◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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悪は滅びる

 アジ=ダカーハと珱嗄の戦いは、かなり熾烈を極めた。

 まず、予想通り珱嗄の反転のギフトはアジ=ダカーハに対して効果が薄かった。それこそ、全力で使っても意識を奪う事や、生死の反転といった物は一切出来なかった。

 対して、アジ=ダカーハは神霊級の分身を傷口から生み出す事が出来、更には千の魔術を行使する事も出来る。しかも、対巨龍線の時の様に、レティシア同様自身の影を操る事も出来る。身体能力による近接格闘の珱嗄に対して、アジ=ダカーハは手札が多いのだ。

 

 しかし、珱嗄の拳による打撃技は、傷口を作らない。神霊級の分身を生み出す為の傷口が出来ない故に、アジ=ダカーハに対して相性は良かった。

 

 魔術も、影を操った死角からの攻撃も、珱嗄の危機察知能力をもってすれば躱すのは簡単。つまり、最終的にはアジ=ダカーハと珱嗄の戦いは肉体を使った超近接格闘に持ち込まれる事になったのだ。

 

「うらっ!」

「グッ……! はぁぁああ!!」

「ッ……!」

 

 珱嗄の拳がアジ=ダカーハの爪を砕く。呻き声をあげるアジ=ダカーハだが、もう一方の手で珱嗄を押し潰す。珱嗄もそれを受け止めながら、若干歯を食いしばった。

 珱嗄の今持っているギフトや身体能力は、一見チートの様に見えるが、実はそうでもない。反転の力だって、霊格で負けてしまえば機能しない上に、身体能力でも付いて来れる相手となれば、最早打つ手がなくなってしまう。

 

 後はもう、技術と経験で補うしかない。

 

 だが、珱嗄の場合はその技術と経験自体が一つの武器に成り得る。

 

「おっりゃぁああ!」

「ウグッ……ぁぁああああ!!?」

 

 現に、アジ=ダカーハの押し潰すように放たれたその手を受け止めた珱嗄は、逆にアジ=ダカーハの身体を持ち上げたのだ。これは、ただ単に筋力が凄まじいからではない。相手の力を逆に利用することで、大して力も使わずに持ち上げる事が出来たのだ。

 

 そして、珱嗄は逆さまになったアジ=ダカーハを空高く放り投げ――――そのアジ=ダカーハに向かって跳躍した。

 

「まずは―――その三つの頭、一個に纏めてやるよ」

「ッ!?」

 

 珱嗄はそう言うと、アジ=ダカーハの三つ首の頭を―――一つ引き千切った。

 

「―――ギッ……ガァァアアアア!!!?」

「もう一丁!」

「グッ……!!?」

 

 そして、返す刀でもう一つの首を掴み、地面に叩き付けることでぐしゃあっ! と潰した。三つあった龍の頭が、たった一つだけになる。アジ=タカーハに対して、此処まで酷い損傷を与えたのは恐らく……珱嗄が最初だろう。

 

 だが、アジ=ダカーハも唯では終わらない。無くなってしまった二つの首の断面から、神霊級の分身が生み出される。これが、アジ=ダカーハが封印という手段でしか対処出来ない魔王とされた原因。幾ら傷付けても、そこから分身が生まれてくるのだ。

 これが、何よりの強みでもあった。

 

 しかし、

 

「こいつには効くだろ」

「何っ!?」

 

 珱嗄の反転が、ここで作用する。分身は、あくまで分身、アジ=ダカーハではないのだ。その一部だというのなら、霊格は珱嗄の方が上―――!

 分身に対しては、反転のギフトが効果を及ぼすのだ。

 

 分身の存在を、『在る』から『無い』へと反転。生まれた瞬間から消滅させた。

 

 それを目の当たりにして、アジ=ダカーハは驚愕の声を上げる。まさか、この分身を一瞬で消滅させるとは思っていなかったようだ。本人に珱嗄のギフトが通用していなかったことから、珱嗄のギフトがどんなものかを理解していなかったのもあるのだろう。

 

「貴様……何をした?」

「分身を消した」

「そういうことじゃない」

「うん分かってる」

 

 アジ=ダカーハは、なんとなく勘付いていた。目の前に居るこの男は、自分を打倒し得る存在だと。先程から、傷口から生み出した分身が、何度も何度も生み出しては消滅させられている。

 この分では、魔術も影も、避けてはいるがその気になれば簡単に消滅させられるのだろう。不倶戴天を掲げる悪の魔王である自分を倒し、正義の御旗を立てる者が、遂に現れたのかもしれないと、そう思った。

 

「ふはは……だが強いな、これは私が敗北を喫することもあるやもしれぬな」

「いやあるやもしれぬじゃねぇよ、あるよ」

「大した自信だな……だが、その自信も理解出来る。その実力ならば当然か」

「とりあえずぶっ殺すから、とっとと死んでくれ」

 

 そして戦いは再開される。アジ=ダカーハの爪と、珱嗄の拳が衝突し、衝撃波と共に地面にクレーターを作った。盛り上がる地面と共に、巻き上がる土煙が周囲を全て吹き飛ばす。

 そしてその土煙が晴れた時、珱嗄とアジ=ダカーハの拳と爪が、更に衝突する。今度は土煙が巻き上がらない。巻き上がるだけの土煙が、初撃で全て吹き飛ばされたからだ。

 

 何度も、何度も、ぶつかっては衝撃波を撒き散らし、周囲の地面に亀裂を入れる。煌焔の都の建造物は崩壊し、瓦礫の山と化す。

 

 拳が龍の肉体を叩く。爪が人外の拳を弾く。

 

「おっるぁああ!!」

「はぁああああ!!」

 

 拳と爪が衝突し、そして―――

 

「がふっ……!?」

 

 悪の魔王の爪が全て、音を立てて砕かれた。更に、爪が砕かれた事で怯んだアジ=ダカーハの顔面を、珱嗄が殴り飛ばした。全力且つ、巨龍にした様に『衝撃透し』を使った拳。結果、悪の魔王の心臓が破壊された。

 

 残った頭の口から、大量の血液が吐き出された。

 

「反転」

「ぐぅぅううう……!!」

 

 そして、その心臓部から生み出された分身が、珱嗄の反転で消滅する。

 

「俺の勝ち、でオーケー?」

 

 珱嗄はゆらりと笑いながら、崩れ落ちていくアジ=ダカーハを見て、そう言った。

 

 


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