◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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ワンサイドゲーム(総受け)

 ひょんなことから決まった珱嗄とペルセウスのギフトゲーム。これはあくまで珱嗄個人がペルセウスというコミュニティに売った喧嘩であり、ノーネームの面々は一切関係ない。手出し無用という訳だ。

 が、ここで問題なのは原作とは違ってペルセウスに挑戦するのではないという所だ。今回はあくまで、珱嗄『に』ペルセウス『が』挑戦するのだ。つまり、勝利条件も勝負のルールも全て珱嗄が決める。ペルセウスは珱嗄の用意するルールに従って、勝利条件を満たせば勝利。結果的に珱嗄からペルセウスの旗を元に戻して貰う事が出来る。

 だが、珱嗄が勝った場合はレティシアは珱嗄の所有物という扱いになる。ペルセウスにとっては商品が持っていかれる形になる。

 

「さて、それじゃあギアスロールを渡そうか」

「……」

 

 フィールドは白夜叉が持っているゲーム盤を借りている。例のあの白夜の空間だ。そこにはペルセウスの総戦力と珱嗄だけが存在していた。審判は白夜叉で、勝利条件もとても簡単な物だった。

 

 

 ギアスロール

 

 

 プレイヤー:泉ヶ仙珱嗄及びコミュニティ、ペルセウス

 

 勝利条件:泉ヶ仙珱嗄へダメージを与える事。

 

 報酬:ペルセウスが勝利した場合、泉ヶ仙珱嗄は責任を持って消失した旗印を元に戻す事。泉ヶ仙珱嗄が勝った場合、ペルセウスは泉ヶ仙珱嗄へ指定の商品を譲渡すること。

 

 

 これがルール。ギフトゲーム、人外への挑戦。この勝負では、ペルセウスの面々が泉ヶ仙珱嗄に少しでもダメージを通す事が勝利条件である。ギフト、打撃、斬撃、何でもいい、とにかくダメージを与えればペルセウスの勝利だ。制限時間は10分、珱嗄はその間攻撃をしない。

 これだけの好条件を出されて、敗北するのはありえない。というのがルイオスの見解だった。

 

 いざという時には隷属させた魔王、アルゴンの悪魔、アルゴールの恩恵もある。何が何でもダメージを与えてやろうという意気込みがペルセウスのメンバーからはひしひしと伝わってきた。

 珱嗄はそんな面々を相手に一人、佇み笑う。必死にこちらから勝利をもぎ取ろうとするペルセウスは、なんとなく滑稽に見えた。

 

「さて、それじゃあ始めようか。白夜叉ちゃん合図」

「う、うむ……それでは、珱嗄とペルセウスのギフトゲームを開始する。始めっ!!」

 

 轟く轟音。その正体はペルセウスのメンバーの雄叫び。総勢200名を超える人数が珱嗄に向かって襲い掛かって来た。そして各々が持つ槍が珱嗄の肉体に届く。

 届いて――――砕けた

 

「な、何!?」

「脆いなぁ……脆すぎるぜ。やる気あんのか?」

 

 珱嗄の身体には一切傷が無い。別に何かをした訳じゃない。ギフトも使っていない。ただ純粋に、珱嗄の肉体の前に貧弱な刃が砕け散っただけだ。

 

「く……怯むな! まだ終わってはいない!」

「そうだ。諦めるなよ? まだまだ時間はたっぷりあるんだから」

 

 珱嗄はゆらりと笑い、掛かってくる全員を全て受け止める。

 

 殴られれば、拳が砕ける

 

 蹴られれば、骨が折れる

 

 槍で突けば、刃は砕ける

 

 弓を放てば、刺さらない

 

 ギフトをも、無効化され

 

 頼みの魔王も、通用しない

 

 そんな状況が続いて、10分間。最早ペルセウスのメンバーに戦意は無く、佇む珱嗄に恐怖し怯えるばかり。出て来た魔王アルゴールも疲れ果て、最早膝を着いて息を荒くしている。そんな中で唯一戦意が残っているのは、リーダーであるルイオス。

 腐ってもリーダー、最後の最後までコミュニティを護る為に諦めなかった。

 

「お、おおおおおおお!!!」

 

 丸く曲がった刃の剣を顕現させ、珱嗄に斬り掛かる。

 珱嗄はそんなルイオスの意地に舌を出し、ゆらりと笑って、こう言った。

 

 

「新しい」

 

 

 珱嗄の身体に届いた刃は砕け散り、時間切れでこのギフトゲームはペルセウスの敗北で終わりを告げた。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「さて、俺の勝ちだね。約束通り、あの金髪ロリは貰ってくぜ」

「くっ……!」

 

 ルイオスは四つん這いになり、悔しさに肩を震わせる。珱嗄はそんなルイオスの頭をその足で踏みつけた。頭は地面にぶつかり、地割れを起こす。

 ルイオスは飛びそうになる意識をなんとか繋ぎとめ、珱嗄に踏みつけられた事を理解した。

 

「な、なんだ! これ以上何をしたいんだ!」

「オイオイ、これで諦めるのか? 俺は言った筈だぜ? 俺が勝ったらレティシアは貰って行く、お前らが勝ったら旗は元に戻す。じゃあ、お前らが負けたら?」

「……? っ!?」

 

 その言葉の意味は、こうだ。確かに、珱嗄が勝った場合はレティシアを貰うと言ったが、それはペルセウスが負けたらどうなるかというのとイコールではない。珱嗄が勝った場合はレティシアを貰い、ペルセウスが負けた場合はどうするかは言っていない。

 ただの経理屈、詭弁でしかないが、珱嗄はそれを認める。

 

「……頼む、僕達は負けたが……僕達の旗印を返してくれ……!」

「嫌だ」

「っ……!」

 

 珱嗄はそう言って足を退け、溜め息を吐き、その場を去ろうとする。

 だが、それを見たルイオスはがばっと頭を上げ、土下座をしながら大きな声で言った。

 

「お願いします! 僕達の旗印を、返してください!!」

 

 その言葉に、珱嗄は足を止めた。そして首だけ振り返り、ゆらりと笑う。

 その笑みに全員がゾクリと身体を硬直させたが、気付けば白夜の世界が消え失せて元の箱庭に戻ってきている。そして珱嗄はそんな中、空を指差した。それを見た全員が空を見る。そこには煌々と輝くペルセウスが、確かに存在していた。

 

「人に物を頼む時はそうやるんだよ」

 

 珱嗄はそう言うと、そのまま転移ギフトを使って景品であるレティシアを抱えながらその場を後にした。

 ルイオス達ペルセウスはそんな珱嗄の姿が消えた事で身体から力を抜いた。そしてそれと同時に思った。

 

 

 

 ―――二度と関わり合いたくない。と

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「……何故珱嗄は私を奴らから奪ったのだ? 珱嗄は私にこれといった興味は無いだろう?」

 

 珱嗄とレティシアはその後コミュニティノーネームの本拠地に帰って来ていた。十六夜達は消化不良気味な表情をしていたが、レティシアが戻ってきたという事で納得したようだった。

 現在はパーティの準備をしている。レティシアが戻ってきた祝いをするらしい。

 

 ということで、現在珱嗄とレティシアが初めて出会ったあの談話室に二人きりで向かい合って座っていた。

 

「無いよ。俺は別にロリコンって訳じゃないし、吸血鬼が好きって訳でも無い。強いて言うなら、暇だったからだよ」

「暇?」

「そう、つまりは暇潰し。旗を消し飛ばしたのも、ペルセウスに喧嘩を売ったのも、全部全部暇潰し。まぁその為にはお前を俺の物にするっていう大義名分が必要だっただけだ」

 

 暇潰し。それを聞いてレティシアは戦慄した。

 これまでの事が全て暇潰し。

 

 暇潰しで星を一つ消し飛ばし

 

 暇潰しでコミュニティを潰し掛け

 

 暇潰しで星を一つ元に戻し

 

 暇潰しで吸血鬼を所有物にする。

 

 その余りにも高い実力と化け物染みたギフトで行なわれる暇つぶしのスケールが大きすぎる。しかも、それをちゃんと自覚しているというのがもっと酷い。無自覚で力を振り回しているのなら道を正していくのも手だったが、矯正の余地もないのだ。

 

「お前の価値観は、狂っている」

「そんなの人間辞めた時から分かってるよ」

「その生き方は、危険だ」

「全力を出せなくて少し困ってるくらいだからね」

「気まぐれも程々にしないと、何時か大切な物を失うぞ」

「身に染みてるさ。それでも止められないんだよ。これが俺の生き方で、娯楽主義者の生き様だ」

 

 レティシアの言葉は、珱嗄にとって最早今更といったもの。価値観が狂ってるんじゃなく、他が付いてこれないだけ。生き方が危険なんじゃなく、この生き方に周囲が脆すぎるだけ。大切な物ならこれまで幾つも危険に晒してきた。

 全部全部今更。その上で止められない生き方が、今の珱嗄だ。狂おしい程に娯楽を愛してしまっているのだ。今更止めろと言われても止められない。

 

「俺に合わせるな。俺に付いて来い。とは言っても、俺は普通の人外だから―――全部まとめて面倒見てやる位しか出来ないぜ?」

 

 珱嗄はそう言って、ゆらりと笑った。

 

 

 

 


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