしい顔を見る。元『偽の防衛呪文ならびに保護器具の発見ならびに没収局』の局長だったクララ=ディゴリー、その娘ハリエット=M=ディゴリーだ。
「クララ、久しぶり。どうしたの? 魔法省に来るなんて」
「ちょっと野暮用でね。魔法省大臣に会えるなんて、ラッキーだわ」
親しい態度で挨拶した私にクララは同様も態度で返したが、ハリエットは恐縮した。
「お、お母さん……大臣になんて態度を……」
「いいのよ、ハリエット。私は今、休憩中だし、クララはお友達よ」
更に恐縮し、ハリエットは畏まってしまった。
「すぐにわかるだろうから、言っておくわ。この子、ダームストラングへ入学するわ。私達もブルガリアへ住むのよ」
とてもめでたい話だ。
「エイモスがよく許したわね」
「許してないわよ、けど……夫もブルガリアでの勤務が決まったから、反対しても無駄なのよ」
忍び笑いを見せるクララに舅との気苦労が窺い知れる。ハリエットもそっと目を逸らした。
「ダームストラングへ行ったら、どんな授業だったか教えて貰えうかしら? 是非、参考にしたいわ」
「はい……じゃなくて……わかったわ、ハーマイオニーおばさん」
必死に笑みを繕うハリエットへ私は無理なお願いをしたとちょっとだけ反省した。
独占インタビューの載った【ザ・クィブラー】は発売日と同時に完売し、増刷を求めた抗議のフクロウ便がゼノを襲った。
これを機に彼は編集長を引退。ルーナが全てを引き継いだ。責任ある立場に立ち、父親の苦労が身に沁みてわかったそうだ。
私を含め、多くの人から事業拡大を望まれたが、ルーナは父親と同じ自分の意見を伝えたい人の為という形を貫いた。
その活動は魔法界に認められ、この時代の愛読雑誌として後世に名を残した。
『屋敷妖精』の解放。
省内にハリーを始めとした賛同者はいたものの、想定以上に難航した。特に『屋敷妖精』を家に持つ魔法族の家庭から解任を要求する声は何度もあった。
だが、『屋敷妖精』側からの心強い味方がいてくれた。
理不尽な扱いから解放された経験を持つトビー、選択を求められたクリーチャー、そして、無理やり解雇さられた為に大切な主を失ったウィンキー。彼らが中心となり、同族を説得してくれたのだ。
無論、反発はあったが、それ以上に若い世代の順応が早かった。彼のシリウス=ブラックに倣い『屋敷妖精』へと選択させた。その結果、仕え続けた者はいたが、自由を掴んだ者も確かにいた。
私が退任した日。
ホールの噴水にある像へ『屋敷妖精』が足されていた。
「彼らからの感謝の気持ちです」
元上級補佐官であり、現魔法省大臣ローカン=スキャマンダーは悪戯が成功したように微笑む。本格的な改革にはまだまだ程遠いが、目に見える形となり私は心底、嬉しい。
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箒やドラゴンで空を飛べるが、観覧車で一周する高揚感やジェットコースターならではの浮遊感を楽しめる。しかし、何も寒波の真っ最中に行列を作ってまで乗りたくない。
「いつ来ても、人が多い……。……あちらに去年はなかった物が……」
人混みに不満そうな顔をしつつも、ヘレナはマーケットを漂う。幽霊である彼女はマグルに視えないが、スクイブかそれとも霊感のある人間がいるらしく、時折、驚いて腰を抜かす人を見かけるのだ。
今日はまだヘレナを見て驚く人はいない。
「初めて来たけど、すごいじゃないか! こんなに立派な設備を数か月で撤去してしまうなんて勿体無いよ」
代わりにセドリックが興奮し、目を輝かせて絶賛する。この巨大遊園地へ来たのは彼の提案だ。
私の息子・史英ことウォーリー、ハリーの息子アルバス、ロンの娘ローズへ成人祝いだ。3人の誕生日は既に過ぎているが、セドリックは是非にと誘われたので有り難く受けた。
「期間限定だから、しょうがないさ。セドリック」
電飾に彩られた周囲を見渡しながら、私はチュロスを齧る。手袋をしたままでは食べにくい。
「クローディア、手袋なんてして暑くないの? 今日はそこまで寒くないだろう?」
「……私もそう思っていたところさ、ロン。皆は何処行った?」
遊園地の敷地内に着いた途端、勝手に解散して各々好きな場所へ行ってしまった。
私達3人、否4人はとりあえず、空腹を満たしにフードコートをうろつく。
「ジョージはフレッドとマーケットを制覇するとか言ったきり、ありゃあ当分、戻ってこないな。子供達なら、さっきローラーコースターに並んでいるのを見たよ。ヒューゴも連れてくれば良かったのに……、折角のローズのお祝いがハリエットのお守りに……」
流石はロン、何処で誰が何をしているかきちんと把握している。彼に来て貰えて本当に良かった。
「こんな良き日に小言とはな、ウィーズリー?」
唐突に聞こえた声。
驚いて私達が振り返るとドラコ=マルフォイがその息子スコーピウスと一緒にいた。
「ドラコ=マルフォイ! スコーピウスを連れて来てくれたんだね!」
「お誘いを感謝する。セドリック=ディゴリー、スコーピウスにマグルの遊覧施設を経験させるなど、私にはない発想だ」
「セドリック!? マルフォイも誘ってたの!?」
親しげに握手を交わすセドリックとドラコを見て、ロンは驚愕して叫んだ。
「スコーピウス、久しぶり。相変わらず、お父さんソックリの顔……けど、中身は違うって言われるだろ?」
「はい、よく言われます。アルバス達はもう遊んでいますか?」
丁寧に1人1人へと挨拶し、スコーピウスは周囲を見渡してアルバスを探す。
「クローディア、知ってたの!?」
知らなかったが、ここは来たい者が来れる遊園地。魔法族のマルフォイ家が来ても不思議はない。ただ、少しだけ吃驚した。しかし、高級そうな防寒具が一般人とはかけ離れた雰囲気を醸し出す。
「ちょっと目立つよ、それさ。マグルの世界に明るいんじゃなかった?」
「父上に比べれば……という事ならば明るいとも。こういう場所には不慣れでね、大体はセオドールに任せている。……そうか、あいつに助言を求めれば良かったか……」
「父さん、僕はアルバスの意見を聞こうって言ったはずなんですけどね」
呆れたスコーピウスにドラコは殊更、おかしそうに微笑んだ。
「ヘレナ、案内してあげて」
私に頼まれ、ヘレナは渋々スコーピウスをアルバス達のいる行列へと連れて行った。
「ところで、入りはしたが遊び方がわからない。ご教授願えるかな?」
「おまえがちゃんと入れた事が奇跡だよ。……しょうがないなあ、僕らから離れるなよ」
「この面子で出歩くのって、初めてだ。すごくワクワクしてきた。写真撮っていい? 友達からデジカメを貰ったんだ。ロン、マグルに詳しいから使えるよね?」
純粋に問うセドリックへロンは期待に答えようと、初めて触る機種に戸惑う。それをドラコは忍び笑いで眺めた。
「私が使うのと同じメーカーだな。ロンが良ければ、私に使わせて貰えないか?」
親しみの籠った邪悪な笑顔、ロンが悔しそうにドラコへ差し出した。
「私はここで待っている」
奇妙な組み合わせの3人を眺め、私はそう叫ぶ。ロンは手を振って答えた。
適当なベンチに腰掛け、私は食べかけのチュロスを食べ切った。
すっかりっと恒例になった遊園地。
私はしばらく、ここには来られない。だから、この光景を写真や映像ではなく目に焼き付けておきたい。
「お独りですか? マダム。一緒にホットワインはいかが?」
独り、ヘレナも離れて本当に独りだと実感した。
「残念だが、家族と来ています」
私は出来るだけ、愛想よく笑い左手の薬指を見せる。しかし、その相手を目にして一瞬、我が目を疑った。
「ロジャー=ディビーズ……!」
最後に見た時はセドリックとクララの結婚式。参列していたミム=フォーセットから、ロジャーはマグルの世界に進み、マグルの教師になったという話を聞いた。
「本当に久しぶり……懐かしいくらい……え? ひょっとして毎年此処にいた?」
「君、毎年ここに来ているの? それは知らなかった。去年、初めて来たけど会わなかったよ」
整った顔つきはより精悍さを増し、人当たりの良い性格が滲み出ている。
「今日、来たのはセドリックから聞いてね。……噂で聞いただけだが、君が長い旅に出ると……。その前にどうしても一度、会いたかった」
隣に座ったロジャーは沈痛な表情で私を見やる。魔法界の噂とは情報の正確さはともかく、拡散が早い。
クラウチJr.を探す旅。私に逮捕の権限はないが貢献は出来る。何年かかろうとも、必ず追い詰めるのだ。かつて、1人の男に同じ誓いを立てたが果たせなかった。
今度こそ、成し遂げなければならない。長い旅といえば、確かにそう言えるだろう。
彼は私の身を案じ、直接、会おうと思ったのだろう。
「ああ、そうさ。息子も成人したし、夫も理解してくれた。ヘレナも一緒に憑いて来てくれる。何の問題もない」
その為に皆の協力を得ながら、着々と準備を進めて来た。
「君が危険に晒される。それが問題だ……けど、君は行くんだろう」
言葉以上に籠った決意を沈黙で答えた。
知らずと私は拳を握る力が強くなる。その手にロジャーはそっと手を添えた。
「クローディア……どうか……良い旅路があらん事を」
旅の無事を祈っているようで永遠の別れを覚悟するような想いを感じ取る。私に言えたのはその気持ちへの感謝の言葉だけだ。
ロジャーと飲んだホットワインは暖かいが、門出には持って来いの味だった。
グリモールド・プレイス十二番地にあるポッター家。
この屋敷で目を覚ますのは何度目になるだろう。そんな感傷に浸りながら、荷物を漁る。普段は実家の神棚に飾られたバジリスクの牙、それを加工した短剣だ。
私は今日、発つつもりだ。その前に短剣を史英に渡したい。彼はずっと欲しがっていた。成人の誕生日に贈ろうとしたが、ジョージに「物騒だ!」阻止された。
これまでも渡し方を変えようとしたが、いつも夫に先回りされる。
おそらく、旅に持って行けと言いたいのだろう。
「旅立つ人からの餞別にしては物騒だと私も思います」
ヘレナにまで反対され、私は苦笑する。
まだ寝台で鼾を掻くジョージを尻目に短剣を指先で弄びながら、厨房へ降りる。まだ太陽も出ぬ時間、誰もいない。冷蔵庫から冷えたカボチャジュースを拝借した時、階段を降りて来る足音が聞こえた。
寝間着姿のアルバスだ。
「おばさん、どうしてここに?」
「こっちの台詞なんだけどさ……ちょっと飲み物をね……」
カボチャジュースを勧め、アルバスも飲む。彼はハリーによく似ている。見目も性格もだ。穏やかで控え目だが、好奇心もあり時に大切な人の為ならば大胆な行動を取れる。それで史英は何度も救われた。
史英はまるで週刊少年漫画のように戦いに明け暮れ、疲労困憊で帰宅した事が何度もある。心が荒んでいく様子が手に取るようにわかった。
反抗期というより、反逆の意思で対立した事もあった。
そんな史英の心をアルバスは枯れ果てた大地へ水を捧げように、潤わせてくれた。
不意に記憶が刺激され、蘇る。
この場所でシリウスは『不死鳥の騎士団』創設メンバーの写真を託した。きっと、今の私のような気持だったのかもしれない。否、違う気がしてきた。もう随分と昔の話故、記憶の食い違いもあるだろう。
ともあれ、彼に倣うとしよう。
「アルバス、見せたい物がある」
声をかけられたアルバスは素直にカップを置き姿勢を正す。年長者の話を聞く態度になる。彼の目の前に短剣を置いた。
「神棚に飾ってある……ええと何とかの牙」
「その通り、これはバジリスクの牙さ。サラザール=スリザリンがホグワーツ城に『秘密の部屋』へ封じ込め、トム=リドルが『嘆きのマートル』を殺させ、私とハーマイオニーを含めた生徒を石化させた。それをハリーがグリフィンドールの剣で倒した。そのバジリスクの牙をセシルが剣にしてくれた」
私は主観で剣の謂れを話す。
ヴォルデモートの忠実な部下だったクィリナス=クィレルに止めを刺した部分も隠さず、話した。
何かに憐れむような切ない表情で、アルバスは短剣に見入った。
「これを……ウォーリーに渡して欲しい。渡すべき時はアルバスに任せる」
唐突な願いに彼は当然のように変な声を上げ、聞き返してきた。
「ぼ……僕がですか? けど、おばさんから渡した方が……」
「私は親馬鹿だからさ、渡す時期を間違えるかもしれない。だから、アルバスに頼りたい」
指先で短剣を押し、アルバスが受け取ってくれるのを待つ。彼は私と短剣を交互に見つめて感慨深く受け取った。
「……僕、ハリエットが好きです。この気持ちを伝えます」
意外な告白の決意を聞かされ、私は驚きよりも嬉しさが増す。ハリエットは贔屓目にみてもとても良い子だ。
「それはとても素敵な事だ」
私の率直な感想にアルバスは照れくさそうに笑った。
部屋に戻り、身支度を整える。ハーマイオニーが選別してくれた旅の必需品が入った鞄は傍から見れば、ただの旅行鞄だ。
「準備はいい?」
寂しげに眉を寄せ、ジョージは微笑む。
「勿論さ」
夫に手を引かれ、廊下へ出ればまだ寝間着姿のジニーがいる。
「朝食は食べて行かないのね。今朝は私が当番なのよ」
「魔女の旅立ちは夜明け前が良いのさ、ジニーの手料理は次の機会に取っておく」
不服そうな顔をしたジニーと別れの抱擁を交わした。
玄関の戸を開ける前に階段を見上げる。子供達はまだ眠っている。アルバスは起きているかもしれないが、見送らないほうが良いと判断したのだろう。
ハリーとハーマイオニーは魔法省で急ぎの案件があり、徹夜中。ロンはすぐに会えるから見送らないと来たもんだ。
寂しくないと言えば、嘘になる。
扉の向こうは冷たい風が容赦なく肌を襲う。雪の積った道路はハグリッドがヒッポグリフのバックビークを連れていた。
「ありがとう、ハグリッド」
「良いんだ、バックビークも歳だからなあ。最近は運動不足でいけねえ。ホグワーツは狭すぎるみてえだ。だから、好きに飛ばしてやってくれ」
ハグリッドも知らなかったが、晩年のヒッポグリフは己の最期に相応しい場所を求めて飛ぶのだそうだ。私と共に世界を駆け、その果てがホグワーツかもしれない。そうなればいいと優しき半巨人は思っているのだろう。
「バックビーク、これからよろしく」
旅の共になるバックビークへお辞儀し、私が危険ではなく友好的だと知らしめる。値踏みするような視線を受けたが、老いても気高い背を向けてくれた。
遠慮なく跨り、手綱を握った。
「行ってきます」
飛行用ゴーグルをかけて皆に手を振る。玄関から見送るジョージとジニー、目の前のハグリッド。視界の隅で窓を意識すれば、ジェームズとアルバスとリリー、そして史英がこちらを見ていた。
「行こう、バックビーク!」
バックビークの呼吸を聞き、飛べる感覚に合わせて手綱を引く。見事な羽根を広げ、蹄で地面を蹴った。
ひとつ羽ばたく毎に空が近づき、街の灯火が離れていく。気づけば、追いかけて来る気配を感じた。
振り返った時、私達は箒に乗った魔法使いに追い抜かれた。
並の箒ではバックビークに追いつけない。そう、電光石火の如き箒『ファイアボルト』でもなければ不可能だ。
「ハリー!」
乗り手のハリーは悪戯が成功したように笑い、私の後ろを指差す。もう一度振り返れば、トルコ石色の空飛ぶ車が壊れそうなエンジン音を立てて追いかけて来る。ロンとハーマイオニーが窓から手を振ってきた。
こんな見送りの仕方に感極まり、目に涙が溜まる。
地平線の向こうから朝日が昇って来る。いよいよ雲へ突入となった時、ハリーは速度を緩めて空中で静止した。彼らとは此処でお別れだ。
雲を突き抜けた先で私を見送る視線も完全に消えた。
「こういうのを粋って奴なんでしょうね」
翼の音が規則正しくなってきた頃、ヘレナは見送ってくれた人々への称賛を込めた。
「成し遂げて帰ろう、ヘレナ」
一先ずは最後にクラウチJr.の目撃情報があったルーマニアを目指した。
――私が如何にして旅を終えたかは【ザ・クィブラー】にて語るとしよう――
噴水の像は勝手に想像しました。
原作8巻にて厨房はハリーが使うとあり、フリルの着いたエプロン姿を勝手に想像しました(すみません)。彼の作る料理は美味しいに決まっている(確信)。
ドラコがスマホやデジカメラを使うのは、とある用事で街を歩いた際に街頭TVで本物の呪いの道具をマグルが所有し、骨董品だと紹介している番組を発見した為です。番組を視聴するために購入し、インターネットで探すようになりました(現地に行って調べるのはセオドールとピッパ)。
『屋敷しもべ妖精』が魔法族に服従する理由は勝手に推測しました。映画で公式に説明されたら、修正します。
ハーマイオニーの後、魔法省になるのは誰かと考えたら、スキャマンダーの双子だと勝手に希望しました。
ヒッポグリフが最期の場所を求めるのも、勝手な付け足しです。
●ペネロピー=クリアウォーター
原作2巻にて石化された監督生。後にパーシーと交際し、卒業と共に終わった。
コーマックの秘書である。
●ハリエット=マートル=ディゴリー
史英より3歳下、ハーマイオニーをおばさまと呼んで慕う。ダームストラング専門学校へ入学。アルバスとの関係は皆さんの想像にお任せします。
名付け親ビクトール=クラム。
●セドリック=ディゴリー
原作4巻にて死亡。
ビクトールの勧めとハリエットの意志を汲み、家族でブルガリアへ移住する。実家(主に父)からの干渉が減り、クララが元気になった為、良い判断だったと痛感する。
●ロジャー=ディビーズ
原作3巻の「ディビーズ」は彼の事だと思う。フラー=デラクールがダンスの相手と認めるイケメン。その後、彼がいろんな女子にアプローチしだしたのはこれがきっかけだったかもしれないと最近思います。
●ミム=フォーセット
原作4巻にて、年齢線を越えてお婆ちゃんにされた女子生徒。
きっと元気にやっている。
「こうして、私達は出会う」は完結です。
こんな勝手な改変をしたお話でしたが、ここまで閲覧して下さり本当にありがとうございます(土下座)。