IS~codename blade nine~   作:きりみや

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14.パートナー

水曜日。静司とシャルロットが登校するとやけに女子達が浮ついている事に気づいた。あちこちでひそひそと話合ってはきゃーきゃーと騒いでいる。

 

「何だ……?」

「さ、さあ?」

 

 静司とシャルロットは訳が分からず首を傾げるが、大したことじゃないだろうと結論付け教室に向かった。

 

「静司、シャルル! もう大丈夫なのか?」

 

 教室に入ると気づいた一夏が上げた声で視線が集中する。

 

「ああ、俺もシャルルも大丈夫だよ」

「そうか。シャルルの後に静司も休んだから心配したぞ」

 

 シャルルは月曜と火曜。静司は火曜だけ休んでいる。表向きの理由としては互いに体調不良だ。因みに昨日静司が授業中に寮にいた理由は『風邪っぽいから休んだ』と学園にもシャルルにも説明している。その割には元気だったので少々疑われたが。

 

「皆ごめんね、心配かけて」

「謝る事でもありませんわ。元気になって何よりです」

「そうだな。2人とも体調管理は気を付けると良い」

 

 セシリアと箒も安心したように笑う。だが、

 

「ところで何か皆がそわそわしてるけど何かあったの?」

 

 シャルロットの質問にその笑顔が固まった。

 

「な、な、なんでもありませんわ!」

「そ、そうだ。なんでもないぞ!」

 

 怪しい。怪しすぎる。しかもその隣の一夏も訳が分からず首を捻っている所を見ると一夏関係だろうか?

 

「あ、かわむー、しゃるるん。おはよ~」

「本音か。おはよう」

「おはよう布仏さん」

 

 いつも通りだぼだぼの制服を着た本音が教室に現れた。丁度いいと思い本音を手招きする。

 

「ん~? どうしたのかわむー」

「ああ、ちょっと聞きたいことがあっ――ぐむっ!?」

 

 本音に尋ねようとした瞬間、箒とセシリアが光の速さで静司の口を押えた。

 

「おほほほほ、川村さん。そろそろSHRですわよ?」

「そうだ、席に着くべきだろう。迅速に速攻で疾風の如く」

 

 2人とも眼が笑っていない。どうやら相当知られたくない事らしい。いや、一夏の前だからか? やはり一夏関連か? とりあえずこの場はこくこく、と頷いておく。その一方で目線で本音に伝える。

 

(また後で)

(りょうかいだよ~)

 

 どうやらうまく伝わった様だ。安心した静司をセシリアと箒が席へ引きずっていった。

 

 

 

 

 静司が引きずられていく光景を見ながらシャルロットは気になる事があった。

 

(さっき、静司と布仏さん、目で会話してたよね?)

 

 ただそれだけの話だ。仲の良い相手ならそういう事もあるかも知れない。だけど。

 

(なんだろう、ちょっと悔しいな……)

 

 自分でも単純だと思う。しかし入学当初から何かと気を利かせてくれ、アリーナでは助けてくれ、そして昨日は自分の話を軽蔑することなく聞いてくれた。そんなルームメイトの存在を気にしている自分に顔を赤くするシャルロットだった。

 

 

 

 

「あの二人、容赦なく引きずりやがって……」

 

 休み時間。静司は救護室に向かいながら人知れず呻いていた。先ほど雑に扱われた際に傷口に響いたのが原因だ。それを察した本音により救護室で念のため見に行くように言われたのだ。確かに誰が見ても顔色が悪かったので、他のクラスメイトからも薦められ仕方なく向かっている。一応鎮痛剤は飲んでいるが、やはり本職にも見てもらうべきだろう。

 

「教官、お願いです!」

「何度言えばわかるのだお前は」

 

 ふと、声が聞こえ立ち止まる。この声はラウラ・ボーデヴィッヒと織斑千冬だ。

 

「わかりません、こんな所で教師など! 教官にはもっとふさわしい場所がある筈です!」

 

 どうもラウラが千冬の現状について不満を言っているらしい。いや、これは陳情か? 以前ドイツで教官をして以来、千冬を敬愛していると聞いている。

 

「大体ここの生徒など、意識が薄く、遊び半分でISを扱っています。こんな連中に何を教えても無駄です!」

 

(随分な言い様だな)

 

 静司もラウラのいう事を全て否定する気は無い。確かにこの学園の生徒の意識は薄い。結局は『女子高校生』の延長戦上でISを扱っている節がある。

 だがその一方で、真面目に真剣に取り組んでいる者たちも居る。一夏は強くなるために訓練を続けているし、箒、セシリア、鈴も一夏が絡むと少々騒がしいが、努力は怠っていない……多分。それに強さだけでなく、本音の様に整備科を目指し勉強する者もいる。

 だがラウラはそれらを無視して発言している。その態度に苛立つ。

 

「大体なんですかあのクラスは! ヘラヘラ笑った間抜け面ばかりで――」

「そこまでにしておけよ、ボーデヴィッヒ」

「「!?」」

 

 いい加減、我慢の限界だった。思わず口を挟んでしまい、二人が驚いた様に振り替える。

 

「貴様はっ!」

「川村か」

「盗み聞きするつもりはありませんでしたが、大声で話していたもので」

 

 ゆっくりと近づく。ラウラはそんな静司を睨みつけているが気にしない。

 

「聞いてれば好き勝手に見下しくれてるが、真面目に学び、知識を活かそうとしている奴らだって居る。お前に好き勝手言われる筋合いは無い筈だ」

「ふん。馬鹿が。私から見ればそんなものお遊びだと言っているのだ」

「へえ。じゃあそのお偉い軍人様(・・・・・・)は何しに日本まで来たんだ? 国防を放って置いて遊びに来たのか?」

 

 すっ、とラウラの眼が細まり殺気が溢れる。その横で千冬は腕を組み面白そうに事態を見守っていた。

 

「口のきき方に気を付けろ。私は教官を呼び戻す為に――」

「それなら別にお前じゃなくてもいいだろ。外交官でも連れてこい」

「私が教官の事を一番知っているのだ!」

「その割に効果は無いようだったがな。ろくに相手も分析する能力も無しに軍人になれるのがドイツ軍か?」

「貴様……今この場で殺してやろうか」

「その瞬間お前は本国行き決定だ。貴重な男性操縦者を殺した罪はどうなるんだろうな?」

「情けない奴だな。自分の立場を使って保身か? やはりクズだな」

「力しか見ないで暴力に頼る自称軍人に言われたくないな。そんなにお前は偉いのか? それとも――そうでなくては(・・・・・・・)ならない理由(・・・・・・)でもあるのか」

「!!」

「そこまでだ」

 

 静司の最後の言葉に反応して、今にでもISを展開しようとしたラウラを千冬が止める。

「しかし教官!」

「いい加減黙れ小娘。15歳で選ばれた人間気取りか? 笑わせる」

 

 その千冬の言葉は凄味に溢れ、相手を威圧する力を十分に秘めていた。ラウラは震え、一歩後ずさる。

 

「わ、私は……」

 

 それは恐怖だけでは無いだろう。自分の大切な人に嫌われる。見捨てられる。それが彼女を震わせている。

 

「さて、授業が始まる。教室に戻れ」

 

 ぱっ、と声色を戻して千冬がせかすとラウラは走り去って行った。それを

見届けると千冬は呆れた様に静司に向き直る。

 

「軍人相手にあそこまで言うとな。何をされるか怖くなかったのか?」

「横にそれより恐ろしい人が居ましたからね。お蔭で好き勝手言えましたよ」

「ふ、成程」

 

 にやり、と千冬が笑う。めったにみれないその笑顔がかつての大切な人と被り、静司は慌てて目を逸らした。

 

「それじゃあ俺は救護室へ行ってきます。体調悪いので」

「とてもそうは見えなかったが……確かに顔が青いな。行ってこい」

 

 では、と立ち去ろうとする静司の背中に声がかかる。

 

「川村。先ほどお前は『理由』について聞いていたが、お前はどう思う?」

「それは、ボーデヴィッヒが強さに拘る理由ですか? それとも教官に拘る理由ですか?」

「両方だ。お前の意見を言ってみろ」

「そうですね……」

 

 一瞬考え、直ぐに結論をだす。事情を知っているが故あまり詳しくは言えないが結局は、

 

「しょうもない事でしょうね」

 

 それが結論だった。

 

「なんだそれは」

「そのままですよ。そもそもここに至るまでの話を俺は知りません。ただ、ボーデヴィッヒは駄々をこねている様にしか見えないのでそう答えただけですよ」

「そうか……。引き留めて悪かった、行っていいぞ」

「失礼します」

 

 どこか納得の言った様な笑みを浮かべた千冬に見送られ静司は救護室へ向かうのだった。

 

 

 

 

 時間は流れ放課後。静司、本音、シャルロットはアリーナに向かっていた。鈴とセシリアは先に行ってしまった為、最初は一夏と箒も居たのだが気を利かせて二人にも先に行ってもらったのだ。護衛と言っても四六時中一緒に居る訳でもない。他にも見るべきところは多いからだ。

 

「かわむー、訓練は駄目だからね?」

「そうだよ、静司。ずっと体調悪そうなんだから無理しちゃだめだよ?」

「わかってるよ。二人してそんな責めないでくれ」

 

 本音は怪我を。シャルロットは事情知らないが見るからに顔色の悪い静司を気遣い、両脇を固めている。これは今日のIS実習の際、静司が参加しようとしたが怪我のせいでうまく動けず倒れかけたのが原因だった。お蔭で実習は見学。後日補修になってしまい、課長にも怒られた。

 

『今は黒翼も万全じゃないんだ。何かあった時、お前まで動けないんじゃ話にならん。可能な限り休んでおけ』

 

 との事だ。これは『何か』があれば、怪我に関わりなく行動を起こさなければならない、という意味も含んでいるが、静司からしたら当たりませの事なので酷いとは思わない。

 

「見張ってないとかわむーはすぐ無理するから駄目だよ~」

「そうだね。静司はもうちょっと周りを頼るべきだよ」

 

 心配されるのはありがたいが、両脇を女子に固められるのは中々居心地が悪い。歩いている間も周りの視線が痛いのだ。シャルロットは勿論男装しているが、そのせいで別の噂までたてられそうで怖い。

 そんなこんなでアリーナに向かうと第三アリーナが騒がしい事に気づいた。

 

「なんだ?」

 

 気になり第三アリーナの観客席へ向かう。

 

「あれ? りんりんとせしりん? それにラウラウだ~」

「もう完全にパンダだな……」

「静司何を言ってるの……? けどあれは、模擬戦かな? それにしては様子が――」

 

 どうも必要以上にラウラが鈴とセシリアを痛めつけている様だった。あれはこれ以上続けるとマズイ。静司が動こうとした瞬間、前方で叫び声が響いた。

 

「おおおおおおおっ!」

 

 観客先の前方。一夏が白式を展開。零落白夜を発動させるとアリーナのバリアーを破壊していた。

 

「一夏!? あの馬鹿っ!」

 

 おそらく傷ついた二人を見て頭に血がのぼっているのだろう。一直線にラウラへ向かう一夏に焦り、走り出そうとするがやはり傷が痛み思うように動けない。

 

「静司、任せて!」

 

 その横をシャルロットが駆ける。彼女は一夏が破壊したバリアーを超えISを展開すると、ラウラに向かって牽制の射撃を行った。一夏とシャルロット。二人の攻撃にラウラは舌打ちすると背後へ跳ぶ。その隙に一夏は瞬時加速を発動。傷つき倒れている鈴とセシリアを抱きかかえ距離を取る。

 その光景を遠目に見ながら静司は己の不甲斐なさに腹が立っていた。案の上『何か』が起きた。しかし自分は動けず、シャルロットに頼ってしまった。

幸い傷ついた二人はまだ意識はある様子。一夏にも大事は無い。

 だがラウラはまだやる気の様だった。一夏は二人を抱きかかえたままで、シャルロットのみで相手をしなくてはならない。止める本音を振りきって自らもアリーナへ降りようとした時だった。視界の端を黒い影が走る。そして――

 

ガギンッ!

 

「千冬姉!?」

「教官!?」

 

 織斑千冬がIS用の近接ブレードでラウラの突進を受け止めていた。スーツも、ISも展開していない生身でのその姿は先日の静司と被る物がある。だが異なるのは彼女は気絶もせず悠然と立っている事だった。

 

「やれやれ、ガキどもめ。模擬戦をやるのは構わんがアリーナのバリアーを破壊するまでとなっては、教師として黙認しかねる。この戦いの決着は、月末の学年別トーナメントでつけてもらおうか」

 

 千冬の命令にラウラと一夏達、双方が頷きISを解除する。それを確認すると千冬は改めて、アリーナに響き渡る様に宣言した。

 

「では、学年別トーナメントまで一切の私闘禁止する! 解散!」

 

 その言葉を聞きながら静司は己を恥じていた。やはり今のままではいけない。一刻も早く怪我を直す必要がある。そうでなければ自分がここに居る意味が無い――。

 救護室へ鈴とセシリアを運ぶ一夏達を見届けながら、静かに心に刻むのだった。

 

 

 

 

 第三アリーナでの騒動から小一時間程した頃。救護室では手当を受ける鈴とセシリア。そして心配してやって来た一夏達が居た。

 

「大丈夫か二人とも? そもそも何であんな事に?」

「べ、べつに何でもありませんわ」

「そうよ。なんでもないのっ!」

 

 先ほどから一夏か問いかけているが二人は答えようとしない。実際の所、ラウラに国と、それに一夏の事で馬鹿にされた事が原因なのだが、本人を前に言える訳が無かった。それに易々と挑発に乗ってしまい挙句の果て完敗だったのだ。そういう恥ずかしさもある。

 

「まあ大事が無くて何よりだ―――ん?」

 

 ふと遠くから地鳴りの様な音が聞こえる。音は段々と近づき、ドカンッ、と扉を吹き飛ばした。文字通り吹き飛んだのだ。扉が。

 

「静司、僕扉が吹き飛ぶところを初めて見たよ」

「奇遇だな。俺もだ」

「わたしも~」

 

 唖然として見守る中、音の主達――女子生徒たちは一夏とシャルロットに迫る。

 

「織斑君! 私とペアを組もう!」

「デュノア君! ぜひ私と!」

 

 女子達はまるで新鮮な肉を求めるゾンビの如く手を伸ばしてくる。その光景は異様で一夏もシャルロットも引いている。

 

「い、一体何事だ!?」

「みんな落ち着いて!?」

 

 困惑する二人にびしっ、と紙が突きつけられる。どうやら学内の緊急告知らしい。それによると、月末の学年別トーナメントが、より実践的な模擬戦闘の為に二人一組での試合に変更すると書かれていた。つまり彼女達は男性操縦者であり一夏やシャルロットと組みたいらしい。そこまで理解した所でシャルロットが気づく。

 

「あれ? じゃあ静司は?」

 

 気になり見てみると、静司はいつの間にか窓際に寄りかかりどこか自嘲めいた笑みで空を眺めていた。

 

「くくく、この展開に本当に慣れてしまった自分が怖いよ、俺は……」

「かわむー、そのうちきっと良いことあるよ~」

 

 哀愁を漂わせ笑う静司の肩を本音が叩いている。その何とも言えない光景にシャルロットも顔を引き攣らせた。

 

「という事で私と組もう! 織斑君!」

「デュノア君! 私を勝利へ導いて!」

 

 更にぐぐっ、と詰め寄ってきた女子達に耐えきれなかったのか、一夏が叫んだ。

 

「悪い! 俺はシャルルと組むから諦めてくれ!」

 

 え? と思ったのがシャルロットだけでなくその場にいる全員だろう。しばしの沈黙の後、女子達も「男同士ならまだいいか……」と納得した様で、各々新たなペア探しに向かっていった。

 嵐の様な時間が過ぎ、また静けさを取り戻した救護室。ぽつり、とシャルロットが呟く。

 

「男と組みたいなら静司も居たよね?」

「ぐはっ!?」

「は!? 静司!? 落ち着いて!?」

「シャルル……悪気が無いのは分かるが、今のは効いた……」

 

 相変わらず自嘲めいた笑みで遠くを見つめる静司にシャルロットが謝り倒す。

 

「確かに今のセリフは酷かったわね」

「自分では克服したつもりでもやはり心の中では傷ついていたのですわね」

「わーーー!? ごめん静司! だから気を取り直して、ね!」

 

 そんな中、一夏も『しまった』と言った顔で静司に謝る。

 

「すまん! 静司、シャルル! 勝手に言っちまった」

「そ、そうよ! 一夏、アンタは私と組みなさい!」

「いいえ! ここは同じクラスの私とですわ!」

 

 再び場が荒れ始めた。しかしそれを意外な声が止めた。

 

「ん~駄目じゃないかな~」

 

 本音だ。彼女は指を口に当てんー、考えながら続ける。

 

「さっきの戦いで、りんりんもせしりんもISのダメージ大きかったよね? あそこまで損傷すると、当分は修復に専念しないと、後で重大な欠陥がでちゃうよ?」

 

「くっ、それはまずいわ……」

「仕方ありませんね……」

 

 そこは流石は代表候補生。さすがに機体を犠牲にしてまで出場する気は無いらしい。本音もうんうん、と頷く。

 

「ISも体と同じだからね~。無理すると後で大変な事になるんだよ~。――ね、かわむー?」

「ハイ、ソウデスネ」

 

 これはどうやら静司も言いたいことらしい。笑顔の後ろに荒ぶる小動物のオーラ漂わせた本音に、冷や汗をかきつつ頷く。

 

「ん? どういう事だ?」

 

 一人だけ状況に付いていけてない一夏にシャルロットが説明してやる。

 

「一夏、IS基礎理論の蓄積経験についてだよ」

「えーと……」

「ISは色々な経験をすることでより進化した状態へ自分を移行させるんだけど、それは通常の戦闘だけじゃなくて、損傷時の稼働も蓄積されるんだよ。だからダメージレベルCまでいった状態で稼働させると不完全な状態での経験も蓄積されて、それが後々に通常稼働に悪影響を及ぼすこともあるんだ」

「つまりは人間と同じで、怪我した時は大人しくしなきゃいけないって事だよ~」

「おお、流石はシャルル! それに意外なのほほんさん!」

 

 あはは、と笑うシャルロットとえっへん、と胸を張る本音。

 

「それはそうとして、アンタ勝手に決めてたけど川村はどうすんのよ」

「そうだ、すまん! 勝手に言って」

「まああの場は早く解決させる為にも一夏とシャルルが組むのが最善だったしな」

「え? 何でだ?」

「……一瞬お前に殺意が沸いた」

「何でだよ!?」

 

 女子から見ればイケメンで専用機持ちの一夏と、同じく専用機持ち貴公子とまで呼ばれているシャルロット。一方静司は専用機無し。伸びきって目元も見えない髪。挙句の果てに地味眼鏡。女子達の視線が二人に行くのはまあ、いつも通りの事だ。

 ふと不安げなシャルロットと眼が合った。おそらく一夏とペアとなる事で正体がばれるのではないかと不安なのだろう。ペアとなったからには訓練などでも今まで以上に一緒に居る機会が多い筈だ。

 

(フォローはするから安心しろ)

 

 一夏達に気づかれない様にさりげなく目配せする。シャルルは一瞬戸惑った様だが、頷いてやると嬉しそうに頷き返した。どうやら余程不安だったらしい。まあ当然だろうが。

 

「それでは川村さんはどうするのですか?」

「あー、そうだな。本音はどうだ?」

 

 訊いてみるが本音も手を合わせて静司に謝罪する。

 

「ごめんねかわむー。私もかんちゃんが居るから難しいよ~」

「ああ成程」

 

 かんちゃん。つまりは更識簪。生徒会長の妹であり、本音の主人でもある。忘れがちだが本音は簪のメイドなのだ。ちょくちょくクラスに居ないときは簪の元に行っていると以前聞いていたので納得する。

 

「まあ適当に見つけるさ。とは言っても申込期限は今週中とはまた急だな……」

「変更も急だしね。けどトーナメントまで時間は無いし、直ぐにペアを見つけて訓練しろって事じゃないかな?」

「それもそうか。ま、なんとかなるだろ」

 

 妙に上機嫌なシャルロットに頷きつつ、静司は念の為、トーナメント変更の理由を確認すべきだと思っていた。

 

 

 

 

(静司、気にしてくれてるんだ)

 

 寮の自室に戻っても、シャルロットは上機嫌だった。その理由は先程の救護室での一件にある。

 一夏がペア宣言した時、正直戸惑った。だが我儘をいう訳にもいかないし、これ以上迷惑をもかけれない。そんな不安の中、静司と眼が合ったのだ。何かを伝えるような目配せに一瞬戸惑ったが、直ぐにそれに気づいた。フォローをしてくれる様だ。

 その事実も嬉しかったが、それ以上に静司と目配せだけで意思疎通が出来た事が嬉しかった。

 

「どうした? 妙に上機嫌だが」

「うん。静司が見てくれたからかな」

「? よくわからんが、ペアの事は出来る限りフォローするよ」

「ありがとう静司。すごい嬉しいよ」

「まあ事情を知ってるしな。それに選べと言ったのは俺だ。言ったからには責任は取るさ」

「せ、責任……」

 

 何故かシャルロットの顔が赤くなるが静司は首を捻るだけだった。

 

「随分と挙動不審だが大丈夫か、本当に」

「だ、だ、大丈夫だよ!? そんなに変かな!?」

「とりあえず冷静になろうか」

 

 ぺし、と額を叩くとシャルロットもあうあう、と口を開閉させたのち下を向いた。

 

「ごめんね? こんなルームメイトで。確かにちょっと気持ち悪かったよね」

「いきなり何を勘違いしてるんだ? 別にそんな事思ってないよ」

「ほ、本当?」

「嘘ついてどうする。さて、俺はちょっと外に出て電話してくる。その間にシャワーでも浴びておくといい」

 

 ぽんとシャルロットの頭を叩くと静司は部屋を出て行った。その後ろ姿を見送りながら、静司が触れた頭を触り、

 

「ふふ」

 

 どこか嬉しそうに笑うシャルロットだった。

 

 

 

 

『ふむ。二人一組か……おそらくは先日のクラス対抗戦の影響だろうな』

「そのようです」

 

 いつもと同じ寮の屋上での通信。相手は課長だ。

 

『自衛の為により実践的な戦闘経験を積ませる為か。出来るなら織斑一夏とペアになるのが良かったが、今更か』

「その点は申し訳ありません。自分のミスです」

『本人が言ったんだ。そこは仕方ないさ。それでお前は誰と組むんだ?』

「まだ決まってませんよ。それに今の俺の状態がこんなんですからね」

 

 多かれ少なかれ、生徒たちは優勝を狙っている。そうなれば実力者と組みたがるのは当然だ。それに時間も無いため、どんどんペアは決まっていっている。そんな中、体調不良の様子の静司が居てもペアを組もうとする人は居ないだろう。

 

「それより植村加奈子についてはどうなんですか?」

『情報なしだ。自宅はものの見事に吹き飛んでいる。あれが本物の植村なのか、それとも成りすました誰かなのかは不明だ。だがあれほどのISの操縦技術を考えると、本物の線は低いな。確証はないが』

 

 彼女の経歴は紛れも無く本物だった。それなのに卓越したIS操縦技術をどこで学んだのか? と考えると、偽物と考えるのが自然だ。

 

「そうですか……奴は無人機を狙っていたようですしね。うちで回収した方はどうです?」

『こちらも解析はしているが駄目だな。コアが未登録で新しく製造された物である事ぐらいしか分からなかった。だが――』

「コアを造れるのは篠ノ之束のみ。つまり博士が関係している可能性はほぼ確定ですか」

 

 ぎりっ、と通信機を握る手に力がこもる。一瞬、黒い炎が心に灯るがそれを意識的に抑える。

 

『――そうだな。そしてあの無人機の存在は危険すぎる。それを造れる博士もだ。博士の目的が不明な以上、今回も注意が必要だ』

「つまり、今度の学年別トーナメントにも現れると?」

『可能性の話だ。それにシェーリと呼ばれた女の事もある。油断はするなよ』

 

 無人機で学園へ干渉する篠ノ之束とその無人機を狙って学園に潜入した謎の女。今の所大きな敵はその二つだ。無論、他にも懸案事項は大量にあるが。

 

「了解しました。まずは怪我を直しますよ。それに黒翼も」

『ま、今のお前はそれが先決だな。しばらくは無理せず回復に専念しろ』

 

 そうして二人は通信を終えた。

 

 

 

 

 そのまま訓練や治療に費やしその週も終わった。結局静司はペアを見つけられなかったので、抽選に任せることにした。一夏やシャルロットが先に決まってしまったので、あとは誰と組もうが代わりがないからだ。因みに箒はルームメイトと組んだらしい。

それに顔色の悪い静司を遠慮してか、優勝を狙っているが故か、誘われることも無かった。

 そんなこんなで週が開けた月曜日。学園による抽選で静司のパートナーが決まったのだが。

 

「……貴様だと」

「……マジか」

 

 静司&ラウラペア、爆誕

 




自分はラウラは嫌いではありません。むしろ銀髪クールキャラとか大好きです。けど初期ラウラはセシリア同様少々自分勝手なのでこんな展開に。

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