◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
書庫から出た四人は、それぞれバラバラに別れる事になった。十六夜と黒ウサギの二人と、珱嗄と蛟劉の二人という組み分けだ。理由としては、珱嗄と蛟劉、お互いにもう少し気ままな話をしてみたいと思ったからだ。
というわけで、現在ノーネームの面々から離れて蛟劉と共に収穫祭をのんのんぶらりと散策している珱嗄。会話もそこそこに、収穫祭を楽しんでいた。
「そういえば、珱嗄はノーネームの少年らと一緒に居なくてええの?」
「ん、まぁ普段は結構別行動が多いんだよ。元々ノーネーム復興を頑張ってるのは十六夜ちゃん達であって俺じゃないからね」
「それでええんか、最高戦力やろ君」
「最高戦力は温存しとこう的な?」
「その割りには巨龍豪快にぶっ飛ばしとったけどな」
「テンション上がっちった」
「なんちゅうマイペースや……」
そんな会話をしながらも街中を歩く珱嗄と蛟劉。その佇まいは周囲の視線を、なじみたちが歩いている時とは別の魅力で集めていた。
一種のカリスマ性とそれなりに整った容姿を持ち、その歩みにブレも無い。覇気の溢れ出ている珱嗄と完全に隠している蛟劉の二人だ。ベクトルは違ってもその魅力はやはり人を惹き付けるのだろう。
「話変わるけど、やっぱり収穫祭には色んな幻獣が仰山居るなぁ」
「まぁ『
「せやけど、こんなに幻獣が多く見れる祭は早々拝めるものやない」
「ふーん、そんなに珍しいものか……どいつも腹に入れれば一緒だと思うんだけどな」
「食う気かお前!?」
珱嗄の何気ない言葉にツッコむ蛟劉。珱嗄にとっては幻獣も家畜もあまり差は無いのだろう。故に、幻獣が食卓に並んだとしてもなんら疑問を抱かずに食べるつもりだ。元々、なじみがぶっちぎった狩猟祭では殺人種であるペリュドン等の幻獣がゲーム感覚で狩猟されていたのだから、そう思うのも無理は無いだろう。
「それに……どうやらノーネームと幻獣は結構関わり深いみたいだし」
「? どういうことや?」
「俺は結構気配とか感情の起伏とかに鋭いんだけど……どうやらそのノーネームの少年たちが一悶着起こしてるらしい」
「分かるんか?」
蛟劉が珱嗄の言葉に周囲を見渡してみるが、そんな騒ぎはどこにも見当たらない。だが、珱嗄の表情と口調からして、嘘を衝いている様には思えなかった。疑いの表情を浮かべながら、蛟劉は珱嗄を見る。その視線に気がついた珱嗄は、苦笑しながら、えーとと呟く。
そして、ふと何かに気がついたのか小さく言った。
「なじみー」
恐らくは名前だろう、と蛟劉がその意図を聞こうとしたその時、
「呼んだ?」
「うわっ、なんやこの嬢ちゃん」
呼んだ通りの人物が何の気配も無く、いきなり現れた。安心院なじみ、珱嗄の恋人にして原初の生物である。
「ああ、これ俺の恋人。形式的には籍入れてないけど結婚してるよ。義理だけど子供もいるよ」
「なんや妻子持ちかいな、意外やな」
「まぁ、いいだろ。で、なじみ、耀ちゃん達の状況とか分かる?」
「うん、分かるよ。どうやらノーネームを馬鹿にした有翼人種のヒッポグリフとかいう器の小さい奴と喧嘩になったみたい。耀ちゃんを中心に一触即発の状態だよ」
「ヒッポグリフて……それ多分『二翼』の長やないか? 今のアンダーウッドで
なじみの齎した情報に、蛟劉がそう相槌を打つ。というかこの三人が話しあっている状況、全員を知っている者からすればさぞ奇妙に見えたことだろう。
とはいえ、巨龍を退けた功績を持つノーネームと『
「でも此処から近いんか? 一触即発ならもう一悶着起きても仕方な―――」
刹那。
蛟劉の言葉を遮る様に、ズガンッ、という音が聞こえて来た。
その音の方へ視線を向けると、何やらヒッポグリフっぽい生物が200m位上空に吹き飛んで行くのが見えた。
「あー……もう起こってるな」
「どないすんの?」
「それじゃあ僕のギフトを使おう。それなら絶対に間に合うし」
その言葉に、蛟劉が首を傾げるが、珱嗄が頷くのを見たなじみは躊躇なくそのギフトを発動させた。飛鳥と耀が必死になってその正体を探っている力を。指を軽く鳴らし、その音が残響を残している内に―――
――――世界が静止した。
人の歩みが一斉に静止した。肉が焼いて出た煙が静止した。水の流れが静止した。人の声が静止した。空を飛ぶ生物が静止した。開催中のギフトゲームが静止した。珱嗄達三人を除いて、全ての『時間』が、静止した。
これが、最初で平等の人外……安心院なじみの選んだ二つのギフトの内の一つ
―――時を止めるギフト『
自分と自分が選択した者以外の全ての時間を停めるギフト。それがなじみのギフトの正体。確かにこれならば、耀達の起こした騒ぎを止める為に遅れることなく現場に向かうことが出来るだろう。なにせ、事態が進まない世界で自分達だけが動くことが出来るのだから。
「こりゃあ……えらいギフトやな……!」
「なんだ、このギフトにしたのか」
「うん、僕が攻撃系のギフトを持つことに必要性を感じなかったからね」
金髪君や飛鳥ちゃんに耀ちゃん、珱嗄もいるからね、と妙に納得出来ることを言って、なじみはにこりと笑う。
珱嗄と蛟劉はそんななじみに対して、確かにそうかもしれないと普通に納得した。
「というか、このギフトはいつまで停めてられるんや?」
「うん? 君は誰かな?」
「ああ、自己紹介が遅れたな……僕は蛟劉と言います、どうぞよろしく」
「そうかい。僕の名前は安心院なじみ、親しみを込めて安心院さんと呼びなさい」
「そうさせてもらうわ」
「それで、質問の答えだけど……まぁ試したことは無いけどずっとじゃないかな?」
予想外に規格外なギフトだった。ずっと時間を停めてられるなどどんなチートだ。
「とはいえ、時間を停めている間は僕が直接干渉しない限り、静止しているものに干渉できないからね。例えば珱嗄が全力でそこらへんの人に石を投げつけてもノーダメージだよ」
「裏を返せば静止している存在は安心院ちゃんに触れられない限り動けないっちゅうことやな」
「そういうことになるね、とはいえこの世界のギフトの効果は霊格に準じるようだから、僕よりも存在としての格が上ならきっと動けると思うよ」
そうは言うものの、そんな存在がこの箱庭にどれ程いるだろうか。いるとしてもそれはきっと三桁以上の外門にしかいないだろう。なじみは何かしらの偉業を立てた訳でもなく、なにかしらの伝記や資料に乗る様な事もしていないが、6兆年を生きた生物としての高い霊格を持つので実質最強といっていいだろう。
「じゃ、子供達の喧嘩を止めに行こうか」
「そういうと微笑ましいんやけどな」
「違いない」
そう言いながら、三人は止まった時間の中のんびりと動きだした。