◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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人外の考え

 アジ=ダカーハは倒された。

 

 人外の名の下に、いや―――今の人外はとある旗を保有している。

 そう、かつて人類史上魔王を最も多く倒したコミュニティの旗を持っている。つまり、つまりだ、その事実は新たな事実を齎す。

 

 ―――かつてのノーネームの旗が『人類最終試練の魔王』を倒した。

 

 史上最多の魔王討伐コミュニティは、その猛威を人外の力の下復活したと思う者も出てくるだろう。事実、その旗がまた魔王を討伐してみせたのだから。

 かつて、最強を誇ったコミュニティが、力を取り戻しつつある。それだけで、魔王連盟は勿論、上層のコミュニティの面々からは注目を浴びる。

 

 珱嗄は、アジ=ダカーハとやり合う前に、これを狙っていた。

 

 上層からの注目を浴びるであろうこの状況を創り出すことで―――その状況で続々と功績を立て、ノーネームの名前を一気に上昇させるつもりなのだ。珱嗄は。

 旗を取り戻せばこっちの物だ。珱嗄はゆらりと笑って内心でそう呟く。

 

 これが人外。

 

 これが珱嗄のやり方。

 

 手っ取り早く、かつ最速最短ルートで全てを掻っ攫う。

 

「だからアジ=ダカーハ、お前の登場は都合が良かったよ。ずっと狙ってたんだ。この旗が強力な魔王と共に俺の前に現れるのを」

 

 ずっと狙っていた。虎視眈々と、ずっと狙っていた。珱嗄が今まで大して動かなかったのは、ノーネームの為に動かなかったのは、一発逆転のチャンスを狙っていたからなのだ。そう、この状況を。

 だから十六夜達をおちょくりながらも育ててきた。ノーネームを強化する為に多少ふざけて注目を集めながらも、戦力を集めていた。

 

 

 ペルセウスを出来る限り圧倒的な形で消し飛ばすことで、ノーネームの打倒魔王の活動に派手な狼煙をあげた。

 

 

 ペストとの戦いでは、五桁の魔王を弄んだという事実を残しつつ、完全な形で魔王を隷属させ、ノーネームの戦力にした。

 

 

 加えて、サラマンドラのトップであるサンドラ、太陽の主権を持ち白夜の精霊である白夜叉、八千万の死者の群霊の代表である魔王ペスト、そして箱庭の騎士であり純潔の吸血鬼であるレティシアを、アイドルユニットとして纏めることで、ノーネームに強力な『コネ』を作りあげた。

 

 

 アイドル活動で稼いだお金で、ノーネームの活動資金を作った。十六夜に儲けの半分を渡したのは、ノーネームの為に使われることが分かっていたからだ。

 

 

 収穫祭では、覆海大聖である蛟劉と親交を深め、いざという時に力を借りられる人材を開拓した。

 

 

 更に、巨龍騒動に乗じて遅咲きの桜である飛鳥を身体的にもギフト的にも強化、覚醒させることで、十六夜クラスの実力に成長させ、ノーネームの戦力を向上させた。

 

 

 そして巨龍をその拳一撃で消し飛ばすことで、収穫祭に集まっていた全コミュニティへノーネームの力を示した。これによって、ノーネームは更に名を上げる。

 

 

 そして今、そのノーネームの旗を取り戻し、その旗の下最悪の魔王アジ=ダカーハを打倒してみせた。

 

 

 珱嗄はこれまで、この状況を想定してきたのだ。更に言えば、ここに十六夜達の戦果も加わってくる。しかも、珱嗄の思った以上にノーネームの名は広がっている。その理由は、『あの』白夜叉を含めたアイドルユニットという存在が、上層の方にまで名を轟かせたからだ。魅力もそうだが、売れたグッズの内の一部が上層で出回っていることを、珱嗄は知らない。

 

 もはや、ノーネームは名無しではあり得ない程のビックネームになっているのだ。

 

 珱嗄の狙いは、今この時の為にあった。こうして目の前にノーネームの旗が現れるまで、ずっと動かずに居たのだ。

 ノーネームに対してずっと献身的では無かった様だった珱嗄は、実は誰よりもノーネームに貢献していたのだ。

 

「珱嗄!」

「よー十六夜ちゃん、悪は滅んだぞ」

「……倒したのかよ……」

 

 とそこへ、十六夜がやってきた。倒れ伏すアジ=ダカーハを見て、十六夜は目を丸くしながらも呆れた様子だ。

 

 しかし、その表情は珱嗄の手にあるソレを見て、一気に驚愕に染まる。

 

「―――珱嗄……ソレは……!?」

 

 そう、十六夜も知っている。ジンと黒ウサギから、聞かされた話と渡された資料を読んで、知っている。元々ノーネームが持っていた、その旗の姿を。

 

 それこそ、今現在珱嗄の手の中にある……その旗なのだから。

 

 

「ああ、これが奪われたお前らノーネームの旗だ」

 

 

 珱嗄がそう言うと、十六夜は驚愕の表情のまま少しの間言葉が出なかった。まさか、まさかまさか、こんな形で奪われた旗が、取り戻そうと奮起していた旗が、まだまだ遠い先の夢物語だった旗が、目の前に現れた。

 

 しかも、ノーネームの仲間だった珱嗄の手の中に収まっている。

 

 

 夢なら覚めるな。これほど、これほど……!

 

 

 ――――これほど嬉しい現実は無い!

 

 

「……ヤハハッ! なんだよそりゃ……なんだなんだ……! 本当お前何者だよ、どこまで規格外なんだオイ……!」

「嬉しいか? お前らの旗が今、ここにあることが」

「ああ! 嬉しいね! 何より、その旗が今―――お前の手の中にある事が!」

 

 十六夜は分かっている。珱嗄は今、ノーネームに所属していない。立場上はサウザンドアイズの預かりだ。つまり、十六夜達の下に旗が戻って来た訳ではない。

 

 あくまでこの旗は今、珱嗄のものなのだ。

 

 でもだからこそ、十六夜は歓喜する。十六夜が、こいつこそ最強だと、無敵だと思っていた人外が、自分達の旗を提げて目の前に佇んでいる。ゆらりと笑って目の前に立っている。

 素直に渡してくれるほど、奴は甘くは無いし、優しくも無い。

 

 

 ならばどうする?

 

 

「つまり、お前を倒せば……その旗が取り戻せるってことだ!!」

 

 

 十六夜はそう言って、拳を鳴らした。闘志がメラメラと燃えあがり、凶悪に吊りあがった口端が、歯を剥いて笑みを作り出す。

 

「正解だよ」

 

 珱嗄はそう言って、ギフトカードの中に旗をしまいこむ。そして、首をパキパキと鳴らしてゆらりと笑う。

 

「さて……」

 

 そして、十六夜と、その後ろに現れた者達を見据えた。

 現れたのは、飛鳥、耀、黒ウサギ、ジン、ペスト……ノーネームに所属し、且つこの煌焔の都へやって来ていた全員。その全員の視線が、珱嗄と十六夜に集まる。何をしているのか、何故対峙しているのか、分からないことだらけであったが、それは全員の眼の前に現れた契約書類(ギアスロール)が教えてくれた。

 

 

 ◇

 

 ギフトゲーム『その名前が欲しければ』

 

 【ゲームマスター】

  泉ヶ仙珱嗄

 

 【プレイヤー】

  名前を失ったコミュニティに属する者全員

 

 【参加者(プレイヤー)側勝利条件】

 ・手段は問わず、ゲームマスターに対して一撃を入れられた場合

 【主催者(ゲームマスター)側勝利条件】

 ・なし

 

 【備考】

 ・このゲームにプレイヤーが勝利した場合、ゲームマスターは自身の持つ旗を譲渡することを誓います。

 ・このゲームでプレイヤー側が勝利出来なかった場合、全員が最も大事にしているモノを一つ失う。

 

 ◇

 

 

「―――さぁ始めようぜ、これは……悪を倒した正義の味方から、名無しのモブが楯突く戦いだ」

 

 失った名前を取り戻したければ、それ相応の大事なものを賭けて戦え。それはギフトだったり、記憶だったり、友情だったり、仲間だったり、金銭だったり、様々だ。負けた時失うモノが大きいことは、全員が理解した。

 

 でも、それでもだ。

 

「上等だ!」

「やってやるわよ」

「絶対に……勝つ!」

「黒ウサギたちの旗、取り戻します!」

「隷属したマスターに楯突く魔王って、おかしな話ね」

「僕も、異論はありません」

 

 彼らは即答でそのギフトゲームを受けた。人外を相手に、そのギフトゲームを何のためらいも無く受けた。無論、負ける気などどこにもない。

 

 かつて仲間として戦った人外を倒す為に……名無しの問題児達が牙を剥く。

 

 

「さぁ、掛かって来い―――ゲーム開始だ」

 

 

 珱嗄はその即答を受けて……ゆらりと笑ってそう言った。

 

 


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