◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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解放の為に

 混世魔王を救い出したのは、アジ=ダカーハを開放する為に必要な準備をする為だった。

 殿下達は、最早珱嗄に出会ったことで当初の目的通りに行動出来なくなっている。作戦は失敗したと言っても良いだろう。失敗した上で、更なる失敗を重ねさせられようとしている。

 

 なにも準備が整っていない。そんな状態で、ただアジ=ダカーハの封印を解くなど、愚の骨頂。かの悪の化身は殿下達の味方という訳ではないのだ、封印を解けば確実にその被害に巻き込まれる。

 煌焔の都に集まる全ての恩恵や財産、人材を奪取しようと画策していたというのに、珱嗄一人のせいで台無しだ。

 

 しかも、お目付け役として人外の少女が付いている。お手上げにも程がある。逃げる事も出来ない、戦っても負ける。どうしようもないのだ。

 現に一度、殿下はなじみに攻撃を仕掛けて、何も理解出来ない内に地面に組み伏せられていたのだから。

 

「……で、準備は進んでいるのかな?」

「ああ……とりあえず混世魔王がサンドラを神隠しに遭わせて連れてくる。まぁ目的はサンドラじゃなくて、サラマンドラの持つ『聖海龍王の角』だけどな」

「ふーん、サンドラちゃんの安全は保障するのかな?」

「さぁな、そこまではお前らに何も言われてない。どうしようがこっちの勝手だ」

 

 だから、殿下達に出来る最後の手段は、アジ=ダカーハを封印から解放するという行動の中で、出来る限り恩恵や財産を奪い取ること。

 珱嗄から言われたのは、アジ=ダカーハの解放のみ。それさえこなすことが出来れば、その途中で恩恵や財産を奪ったとしてもルール違反ではない。

 

 屁理屈かも知れないが、言葉による契約で、それのみに強制力はないのだ。これは何も言わなかった珱嗄が悪い。

 だがしかし、珱嗄とてソレに気が付かない訳ではない。気が付いて尚何も言わなかったのだ。

 

 奪いたければ奪えば良い。珱嗄にとって、この煌焔の都にある全ての財産が無価値でなんの興味もない代物なのだから。

 それに、奪われた所で珱嗄にはなんの支障もない。

 

 なじみの視線を受けながら、殿下は珱嗄との会話を思い出す。

 

 

 ◇

 

 

 

「……アジ=ダカーハの封印を解く……? お前、それ本気で言ってるのか?」

「本気も本気だよ。まぁ、この眼で悪の化身とまで言われる魔王を見てみたいってのもあるけど、なにより『悪の化身』を名乗ってる奴がいるなら、指差して笑ってやりたい」

 

 珱嗄の目の前で亀甲縛りで縛りあげられた殿下とリン。自分達の解放の条件が、アジ=ダカーハの解放だと聞いて、驚愕に目を見開いていた。

 珱嗄はゆらりと笑いながら、殿下を見据える。その青黒い瞳に見られると、何もかも見透されている気分になる。思わず、目を逸らしてしまう。

 

「まぁ……それだけが目的ってわけじゃないけど、お前らが解放される条件はそれだけ……どうする? 変態チビと変態チビ」

「どっちも変態チビじゃね?」

「亀甲縛りで縛られてる奴なんて皆変態だろ。そんでお前らチビだし」

「縛ったの貴方ですよね? 縛った方も変態じゃないんですか?」

「男は皆変態なんだよ」

「…………」

 

 珱嗄の言葉に、リンは押し黙ってしまった。

 そして考える。珱嗄の目的を。

 

 アジ=ダカーハを解放することで、この男になんの得がある? 情報によれば、この男は今ノーネームではなく、サウザンドアイズの庇護下に置かれているらしい。覆海大聖の補佐役であるとするならば、魔王の開放など許す前に止めなければならない立ち場の筈。

 

 そんな彼が、何故わざわざ悪の化身、人類最終試練とも呼ばれる魔王を復活させたいのか?

 

 ―――待てよ?

 

「……1つ、聞いても良いですか?」

「なんだ?」

「貴方は、何故この煌焔の都に『悪の化身』たる魔王が封印されている事を知っているんですか? 貴方は元々ノーネームに所属していた筈、サラマンドラとはそれほど交流も無い筈です。それなのに、魔王が封印されていると知っているならいざしらず、その魔王の詳細まで知っているなんて……」

 

 そう、珱嗄が封印されている魔王の詳細まで知っているのはおかしいのだ。

 例え、覆海大聖から魔王の存在を知らされていたとしても、あの男の性格上その詳細まで教えるなんて真似、しないだろう。教えれば、珱嗄がどんな行動を起こすか分からないのだから。

 

 現に、珱嗄が蛟劉から聞いていたのは、『煌焔の都には、魔王が封印されている』ということだけだった。

 

 ならば何故珱嗄がその魔王の詳細を知っているのか?

 

「……貴方、アジ=ダカーハの封印の間に行ったんですね?」

「……察しが良いね、その通り。俺はアジ=ダカーハの封印の間に行った。まぁ、最奥までは行けなかったけどね、どうやら最奥に行くには何かしらの条件を整えないといけないみたいだ」

 

 でも、と珱嗄は続ける。

 

「あの場所には聖海龍王の言葉でこう書かれていた」

 

 

 ―――星の地図を紐解けば、星の海は三つに砕けるだろう。

 

 凶星は輝く事を望まず、災厄を縛りこの地に眠り続ける。

 

 

「まぁこれだけじゃないけど、凶星ってのは人類にとっての悪影響を及ぼす天体。つまりは人類にとっての『悪』だ」

「……」

「そして、こんな大都市を使っての大規模な封印に、聖海龍王とかいう偉そうな奴が危険視してるんだ……並の魔王じゃない。となれば、当て嵌まるのは人類最終試練、つまりアジ=ダカーハってことだ。まぁ、確証を得たのはお前らの反応からだけどな」

 

 リンは考える。

 この男は、封印の間に行っている。だから魔王の正体を知ることが出来た。

 そして自分でやるのではなく、リン達に封印解除をやらせる。

 

 そこには何か理由があるのではないか?

 

 考えても、答えは出ない。思い当たるといえば、アジ=ダカーハと戦ってみたい、という突拍子もない考えや、魔王連盟の策略を全て叩き潰す為に、自分の実力を敢えてアジ=ダカーハを使って知らしめる、といったところだが……リンにはそれだけだとは思えなかった。

 

「……分かりました、封印を解きます」

「リン?」

「殿下、どちらにせよ選択肢はないです。此処は無事に解放される道を選びましょう」

「……ああ、分かった」

 

 いくら考えたとしても、結局その答えは出ない。なんにせよ、その選択肢以外は全て地獄なのだ。そうする他に、選択肢はなかった。

 

 

 ◇

 

 

「……ん、戻ったか」

「ああ、サラマンドラのお嬢ちゃんを攫って来たぜ」

 

 思考に耽っていた殿下の下へ、サンドラの身体を乗っ取った混世魔王が戻って来た。無事に聖海龍王の角も回収出来ている。

 

 これで、全ての準備は整った。

 

 

「……それじゃ、地獄の釜の……蓋を開けよう」

 

 

 殿下は、目の前にいるリンや混世魔王、マクスウェルの悪魔、アウラに向かってそう告げる。

 背後に佇む、人外の少女は、不敵に笑みを浮かべた。

 

 

 

 


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