こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

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更新、遅くてすみません。

追記:17年4月27日、誤字報告により修正しました。


8.選手

 ケイティ=ベル襲撃はホグワーツの生徒を無差別に狙った事件として学校に広がった。

 クローディアの身を案じた友人達の手腕により、真実は隠されている。しかし、彼女への護衛という監視が付き纏う結果になった。

 それこそ、四六時中だ。

 最初は断った。

 ベッロという使い魔もいるし、クローディアも身を守る術は心得ているつもりだ。

「何言ってんの。レイブンクローで一番、災難に遭っているのは誰? 1年生でハリーと『賢者の石』を守って『例のあの人』と戦い、2年生でバジリスクに石化され、4年生で『例のあの人』の復活に立ち会い、5年生ではついに『例のあの人』と対決! 学生らしく過ごせた3年生の時は平和だったわ。わかっている?」

 クローディアの額をパドマは人差し指で突きつけ、睨む。その眼光に対し、3年生では人狼化したリーマスに噛まれましたとは絶対言えない。

 

 だが、しかし――。

 

 せめてトイレの個室は遠慮して欲しい。目の前にいる『嘆きのマートル』を見ながら、こちらが嘆いた。

「何、あたしだってハリーの頼みじゃなきゃ引き受けないわよ」

 水にしたたる髪同様に濡れた眼鏡を押さえ、マートルは溜め息を吐く。ハリーにも考えはあるのだろうが、今回の人選ばかりは本当に失敗だ。

「嫌なら、断ればいいさ。私も相手が女子だろうと覗かれるのは勘弁さ」

「ふーんだ。嫌がるあんたを見るのも悪くないしね」

 あっかんべーと舌を出すマートルの憎たらしい事この上ない。陰湿な彼女のどの部分にボニフェースは惚れたのか、全く理解できない。しかも、自分に惚れていた彼の存在を知らなかったという。

 同じ学校でも未だ記憶に残らない生徒もいる為、そこを責める気はない。

 責めるべきは暇つぶしの如く、ハリーの頼みを聞き入れる部分だ。

「あんたってさ、他にやりたい事はないさ? この世に残ったあんたらは自分の生きた道を彷徨えるって聞いたさ。どうして学校に残ったさ?」

 クローディアの質問が意外だったらしく、マートルは目を丸くした。

「……本当はオリーブ=ホーンビーが死ぬまで憑き纏っていたかったんだけど、彼女が魔法省に訴えたせいでこの学校にいる羽目になったの。何処かに行けるなら、また彼女に憑いて行きたい」

 じとっとした湿っぽい眼差しから、目標や目的が感じられない。しかし、幽霊となっても魔法省の命令に従わなければならないとは驚きだ。

 てっきり、自縛霊だと思っていた。

「……そのオリーブって子がすごく好きだったとかさ?」

 皮肉を込めて問えば、マートルは小気味良い笑みを浮かべる。

「あたし、オリーブ=ホーンビーに眼鏡をからかわれて、トイレで泣いてた。死んだあたしを見つけたのも彼女よ。先生に言われたから探しに来たって恩着せがましくね。あたしをからかった事も忘れて放って置いたくせに! だから、一生忘れられないようにしてやろうって思った。今も……思ってる」

 糸のように目を細めたマートルを悪霊と呼ぶに相応しい。

「50年間も愚痴愚痴と嘆いて、真犯人がわかってもあの世へ逝かず、お友達への恨みだけ抱えて……、あんたみたいなのをなんて言うか知っているさ?」

 罵倒されると身構えたマートルの周囲に水が集まってくる。気にせず、クローディアは彼女から決して目を離さず嘲笑った。

「未練ったらしい」

 惨めそうに顔を顰めたまま、マートルの表情は固まる。水も凍ってはいないが固まった。

 魔法族は死後、あの世に逝くか、この世に残れる。その違いは未練のあるなしに関係してくる。そんな解釈もあるという。幽霊である彼らでさえ、全てを理解できていない曖昧な仕組み。

 投げかけた言葉は幽霊に対して当たり前、今更、驚く程ではないはずだ。しかし、マートルに何も言わず、彼女自身も未練があるなどと露にも思わなかったのかもしれない。

 一分程、睨むとはなしに見ていたがマートルは反応しない。

 故にクローディアは便座から立ち上がって個室を出る。洗面所で聞き耳を立てていた野次馬に混ざり、ハーマイオニーまで目を逸らす。

「スコージファイ(清めよ)」

 混雑した洗面所に気を遣い、クローディアは自分の手を清める。鏡越しにハーマイオニーへ手を振り、女子トイレを出た。

 廊下へ出れば、彷徨う幽霊はいくらでも目に付く。

「マートルが学校にいるのは、魔法省の命令らしいさ。友達に憑き纏っていたら、訴えられたとか……」

「自縛霊じゃなかったのね。……霊魂となっても魔法族の制約があるのかしら……、そっか……だから『神秘部』が……」

 ハーマイオニーの情報整理が始まり、クローディアは口を出さない。

(私が死んでも、きっと逝ってしまう……)

 幽霊とすれ違いながら、そんな確信を持った。

 

☈☈☈☈☈

 今夜の授業は、トム=リドルの住まう孤児院へダンブルドアが訪問した日の出来事。

 マグルである職員ミセス・コールは勘が鋭く、唐突に入学話を持ち込んだダンブルドアを警戒し、誘拐の類でないか確認していた。

 夏休暇以外、トムは寮で生活する。一時でも施設を去ってくれる事を露骨に喜ばないのは、ここより大勢の人々との暮らしに彼が堪え切れるかと無駄な心配をしていたのだろう。

 きっと、ミセス・コールは彼が学校生活から逃げ出し、施設に舞い戻っても追い出す人ではない。公平で少々貧乏くじを引きがちな印象を受けた。

 肝心のトムは11歳にして、既に邪悪な魔法使いとしての残酷さを持っていた。己は異常ではなく、魔法使いという事実を甘美に受け入れる姿もハリーはゾッとした。

 ダンブルドアが冷静に穏やかな微笑みで接しても、トムには敬う気持ちが欠片も見えない。

(注意すべきは戦利品を集める……)

 悪用した魔法の犠牲者から記念品として何かを奪い取る。

 ロケットを隠したと思われる洞窟に連れて行かれたエイミー=ベンソン、デニス=ビショップや兎を殺されたビリー=スタッブズも何かを奪われただろう。そして、トムは大事にそれらを隠し持った。

 ボニフェースは指輪の存在を遺言に残していた。わざわざ、残さなければならない情報であったなら、マルヴォーロの指輪に違いない。

 ダンブルドアに問いただしても「それもしっかり覚えておきなさい」とだけしか返してくれなかった。

 校長室から帰らされたハリーに出来るのは、寮に着く前に内容をしっかり纏める。後僅かで就寝時間だが、ゆっくり歩いても問題ない。いつの間にか、ベッロは足元にいた。

 ベッロがここにいる時は、クローディアの傍には信頼の置ける誰かが傍にいる証だ。

[眉間の皺は知らぬ内に刻まれるぞ。今日も理解し切れぬ内に終わったか?]

 鋭い指摘にハリーは苦笑し、ベッロを抱き上げて肩に巻く。冷たい鱗は情報を詰め込んだ頭に良い刺激だ。

「……いずれは君の記憶も見せられるのかな?」

 まだ存命ながらダンブルドアに次いで、ヴォルデモートを深く知るのはベッロだろう。彼はこの蛇が今でもお気に入りだ。

「どうしてヴォルデモートは君が好きなんだろうね」

[……それは……主人が好きだったからだ……。あいつは否定するが間違いない]

 重い口調にハリーは自分を恥じる。また無神経な事を聞いてしまった。

[ハリー、呼ばれている]

 ベッロの声に周囲を見渡し、マートルに気づく。何故か、彼女は男子トイレから上半分だけ顔を出す。湿った視線がハリーを捉えているので、呼ばれているのは本当のようだ。

「……やあ、マートル。こんばんは、僕に用があるのかな?」

 マートルにはクローディアの女子トイレでの護衛を頼んでいる。無碍にして機嫌を損ねてはいけない。出来るだけ愛想良く声をかけたが、ハリーはどうしても笑顔が引き攣ってしまう。

「ハリーはあたしを殺した奴を知っている?」

 挨拶もなく問いかけられた内容に、ハリーの背筋に熱が走る。

 廊下での会話は避けるべき、生徒のいない男子トイレへ入ってベッロを洗面台に置く。マートルは個室の扉を椅子代わりに腰かけ、ハリーを見下ろしてくる。

「バジリスクの話……じゃないよね?」

「ええ、そう。そのバジリスクをあたしに嗾けた奴。ハリーなら教えてくれるでしょう」

 少なくとも、ハリーに聞くまで色々と聞いて回った様子だ。幽霊さえ拒絶して引きこもるマートルにしては、珍しい。それに何故、今になって自分の死因を知りたがるのか気になった。

 ハリーが2年生の折、『秘密の部屋』を暴いた事で50年前の事件も解決した。トム=リドルに嵌められたハグリッドやアラゴグは冤罪を証明でき、マートルも真実を知ったはずだ。

「もしかして、バジリスクの事件が終わってから誰からも何も聞いていない?」

「いいえ、貴方が死にぞこなった後に……ダンブルドアから教えて貰ったわ。ただ、トム=リドルだとか知らない名前を言われても、あたしにはピンと来ないもの。……どうでも良かったし……」

 そういえば、マートルは殺された事よりも眼鏡をからかったオリーブ=ホーンビーへの恨み節を口にしていた。本当にトムについてはどうでも良いのだろう。

「どんな奴なの?」

 理由はどうであれ、マートルは知ろうとしている。

「……僕の両親の仇だ」

 父親や兄から虐げられ、ハンサムなトム=リドルに捨てられ、困窮のあまりに家宝のロケットを手放し、売りつけたカラクタカス=バークからはたった10ガリオンしか渡して貰えず、臨月で体力的にも精神的にも弱わり、辿り着いた孤児院で命を落とした哀れなメローピーの息子。

 魔法界でも稀な『蛇語(パーセルタング)』使いの『パーセルマウス』、サラザール=スリザリンの末裔、ゴートン家の歪んだ誇りをその血肉に受け継いだ闇の魔法使い。

 今の尚、生き続ける魔法界では名を出すのも恐れられる『例のあの人』。

 ヴォルデモートを評する言葉は多くあったが、ハリーは自分との関係性を表した。彼の生い立ちや境遇など、両親の仇である以上の意味はない。

 絶対にハリーはヴォルデモートを許さないし、逃げずに相対すると自分で決めた。

 満足な答えを言わぬのに、マートルは不満もなくハリーを見下ろしたまま口を開く。

「……あたしが自分の仇を取りたいって言ったら、どうする?」

 普段の陰湿さや妙に残酷めいた愉快さではなく、真剣に戦いに赴く気迫を感じる。初めてハリーはマートルを魅力的な女子として捉えた。

「悪いけど、早い者勝ちだよ」

 胸の奥から湧き起る闘争心は、試合前の高揚感に似ている。

「それで貴方に先を越されたら、あたしはまた嘆いて……学校に居続けるのかしら」

 ハリーから視線を外したマートルは確かめるように呟き、個室の扉から降りて目線を合わせてきた。

「ハリー、貴方はあたしを頼ってくれた。嬉しかった。あたしの助けを必要としてくれて……見返りではないけど、あたしのお願いを聞いて欲しいの」

「……いいよ……」

 出来れば断りたいが、ハリーは深呼吸してマートルの言葉を待つ。

「トイレで泣いている子がいる……男の子よ。あたし、相談に乗ろうとしたけどダメだった。きっと、女だから……。ハリー、その子の悩みを聞いてあげて」

 意外と良心的な頼みにハリーは拍子抜けした。

「寮と名前はわかる?」

「名乗ってはくれないけど、ドラコって呼ばれているのを聞いたわ」

 油断し切った心に強い衝撃を受け、動揺のあまり指先が痙攣してしまう。

「……ドラコはいつからトイレで泣いているんだい?」

「学校が始まってから……、何度もね」

 自尊心の高いドラコは人前に泣き顔を晒すなどしないだろう。だからといって隠れて泣く姿など、もっと想像できない。

 

☈☈☈☈☈

 『薬草学』の温室に向かう途中、ハリーに事細かく聞かされる。週末と違い、強い風がないので彼の話は聞きやすい。視界を悪くする霧がクローディア達を温室に着かせるのを手間取らせた為、マートルの頼みまで聞くには十分な時間を持てた。

 つまり、授業には遅刻と言っていい。始業の鐘には間に合ったが、保護手袋やマウスピース、保護ゴーグルなどの装着した頃には4人以外の生徒は全員、作業に取り掛かっている。ひっかき傷に塗れたネビルは既に『スナーガラフの種』を取り出していた。

「小学校の頃、同級生に将来は花屋になりたいって子がいたさ。担任の先生は花屋の家重労働だから体力をつけましょうって言っていたさ。確かに植物の相手は体力がいるさ」

「少なくとも、マグルの花屋にこんな凶暴な株はいないわ」

 刺々しい蔓と戦いながら、各々のボウルへ種をひとつずつ入れる。文旦程の大きさは見た目通りに固い。新鮮な内に汁を取り出す為、クローディアは種を宙へ投げて拳を叩きつけた。

「それでどうするさ? 彼女の頼みを聞くさ?」

 割れ目から薄緑色の塊茎が漏れ、空いたボウルへと注がれる。用済みになった種のカスは丁寧にテーブルへ置く。作業台を回っているスプラウトが回収してくれる為だ。

「まさか、あいつが僕に話すもんか!」

 ハリーの怒声に構わず、今度はハーマイオニーとロンが自分の種を殴ったり、台へと叩きつける。

「マルフォイが涙を流す程、苦しんでいようと同情なんて絶対しないけどさ」

 クローディアが冷淡に吐き捨てた時、種に全力の拳を叩きつけたロンの鈍い音と悲鳴が聞こえた。

「クローディア、……どうやって割ったの?」

 保護手袋ごしに己の手を労わるロンを尻目に、ハーマイオニーは【世界の肉食植物】の本を探す。

「やだ、鋭い物で穴を空けるようにって書いてあるわ」

 一文を読み終えたハーマイオニーにつられ、無残な形で割られた種を見やる。

「クリーチャーは何か言っていたさ?」

「たった1日、2日でわかりっこないよ。もう少し、探らせてから聞いてみる」

 ドラコが本当に『死喰い人』でなく、呪いの首飾りを仕掛けた犯人にないにしても、確実に何かを知っている。そもそも彼は親子で闇の魔術へ傾倒している。ボージン・アンド・バークスという悪意に満ちた品々を扱う店に出入りするのが、その証拠だ。

「うっし、割れたぞ」

 不確かな推測より、目の前の課題。喜ぶロンが汁をボウルに注いだ時、ハリーとハーマイオニーもやっと種を割った。

 

 次の授業は空き時間。

 作業で汗だくになった手足を洗面所で洗い、『薬草学』のレポートをまとめる為に図書館へ行くか、午後の『変身術』のレポートを最終チェックするか、ハーマイオニーとロンが軽く揉め始める。

「大丈夫だって、ハーマイオニーと仕上げたんだ。『変身術』は完璧だよ」

「お喋りに夢中になって、私が確認してないの」

 怒鳴り合いやいがみ合いではなく、何処となく恋人同士の戯れにも聞こえてくる。段々とクローディアとハリーは居た堪れない気持ちになる。

 ヘドウィックが手紙を持ってきてくれた時、天の助けとハリーは縋った。

「げ、スラグホーンからだ。……クリスマスパーティーへご招待……。皆も是非、どうぞって……」

 驚いた3人は寄せ集まり、ハリーの手紙を読む。確かに4人を招待している内容だ。それぞれ、1人ずつパートナーを連れてきて良いとも書かれている。

「クローディアはジョージ、呼べよ。ハリーはマートル。これで完璧」

 呑気に言い放つロンへハリーはげんなりするが、クローディアは恥ずかしさで頬を赤くする。

「……クリスマスって客商売が佳境さ。お仕事の邪魔はしないさ。私はベッロでも連れて行……ベッロは何処さ?」

 足元や周囲を見渡すクローディアへハリーが答える。

「ベッロは僕の部屋だよ。昨夜は僕に付き合って夜更かししたから、まだ寝てると思う」

 あの蛇は誰が主人か忘れているではないか、そんな疑問が度々起こる。

「クリスマスと言えば、ハーマイオニー。休暇は『隠れ穴』にどう? まだ僕達の事、パパとママに報せてないんだ。これを期に紹介したい……」

 体をしならせ、ロンは目をわざとらしくパチパチさせる。己の可愛さを全面に出しているつもりなら、不正解だ。

「そうだったの……けど、ごめんなさい。私、城に残らないといけないの。本当にごめんなさい」

「……うん……。良いんだ、ハーマイオニー。いつでも紹介できるし……」

 笑顔のまま硬直したロンは上擦った声で笑い返す。あからさまな動揺にクローディアとハリーは思わず、噴き出して笑う。

「2人は『隠れ穴』に来るの決定ね。クローディアは特に覚悟してな。ビルみたいに勝手な婚約を結んだって、ママはカンカンらしいよ。『吠えメール』を送りつけようとしたって! 必死で止めたパパに感謝だな」

 まさかの試練を突き付けられ、クローディアの背筋が寒くなる。

 孫を愛する祖父でさえ刀を持ち出すのだ。息子を愛する母親の行動は読めない。

「モリーさんにはお手紙出しておきます……」

「出来れば、ジョージにもね」

 茶化すロンへクローディアは真っ青な顔で「はい」と答えた。

「シリウスの屋敷じゃないんだね……ああ、クリーチャーがいないからか……。屋敷の管理は大丈夫かなあ……」

「貴方の頼みを機会にクリーチャーも休む事を覚えるわ。あそこは色んな人が出入りするんだから、交替で掃除すればいいのよ。今度、シリウスと連絡取る時にでも提案してみて」

 1人納得したハリーに何故か、ハーマイオニーは説教めいた言い方で頼んだ。

 

 モリーからの返事は金曜日に届き、感情のこもった筆圧で来訪を心待ちにしていると記されていた。

 ちなみにグリモールド・プレイスの屋敷での掃除当番については、シリウスは問答無用に却下した。明日をもしれない危険な任務を背負う団員に余計な負担を負わせたくないそうだ。

「その負担を誰が負っていたと思っているのよ!」

 シリウスからの返答にハーマイオニーは凄まじい怒りを見せた。

「んじゃ、今は誰が屋敷の管理してんの? まさか、クリーチャーがマルフォイの監視の合間に帰っているとか?」

 ロンの疑問に対し、ハリーは消えそうな声で「コンラッドさん」と答える。益々、ハーマイオニーは怒り狂った。

 

 

 グリフィンドール対スリザリンの試合が迫り、ハリーはドラコへの監視や警戒を弱める。

 クリーチャーから目ぼしい報告がなく、選手ケイティの代理にディーンを抜擢した事で寮内から不満の声が上がり、それどころではないなどの理由はクローディアを呆れさせた。

 今日までドラコが犯人ではない証拠はない。だからと言って犯人の決定的証拠もない。中途半端な容疑者はホグズミードの一件以来、バスケ部の部室へ顔を出さなくなった。

 部員ではなく、不気味な見学がいなくなり、敬遠していた生徒も部へ寄りだした。

「ディーン=トーマス……、選手としての経歴はないけど、ケイティの代理というからには……」

「友人贔屓って事はないだろう」

 ボールそっちのけでエディーとクレメンスは真剣な顔で額を寄せ合う。

「こらこら、エディーにクレメンス。バスケの部活中はクィディッチ・キャプテンである事を忘れるさ! エディー、他のチームを探りに来たなら、帰った帰った!」

「違うもん、キャプテン仲間のクレメンスとお喋りしたいだけだもん」

「……エディー、キャラ変わった?」

 クローディアに注意され、わざとらしくクレメンスの腕にエディーはしがみつく。見てしまったミムは引き攣る。

「キャプテンってプレッシャーとストレスで参っちゃうもんだよ」

「ハリーを見てればわかるよ。」

 ネビルに心底労わってもらえ、ハリーは空元気に笑い返した。

 時間もそこそこにバーベッジが現れ、クローディアは部員を呼ぶ。部長の号令に集まり、それぞれ彼女の魔法でユニフォームに着替える。

 先日より騒がしくなった部室は、ユニフォーム姿に注目して自然と口を閉じて静まり返る。視線を気にせず、毅然とした態度で胸を張り、クローディアは部員の顔を1人ずつ確認する。

 皆、バスケのユニフォームが板についている。

「本日は以前から言っていたトーナメント試合を取り行う。バーベッジ先生が3対3のメンバーを選考している。私も含めて戦力を平等に分けているから、意見がある者はその場で言って欲しい」

 目を逸らさない沈黙は承諾と受け取り、バーベッジは指を鳴らして羊皮紙を取りだす。

「それぞれのチームに番号を与えます。数に意味はありません。分ける為の表記です。まずは1班クレメンス、マンディ、ナイジェル。2班ジャック、モラグ、ルーナ。3班コーマック、ディーン、デレク。4班ミム、デニス、ジニー。5班クローディア、シェーマス、ハンナ。以上です。ご質問は?」

 一番にコーマックが手を挙げる。

「俺のチームに女子がいません」

「戦力による分配と言ったはずです」

 バーベッジに軽くあしらわれたコーマックは真剣な表情のまま手を下す。今度はデニスだ。

「奇数ですけど、シード席を設けるんですか?」

「いいえ、後日、敗者復活戦を行います。そちらで勝ち残ったチームと対戦です」

 納得してデニスも手を下す。他に質問がない為、羊皮紙は5つに裂けて細い棒へと変じ、バーベッジの手に握られる。

「次は対戦チームを決めます。簡単に言うと、くじ引きです。引き抜くと後ろのトーナメント表に番号が浮かびます」

 告げた瞬間、バーベッジの背にある壁にトーナメント表が勝手に描かれていく。本当に自分達は部内で試合をするのだ。

 実感が湧き、全員から感嘆の息が零れる。

「では部長、どうぞ」

 バーベッジに呼ばれ、クローディアはじっくりと深呼吸してからクジを引く。右端に5が浮かんだ。

(復活チームとの対戦さ……、今日は見学……)

 ある意味では良い当たりだ。本音を言えば、今日すぐにでも試合をしたかった。他の2人も同じ気持ちらしく、苦笑をクローディアへ向けた。

 問題なく、クジ引きは終わる。今日は1班と3班、2班と4班の2組だ。

「では2班と4班の対戦です。選手は準備運動を済ませ、定位置に着いて下さい。他の方は応援席へ」

 選ばれた部員のユニフォーム正面に班の番号が記された。

「うわー、あたしが選手だ。コリン、ばっちり撮ってーパパに写真送るもン」

 喜んだルーナはその場をクルクルと回転し、既に観客席でカメラを構えたコリンに手を振るう。彼は承諾の意味で親指を立てた。

「弟の僕は無視か」

 ストレッチを始めたデニスは皮肉っぽく言い放って笑う。

「私が2班のプレーを記録するから」

「こっちは4班ね」

 記録係のハーマイオニーとパドマは得点板で既に準備万端。

「こんなに広いコートなのに、たった3人のチームなんですか?」

 観客席に移ったクローディアへベーカーはぼそりと質問を投げかける。

「バスケはガード、フォワード、センターの3つポジションが揃えばゲーム体制は整うさ。ちなみにガードとフォワードは更に2つに分けるから、本当は5人欲しいところさ」

 臆せず答えるクローディアを見ず、ベーカーはコートの6人から目を離さない。3対3で並び、試合前の顔合わせをしてポジションへと移る。モラグとディーンの間でバーベッジが試合開始の笛を吹き、ボールを真上に投げた。

 モラグがボールを叩き落とし、ルーナは軽やか足取りで受け取った。

「……あの数字はなんですか? 何をカウントダウンしているんですか?」

 バッグボード上方のクロックをベーカーは興味津々で指差す。

「1ピリオドの8分間を表示しているさ。第4ピリオドやるから、計32分の試合さ。本当は10分にしたいところだけど……」

「……クィディッチと違って時間制限があるんですね」

 クローディアが言い終える前にベーカーは驚きの声を上げる。ただ控え目で、彼女にしか聞き取れない。

「いつでも部においで、新人歓迎さ」

「僕が……本当に部員になってもいいの?」

 やっと顔を上げたベーカーの表情は変わらず、されどその目には輝く。クローディアが本心から微笑んで頷くと彼は口元を強張らせてクシャクシャな笑顔を見せた。

「バスケって前半20分、後半10分の試合じゃなかったっけ?」

「NBA式なんだよ。ハリーったら、マグル育ちなのに知らないのかい?」

「なんでそんなに詳しいのに、ネビルはアメフト部に行っちゃったわけ?」

 ハリーの疑問を自信満々にネビルは答えたが、ロンの疑問にはそっと目を逸らした。

 最初は漠然と試合観戦していた見学も、2班と4班の試合開終了時には雰囲気も温まり、チームへの応援で賑わる。1班と3班の試合終了時には部室内は声援で反響した。

 部員は記録係も含めて全員、バーベッジの前に整列する。トーナメント表の線が輝き、勝ち抜きを見せつける。

「1班と4班の勝利です。次の試合日は敗者復活戦で2班と3班に対戦して貰い、勝ち残ったチームが5班と対戦します。休憩は挟みますが、連戦になりますのでそのつもりで準備して下さい」

 抗議も反論もなく、該当班は納得して承諾する。

「先生、次の試合っていつですか?」

「12月、クィディッチの試合までに行います。それまで部活動はありますから、自由に参加して下さい」

 バーベッジの答えを聞き、ネビルや他の見学も気づく。今回も第1回クィディッチの試合前を狙って行った。これは駆け持ちをしている部員からの希望であり、配慮だ。

「今日は素晴らしい試合を見せてくれてありがとう。私も負けられない。本心から思っている。では、解散」

 クローディアの締めにより、本日の活動は終了だ。

「皆さん。着替える前に1枚、お願いします」

 観客席からのコリンの声に抵抗もなく、皆は顔を上げる。自然と笑顔になった瞬間、シャッター音が響いた。

 見学の生徒は帰って行き、コーマックはその格好のままさっさと帰る。

「コーマックがユニフォームを着たまま寝ているの見ちゃった。今日が楽しみだったんだな」

「彼、性格変わったかな。授業中も誰にもイチャモンつけなくなったらしいし」

 ジャックとミムはまるでコーマックの親兄弟のように微笑ましく見守る。

「折角、着たのに脱ぐのもったいねえ」

 シェーマスは残念そうに脱ぐが、替えの服がないと気づいて慌てだす。

「半裸状態で気づいて良かったな」

 口元を押さえて笑うクレメンスによって、シェーマスの服は元に戻る。

 試合もしていないはずなのに、クローディアは興奮が冷めない。ユニフォームを着替えてしまう勿体なさを味わう。

「その格好は薄着過ぎ、ここで着替えて行ってよ。風邪ひくから」

 パドマの現実的な一言にクローディアは逆らわず、魔法で着替えた。

 片付けを終えて部室を施錠し、鍵をバーベッジが受け取る。クローディア達は小腹を空かせつつも、今日の試合に花を咲かせてながらゆっくりと歩く。

「ルーナ、写真いっぱい撮ったよ。現像したら一番に見せに行くからね」

「あたしが見に行く。見たいもン」

 コリンのカメラを抱え、ルーナは笑う。仲睦まじい2人をジニーは満足そうに見ている。

「あの2人、すごく雰囲気良いさ。ジニーは何か聞いてないさ?」

「少なくとも、ルーナはコリンに気があると思う。スラグホーン先生のパーティーに連れて行くくらいだもの」

 聞き違いかと疑ったが、その言葉から推測するにルーナもクリスマス・パーティーに招待されている。

「……いつの間にそんな事態が……」

「そりゃあ、知る人ぞ知る【ザ・クィブラー】編集長ゼノフィリアス・ラブグッドの娘だもの。この前の晩餐会にも呼ばれたわ。あの子、先生と友達になれたみたいで嬉しかったって」

 得意げなジニーは何故だが、悪戯に成功した双子に似た笑みを浮かべる。

「スラグホーン先生に教えたのは、ジニーさ?」

「私は『魔法薬学』の教室に雑誌を置き忘れただけよ」

 流石はウィーズリー家の末娘、上の兄弟と同じ策士だ。しかし、ルーナがコリンと参加するならば、クローディアのパートナー候補が1人いなくなった。

 デレクへと自然に目を向けた瞬間、フクロウが何故かロンへ激突してくる。

「なんだ、エロール。急用……って僕じゃくてクローディア宛だよ」

 叱られたエロールは覚束ない羽ばたきでクローディアへと手紙を運んだ。

「また……モリーさん……じゃなかったさ。……ジョージさ……うん?」

 緊張しながら開き、ジョージからの手紙に安心したが内容は残念な結果だった。

【クリスマス・パーティーに行けない。ごめん。代わりにフレッドが行く。 ジョージ】

 店の営業を心配したが一か八かで誘ってみればコレだ。フレッドは規則など物ともしないし、校内の裏取引はお手の物。彼が来ては、ただのホグワーツでの出張である。

「あちゃー、きっと双子の間で賭けでもしたんじゃない? それでジョージが負けたと」

 後ろから覗きこんできたディーンは慰めの意味でクローディアに肩を叩く。興味深そうに皆も次々と覗いては憐みの肩叩きをしていく。

 余計に惨めな気持ちなるのでやめてほしい。

「フレッドが来るって皆にも教えようぜ。内密にな」

 嬉しそうにシェーマスはネビルとディーンを掴んで行った。

「クローディアはフレッドと行くんだ……。僕は本当にどうしようかな……」

 困り果てたハリーは眼鏡の縁を押さえ、何故かジニーを一瞥する。メリンダと話す彼女は視線に気づいていない。

「ジニーを誘いたいさ?」

 図星らしいハリーはクローディアの耳打ちに慌ててロンの様子を見る。彼もモラグと話しているので気付かない。

「彼女はディーンと行くだろうし、僕が誘って噂になったら困るだろう?」

「何の噂になるっていうのさ。ディーンとの予定もわからないんだから、誘ってみればいいさ」

 自分に言い聞かせるハリーの口調を不可思議に思い、クローディアは何気なく言い放つ。親友ロンの妹ジニーを誘ってわざわざ噂する生徒はいるかもしれないが、ジニーは気にしないだろう。

 複雑そうに口元を引き締め、ハリーは天井を見上げてから頷いた。

「うん、クィディッチの後にね」

 パーティーの日程から、11月グリフィンドール対スリザリンと12月レイブンクロー対ハッフルパフの2試合に当てはまるが、どちらを指すかは聞かずに置いておく。むしろ聞くなと、ハリーの表情が告げていた。

 

 

 今期最初のクィディッチ試合、新解説者は驚くべきザカリアス。立候補だとしても、許可した人に小一時間程、問いただしたい。

「彼にはリー=ジョーダンのような痛快な実況は期待できないわ」

「そもそも期待してないね。今回の選考も落ちた割に、やけに大人しいと思ったら……」

 ザカリアスと同じ寮で監督生たるハンナとアーニーでさえ、試合開始前から呆れている。

 新実況より気になるのは、やはりドラコ。観客席にも姿がない。

「ドラコ=マルフォイ、いないね……」

「うん、ここからでも確認できるさ」

 観衆を見渡すルーナはクローディアへ伝える目的で呟く。本物の獅子と見間違う質感の被り物まで周囲を見渡し、その口に何故かベッロが挟まっている。演出のつもりか、じっとして動かない。

 使い魔は無視し、教職員席を見やる。スリザリン寮監のスネイプは変化なく鎮座しているなら、ドラコに異変のような事情はない。

(クリーチャーの監視が付いていると言っても……何をしているやら……、またトイレで泣いているさ?)

 今朝もクローディアを見張っていたマートルの顔を浮かべ、何故か笑いがこみ上げた。

 試合が始まってみれば、残念ながらザカリアスは選手を個人個人中傷するような紹介をしては悪態ついた。

 結果はグリフィンドールの圧勝、しかも箒のブレーキ加減を間違えたジニーは演台へと突っ込む。木端微塵となった台の破片に埋もれ、ザカリアスは気を失う。試合結果よりも彼女の痛快な事故へ拍手が起こった。

 両選手は更衣室へ退場し、観衆も競技場を後にする。ハーマイオニーとハリー達を待つ為に、更衣室前で待機だ。

「私はスネイプ先生に質問があるから、先生を追いかけるさ」

「そう、わかったわ。こちらの談話室でパーティーするから、来てね」

 ハーマイオニーはキーパー・ロンがゴールを守り切り、大観衆の前で実力を発揮した。ただ、それだけを喜んでいる。ドラコの姿がない疑問は吹き飛んでいる様子だ。普段の彼女なら、一緒にスネイプを尋ねたに行ったはずだ。

「喜べる内に喜ぶもンだよ」

 いつの間にか、クローディアの腕へと絡んできたルーナに慰めのような言葉を貰う。獅子の被り物まで、頬を舐めてきた。

「ありがとうさ、ルーナ。私は寂しくないさ」

「やーせーがーまーん」

 反論も虚しいので、ルーナを腕に付けたままスネイプを探す。教師陣の集団を見つけ、近寄ろうとするクローディアに周囲は道を譲ってくれた。

「スネイプ先生、マルフォイくん知りませんか?」

「……君が気にすることではない。彼は競技場に来れぬ状態にあるのだ」

 何処かで聞いたような台詞だ。妙に懐かしい気がしても思い出せない。

「罰則だね。コリンの時と同じ顔してるもン」

「……ミス・ラブグッド。沈黙は身を守りますぞ」

 眉間の皺を解し、スネイプは去ろうとしたが思い出したようにクローディアへ視線を向ける。

「マグルの部活は楽しんでいるようで、何より……君の顧問も大変お喜びになられましてな。授業に差し障りがないようにしたまえ」

「……ああ、はい。勿論です。しかし、マルフォイくんは私を尾行……」

 言いかけたが、スネイプの鋭い眼光に防がれる。クローディアは恐れではなく、周囲で聞き耳を立てる野次馬を警戒して口を閉じる。この寮監は彼女に言われずとも、ドラコが隠れて泣く姿も把握している可能性もある。

「君はハグリッド教授にでも会ってきてはどうだね? 仲良しのポッターの活躍を喜ぶであろう」

 冷淡な口調だがスネイプに言われて今更、ハグリッドも競技場にいなかった事実に気づく。ずっと死骸役に扮していたベッロがくすりっと笑った。

 

 ルーナの格好をそのままにし、ハグリッドの小屋を訪ねる。既にセシルとモラグが来客として茶を貰っていた。

「粋な格好だあな、ルーナ。選手より目立っただろう。俺の為にわざわざ来てくれて、ありがとなあ」

 髭で覆われている顔は少しヤツれた印象を与えた。

「アラゴグは大丈夫、私の実家から貰った薬を飲ませているの」

 空になった瓶を見せられ、クローディアは安堵の息を吐く。今日の試合に来なかったのは、アラゴグが急変したせいだと思った。

「これ、俺の実家からハグリッドへの差し入れ。巨人の好物らしくてな、中身は俺も知らねえ」

 食卓に並んだ差し入れは、見た目は巨大なミートパイにしか見えない。

「そっか、アラゴグの看病が手伝えなくても……差し入れとかがあったさ」

 ハグリッドに断られてから、クローディアはアラゴグの件に関与しなかった。思いつきもしなかった己の薄情さ胸中で溜息を殺す。

「そんな顔をするなあ、おめえさんが勉強も部活もがんばっとる。バーベッジ先生が言っとった。俺の事はセシルやモラグ、勿論ジャスティンも手伝ってくれるんだあ。クローディアは自分を守れ、良いな?」

 目を糸のように細め、ハグリッドはクローディアの頬をその暖かく大きな手で挟む。触れるだけなので、彼の体温が暖かい。

 首飾りの事件はクローディア個人を狙った犯行だとハグリッドは知らない。彼女の友人が情報を操作して守ったように、マクゴナガルもまた同僚の彼を守る為に伝えていないのだ。

「ありがとうさ、ハグリッド。生徒に助けて貰えるなんて、ハグリッドは本当に良い先生さ」

「おお、俺は良い先生だあ。だから、生徒もついてくる」

 ノリに乗ってウィンクしたハグリッドにモラグは噴き出して笑う。セシルも笑ったが、微笑ましく受け入れている雰囲気だ。

「心配しないでいいもン。ハグリッドは友達たくさん」

 床に座り込んでいたルーナはファングの頭を撫でる。寒さの嫌いな番犬は彼女の手を受け、安心した鳴き声を上げた。

 

 ハグリッドの引率で城へ帰り、穏やかな気持ちなった4人と一匹は空腹で大広間へ向かう。しかし、二重扉の前で仁王立ちするハーマイオニーを見つけ、ゾッと寒気が走る。

 逃げようと方向転換したが、普段は絶対見せない脚力で一瞬にして間合いを詰めたハーマイオニーによって、クローディアは虚しく捕獲される。他の3人と一匹は巻き添えを食らう前に逃げ切った。

「ハリーが……マルフォイとクリスマス・パーティーに行く。ロンのせいで!」

「ちょっと、状況が見えません。首……死ぬ、本当に死ぬ」

 ロンの代わりにクローディアを絞め殺さんしと胸倉を掴む。必死で煽てて、ようやく手の力は抜けたが、険しさは消えない。

 ハーマイオニーとハリー、ロンは談話室での祝賀パーティーを楽しみに寮を目指したが、その途中でドラコと偶然、出くわした。彼は罰則の為にフィルチと一緒だったらしい。

 勝利に酔っていたロンはドラコの肩を掴んで、大げさに慰める。

〝困った事でもあったら、力になろうか? 今の僕ならなんでも出来るぜ〟

 その提案にドラコは久しぶりの意地悪い笑みを見せ、お願いしたという。

 

 ――僕をクリスマス・パーティーに連れて行ってくれ

 

 予想外の願いにロンは慌てて断ろうとしたが、ドラコに「なんでも出来るんだろう?」と冷ややかに挑発する。しかも、そこへ「ウィーズリーは王者ー♪ なんでも出来る王者ー♪ パーティーへご招待ー♪」と陽気に歌うピーブズが現れてしまう。

 ここでドラコを振り切っても、ロンから提案しておいて身勝手に断ったという噂が城中に広められる。断腸の思いでハリーが引き受ける形になった。

 何度も感傷的になり脱線した話を纏めれば、大体そんな感じだ。

「マルフォイの頼みを断った噂が流れても、誰も気にしないんじゃないさ?」

「ええ、同じ事をハリーに言ったわ。マルフォイと別れてからね。ロンに断らせる事が目的だったのかもしれないって……私は考えすぎだと思うけど……」

 ここ数日、ハリーはクィディッチに集中していた。いくらクリーチャーがいると言っても、ドラコから意識を離した責任を感じている可能性もある。

「……変に独りで背負いこんじゃってさ……。私は怒らないでおくさ。……ところで2人は?」

 彼らは何処を見渡しても、まるでベッロのようにいない。

「部屋よ。ロンがすっかり落ち込んじゃって、ハリーが慰めているわ。落ち込みたいのはハリーのほうなのに!」

 怒りが再燃したハーマイオニーに引き摺られ、クローディアは大広間へ行く。レイブンクロー席に座り、2人は自棄食いの如くステーキに食らいつく。

 スリザリン寮席にドラコはいた。

「ポッターが僕をクリスマス・パーティーに連れて行ってくれるって言うんだ。おかしな話だよな、断る理由もないから受けたよ」

「ポッターがドラコを!? どういうつもり!!」

 隣にパンジーを座らせ、尊大な態度で尚且つ周囲に聞こえるように大声で喋る。そんなドラコを見て心底、腹が立つ。

「あいつ、いつもと何も変わんないさ……」

 今、出来るだけの軽蔑を込めてクローディアは言い放つ。仲間に囲まれて騒がしいドラコにその呟きは聞き取れるはずはないが、彼女に向けて皮肉っぽい笑みを与えたのは確かだ。




閲覧ありがとうございました。
スナーガラフの種を叩くシーンが大好きです。映画でもやって欲しかった。
ハリーはドラコとパーティーへ行きます(ただの罰ゲーム)

●オリーブ=ホーンビー
 マートルの友人?にして遺体第一発見者。
 卒業後も結婚式まで憑き纏われて精神的に参り、魔法省に訴えた。
●ミセス・コール
 トム=リドルが育った孤児院の職員。メローピーの最期を看取った。
●エイミー=ベンソン、デニス=ビショップ、ビリー=スタッブズ
 トム=リドルと同じ孤児達。些細ないざこざにより、悲惨な目に遭った魔法の被害者。

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