はーとふる☆ぷりずむすとーりー   作:ぺちぺち

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 遅れまして第8話です。
 7/12には主人公設定の投稿と活動報告にて今後の方針を投稿しようと思っていますのでそちらもご覧頂ければと思います。

 他キャラ視点で書くのスゲー面倒だったゾ。


第8話:怪物には怪物をぶつけんだよ

--(1)

 

 「立場をはっきりさせておくべきだと思うの!」

 

 朝食時、睡眠中である人様の顔面を引っ叩いたクレイジー銀髪ロリがそう言い放った。

 叩かれた理由は完全に不明である、というか叩かれた衝撃で起きたようなもんだし。

 俺としては立場云々の前にシバかれた理由の方を教えて頂きたいんですけど(おこ)

 

 なお立場云々に関してはイリヤ曰くクロも家族になったなら家庭内ルールの他に力関係も最初に取り決めておいた方がいいという事らしい。

 男子の立場が弱いのはわかりきってるんで俺と士郎さんからすればどうでもいいなんてレベルじゃないんですけどね。

 アイリさんの書いた力関係の図も下記の通り底辺だし。

 

①アイリ

―――神の壁―――

②キリツグ

―――親の壁―――

③イリヤ

―――お嬢様の壁―――

④セラ リズ

―――メイドの壁―――

⑤シロウ

―――兄の壁―――

⑥マイネーム

 

 予想通りのクソザコですなぁと男女比の影響力を痛感する。

 我が家の方で士郎さんとホームシェア出来ればそんな事も気にしなくていいんだがなぁ……。

 ……。

 ………。

 すればいいじゃん、ホームシェア(名案)

 姉だなんだと言い争っているイリヤ達を後目にそう思った。

 

 というかカースト制で表すって地味に酷くない?

 

 

 

 

 

 

--(2)

 

 お引っ越しタイムだオラァと士郎さんと共に家具や雑貨等を俺の家に移動させていく。

 何故かって?

 士郎さんと一緒にアイリさん達を説得したからかな。

 もう全力だった。

 どれくらい全力かというと表情筋がぶっ壊れるレベルで全力。 

 詳細については端折るが原稿にすれば40頁分に及ぶ交渉戦が行われていたとだけ言っておこう。

 最終回どころか劇場版レベルでしたわ。

 『絶対に負けられない戦いが、そこにはある(キリッ)』みたいな。

 

 そんな訳で『好機逸すべからず』『今日なし得ることは明日に延ばすな』という素晴らしいことわざの元今日は士郎さん共々学校を休んでワンルーム分の引っ越し作業である。

 つっても余り部屋を掃除してそこに士郎さんの荷物を持って行くだけの簡単作業なんだけどね、箪笥とかの重い家具も魔力使えば難無く運べるし。

 勿論限度はあるから鍛えてるからって言い訳が立つ程度に抑えなきゃいけないんだけど。

 

 箪笥「ベキィッ!」

 

 士郎「( ゚д゚)」

 

 ヤベッ、力加減間違えた。

 

 

 

 

 

 

--(3)

 

 時刻は丁度午後辺り、多少しくじった部分もあったがなんとか終わらせる事が出来た。

 冷蔵庫から出した麦茶を「キンキンに冷えてやがる……!!」と五臓六腑に沁み渡らせながら味わっていると当麻君からメールが来た。

 件名は『マジやばくね』本文は無く動画が添付されているだけのようだ。

 

 再生してみると奇天烈な頭髪から始まり続けて謎のツンデレアピール、締めに缶ジュースを中身の入ったまま握り潰し中身をぶち撒けたイリヤが映っていた。

 しかもこの一連の動作が休み無しで映され続けるという地獄絵図、俺はおろか一緒に見ていた士郎さんすらもドン引きである。

 

 「マジやばくね」

 

 意図せずして漏れたであろう士郎さんの言葉が俺の心境を物語っていた。

 

 

 

 

 

 

--(4)

 

 調理実習の時間だオラァ!

 実習内容はパウンドケーキ、レシピも材料も揃っている上に調理自体も簡単極まりないがだからといって手は抜かない。

 むしろ最高のパウンドケーキを作り上げて他の班との格の違いって奴を思い知らせてやろうじゃないか。

 何故そこまで気合いが入っているのかって?

 勝負事になったからだよ。

 

 朝のHR前にイリヤとクロが競い合いを宣言し、俺が審査員になる予定だったのだが勝った側には俺が一つだけ命令を聞かなければならないという理不尽ルールだったので急遽参戦した次第。

 ルールを『勝った側が負けた側の内一人に公序良俗に反さない範囲で命令出来る』という内容に改正し、審査員の座は公正かつ平等な判定が出来る美遊にお願い……しようと思ったが美遊も参戦したいと言い出したので零児君に頼む事にした。

 

 A班:イリヤ、嶽間沢、栗原

 B班:クロ、桂、森山

 C班:美遊、篠ノ之、吹寄

 D班:俺、一夏君、結城

 

 A班はほぼ見えた地雷、B班は桂がいるお陰かマイルド、C班は戦力過多、我等がD班は俺を除けば優秀な人材なのでまぁ問題なかろう、なにせ男子のプライドを圧し折って女子である結城に救援要請をしたのだから。

 さぁ、戦力確認も終わった所でいざ尋常勝負といこうか!!

 

 

 零児君「判定するまでもなくC班」

 

 

 でっすよねー^q^

 

 

 A班:ナツメグ等が投入された論外。

 B班:可もなく不可も無くを貫いた期待通りのマイルド。

 C班:ウェディングケーキという調理テーマからぶち壊しにかかる変態。 勝てるわけが無い。

 D班:パウンドケーキとしての完成度は高かったがウェディングケーキを引っ提げたC班に対抗出来るわけがなかった。

 

 で、美遊の命令なのだがタゲが俺に向いた。

 「何を言われるか予想できねぇぞヤベーッ」っと思っていたが都合の良い日に一日だけ俺の家に泊めて欲しいという内容だった。

 

 軽い内容で良かったーと胸を撫で下ろすが美遊は本当にそれで良かったのだろうか?

 しかも家には士郎さんも居るから居心地が悪いのでは……別に構わないと言われた。

 マジかよ。

 なんか悪い気がしたので美遊が泊まる際には出来る限り言う事を聞くと約束しておいた。

 多少なら無茶振りも可。

 まぁ多少だからあんま期待しないでおくれやす。

 

 

 

 

 

 

--(5)

 

 パウンドケーキ案件から更に数日が経った。

 今日は放課後から刹那君とガンプラバトルの模擬戦である。

 俺の機体はガンダムじゃなくてACだろって……?

 ガンプラバトルは自由だって三代目メイジンが言ってたゾ。

 

 刹那君のカスタムエクシアが射程に飛び込んで来た所で即アサルトアーマーをぶっぱ。

 更にコジマの光に飲まれた状態のカスタムエクシアに向けてコジマキャノンをぶち込み一息の間で撃墜する。

 これで23回目の撃墜だ。

 

 傍に控えているチーム顧問のイアンさんから「容赦ねーな」との言葉を頂くがいかに近接特化とはいえ自分からキルレンジに飛び込んでくるのが悪い。

 そもそも刹那君の操縦技術がどれだけ優れていようと特化型機体の出来る事は汎用機に比べると圧倒的に限られているのだ、そういう機体はちょっと戦術を組めば簡単に潰せる障害でしかない。

 というか多少の操縦技術の差や機体性能の差はメタの理不尽で叩き潰せちゃうのよね。

 

 イアン「お前の機体もPA整波性能とKP出力特化の変態構成じゃねぇか」

 

 俺のは浪漫に生きてるから良いんだよっ!!(暴論)

 しかもレギュ1.15仕様な上ガンプラバトルはアセンブルの自由度が本家ACfaよりも遥かに充実してるから魔改造し放題だし。

 今の構成だと実質汎用機みたいなもんだし。

 アセンブルに関してはアンサングを組んでも重量過多にならないどころか積載量が余るくらいの自由度と言えば伝わるだろうか?

 

 大量の遠距離攻撃を無敵のプライマルアーマーで防ぎつつ一方的にコジマキャノンやプラズマライフルを叩き込む理不尽さと快感は形容し難いものがある。

 それ以前に適当にクイックブーストを吹かしてるだけでも余裕で避けれるし。

 近接戦も多段クイックブースト状態で掠めるようにKIKUをぶち込んでやれば殆どの機体はアッー!ってなるから無問題。

 伊達にアンサラーを叩き落とす火力はしてないぜ。

 いざとなったらアサルトアーマーでフィールドごと消し飛ばせばいいし。

 やっぱコジマの光って至高だわ。

 

 コジマキャノンを溜めながらオーバードブーストを吹かして距離を詰め、再出撃したカスタムエクシアにゼロ距離ぶっぱを浴びせながらそう思った。

 

 

 あぁ^~汚染物質がぴょんぴょんするんじゃぁ^~

 

 

 

 

 

 

--(6) 

 

 結局アレから50戦以上も続けてしまった。

 イアンさんが止めてくれなければいつまで続けていた事やら……というか刹那君がしつこ過ぎる。

 50回以上倒されてなお続けようとするとか正気の沙汰じゃねぇぞ、今思えばノリノリで付き合っていた俺自身もどうかと思うが……勢いって怖い。

 

 

 そんな至極どうでもいい事に思いを馳せつつ帰路を辿り、我が家とアインツ家、エーデルフェルト邸等の並ぶ宅地の街路まで着いた所で、妙な違和感を感じた。

 違和感と言うか気持ち悪い感じ、なんかザワザワする。

 

 原因はまずエーデルフェルト邸から漏れる僅かな魔力の残滓。

 続けてほんの僅かに体を圧す威圧感。

 そして最後に認識阻害の掛けられている筈のエーデルフェルト邸から感じ取れる微量ながら明確な衝撃と破壊音。

 ……絶対面倒な事になってる(断言)

 

 後々に何かしらの影響が合ったら困るから介入させて貰いますけどそろそろ迷惑手当てあたりくれよなー、とか思いつつ門を開ける。

 

 

 ………ウチのロリっ娘三連星が見知らぬ不審者にボコされていた。

 

 こいつ、今すぐ殺さなきゃ(使命感)

 

 

 

 

 

 

--(ex:Miyu)

 

 何が起こったのか理解出来なかった。

 イリヤから託されたカード、その真価を発揮し、目の前の敵を確実に倒す筈だった。

 結果は違う。

 発動させた筈の宝具は強制的に解除され、私は地面に伏せていた。

 確実な勝利を決める筈の奥の手が一瞬で攻略されてしまった。

 

 「美遊!後ろ…!」

 

 「あ……っ!!」

 

 クロの警鐘に意識を戻し、同時に原始的な危機感を覚えるも既に手遅れ。

 敵は既に距離を詰め、最後の止めを刺そうとしている。

 体を動かし距離を取ろうにも、足掻きにすらならない絶望的な状況。

 

 (やられ……っ!!)

 

 『やられる』そう確信した瞬間。

 私と敵の僅かな間合いに一つの影が割り込み、眼前に居た敵を弾き飛ばした。

 

 「また新手……っ!!?」

 

 弾き飛ばされつつも体勢を立て直し、いい加減忌々しいと顔を歪める敵、その視線の先。

 

 

 「…生きてる?」

 

 

 日常会話の様な軽い声色と共に、私と敵を遮る様にして"彼"がいた。

 

 「美遊、動けそう?」

 

 「え、あ…うん、けどイリヤとクロが……」

 

 「……そっかー」

 

 返答しつつ彼はボロボロのイリヤとクロの姿を確認し、「フゥー…」と目を閉じながら息を吐く……そして。

 

 

 「じゃあ二人を連れて適当に離れてて」

 

 

 言葉と共に目を開き、地面を踏み砕くと同時に敵へと跳んだ。

 

 

 

 

 

 

--(ex:Bazett)

 

 協会からカード回収任務が再発行され、私は再び冬木市へと赴いた。

 カードを回収する上で障害となったエーデルフェルトの現当主とその執事は打倒した。

 援軍であろうアーチャーのカードと同種の力を扱う少女とゼルレッチ卿の礼装を持つ少女達も討ち果たした。

 

 あと二枚、アーチャーとライダーのカードを回収するだけで終わる。

 任務は完遂される。

 その最後の締めとも言えるべき盤面で……ソレ(・・)は現れた。

 ソレは、未だ幼い少年だった。

 年齢は恐らく少女達と同年齢、比較的整った顔立ちに艶のある黒髪と無機質さを感じさせるガラス玉の様な青い瞳。

 蒼い少女への攻撃を妨害した事から考えるにこの少年も敵の援軍。

 戦力で考えれば蒼い少女がライダーのカードを使用した事と同様にこの少年もカードを使用する可能性は十二分にある他、ゼルレッチ卿の礼装の様な特殊礼装を所持している可能性も否定出来ない。

 しかし七枚のカードの内五枚は私が所持し、残る二枚は二人の少女が別々に所持している以上彼がカードを握っている可能性はゼロ、加えて先程私を妨害した際も礼装等を起動させた上で強襲した方が効率が良いにも関わらず使用した形跡が見られない事からそういった礼装を所持している様には見受けられない。

 つまり完全な丸腰、であれば如何ほど魔術が扱えようと打倒する手段は余るほどある。

 

 

 

 

 筈だった(・・・・)

 

 

 

 

 弾丸の様な勢いで迫る少年に一瞬で間合いを詰められ、殴り飛ばされた。

 反応が遅れた?否、防御が間に合わなかった?否、踏ん張りが利かなかった?否。

 防ぎっ切ったにも関わらず、体勢が整っていたにも関わらず…純粋な威力に押し負け、ガードの上から殴り飛ばされたのだ。

 何の変哲もないただの子供に。

 

 「何っ……!?」

 

 その事実が理解出来なかった。

 疑問に思ってしまった。

 そして疑問は精神を揺さぶり、揺らいだ精神は無意識的な不安を呼び起こし、そして……。

 

 「後ろッッ!!!?」

 

 不安は決定的な隙を生み、受け身を取った直後に回り込んだ少年から抉り込む様な蹴りを入れられ、倒壊したエーデルフェルトの邸宅に叩き込まれる。

 蹴りは的確に脇腹を捉えており、魔術で強化した肉体が内臓まで悲鳴を上げる程のダメージを与えられた。

 そこまでされて、漸く冴えて来た頭が自信の過ちに気付く。

 

 何がただの子供だ、本当にただの子供であれば蒼い少女への攻撃を妨害された時から吹き飛ばされる筈が無かった。

 否、妨害されること自体無かった筈なのだ。

 加えてカード回収に関わっていたとあれば黒化英霊との戦闘は避けては通れない、つまりこの少年も黒化英霊と刃を交えた可能性が十分に存在する事になる。

 

 『特殊な礼装も、宝具級の切り札も無く、ただの魔術だけで』

 

 その事実がどれ程驚異的であるか理解する。

 丸腰という事だけで無意識に油断していた己を叱責し、これまで戦って来た者達以上の脅威として再認識する。

 『次は無い、もう油断はしない、同じ失敗は有り得ない』そう自身に言い聞かせ、コンディションを整えると同時に―――。

 

 「接続(セット)交流数紋(オルタネイト)――」

 

 「ッッ!!?」

 

 詠唱と共に少年の右腕から煌々と輝く魔法陣が展開され、一瞬の間に二工程の術式が構築される。

 二工程とは思えない異常なまでの魔力が籠められたソレは既に射出準備を終えたと言わんばかりの輝きと魔力を迸らせ――。

 

 (不味…っっ!!)

 

 「回路(タービン)放て(ファイア)

 

 詠唱の終了と共に極光と化した魔弾を撃ち放つ。

 地面を抉り飛ばしつつ迫る魔弾を瓦礫の山から転げる様にして回避する事で間一髪で射線から逃れ……。

 

 

 着弾と同時に自身が先程まで居た瓦礫の山が消し飛んだ(・・・・・)

 

 

 「何だこれは」その言葉を呑み込み、同時に息を呑む。

 放たれたのはたかだか二工程の魔弾だった筈だ、撃ち込まれた魔弾はたった一発しかなかった筈だ。

 にも関わらず…一般的な家屋よりも遥かに巨大な邸宅の残骸が、あの超質量の塊が跡形も無く消し飛ばされた。

 即興で製作した術式で、牽制でしかない魔弾でこの威力。

 

 「やっぱり点じゃ駄目だな……交流数紋(オルタネイト)、複写術式展開」

 

 底冷えするかの様な声が耳に入ると共に、少年の背後から二十を超える術式(砲門)が現れる。

 その全てが、先程瓦礫の山を消し飛ばしたモノと同様の物であると理解した。

 先程展開された術式と同様に煌々と輝く二工程の魔法陣、その一発一発が必殺級の威力である事を先程の魔弾が物語っている。

 

 

 「………怪物め」

 

 

 今まで自身が其処彼処で散々言われ続けた表現を思わず口にする。

 十数メートルの距離を一瞬で詰める程の速力、白兵戦については未知数だが、速力と相乗させた瞬間的な爆発力であればライダーのカードを利用した突進攻撃にも迫りうる近接攻撃力、たかだか二工程の単発魔弾であっても出鱈目な火力を叩き出す遠距離攻撃力。

 これを怪物と呼ばずに、なんと呼べるのだろうか。

 

 しかしここで退くわけにはいかない。

 目の前の怪物が少女達を護ろうとする事と同様に、自身にもカードの回収という責務がある。

 故に……。

 

 「魔術協会所属封印指定執行者……」

 

 この場で怪物を打倒する突破口を模索する。

 相手の切り札を引き吊り出さない限り斬り抉る戦神の剣(フラガラック)は使えない。

 加えて怪物との距離は15~20メートル程も離れているにも関わらず遠・中距離戦での戦闘は絶望的に不利…しかし。

 

 「バゼット・フラガ・マクレミッツ」

 

 近距離に潜り込みさえすれば、自身の十八番である近接格闘戦であれば、如何に爆発力のある相手であろうと勝機はある。

 距離を詰める事さえ出来れば、勝ち目が産まれる。

 それだけで十分、玉砕など端から覚悟の上。

 

 

 「推して参ります……!!」

 

 

 名乗りを上げると共に怪物へ向けて駆け、自身の出せるトップスピードを以て迫る……そして。

 

 

 「回路(タービン)放て(ファイア)

 

 

 怪物が詠唱を完了させると同時に、視界の全てが青に飲まれた。

 

 

 

 

 

 

--(ex:Illya)

 

 「うわぁ……」

 

 目の前の光景に、気が付けばそう呟いていた。

 ダメージで思い通りに動かない体をクロと一緒に美遊に担いで貰い、私達はルヴィアさんの所有する敷地内の離れまで移動して彼とスーツの人との戦いを眺めている。

 

 一方的だった。

 

 弾幕の雨が敷地内の全てを吹き飛ばし、今まで私たちが攻立てられていた相手を彼が攻めたてている。

 攻防にすらなっていない蹂躙。

 黒化英霊との闘いとは比にならない強さを発揮する彼がそこにいた。

 

 「いやー、分かっていたつもりですけど最高クラスの執行者を相手にここまでとは…やっぱり"全開の彼"はトンデモないですねー」

 

 「ルビー…これ何?」

 

 「ん~……何と言いますと? ルビーちゃん的には主語が抜けていてイリヤさんの質問を図りかねますよ~」

 

 「私もクロも美遊もすっごく頑張ったよ、でも全然敵わなかった……カード回収の時は皆一緒でやっと戦えてたのに何で……」

 

 「何で一人で戦えるの?」そう口にせずにはいられなかった。

 それ程までに差があった。

 黒化英霊との戦いでは自分達と同程度の力しか出していなかった筈の彼が、何故自分達が終始劣性だった相手に優勢を維持し続けられているのかが不可解でしかたなかった。

 

 ……まぁ黒化英霊云々以上に友人がゲームに出て来る裏ボスの如き恐ろしさで破壊光線(仮称)を撃ち放つ人間ビームランチャーと化していたら誰でも説明を求めるとは思うけれど……(引き気味)

 

 「あぁ~、それは仕方がありませんよ。 黒化英霊との戦いと、今の執行者との戦いは彼にとって根底から違いますからね~」

 

 「根底……?」

 

 「そのとーりです。 イリヤさん、始めての鏡面界での戦い…ライダーとの戦いで一番最初に起こった事を覚えていますか?」

 

 ライダーとの戦いで一番最初に起こった事……それは彼が今と同じ様に出て来たばかりのライダーに魔弾を撃ち込んだ様な気がする。

 それを正面から食らったライダーは全くの無傷で……。

 

 「あぁ、そういう事……そりゃ何もかも変わるわよね、自分の十八番が封じられちゃってるんだから。 私が同じ状態になったら即死だわ」

 

 何かに気が付いたのか「あぁ、納得」とでも言いたげにクロが呟いた。

 

 「さっすがクロさんは目の付け所がシャープですねぇ♪ そう、あの時も彼は魔弾を放ちましたがライダーには全く通用しませんでした…"対魔力"が原因で」

 

 "対魔力"…美遊が転校して来た日にルビーとサファイアから聞かされた、ルビー達カレイドステッキがカード回収に指名された理由の一つ…たしか『魔術を無効化する概念的な守り』って言っていたような……。

 

 「あっ!」

 

 「漸くニブチンで鈍感なイリヤさんも気が付きましたかー? そう、お察しの通り彼が短期間で劇的に強くなった訳ではありません、そもそも黒化英霊との戦いは彼にとって『受ける事すら無謀な戦い』だったんです。 ライダーとセイバーの『対魔力』、キャスターの『反射平面と転移』、バーサーカーの『一定以下の攻撃を無力化する宝具』その全てが彼にとって天敵なんですよ、TCGで言う所のメタゲームに例えても良いかもしれません……まぁ反射平面に関しては時折ゴリ押しで粉砕してらっしゃいましたけど」

 

 「メタゲーム……相性最悪って事?」

 

 「えぇ、恐らく彼本来の戦闘スタイルは今行っているような格闘と簡易魔弾を織り交ぜた変則的な遊撃だったんでしょう。 ですが相対した全ての相手が何かしらの"耐性"を持ち合わせていた為本来の戦術が使えなかった…余程格下が相手でもない限り戦いから"相性"は切って離す事は出来ません、そして彼はその"相性"の溝に見事嵌ってしまった。 それも考えうる限り最悪な形で」

 

 「色々と穴のある姉さんの解説に補足させて頂きますと、現在使用されている二工程の大砲(ドロウ)から更に上の魔術、四小節の大魔術(フォース・トゥ・フォース)の魔力圧縮といった類の魔術であれば如何に対魔力であろうと対処出来た可能性はあったかと思われます。 ですが相手となった黒化英霊は全て機動性・移動能力に優れている英霊ばかりであった為、連射制度の低い高ランク術式の使用は極力控えていたのではないかと推察されます」

 

 「流石はサファイアちゃん、的確かつ迅速な補足ですねぇ! 最初の部分が無ければもっと良かった!!」

 

 「姉さん、空気を読んで下さい」

 

 「というか、そんな小難しい話にしなくても私が投影魔術を封じられた状態って言えば良かったんじゃない? 弱冠キャラ崩壊してて気持ち悪かったんだけど」

 

 「そこはアレですよクロさん、ルビーちゃんの華麗な知的キャラをアピールして新たなキャラを開拓しようとですねぇ」

 

 「ルビー、多分もう今の発言だけで知的キャラは無理だと思うよ……」

 

 「あぁん! 無慈悲!!」

 

 「はぁ……」

 

 溜息と共にビクンビクンと脈打つルビーから彼の戦っている方向へ目を移す。

 いつの間にか衝撃も戦闘音も途切れており、戦闘によって生じた土煙も薄れて視界に映るのは三つの人影だけになっていた。

 

 まず一人目は全身を焼かれ、着ていたスーツの八割が消失し、四肢が異様な方向へ捻じ曲がっているスーツの人。

 二人目はその首を片腕で締め上げ、今すぐにでも握り潰さんとしている彼。

 そして三人目は何を言っているのかまでは聞こえないけれど彼に向けて言葉を投げかけている凜さん。

 ………凜さん?

 

 「元マスター生きとったんかワレェ! というか今までどこに居たし!」

 

 珍しくルビーと意見が一致した。

 

 

 

 

 

 

--(7)

 

 ………どうしようこれ。

 

 ボロ雑巾モードな不審者の首を締め上げている状態でそう思った。

 思ったというか我に帰った感じ。

 ビークール、ビークール、冷静になれ俺。

 怒りのままにボコしたがよくよく考えると事情を何一つ理解していなかった。

 まぁウチのロリっ娘共に手を出していた時点でボコすのは決定してたけど。

 

 敵なのは間違いないんだが今の戦いぶり……ルーンの扱いとそれを元にした戦術を熟知し、且つ人並外れた耐久と敏捷性、格闘能力を持っていた点から見るに格闘主体の戦闘に特化した魔術師だろう。

 そして時折口に出していた『カード』『回収』『協会(或いは教会)』『任務』といった単語、これ等の発言からはコイツの目的はクラスカードであり、誰かさんからの指示でカードを回収しに来たと考えられる。

 

 カードの事知っている点と無駄に高い戦闘スキル、『協会(教会)』といった単語からどう考えても魔術協会か聖堂教会から送られてきた戦闘屋です。

 本当にありがとうございましたクソが。

 ……後処理どうしよ。

 

 今気付いたとはいえ半殺しどころじゃ済まないくらいボコボコにしてしまった。

 四肢の骨格はほぼ全壊、それ以外の骨も所々イッてるだろうし何より魔弾の魔力ダメージや熱、衝撃波で目に見えない部分も相当ダメージが蓄積している筈だ。

 ………内蔵がいくつか死んだ可能性も……?

 これは殺っちまったかもしれんな。

 まぁ相手も殺る気まんまんだったんだし仕方ないよね?

 

 

 ………んな言い訳通用する訳ねぇだろやっべえええ……。

 これで俺もまさかの裏世界デビューっすか嘘だろ。

 ……嘘だろ。

 

 

 死体を消し飛ばせば隠滅出来るかしらんとか考えてたら凜さんが現れた。

 話を聞くに俺が無表情で不審者をぶっ殺そうとしているように見えた為、それを止めようとしたらしい、というか更に噛み砕くと不審者の身柄が欲しいようだ。

 俺としては生かしても殺しても結局面倒臭い存在なので喜んで引き渡した。

 そもそも前提条件として不審者の口止めと協会への言い訳、それなりの報酬を約束してくれた状態で渡さない筈が無い。

 メリットしか無いとか万々歳だぜヒャッハー。

 

 因みに不審者を引き渡したのは良いのだがボコし過ぎた為か相当の治療が必要らしく完治にはかなりの時間が掛かるとの事。

 最短で行っても夏休みに間に合うか否かというレベルらしい。

 まあ俺も正直やり過ぎたと思ってる。

 ただあの時は俺も加減してられる心理状態じゃなかったんだわ、スマンな。

 

 そんな事よりも凜さん……というか時計塔組は不審者を確保してどうするつもりなのかが気になる。

 

 「奴隷にするわ」

 

 直球過ぎて草生えた。

 

 

 

 

 

 

--(8)

 

 魔法少女組の安否を確認し、概ね問題無しと判明して安心した所で凜さんから地脈図を見せられた。

 どうやら黒化英霊が龍脈に与えていた影響が治っているかの経過観察を行っていたらしく、これは丁度今日の夕方頃に作ったものなんだとか。

 で、なんと大変な事に八枚目のカードが見つかってしまったらしい。

 

 ……へー八枚目。

 ……へー………。

 

 

 八枚目のカードってなにいいいいいいいいいいンァッ↑ハッハッハッハーwwwwwwア゛ン!!ンフンフンッハ アアアアアアアアア↑↑↑アァン!!!!!!アゥッアゥオゥウア゛アアアアアアアアアアアアアーーーゥアン!!!!!

 

 

 発狂したらシバいて正気に戻された。

 ソビエト式修理法で治るとか俺はレトロマシーンである可能性が高い……?

 

 ねーわ^q^

 

 

 

 

 

 

--(9)

 

 八枚目のカードの存在が判明してから盛大に意気消沈している美遊といつの間にか復活していたルヴィアさん、そして凜さんを連れて帰宅する。

 家が倒壊しているので今晩からエーデルフェルト邸が復活するまでの間はウチで生活する事になったのだ。

 因みに対価として美遊は調理実習で獲得した宿泊権の消費、ルヴィアさんからは現金、凜さんはほぼ一文無しだったのでメイド服で給仕をして貰う事にした。

 

 「何で私だけ羞恥プレイ染みてるのよぉ!!!」

 

 そこにメイド服があったからかな(ニヤケ面)

 実は八枚目カードに関しての八つ当たりが含まれていたりいなかったり。

 

 因みに凜さんとルヴィアさんが泊まる事により士郎さんの安寧が数日間消滅する事になった。

 なんかごめん……。

 

 

 

 

 

 




 宜しければ感想や評価、誤字報告下さい。リクエストやシナリオ内の疑問なども歓迎です。
 ……………感想下さい。


●主人公の本領
 元々主人公の主戦力は魔弾であり、対魔力や十二の試練といった何かしらの耐性を持っている相手と戦う場合は英霊と人間であるという点以上に魔弾禁止という盛大なハンデを食らってしまう。
 本領というのはそれ等のハンデが全て無くなった状態であり、主人公が正しく全力を振るう事が出来る状態を指す。
 クラスはランチャー(大嘘)






●バゼット・フラガ・マクレミッツ
 本来の戦闘距離であるショートレンジで戦う事が出来ず、ならばと投擲した瓦礫等は全て撃ち落とされ、奥の手である斬り抉る戦神の剣(フラガラック)はそもそも発動条件すら満たされたないという打つ手の無い状況下で徹底的に絨毯爆撃で焼かれ、ボロボロに疲弊しきった所を近接でボコられた。
 バゼットにとっては主人公こそが相性最悪の天敵である。
 そもそも歩兵相手にB29の絨毯爆撃とかクソゲーにも程がある。
 そしてそのクソゲ―で敗北した暁には奴隷ルートへ突入という原作以上の苦行ルートを歩む事に……。






●士郎の安寧消滅
 やっと男女比の気疲れから解放されたと思ったら家主が女性を三人も連れて来た。
 しかも内二人は常に自分の争奪戦で修羅場を展開しておりストレスがマッハ。
 そろそろ胃に穴が開くかもしれない。






●調理実習のウェディングケーキについて。
 審査員担当の赤馬零児の証言
 「実習内容はパウンドケーキだったが勝負内容をパウンドケーキに縛ったワケではなく、ルールを決めていた訳でもないので反則ではない」






●結城美柑
 ToLOVEるより参戦、主人公のクラスメイト。
 主人公程ではないが年齢と比較して精神年齢が高い為、主人公の事はある種の同類として見ていると同時に大切な友人として接している。
 また兄についての愚痴や日頃悩み等も積極的に話している等良好な信頼関係を築いており、最近はお互いの兄(兄のような存在)に対する話題で盛り上がったらしい。

 今回のパウンドケーキ対戦ではその家事スキルを見込まれて戦力として参戦したがメニュー破りのウェディングケーキを前に完敗を喫した。





●主人公製アクアビットマン。
 ただでさえ型破りな性能の機体をガンプラバトルのアセンブルシステムに物を言わせて魔改造を施した悪魔の機体。
 アクアビット社員、トーラス社員は垂涎の大変マニアックな代物と化している。
 というより完全に主人公の俺得機、ネタにガチになった変態程恐ろしいものは無い。

 その魔改造っぷりたるやアサルトアーマーを搭載した機体にコジマキャノンを背負わせ、両肩部には「これスタビライザーです(大嘘)」と言い張り小型化したコジマミサイルを搭載したミサイルポッドを設置、更に前腕部分には近接用に皆大好きアンサラーキラーであるとっつき『KIKU』を無理矢理装備させ、空いた両腕部にこれまた無理矢理コジマライフルを持たせた究極至高の俺得機。
 相手は死ぬ。

 重量過多……?
 ガンプラバトルにそのような制限は存在しない(断言)






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