こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

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閲覧ありがとうございます。
次世代である子供たちとネビルの視点で切り替わります。話の中で時間軸が前後いたします。

追記:19年9月29日、誤字報告により修正しました。


ザ・クィブラー
時の流れは早い


 7月に入り、私はそわそわと落ち着けない。昼も夜も窓から外を窺い、外出先でも鳥の羽ばたく音に過敏なまでに反応した。

 とっくに就寝時間だが、私は客人であるリリーの寝息をしっかり確かめて部屋から抜け出す。大人達に気付かれぬように足音を殺して屋根へ上がった。

「ドリス。そんなに待たなくたって、手紙は来るって」

「……ジェームズ……、男同士で遊んでなさいよ」

 同い年のジェームズは2人の兄以上に私へ構いたがる。彼は不満を聞かず、勝手に隣へ座り込んだ。

「アルバスがお眠になっちまったから、僕も寝るしかねえだろ」

 アルバスとリリーの兄であるジェームズは粗野で意地悪だが、嫌いではない。上の兄エドワードとは違うが、時折、兄としての態度を見せる。そこに惹かれてしまうのだ。

「私は貴方みたいに呑気じゃないのよ。同じ名前のドリス=クロックフォード、その人はホグワーツに行けなかったって聞いたわ」

「だから、それは魔法学校に行くだけが道じゃないって、ローカンとライサイダーがおまえを励ましているんだってば」

 スキャマンダーの双子はいつもわかりにくく、遠回しに激励する為に何度も解釈違いしては喧嘩になる。ジェームズも双子とは意思疎通が難しく、今の解釈は彼の父ハリーによるものだ。

「ルーナおばさまが一番、話が通じるわ」

「ええ……僕はあの人のほうが話通じねえわ」

 ジェームズは身震いして屋根に寝そべった。

「僕らがどの寮に入るか、考えない? 僕は絶対、グリフィンドール!」

「……貴方、いつもそれじゃない。私もお父さんと同じ寮がいいけど……、……ヘレナは絶対、レイブンクロー寮に入れって言うし……」

 ヘレナの名を聞き、ジェームズはげんなりする。

「クローディアおばさんに憑依いている幽霊の話はやめろ」

「ジェームズ! ヘレナは魔法省から許可を貰っているわ。そんな言い方したら、ハーマイオニーおばさまになんて言われるか……」

 2人でハーマイオニーから折檻された瞬間を思い返し、震え上った瞬間。

 微かな羽ばたきの音を耳にした。

 パサリッと手紙が二通、落ちて来た。

 年季の入った厚手の封筒、ホグワーツの印を押されてた封蝋。

「ジェームズ! ほら、ライアルに来た手紙と同じよ!」

 喜びのあまり、私はジェームズに抱き付く。下からひょっこりとエドワードが上がってきた。

「ママが帰ってくるよ。急いで部屋に戻るんだ。またクラウチJr.を取り逃がしたらしい。凄まじくご機嫌だって」

 機嫌の悪いお母さんは夜更かしを許さない。

 けど私は浮かれて寝室に戻らず、大人達のいる居間へと突入した。

「お父さん! 見てみて、ついに来たのよ!」

 父リーマスはシリウス、そしてジェームズの父ハリーと共に【日刊預言者新聞】を広げ、【コーマック=マクラーゲン、マグル首相に就任】の一面記事を眺めていた。

「まだ寝ていなかったのか、悪い子め」

 私を抱き上げて、お父さんは自分と同じ鳶色の髪を撫でる。温厚な口調に叱りの意味はない。

「ジェームズも一緒か、流石はホグワーツ」

 ハリーはジェームズから封筒を受け取り、意味深に笑う。

「これで、ドーラも機嫌も一っ飛びだ」

 快活にシリウスが笑った時、ぞろぞろと小さな足音が聞こえる。アルバスとリリーを連れたライアルまで来た。

「うるさいんだよ。テディもこの馬鹿妹になんか言ってくれ」

 名付け親のアラスター=ムーディに似せた態度でライアルは2人をハリーに渡し、ソファーへ座った。テディの愛称で呼ばれ、エドワードはやれやれと肩を竦めた。

「それなあに?」

 ハリーに抱きあげられたリリーはふたつの封筒を指差し、問う。私達は目配せする。ジェームズは先に開けるように促してくれた。

【『アロンダイト宅』。ドリス=アイリーン=ルーピン様】

 重みのある封筒を慎重に開き、緊張に煩い心臓の脈拍を感じながら読み上げた。

「親愛なるルーピン殿。この度、ホグワーツ魔法魔術学校にめでたく入学を許可されましたこと……(以下省略) 教頭チャリティ=バーベッジ」

 読み終え、私は興奮と感動で高ぶる。両親とその親友達、兄達が入学したホグワーツに行ける実感が視神経に伝わった。

「セブルスにも伝えないとね」

 リーマスに髪を撫でられ、我に返る。そう、私の名付け親に知らせなければならない。

「僕はジョージに知らせるよ。向こうは昼のはずだ」

「一緒に話していい?」

 ウェットポーチから平べったい硬質な板を取り出したハリーに着いて、エドワードも庭へ出る。信じられないが、それはマグルの通信機器であり、日本にいるジョージと瞬時に連絡が取れるという。

 ジェームズの祖父アーサーが一度、勝手に解体を試みて大惨事になり、四方から叱責を食らったのは記憶に新しい。

「お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの家にも、電話があればいいのに」

 祖父母であるテッドとアンドロメダの家には、マグルの家電がない。せめて、『両面鏡』が欲しいのだが、魔法界でも希少な品故に入手は難しいのだ。

 以前、居間にテッドの肖像画を飾っていたけど、過干渉過ぎて母ニンファドーラが外した事を私は知らない。

「ねえ、シリウスおじさん。ウォーリーは魔法学校をどうするの? 僕と一緒に行けるかな?」

 アルバスは不安げにシリウスへ問う。彼はウォーリーと仲が良い。彼の従姉妹のローズが嫉妬する程だ。

 私は正直、あの性格は苦手な部類。しかも、ウォーリーは家出騒動まで起こした。一晩で帰って来たかと思えば、エドワードに対して爆発しろなどと言った。

 シリウスはアルバスの視線に合わせる為に屈み、その頬を両手で優しく包んだ。

「前にも言ったが、クローディアは有無を言わさず、ホグワーツに入れられて日本の友達と離れた。だから、ウォーリーにはちゃんと話して、決めて貰うんだ。あの子がどちらを選んでも、アルバスは好きでいてくれるだろう?」

「うん、僕、ウォーリーが好きだよ」

 下がいないドリスにとって、アルバスは可愛い弟同然。そんな彼がそこまで言うなら、ウォーリーの入学も認めて上げよう。もっとも、それは彼が入学を受け入れればの話である。

 

☈☈☈☈☈☈☈☈

 国際空港にて、俺は幼馴染の田沢一を見送りに来た。

 俺だけでなく、同じ小学校のクラスメイト全員に担任の玉城先生、町内会の佐川会長、田沢の親戚一同(流石に院長先生までは来れなかった)。

「黒い先生に迷惑かけるんじゃないぞ」

「はいっ!」

 黒い先生とはお祖母ちゃんの再婚相手・シリウスを示している。ちなみに親父は赤い先生だ。別に何かの先生ではない。曾祖父ちゃんが医者だった頃の名残だ。

 2人とも先生どころか、京都で『W・W・W2号店』を経営している商売人だ。

 ここから京都へ通勤とか、正気ではない。ここは我が身内ながら、感心する。俺は絶対に継がないけどな。

 気付けば、年寄り達は勝手に2人を区別してそう呼ぶ。曾祖父ちゃんの「ご隠居」よりマシかな。いつの時代劇だ。

「史ちゃん、僕、史ちゃんの分まで頑張るよ」

「おー、俺達一二三コンビは国が離れても、不滅だ」

 信じられんかもしれんが、俺・史英(ふみひで)と一(はじめ)は魔法使いだ。とくに田沢家は魔法族でありながら、魔力を持たない『スクイブ』と呼ばれる部類だった故、数世代ぶりの魔法使いの誕生に大いに湧いたそうだ。

 一二三コンビとは、俺の史を二三に変え、一と並んでそう名称付けた。俺達は物心ついた時には、魔法族の歴史や因果関係を教え込まれた。ついでにイギリス英語もだ。

 従兄弟達へ会いに行く口実にイギリスへ行く機会も度々あった。その逆も然りだ。

 俺は親父に生き写しだが、髪は黒い。血統に従った魔法もある。

 

 ――いずれ、ホグワーツ魔法魔術学校に通う。

 

 そんな周囲の期待に俺はストレスを感じ、ついに限界を迎えてイギリス在中に家出した。

 『漏れ鍋』の厨房に引きこもり、店主のハンナさんを困らせた。そこを助けてくれたのはドラコ=マルフォイ。親父とクリスマスカードのやりとりをしていたから、名前は知っていたが初対面だ。

 それなのにアーサーじいちゃんに話しをつけ、お屋敷に匿ってくれた。

 奥さんのアステリアさんは滅茶苦茶美人で、息子のスコーピウスはドラコさんに生き写しだ。

 客として来ていたフィリッパ=ムーンは俺の初恋。残念ながら、彼女はドリスの兄貴テディにメロメロだった。 

 起きている間は楽しかったが、寝室の豪華さに圧倒されて俺は瞬時に根を上げた。

「マルフォイさんも俺がホグワーツに行くべきだと思いますか?」

 フレッドおじさんに迎えに来て貰い、俺は別れ際にそう問う。ドラコさんはわざわざ俺まで視線を合わせ、耳打ちした。

「私にはダームストラング専門学校に行く話もあったよ」

 魔法学校はひとつでない。

 俺はこの時まで、日本にも魔法学校がある可能性すら考えず、そして、両親からホグワーツを勧める話がないという事実にも気付いた。

 テディに「イケメンは爆発しろ」と言ってやるのも忘れず、ドリスにはブチ切れられた。アルバスは「君もイケメンだよ」と言ってくれる天使だ。

 

 ジェームズとドリスの入学が決まった年、俺は意を決して両親に問うた。

「俺はホグワーツに行くべきかな?」

 幽霊のヘレナが言いたげに百面相をしたが、お袋は必死に止めた。

 親父はホグワーツ行きを決めれば、シリウスを後見人にし、夏と冬の休暇は日本へ帰れるように手続きする。日本で学ぶなら、こちらの魔法学校か、そのまま中学校へ進学するかを改めて選択する。そんな説明を丁寧にしてくれた。

「……俺が中学校に行きたいって言ったら?」

「わしの伝手で、魔法使いの講師を雇ってやろう!」

 襖をスパーンッと開けた曾祖父ちゃんがアロハシャツ姿で現れる。俺が小学校に入学した後、両親の後輩が結婚するというのでイギリスに着いて行ったが、そこで話せば長い話により、そのまま世界旅行へ旅立ったそうだ。

 それなりに心配はしていたが、やっぱり元気だった。

「3年も何処をフラフラしてやがった! 何度、『吠えメール』を送ったと思う! 返事くらい、寄こせ!」

「スリル満点の逸話があってな、話はまたの機会にしよう」

 ブチ切れたお袋を宥め、俺の話は流された。

 

 

 ホグワーツから入学許可証が来て俺は断わり、一は行くと決めた。

 俺が心配で日本に来てくれた名付け親のディーン=トーマスおじさんは最後まで俺の意見に反対した。

 その後の騒動を思い返し、俺が溜息を吐いた瞬間、ちょうど、搭乗手続きに行っていたシリウスが誰かを連れて戻ってきた。

「コリン=クリービーだ。私の知り合いでね、そこで一緒になった。ちょうど、同じ便なんだ」

「ハジメマシテ、コリンです」

 片言の日本語で挨拶され、クラスメイトはざわめいた。

「え? ノーベル平和受賞者の?」

「戦場カメラマン」

 俺もこの前、TVで見た有名人だ。一の奴、ただでさえ緊張しているのに更に悪化した。

「じゃあな、一。向こうでカルチャーショックに気を付けろ。胃薬は持ったか? 杖はロンおじさんが売ってくれるから、ロンおじさん覚えているだろ?」

「うん、うん。電話する」

 首振り人形のようにカクンカクンッと痙攣し、一はシリウス達と搭乗口へ向かう。飛行機が飛び立つ瞬間まで見送ろうと、はしゃぎ気味の皆から少し離れた。

 踊るようなステップを踏みながら、俺の魔法使いの講師がやってきたからだ。

 曾祖父ちゃんが2年かけて説得し、引き受けて貰ったのを承知で言うなら、すごく胡散臭い。極寒の地で何十年と引きこもりだったくせに、ネットのように様々な蘊蓄と共に最新情報を知りえている。俺が一度、冗談で「師匠」と呼んだら、響きを気に入って呼び方を強要された。

「お師匠さまー、トイレ長いですって。一、もう飛行機乗っちまいましたよ」

〔さっき、トイレに並んでいたら、何があったと思う?〕

 こちらが日本語で語りかけても、師匠は遠慮なく英語で返す。

〔有名人にでも会ったんですか?〕

 仕方なく、英語で返す。

〔女子高生にデップに似てるって言われちゃった♪〕

「うっそ、マジ、有名人!」

 言われてみれば、映画雑誌やTVでしか知らないデップに師匠は似ている。ただ、彼の見た目は親父と同じくらいに若い。

「お師匠さまは曾祖父ちゃんの知り合いなんしょ? いくつ?」

 不適な笑みを浮かべ、師匠は懐から見慣れた模様のペンダントを取り出す。【吟遊詩人ビートルの物語】に悪戯書きされた印。母曰く、ペベレル3兄弟の『死の秘宝』を意味するそうだ。

「これを渡せるまでになったら、教えてやる」

「いらない」

 師匠の流暢な日本語に即答しても、無邪気な笑みを返された。

 どうせなら、神棚に飾っている短剣が良い。バジリスクという魔法生物の牙で出来ていると、ヘレナはよく話してくれる。

 お袋の指輪か、お祖母ちゃんが鍵に付けてるキーホルダーもありだ。宝石やアクセサリーに興味はないが、妙に惹かれるのだ。

「ほら、飛行機が飛ぶぞ」

 師匠はチリンッとペンダントが鎖に当たり、音を奏でる。

 それが俺、ウォーリー=ウォルト=ウィーズリーの波乱万丈な人生の開幕のベルになろうとは、誰1人知る由もなかった。

 

☈☈☈☈☈☈☈☈

 大木を削った屋敷に若きマルフォイ夫婦は住む。私は門代わりの蛇に挨拶して正面口の門を叩く。礼儀を重んじて打てば、扉は勝手に開いて私を招いてくれるのだ。

 屋敷の見た目とは違い、内装はまさに高級な調度品と家具が規則正しく配置され、気品と寛容さが滲み出ている。

 出迎えてくれたドラコ=マルフォイへ恭しく頭を下げる。

「ご無沙汰しております、おじさま」

「ピッパ、吉報だろうね。言うまでもないが」

 勿論、おじさまの期待通りである。

 客間に通され、高級なテーブルには使い終えたテーカップが置かれており、先程までの客人の存在を教える。

「ルーナが来ていたんだ」

「まあ、ルーナおばさま! もっと、急げばよかった!」

 あの方はいつも私にはない発想力で楽しませてくれるから、大好き。

 おばさまから暖かい紅茶を注がれる。私はベルトバックから包みを取り出す。高級な机に置き、保護魔法がかかった手袋を嵌めてから、包みを開いた。

 呪いのネックレス。

 かつて、ホグワーツにてケイティ=ベルという女子生徒を殺しかけた呪いの品。翌年の騒動で行方をくらまし、おじさまはマグルの世界にまで足を運んで探し続けた。

 父セオドールが競売で発見したが、あと一歩で競り負けた。それを私がギリギリ合法な手段で入手した。

 おじさまは感慨深く見つめ、懐からルーン文字が刻まれた布を取り出す。布は勝手に動き出し、ネックレスを覆う。すると何処からともなく鎖が現れてグルグル巻きになった。

「ようやく、肩の荷が下りた」

 椅子に深くもたれ、おじさまはおばさまの手を取る。言葉の意味は追及せず、私は一仕事終えた達成感に浸る。

「スコーピウスは、お部屋ですか?」

「あの子はホグワーツです」

 おばさまに言われるまで、その時期だとすっかり忘れていた。

 エドワード=ルーピンことテディを追いかけていた日々が懐かしい。ついでに永遠の宿敵であるビクトワール=ウィーズリーもだ。私は父の仕事を手伝う為に5年生で辞めたけど、学校での授業は充分に活かせているつもりだ。

「見送りもできませんでしたわ。今度、お祝を贈ります」

「ありがとう、ピッパ。スコーピウスは貴女の選んでくれる物なら、なんでも好きよ」

 一人っ子である私達はお互いを姉と弟のように親しみ合い、喧嘩もした。

「そういえば、あの子……えっと、フレッド=ウィーズリーの息子だったかしら?」

「ジュリアス=ウィーズリー?」

 おじさまの答えを否定する。そんな響きはでない。

「スコーピウスと同じ歳の……」

「それなら、ウォーリー=ウィーズリーだ。彼はマグルの世界で生きるそうだよ。魔法の勉強は個人で講師を招くとか」

 ウォーリー、その名だ。

「へえ、すごい決断ですね。私には真似できません」

「ああ、そうだ。けど、彼女の息子らしいよ」

 おじさまは嬉しそうに微笑む。きっとウォーリーの母親が好きなのだろう。そんな事をおばさまの前で指摘するつもりは微塵もない。

「ところで、おじさま」

 今回の仕事の報酬として望む情報。催促ははしたないが、せがんだ。

「わかっているよ。妻がどうやって『血の呪い』から解放されたか、だったね」

 おじさまは視線でおばさまに下がるように願うが、彼女は拒み。杖を振るい、ティーカップを3つに再び紅茶を入れ、熟れたマスカットが瞬時に現れた。

 おばさまの御先祖のお1人が受けた呪い、それは覚醒の如く表面化し、彼女は虚弱にされた。本当は出産さえも命と引き換えになるのではと危ぶまれていた。

 酒に酔った父からその話を聞かされ、私は大いに興味を注がれた。

「セブルスの手を借りた」

「……解放者セブルス?」

 おじさまと父の恩師にして、ホグワーツの元校長セブルス=スネイプ。近年、人狼への特効薬『解狼薬』を開発した。人狼の被害者やその家族から、感謝の意を込めて『解放者』と謳われているのだ。

 テディのお父様も被験体として貢献した為、よく知っている。

 感慨深く、私は身震いした。

「セブルス=スネイプはおばさまさえ、解放されたというのですか?」

「いいや、違う。セブルスは薬を持ってきただけだ。その魔法薬の存在を明かさないというのを条件に……。おそらく、セブルスさえ精製できぬ代物だろう」

 魔法界の希少な品。それは強力で打破できず、また再現できぬ物であればある程、価値がある。グリフィンドールの剣、呪いのネックレスも然り、私はその魔法薬が欲しいと心の底から思った。

 思わず、緩んだ口元が欲望を露にし、おじさまは咎める意味で咳払いした。

 私はすぐに普段の人の良い笑みを取り繕う。これ以上、おじさまは話さないと察した。

「もうお話は終わったかしら? それじゃあ、これを手に入れた経緯を聞かせて下さる?」

 おばさまの穏やかな笑みに私は承知した。

「競売場でマッド‐アイにお会いしまして……」

 

☈☈☈☈☈☈☈☈

 再建されたホグワーツに創設者の魔法は僅かだ。被害を免れた4つの寮、厨房、『必要の部屋』だけだ。他はマクゴナガルを中心とした教職員達、『不死鳥の騎士団』や勿論、『暗黒の森』の住人達の助言を受け、保護魔法をかけ直した。残念ながら、以前の悪戯めいた魔法の仕掛けは失われたままだ。

 今後を考え、『必要の部屋』は部屋の魔法を解かれる。その後の後片付けが大変な作業だった。

 『秘密の部屋』も完全に埋められ、長年放置されていたバジリスクの亡骸を陽の当たる校庭へ控え目な慰霊碑を建てて埋葬した。

 そして、私はルーナの案内を受け、『禁じられた廊下』を行く。

「うわーお、ここの空気、全然変わってないね。ネビル、違ったロングボトム先生」

「ネビルでいいよ。君の子供達の先生としているんじゃないから」

 私が就任してからも、『禁じられた廊下』へ生徒が無断で侵入を試みる。大体は最初の暗闇へ真っ逆さまに落ちる段階で大怪我し、慌てて助けを求める。ルーナの子供ローカンとライサイダーもそうだ。

 バーベッジ教頭はマグル・スポーツ区画にすればいいと提案し、理事会に認められた。

 危険な魔法が残っていないか、私達は調査しに来た。後続にはハグリッドとフリットウィックもいるし、万一に備えてグリフィンドールの剣も借りて来た。

 最奥の部屋まで来たが、拍子抜けする程に安全であった。

 クローディアとクィレルの決闘の地、何処となく、壁が焼けたように黒い。

 先行していたルーナが足を止め、瞬きせずに部屋を眺める。感傷に浸っているかと思い、私は警戒を怠らず散策した。

 靴が何かに触れた。

「……杖?」

 木の棒がと思えば、確かにそれは杖だ。

 しかも、傷一つない。

「……誰かの忘れ物?」

 などと呟きながら、私は迷わずグリフィンドールの剣で杖を突き刺す。木の枝が切れる感触を受け、杖は完全に壊れたとわかった。念の為、破片も魔法の炎で燃やした。

「どうしたの?」

 確認してくる口調に私は手ぶりで何もないと伝えた。

 再建されてからも誰も訪れなかった場所、少なくとも、僕はそう聞いている。だから、杖が落ちているならば、何らかの仕掛けを疑うべきだ。

「何もないね。これなら、生徒は使っても問題なさそうだ。クリーチャー達に掃除をお願いするよ」

「そう、良かった。場所は使われてこそだもン」

 ルーナは向日葵のように明るく元気になる笑顔を見せる。私は頷き、墨屑を背にして彼女と歩き出す。

「ハンナが【ザ・クィブラー】を楽しみにしていた。勿論、僕も来年の3月が待ち遠しい」

 そもそもルーナが私を訪ねたのは、来年発行予定の【ザ・クィブラー】の特集記事『20年後、風化はできぬ』のインタビューの為だ。

 魔法界の雑誌で掲載されたホグワーツの戦いは、参加もせずに惨状だけを見た人々からの憶測に過ぎない。ルーナは今こそ、伝えるべき時期だと当時の参戦者達に訴えた。

 インタビューに応じたハリーはリータ=スキータが記事を書かないのを条件にしたという。私はあの体験を口に出せなかったが、ようやく決心がついた。

「ありがとう、ネビル。けど、不思議ね。あたし、宣伝してないのにパパのところに予約が殺到してるんだって」

 おそらく、ルーナの夫ロルフの仕業だ。純粋に妻の偉業を1人でも多くに知らせようとしているだけだろうが、憶測の段階で勝手に言えない。

 新学期にはハリーの次男やロンの長女が来る。きっと、クローディアの長男も……。

「来ないよ」

 私の考えを読み取ったようにルーナは告げる。

「ウォーリーは来ない。ここだけが魔法を教えるんじゃないもん」

 後日、ルーナの予測は当たった。

 許可証の返事を見せてもらい、幼きながらもウォーリーの決意を感じ取る。彼の入学により、『灰色のレディ』が城に戻ると期待していた『血みどろ男爵』は心底、がっかりしていた。

「箒を返せる機会を逃しましたね」

 マダム・フーチも残念そう告げた。

「魔法を学ぶなら、ホグワーツが一番! けどな、来るか来ないかは生徒が決めるもんだ」

 ハグリッドの言う通りだ。

 そうして、迎えた新学期。

 来ない生徒よりも在校生の問題が山積みである。まさか、アルバス=ポッターがスリザリンに配されるとは思わず、全校生徒は動揺した。

 教職員も平静を装ったが、何も感じなかったわけではない。しかし、組分けには意味があり、どの寮に配されても生徒の扱いは変わらない。

 だが、アルバスへの興味本位な視線は止められない。私はそれを知っているが、彼を特別扱いできず、ただ『薬草学』の教授として接した。

 そして、待ち侘びた翌年の3月。予定通りに【ザ・クィブラー】は発行された。

 特集記事の内容は全校生徒が目を通し、感銘を受けた者もいれば、悲しみに涙した者もいた。元校長にして解放者であるセブルス=スネイプ、彼の身を最期の最後まで案じ続けたコンラッド=クロックフォード。

 ヴォルデモートを倒す上で忘れてはならないレギュラス=ブラックの失踪の真実。

 3人はスリザリン生であり、組分け帽子の歌にあるように目的を遂げる為ならば、どんな手段も用いた。改めて、私は彼らに敬意を抱いた。

 それはアルバスも同じだ。記事を読み、彼の心情と周囲の環境をほんの少しだけ、改善させられた。

 もしかしたら、ルーナの本当の目的はアルバスへの配慮だったのかもしれないと、私は思う。もっとも、問いただしたところで、彼女から望んだ解答は得られないだろう。

 【ザ・クィブラー】はこの号だけは完売しても再版せず、また購入者は決して手放さなかった為にある意味で幻の号となった。

 

 ――もしも、あなたがホグワーツを訪れたならば、図書館に寄るといいだろう。【ザ・クィブラー】は誰でも閲覧は可能だ。

 




閲覧ありがとうございます。

●ドリス=アイリーン=ルーピン
 ルーピン三兄妹の末っ子。ジェームズと同じ歳。最も父親の遺伝子が強い気丈な娘。
 名付け親セブルス=スネイプ
●エドワード=リーマス=ルーピン
 ルーピン三兄妹の長男、テディの愛称で親しまれる。七変化を受け継ぎ、ホグワーツにてハッフルパフに所属。
 イケメン(重要)。名付け親ハリー=ポッター。
●ライアル=レギュラス=ルーピン
 ルーピン三兄妹の次男、妹より2歳年上。面倒見が良いが、最近はムーディの真似をして仏頂面になることが多い。
 名付け親アラスター=ムーディ。
●ジェームズ=シリウス=ポッター
 ポッター三兄妹の長男。ドリスと同じ歳。祖父ジェームズのやんちゃさを受け継いでいる。
●アルバス=セブルス=ポッター
 ポッター三兄妹の次男。ウォーリーと同じ歳。父親に似て内向的であり、従兄弟のウォーリーに依存気味な部分が見受けられる。
●リリー=ルーナ=ポッター
 ポッター三兄妹の末っ子。アルバスの2歳下。ハリー曰く、ジェームズと似た性格でわかりやすい。
●ローズ=グレンジャー‐ウィーズリー
 ロンとハーマイオニーの娘、弟にヒューゴがいる。
●ローカン、ライサイダーのスキャマンダー兄弟。
 ルーナの息子で双子。年齢・寮不明だが、多分、ジェームズの世代かな。
●リーマス=J=ルーピン
 原作7巻にて死亡。
 決戦の時期がズレ、臨月の妻に付き添っていた為に不参加。コンラッドの遺言にてドリスの家だった『アロンダイト宅』を譲り受ける。
 スネイプが開発した『解狼薬』にて長年の人狼化現象から解放される。
●日無斐シリウス
 原作5巻にて死亡。
 クローディアとジョージの入籍をきっかけに祈沙へ求婚。その後、7年かけて口説き落とした。日本国籍を得て、ジョージと『W・W・W2号店』に勤めている。
●ハリー=ポッター
 ホグワーツの戦いの後、ムーディ、コリンと1年の旅に出る。帰った彼はそのまま『闇払い』に迎えられ、出世街道まっしぐらである。
●ニンファドーラ=ルーピン
 原作7巻にて死亡。
 『闇払い』に復帰した後は『死喰い人』特にクラウチJr.担当にされている。
●アラスター=ムーディ
 原作7巻にて死亡。
 自分の考え付く防衛策を講じた家よりも、警戒しながら外を回ったほうが精神的に楽だと思い至り、現在は住所不定に飛び回っている。
 実はダンブルドアではないのか? という都市伝説を抱えたままである。
●ハーマイオニー=グレンジャー
 夫婦別姓の為にグレンジャーとして有名。セブルス達が入学した後、魔法省大臣に就任。
●バーテミウス=クラウチJr.
 原作4巻にて、吸魂鬼の接吻を受けて廃人化。
 いけしゃあしゃあと生き残り、懸賞金を上げつつも世界中を渡り歩いている。見分が広がった為か、最早、ヴォルデモート復活の意思はない。
●コーマック=マクラーゲン
 原作後の人生は不明。
 マグル出身者の助けを借り、魔法を使わぬ事を条件にマグルの大学へ進学。政界へ乗り出し、首相に就任する。

●ウォーリー=ウォルト=ウィーズリー
 日無斐 史英。父親似の人相、母親似の黒髪。
 イニシャルがwwwになる為、同級生から「おまえの名前、草生えてんぞ」とよくからかわれる。全世界の「WWW」の皆様、ごめんなさい。
 初恋は無慈悲に砕けた。
 この先、波瀾万丈の人生が待ち受けている。
 名付け親ディーン=トーマス。
●田沢 一
 シリウスを後見人にホグワーツへ入学。様々なカルチャーショックに見舞われながら、成長していく。
●スコーピウス=マルフォイ
 アルバスと同世代。歴史オタク(本当)。
●フィリッパ=ムーン
 セシルとセオドールの娘。ピッパの愛称で親しまれている。珍品蒐集の悪癖があり、15歳の折、父親を助ける為にホグワーツを退学した。
●ビクトワール=ウィーズリー
 ビルとフラーの娘。三姉弟の長女、妹ドミニクと弟ルイがいる。両親の遺伝子を受け継いだ美人。
●ジュリアス=ウィーズリー
 フレッドとアンジェリーナの息子、原作後の「フレッド」の立ち位置。
●日無斐 来織
 クロックフォードの戸籍は復活されなかったが、それを良しとしている。抱えていた課題は『3年前』に乗り越えた。乗り越えただけで再発の恐れは拭いきれない。それもまた人生だと受け入れている。
 専業主婦の傍ら、小学校のバスケチームの監督を務めている。
●日無斐 常時
 籍を移す際、漢字の『常時』に惚れて改名する。
 様々な苦労を経て、京都に『W・W・W2号店』を開く。通勤には勿論、『姿現し』を使っている。
●『灰色のレディ』
 ヘレナ=レイブンクロー。イギリス魔法省の許可を得て、クローディアへ憑いていく。これにより、一家の行動は制限されている。
●日無斐 十悟人
 ダンブルドアとして明かさず、人生を謳歌。『3年前』に音信不通になったり、ずっと引き籠りだった誰かさんを説得したり、元の立場では決して出来なかった事をやりまくっている。
●ロン=ウィーズリー
 原作にて、転職を繰り返して『W・W・W』に落ち着く。
 『闇払い』の後にオリバンダーに弟子入りし、杖作りの勉強中。
●ディーン=トーマス
 原作後の人生不明。
 両親の事があり、恋人はいても結婚には至らず、その分、ウォーリーを我が子のように可愛がる。
●コリン=クリービー
 原作7巻にて死亡。
 戦場カメラマンとして名を馳せ、ノーベル平和賞を受賞する。
●お師匠さま
 長年の引き籠り生活から脱した魔法使い。
 通りすがりの女子高生から「デップ」に似ていると指摘されて喜んだり、説得されたとはいえ弟子を取るなど、以前の自分ならば考えられなかった人生を楽しんでいる。
 見た目だけなら、ジョージ達と同じ歳に見える。

●ドラコ=マルフォイ
 両親とは別に居を構え、妻アステリアと息子スコーピウスとの生活を満喫。
 闇の魔法が掛かった品を収集し、封印する活動を行っている。これは魔法省を完全には信用していない部分がある為。
●セオドール=ムーン
 原作にてルシウスの為に働く。婚姻は不明。
 ピッパが15歳の折、まさに命がけの仕事があり、死すら覚悟した。それを知った娘が学校を退学してまで仕事を手伝った為に、瀕死にまで陥ったが一命を取り留めた。
 妻の籍に入った為に「ノット」は父で絶える。息子の花婿姿を見た父は「もう家系とかどうでもいい」とあれ程、拘った純血主義の考えすらも無くした。
●セブルス=スネイプ
 原作にて7巻で死亡。
 残りの人生を魔法薬の研究へ注いだ。リーマスから娘の名付け親になってくれと頼まれたり、ハリーが息子に「セブルス」とつけた際、「やめて恥ずかしい!!(意訳)」と抵抗した。 
 アステリアの件でドラコに相談され、トトから『解呪役』の調合法、クローディアから最後のオリジナルを貰い受ける。『解狼薬』もそこから開発しており、調合法は自身が死んだ後に公開すると宣言している。

●ネビル=ロングボトム
 『闇払い』の後、ホグワーツの『薬草学』教授へ就任。
 ハンナ=アボットと結婚。子供はまだっぽい。
●ルーナ=スキャマンダー
 魔法生物学者になり、同業者のロルフと結婚。但し、どちらの籍になったか、はたまた夫婦別姓かは不明。
 ホグワーツの戦いの真実を伝える為に、インタビュー記事を【ザ・クィブラー】に掲載した。
●チャリティ=バーベッジ
 原作7巻にて死亡。
 ホグワーツの教頭に指名され、これを承諾。自らが顧問する『バスケ部』は未だ健在である。
●ロランダ=フーチ
 現役。『銀の矢64』を所有したままである。
●ルビウス=ハグリッド
 現役。森番としてか『魔法生物飼育学』の教授としてかは不明。
●『血みどろ男爵』
 自らが手にかけたヘレナへの想いが消えず、また城から去られてここ数年、最悪の機嫌(ピーブズ談)。 

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