◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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黒死斑の魔王ペストたんを妹に! 甘えん坊の妹ボイス小説

 初詣。それは神社へとこれまでの一年を振り返りながら神様へ挨拶をし、一年の反省と感謝、そして次の一年への平穏を祈願する為の行事だ。今日は一月一日、箱庭の中でも初詣と似た様な行事は存在しているのを知ったので、俺は『妹』のペストと二人で初詣に来ていた。

 妹は寒いのが苦手なのか、普段のちょっと変な袖の長い格好ではなく、初詣らしい着物の上にポンチョを羽織っていた。にもかかわらず、俺の手を握る小さな手は手袋をしていない。なにはどうあれ甘えん坊な奴なのだ。素直じゃないが。

 

「……何見てるの馬鹿兄」

 

 じとっとした眼で見てくる、可愛い妹。

 

「全く……こんなに寒いのになんでこんな人の多い所に……」

 

 別に一緒に行こうなんて一階も言っていないんだけどなぁ。なので嫌なら帰っても良いんだぞ、と言ってみる。

 

「………べ、別に帰りたいなんて言ってないでしょ……それより、兄さんは私以外に一緒に初詣に行くような人はいなかったの?」

 

 そわそわとしながら聞いてくるペスト。まぁ十六夜とか飛鳥とか耀とか黒ウサギとか、誘えば一緒に行ける様な相手は幾らでもいるな。なんなら従者であるレティシアなら確実に一緒に行ってくれるだろう。

 だが、昔からお兄ちゃんお兄ちゃんとお兄ちゃんっ子だったペスト、こんな様子で実は今も兄離れ出来ていない妹だ。なので、ここはちょっと意地悪に誰とは言わないが、いると答えた。

 

「え……いる、の? そ、そうなんだ……いるんだ……へぇ……」

 

 ペストはしゅんとした様子で肩を落としながら俯いた。やはりまだまだ兄離れの出来ていない妹だ、これだから猫可愛がりしたくなるんだよな。

 苦笑しながら俯いた頭に手を置いて、嘘だよと言ってやった。

 

「え……わ、分かってたわよ! どうせそんな事だろうと思ってたし!」

 

 嘘付け

 

「嘘じゃないし!」

 

 ムキになって両手をバタバタ振りながら抗議してくるペストをどうどうと抑えながら、大量の人で作られた行列を進む。そして、丁度俺達の出番になった。

 ほら、俺達の番だぞ。

 

「むぅ……仮にも魔王の私が神様にお祈りだなんて……皮肉な話ね」

 

 まぁそんなお前の兄さんな俺はなんなんだろうね。

 とりあえず、俺とペストは形式に基づいて手を合わせ、お祈りをすませた。俺の願いは、ノーネームの再興………と、まぁなんだ……妹とこれからも一緒にいれますようにってところかな。俺も妹離れ出来ていないらしい。離れるつもりないけど。

 

「……」

 

 となりでペストが凄く真剣にお祈りしている。俺がお祈りを終わらせてから十数秒ほど経って、やっとペストは祈りを終わらせた。何を祈ってたのかと聞いてみた。

 

「…………内緒……特に、馬鹿兄には」

 

 顔を赤くしながら、そっぽを向いた。指をちょんちょんとくっつき合わせている姿は、どうにもいじらしく、可愛かった。

 試しに俺が祈ったことを正直に伝えてみた。すると、

 

「なっ……私とずっと……こ、このシスコン! 全く……」

 

 ぷりぷり怒っているが、それでもペストの口元は嬉しそうににやついていた。隠せてないぞ、妹よ。

 

「……さ、帰りましょ……そろそろ寒くなってきたし」

 

 はいはい、それじゃあまぁ帰りましょう。妹様の御達しだしね。

 

「……ん」

 

 何を言わずとも自然と俺の手を握るペスト。すっかりこの状態が定番になってしまっているな。まぁ寒いのもあるんだろうけれど。

 そう思いながらも、俺は手を握り返す。小さな手は、息が白くなるほど寒いのに、温かい。

 

「ねぇ……兄さん」

 

 ん?

 

「明けまして、おめでと……」

 

 先程までのやり取りが気まずいと思っているのか、ペストは俯きながら小さくそう言った。思わず苦笑が漏れる。だから、俺も同じ様に返した。

 明けまして、おめでとう。今年もよろしく、ペスト。

 

「……うん………♪」

 

 ペストは今度こそニコニコと嬉しそうに、スキップでもしそうな勢いで隣を歩く。繋いだ手は放さずに、もと来た道を歩く。空中に浮かぶ提灯の灯りが、橙色に道を照らしている。人の賑わい、緩やかな時間が、二人だけの時間をゆっくりと続かせているように思えた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 家に帰って来ると、ペストはパタパタと足早に炬燵へと入った。最近黒ウサギやジン、レティシアと一緒に作った本格的なものだ。ペストはかなりこの炬燵が気に入ったようで、最近では専らこの炬燵に入ってぬくぬくと過ごしている。

 

「ああー……これを発明した人は神様ね、神社に居る奴よりまだマシだわ」

 

 そこまで言うか。さっきまでその神様に真剣な祈りを捧げてたくせに。まぁ、こんなペストは此処でないと見られないから、珍しいものを見られたとして良しとしよう。

 というわけで、俺も一緒に炬燵に入る。その際、二―ソックスを穿いたペストの脚と俺の脚がぶつかる。ペストはそれが気になったのか、むくれたような表情でこちらを見て、だが直ぐに力の抜けた表情でテーブルに突っ伏した。

 

「……ねぇ、兄さん」

 

 ん?

 

「兄さんは……今のノーネームでの生活は気に入ってる?」

 

 そりゃまぁそれなりに

 

「私は気に入ってるわ。金髪小僧も、ジンも、黒ウサギも皆呆れるほどのお人好しで……居心地も良いしね。でも、多分一番は兄さんが一緒にいるから、だと思う……やっぱりこのコミュニティとはまだ少し壁がある様に思えるし、やっぱり気兼ねしなくて済む兄さんが一緒だから私はこうして此処が好きなんだと思うわ」

 

 いきなりだな。良く見ればペストの目がうつらうつらしている。どうやら半分寝始めている様だ。普段隠している本音が、少しづつ漏れだしたんだろう。

 けどまぁ……そう言って貰えるのなら嬉しいな。兄としてこれ以上ない褒め言葉だよ。

 

「おに……ちゃ………大好き………」

 

 寝たか。全く、本当に可愛い妹だよ……こいつは。

 

 

 ―――おやすみ、ペスト

 

 

 

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