IS~codename blade nine~ 作:きりみや
空を飛んでゆく自衛隊のヘリ。遠くから聞こえる工事の音。そして落ち着きのない人々の喧噪。それらを聞きながら千冬はぼうっ、と空を眺めていた。その顔には普段の凛々しさは無く、心ここに非ずと言った様子だ。そしてその隣ではそんな千冬を気遣いつつも報告を行う真耶の姿があった。
「学園の修繕の方は予想より早く終わりそうです。アリーナは流石に無理ですが、一週間後には通常授業には差し支えありません。……尤も、その授業がいつになるかはわかりませんが……」
「そう、だな……」
真耶の報告に答える言葉にもどこか力が無い。そんな千冬の姿に隣の真耶は顔を暗くした。
あの事件から三日が経った。そしてこの三日間は文字通り目まぐるしく過ぎて行った。
世界中で起きたISの暴走。これにより多くの施設が破壊され、そしてありとあらゆる組織、機関がハッキングされた。暴走そのものは数時間で終わったものの、それのもたらした被害は大きく今も世界は混乱している。
まず第一にありとあらゆる機関が行ったのはISの使用停止だ。騒動の原因でもあり中心だったIS。機動中だったそれらの全てを停止し、コアを抜き取り厳重に隔離、事実上の封印を行った。それはIS学園とて例外でなく、学園の訓練機30機も全て使用停止となり学園は現在休校状態だ。
だがこれは苦渋の決断だっただろう。ISと言う存在とその力は戦力の要であり抑止力でもあったのだから。もし、他国が構わずISを使用して攻めて来たら? そう考えた者は少なくない。おそらく表向きは封印していても、有事の時は構わず使う可能性は高くその為の準備もしている事だろう。
だがそれでも今まで通り使えない事は事実。そしてこの機に乗じISを持たない組織、勢力の動きが活発になり、世界各地で小競り合いが多発している。更には男性を中心とした反IS団体と女性至上主義を掲げる団体の争いもだ。
「これがアイツの残したものか……」
「織斑先生……」
この騒動の原因を作った張本人の事を思う。もし束が死なずに状況をコントロールしていればこんな混乱は起きなかったのだろうか? 答えは否だ。確かに混乱が起きても束が簡単に鎮圧するかもしれない。だがそれによって抑圧された人々の感情はいずれ一気に噴き出す事だろう。その時束はどうするつもりだったのか。それはもはや分からない。
「……生徒達は?」
「はい。幾人かの生徒から休学届や退学届けが出ています。それと代表候補生たちは本国から待機命令が出ていると」
「まあ、そうだろうな……」
IS学園の生徒には候補生や企業に所属する人間などが多数いる。だが同時にISに憧れ入学した一般家庭の生徒も居るのだ。そう言った生徒達から見れば連続して起きる学園周辺での事件に恐怖を覚えそこから去りたくなるのも分かる。それに今回の事件ではそのISそのものが暴走したのだ。それが止めとなったのだろう。
そして候補生たちもそうだ。専用機を持つ彼女達のISもそれぞれ使用禁止令が出ている様だが、それを自国に戻さないのは何故か? 答えは単純、どの国も未だ危険性のあるISを戻す事を躊躇っているのだ。何せ候補生たちの持つISは試験機的な意味合いも強く特殊な機体が多い。もしそれが自国で暴走を始めたら目も当てられない。唯でさえ自国内部ですら大変なのにこれ以上騒動の種を増やしたくないのだろう。暴走するなら日本、それもIS学園でなら被害は少ないとでも考えているに違いない。
故に候補生たちや専用機持ちはIS学園で待機。代わりに本国からそれぞれ研究チームが派遣されるらしい。
「織斑先生、やはり少し休まれた方が」
「いや、いい」
千冬の様子を心配した真耶の気遣いに首を振る。だがその姿にはやはり覇気が無かった。そんな千冬の様子に益々顔を曇らせる真耶だが、不意に手元の端末が鳴った。
「はい、山田です。……ええ、ここに居ますが……。え?」
どこか驚いた様子で声を上げた真耶に千冬が振り向く。
「どうしました?」
「え、ええ。その……」
端末から顔を離した真耶は戸惑った顔を浮かべていた。
「K・アドヴァンスの社長――草薙由香里さんが話をしたい、と」
その報告に千冬の眉がぴくり、と跳ねた。
「ごめんなさね。忙しい中時間を取ってもらって」
「いえ、こちらも聞きたいことがありましたので。……しかし大丈夫なのですか?」
「ああコレ? 平気よ平気。ちょーと腕がポッキリ逝っただけなのに重症扱いされたのよ」
そう笑うスーツ姿の女性、草薙由香里は右腕を吊っており、頭には包帯が巻かれている。その原因は先日起きたK・アドヴァンス社への亡国機業の襲撃が原因である。公式発表では死傷者数名、そして社長の由香里も重症とされていたが、当の本人である由香里は意外とピンピンとしていた。
「さて、それじゃあお互い時間もあまりない事だし進めましょう。―――彼女達も気になっている様だしね」
そう言いつつ由香里が視線を向けた先には一夏や楯無達の姿があった。これは由香里が千冬に頼みこの話し合いに参加させてもらったのだ。
「と、言ってもこれから話す事は貴方達が一度聞いたであろう事だけどね」
「それは……」
由香里の言葉に一夏が反応する。そんな一夏に由香里は頷いた。
「そう、静司と私達について」
それから由香里の口から語られた内容はあの地下での静司と束の罵り合いを補足する様な物だった。川村静司とK・アドバンス社の関係。EXISTという存在。そして静司の目的とそれに伴う黒翼というISの特異性。それらを一通り話し終えると、真っ先に千冬が反応した。
「Vプロジェクトは本当に存在したんですね……?」
「間違いないわ。そしてその跡地から私たちは静司を発見した」
「他にその計画が行われている可能性は?」
「無い、とは言い切れないけど少なくとも私達が知る限りでは無いわ。それに篠ノ之束も探して潰していったはず。可能性は低いと見て良いわ」
「そうですか……」
気まずい沈黙。千冬はどこか苦悩する様に拳を握りしめ、真耶や鈴達もその顔は暗い。そんな中、声を発したのはシャルロットだ。
「静司は、静司の行方はわからないんですか?」
それは縋る様な声だった。その拳はきつく握りしめられ震えている。その隣では本音も不安げに瞳を揺らしていた。
川村静司の捜索。それは勿論行われた。あの事件の際、静司はその正体を晒したがそれが一部の人間に過ぎない。更には途中から始まったISの暴走により学園を監視していた組織や勢力達もそれ所で無くなり、途中からの展開は全く把握出来ていなかったのだ。何せISの暴走だけでなく、ありとあらゆる場所へのハッキングも同時に行われていたのだから。
その影響もあり黒翼=川村静司という事実を知るのは意外に少ない。篠ノ之束の起こした騒動により、川村静司の正体が広まらなかったとは何とも皮肉な話である。
結果、海中の捜索はあくまで『川村静司の捜索』となっていたが遂には見つかる事は無かった。本来ならこういう時こそISによる捜索が適していたがそのISが使用できない状態だった事も大きい。
だからこそシャルロットは縋ったのだろう。K・アドヴァンス社の特異性、EXISTたる組織が彼を回収しているのではないかと。だがそんな彼女に帰ってきたのは期待したものでは無かった。
「ごめんなさい……私達にも分からないの」
「そんな……だって……!」
「社への襲撃以降、EXISTは私達から離れ独自に行動しているわ。亡国機業の力が分からない以上、下手に連絡を取るのは危険なの。だから今は何をしているかも、無事であるかも分からない。だけど――」
言い辛そうに由香里が顔を曇らせる。
「彼らにはもうISは無いわ。それに本社襲撃時に脱出していたとしても、体制をそう簡単に整えられるとは思えないの。事実、何人かは遺体で発見されているから。だから……」
望みは薄い。言外に告げられたその言葉にシャルロットが顔を覆い、本音もまた肩を震わせた。そんな二人をラウラと虚が抱きしめ優しく背中をさすっている。その姿は何処までも痛ましく、鈴や箒達の顔も一層暗くなった。
「静司は」
そんな中、一夏が口を開く。彼の顔もまた暗く何かを食いしばっている様であった。
「自ら望んでEXISTに入ったんですか?」
「ええ。私達への恩返しもあったのでしょうけど、根本にあったのは篠ノ之束に対する感情よ」
「その為に、腕を磨いた?」
「強くなろうとしていたのは事実よ。そして私達もそれを止めなかった。EXISTはね、大なり小なり問題を抱えた面子が揃っていたのよ。元犯罪者だって居たわ。そんな連中が集まって、支え合い、そしてそれぞれの目的の手助けをする。その目的が復讐なら、その為の力を与えたわ。私たちは正義の味方でも何でもない。K・アドヴァンス社としては新装備やシステムのテストを兼ねて、時には傭兵紛いの事をしつつ利益を求めた。EXISTはその仕事を果たす代わりに自分達の目的を達成する道具としてK・アドヴァンスを利用した。会社の一部門と言っても根本にあるのはそこなの」
「どうして……そこまでしてっ」
「逆よ。そこまでしてでも果たしたい事があった。だからこそよ」
「そんなの……」
がくっ、と力を失い椅子に沈んだ一夏を鈴達が気遣わしげに見る。それは言った本人でもある由香里も同様だ。だが彼女は直ぐに毅然とした顔に戻ると立ち上がった。
「私が今日ここに来たのは説明する義務があると思ったから。それともう一つ、お礼を言いたかったの」
「お礼……?」
「ええ。例えどんな形であれ、あの子が貴方達との日々を大切に想っていたのは事実よ。それを与えてくれた貴方達へ、感謝を」
そう言って由香里が頭を下げる。その姿に一夏は少し驚き、そして小さく震えた。
「そんな事、今更言われても……っ! もっと、もっと早く知っていれば……!」
ぽたり、と一夏の瞳から涙が溢れる。そしてそれを皮切りに一夏は嗚咽を漏らした。
そんな一夏に、誰も声をかけることは出来なかった。
「くっそぉぉ!」
ガンッ、とオータムが怒声と共に蹴り飛ばした椅子が壁に当たり砕けた。だがそれでは飽きたらずにオータムは地団駄を踏むように床を何度も蹴りつけている。その様子に同じ室内に居たカテーナは苦笑した。
「落ち着きなさいよねえ。傷に響くわよぉ」
「うるせえ!」
カテーナの注意も効果は無くオータムは相変わらず周囲にあたっている。そんな様子に肩を竦めるとカテーナは手元で紅色に光るコアに視線を移した。
「うふふ」
「随分とご機嫌ね、カテーナ」
「あらスコール。そちらの怪我はどう?」
「おかげさまで。まあしばらくは安静にしておくわ」
そう答えたのは金の長髪を揺らすスコールだ。彼女はその足で立たず車椅子にその身を預け、病衣を纏っている。そんなスコールの姿にオータムが反応した。
「スコール!? まだ動いては!」
「大丈夫よオータム。そういうあなたもあまり暴れては傷が開くわ。だから落ち着いて、ね?」
「う、うん……」
そう微笑みながらオータムを引き寄せその頭を優しく撫でると、オータムは先ほどまでの剣幕が嘘のように大人しくなった。そんなオータムの様子にスコールは笑みを深くする。
「それでカテーナ、あなたがご機嫌なのはそれが理由?」
「勿論よぉ、織斑一夏の白式は失敗したけどこちらは手に入ったのだから」
そう笑うカテーナの手元で光るコアは篠ノ之箒から奪った紅椿。一夏の白式は川村静司によって取り返されてしまったが、こちらは確保できたのだ。
「これからこれを調べつくして色々やるわよぉ。それに貴方達のISの強化もしてあげる。……とは言ってもオータムとスコールはしばらくは安静ねぇ」
「わかってるわ。まさかここまでやられるとのは予想外だったけどね」
そう苦笑するスコールが自身の体に目を見やる。
あの時、スコールは一夏の斬撃を受けた。それだけなら致命傷には至らなかったが傷は傷である。そしてその後に始まった、あの銀髪の少女による巨大ISの一斉砲撃。負傷していたスコールとオータムは反応が遅れ、その砲撃の直撃を受けたのだ。結果、二人は更に傷を負い、亡国機業は撤退するに至った。エムやシェーリが残る事も考えられたが、そうなると撤退する二人の護衛に不安が残る為に却下されたのである。
「まあ色々予想外の事はあったけど、目的の半分は達成できたし、世界は今やIS恐怖症よ。この機を逃す訳にはいかないわ」
「けどよスコール。何で川村静司のISを無視したんだ?」
スコールに撫でられ落ち着いたオータムが疑問の声を上げる。確かにあの時、スコールはISの奪取を命じたが川村静司については触れていなかった。その事だろう。
「その答えは私が応えてあげるわぁ」
カテーナが立ち上がり手のひらの紅椿のコアを掲げた。
「確かに川村静司のISも興味があったわぁ。けどね、私達が欲しいのはあくまで私達に協力的なISなのよねぇ。言い換えれば説得可能なIS。まだ幼い子供の様なIS。意識があっても自我が薄いIS。だけど川村静司のISは違った。あそこまで明確に創造主に反抗しているのに止まる気配も、支配されている様な気配も無かった。つまりあのコアには明確な自我があったということねぇ。だけど、」
「そんなコアを手に入れた所でこちらの言う事を聞くとは限らない。むしろあそこまで強い意識を持ったコアだとこちらに反旗を翻しかねない。だから除外したのよ」
カテーナの言葉にスコールが続く。篠ノ之束亡き今、コアの意識がどのように変化するかは不明だ。だが未だISを暴走に導いたとされる銀髪の少女は残っている。不安要素は出来る限り避けたいのだ。
「まあ紅椿も手に入れた事だし欲張り過ぎてもって事よ。無論、白式も手に入れたいけどね。この二つに限ってはコアの意志や自我に関係なく重要よ。何せ博士自らが手がけた第四世代の紅椿とそれに近い白式。その秘密が性能だけとは限ら無いもの」
「実際少し調べただけで色々出て来たわよぉ。どうもあのIS暴走時にハッキングされたデータの一部は紅椿と白式に集められていた様ねぇ」
「と言う事は、その二つを手に入れれば怖い物無しって事か。随分と都合のいい話だな」
「あの銀髪の少女の事もあるから油断は出来ないけど概ねそうよ。だからこそ私たちは白式を手に入れるわ。尤も、今すぐは難しそうだけどね」
スコールが視線で合図するとカテーナは頷き投影型スクリーンにIS学園の様子を映した。その映像内では様々な勢力がそこに集まっている事が見て取れる。
「事件の中心とも呼べる場所だものね。恐らく本気で仕掛けたら彼らもISを使わざるをえない。そうなると全面対決になるけど戦力的には不利ね。私もオータムも今はまともに動けないもの」
「スコール! 私は!」
「無茶は駄目よオータム。今は我慢。そしてその間にシェーリとエム。それにレギオンが戦力を集めてくれるから。そうよね、カテーナ?」
「そうよぉ。既にシェーリがインドの基地を襲撃してアグニ型を奪取しているわ。やはりどこもISを使う事に躊躇いがあるからスムーズに済んだそうよぉ? それと……あら、丁度エムから連絡が入った所ね」
カテーナの言葉と同時、投影型スクリーンに新たなウィンドウが開き、エムの顔が映し出された。
『目的は達成した。次の標的は?』
「ご苦労様エム。今データを送るから休憩とエネルギーの回復が済んだら次お願いねぇ。次はちょっと骨のある所だから苦戦するかもよぉ?」
『関係ない。……データを受信した。終わったら連絡する』
余計な会話はする気も無いと言った様子で通信を切ったエムにカテーナは苦笑した。
「まだ根に持ってるようねぇ、川村静司をあなたが撃った事を」
「そうね。けど仕事はちゃんとしている様だし文句は無いわ……あら?」
スコールも笑って答えつつスクリーンに目を向け、そして唇を小さく釣り上げた。それはエムの次の標的を見たからだ。その様子に気づいたカテーナも同じく笑う。
「さて、織斑千冬仕込みのドイツ軍とやらはどれだけ反抗できるかしらねぇ」
そう笑うカテーナの視線の先に映し出されたウィンドウには、エムの次の目的地であるドイツが映し出されていた。
炎が上がる基地。黒煙が立ち上り警報がけたたましく鳴り響いている。そんな中、ドイツIS配備特殊部隊、シュヴァルツェ・ハーゼ副隊長であるクラリッサ・ハルフォーフは血に塗れた状態で横たわっていた。その肩は大きく上下し、息は荒い。そして血が流れる腹を押さえつつ見上げる空では一機のISが悠然とこちらを見下ろしていた。
「き……さま……」
「こちらの襲撃に気づくが否や構わずISを起動したか。だが、それでも少し遅かったな」
ゆっくりと降りてくるIS。深い青色のその機体はイギリスで強奪されたサイレント・ゼフィルスだ。それを忌々しげに睨みつつクラリッサは声を上げた。
「亡国、機業……!」
「そうだ。あの人が鍛えた部隊と聞いていたがやはりこの状況では話になら無かったな。だが、」
サイレント・ゼフィルスの搭乗者が遠くの空へと視線を向けた。黒煙が上がる夜空には煙と火の粉以外は何も見えない。しかし女は小さく口元を吊り上げた。
「自らを囮に他のISは逃がしたか。暴走の危険を承知の上でのその行動は褒めてやる」
そう、クラリッサは襲撃に気づくが否や独断で部下達にISを持たせ基地から逃がしたのだ。そして自分だけは足止めの為に残ったのである。しかし対応が一歩遅く、碌に反抗出来ぬまま敗北してしまった。
サイレント・ゼフィルスが再び宙に上がった。その腕にはクラリッサから力づくではぎ取ったIS、シュヴァルツェア・ツヴァイクが主無き状態で捕まれている。
「ドイツの第三世代IS。こいつは頂いていく。貴様はそこで己の無力さを嘆きながら死ね」
そう言い捨てるとサイレント・ゼフィルスは一気に高度を上げ夜空の彼方へと消えて行った。その姿をただ見ている事しか出来なかったクラリッサは歯を食いしばる。
「申し訳ありません、隊長……」
基地を襲われ、ISを奪われ、そして自分は今ここで惨めに死のうとしている。そんな情けなさに絶望するクラリッサの周囲では炎が勢いを増していく。いよいよこれで終わりかと、後悔と悔しさにクラリッサの瞳に涙が浮かんだ。
そしてゆっくりとクラリッサの意識が落ちていく。段々と力を失い急速に視界が暗闇に覆われていく中、直ぐ近くで音が聞こえた。それは人が歩く音によく似ていたが、もはやそちらに顔を向ける事すら叶わない。そうしてるうちに足音は近づき、やがてはすぐ隣で会話が聞こえてくる。
「一足遅かったか……。いや、ギリギリだな」
「そうですね。とりあえず急ぎましょう」
話し合う声。そしてクラリッサの体がゆっくりと持ち上げられた。
「基地がこの様子だしな。ヘリまで連れて治療した方がいいだろう」
「ええ。しっかし、本社があんな状況になって帰る場所無くなったと思ったコレですよ。ISも無いしどうすればいいんだか」
「仕方ないだろ。いや、むしろタイミングが良かったとも思える。こっちでの仕事が終わってISを本社に送った直後にあの事件だからな。……しかしあのロリコン先輩に下っ端後輩。挙句にゃ親バカ上司も行方不明とはな。とりあえず俺達は今できることをやっておいて後で金をせびるとしよう」
「金に汚いその姿が素敵です。けどそんなんだからずっと海外に飛ばされてるんですよ?」
「お前も同じだろ。それに海外は嫌いじゃないから良いんだよ。向こうもそれを承知でやってるんだし。とにかく急ぐぞ―――――B3」
「今はIS無いのでそのコードネームもどうかと思いますけどね。早く合流できればいいけど……」
そんな言葉を交わしつつ、クラリッサを抱えた男と女は炎の中に消えていった。
『ご覧くださいませー右手に見えるのが太平洋、太平洋でございます。そして左手に見えるのが、これまた太平洋でございます。では正面は? 残念! 太平洋でしたー』
「さっきから何やってるの?」
振動する小さな室内。そこに座っていた女性は先程から通信機を通して聞こえてくる同僚の声に首を傾げていた。
『あーそれはあれだ。バス添乗員ごっこって奴だ。日本に来たら一度生で見てみたかったんだけどなあ』
「何それ……。まあ仕事をちゃんとしてくれるのなら良いのだけど」
『酷っでえな。ちゃんと仕事しているから快適な空の旅を楽しめるんだろ? シャドウ2』
「快適さを強調したいならもう少しわかり易いネタで楽しませて頂戴。シャドウ1」
通信越しに話す相手は壁を隔てた搭乗席におり、現在自分が乗っているこのヘリの操縦をしている。そんな彼女――シャドウ1は不満げに機体を揺らした。
『しかしなあ、ストレスだって溜まるもんだぜ。今頃噂のテロリスト共が好き勝手暴れてるんだろ? とっとと殲滅してやりてえ』
「随分と軽く言うけどそこには同感よ。けど今は無理ね。その理由は分かっているんでしょう?」
『当たり前だろ。ISがあんな状態なんだ。使いたくても使えねえ。私も取り上げられちったし。折角張り込んでたのに結局意味が無いときたもんだ』
「司令部としてはまた暴走して暴れられたら困るのよ。だからコアだけの状態にして厳重に隔離されてしまった。けど――」
『何故か暴走とは無縁のテロリスト共は好き勝手に暴れられるか。なんだよそれチートじゃねえか。メーカーに訴えんぞ』
「その
『そうだな。だがそれを打開する為に私たちが動いている。だろ? その為のお前とお前の
「ええそうよ。だから今は急いで戻りましょう。彼の容態が心配だわ」
そう言って目の前に鎮座するカプセルに目を移す。そのカプセルには様々な機器が取り付けられ、表面には状態を表すモニターと中を見る為のガラスがはめ込まれていた。その中は液で満たされ良く見えないが、そこに人が入っているのはうっすらとガラス越しに見える。そのガラスを労わる様に撫でつつ、呟く。
「絶対死なせないわ」
『そうだなー。じゃあ急ぐとするかシャドウ2! ……所でこのシャドウってコードネームはどうも慣れねえな』
「今の私達を表すにはピッタリのコードネームじゃない。けど……そうね、私としても別のコードネームが良かったわね。黒は好きだけどシャドウ、影は少し違うし」
『へえ? じゃあお前なら何てつけるんだ?』
どこか面白そうに問うてくる声に、彼女は薄く笑い答えた。
「シルバー2、なんてどうかしら?」
あんな事件がありゃISは使えなくなるけどだからと言って完全使用禁止は難しいよね、って話。そしてその隙を突く亡国さん微チートと千冬さん放心状態。
それとちゃっかり奪われていた紅椿。亡国のチート化が止まらない気がしないでもない。
質問がありました、黒翼を奪わなかった理由は自我バリバリなので制御できないと踏んだからでした。敵にも忌避される黒翼さんマジ問題児
B3についてはコッソリ32話と50話あたりで海外にいることが示唆されてたりします。
そして最後の二人組。いったい何者なんだ……(棒
次回辺りこそ一夏たちの内面書きたいなぁとか、少しずつ反撃の狼煙をとか思いつつ早めに更新できる様頑張ります。