◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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半沢リリ

 その後、リリはあわあわと挙動不審に身振り手振りしていたが、結果的にリリの勝利は紛れもない確定事項だ。結局、言いだした本人であるグリフィスが苦々しい表情で頭を下げた。その部下も同じ様にリリに向かって頭を下げた。それを見たリリは身分的には上のグリフィス達に頭を下げられているということに恐縮し、更に慌てた。

 だが、珱嗄はそうではない。

 

「おいおい、頭を下げるだけかよ。お前、最初に言っただろう―――『土下座』だよ」

「ぐっ……!」

 

 確かに、グリフィス達は最初に負けた方が土下座でも何でもすればいいと言っていた。ただ頭を下げるだけでは、その言葉を反故にしていると言える。だが、グリフィス達は自分達よりも身分が下のノーネームに対して土下座をする、ということはプライドが邪魔して出来ないようだった。身体を震わせて、歯を食いしばっている。

 珱嗄はそんな二人の前に立ち、静かに言う。

 

「お前達が振るってきた権力の前に、下げたくもない頭を下げた奴らがいる……お前達の振るう暴力から誰かを護る為に、屈辱に耐えてプライドと誇りを自ら圧し折った奴らがいる……そいつらの想いを、悔しさを、後悔を、誇りを、自信を――――思い知れ」

「ぐっ……ぐぐ………!」

「土下座しろ」

「くっ………ぐ……あぁ……!」

「やれえええええ!!! 大和d「それ以上は駄目ですぅぅぅぅ!!!」……良い所で邪魔するなぁ……リリちゃん」

 

 少し流行にノって見ただけだったが、リリによって珱嗄のボケは遮られる事になった。

 そして、リリは珱嗄の腰布を掴んで懇願するように涙目で見上げてくる。

 

「そ、そこまでしてもらわなくても大丈夫ですよ……!」

「何言ってんだ、ノーネームを馬鹿にされたんだろ? それに、お前自身も」

「それは……そう、ですけど……」

「ならやり返してやらないと駄目だろう? いいかいリリちゃん、謝罪も出来ない奴は権力者であるほどクズだ。でもな、謝罪を要求することすら出来ない奴はただの臆病者だよ、馬鹿にされたって仕方ないんだぜ?」

 

 謝罪を要求出来ない。それは要求される側から見れば、馬鹿にしても謝罪を要求されないということに他ならない。謝罪の必要が無いのなら、幾らでも馬鹿に出来る対象がいれば、それは的にされるだろう。格下なら尚更だ。

 

 だから、謝罪を要求出来もしない奴はただの臆病者。分かりやすい例を上げるのなら、虐めを止めて欲しいのなら、止める為に何かしらの行動を取らなければならないということだ。

 まぁつまり―――

 

「やられたらやり返す―――倍返s「だから駄目です!」……君はなんでこんな時だけ勢いづくんだ」

「で、でも……」

「なぁリリちゃん。お前はアレか? 仲間を馬鹿にされて、謝って貰わなくても良いのか?」

「! ……謝ってほしいです」

「なら言うことは一つだろう」

 

 珱嗄がそう言うと、リリは決意した様に頷く。そして二人して未だに歯を食いしばっているグリフィス達に向き直る。

 思いっきり息を吸い込んで、

 

 

「「やれええええええ!! 大和d「いやいやいやいや! おかしいやろ!?」………」」

 

 

 珱嗄とリリの叫びは蛟劉によって遮られる。だが、事態は止まらなかった。

 

「ぐ……く……ぐああああああ!!! 」

「お前ら実は結構ノリ良いやろ!?」

 

 グリフィス達は本気で悔しそうな表情のまま、ゆっくり、ゆっくりとその膝を地に付け、全力を振り絞って下げることを拒む頭を、地面に擦り付ける。

 

「―――やられたらやり返す……倍返しです!」

 

 リリは最早誰も止められぬ勢いで、そう決め台詞を残した。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 それから、珱嗄達ノーネームとグリフィス達のいざこざはグリフィス達が恥を忍んで頭を下げたことにより、無事に解決した。追々話を聞いて怒りの表情を浮かべた十六夜も、馬鹿にされた本人であるリリがやり返して土下座させたという話を聞くと、リリの頭を乱暴に撫でながら可笑しそうにヤハハと笑顔を浮かべた。

 というか、それ以前に耀の顔がマスタード臭かった時点少し笑いを堪えていたようで、その爆笑の声はしばらく留まらなかった。

 

「つーか、良くそのプライドの塊みたいな相手が素直に引いたな。土下座したのだって、決闘で負けたからであって、ノーネーム自体は認めてないんだろ? しかも、その前に春日部が一回問答無用で殴り飛ばしたらしいし、それを指摘されたらヤバかったんじゃないのか?」

 

 笑いが収まった十六夜が、呼吸を整えてそう言う。爆笑しながらも冷静に思考が出来るというのは、やはり彼の聡明さと頭脳が高いのだろうと再確認させられる。

 

「ああ、それなら確かに指摘されたな。『土下座はしたが、お前達は我らの同士を重傷に追いこんでいるのだぞ!』って」

「だったら」

「だけどさ、そんなのどうとでも出来る。負傷を反転させればホラ、無傷じゃん? 寧ろ肩こりとかその他諸々治してやったんだから感謝して貰いたいくらいだよ」

「ヤハハッ、確かに傷を負っていないんだったら何も言えないな」

 

 グリフィス達の傷は全て珱嗄が反転で治した。指摘する要素がなくなった彼らに、ノーネームを告発することは出来ない。

 そうでなくとも、白夜叉の同士であるノーネームを侮辱したということは、白夜叉を侮辱したも同然。太陽の主権者である白夜叉は、十四の太陽の主権を所持する人物。分かりやすく言えば、今回アンダーウッドを襲った巨龍を十四体纏めて敵に回すのと同じということだ。寧ろこのような形に収まったことは、ノーネームにとってというよりは彼らにとって良い結果だと言える。

 

「これはお祭り、変な敵対心を持って嫌な雰囲気醸し出すのは駄目だよ。楽しめよ、少年少女達」

「そいつは良い、この収穫祭最大のゲームは『ヒッポカンプの騎手』だったか……珱嗄はゲーム参加を拒否られてんだろ? なら、その気遣いに甘えて楽しんでくるさ」

 

 十六夜は珱嗄の気遣いを受け取って、楽しそうにヤハハと笑った。

 

 


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