◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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蛟劉

 それから、鵬魔王との邂逅からしばらく。こちらの用件であるところの、『白夜叉の後継者として牛魔王を推薦したい』ということを話した珱嗄達だが、先程の通りここに牛魔王は不在であった。だが、かの牛魔王はこのことを察知していたのか、白夜叉宛てに手紙を残していた。内容は短く、

 

 

『南の大樹にて後継の芽在り。心躍らせて参加すべし』

 

 

 というもの。南の大樹、つまりはアンダーウッドの水樹のことだ。牛魔王は自分以外にも後継者足る実力を持つ存在がいると告げているのだ。白夜叉はそれを読んで、かんらかんらと楽しげに笑った。牛魔王はどうやら悪知恵に長けた存在であるらしく、それがまだまだ現役であることが面白かったらしい。平天大聖とは、天を平定せし者、という意味である。つまり、力によって従わないものを圧倒して平和をもたらす者。それが牛魔王。

 平和を齎す事に力を用いる、というのは些か物騒ではあるものの、この予言の様な手紙もその力の一端であるのだろう。

 

 とはいえ、そういう事情もあり、最早此処に用は無くなった……もっと言えばアンダーウッドに用が出来た白夜叉達は大楼閣を発つ事となった。発つ、というか珱嗄の反転の力で大楼閣とアンダーウッドの座標を演算し、反対座標と定めて珱嗄達の位置座標を反転すれば一瞬で辿り着くので、発ったと同時に到着したとも言える。

 なので現在、白夜叉達はアンダーウッドに戻って来ていた。といっても、白夜叉は後継者探し及び収穫祭のギフトゲームの主催関連で業務へ、女性店員も同様に自分の仕事に戻ったので、このアンダーウッドの入り口には珱嗄と黒ウサギしか残っていない。

 

「やっと解放されたのですよ……」

「大分お疲れだな、ウサギちゃん」

「あ、はい。でも耀さん達と一緒に『ヒッポカンプの騎手』に出る予定ですし、まだまだへこたれては居られませんよ!」

「そいつは重畳。まぁヒップホップジャンプのお手付きだかなんだか知らないけど、負けたら拠点荒らすからね」

「ええええええ!!? それはちょっとリスク高すぎでございます!」

「知らん、死ぬ気でやれや」

「超理不尽!!」

 

 そんな会話をしながら、珱嗄と黒ウサギは受付へと辿り着く。受け付けに座っていたのは、木霊のキリノ。彼女も黒ウサギと珱嗄の姿を見て、歓迎のスマイルを少女らしく浮かべた。

 

「ノーネームの「エロ」ウサギです。主賓室へ―――って誰がエロウサギですか!」

「え? 今俺何も言ってないけど」

「あれ? そうなのですか? じゃあ誰が……」

「ま、置いといて……ノーネームの珱嗄とエロウサギだ。主賓室へ通してくれるか?」

「やっぱり珱嗄さんじゃないですか!!!」

 

 キリノが苦笑いしている前で、珱嗄の後頭部を黒ウサギがハリセンで叩いた。スパーンと良い音が鳴るが、珱嗄は全く意に介していない。ノーダメージで話を続けた。

 

「で、このエロウサギのエロい話を聞かせてあげよう。何とこの発情兎、夢の中で俺に―――」

「わあああああああ!!! 何を話そうとしているのでございますか!! しかもなんで知って!?」

「え、マジで俺に色々やられた夢見たの? ちょっと引くわー」

「確信犯的偶然の一致!? タイミング良過ぎにも程があります!!」

「だってさ、お嬢ちゃん。このウサギ、さっき同性愛者の魔王に舌舐めずりで狙われたから少女だろうと容赦なく押し倒すと思う。気を付けてくれ」

「珱嗄さんさっきから黒ウサギの事を貶めすぎです! このままでは私の威厳が!」

「無いに等しいだろそんなもん」

「そうですね」

「珱嗄さんはともかくキリノさんまで!?」

 

 黒ウサギは崩れ落ちた。珱嗄はゆらりと笑って今度こそ真面目に受付を済ませる。キリノの話によると、どうやらノーネームのメンバーはそれぞれ思い思いに出掛けているらしい。なじみと耀、飛鳥は共に収穫祭へ、十六夜は地下書庫へ、ジンは御供をつれて『六本傷』の代表と会合へ、リリやその他年長組は開会式のお手伝い、等々様々だ。

 というわけで、珱嗄は崩れ落ちて体育座りになって落ち込む黒ウサギを体育座りまま抱えあげ、とりあえず十六夜と合流して見ることにした。一番手近であるし、巨龍討伐の際の報酬についてもまだ話を聞いていない。黒ウサギに聞いても良いのだが……

 

「最近の黒ウサギの権威はどこへいったのでしょう……最近では皆様黒ウサギの身体をエロいだのなんだの言って、いやらしいコスプレをさせようとするわ、いきなりボディタッチしてくるわ……黒ウサギの事も考えて欲しいです……そもそも白夜叉様がこんな服を着せるから十六夜さん達にもそういうイメージを植え付けてしまったのです……珱嗄さんだって会うたび黒ウサギの事をからかって……挙句夢の中にまで出てくる始末……本当に性質が悪いのでございます……確かに、夢の件は黒ウサギが勝手に見たことで珱嗄さんに責任は無いかも知れませんが……それでも夢に出てくるくらい日常的に黒ウサギのことを……その……下ネタでからかっているということであって……少しは反省を……ぶつぶつ……」

 

 凄く面倒臭いことになっているので却下。キリノは体育座りのまま黒ウサギを担ぐという珱嗄の器用で微妙に凄い技に目を丸くしながらも、地下書庫へ案内する為の手続きを始める。

 

「あ」

「ん、どうした?」

「い、いえ……地下書庫に向かうには水路を通るので渡し船を使うのですが……水先案内人が必要なのです……けれど収穫祭で現在人手が……」

「なるほど……どうしたものかな」

 

 珱嗄は黒ウサギを片手で持ちつつ、もう一方の手を顎に当てて少し考える。別に案内人がいなくても珱嗄なら勘で辿り着けそうなものの、何もヒントが無い状態で複雑な水路を進むのは少し気が引けた。時間の無駄っぽくて。

 

「なんや、それなら僕がやろうか?」

 

 とそこへ、少し関西訛りな男の声が掛かった。珱嗄はその声の主の方へと視線を移動させる。

 そこにいたのは、珱嗄と同じ位の背の高さで、顔には無骨な眼帯、珱嗄の青黒い瞳とは違って綺麗な青い瞳を持ち、厚手のインナーの上に着物を崩して着ている。下には白いズボンを履き、膝下ほどまでのブーツを履いていた。純和風な珱嗄とは違って、和風に洋風のアレンジを加えたハイブリッドな服装だった。

 だが、それ以上に珱嗄の眼を惹いたのは、その佇まいと雰囲気。柔らかな雰囲気と細身な身体ではあるものの、その足捌きと動作には無駄が無く、インナーの上からでも壮絶な修練の末に引き締められた肉体が垣間見えている。何より、それだけの強さを感じさせる佇まいであるのにもかかわらず、自身の覇気を自然体で完全に抑え込めていた。

 

「こ、蛟劉様……よろしいのですか? 貴方は『龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)』の賓客ですのに……無理に仕事をしなくても」

「ええよええよ、困った時はお互い様や……それに、僕としても少し興味あるんや、この男に」

 

 困った様に言うキリノの頭を撫でながら、柔らかい雰囲気はそのままに鋭い眼光で珱嗄を見てそう言う蛟劉と呼ばれた男。珱嗄はその視線を意に介さず、普通に受け流した。

 

「どうも初めまして、ノーネームの御二方。僕は蛟劉と言います、姓は特にない風来人なんで、お好きにお呼びください」

 

 蛟劉という男は、胡散臭くも丁寧にお辞儀をしながらそう言った。黒ウサギはまだ回復していないが、挨拶されたとあれば返さねばなるまいと、珱嗄もまた口を開いた。

 

「どうも初めまして、ノーネームの珱嗄だ。呼び捨てで構わないよ、好きに呼んで良いならあだ名でも付けて良い?」

「お好きにどうぞ」

「『りゅいりゅい☆』でいこう」

「蛟劉でよろしゅう頼むわ」

 

 珱嗄のあだ名のネーミングセンスはやはり認められないようだ。

 

 


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