こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

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閲覧ありがとうございます。
箒でのスポーツで、本当に凄いですね。

追記:17年3月4日、誤字報告により修正しました。


9.クィディッチ戦

 何だが、耳元でけたたましく甲高い喚き声がする。クローディアの意識が覚醒して瞼を開く。チョウが憤怒の形相で睨んでいた。

「試合が始まるわ! 先に行くわよ!」

 捨て台詞を吐いてチョウは、乱暴に扉を閉めて行った。部屋を見渡すと、パドマとリサもいない。寝惚けた頭で、クローディアは時計を見やる。その針は11時半を指している。

 試合は正午。

 寝坊を認め、慌てて着替える。

「マフラー! マフラー!」

 クローゼットを掻き回しても、クローディアのマフラーが見当たらない。こういうときの為に、以前ペネロピーから教わった魔法を試みる。

「アクシオ!(来い)」

 叫ぶと、虫籠からベッロを巻き込んでマフラーが手に飛び込んできた。熟睡していたベッロは突然の事態に困惑し、右往左往している。

 魔法が成功をしたのを喜ぶ暇はなく、クローディアはベッロもマフラーと共に首に巻いて寮を出た。

 

 競技場では既に試合が行われ、歓声や嬌声、怒声が飛び交っていた。

「スリザリンの攻撃です」

 リーの実況放送が競技場の外まで響いている。

「え~と、生徒席さ……」

 観客席の入り口まで来れたはいいが、何処に誰がいるのか全然わからない。完全に途方に暮れたクローディアは、見知った人間を目敏く見つけた。

 息を切らしたハーマイオニーがクローディアの所に走ってきた。走ることに夢中だったせいか、お互いにぶつかりそうになった。

「ハーマイオニー、良かったさ。ねえ、パドマ達知らないさ?」

「ごめん、それどころじゃないの!」

 押しのけられたクローディアは、手近な柱に背中をぶつけた。

「きゃあああああ!!!!」

 何の前触れもなく、貴賓席から特徴のある間抜けな悲鳴が聞こえてきた。

 クィレルの悲鳴だ。

 何事かとクローディアは、ハーマイオニーとお互いの顔を見合わせた。そして、首に巻きつけていたはずのベッロがいなくなっていた。

「蛇があああ!!」

 2度目のクィレルの悲鳴に、クローディアは青ざめる。ハーマイオニーが大急ぎで貴賓席の階段を駆け上がるので、彼女も後を追った。

 そこでの光景にクローディアは戦慄が走り、青ざめて口元を押さえた。

 クィレルと周囲の教師陣が突然のベッロの来訪に退いていた。ベッロが蛇としての獰猛性を露にし、彼を獲物と定めて威嚇する。

 堪ったもんじゃないクィレルは、恐怖で痙攣し、観客席の壁をよじ登る。ベッロはそれを許さず、クィレルのターバンに飛びかかって噛み付いた。

「あ~! やめて! 助けて!」

 助けを求めながら、クィレルはターバンを押さえる。片手で壁にしがみ付くのは、危険だ。

「ベッロ、何やってんの!? やめるさ!」

 この事態に焦るしかないクローディアはベッロの身体を掴み、クィレルから引き剥がそうとした。しかし、ベッロの頑丈な顎がターバンを離さない。ハーマイオニーもベッロを掴み、引っ張る。

「先生、ターバン離して!」

 ハーマイオニーがクィレルに叫ぶが、彼は否定の声を上げた。

「ベッロ」

 落ち着いた闇色の声がベッロを呼ぶ。クローディアの肩に手を置いたスネイプがベッロに向かい、空いた手を差し出している。

 途端にベッロは顎の力を抜き、スネイプの腕に馴染むように絡みつく。気を抜いたクィレルはターバンを乱しても手で押さえつけ、壁から滑り降りた。

 命拾いしたクィレルの荒い息が教員席を騒がせる。

 クローディアとハーマイオニー、教師陣も元凶のベッロに視線を向ける。注目の的だというのに、ベッロは物ともせずにスネイプの頭に顎を乗せた。

 会場から歓声が沸き起こり、誰もがそちらに目を向けた。

「スニッチを取ったぞ!」

 頭上高くスニッチを振りかざしたハリーの雄姿が輝く。彼に向かって、スリザリン以外の観客が拍手喝采で祝福していた。

 スネイプとクィレル以外の教師陣もハリーに満面の笑みを向けて拍手している。

 クローディアとハーマイオニーもいつのまにか、お互いの手を叩いて喜びを分かち合った。

「グリフィンドール、170対60で勝ちました!」

 実況役のリー=ジョーダンが歓声を更に盛り上げた。

 興奮したクローディアは、ハーマイオニーと階段を降りようした。

 だが、クローディアのローブを力強い腕が引き止め、一瞬、首が絞められた。

「ミス・クロックフォード、君はこっちだぞ」

 自身の監督するスリザリンの敗北に、スネイプの表情が不機嫌を通り越して愉悦に満ちていた。

 人は頂点まで怒ると笑みを浮かべるものだと、クローディアは思い知った。

 

 興奮冷めやまぬ競技場の外で、クローディアは縮こまっていた。ベッロを腕に巻いたスネイプと怯えるクィレル、状況が掴めないフリットウィックの視線が痛い。

 スネイプから事情を聞き、フリットウィックは憤慨した。

「一体、どういうことかね! ミス・クロックフォード! クィレル先生を襲わせるとは!」

 クローディアの膝の位置で、フリットウィックは金切り声を上げる。すぐにクローディアは全力で否定した。

「私はそんなこと……させておりません」

「ともあれ、この子がクィレル教授を襲ったのは事実。それ相応の減点と罰則は覚悟でしょうな。ミス・クロックフォード?」

 スネイプはベッロの喉を指先で撫でながら、口元に笑みを浮かべていた。ベッロは、彼の指を堪能するように、機嫌が良かった。

(なんで、こんなことに……)

 飼い蛇の失態は、飼い主の責任。

 脳内で様々な思考が走り回るクローディアは、言葉を発することも出来ない。視界の隅に入れたベッロを睨むが、気休めにもならない。

「別に、私は……、罰則は、必要ないかと、お、思います」

 クィレルのか細い声で聞き逃す所であった。驚いたスネイプとフリットウィックは、すぐに彼に視線を向けた。

「だ、誰だって、き、機嫌が、悪いとき、は……、あるでしょう。そ、それに、ケガ人は、出ていないわけだし……」

「クィレル先生」

 クローディアが感嘆の声を上げると、スネイプの鋭い視線がこちらに刺さった。

「それでは、示しがつかん。無差別に人を襲う蛇がいたのでは、レイブンクローとしても厄介でしょう?」

「そうですな、これまでは運がよかっただけかもしれませんし」

 スネイプの考えを肯定するフリットウィックに、クローディアは狼狽した。

「では、こ、こうしては、……どうでしょう?」

 静かにクィレルがクローディアの前に立った。まるで、スネイプの視線から彼女を守るような位置だ。

「こ、この蛇をご家族の下に返して、ク……クリスマス休暇が……あ、あけるまで謹慎と、いうのは?」

「ミス・クロックフォードではなく、この子に罰則を与えると?」

 スネイプの眉間に深くシワが刻まれた。

「そ、それで、よろしい、ですね? ……フリットウィック先生?」

「まあ、襲われたクィレル先生がそうおっしゃるなら」

 クィレルが一瞬、クローディアを振り返りウィンクをしたのを見逃さなかった。感謝の意味を込め、深く頭を下げた。

「ありがとうございます」

 不満げに、スネイプがベッロをクローディアに返した。

「使い魔を見捨てるとはな」

 侮蔑を込めた視線と言葉を吐き捨て、顎で去るように指示した。クローディアはクィレルとフリットウィックに頭を下げ、小走りで城へと戻った。

 廊下では、『ほとんど首なしニック』がグリフィンドールの勝利を自慢して回っていた。

「ハリー=ポッターがやりましたぞ! あの子ならやると思っていました!」

 スリザリン生たちは絵の住人や幽霊に悪態付き、乱暴な足取り廊下を突き進んでいた。そんなスリザリン生をグリフィンドール生が笑いかける。

 チョウの姿を見つけて、クローディアは呼びとめた。

「チョウ、ごめんさ。寝坊してさ」

「いいのよ。それよりも、ハリーよ。スニッチを口で受け止めるなんて、あんなプレー初めて、来月は私の番よ。特訓だわ。来週は予約しないと。クローディア。私、キャプテンと相談があるから先に行くわ」

 ハリーの試合を見て触発されたチョウは、遅刻を気にしていなかった。興奮を抑えきれず、ブツブツ呟きながら廊下を走り去った。

 

 談話室も生徒たちは試合の名残で、興奮していた。

 ただ1人、クローディアは憂鬱な気分で部屋に戻る。虫籠にベッロを押し込もうとすると、抵抗された。どうやら、ベッロは虫籠に入れられたくないらしい。そんなベッロの意見を聞く気もなく、無理やり、詰め込んだ。虫籠の蓋が開かないように、紐で縛る。

「ごめんさ、しょうがないさ。退学にならないだけいいさ」

 ドリスに事態の詳細を手紙に記していると、息を切らしたリサが部屋に入ってきた。

「クローディア、チョウ知りません? キャプテンが探していますの」

「チョウなら、キャプテンを探してるさ」

 リサは呼吸を整え、口を開く。

「そうでしたの。チョウが戻りましたら、キャプテンは『呪文学』の教室にいるとお伝え下さい」

 それだけ告げると、リサは再び慌てふためいた様子で出て行った。

 談話室に降りてみれば、ロジャーが深呼吸しながら、椅子に腰をかけた。

「誰かキャプテン、見なかったか?」

 皆、知らない様子だった。

 クローディアがリサからの情報を伝え、ロジャーは感謝の意味で手を振る。

「ありがとう、クロックフォード。そうだ、外に出るなら、ウッドとフリントが揉めているから気をつけろよ」

 疲労した表情を隠さずに、ロジャーは覚束ない足取りを整えて走り去った。

「ウッドとフリントって、誰さ?」

「試合見てないの?」

 椅子に座っていたジュリアが怪訝そうに吐き捨てた。

「寝坊して、ちゃんと見てないさ」

「しょうがないわね、オリバー=ウッドはグリフィンドールのキャプテンで、マーカス=フリントはスリザリンのキャプテン。多分、さっきの試合に文句つけているわけ」

 面倒そうに口に開いたが、ジュリアは丁寧に説明してくれた。

「ありがとさ、ジュリア」

 素直に礼が返ってきただけでなく、名前を呼ばれた。いつも名字呼びだったため、ジュリアは驚いて、クローディアから視線を逸らした。

 虫籠を抱えて、螺旋階段を登る。廊下を進んでいるとロジャーの忠告通り、マーカスの怒声が廊下に響き、絵たちが野次馬となって声のほうに集まっていた。

 グリフィンドール寮に通じる階段でオリバーとマーカスを取り囲むように生徒達も遠巻きに観戦している。

 その中には、フレッドとジョージや、ドラコ、クラップとゴイルもいる。

「あんなの卑怯だろ!」

「勝負は決した! マクゴナガル先生も認めた! これ以上の抗議は見苦しいぞ!」

 オリバーも負けじと 声を張り上げている。

 見物する気はない。しかし、クローディアがフクロウ小屋に通じる最短の廊下を行くには、喧騒を通り過ぎていくしかない。

「やあ、クロックフォード。さっきの試合見た? 俺、カッコ良かった?」

 フレッドの後ろを通り抜けようとしたクローディアは、その先でジョージに捕まった。

「えと、ごめんさ。私、寝坊して、ポッターがスニッチ取ったことしか知らないさ」

「そりゃザンネーン♪」

 大袈裟に肩を落として項垂れるジョージに手を振り、クローディアはその場を去ろうとした。2人の会話を聞きつけたフレッドが彼女の背を押し、騒動の向こうに連れ出してくれた。

「そんなに急がないでよ。もっと、僕らと話しようよ」

 フレッドの言葉にジョージも賛同して頷く。

「嬉しいさ、でも急ぎの用があるさ」

 ドリスにフクロウ便を出さなければならない。出来るだけ、クローディアは穏やかな口調で断りを入れる。しかし、2人の顔はより迫ってきた。

「もしかして、まだ根に持ってる?」

「ハリーに箒が来た日、俺らが君を置いてったこと」

 的外れの指摘だ。クローディアは既に忘れ去っていたことだ。

「今のいままで忘れてたさ」

「「我々との会話を忘れたの!?」」

 違う意味で受け止めた双子は、大袈裟に廊下に座り込む。その場で世の終わりを嘆くように、乱暴に手を付いた。

(う……うぜえさ)

 本音を隠し、クローディアが頭を押さえて去ろうとすると、フレッドが腕を掴んで引き止めた。

「待ってよ。せめて、トロールを倒した話を聞かせてくれ~」

 驚いたクローディアは、フレッドを振りかえる。

「な……、なんでさ? 誰から?」

「ロンからだよ。君が大活躍したって」

 ジョージがクローディアの両肩に手を置いてウィンクする。

 それを聞いて、別のことでも納得した。ロンと双子を通じて、ジュリア達にトロールの話が広まった。考え込む仕草をしてから、クローディアは双子を交互に見やる。

「つまりさ、フレッドとジョージは、弟のロンを助けてくれて、ありがとうって言いたいさ?」

「「少し、違う。でも、間違ってない」」

 合わせ鏡のように同じ動きをする双子が笑いのツボになり、クローディアは腹を抱えて笑った。笑うとクローディアに纏わりついていた憂鬱が消えて行った。双子はお互いの顔を見やり、大袈裟におどけて肩を竦める。

「ごめんごめん、あんたらが優しいお兄ちゃんでロンが羨ましいなって思ってさ」

「あらやだ、この人。僕らが優しいだって」

「もっと、褒めてくれて構わないぜ」

 笑いが治まったクローディアは、人差し指を立てる。

「ひとつ、言うさ。あの場で助けてくれたのは、ロンさ。ロンが頑張ってくれたから、皆助かったさ。ロンは本当に勇敢さ」

「「だってさ! ロン!」」

 双子がクローディアの背後に向かって叫んだ。

 振り返ると、ハーマイオニー、ハリー、ロンが並んで歩いていた。照れているのか、ロンは耳まで真っ赤に染まっていた。ハリーがからかうように、ロンに肘打ちしていた。

 ハーマイオニーはクローディアの手を取り、フレッドとジョージを見上げた。

「クローディアに話があるの、いいかしら?」

「「どうぞ、グレンジャー♪」」

 クローディアはフレッドとジョージに手を振り、騒動から離れさせるためにフクロウ小屋まで付き添わせた。

「私、一人っ子だから、兄弟とかわからないけど、いいお兄ちゃんさ」

 クローディアの言葉に、更に照れたロンはトマトのように真紅だ。表現ではなく、本当に耳から湯気まで出している。

「そうよ。あの2人は、クローディアにお礼が言いたかったのね、ずっと。でも、クローディアったら、2人を避けてたんですもの」

「私がさ?」

 意外なハーマイオニーの言葉に、クローディアは目を丸くした。

「そうだよ。ハロウィンの日から、2人とも、君に話しかけていたのに、全然気づいてなかったから、避けてるもんだとばかり」

 ハリーも後を続けた。

 思い返してみれば、そういう場があったかもしれない。ハーマイオニーとの距離を感じて卑屈になり、気づかなかったなどとは、絶対知られたくない。

(器が小さいさ、お礼を言おうとしてのにさ)

 故にスネイプへの礼も言い損なった。自身の行いを恥じたクローディアは、もっと周囲に目を向けるよう己に言い聞かせた。

 

 フクロウ小屋に着き、ハーマイオニーが慎重に誰もいないことを確認した。不思議に思いながら、クローディアはフクロウを眺める。緊張を含ませた声でハリーが問いかけた。

「スネイプの様子、どうだった?」

「普段通り、私に罰則を与えようとしたさ。けど、クィレル先生が取り成してくれたおかげで、ベッロを家に帰すだけで済んださ」

 縛られた虫籠を3人に見せつける。

 悲しげに虫籠を見つめたハーマイオニーは、口を開く。

「ベッロが騒ぎを起こしてくれなかったら、ハリーが殺されてたの」

 脳の奥が熱くなった。眩暈よりも深く重いモノがクローディアの思考を浸食していく。

 黙っているクローディアに構わず、3人は試合中にスネイプがハリーの箒に呪いをかけ、箒が不自然に暴れてハリーを落とそうとした。それを阻止するためにハーマイオニーが貴賓席を目指していたことを説明した。

〔そんな馬鹿な〕

 戦慄が走り、思わず日本語を口走った。

 あの時、スネイプがハリーを殺すために呪文をかけていた。ベッロがクィレルを襲った騒動のお陰でスネイプが呪文を中断した。それで、ハリーは助かり、試合に勝利した。

 スネイプがハリーを殺す。人が人を殺そうとした。

「いくらなんでも、大袈裟さ。スリザリンを勝たせたかっただけさ」

 必死に笑みを作り、クローディアは3人の仮説を否定した。

 これにハリーが遠慮がちに答えた。

「傷だよ、昨日の……、君も見たろ?僕があの傷をフラッフィーに噛まれたことに気づいたからだ!」

「フラッフィーって誰さ?」

 興奮して口走るハリーを尻目に、ハーマイオニーがハグリッドの犬だと補足した。フラッフィーが仕掛け扉の番犬をし、扉の向こうで守っているものをスネイプが狙っていると確信していた。

 あまりにも大それた推測、クローディアは呆れつつも感心した。

「それさ、状況証拠だけさ。ハーマイオニー、もう少し考えるさ。スネイプ先生は教師さ。トロールなんて仕向けなくても、いくらでも口実を作って4階に行けるさ。最初から盗む気なら、誰にも疑われずにやるさ! 怪盗ルパンじゃあるまいしさ」

 これにハーマイオニーが反論した。

「先生だろうと、怪盗だろうと呪いをかけたのよ」

 クローディアは深呼吸し、腰に手を当てた。ハリーやロンだけならまだしも、賢明たるハーマイオニーまで、学校の教員に嫌疑をかけるなどあってはならない。

「だからさ、ちょっと自分のチームを勝たせたかっただけさ。本当に殺す気なら、ベッロがスネイプ先生を襲うさ。ポッターの危険を察したのなら、なんでクィレル先生に飛び掛ったさ?」

 ロンが自信満々に即答した。

「ターバンのニンニクの匂いが嫌いだからだろ? ベッロは本当に機嫌を悪くしただけ、スネイプにしてみれば、ベッロを始末する絶好の機会だっただろうさ」

「違う!!」

 自分でも信じられない程の大声をあげた。

「教師なんだ! 人の命が重いことがわかっているはずだ! そんな人が生徒を殺そうとするものか!」

 クローディアは切羽詰まった口調で怒鳴る。彼女の口から吐き出されているのに、まるで別人の言葉に聞こえた。

 クローディアもこれは自分の言葉か疑問に思う。

「そこにいたのか!?」

 来訪者オリバーの嬌声に、ハリーが引きつった悲鳴を上げる。

「主役が何してる! 今から作戦会議だぞ! 次はハッフルパフが……君は誰だ?」

 警戒の眼差しでオリバーは、クローディアを眺める。

「レイブンクローの子だな。ハリーを引き抜こうとしても無駄だぞ」

「お祝いの言葉を述べただけです」

 愛想良く微笑んだクローディアはオリバーに会釈する。適当にフクロウを掴み、手紙と虫籠を括りつけて放った。

 

 夜になってもグリフィンドールの談話室では、勝利に酔い騒いでいた。

 しかし、ハーマイオニー、ハリー、ロンは騒ぎに参加せず、窓際に座る。

 結局、クローディアを説得出来なかった。彼女なら、自分達の言い分を信じてくれると期待していた。だが、ハグリッドと同じ反応された。

 それどころか、普段のクローディアとは違う一面を見た気がした。

「ねえ、クローディアに『ニコラス=フラメル』のこと……」

 ロンが遠慮がちに口を開くと、ハーマイオニーが悲しそうに目を伏せる。

仕掛け扉に隠された物。それを知る手掛かりは、ハグリッドがうっかり口を滑らせた『ニコラス=フラメル』という魔法使い。だが、3人はその人物が何者なのか知らない。

「それは私たちで調べましょう。彼女、多分……スネイプを疑いたくないのよ」

「どうして? クローディアは僕と脚の傷を見たんだ。今日のことも完全にスネイプが怪しいじゃないか」

 歯がゆい思いでハリーが呟く。

「ハグリッドと同じ理由よ。ホグワーツの先生が……人の命を狙うなんて信じたくないじゃない」

 ハーマイオニーの言葉が終わると共に、上機嫌のオリバーがハリーを連れて行く。皆に囲まれて胴上げされる主役へ2人は、生暖かい視線で見送った。

 




閲覧ありがとうございました。
蛇におそわれても、とれないターバン。

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