IS~codename blade nine~   作:きりみや

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73.そして火蓋は切られた

 深い深い闇の中。その闇に溶け込む様にして、誰かがこちらを見ている。その誰かは何も語らず、しかし言外にどこか非難する様な雰囲気を漂わせていた。

 

「誰だ?」

 

 問いかけても相手は無言。しかしその闇は少し蠢き、何かがこちらに伸ばされた。近づくにつれ、その姿がおぼろげながら見えてくる。これは腕だ。

 その腕はそっ、とこちらの頬を撫でる様に触れたかと思った途端、急に襟首を掴まれ強引に引き寄せられた。

 

「っ!?」

 

 突然のその行為に驚く中、引き寄せたその誰かが顔を寄せてくる気配。そして耳元に小さく、声が聞こえた。

 

『馬鹿が』

 

 とん、と突き放される。急速に闇が晴れて行き白に染まっていくその世界の先で、黒い長髪の女性が静かにこちらを見ていた。

 

 

 

 

 うっすらと戻っていく意識の中、照明の眩しさに小さくうめき声が漏れる。妙に気怠い意識が徐々に活動を始めると共に、頭の奥の鈍痛に静司は不快気に顔を歪めた。

 

「ここは……」

 

 知らない場所だ。だが似たような雰囲気の場所なら何度か見た事もある。無機質な天井。飾り気のない機能性重視の照明。圧迫感を感じる壁。それは取調室に似ている気がした。

 そしてその壁のある一面には窓が取り付けられており、分厚いガラスの向こうに知っている顔が見えた。

 

『起きたか……。調子はどうだ?』

 

 その人物、織斑千冬の問いに静司は気だるげに首を振る。残念ながら絶好調とは言えない。それでも立ち上がろうとして、違和感に気づく。違和感の正体は体のバランスだった。そしてその原因は左腕が無い事だと直ぐに気づく。

 

『悪いがお前のISはこちらで預かっている』

「……はい」

 

 成程、と少し納得した。同時に今の自分の状況に予測が付く。

 

「ここは……地下ですね」

『……そうだ。どうやらお前もここの存在を知っていたらしいな』

 

 苦々しい顔で千冬が頷く。仮にも秘密である場所の存在を簡単に言い当てられたせいであろう。だがそんな事は静司にとっては今更だ。それよりも気になるのは、千冬の後ろに見える一夏達の姿。彼らは戸惑いと疑問が入り乱れた複雑な表情でこちらを見つめている。特に今は無い左腕の部分に視線が集まっている事に気づき居心地の悪さを感じてしまう。

 

『……言いたいことはあるのが分かる。だが先にこちらの質問に答えて貰う』

 

 こちらの視線に気づいた千冬の言葉に静司は頷いた。そして同時に思う。遂にこの日が来てしまったかと。

 

『単刀直入に聞く。……お前は何者だ? 目的は何だ?』

 

 その問いに答える事は容易い。だから静司は答えようと、

 

「……っ」

 

 答えようとした。なのに声が直ぐに出てこない。何故だ、と考えて直ぐに原因に思い当たった。そしてその理由に我ながら呆れてしまう。

 無意識に躊躇ったのだ。その言葉を発する事で変わってしまう何かを恐れて。何を今更と自分で思う。もっと早く、別の形で話してればかわっていたかもしれない。だがもうその時は過ぎ、手遅れだというのに。

 だからもう、腹を括るしかない。だからこそあの時自分は皆の前で黒翼を使ったのだから。

 

「ISの登場で世界は変わった」

『何……?』

 

 突然切り出した言葉に千冬が眉を顰める。だが静司はそれをあえて無視して、なるべく感情を表に出さないように続ける。そうでもないとまた止まってしまいそうだから。

 

「社会が、人が、そして兵器が。大なり小なり変わっていって、そして人々はそれに順応し始めた。だけど誰もかれもが変化についていけた訳じゃない」

 

 女尊男卑。そんなふざけた言葉を当然と信じ、行使しようとする女性達とそれにより実際に淘汰された男性たち。急速に代わっていた産業により今までの研究は時代遅れとなり陽の目を見る事が無くなった研究者達。考え始めたらキリが無い。

 

「そしてそんな者達の中には八つ当たりをする奴らが居る。自分勝手な理論で暴れるやつも居る。嫉妬から持つ者へ恨みを持つ奴らがいる。そんな変化すら気にせず好き勝手に動く奴も居る。そして、それを利用して悪意を振りまく奴が居る。そんな状況下で更なる争いの種が世に現れた」

 

 ゆっくりと一夏に目を向けると一夏の眼が戸惑いに揺れた。ああそうだ、一夏。お前の事なんだ。

 

「男性操縦者。その存在の価値は計り知れない。だからこそあらゆる者達がそれを手に入れようとした筈だ」

 

 そうでしょう? と視線で問うと千冬が苦い顔をした。一夏が世に発表されてから彼女はそんな手合いをずっと相手にしていたのだ。中には一夏に直接実験台になってくれと言った組織も居たと聞く。

 

「だからそれを護る為にIS委員会が、日本政府が、そして更識家が動いた」

『さっきから何が言いたいんだよ静司!? 俺だってそんな事は知ってる! だから俺はIS学園に居るんだろ!』

「そうだ。だがそれだけじゃ足りないと思う者が居た。それは別の思惑も絡んでいきそしてもう一つ、男性操縦者の安全保持の手を打つことを決めた」

『もう、一つ……?』

 

 震える様なシャルロットの声。それに小さく頷く。

 

「男性操縦者――織斑一夏の傍に居ても不自然では無く、監視と警戒を続けるのに最も有効な手段。更識楯無と言えども困難である環境下でも問題が無い人物を護衛として派遣する事」

『っ!?』

 

 息を飲む気配。きっと彼女達は気づいたのだろう。顔を見れば、その揺れる瞳を見れば嫌でも分かる。そしてその近くに居る一夏もまた同じだ。だがその顔は他の者達よりも悪い。顔を青くし、信じられない物を見る様に瞳を揺らしている。そんな姿にまたしても感じる罪悪感。

 この件に関しては一夏は何も悪くない。ISが使えてしまう事も、知らなかったことも彼の及ぶところでは無いのだから。むしろ彼は被害者と言っていい。

 だが一夏はそろそろ知るべきだろう。いや、知ってほしい。自分を取り巻く環境が、きっと自分が思っている以上に複雑であると。そして警戒と危機感を持ってほしい。もう、自分は近くで彼を護れないのだから。それが『友人』として出来る最後の事だと信じ、話を続ける。

 

「俺が何者か、と聞きましたね」

『ああ……』

 

 もう誰もが静司の目的については気づいている。ならば後は明かすだけだ。二人目の男性操縦者。北海道から来た男。学生である川村静司。そんな仮面の下にある自分の正体を。

 

「K・アドバンス社技術開発部門試験2部。別名EXISTのIS部隊が一人。コードネームはblade9」

 

 無い左腕が小さく疼く。

 

「織斑一夏の護衛の為にやってきた、それが俺だ」

 

 

 

 

「何だよそれ……わからねえ、全然意味が分かんねえよ!」

 

 室内に響いたのは一夏の怒号と目の前のガラスを叩き付ける音。それはここに居る少女達の想いを代弁していた。シャルロットもまた、呆然とした気持ちでそれを聞いていた。

 静司の言った言葉の内容は分かる。だが理解が出来ない。確かに男性操縦者は貴重だ。その敵も多いから護衛が派遣されるのも分かる。そう、そこまでは分かるのだ。

 だがその護衛が一夏と同じ男性操縦者。そこが分からない。貴重な男性操縦者を護るために男性操縦者を護衛にする。荒唐無稽な話だ。それは鈴達も同じ気持ちだったようで、ガラス越しの静司に思わず喰いついてた。

 

「ちょっと待ちなさいよ! アンタの言ってる話は滅茶苦茶よ! 何で一夏を護るために同じ男のアンタが派遣されてくるのよ!?」

「そうだ! それでは意味が無い筈だ!」

「いくらなんでおかしいですわ!」

 

 箒やセシリアも同じ様だ。なら千冬はどうなのか、と思いその顔を盗み見てシャルロットは眉を顰める。千冬の顔は驚きこそあるものも、どこか理解した節があったからだ。それを見て嫌な予感が心を過る。

 

「織斑先生は……知っていたんですか?」

 

 問われた千冬は苦々しい顔で小さく首を振った。

 

「川村の正体は知らなかった。だがあいつが派遣された理由の一つなら心当たりがある。だが……」

 

 その理由を言う事に躊躇っている。そしてそれは真耶も同じだった。だがそんな二人の葛藤を砕いたのは楯無だった。

 

「それはね、囮になる為よ」

「っ、楯無!」

「いいえ織斑先生。これはきっと話すべき事です。もう無知でいられる時間はとうに過ぎました。だから一夏君は自分を取り巻く状況を理解する必要がある……そうでしょう?」

 

 楯無が静司へ視線を移すと彼も苦い顔をしていた。

 

『別にそこは言わなくても良いでしょう』

「ならどうやって説明するつもりだったの? 下手ないい訳より余程わかり易いわ」

 

 ぐっ、と押し黙る静司。だがそれを聞いた一夏は益々その顔を険しくしていく。

 

「待ってください楯無さん! 囮ってどういう事ですか!?」

「そのままの意味よ。世にも珍しい男性操縦者が二人。だけど片方は世界最強の姉と世界最高の頭脳を持つ博士と懇意にしている。それだけで織斑君を狙うリスクは跳ね上がるわ。だけど」

 

 ちらり、と楯無が静司に視線を移す。

 

「そんな人物の隣には後ろ盾も何もない、本当にそこらの田舎から出てきた男が無防備に立っている。だったらそっちの方が狙い易いわ」

「な、なんでそんな事やらせてんのよ!? アイツは――」

「さっき彼が言ったでしょう。一夏君を護衛するのが彼の仕事。そして敵と成り得る存在が襲ってくるのを待つよりは、こちらから釣り上げた方が早い場合もありそして実際それは機能していた」

「機能って……人を何だと思って」

「それが彼や私たちの仕事なの。それよりまだ話は済んでいないわ。そうでしょう、織斑先生」

「ああ、そうだ」

 

 無表情の楯無と怒りや戸惑い、驚愕の連続で不安定な一夏達の姿をあえて見ない様にして千冬は静司に向き直った。

 

「言いたいことは山ほどある。だが先に確認する。お前……いや、お前の組織にそれを依頼したのは桐生だな?」

『その通りです。俺達は桐生さんから織斑一夏及びその周囲の護衛を依頼されました』

 

 以前、桐生が語った自分と川村静司との関係。それにはこういう裏があったのか。いいようにはぐらかされていた事に気づき千冬は苛立ち気に拳を握りしめた。

 

「ちょっと待ちなさいよ、もしあんたの言っている事が本当だとして」

 

 そんな中鈴が震えた声で、そして微かに怒気を混じらせながら言葉を紡いでいく。

 

「ならアンタはその仕事の為に一夏に近づいたって言うの!? あんたら友達じゃなかったの!?」

 

 鈴の怒りは尤もだろう。セシリア達も同じように怒気を孕ませて静司を見つめている。そして鈴達ですらそう感じた事を一夏が感じない筈が無い。

 

『…………』

「答えなさいよ!」

 

 静司は無言。だがシャルロットは気づいた。何時もは険しいあの鋭い眼が、今はどこか不安げに揺れている事に。だが静司はそれを隠す様に目を逸らし、小さく呟いた。

 

『友人でありたいと、思っている……』

「だったら何で言わなかったのよ!? 一夏にも、私達にも! そんなにこちらが信用できなかったの!?」

 

 今度こそ静司は押し黙った。そしてそれがまるで答えを示しているかのようで、一夏や鈴達の表情が歪む。それを感じ取ったのだろう。千冬が手で彼女達を制した。

 

「私としても言いたいことはある。だが先に次の質問だ」

 

 千冬が部屋の中央のケースにある翼型のペンダントを中から取り出すと静司に見せつけた。

 

「このISは何だ? 何故未登録のコアをお前は持っている? そしてお前の腕は一体どういう仕組みだ」

 

 そう、それは静司の正体と同じくらい疑問に思われた物だ。何度も現れ激闘を繰り広げたIS。その正体が静司だという。だがならば静司はどうやってあのISを手に入れたのか? 何故左腕が無いのか? そして何故……あの時自分を襲ったのか。疑問は尽きず、こみ上げてくる不安を誤魔化す様にシャルロットが拳を握りしめていると、その拳をそっと温かい物が包んだ。

 

「本音?」

「しゃるるん、大丈夫?」

 

 不安そうに顔を見上げるのは本音だ。どうやら心配させてしまったらしい。

 

「大丈夫……うん、大丈夫だよ」

 

 そうだ、たとえあのISが何であれ静司は静司の筈だ。それに自分を攻撃した時も様子がおかしかったのは誰もが見ている。だからきっと理由がある筈だ。

 だけど、だけど何故だろうか。先ほどから感じる不安感は。静司の正体。ISの正体。それが明かされる事で何かが起きてしまう。そんな予感がする。

 ふと本音をよく見てみれば彼女の瞳も揺れているのが見える。そうだ、彼女も不安なのだ。だが彼女のその不安は自分のモノより大きく感じた。そしてふと気づく。

 

「本音は、知ってたの?」

「…………うん」

 

 どこか後ろめたい様子で頷く彼女を見てああ、そうかとどこか納得した。前々から静司が何かを抱えている事は自分も感じていたが、彼女はその正体を知っていたのだ。理由は簡単、彼女もまた更識家の関係者だからか。じゃあなんで今まで話してくれなかったのか。その事に少し悲しみや寂しさ、そして嫉妬を感じてしまう。だからそれを問い詰めようとして、しかし本音の顔を見て息を飲んだ。

 普段の平和そうな様子からはかけ離れた不安に彩られた顔。それはこれから起こる事は勿論の事、彼の事を心配しているからだろう。よくよく見れば、自分の拳を握るても小さく震えている事に気づく。

 

(ああ、そうか……)

 

 何も知らないから不安な自分。だけど知ってるからこその不安もあるのだろう。それはきっと今までも同じような事があったに違いない。クラス対抗戦。臨海学校。学園祭。キャノンボールファストにタッグマッチ。その度に彼は戦いに赴き、そしてその度に彼女は不安に駆られたのだろう。それが分かってしまったから、問い詰める事は出来なかった。だから代わりにでたのは別の言葉。

 

「辛いね……」

「うん……」

 

 二人の少女が見つめる中、ガラス越しの少年の話は続く。

 その後に何が起こる事を周囲に予感させながら。

 

 

 

 

 手の中の翼の形をしたISの待機状態であるペンダント。それを持った千冬に言い様のしれない感覚が過る。まるでそのISからの敵意をぶつけられたかのような、奇妙な感覚。その居心地の悪さに眉を顰める。

 

『そのISの事を話す前に一度それを返してもらえませんか?』

「駄目だ。お前にはまだ得体のしれない部分がある」

『それも含めて見せた方が早い。安心して下さい、一夏達に(・・・・)敵意を向ける事はありません』

 

 見せるとはつまりこの場で腕に変えるという事か。確かにあれなら語るより見せた方が理解はしやすいだろう。だが未だ得体のしれない少年に渡す事は躊躇いを感じる。ならばと、彼を知る楯無に視線で問うと彼女は静かに頷いた。

 

「……わかった。だが下手な真似をしたらどうなるか分かってるな」

『ありがとうございます』

 

 真耶にペンダントを渡す。真耶も頷くとコンソールを叩くと、引き出しの様にコンソール下部が開いた。そこにペンダントを入れてまた操作すると引き出しが閉まりそしてガラス越しの静司の元へと送られる。

 静司はそれを受け取ると、ペンダントを握った右手をゆっくりと左肩の近くへと持っていった。するとその周囲に光が漏れ始める。あれはISを展開するときの量子変換の光だ。その光は次第に形を作っていき、やがてそれは腕の形となって静司の左腕に顕現した。その光景に一夏達が今日何度目かの驚きの声を漏らす中、静司は現れた鋼鉄の左腕を試す様に何度か曲げたり手を開閉したりとしている。

 

『自己修復だけじゃない。修理してくれたんですね』

「させられたの間違いだ。それよりもこちら要求を飲んだぞ」

『分かっています』

 

 頷いた静司が左腕を横に伸ばす。すると再びその左腕が光に包まれ、そしてその姿が鋼鉄のそれから、まるで人の肌の様に変化した。

 

「な、なんだあれは!?」

「偽装……人工皮膚か。成程、今まで体の傷に私達や一夏が気づかなかったのもそのせいだな?」

『正解だよラウラ』

 

 もう一度静司が左腕を振るとその偽装が解け元の鋼鉄の腕へと変わった。まるでもうこの偽装は必要ないと言わんばかりに。

 

『ISの名は黒翼。そしてその黒翼を部分展開する事で俺は左腕の代用にしています』

「常時部分展開だと……そんな事が」

『出来るからこそここに居る』

「……ならそれはいい。だが質問の答えになっていない。結局そのISはどうやって手に入れた?」

 

 その質問にガラス越しの静司は奇妙な行動を取った。こちらではなく、部屋の各所に仕掛けられた監視カメラ。それらを見回し、そして視線を元に戻す

 

『織斑先生。世界最初のISは知っていますか?』

「知らない者は居ない。白騎士だろう」

 

 そう、かつて親友が作りそして自分が搭乗した世界で最も有名なISの名だ。知らない訳がない。だがガラス越しの静司は首を振っている。

 

『表向きは確かにそうです。ですが事実は少し違う』

「何だと?」

『あるんですよ。白騎士よりも前に生まれ、そして闇に葬り去られたISが』

 

 静司が左腕を掲げる。漆黒のその腕で、まるで自己を主張するかのように赤い光が線の様に走る。

 

『それがこの黒翼。かつて篠ノ之束によって『失敗作』として廃棄され、しかし生き残ったISであり、そして俺の共犯者』

「きょう……はん?」

『そうだ。俺と、そしてこの黒翼はある目的の為に契約した。そしてそれがあるからこそ俺はISを使える。そしてその契約こそが黒翼が特別である理由』

 

 ゆっくりと静司が立ち上がる。その様子に千冬は危機感を感じた。

 

「待て川村、そこを動くな」

『先程の質問に答える。何故自分の事を言えなかったか? それは俺と言う存在が異常過ぎた事もある。そして、俺達の最大の敵にそれが漏れる事を恐れたからでもある』

「何を言っている? いや、それより動くな川村!」

『俺と黒翼はある人物への復讐の為に契約した。黒翼は自らを作り、しかし『失敗作』の烙印を押し廃棄した創造者への復讐を。そして俺は俺の姉さん達を皆殺しにした者への復讐をっ!』

 

 ぞくり、と急激に寒気がした。これは殺気だ。ガラス越しでも分かる、川村静司がだすその殺気に千冬は冷や汗を感じた。一夏達も同様で、誰もが怯えそして震えている。だが静司はそんなこちらには目もくれず部屋の監視カメラを睨んでいた。

 

「何を考えている。これ以上そこ動くな!」

『忘れたとは言わせない。無かった事に何てさせない。まだ気づかないか? 見ているんだろう?』

 

 違う。川村静司は自分達でなく別の人物へ語りかけている。だがそれは誰だ? そこまで考えて、彼が語った内容と先ほど彼が見ていた監視カメラの事を思い出し、はっとする。

 

「まさかっ!?」

『かつて生まれた狂気の計画。世界最強のIS搭乗者の量産計画……そうだっ! その計画の名はValkyrie project! そして俺はその計画の被検体が一人、お前に皆殺しにされた――織斑千冬のコピー計画の生き残りだよ篠ノ之束ぇぇぇぇ!』

 

 瞬間だった。轟音と共に部屋が大きく揺れた。真耶たちが悲鳴を漏らす中、ガラスが割れ、光が漏れる。それはIS展開の光。そして千冬はそこに見た。漆黒の翼を持つISの鉤爪が刃を受け止めている姿を。そして――

 

「黙れ……黙れよお前。これ以上箒ちゃんやちーちゃん達の前で語るな」

 

 今まで千冬が見た事も無い怒りの形相で静司へとISの刃を突きつける束の姿だった。束が使っているのは不思議なISだ。見た目には装甲らしい装甲は存在しない。あるのは左右に浮かぶ人参型のユニットのみ。その突然の登場に誰もが目を見開く中、静司はその顔に獰猛な、そして昏い光を宿し笑う。

 

「やっと会えた。これでやっとお前を……」

「五月蝿い黙れ。お前はもう一言も喋らなくていいんだよ」

「なら殺すか? 昔お前がやった様に、見た者知る者何もかも! 子供老人も関係なく、例えそれが親友と同じ顔をしていても関係なく、こちらの事情や環境も関係なく全てを殺しつくすか!?」

「黙れって言ってるんだよ……馬鹿だからそれもわからないのかな?」

「改めて自己紹介だ……。俺はValkyrie projectの被検体が一人、EX02」

「いいから黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「お前が殺し損ねた織斑千冬のコピーだよっ!」

 

 二人の怒号と同時、両者の放った光によって周囲は炎に包まれた。

 




blade9最大限の嫌がらせ 

そして徐々にヒートアップ

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