◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
何かと何かがぶつかった様な、そんな音がした。
そしてその音から数秒遅れて、煌焔の都にいた十六夜達が感じたのは、まず大きな地震。次に、凄まじい衝撃の嵐。自身の身体が吹き飛んでしまいそうなのを、必死で堪えて、それが収まった頃に衝撃波が飛んで来た方向を見た。
そこには、箱庭には在ってはならない存在の姿と、ノーネームが失ってしまった存在の姿があった。
衝突し、お互いがお互いの命を奪おうとしている。
片や、三つの頭を持った龍であり、巨大な身体と圧倒的威圧感を持った悪の化身。
片や、人間の姿ではあるものの、その内には人間とは思えない規格外を秘めた人外。
この二つの存在の衝突は、ぶつかるごとに衝撃を撒き散らし、建物を吹き飛ばす。ノーネームの面々は驚愕し、動きを止めていたが、それは他のコミュニティも同じ。進行中だったギフトゲームも、開催していたサラマンドラも、力のあるコミュニティですら、同じ様にその戦いを見て、動きを止めていた。
止めざるを得ないだろう、何故なら、この場に居る全員が知っているのだ。その二つの存在を。
不倶戴天の悪の化身。人類最終試練に数えられる最悪の魔王―――アジ=ダカーハ
箱庭にやって来て、巨龍や黒死斑の魔王を弄んだ超新星の人外―――珱嗄
どちらが勝つのかなど、誰にも予想が付かない。
アジ=ダカーハの名は、誰でも知っている。その力がどれ程強いモノなのか、どれほどの脅威なのか、どれほどの物を奪って来たのか、箱庭全土に伝わっている。本来なら、人間が一人で倒せるほど軽い存在ではない。
だが、珱嗄は本当に規格外なのだ、この箱庭においても。
アンダーウッドに現れた巨龍を片手で抑えつけ、巨人族の軍勢を一瞬で全滅させ、拳の一撃で巨龍を消し飛ばした。更に言えば、それ以前に黒死斑の魔王を盥一つで持て遊んだのだ。しかも、今はサウザンドアイズのトップ、蛟劉のお助け役の様な立ち場に収まっている。
もしかしたら、という期待を抱かせるだけの功績を立てているのだ。
この場全てのコミュニティが勝って欲しいのは、間違いなく珱嗄だろう。悪の化身を応援する者など、それこそ魔王に与する存在しかいない。
だが、問題なのは何故此処にアジ=ダカーハが居るのかということだ。
サラマンドラの一員なら知っているが、アジ=ダカーハは封印されている筈。それが何故―――
「いや、それは問題じゃねぇな……黒ウサギ!」
「はい!」
「今すぐこの場に居るコミュニティを避難させろ! ギフトゲームは中断だ!」
「分かりました!」
―――だが、十六夜は真っ先に行動に移した。
黒ウサギにギフトゲームを中断させ、全コミュニティの非難を優先させる。どうしてこうも、自分達の行く先々で魔王に出会えるのかと、内心少し高揚していた十六夜ではあるが、魔王打倒を掲げている自分達のやる行動は一つだ。今は非戦闘系コミュニティを避難させ、魔王の即時打倒に力を注ぐべきだ。
そして、十六夜の動き出しにサラマンドラや開催側のコミュニティが動き出す。黒ウサギの行動の意図を察知し、避難誘導を援助する。
だが、混世魔王の仕業でサンドラは行方不明だ。サラマンドラは困惑していて行動があまり迅速ではない。そのせいもあって、避難が若干滞っている。
十六夜は密かに舌打ちした。
「これはやべぇな……このままだと珱嗄とアレの戦いの余波がこっちまで来ちまう……!」
「なんや凄まじいモンが出てきとるなぁ」
「っ! よう覆海大聖さん……唐突で悪いが、どうする?」
「任せとき、余波は僕が対応する。避難は最低でも数分あれば完了するやろ、まずはあの魔王、アジ=ダカーハをどうにかせんと……珱嗄が戦っとるようやけど……僕は勝算は正直五分やと見とる……まずは誰があの魔王の封印を解いたか、やけど……」
十六夜の下に、蛟劉がやって来た。
そして、その力を持って戦闘の余波を全て己が恩恵にて齎した水の荒波によって防ぐ。飛んでくる家の破片や、瓦礫も、水を操作して叩き落す。
更に、その状態でこの状況の原因、封印を解いた犯人を考える。
目の前には、封印されたばかりの魔王と何故か戦っている珱嗄。思考の余地がある要素はそれだけしかない。そこから導き出される結論は―――
「……珱嗄じゃね?」
「その可能性が否定出来んのが難儀やなぁ……僕、珱嗄にアジ=ダカーハの存在を教えたし」
「お前のせいじゃねぇか」
「それを言われると言い訳の余地もないなぁ」
珱嗄がやったんじゃないか? というモノだった。否定も出来ず、動機など面白そうだからの一つで納得出来る。珱嗄はそういう男だ。
「でもまぁ、もう一つの原因としては……魔王連盟の手によるものか」
「んー、混世魔王も煌焔の都の中に居たようやけど、その可能性はないと思うで」
「なんでだ?」
「珱嗄には魔王連盟の妨害を頼んでおいたからなぁ」
「あー……それじゃ珱嗄だ、確定だろコレ」
「また厄介なのを箱庭に呼んだなぁ、月の兎達は」
「否定はしない」
十六夜と蛟劉は、そんな会話で珱嗄が犯人だと確信する。そして、数秒の沈黙の後、アジ=ダカーハと珱嗄の戦いを見ながら、溜め息を吐いた。