◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
さてさて、ここでこの煌焔の都にて起こっている騒動、『神隠し騒動』の詳細について語るとしよう。
まずはこの神隠し、その元凶である魔王だ。その名は、『混世魔王』。そして、子供の放蕩心に付け入る悪魔だ。
虚度光陰という、相手の体感時間を制止させるそのギフトを使い、幼い子供を攫い、あたかも神隠しの様に姿を消してしまうその悪魔は、この煌焔の都にて開催される階層支配者の召集会にて『覆海大聖』を襲撃するつもりだった。
つまり、白夜叉の後継である蛟劉を、襲撃するつもりだったのだ。
そう、つもりだった。
だが、ノーネームの面々が煌焔の都にやって来た事で、その企みは失敗に終わる。十六夜という頭の切れる上に実力も高い存在が、混世魔王の存在に気が付いたのだ。そして、ギフトの詳細も一目で看破、その異常なまでの身体能力を駆使して混世魔王を追い詰めた。
原作では、いや正史というべきか、その正しい歴史では、十六夜は混世魔王を追い詰めたものの、魔王連盟の助力によって逃げられてしまう。
しかしだ、今回、その魔王連盟のリンと殿下は、珱嗄によって捕らえられている。そう、つまりはこの混世魔王を助ける魔王連盟が、行動不能においやられているのだ。
そしてそれは、混世魔王が十六夜によって打倒されることを示している。その背中に背負った『混』の文字は、十六夜の手によって掴まれ、引かれ、殴られた。混世魔王は蛟劉を襲撃するまでもなく十六夜によって打倒され、拘束されたのだ。
珱嗄がリンと殿下を捕らえたことによる連鎖反応が、此処に起こっていた。
そして、混世魔王も捕らえられ、殿下とリンも珱嗄の手の内にある。そんな中で、魔王連盟のメンバーの内煌焔の都へやって来ているのは、残り二人……境界を操る悪魔、マクスウェルの魔王と、黄金の竪琴を所持するフードの女、アウラのみ。
だがそのどちらもが、珱嗄の敵ではない。四桁の魔王『程度』の存在が、どうして珱嗄に勝てると言うのか。
故に、この都にて開催される召集会は今、開催するのになんの障害も無かった。なんの邪魔もなかった。なんの弊害も無かった。敵はおらず、現れても人外によって阻止される。
今、この煌焔の都は箱庭の中で最も――――安全だと言って良かった。
「そういう訳で、お前さん達……話を聞かせて貰おうじゃないか」
そして、珱嗄はそんな中自分で取った宿の一室で、殿下とリンにそう話し掛けていた。真面目な話かと思えば、殿下とリンは亀甲縛りで天井から吊るされた状態故に、それほど真剣な表情に見えない。
「……」
「……」
「おいおい、何か話せよー、殺しちゃうぞ?」
「っ……お前はなんだ? リンのギフトを超えて、尚且つ一瞬で俺とリンの意識を断った……こんな下層に居て良い存在じゃないだろう?」
珱嗄の言葉に、殿下は睨みつけるように視線を送りながらそう問う。
だが、珱嗄はその問いに対してゆらりと笑うだけ。そして、ベッドに腰掛けながら淡々と述べる。
「俺はただの人外だよ、下層にいるのだって俺の勝手だろう。ほら、マクスウェルの魔王だって四桁の癖に下層に降りて来てるみたいだし、正直その問いにはなんの生産性もない」
「っ……俺達をどうするつもりだ?」
「んー……如何して欲しい? ぶっ殺す? 拷問に掛ける? 洗脳する? 寝返らせる? 魔王連盟のことについて吐かせる? ああ、そうだ―――ギフトを全部、根こそぎ消してやるのも良さそうだ」
「ッ!?」
ギフトを消す、それは珱嗄にとってかなり容易だ。『ギフトを所持する』を反転させれば、『ギフトを所持しない』という事象の反転が完了し、その対象はギフトを失う。数も、質も関係ない。持っているギフトを全てだ。
殿下も、リンも、無力な少年少女になる一歩手前、崖っぷちに立たされていた。それは、珱嗄の気まぐれで突き落とされる、本当に綱渡りの状態。
選択を間違えればこの先の未来は無いと、幾らなんでも理解出来た。だが、舌戦を得意とするゲームメイカー役のリンは、まだ気絶中。どうするべきか、と思考を加速させる。
「……っ……そうしたいのか?」
「いや別に? 俺はどれでも良いよ、お前が選べ」
「なっ……選べ、だと?」
「そう」
殺害、拷問、洗脳、裏切り、情報漏洩、恩恵消失、好きな未来を、好きなように選択すると良い。珱嗄はそう言って、ゆらりと笑った。
「ぐ……」
殿下と呼ばれた少年は、その選択肢の中で最もマシな物を考えるが、殺害や恩恵の消失は論外、情報漏洩など、魔王連盟から殺されるし、裏切りも同じ。残るは洗脳と拷問だが、拷問は内容が分からない以上死の可能性は排除出来ない。かといって、洗脳というのも不味い。魔王連盟と対峙した時、洗脳だからといって助けられる可能性は半々だ。
どの選択肢も、地獄に繋がっている。
「―――他に、選択肢は無いのですか?」
「ん?」
「リ、リン……!」
するとそこで、リンが起きた。どうやら途中から話は聞こえていたようで、途中介入でも話について行けるらしい。
そして、提示された選択肢の中から最善を得ようとしていた殿下とは違って、リンは新たな選択肢を模索した。珱嗄はそんなリンに対して、ゆらりと笑う。
「今なら、アジ=ダカーハの封印の解除を条件に解放してあげることも出来るぜ?」
新たな選択肢は、死よりも理解不能なものだった。