◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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設定、物語、キャラクター

 珱嗄が密かに暗躍している頃、煌焔の都では大きなギフトゲーム、『造物主達の決闘』が行われていた。

 そこには、以前のリベンジをするべく出場した春日部様に加え、同盟を組む相手であるウィル・オ・ウィスプからの贈り物を貰った飛鳥が出場していた。そして、そのウィル・オ・ウィスプのトップである生死の境界を操作するギフトを持つ、ウィラ=ザ=イグニファトゥスも、その参加者の中に入っている。

 

 飛鳥が手に入れた新たなギフトは、『アルマテイアの城塞』と呼ばれる、山羊の神獣の恩恵。

 本来ならば、飛鳥の霊格では従える事の出来ないギフトではあるが、ウィラの生死の境界を操る力をちょちょいと使って、その霊格を飛鳥が従えられる程に劣化させ、飛鳥の支配下に置いたのだ。

 そして、その劣化分は飛鳥の『極大化』によって元の力を取り戻すことが出来る。実質、神獣を神獣のまま裏技で従えたという訳だ。

 

 実力のある三人が同じギフトゲームに参加して、死闘を繰り広げようとしている。

 

 だがその裏で、珱嗄の解放した殿下とリンは、混世魔王をサラマンドラの牢屋から早々に解放。十六夜達の動向を見張りながら、アジ=ダカーハの解放を目的に動いていた。

 

 解放された故に、大人しく珱嗄の言う事を聞く必要はないのだろうが、殿下達が大人しく言う事を聞いている理由がある。

 それは、どれほど逃げようと逃げられないお目付け役がいるからだ。

 

「ほらほら、早くアジだかヒラメだか知らないけど、さっさと解放してよ」

「むぅ……色々と準備があるんだ、黙っててくれ」

「へぇ、そんなこと言って良いのかな? 勢い余って殺しちゃうだろ」

 

 そう安心院なじみである。リンが幾ら距離を操作しようと、時を止めるギフトの前には無駄。概念や時空間毎停止して、距離は全て埋められる。

 というより、時間に干渉するギフト故に、時間と空間は表裏一体、空間にもある程度干渉出来るのだ。そうなれば、距離など空間の中の一部として簡単に埋められる。リンのギフトの天敵とも言えるだろう。

 しかも、霊格で言えば神格を持つ存在や、神獣、並大抵の魔王が束になっても適わない格上。長い年月を生きているだけではなく、様々な世界を渡って来た事で、多くの因果をその身に宿した少女だ。

 

 文字通り、格が違う。

 

「それにしても、君達も災難だったねぇ。まさか珱嗄に偶然会っちゃうなんて、しかも敵サイド……わっはっは、壊滅的な負けフラグが立ってるね」

「……あの男やお前みたいな人外が、こんな下層に居ること自体がおかしいんだ。持っているギフトも、俺の理解が及ばない規格外な代物だしな」

 

 なじみの言葉に、殿下と呼ばれる少年は歯痒そうにそう漏らす。

 なじみは異世界の―――というより、最早物語の壁を超えた向こう側の力。スキルと呼ばれる、ギフトとは違う全く別の異常と過負荷の力。

 珱嗄はそれ以前に、本当にこの物語を含めた、数多くの物語を統括管理する、唯一絶対の神によって与えられた、言わばこの世界のギフトと呼ばれる力を大きく上回る―――それこそ、あらゆる物語において上位の力だ。

 

 殿下と呼ばれた少年に……いや、この物語に住まう全ての登場人物に理解出来る筈がない。

 

「まぁ、一つだけ言うのなら……僕と珱嗄の力は君達とは一線を大きく画す力ってこと。ああ、ついでにもう一つ言わせて貰えば……君達に珱嗄は倒せない。絶対にね」

「……どういうことだ?」

 

 なじみの言葉に、殿下だけではなく、周囲で会話の流れを見守るリンや混世魔王、アウラといった面々も聞き耳を立てる。

 それを確認しながら、なじみはつらつらと語る。

 

「もしも、この世界が漫画の世界だったとしたら。僕は僕の生まれた世界で本気でそう思っていたことがある。いや、というか確実にそうだろうね」

「は?」

「世界は全て全く別の……というより、次元の違う上位の世界によって生み出された空想の産物だね。分かり易く言うのなら漫画や小説の世界だ」

「……」

「この世界でいうところの神話も、ギフトも、箱庭も……そして、君自身や、君の送ってきた過去や記憶も全て、架空の物語上の設定でしかない訳だ。

 そして、その物語の中には物語というだけあって、主人公という存在は必ずいる」

 

 なじみの話は荒唐無稽で、殿下達には簡単に信じられない様な話だった。しかし、この人外の言葉には何故か奇妙な信憑性があり、信じてしまいそうな確信があった。

 もっと言えば、否定出来るだけの材料もなかった。

 

「……それが、あの男だとでも言うつもりか?」

「そうだよ、珱嗄はこの世界の物語の中で主人公の属性を持ったキャラクターなんだよ。そして、こんな謎解きとバトルが入り混じった様な世界で言うのなら、『必ず勝利することが決定づけられたキャラクター』だ」

 

 モブキャラが偉く難しい難しいと囃し立てる謎を、いとも簡単に解く。

 

 設定上物凄く強いとされるキャラクターを、あっさり倒す。

 

 権威と権力を持っている、全知全能の様なキャラクターに対し、マイペースに対応する。

 

 雑魚は全て主人公の為の踏み台で、強者は主人公を飾る為のアクセサリー。

 

 そんな横暴が許されるキャラクター。それが主人公。

 最終的な勝利を決定付けられた、あらゆる最強の定義の中の一つに該当する、その世界の最強のキャラクター。

 

 心優しく、人の為にどこまでも強くなれる最強の主人公。

 

 悪逆非道で、復讐の為に大きな力を振るう最強の主人公。

 

 楽天家で、どこまでも自分勝手で、マイペースな最強の主人公。

 

 そんな数ある最強の主人公の内の一人。

 

「珱嗄は主人公だ。勝利を決定付けられた、最強のキャラクターだ。だから、君達は勝てないんだよ。どう足掻こうと、それがこの物語で決められた―――」

 

 なじみはそこで一旦言葉を区切る。そして、クスッと笑いながら続けた。

 

 

「―――最初の設定なんだからさ」

 

 


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