◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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好戦的に

 珱嗄と蛟劉の落とし合いは続いていた。加速を止めず、幾度となく宙で衝突し、その余波で水流を弄んで行く。時に水を割って地肌を露出させ、時に天地が反転し、時に少しの波が大津波へと変貌する。二人が通った後には、地面も木々も人も、濡れて災害に巻き込まれる。

 何度もお互いの騎獣を交換しながらの爆走、正直な所騎獣の方が先に音を上げる勢いだった。

 

「わははっ、やっぱり水を味方に付けると強いな!」

「―――っちゅうか、水を敵に回しといてなんで落ちないんや……!」

「おらっ!」

「っぐ……!」

 

 空気の流れや水の流れを反転させることで、全ての抵抗力を加速の力として味方に付けた珱嗄は、幾ら水を操り攻撃しようとも全てなんなく対処してしまう。故に、全ての水を味方に付けた蛟劉をもってしても攻めあぐねていた。

 また逆に、珱嗄は次々と際どく攻撃してくる。しかも、ギリギリ蛟劉が反応出来る速度でだ。一つ間違えれば直ぐにでも水中へと叩き落される、そう思わせるほどの迫力と一撃一撃の重みが蛟劉を追い詰めていた。

 

(なんて奴や、この実力にこの戦闘におけるセンスの高さ……こんな下層に居て良い奴ちゃうやろ……!)

 

 珱嗄の攻撃は、基本的に接近しての打撃技。近づかなければ問題ない攻撃方法だ。しかし、珱嗄は戦闘においては誰よりも経験を積んでいる存在、自分の長所短所については誰よりも網羅している。攻撃手段が異能の力に頼れない場合、珱嗄の攻撃手段は基本化け物染みた身体能力を最大限生かした徒手空拳のみ、故にミドルレンジでの戦いを強いられることになる。相手がロングレンジでの戦いを生かした者だったり、広域殲滅を得意とした者だった場合、珱嗄にとっては最もやり辛い相手になるだろう。

 

 だからこそ、珱嗄はその欠点を欠点のままにはしない。ロングレンジを得意とするものは、逆にミドルレンジに攻め込まれれば極端に弱くなる。広域殲滅が得意な者も、近づかれれば自分も巻き込まれることになる。つまり、その二つの戦い方がミドルレンジの戦い方に強いのと同じで、ミドルレンジもその二つの天敵たる戦い方なのだ。踏み込んでしまえば、此方のものなのだから。

 珱嗄はその欠点をしっかり理解している。だからこそ、『近づく』技術に関しては群を抜いて高い技術力を持っているのだ。

 

(距離を取れない……!)

 

 蛟劉は距離を離せないでいた。珱嗄は最早気が付けば目の前に踏みこんでいる、距離を離そうとしても離せないのだ。蛟劉が現在進行形で珱嗄の攻撃を対処出来ているのは、それこそ彼も辛く厳しい修行を……それこそ覆海大聖たりえる為の修行を積んだからだ。これで自分自身が徒手空拳の心得が無かった場合を考えると、ぞっとする。

 

「―――そろそろかな?」

「?」

 

 珱嗄が何かを見て呟いた。その視線は、蛟劉の足下に向けられている。そこに居るのは、

 

 

 騎獣

 

 

 蛟劉は焦った表情を浮かべた。

 

「―――まさかっ!?」

「その通り、ちょっと騎獣を酷使し過ぎたな―――俺に夢中で気が付かなかったかい?」

 

 蛟劉の乗っていた騎獣の速度がガクンと落ちた。蛟劉の体勢が若干崩れるも、直ぐに立てなおす。しかし、その隙に未だ加速が止まらない珱嗄の騎獣が先へと進んだ。

 それもそうだ、ここまで珱嗄達は騎獣を酷使してきた。蛟劉はそれこそ珱嗄の攻撃に集中していて騎獣にまで気が回っていなかったのだ。故に、ここで蛟劉の乗っている騎獣は疲労で速度が落ちた。

 

「でも、なんで珱嗄の騎獣は……!?」

「俺のギフト、教えておいてやろう。全ての事象を反転させるギフト『嘘吐天邪鬼(オーバーリヴァー)』だ、それじゃお先」

 

 珱嗄はそう言って、更に先へと進んだ。

 珱嗄の背中を見つめる蛟劉は悔しいとばかりに歯噛みする。つまり、珱嗄は疲労した状態の騎獣を反転によって全快にしたのだ。

 

「…………ハハハッ! なんや面白くなってきたやん……これなら僕も、本気出して良さそうや」

 

 蛟劉はそう言って一笑すると、屈んで先程よりはゆっくりだが進む騎獣に手を当てる。

 

「悪かったなぁ、ちょいと気が回らんかったわ……やから、少しの間休んでてええで?」

 

 蛟劉がそう言うと、まだ進めますよ! とでも言いたげに速度を上げた騎獣。だが、蛟劉は苦笑しながらぽんぽんと騎獣の背を叩く。

 

「ええから休んどき」

 

 蛟劉の言葉に騎獣はしょぼんとしながら進むのを一旦止める。水流に流される様な形でごくゆっくりと進むようになった。だが、進む手段が無くなった訳じゃない。

 蛟劉は好戦的に笑い、水流を操作する。周囲の水が、全て味方―――進む為に、力を貸して貰おう。

 

「まだ諦めへんで?」

 

 そう言った瞬間、騎獣が加速した。ぐんぐんと、先程よりも加速しながら進み始める。

 勿論騎獣はその足を動かしていないし、進もうともしていない。これは蛟劉の水流操作のみで進んでいるのだ。水を使い、騎獣を押す。水の流れを味方に付け、可能な限りで加速する。

 

 そして、その速度と水の味方を見て―――騎獣も気力を取り戻したのか、騎獣の力もその速度に加わった。加速し、更に加速し、何者をも寄せ付けない速度を実現する。

 

「ッハハハ! 根性あるやん自分……よっしゃ、なら一緒に行こか……まだ終わりちゃうで」

 

 騎獣の見せた根性に、蛟劉は楽しげに笑う。まさしく人騎一体だった。

 そして、視界に珱嗄の背中が戻ってくる。

 

 追い付いた

 

「おっと、なんだ遅かったじゃないか」

「諦め悪いんや、僕は」

「成程……それはそれは、面白い」

 

 珱嗄の隣の追い付いて、並走する。

 

「まだまだ負けたわけちゃうからな」

「そりゃいい……んじゃまぁ、今度はアイツらも入れて勝負してみようか」

 

 珱嗄の指差した先、そこには十六夜達先行組の背中が見えており、向こうのぎょっとした表情が此方を見ていた。

 珱嗄はゆらりと笑い、蛟劉も楽しげに覇気を強めた。第二ラウンド、開始である。

 

「随分とゆっくり進んで待っててくれたようだぜ?」

「せやなぁ……これなら優勝も簡単そうや―――珱嗄を倒せれば」

「わはは、やってみろりゅいりゅい☆」

「ぶち壊しや!?」

 

 そんな会話をしながらも、珱嗄と蛟劉は更に加速し十六夜達へと迫ったのだった。

 

 






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