◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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人類最終試練

 それからしばらく。珱嗄は階層支配者の集う集会の会場、煌炎の都へとやって来ていた。火龍誕生祭の会場だったあの場所、紅や橙の淡い光で満たされた、温かい都市だ。

 そして、その道すがら、珱嗄はサンドラに会った。アイドル活動が出来なくなった今、彼女は珱嗄のアイドルではなく、サラマンドラのトップ、階層支配者である。無論、今回の集会にも階層支配者として出席することになっている。

 

「やぁサンドラちゃん、あれ? ちょっと縮んだ?」

「縮んでません! お久しぶりです珱嗄さん、ノーネームを抜けられたそうですね……」

「ああうん、なんでも俺が居ると下層コミュニティにしては強すぎるんだってさ。五桁まで上がったら戻って良いんだってさ」

「なるほど……それは先の長い話ですね……何かあれば、友人として力になりますよ!」

「わはは、ありがとうサンドラちゃん。大丈夫大丈夫、いざとなればノーネームの旗奪った魔王をぶっ殺して、適当な形で旗をノーネームに戻すから。そうすれば、十六夜ちゃんも居るんだし、すぐに中層まであがるさ」

 

 珱嗄がそう言うと、サンドラは引き攣った笑みを浮かべた。珱嗄ならやりかねないと思ったのだろう。実際、珱嗄なら普通に殺しそうだ。例え一桁の猛者達を相手にしても戦えそうな人物なのだ、魔王を倒すなど片手間でやってしまうだろう。

 サンドラは、ペストの時にそれを思い知っている、五桁の実力を持つ魔王ペストを、ただの盥で弄んだ事実。聞く所によれば、巨人たちの襲来時も、巨龍を拳一発で消し飛ばしたとか。

 

「それで、今は何をされてるんですか?」

「まぁ、蛟劉の付き添いというか……集会をしている間の街の防衛? 魔王連盟とかいう奴らが攻め込んで来た時、それを撃退、もしくはぶっ殺すのが俺の役目」

「そ、そうですか」

 

 滅茶苦茶心強すぎると思うサンドラだった。どうやら、今回の集会は恙無く進みそうだ。とはいえ、珱嗄が妙な気を起こさなければの話だが。彼の場合、ほんの気まぐれで敵を迎え入れる様な気もする。というか、そっちの方がやりそうで怖い。

 だが、やはりこの男がいると、どうも緊張感が無くなって仕方ない。たった一人の存在だけで、こうも変わるのかと思うと、ソレが出来る珱嗄はやはりすごいのだろうと思う。

 

「魔王連盟、正式名称ウロボロス連盟……なんだか名前からして勝手に自滅していきそうなイメージだね。まぁ、頭を潰せばすぐに壊れそうだけど、あまり強いイメージが湧かないんだよねぇ」

「でも、白夜叉様によれば強力な魔王が加入しているらしいですよ?」

「ああ、マクスウェルの悪魔だっけ。境界を操る魔王だとかなんとか……んー、でも大したことなさそうだなぁ……何処かのハンバーガーショップみたいじゃん?」

「もしかしてそれはマクド○ルドの事を言ってますか? マクしか合ってないんですけど!」

 

 それ以前に何故マクド○ルドの事を知っているんだと突っ込むと、どうやら十六夜経由でジンに伝わり、ジンからサンドラに伝わったらしい。最近では、リリがその味を再現しようと、洋食好きのペストと共に画策しているとかなんとか。

 

「そういえば、魔王といえば蛟劉から面白い事を聞いたね」

「はい?」

「煌炎の都には、なにやら面白い魔王が封印されているらしいじゃないか」

「っ!? 何故それを!?」

「いやだから蛟劉に聞いたって言ってんだろ耳遠いのか?」

「あ、はいすいません」

 

 そう、珱嗄の言った通り、この煌炎の都には、とある魔王が封印されている。それは、『人類最終試練(ラスト・エンブリオ)』と呼ばれる、人類の永遠のテーマ、難解な問題、例に挙げるとすれば、それは、

 

 

 閉鎖世界(ディストピア)

 

 

 絶対悪(アジ=ダカーハ)

 

 

 退廃の風(エンド・エンプティネス)

 

 

 永久機関(コッペリア)

 

 

 人類が実現不可能とした、人類史上最大かつ難関とした問題。最古の魔王の総称であり、人類を根絶させかねない試練が顕現したものだ。かつては、白夜叉の『天動説』もその一つであったが、今は仏門に下ることでそれを抑えている。

 

 煌炎の都に封印されし魔王は、その人類最終試練の内の一つ。絶対にして、正義など持っていない、最悪の魔王。その実力は三桁にも及び、人間の持ち得る全ての悪そのものの顕現が、この魔王。

 

 

 その名は―――『絶対悪(アジ=ダカーハ)

 

 

 悪行を働くことを目的に生み出された、絶対の魔王である。

 

「その絶対悪とか名乗ってる中二病の魔王をね、いっちょぶっ殺してやりたいんだよねー。ほら、悪は滅ぼさなきゃダメじゃん?」

「いや、そう簡単に倒せるような相手では………………ない、ん、ですよ?」

「今すっごい溜めたね。しかも最後疑問形かよ」

「いえ……珱嗄さんなら倒しそうだなぁと思いまして……そういえば、珱嗄さんの恋人が箱庭に来たと聞いているんですが、その方はどうしたんですか?」

「ああ、だからアジ=ダカーハの封印を解きに行って貰った」

「何してるんですかぁぁぁ!!!」

 

 青褪めた表情で、涙目になりながらぽかぽかと叩いてくるサンドラに対して、珱嗄は冗談冗談と苦笑しながら宥めるのだった。

 

 とはいえ、珱嗄はアジ=ダカーハと戦うつもり満々であることは、冗談ではないようだが。

 

 


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