◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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こんなやりとりもあって

 それからそれぞれ行動を開始し、蛟劉はまたふらりと何処かへ、ギフトゲームに参加出来ない珱嗄は、これから何をしようかと考えていた。十六夜達はこれから先に開催される収穫祭最大のゲーム『ヒッポカンプの騎手』の戦略を練っていて、暇潰しの相手にもならない。話し相手とするのなら、ペストやリリ、またなじみといった珱嗄の所有物だったり非戦闘員だったりするメンバーしかいないのだ。

 用意された客室のソファに寄り掛かり、脱力した姿勢で天井を眺めている珱嗄の姿は、彼の持つ実力とその規格外さを目の当たりにしたペスト達からすれば、酷くギャップを感じさせるものだった。

 

「暇だなぁ……」

 

 深い溜め息と共に吐き出される呟き。正面に向かい合うように設置されたソファには、割烹着を着ていそいそと編み物をしているリリと、それを見ながらちまちまと一生懸命同じ編み物を作ろうとしているペストがいる。そして隣を見れば紅茶を優雅に飲むなじみがいた。服装が巫女服からどこぞのセーラー服に変わっているのは、恐らく趣味か何かだろう。

 珱嗄の呟きに反応する者はいない。もうこれで五度目の呟きだからだ。

 

「…………ペストちゃん……リリちゃん………うん……行けるか……?」

 

 すると、珱嗄が不意にペストとリリを眺めながらぶつぶつよ何か考え事を始めた。自分の名前が飛び出て来た事から、ペストとリリが珱嗄に視線を向ける。なんだか嫌な予感しかしない。

 

「…は……に投げて……場所は………裏切り者に確保させて……」

 

 なんだか秒刻みで何かの計画が立っている。

 

「日時は………あのゲームの…………衣装は………うん……よし」

 

 珱嗄が一つ頷いた。そして、考え事をしていた表情を止め、リリやペスト達に向かってゆらり、といつもと同じ表情で笑みを向けた。この四人しかいない客室の中で、何かが始まろうとしていた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 その日の夜のこと、夜も更けそろそろ日も跨ごうとしていた時刻。

 月明かりの下、珱嗄は蛟劉と共に白夜叉と一同に会していた。三者三様、別々の話があったからだ。紫色の着物を豪華に着飾った月明かりに反射して輝く白髪を持った白夜叉の、金色の瞳が二人を射抜く。そしてその月明かりの下に珱嗄と蛟劉も躊躇なく悠々と踏み込んだ。金色の瞳を見返す、青く胡散臭げな瞳と、楽しそうに揺れる青黒い瞳が、視線を交わす。

 

「―――さて、まずは私から話をさせてもらっても良いかの?」

「ええ、僕は特筆して何か話があるわけやないですからね」

「いいよ」

 

 白夜叉の言葉に、珱嗄と蛟劉は首を縦に振った。

 

「まぁと言ってもこれは提案という形なのじゃが……なぁ蛟劉よ、おんしが望むのなら斉天大聖に会わせてやっても良いぞ?」

 

 その言葉に、蛟劉の身体がぴくっと反応した。

 斉天大聖―――孫悟空という存在は、蛟劉にとって並々ならぬ大きな存在だ。姉貴分と言っても過言ではない仲なのだ。故に、箱庭から姿を消した彼女と再会出来るというのは、彼にとってクリティカルに効く甘言だった。

 だが、何故そんな提案をしてくるのか? 蛟劉は警戒心を高めて白夜叉を睨んだ。

 

「そう睨むな。ただ……覆海大聖と呼ばれたおんしが今や……『枯れ木の流木』と呼ばれているらしいではないか」

 

 そう、今の蛟劉は以前の覆海大聖として名を馳せていた頃の覇気や気力がない。まさしく根無し草、風来人、故に枯れ木の流木。高い実力を持っていながら、府抜けてしまった者なのだ。白夜叉には、それが見ていられない。知人であり、以前の彼を知っているからこそ、痛々しい。

 だから、彼を元に戻せる者として斉天大聖孫悟空と会わせることを思いついた訳だ。勿論、何か企みがあることは、蛟劉でなくとも分かった。それと引き換えに、何を差し出せばいいのかと考えてしまう。

 

 だが、それでも蛟劉にとってその甘言はあまりにも誘惑として美味しいものだった。

 

「それで、白夜王がそこまでしてくれはるんやから……何かしら考えてはるんやろ?」

「まぁな……それをやってやる代わりに―――条件が二つほどある」

 

 指を一本づつ立てながら、白夜叉は説明する。

 

 一つ、サラ=ドルトレイクが階層支配者になれるように手を貸すこと

 

「どうやら、階層支配者になる話が来て『龍角を持つ鷲獅子連盟』の頭達が揉めているらしくてな……サラが階層支配者になるのを認められないらしい。例を上げるのなら、グリフィスの奴とか……な」

「あー……あの……」

 

 蛟劉は珱嗄をちらりと見ながら引き攣った笑みを浮かべて相槌を打つ。

 グリフィスは『二翼』の長。故に、階層支配者に就任したいと思っているのだ。そして、まだ若輩であるサラ=ドルトレイクでは不適格だと述べたのだ。自分こそが相応しい、と。

 

「なるほどなぁ……で、二つ目は?」

 

 白夜叉は二本目の指を立てて、言う。

 

 一つ、ヒッポカンプの騎手にて優勝する事

 

「……どういうことや?」

「何、ちょっとした戯れよ」

「せやけど、僕が出場したらゲームそのものが無茶苦茶になるで?」

「そうかの? 私にはおんしが優勝する確率の方が少ないと思うがの」

「?」

 

 白夜叉の言葉に、蛟劉は眉を潜めて怪訝な表情を浮かべる。だが、斉天大聖に会えるというのならば破格の条件だ、と蛟劉はその話を呑んだ。

 

「で、おんしの話を聞こうかの?」

「あ、終わった?」

「ああ」

「うんうん、なんだかめんどくさい話をつらつらと述べてんじゃねーよ裏切り者が、と思ってたわけじゃないけど、それなら良かったよ」

「お、おう……それで、なんの話じゃ?」

 

 珱嗄が笑顔でそう言うので、白夜叉は若干気まずそうに目を逸らしてそう問い返す。蛟劉はそんな白夜叉に、また何をしたんだこの人はと半ば呆れていた。

 

「ちょっと頼みたい事があるんだよ。――――で――――に……――――をしたいんだけど」

「ふむ……なんだか楽しそうじゃな、いいじゃろう。私も一肌脱ぐとしよう」

「ああ、別にお前は何もしなくていいからね? ただこれの為に裏方で協力してくれればいいから」

「おんし……なんか私に対して凄く冷たくないか?」

「冷たくないよ。何言ってんだ裏切り者が」

「やっぱりおんし私がこの姿に戻ったこと許してないじゃろ!? 仕方ないじゃろおおお!! 私にも立場というものがあったんじゃもん!!」

 

 白夜叉がおよよと崩れ落ちる。珱嗄はそんな白夜叉を見下しながら地面にペッと唾を吐き、頭に足を乗せた。

 

「鬼畜かおんし!?」

「え? 何のこと? 何もしてないけど?」

「白々し過ぎて逆に何も無かった風に思えるけど調子に乗るな!!」

「あーはいはい」

「………仕方ない、仮にも白夜王である私をコケにしたのじゃから、その頼みを聞く代わりにおんしにも条件を課す」

「帰って良い?」

「マイペース過ぎない? 私の話聞こう? 聞いて?」

 

 珱嗄は踵を返して帰ろうとしたが、白夜叉が腕を掴んで放さなかった。珱嗄はそんな白夜叉に物凄く白い目を向けながら、心底面倒臭そうに深々と長い溜め息を吐くと、物凄く気だるそうな動きで白夜叉の方に身体を向けた。

 

「うん、なんかごめん……でもちょっとくらい情状酌量を考えてくれても良いと思うのじゃが……」

「で、条件って何?」

「う、うん……えーと、じゃあおんしにもヒッポカンプの騎手に参加してもらおうかの……ノーネームの別チームということで」

「分かった、良いよ」

「え、ええの? それで」

 

 珱嗄の即答に蛟劉が意外とばかりに言った。だが、珱嗄はそんな蛟劉に苦笑しながら頷く。そしてその表情から、蛟劉は目を逸らしている白夜叉は気が付かないだろうと思う。珱嗄は別に白夜叉を嫌っている訳ではない、ただ面白がって虐めてるだけだと。

 

 

 そしてその翌日、ヒッポカンプの騎手が開催される。

 

 


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